2015年 私が観た展覧会 ベスト10

年末恒例、独断と偏見による私的ベスト企画です。私が今年観た展覧会のベスト10をあげてみました。

2015年 私が観た展覧会 ベスト10

1.「ヴォルフガング・ティルマンス Your Body is Yours」 国立国際美術館



国内の美術館では11年ぶりとなるティルマンスの個展。初台のオペラシティ以来でした。ティルマンスの視線はあらゆる現象を捉えて離しません。二巡三巡しても受け止めきれないほどに膨大です。まるで大海を彷徨うかのごとく写真の中へ投げ込まれた体験は実に鮮烈でした。

2.「グエルチーノ展 よみがえるバロックの画家」 国立西洋美術館



17世紀イタリアのバロック芸術を代表するグエルチーノ。もし宗教的な体験があるとするならば、グエルチーノの絵画を見ている時の感動に近いかもしれません。祭壇画が生み出す荘厳な空間は圧巻の一言でした。

3.「No Museum, No Life?ーこれからの美術館事典 国立美術館コレクションによる展覧会」 東京国立近代美術館



ともかく作品の選定ないし並びが面白く、見るだけでなく、読み解くことに関しても楽しめる展覧会でした。また美術館の収蔵庫、調査や研究機能など、普段目にする機会の少ない裏側について触れていたのも印象に残りました。

4.「ヂョン・ヨンドゥ 地上の道のように」 水戸芸術館



現実と虚構がない交ぜになった映像世界。見えることと見えないことを関係について考えさせられる内容でした。白眉はラストの「マジシャンの散歩」です。ヨンドゥの生み出したファンタジーの中を練り歩くような構成も魅惑的でした。

5.「ディン・Q・レ展:明日への記憶」 森美術館



ベトナム人の社会や歴史の様々な問題をあぶり出すディン・Q・レ。ベトナム戦争終結40年に際しての個展でした。社会を常に批判的に見据えながらも、何かを声高に叫ぶのではなく、いわゆる美術表現として器用に落とし込んでいる点にも惹かれました。

6.「尾形光琳300年忌記念特別展 燕子花と紅白梅 光琳アート 光琳と現代美術」 MOA美術館



琳派400年のメモリアルだった今年。全ての琳派展を見ることは出来ませんでしたが、最も発見の多かったのがMOAの光琳アートでした。やはり特筆すべきは近、現代美術への展開です。琳派がどのように後の美術に影響を与えたのか。ひいては琳派とは何かを考えさせる企画でもありました。

7.「石田尚志 渦まく光」 横浜美術館



待ちに待った石田尚志の大規模な個展でした。改めて「フーガの技法」が素晴らしい。バッハの音楽を昇華させています。一方で近作では実験的な取り組みもありました。終始、燃え上がる炎とも、また生き物の触手のようにも広がる線の軌跡、その躍動感に酔いしれた展覧会でした。

8.「オットー・クンツリ展」 東京都庭園美術館



まさかコンテンポラリー・ジュエリーにこれほど惹かれるとは思いませんでした。単にジュエリーの造形だけでなく、そこに込められた斬新な発想にも興味深い。また建物との相乗効果を呼んでいた本館、そしてジュエリー自体の魅力を引き立てた新館とのメリハリのある構成も優れていました。

9.「ジョン・ウッド&ポール・ハリソン 説明しにくいこともある」 NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)



どこか不条理なまでの世界を描きながら、何やらコミカルで、肩の力を抜いて見入ってしまうような映像ばかりでした。身体を張ってのパフォーマンスにはにやりとさせられることも少なくありません。そして奇妙にアナログで人懐っこい。直感的にも楽しめました。

10.「『月映(つくはえ)』田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎」 東京ステーションギャラリー



まだ20代だった3人の美術学生が生み出した雑誌、「月映」。展開はあまりにもドラマチックです。若すぎる田中の死と終刊。しかし生み出された詩画は永遠に残りました。以前から強く惹かれていた「冬虫夏草」を描いた田中の作品を多数見られたのも収穫でした。

次点. 「村野藤吾の建築ー模型が語る豊饒な世界」 目黒区美術館
 
いかがでしょうか。またベストには入れなかったものの、特に印象に深かった展覧会は以下の通りです。(順不同)

「プラド美術館展ースペイン宮廷 美への情熱」 三菱一号館美術館
「春画展」 永青文庫
「舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに」 練馬区立美術館
「開館20周年記念 没後20年 ルーシー・リー展」 千葉市美術館
「画鬼・暁斎ーKYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドル」 三菱一号館美術館
「尾形光琳300年忌記念特別展 燕子花と紅白梅 光琳デザインの秘密」 根津美術館
「大ニセモノ博覧会-贋造と模倣の文化史」 国立歴史民俗博物館
「新印象派ー光と色のドラマ」 東京都美術館
「村上隆の五百羅漢図展」 森美術館
「シカゴ ウェストンコレクション 肉筆浮世絵ー美の競艶」 上野の森美術館
「坂茂ー紙の建築と災害支援」 世田谷文化生活情報センター生活工房
「スペインの彫刻家フリオ・ゴンサレスーピカソに鉄彫刻を教えた男」 世田谷美術館
「鴻池朋子展 根源的暴力」 神奈川県民ホールギャラリー
「縫い―その造形の魅力」 うらわ美術館
「杉本博司 趣味と芸術ー味占郷/今昔三部作」 千葉市美術館
「逆境の絵師 久隅守景」 サントリー美術館
「ニキ・ド・サンファル展」 国立新美術館
「MOMATコレクション 特集:藤田嗣治、全所蔵作品展示。」 東京国立近代美術館
「そこにある、時間ードイツ銀行コレクションの現代写真」 原美術館
「最後の印象派 1900-20's Paris」 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
「伊豆の長八ー幕末・明治の空前絶後の鏝絵師」 武蔵野市立吉祥寺美術館
「引込線 2015」 旧所沢市立第2学校給食センター
「白鳳ー花ひらく仏教美術」 奈良国立博物館
「躍動と回帰ー桃山の美術」 出光美術館
「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」 東京都現代美術館
「蔡國強展:帰去来」 横浜美術館
「うらめしや~、冥途のみやげ 全生庵・三遊亭圓朝 幽霊画コレクションを中心に」 東京藝術大学大学美術館
「衣服が語る戦争」 文化学園服飾博物館
「浮世絵師 歌川国芳」 そごう美術館
「鈴木理策写真展 意識の流れ」 東京オペラシティアートギャラリー
「異端の作曲家 エリック・サティとその時代展」 Bunkamura ザ・ミュージアム
「サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡」 原美術館
「ヘレン・シャルフベックー魂のまなざし」 東京藝術大学大学美術館
「着想のマエストロ 乾山見参!」 サントリー美術館
「マグリット展」 国立新美術館
「ドラッカー・コレクション 珠玉の水墨画 『マネジメントの父』が愛した日本の美」 千葉市美術館
「鎌倉からはじまった。1951-2016 PART1:1985-2016」 神奈川県立近代美術館鎌倉館
「山口小夜子  未来を着る人」 東京都現代美術館
「速水御舟とその周辺ー大正期日本画の俊英たち」 世田谷美術館
「生誕110年 片岡球子展」 東京国立近代美術館
「生誕三百年 同い年の天才絵師 若冲と蕪村」 サントリー美術館
「生誕110年 海老原喜之助展」 横須賀美術館
「人と自然のあいだの精神と芸術 スサノヲの到来」 DIC川村記念美術館
「山口晃展 前に下がる 下を仰ぐ」 水戸芸術館
「1930-1985 没後30年 ロベール・クートラス展」 渋谷区立松濤美術館
「ホイッスラー展」 横浜美術館

かなり多くなってしまいました。うちあえて挙げるとするなら、開催自体が快挙でもある「春画展」、そして通常疎んじられるニセモノにこそ価値を見出した「大ニセモノ博覧会」、また作品はもとより、一人の女性、いやアーティストとしての生き様にも共感を覚えた「ニキ・ド・サンファル展」、「山口小夜子展」、「ヘレン・シャルフベック展」などが心に深く残りました。

絵画だけでなく、数多くの資料を交えた「片岡球子展」や「海老原喜之助展」も回顧展として充実していました。ほか奈良だからこそ実現し得た「白鳳展」をはじめ、その機知に翻弄されつつ魅了された「山口晃展」、そしてまさに今、六本木で強烈な存在感を放っている「村上隆展」なども一期一会の展覧会として挙げられると思います。「マグリット展」もよくぞあれほどの主要作品が集まったものだと感心しました。

戦後70年ということで、戦争に関連した展示も目立っていました。なかなか追いかけられなかったのは残念でしたが、うち藤田の戦争画を初めて全点見せた「MOMATコレクション 特集:藤田嗣治、全所蔵作品展示。」や、服飾という身近な素材から戦争との関係を追った「衣服が語る戦争」などは大変に興味深かったことを覚えています。

今年は比較的展覧会をコンスタントに廻れたと思います。皆さんはこの一年、どのような美術との出会いがありましたでしょうか。心にとまった展示などについてコメントかTBをいただけたら嬉しいです。

本エントリをもって年内の更新を終わります。今年も「はろるど」とお付き合い下さりどうもありがとうございました。それではどうか良いお年をお迎え下さい。

*過去の展覧会ベスト10
2014年2013年2012年2011年2010年2009年2008年2007年2006年2005年2004年その2。2003年も含む。)
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「始皇帝と大兵馬俑」 東京国立博物館

東京国立博物館
「始皇帝と大兵馬俑」 
2015/10/27~2016/2/21



東京国立博物館で開催中の「始皇帝と大兵馬俑」を見てきました。

秦の始皇帝の陵墓近くに埋められた兵馬俑。現在、8000体もの数が確認されているそうです。その兵馬俑を中心に、秦と始皇帝、ないし周辺の国々に所縁のある文物を紹介しています。

はじまりは天下統一。春秋戦国時代における秦の歴史です。「秦公鐘」は秦初期の数少ない文字資料。先祖の加護や版図の拡大を祈念しているそうです。状態が良いのに驚きました。紀元前8~5世紀のものとは思えません。青緑色の鈍い光を放っています。

「玉胸飾り」が目を引きました。オレンジ、ないし黄色や赤の石のつながるアクセサリー。玉は動物の形に彫られています。石は全部で297個、玉は59個あるそうです。元々は西周のもの。秦は彼の国の玉や青銅器に「憧れ」(キャプションより)、このように玉を取り入れました。

斬新な意匠に魅せられました。「金銀象嵌提梁壺」です。高さ20センチほどの小さな壺。青銅製でした。文字通り表面は象嵌です。金や銀、それに貴石が散りばめられています。ともかく紋様が美しい。龍や花を象っているそうですが、もはや抽象と呼んで差し支えないほどに自由でかつ流麗です。一つのデザインとして捉えても遜色ありません。

秦の都、咸陽での出土品もやって来ています。中でも大きいのが「取水口」と「水道管」です。いわゆる都市のインフラでもある水道。取水口の口径は50センチを超えていたかもしれません。同じく太い管とL字型に繋がっています。こうした導水施設は宮殿以外でも見つかっているそうです。また重量の単位を統一するための「両詔権」なる重りも展示。始皇帝の統治のあり方を垣間見ることが出来ます。

「鹿文瓦当」や「狩猟文瓦当」などの瓦も見どころの一つです。いずれも円い形をした瓦。当時、流行したそうです。モチーフは動物です。鹿が随分と写実的でした。前脚を伸ばし、後脚を蹴り上げては駆けています。躍動感がありました。

これで展示の半分です。後半がいよいよ兵馬俑です。まずは同じく埋められていた銅車馬。始皇帝が実際に乗ったと言われる車を再現した模型です。計2両。大きさは実際の半分ほどでした。展示品はともに複製のため、実物の様子を確かめることは叶いませんが、それでも造形しかり、彩色や紋様も目を見張るものがあります。部品は全部で6000個もあるそうです。実にリアルに出来ていました。


「始皇帝と大兵馬俑展」記念撮影コーナー

兵馬俑の大半は露出での展示です。軍団を形成すべく、将軍俑や軍吏俑、それに歩兵俑などの階級別に分かれています。いずれも先の銅車馬と同じように写実的です。各々の兵士の顔には異なった特徴があり、髪型も一つ一つ違っています。まさしく生き写しと言うべきなのでしょうか。モデルの息づかいとまではいきませんが、じっと見つめていると、さも動き出すような気配すら感じられます。

片足で跪いているのが「跪射俑」です。いわゆる待てのポーズ。頭を前に向け、遠くを見据えているようにも見えます。体を覆うのは甲冑。かなり立派です。彼の役割は射手でした。既に失われていますが、おそらくは左手で弓を支え、右手に乗せながら構えていたことでしょう。眉を吊り上げては険しい表情をしています。戦を前にしての緊張感も漂っていました。

レアな兵馬俑と言っても良いかもしれません。「将軍俑」です。何が珍しいのかと言えば数です。全8000体のうち僅か10体しか確認されていません。役割は司令官といったところでしょうか。胸から腹の辺りに防具をつけ、冠をかぶっています。表情はほかの兵馬俑と比べて穏やか。両手を前にやり、右手で左腕を掴むような仕草をしています。何か意味があるのかもしれません。



等身大の兵馬俑は約10体ほど。「大兵馬俑展」と名乗るにはいささか点数が少ないかもしれませんが、そもそも大変に貴重な品々です。展示に際して諸々と制約があるのかもしれません。ただそれでも背後に多数のレプリカを並べたり、兵馬俑坑を写した特大の写真パネルを掲示するなど、現地のスケールを伝える工夫は随所に垣間見えました。臨場感はあります。



年内の最終開館日に出かけてきましたが、なかなかの盛況でした。2016年2月21日まで開催されています。*年末年始休館日:12/24~1/1

「始皇帝と大兵馬俑」 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:2015年10月27日(火) ~2016年2月21日(日)
時間:9:30~17:00。
 *但し12月18日までの金曜日、10月31日、11月1日、2日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し11月2日、11月23日、1月11日は開館。11月4日、11月24日、1月12日は休館。年末年始(12月24日~1月1日)。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生700(700)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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「考古展示室リニューアルオープン」 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館
「考古展示室 リニューアルオープン」
2015/10/14~



リニューアルオープンした東京国立博物館の考古展示室を見てきました。

東京国立博物館の平成館1階に位置する考古展示室。全面刷新されたのは、1999年に平成館がオープンして以来のことだそうです。



まず入口で出迎えてくれるのは「トーハクのプリンス」(公式サイトより)こと国宝「埴輪 挂甲の武人」。鎧兜に身を包み、太刀を持って構える埴輪です。厳つい顔の表情も印象的です。やや暗がりの空間の中、クリアな照明で浮かび上がっていました。



照明が全般的に良くなりました。LED照明や有機EL照明が導入されています。ともするとこれまではややくすんでいた感もあった考古遺物が、どこか息を吹き返したかのように際立っていました。



ケースにも低反射ガラスを使用したり、同じく低反射のフィルムを貼るなど、見やすさにもこだわったそうです。考古品の造形だけでなく、細部の意匠までも、よりリアルな形で伝わってくるのではないでしょうか。



ハンズオン展示が加わったのも特徴です。例えばこの土偶のレプリカ、実際の重さを確かめるべく、持ち上げることが出来ます。これが随分と重い。予想以上に重く感じる方も多いかもしれません。



展示は通史とテーマ展示の二本立てです。向かって右の壁沿いに進むと、旧石器時代から江戸時代までの歴史を辿ることが出来ます。章ごとの解説パネルが日、英、中、ハングルの4ヶ国語で表記されていました。個々の作品のキャプションは日英の2ヶ国語のみですが、外国人観光客の増える昨今、一歩前進と言えるのではないでしょうか。



解説パネルが時代別にカラーリングされています。サインシステムもより親しみやすくなりました。



目玉でもあった埴輪の展示も一新。展示台からして変わりました。もちろん露出です。2つの展示台に埴輪がずらりと勢ぞろいしています。なお定期的に入れ替えを行っているそうです。まだ見ぬ埴輪と出会えるかもしれません。



仏教に関する考古品が充実したのもポイントです。それゆえに飛鳥時代以降の展示がかなり変わりました。確かに寺院の瓦、それに「板碑」と呼ばれる石製の塔婆など、仏教に因んだ考古品が目を引きます。また瓦では葺き方が分かるように展示方法を変更。全体的に本来の形がイメージしやすい内容となっています。



独立した展示コーナーも新設されました。名付けてVIPルームです。収められたのは僅か2点。ともに古墳時代の国宝「銀象嵌銘大刀」と重要文化財の「石人」です。ちなみに「石人」とは北部九州の墳丘に立てられたもの。埴輪の代わりだったそうです。何やらおっかなびっくり、驚いては両手を挙げるようなポーズをしています。360度の露出展示です。後ろへ回って「石人」の裏を見ることも出来ました。



ほか縄文中期の「深鉢形土器」の全12点を初めて一括で公開。これまでにはなかった考古品も登場しています。既にリニューアルから2ヶ月以上経過していますが、心なしか以前よりも多くの方が訪れているような気もしました。



東京国立博物館の考古展示室は2015年10月14日にリニューアルオープンしました。

「考古展示室 リニューアルオープン」 東京国立博物館・平成館1階(@TNM_PR
会期:2015年10月14日(水)~
休館:月曜日。ほか年末年始など休館日あり。
料金:一般620円(520円)、大学生410円(310円)、高校生以下無料。
 * ( )内は20名以上の団体料金。
 *特別展のチケットでも観覧可。
時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで) 
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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「黄金伝説展」 国立西洋美術館

国立西洋美術館
「黄金伝説展 古代地中海世界の秘宝」
2015/10/16~2016/1/11



国立西洋美術館で開催中の「黄金伝説展 古代地中海世界の秘宝」を見てきました。

古来より不老不死や富、権力の象徴として重用されてきた黄金。主に古代の地中海文明における金製品を紹介する展覧会です。


「らせん状のディアデマ」 紀元前4世紀末-紀元前3世紀初頭 金 ブルガリア、スヴェシュタリ出土
ソフィア国立考古学研究所・博物館


会場内にはトラキア、エトルリア、ローマの金製品がずらり。中には世界最古とも言われる6000年前までの金製品までが登場します。


マルカントニオ・バッセッティ「ダナエ」 1620-30年頃 油彩・カンヴァス
国立西洋美術館


ただし重要なのはタイトルにもある伝説です。これこそが展覧会を支える基盤として良いかもしれません。とするのも黄金には富や権力が象徴されるだけでなく、ギリシャ神話などの古い物語に多く引用されています。言わば黄金が伝説を生むわけです。そこに画家が触発されます。彼らは時にこぞって黄金をテーマとした絵画を描きました。


ギュスターヴ・モロー「イアソン」 1865年 油彩・カンヴァス
オルセー美術館


よって冒頭からして絵画でした。まずはエラスムス・クエリヌスの「金の羊毛を手にするイアソン」です。元になるのはギリシャ神話のアルゴー船の伝説。英雄イアソンが金の羊毛を目指して黒海周辺を冒険します。甲冑を身に付け、羊毛を手に束ねるのがイアソンです。足から腕まで筋肉は隆々、勇ましい姿を見せています。またモローも同じイアソンを描きました。しかしながら雰囲気は大きく異なります。得意の甘美でかつ中性的な人物像です。ちなみにイアソンへ寄り添うのが王女メディアです。羊毛は円柱に掛けられています。足元には倒したという竜がひっくり返っていました。

イアソンが旅した黒海沿いの王国。1972年、同じく黒海沿岸の街で大量の金製品が出土しました。それがヴァルナ銅石器時代墓地です。いわゆる死者の副葬品、時代は今から6000年も前のことです。これこそが世界最古の金製品です。うち会場では43号墓を再現しています。骨こそレプリカですが、出土した本物の金製品をそのまま石棺(レプリカ)に入れて見せていました。

黄金に因んだ物語で有名なのはパリスの審判です。黄金の林檎を巡って争われた3人の女神、ルノワールが「パリスの審判」に描きました。元はルーベンスの作だそうです。ちなみに出品数こそ金製品が多くを占めていますが、こうした絵画も見どころの一つでもあります。


「ヴァルチトラン遺宝」 紀元前14世紀後半-紀元前13世紀初頭 金 ブルガリア、ヴァルチトラン出土
ソフィア国立考古学研究所・博物館


トラキア、つまり現在のブルガリアから「ヴァルチトランの遺宝」がやってきました。時は紀元前13世紀頃。全部で13点です。いずれも金製の杯や柄杓、そして蓋。見るも鮮やかです。輝きは失われていません。これらは今から100年前に偶然、農作業中の人物が発見したものだそうです。


「パナギュリシュテ遺宝/アンフォラ形リュトン」 紀元前4世紀-紀元前3世紀 金 ブルガリア、パナギュリシュテ出土
プロヴディフ考古学博物館


同じくトラキアの「パナギュリシュテ遺宝」も目を引きました。先のヴァルチトランから1000年後、ヘレニズム時代に製作された金製品です。こちらも眩い。ハイライトと言っても良いのではないでしょうか。時代が進んだからか意匠は精巧。リュトンには鹿や女性の頭部も象られ、神や英雄の姿も浮彫で表現されています。一部にはヘラクレスを題材とした神話も描かれていました。その物語をモローが「ヘラクレスと青銅の蹄をもつ鹿」に表しています。一つの黄金伝説が時の離れた金製品と絵画を繋ぎあわせています。

ラストはエトルリアとローマです。うち惹かれたのはエトルリアの金製品でした。そもそもエトルリアでは死後の世界が信じられていたため、立派な墓を作り、死者を豪華な装飾品とともに埋葬していたそうです。それゆえか金の細工の技術も高く、作品も緻密。魅せるものがあります。


「腕輪」 紀元前675年-650年 金 イタリア、チェルヴェテリ、ソルボ墓地、レゴリーニ・ガラッシの墓出土
ヴァチカン美術館


レゴリーニ・ガラッシの墓から出土した「腕輪」が立派でした。表面には幾何学模様が刻まれ、3体の女性像が浮彫状に打ち出されています。大変に細かい。ライオンの姿も垣間見えます。


「首飾り」 紀元前4世紀 金、練りガラス イタリア、オルヴィエート出土
ヴィラ・ジュリア国立考古学博物館


ほか青いガラスを合わせた「首飾り」も美しい。エトルリアの墓の多くは古くから盗掘され、なかなか当時の状態を保っていないそうですが、このレゴリーニ・ガラッシの墓は奇跡的に免れました。2500年も手付かずだった金製品。まさに財宝と呼ぶに相応しい品々ではないでしょうか。

時代も地域も幅広く広大。様々な金製品が文明を横断して登場します。時代しかり、伝説と金製品との関係を行き来するのにやや手間取りました。キャプションでの補完はありますが、ギリシャ神話の知識を前もって頭に入れておくと、より深く楽しめるかもしれません。

[黄金伝説展 古代地中海世界の秘宝 巡回予定]
宮城県美術館:2016年1月22日(金)~3月6日(日)
愛知県美術館:2016年4月1日(金)~5月29日(日)


「パナギュリシュテ遺宝/頭部の文様を施したフィアレ」 紀元前4世紀-紀元前3世紀 金 ブルガリア、パナギュリシュテ出土
プロヴディフ考古学博物館


会場には余裕がありました。2016年1月11日まで開催されています。*年末年始休館日:12/28~1/1

「黄金伝説展 古代地中海世界の秘宝」 国立西洋美術館
会期:2015年10月16日(金)~2016年1月11日(月・祝)
休館:月曜日。但し11月2日、11月23日、1月4日、1月11日は開館。11月24日、及び年末年始(12月28日~1月1日)は休館。
時間:9:30~17:30 
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
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「水 神秘のかたち」 サントリー美術館

サントリー美術館
「水 神秘のかたち」
2015/12/16-2016/2/7



サントリー美術館で開催中の「水 神秘のかたち」を見てきました。

人々の生活にとって欠かせない水。振り返れば仏教美術や絵画などにおいても、水に因んだモチーフが出てこないことは殆どありません。

そうした水に関わる造形物を紹介する展覧会です。また「神秘」とあるように、特に水に関わる神仏や説話などに着目しています。


「流水紋銅鐸」 弥生時代(前1~1世紀) 八尾市立歴史民俗資料館

冒頭は銅鐸でした。弥生時代のものです。一瞬、何故に銅鐸があるのかと思ってしまいましたが、実は一面を覆う模様が水、つまり流水紋であるからです。銅鐸は稲作の始まった頃、水を意識した祭器として用いられました。


「十一面観音立像」 長快作 鎌倉時代(13世紀) パラミタミュージアム

立派な仏像がお出ましです。時代は一気に進んで鎌倉時代。「十一面観音立像」です。どっしりした体つき、安定感のある仏像です。作者は長快。快慶の一門と言われています。モデルは長谷寺の観音立像です。素材は水に漂流して辿り着いた木材、つまり霊木でした。それと同じ木を用いて造ったと考えられています。言わば模像です。なお本像は三重のパラミタミュージアムの所蔵。今回初めて館外で公開されました。


重要文化財「日月山水図屏風」(右隻) 室町時代(15~16世紀) 金剛寺 *1月11日までの展示

「日月山水図屏風」も水に因んだ作品です。もちろん水が描かれているのは言うまでもありませんが、そもそもこの屏風は仏教の灌頂の儀式のために使われていました。右には丸みを帯びた山、左には雪山を背に波が力強くうねる海面が広がっています。松が群生し、岩場が点在し、滝が落ちていく。情景は豊かです。一方で箔を散らしているのでしょうか。光を表現しているのかもしれません。装飾性の高い屏風でもあります。

弁財天、龍神、ないし住吉神も水に因む信仰を得ていました。木食白道の「宇賀神像」は人頭蛇身の仏様です。弁財天を関わりのある宇賀神、とぐろを巻く蛇身の部分がまるでこけしです。そして顔は笑みをたたえています。可愛らしい作品でした。

一方でもう一つの「宇賀神像」が強烈です。所蔵は大阪の本山寺。と言っても現物の出品は1月7日以降です。現在はシルエットのみがパネルで紹介されています。ただそのシルエット自体が強烈。異様なまでの姿をしています。おそらくは実物も強い印象を与えるであろう「宇賀神像」。是非とも年明けに見に行きたいと思います。

いわゆる異形といえば「天川弁財天曼荼羅」も忘れられません。今度は人頭蛇身ではなく蛇頭人身です。中央に弁財天の姿が描かれていますが、頭は三つ、いずれも確かに蛇の姿をしています。から恐ろしい。一体どういうところから着想を得たのでしょうか。あえて例えるなら宇宙人のようです。


国宝「善女龍王像」 定智筆 平安時代(1145年) 金剛峯寺 *1月11日までの展示

水を操る神様です。国宝の「善女龍王像」はどうでしょうか。温和な表情をした龍王が宝珠を手にしては大雨を降らせます。裾から龍の尾が出ていました。衣を象る線は流麗で美しく、波も細やか。さすがに時代もあり、色は抜けているようですが、描写には全くの緩みがありません。


重要文化財「春日龍珠箱」(内箱) 南北朝時代(14世紀) 奈良国立博物館 *1月11日までの展示

小さな厨子に収められた「水神像」も魅惑的でした。内部は岩窟。ただし木で彫刻されています。その内にはほぼ手のひらサイズの龍神が安置されていました。ほか「春日龍珠箱」も美しい。箱の側面には神々の姿が描かれています。色鮮やかに塗り分けられた神の姿はまるで戦隊もののヒーローのように勇ましいもの。内箱には触手のような波が渦を巻いています。中に宝珠が入っていたそうです。保存状態も良好でした。

応挙の「青楓瀑布図」も出ています。言わずもがな滝を大きくクローズアップして描いた一枚、白く流れ落ちる滝の筋は涼しげで、滝壺で波打つ水はやや青みを帯びています。右上からは青楓が垂れていました。臨場感があります。さも水のザアザアと落ちる音が聞こえてくるかのようです。

弥生時代の銅鐸から中世の仏教美術、さらには近世絵画まで網羅しては見せる水のかたちの在り方。水とは大きなテーマでもありますが、出品作はさすがに粒揃いです。考えてみればコーポレートメッセージとして「水と生きる」を標榜するサントリー。まさしく同美術館ならではの展覧会と言えるかもしれません。

展示替えの情報です。会期中、一部の作品が入れ替わります。

「水 神秘のかたち」出品リスト(PDF)

チラシ表紙を飾る「日月山水図屏風」のほか、国宝の「善女龍王像」は1月11日までの展示です。ご注意ください。



「まるごといちにち こどもびじゅつかん!」
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibit/special/2015_11/

なお通常休館日の1月5日(火)は「まるごといちにち こどもびじゅつかん!」として子ども向けに開館。「こども専用びじゅつかん」(公式サイトより)として様々なプログラムが行われます。

プログラムは充実。お絵描きやおしゃべり鑑賞ツアー、美術館の裏側を回るという「ひみツアー」などと盛りだくさんです。当日飛び入りでも参加可能です。展示室のみならず、1階のレクチャールームや6階のお茶室までを開放してのイベントです。入館は無料。子どものみならず、保護者も無料です。親子連れで出かけてはいかがでしょうか。

当日の入館は小中学生のみ。大人は保護者としてのみ入場可能です。大人だけの入館は出来ません。ご注意ください。



2016年2月7日まで開催されています。*年末年始休館日:12/30~1/1

「水 神秘のかたち」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:2015年12月16日(水)~2016年2月7日(日)
休館:火曜日。及び年末年始(12/30~1/1)。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
 *12月22日(火)、2016年1月10日(日)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
 *アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
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「村上隆の五百羅漢図展」 森美術館

森美術館
「村上隆の五百羅漢図展」
2015/10/31~2016/3/6



森美術館で開催中の「村上隆の五百羅漢図展」を見てきました。

近年、世界各地にて大規模な回顧展のほか、様々なプロジェクトを手がけている現代美術家の村上隆。今回ほどのスケールで一度に作品を見られたことはなかったかもしれません。国内では約14年ぶりの個展です。全長100メートルにも及ぶ「五百羅漢図」を筆頭に、いずれも日本初公開の旧新作を交えて、村上の「芸術世界」(公式サイトより)を紹介しています。


「村上隆の五百羅漢図展」会場風景

さて100メートルの「五百羅漢図」。率直なところ、見る前はスケール感の見当すらつきませんでした。ともかく会場が全てを物語ります。モチーフは古代中国の四神、青龍、朱雀、白虎、玄武です。それらが一面ずつ、おおよそ25メートルの幅で展開しています。空間に飲み込まれるとはこのことではないでしょうか。数多くの羅漢たちは振幅も様々です。それこそ魑魅魍魎とばかりに様態を変えては至るところに跋扈しています。

村上が「五百羅漢図」を制作する切っ掛けになったのが東日本大震災でした。大津波や原発事故などで重大な局面を迎える中、「たとえ作り話でも、希望を唱えるお話が必要だ。」(キャプションより)と考え、いわゆる「人々を救済するためにとどまった聖人」(チラシより)こと羅漢を主役とした「五百羅漢図」を描いたそうです。

その源の一つにあるのは幕末の絵師、狩野一信の傑作こと「五百羅漢図」です。同作は10年の歳月を経て96幅まで完成。しかしながら一信は途中で力尽きて没してしまいます。遺志を継いだのが妻と弟子です。ともに協力して残りの4幅を描き、全100幅を芝の増上寺へと奉納しました。その後、しばらくは同寺内の堂で公開されていたもの、次第に忘れ去られ、いつしか収蔵庫の奥に眠る幻の作品と化していました。

時を超えて現代へ。再び「五百羅漢図」が脚光を浴びます。2011年に江戸東京博物館で行われた回顧展です。全幅を一挙に見せる試みでした。しかし直前になって東日本大震災が発生。一度は会期が延期になってしまいます。その後、関係者の努力の甲斐もあって無事開催。多くの人が来場したことでも話題を集めました。


「五百羅漢図 白虎」 2012年 アクリル、カンバス、板にマウント 個人蔵

そして村上の「五百羅漢図」です。ここには羅漢以外にも様々な神仏、ないしは生き物が登場します。その引用は鎌倉時代の仏画であり、江戸の絵画、例えば曽我蕭白の「雲竜図」や若冲の「象と鯨図屏風」であったりと様々です。内容は膨大、とても簡単には一つ一つを追うことはできません。


「村上隆の五百羅漢図展」から下図、資料など

村上は制作にあたり約200名ものチームを組み上げたそうです。元々、村上は工房の持つことでも知られていますが、その集大成こそが「五百羅漢図」だと言えるのではないでしょうか。チームでの制作を示す様々な資料も展示されています。下図、ないし指示書には、村上の容赦ないまでの叱咤の言葉までが記されていました。おそらくは怒号も飛んだことでしょう。村上工房の制作プロセスが露わにもなっています。


「五百羅漢図 青竜」 2012年 アクリル、カンバス、板にマウント 個人蔵

それにしても「五百羅漢図」はまさしく奇妙奇天烈です。ビジュアル自体はもちろん、極彩色の色遣いなり構図もダイナミック。一度見たら頭から離れません。例えば火炎地獄の「白虎」、200人以上の羅漢が描かれていますが、その衣服からして同じものは殆どありません。表情も豊か。不気味な笑みを浮かべたり、何やら挙動不審。ぽかんと上の空の羅漢もいます。「青龍」も凄まじい。破壊的なまでのエネルギーが渦を巻いています。咆哮に飛翔、まさに暴れたい放題です。生きることへの意志、あるいは執念、ないしは欲望のようなものすら感じさせます。


「五百羅漢図 玄武」 2012年 アクリル、カンバス、板にマウント 個人蔵

美術史家の辻惟雄との芸術新潮上での対談、「ニッポン絵合せ」も制作の一つの切っ掛けになったそうです。会場では対談をパネル上で再現。先に挙げた蕭白や若冲をはじめ、蘆雪、永徳、そして一信ら、村上が影響を受けたであろう作品を参照しています。


「五百羅漢図 朱雀」 2012年 アクリル、カンバス、板にマウント 個人蔵

「五百羅漢図」以外も見どころではないでしょうか。やはりこれほどのたくさんの作品を前にしたことはありません。現代美術家としてはあまりにも有名な村上隆という存在。しかしながら自分が痛いほど村上の作品を見ていなかった、そして知らなかったということに気づかされました。いわば初の村上体験です。それがこの物量で迫ります。ひょっとすると初回にしては刺激が強すぎたかもしれません。


「宇宙の産声」 2005年 金箔、FRP、鉄 ほか

否応無しに江戸東京博物館で見た「狩野一信の五百羅漢図」のことを思い出しました。あまりにもの情報量のため、一度には受け止められず、大いに驚き、また惹かれながらも、奇異なまでの世界に戸惑いを覚えた記憶。その体験がそっくり村上の作品の前でも蘇ります。迫力、メッセージという点において、一信が命を削って描いた「五百羅漢」は確かに21世紀に新たな形をまとって再生しました。一端を少なくとも鑑賞という形で共有できるチャンスではあります。その意味では見逃せない展覧会だと言えそうです。

なお現在、増上寺では狩野一信の「五百羅漢図」を展示中。100幅のうち21幅から61幅までが年末年始の入れ替えを挟んで公開されています。(3月13日まで)

「生誕200年記念 狩野一信の五百羅漢図展」@増上寺宝物展示室
前期:10月7日(水)~12月27日(日) 21幅~40幅
後期:2016年1月1日(金)~3月13日(日) 41幅~61幅

「狩野一信の五百羅漢図展」 増上寺宝物展示室(はろるど)

上記リンク先のエントリでもご紹介しましたが、あわせて出かけるも良さそうです。


「欲望の炎ー金」 2013年 金箔、カーボンファイバー ほか

思い思いにポーズをとりながら写真を撮っている方が多いことも印象に残りました。撮影は私用であれば全面的に可能です。


「村上隆の五百羅漢図展」会場風景

会期中は無休です。年末年始のお休みもありません。2016年3月6日まで開催されています。

「村上隆の五百羅漢図展」 森美術館@mori_art_museum
会期:2015年10月31日(土)~2016年3月6日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
 *ただし火曜日は17時で閉館。(11/3は22時まで。) 
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600円、大学・高校生1100円、中学生以下(4歳まで)600円。
 *展望台、屋上スカイデッキへは別途料金がかかります。
場所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。
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「ジョン・ウッド&ポール・ハリソン 説明しにくいこともある」 ICC

NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)
「ジョン・ウッド&ポール・ハリソン 説明しにくいこともある」 
2015/11/21~2016/2/21



NTTインターコミュニケーション・センターで開催中の「ジョン・ウッド&ポール・ハリソン 説明しにくいこともある」を見てきました。

イギリスを中心に活動するアートユニット、ジョン・ウッド&ポール・ハリソン。映像作家、あるいはパフォーマーと呼んでも良いかもしれません。これまで日本でもICCや森美術館などの展覧会に参加。その都度、注目を集めて来ました。

ただ私としては殆ど未知のアーティストでした。国内初の大規模な個展です。作品は全て映像。20点です。短いもので数十秒、長いもので50分ほどあります。全てを見るとかなり時間がかかりました。

それにしても謎めいた「説明しにくいこともある」というタイトル。ともかくは無心で映像に向かい合ってみました。


「二人三脚」 1997年 3分39秒 シングル・チャンネル

まずは入り口正面の「二人三脚」(1997年)です。映像は正面からの固定アングルのみ。現れたのは二人の男。ジョン・ウッドとポール・ハリソンでした。グレーのシャツに青いジーンズ。靴は黒です。お揃いの格好、髪型まで似ています。そして二人の足が白い紐で巻きつけられていました。まさに二人三脚です。個々で自由に動くことが出来ません。

いきなり手前からテニスボールが発射されました。かなりのスピードです。もちろん避けなくてはいけません。ただしお互いの足はくっついています。二人の合間を目がけてボールが放たれました。一人はすっと上半身をくねらせます。何とも避け方がうまい。ただ動きこそ俊敏ですが、表情はありません。ボールを避けようとしては忙しくなく動く二人の姿。ひたすら繰り返されます。これが何やら奇妙でかつ面白い。まるでコントのようでした。

二人は「26(ドローイングと落下物)」(2001年)にも登場します。舞台は白い部屋です。ともにキャスター付きの椅子に腰掛けています。また無表情です。突如、床がガタガタと動き出しました。まるで飛行機です。上下左右に揺れています。とすると椅子もずれて動き出しました。二人は椅子を必死に抑えては揺れに身を任せます。右へ振れては左に揺れ、また手前に滑ってきたかと思えば、今度は二人の椅子がガチャンとぶつかりました。ただし何があっても無表情です。密室での意味をなさない動き。言わば不条理な世界が淡々と映し出されています。

この2点はいずれも旧作。もう10年以上も前のものです。このように二人は元々、体を張ったパフォーマンスをフィルムに収めては公開。映像作品として発表してきました。

2003年頃から人の現れない映像にも取り組みはじめます。今度の主役はモノです。「ノート」(2004年)が目を引きました。4つのスクリーンが横に並んでいます。そこで展開するのはモノの摩訶不思議なまでの様態変化。とは言え、限りなく日用的な品ばかりです。殆どが粗末なテーブルの上で展開します。大掛かりなセットが組まれているわけではありません。

例えば観葉植物です。突然、バサッと音を立てて葉の全てを落としました。ピアノ線で吊られていたようです。思いっきり引っ張ったのでしょう。一斉に葉が飛び散っています。次いで出てきたのはボトルです。ワインが満たされています。上の栓を抜きました。するとなぜか瓶の底からワインが溢れてテーブル上に広がります。どういうメカニズムなのでしょうか。結果はまるで予想出来ません。

テーブル上に瓶と果物が並んでいました。さも静物画のような光景です。さて今度は何が起こるのかと思い身を構えると、突如、テーブルの板が落下しました。本来なら瓶も全て落ちて砕けるはずです。しかし落ちません。またピアノ線で吊ってありました。だらんとぶら下がっています。

物理の実験を連想しました。ただしやはり何らかの科学的な意味、ないしは深い物語があるわけでもありません。アイデアはおろか、装置、またアクションそのものも至ってシンプルです。CGも使っていません。ただし結末にはニヤリとさせられるようなオチが控えています。僅かな驚きを引き出すような意外性が常に潜んでいるわけです。


「他にはこれしかないポイント」 2005年 13分44秒 シングル・チャンネル

より複雑化した作品がある点も見逃せません。その最たるのが「他にはこれしかないポイント」(2005年)です。暗室の小部屋のスクリーン。映像にも小部屋が登場します。ひたすら横へのスクロールです。と同時に小部屋も変化しました。テーマはピンポンです。たくさんのピンポンがパーンと弾け散ります。かと思うとパイプを転がっていきました。おもむろに段ボールが現れました。ピンポンが強くぶつかって壊されてしまいます。今度はピンポンが宙に浮いていました。動きを辿ってみましょう。するといつの間にか隣の部屋にいた男の上に落ちていきます。ともかく小部屋が進むたびに変化するピンポン。いくつかのセッションや異なったシーンが入れ子状に繋がっています。ただし互いの関係するところは不明です。そこが端的に面白い。ついつい夢中で追っかけてしまいます。

二人は映画にも大きな影響を受けていたそうです。「車/湖」(2014年)です。一台の古びた車。前には水をたたえた湖が広がっています。突き出すのは桟橋です。車は桟橋の上を湖を目がけて進んでいきます。遅々たる歩み。異常なまでの遅さです。はじめは実写かと思いました。しかしどうやらセット。ミニチュアです。アメリカのクラシカルな映画のワンシーンがベースになっています。ラストは車が水の中へ落下します。あまりにも引き伸ばされた映像のため、まるで砂にのめりこむようにズブズブと沈んでいくと言っても良いでしょう。それが言わばオチ。その先に何か展開が待っているわけでもありません。


「DIYVBIED」 2012年 19分45秒 シングル・チャンネル

「予想はできても、大なり小なりそれをそれを裏切るようなことが起こるのが好きなんだ。それが物事や人間の本質だと思うから。(略)そんなふうに本質が現れる瞬間を記録したいと思っている。」 *「説明しにくい」アートを作る、二人の英国紳士が考えていること。(Casa BRUTUSより)

まさしく予想を裏切るハプニングを実践しては捉えていくジョン・ウッド&ポール・ハリソン。確かに説明しにくい作品ばかりです。しかしそこにまさしく本質とも言うべき、ありがちな現実の下に潜んだ、もう一つの意外なる現実が見え隠れしてもいます。

百聞は一見に如かずとはこのことかもしれません。トレイラーも公開されています。そちらも鑑賞の切っ掛けになるのではないでしょうか。

ICC企画展「ジョン・ウッド&ポール・ハリソン 説明しにくいこともある」トレイラー


チケットはリピーター制です。会期中、1回に限り再入場することが出来ます。

2016年2月21日まで開催されています。ずばりおすすめします。*年末年始休館日:12/28~1/4

「ジョン・ウッド&ポール・ハリソン 説明しにくいこともある」 NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)
会期:2015年11月21日(土)~2016年2月21日(日)
休館:月曜日。但し月曜が祝日の場合は翌日。年末年始(12/28~1/4)、保守点検日(2/14)。
時間:11:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般・大学生500(400)円、高校生以下無料。割引クーポン。
 *( )内は15名以上の団体料金。会期中1回に限り再入場可。
住所:新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4階
交通:京王新線初台駅東口から徒歩2分。
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「UENO WELCOME PASSPORT」が発売されます

上野界隈の博物館、美術館、また動物園などを各1回ずつフリーで入場することが出来ます。2016年1月2日(土)、「UENO WELCOME PASSPORT」が発売されます。



パスポートが利用できるのは、東京国立博物館、国立科学博物館、国立西洋美術館、上野動物園、下町風俗資料館、旧岩崎邸庭園、東京都美術館、東京藝術大学大学美術館。全部で8施設です。博物館と美術館では常設展が対象となります。



なお常設展を持たない東京都美術館では「TOKYO書2016 公募団体の今」(2/19-3/15)、及び「公募団体ベストセレクション美術2016」(5/4-5/27)のうちの一つ、また東京藝術大学大学美術館は「藝大コレクション展」(4/2-5/8)に限り無料で入場出来ます。

ほかにも東京文化会館、国立国会図書館国際子ども図書館、上野の森美術館では、パスポートを提示すると先着でポストカードがもらえます。

価格は1冊2000円。限定1万部です。利用対象施設のチケット窓口、及びエキュート上野、松坂屋上野店、浅草文化観光センターなどで発売されます。

[UENO WELCOME PASSPORT 上野地区文化施設共通入場券]
販売および利用期間:2016年1月2日(土)~5月31日(火)
 *限定10000部、売切次第販売終了
販売場所:各館の窓口及びエキュート上野、浅草文化観光センター 他
販売価格:2000円(税込)
利用対象館:東京国立博物館、国立科学博物館、国立西洋美術館、上野動物園、下町風俗資料館、旧岩崎邸庭園、東京都美術館、東京藝術大学大学美術館

おまけとしてスタンプラリーも付いています。テーマは江戸時代に流行した「判じ絵」。イラストをヒントに言葉を連想して当てるなぞなぞです。またスタンプラリーで5施設以上を回ると先着でオリジナル「立判古」もプレゼントされます。



上野の行楽にも重宝しそうな「UENO WELCOME PASSPORT」。実は発売されたのは初めてではありません。今年の春、JRの上野東京ラインが開通した際にも、それを記念して「UENO WELCOME PASSPORT」が販売されました。

前回のパスポートの価格は1000円。ただし利用可能施設が東京国立博物館、国立科学博物館、国立西洋美術館の3館限定でした。それに利用期間も2か月弱だったと記憶しています。



「博物館に初もうで」@東京国立博物館
1月2日(土) ~1月31日(日)

今回は対象を大幅に拡大しての発売です。また利用期間も4ヶ月と長期にわたります。そしてちょうど発売初日には東京国立博物館で恒例の「博物館に初もうで」も始まります。私も年が明けて2日には上野へ繰り出してパスポートを購入し、初もうで気分を味わうつもりです。

ちなみに全部回ると通常4400円かかるそうです。そのためパスポートを使用すると2400円分お得になります。一体いくつ回ることが出来るでしょうか。

「UENO WELCOME PASSPORT」が2016年1月2日から発売されます。
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「あなたが選ぶ展覧会2015」最終投票結果発表

今年の展覧会を振り返ってはみなさんの「ベスト展覧会」をまとめようというwebイベント、「あなたが選ぶ展覧会2015」。



「あなたが選ぶ展覧会2015」
http://arttalk.tokyo/
 

11月中に一次ノミネートを実施しました。そこから上位25の展覧会(*)をリストアップ。一旦、集計を発表した後、さらにベスト10を選定すべく、みなさんに最終投票をしていただきました。(*同数のエントリーがあったため、計26の展覧会がランクインしました。)

最終の締切は12月19日。投票総数は552票でした。多くの方が投票して下さいました。

その結果です。「あなたが選ぶ展覧会2015」のベスト10が決定しました。

「あなたが選ぶ展覧会2015」最終投票 ベスト10 (投票総数552票)
1位 「グエルチーノ展 よみがえるバロックの画家」 国立西洋美術館 50票
2位 「マグリット展」 国立新美術館 43票
3位 「SHUNGA 春画展」 永青文庫 40票
4位 「生誕三百年 同い年の天才絵師 若冲と蕪村」 サントリー美術館 38票
5位 「鳥獣戯画ー京都 高山寺の至宝」 東京国立博物館 37票
6位 「没後30年 鴨居玲展 踊り候え」 東京ステーションギャラリー 31票
7位 「No Museum No Life?ーこれからの美術館事典 国立美術館コレクション」 東京国立近代美術館 28票
8位 「画鬼・暁斎ーKYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドル」 三菱一号館美術館 26票
9位 「蔡国強展 帰去来」 横浜美術館 23票
9位 「燕子花と紅白梅 光琳アート 光琳と現代美術」 MOA美術館 23票

次点 「ヘレン・シャルフベック―魂のまなざし」 東京藝術大学大学美術館 21票
次点  「開館120年記念特別展 白鳳ー花ひらく仏教美術」 奈良国立博物館 21票

ベスト3は順に「グエルチーノ」と「マグリット」、そして「春画展」。一次エントリーの際にも人気を集めた展覧会がそのままランクインしました。ほか「若冲と蕪村」、「鳥獣戯画」と続きました。また「鴨居玲展」と「これからの美術館事典」が最終投票で大きくランクを上げたのも目を引きました。

画像拡大版

いわゆる琳派イヤーの展覧会としてはMOA美術館の「燕子花と紅白梅」がランクイン。そして次点には唯一、関東以外の展覧会でノミネートしていた奈良の「白鳳展」が入りました。ベスト10の美術館や博物館は一つも重なりませんでした。日本、西洋、そして現代美術と、幅広いジャンルの展覧会が入ったのも印象に残りました。

次点以下、26位までの展覧会は以下の通りです。

13位 「コレクション展 ベスト・オブ・ザ・ベスト」 ブリヂストン美術館 19票
14位 「ニキ・ド・サンファル展」 国立新美術館 18票
15位 「鴻池朋子展 根源的暴力」 神奈川県民ホールギャラリー 17票
16位 「山口晃展 前に下がる 下を仰ぐ」 水戸芸術館 16票
17位 「ボッティチェリとルネサンス フィレンツェの富と美」 Bunkamuraザ・ミュージアム 15票
18位 「山口小夜子  未来を着る人」 東京都現代美術館 14票
19位 「『月映(つくはえ)』田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎」 東京ステーションギャラリー 11票
20位 「村上隆の五百羅漢図展」 森美術館 10票
20位 「生誕110年 片岡球子展」 東京国立近代美術館 10票
20位 「シンプルなかたち展:美はどこからくるのか」 森美術館 10票
20位 「ボストン美術館×東京藝術大学 ダブル・インパクト 明治ニッポンの美」 東京藝術大学大学美術館 10票
24位 「マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展」 東京都美術館 9票
24位 「微笑みに込められた祈り 円空・木喰展」 そごう美術館 9票
26位 「プラド美術館展ースペイン宮廷 美への情熱」 三菱一号館美術館 3票

最終結果については12月20日(日)の18時よりWEB上のライブ放送でも発表しました。進行は私と「青い日記帳」のTakさん。美術ジャーナリストの藤原えりみさんをゲストにお迎えしました。クリスマスが近いということで、会場を飾りつけ、スパークリングまで用意し、さもパーティ風のカジュアルなイベントとなりました。私も柄に合わず、妙な格好で出てしまいましたが、如何でしたでしょうか。時間の制約のある中、えりみさんも多くを語って下さいました。

なおイベント放送については下記サイトからオンデマンドで視聴することができます。



「あなたが選ぶ展覧会2015」
http://arttalk.tokyo/


実験的なイベントとしてスタートした「あなたが選ぶ展覧会2015」。率直なところ試行錯誤もあり、色々と至らなかった面はあるかもしれません。ただ来年も何らかの形で展覧会を振り返るようなイベントを続けていければと考えております。



最後になりましたが、改めまして「あなたが選ぶ展覧会2015」に参加していただいた全ての方に感謝申し上げます。どうもありがとうございました。

[あなたが選ぶ展覧会2015 イベントの流れ] *イベントは全て終了しました。
イベント専用サイト:http://arttalk.tokyo/
開催期間:2015年11月13日(金)~12月20日(日)
第一次選考期間:11月13日(金)~11月25日(水)
第一次選考通過25展発表ライブイベント:11月26日(木)19時より
 *ゲスト:チバヒデトシ氏(フリーランス・ジャーナリスト、デジタルハリウッド大学大学院客員教授)
最終選考期間:11月27日(金)~12月19日(土)18時まで
「あなたが選ぶ展覧会2015 決定!ベスト展覧会」発表ライブイベント:12月20日(日)18時より
 *ゲスト:藤原えりみさん(美術ジャーナリスト)
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「旅と芸術」 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
「旅と芸術ー発見・驚異・夢想」 
2015/11/14-2016/1/31



埼玉県立近代美術館で開催中の「旅と芸術ー発見・驚異・夢想」のプレスプレビューに参加してきました。

古今東西、人がどういう形であれ非日常的な何かを求めてきた旅。私も振り返ればいつ旅をしたことでしょうか。長時間の移動を伴う大旅行はなかなか出来ません。その一方で、何かに出会うことの驚きや喜びを旅の要素として捉えれば、美術鑑賞も一つの旅と言えるのではないでしょうか。

主に西洋の近代美術を通して旅を読み解く展覧会です。19世紀までの古代、ロマン派への憧憬にはじまり、オリエンタリズムから世紀末のエキゾチスム、さらには空想の旅としてのシュルレアリスム、また幕末明治期に日本へやって来た欧米人の足取りまでを俯瞰します。


「ヘレフォード世界図:マッパ・ムンディ」 1300年(2010年複製) 神奈川大学図書館

旅に欠かせないものといえば地図。冒頭は世界地図です。時代は14世紀。(展示品は複製)イングランド中西部の都市、ヘレフォードの世界図です。下がヨーロッパで上がアジア。とは言えまだ中世です。よく見るとアジアの各地には謎めいた怪物のような生き物も描かれています。上の尖った部分は天界だそうです。キリストの再臨の様子も表現されていました。


左:ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ「ポポロ広場」 1750年 町田市立国際版画美術館

会場内、見渡して目につくのが古写真です。時は19世紀。ナポリやポンペイなどイタリアの遺跡などが写されています。いわゆるグランドツアーでしょうか。それより遡ること1世紀、18世紀にはイタリアが旅行先として好まれました。ピラネージの「ポポロ広場」はローマの遺構を描いたものです。やや劇的、脚色も入っているのでしょうか。後に同じ地点を捉えたニンチの写真と見比べることも出来ます。


ジュゼッペ・ニンチ「コロッセオ、ローマ」 1860-70年代 個人蔵 ほか

なおこの古写真、大多数がある個人のコレクションだそうです。19世紀から20世紀にかけての風景写真がたくさん並んでいます。写真ファンにとっても見るべき点の多い展示と言えそうです。


サミュエル・テイラー・コールリッジ著 ギュスターヴ・ドレ画「老水夫の歌」 1875年 明治学院大学図書館
(映像:中川陽介)


ロマン派文学における旅もテーマの一つです。例はイギリスの詩人、コールリッジ。世界の海を船で渡っては旅する「老水夫の歌」にはドレが挿絵をつけています。なおここで面白いのが書籍の紹介の仕方です。というのも本の性格上、たくさんのページを開くことは叶いません。それを美術館では映像作家の中川陽介に依頼。各場面を言わば映像作品として見せています。


右:「エドフ、大神殿(エジプト誌より)」 1809-28年 町田市立国際版画美術館

いわゆるオリエントもヨーロッパ人を惹きつけた地域でした。ナポレオンの遠征によって生み出されたのは「エジプト誌」です。古代遺跡の展望図などのエジプトの眺めは、いわゆるエジプト熱と言うべきムーブメントを社会に広めていきます。


ジャン=フランソワ・シャンポリオン著 L.J.J.デュボワ画「エジプトの万聖殿」 1823-31年 神奈川大学図書館

「エジプトの万聖殿」には神々の姿が美しい色彩を伴って描かれています。作者は古代エジプトのヒロエグリフを解読したシャンポリオン。展示品はデュボワが絵をつけた初版本です。何と手彩色でした。瑞々しい色味も要注目ではないでしょうか。


左:撮影者不詳「砂漠の祈り」 19世紀後半 個人蔵

ヨーロッパにはない砂漠もオリエンタリズムのモチーフです。一枚の古写真、「砂漠の祈り」はどうでしょうか。手前に横たわるラクダの骸骨。一面の砂漠です。周囲にはやはりラクダに乗って移動する人の姿もあります。一見するところ、何ら変哲のない光景に思えるかもしれません。

しかしながら違いました。実はこれは全て演出なのです。つまりラクダの亡骸をあえて置いて撮影したもの。砂漠には死のイメージがあったそうです。そしてこのような写真が好まれました。いわゆる観光写真としてよく売れたそうです。


左:ウジェーヌ・ドラクロワ「墓地のアラブ人」 1838年 ひろしま美術館

絵画に目を向けましょう。カナレットにドラクロワにルノワール。うちドラクロワの「墓地のアラブ人」は画家自身が北アフリカへ渡って描いた作品です。中央に立つのはモロッコの勇しき近衛兵。フランス政府使節団の護衛隊長を務めた人物です。ベン=アブーという名前まで特定されています。


左:クロード・モネ「貨物列車」 1872年 ポーラ美術館

近代以降に発達した鉄道も旅のあり方を変えました。フランスではパリからノルマンディーへ向かう鉄道が開通。身近な自然を求めて多くの人が観光を楽しむようになります。そこでモネです。作品は「貨物列車」。都市の縁を抜ける列車を少し高い地点から描いています。機関車から立ち上がる煙、そして連なる貨車。背後の街には無数の煙突が立ち並んでいます。まさに近代化、都市化の表れでしょう。ここで注目すべきは手前の3名の人物です。何やら着飾った婦人のようにも見えますが、実は彼女らこそが旅人。こうして近郊に出かけては鉄道を見物する人も少なくありませんでした。


左:ヤン・トーロップ「生命の守護神」 1895年 埼玉県立近代美術館

19世紀末ではジャポニスムや言わば野生の地を求めたゴーギャンらポン=タヴァン派の画家らも登場。「生命の守護神」を描いたヤン・トーロップはジャワ島出身のオランダの画家です。注文主はジャカルタの保険会社。右にインドネシアの母子、そして左にはオランダの母子を表しています。


右:ポール・セリュジエ「急流のそばの幻影 または妖精たちのランデヴー」 1897年 岐阜県美術館

ポール・セリュジエの大作、「急流のそばの幻影 または妖精たちのランデヴー」に目を奪われました。舞台はブルターニュ。妖精たちに土地の衣装を着せています。森の民、ケルトの自然信仰を踏まえて描いた作品でもあります。


ポール・デルヴォー「森」 1948年 埼玉県立近代美術館 ほか

空想への旅。旅への憧れは何も現実世界に留まるわけではありません。シュルレアリスムです。デルヴォーにシャガール、エルンスト。また童話へ絵本に登場する空想への旅についても紹介しています。


ハーバード・G・ポンディング「写真集 富士山」 1905年 個人蔵

ラストは一転して日本でした。幕末明治に日本を訪ねた外国人です。中でも人気があったのは富士山です。来日した画家も競っては富士山を描きます。また記念撮影のために富士山を入れた横浜写真も土産物として人気を集めたそうです。


「旅と芸術」会場風景

西洋近代を中心に見る多種多様な旅の在り方。テーマこそ普遍的ではありますが、内実は時代や地域によって大きく異なります。それゆえか連作などを含めると出品数は全300点と膨大。写真、絵画、挿絵本と多岐にわたります。盛りだくさんの展示でした。

「旅と芸術:発見・驚異・夢想/巖谷國士/平凡社」

監修はフランス文学者の巖谷國士氏でした。随所に「らしさ」も伺えるのではないでしょうか。なお氏のテキストを収めたカタログが一般書籍として発売中です。鑑賞の参考になりそうです。


「旅と芸術」会場入口

ご紹介が遅くなりました。巡回はありまあせん。2016年1月31日まで開催されています。

「旅と芸術ー発見・驚異・夢想」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:2015年11月14日(土)~2016年1月31日(日)
休館:月曜日。但し11月23日、1月11日は開館。年末年始(12月24日~1月4日)
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1200(960)円 、大高生960(770)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「シカゴ ウェストンコレクション 肉筆浮世絵」 上野の森美術館

上野の森美術館
「シカゴ ウェストンコレクション 肉筆浮世絵ー美の競艶」 
2015/11/20-2016/1/17



上野の森美術館で開催中の「シカゴ ウェストンコレクション 肉筆浮世絵ー美の競艶」を見てきました。

アメリカはシカゴ在住の実業家、ロジャー・ウェストン。かねてより日本美術全般に興味があり、1990年頃からは浮世絵の収集を始めたそうです。

そのコレクションが初めて里帰りしてきました。作品は130点。(展示替えあり)全て一点ものの肉筆浮世絵です。いずれも日本初公開の品ばかり。浮世絵師の数は50名にも及びます。時代も寛文期から幕末明治期までと幅広い。また美人画が多いのもポイントです。

そして何よりも特徴的なのは作品の発色が美しいことです。公開される機会も少なかったのでしょうか。これほど状態の良い肉筆浮世絵をまとめて見たのは初めてかもしれません。


無款「京・奈良名所図屏風」(右隻) 紙本金地着色・六曲一双 寛永~正保年間(1624~47)頃
©WESTON COLLECTION


はじまりは上方、寛永、寛文年間の風俗画です。初公開の「京・奈良名所図屏風」は文字通り左に京、右に奈良を描いたもの。洛中洛外図しかり、京都をモチーフにした屏風はよく見かけますが、奈良を舞台にした作品は比較的珍しい。作者は分かっていません。鹿が群れているのが春日大社でしょうか。とするとその近くの池は猿沢池。さらに大仏の姿も見ることが出来ます。


無款「扇舞美人図」 紙本一幅 寛文年間(1661~73)頃
©WESTON COLLECTION


また同じく絵師不詳ながらも「扇舞美人図」も美しいもの。右手で扇を振り上げて舞う女性が表されていますが、ともかく目を引くのは粋な小袖です。これは疋田絞りというそうです。武蔵野を表した金色の扇も雅やかでした。


菱川師宣「江戸風俗図巻」(部分)  絹本一巻 元禄年間(1688~1704)頃 
©WESTON COLLECTION


一方で江戸の浮世絵は師宣からスタートします。「江戸風俗絵巻」です。横幅3メートルほどでしょうか。かなりの大作です。右は春の光景です。思い思いに楽器を持ち、桜の木を囲んでは花見を楽しむ人の姿が描かれています。

それにしても細部まで実に精緻に表された作品です。例えば左手の籠、その赤い簾の描線がこれまた細く引かれています。大画面にも関わらず、細部にも神経が行き届いています。緩みはありません。


西川祐信「髷を直す美人」 紙本一幅 享保年間(1716~36)頃
©WESTON COLLECTION


西川祐信に極上の一枚がありました。「髷を直す美人」です。湯上りでしょうか。胸を露わにしては両手を上げて髷を結う美人。夏の光景やもしれません。薄い衣からは白い腕もうっすらと透けています。何やら色香すら漂うような姿。官能的ですらありました。


宮川長春「琉球人舞楽之図」 絹本一幅 宝永7~享保3年(1710~18)頃 
©WESTON COLLECTION


宮川派が充実していました。「琉球人舞楽之図」はどうでしょうか。琵琶に銅羅、そして三絃に笛を奏でては集う人たち。色とりどりの衣装にも目を奪われます。そして主役は中央、赤い衣を纏っては舞う人物です。一部に金が塗られているのかもしれません。きらきらと輝いても見えます。ちなみ舞人は少年です。確かにあどけない表情をしていますが、立ち姿は立派。ポーズは見事に決まっています。

いわゆる浮世絵の黄金時代では勝川春章、歌川豊春が充実。中でも豊春の5点は全て初公開です。目の肥えた浮世絵ファンの方にもおそらくは見逃せない作品ばかりではないでしょうか。

小野小町の故事に因んだ「雨乞小町図」に惹かれました。薄桃色の衣を纏っては和歌を詠むのが小町。文字通り雨乞をしているそうです。その願いも叶ったのか、辺り暗く、嵐がやって来ています。雨とともに風も吹いているのでしょう。小町の髪の毛がやや乱れてもいます。


喜多川歌麿「西王母図」 絹本一幅 寛政年間(1789~1801)初期頃
©WESTON COLLECTION


歌麿は1点、「西王母図」が出ていました。モデルは中国の伝説上の仙女。江戸の町娘を多く描いた歌麿としては異色の作品です。やや太く、また勢いのある描線は漢画的とも指摘されています。ちなみにこれも初めての里帰りです。ロジャー・ウェストンが昨春に購入し、本展にあわせた調査によって初めて歌麿の真筆と確認された一枚でもあります。


溪斎英泉「夏の洗い髪美人図」 絹本一幅 天保年間(1830~44)
©WESTON COLLECTION


端的に出品数からすると幕末の浮世絵が最も多く展示されていました。中でも初代豊国、国貞、北斎、それに蹄斎北馬や渓斎英泉が際立っています。うち渓斎英泉の「夏の洗い髪美人図」が目を引きました。真赤な団扇を持っては盥の前で構える女性の立ち姿。随分と猫背です。顔は大きく、団扇同様に濃い紅色の口紅を付けています。そしてグレーの着物。長くゴワゴワした髪の毛を垂らしています。何やらエグ味とも退廃的とも言えるような作風です。強い印象を与えはしないでしょうか。


祇園井特「立姿美人図」 絹本一幅 享和年間(1801~04)頃
©WESTON COLLECTION


ラストは再び上方から近代。エグ味と言えば祇園井特も負けてはいません。特に「文読む芸者と三味線を持つ芸者」が凄まじい。等身大でしょうか。縦の大画面に描かれた2人の芸者。井特にならではアクの強い女性が描かれていました。

展示替えの情報です。会期中、前後期で6割ほどの作品が入れ替わります。

「シカゴ ウェストンコレクション 肉筆浮世絵」出品リスト(PDF)
前期:2015年11月20日(金)~12月20日(日)
後期:2015年12月22日(火)~2016年1月17日(日)

展示造作にも工夫があり、作品の美しさが際立っているのにも感心しました。ケースは全て特注です。写り込みも殆どありません。またいずれも薄いケースに作品が入られているため、目と鼻の先で鑑賞が可能でした。さらに有機ELや最新のLEDを用いた照明も効果的です。公式サイトにも「近未来展示」との記載がありますが、あながち誇張とは言えないかもしれません。

金曜日の夜間開館を利用して観覧してきました。土日も比較的余裕があるそうですが、金曜夜は混雑とは無縁です。人の姿も疎らな館内でじっくりと楽しむことが出来ました。



2016年1月17日まで開催されています。これはおすすめします。

「シカゴ ウェストンコレクション 肉筆浮世絵ー美の競艶」 上野の森美術館
会期:2015年11月20日(金)~2016年1月17日(日)
休館:月曜日。但し11月23日(月・祝)、1月11日(月・祝)は開館。1月1日(金)は休館。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *入場は閉館30分前まで。
料金:一般1500(1200)円、大学・高校生1200(900)円、小学・中学生500(300)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅徒歩5分。京成線京成上野駅徒歩5分。
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「若冲展」 記者発表会

江戸時代の京都で活動した絵師、伊藤若冲(1716~1880)。来年、生誕300年を迎えます。それを記念しての展覧会です。2016年4月22日(金)より東京都美術館で「生誕300年 若冲展」が開催されます。



「生誕300年 若冲展」
会場:東京都美術館
期間:2016年4月22日(金)~5月24日(火)
http://jakuchu2016.jp

出品は約80点(一部、展示替えあり)。うち最大の目玉は「動植綵絵」30幅と「釈迦三尊像」3幅が同時に公開されることです。両作品は一括して若冲が相国寺に献上したもの。現在は「動植綵絵」が宮内庁三の丸尚蔵館、「釈迦三尊像」が相国寺に分かれて所蔵されています。2007年には同寺の承天閣美術館で120年ぶりに展示されたことも話題となりましたが、そもそも東京では一度たりとも揃ったことがありません。



ちなみに「動植綵絵」自体、東京に出品されるのも2009年に東京国立博物館で行われた「皇室の名宝展」以来のことです。そこからさらに時代を戻すと、同じく東京国立博物館で1971年に開かれた若冲展(特別展ではなく特集展観でした。)まで遡らなくてはなりません。



もう一つの見どころは若冲の主要作品を網羅していることです。まず「鹿苑寺大書院障壁画」などの初期作を見た上で、「動植綵絵」+「釈迦三尊像」の全点展示を挟み、最後に「菜蟲譜」などの晩年の作品を追う流れとなります。大まかには3部構成です。美術館の3層のフロアを用い、順に初期、「動植綵絵+釈迦三尊像」、晩期の作品を並べ分けて展示します。(予定)



なお製作当時、「動植綵絵」がどのように並んでいたのか正確に分かっていませんが、配列については2007年の相国寺での「若冲展」の並びを踏襲するそうです。ちなみに相国寺では一つの空間を囲み、以下の順で「動植綵絵」が展示されていました。

[釈迦三尊像及び動植綵絵 全33幅 展示順]

正面 「釈迦三尊像」(左より順に、普賢菩薩像、釈迦如来像、文殊菩薩像。)

左 「動植綵絵」(順に、老松白鳳図、牡丹小禽図、梅花小禽図、向日葵雄鶏図、秋塘群雀図、椶櫚雄鶏図、雪中錦鶏図、芙蓉双鶏図、梅花群鶴図、芦雁図、桃花小禽図、大鶏雌雄図、貝甲図、紅葉小禽図、群魚図・鯛)

右 「動植綵絵」(順に、老松孔雀図、芍薬群蝶図、梅花皓月図、南天雄鶏図、蓮池遊魚図、老松白鶏図、雪中鴛鴦図、紫陽花双鶏図、老松鸚鵡図、芦鵞図、薔薇小禽図、群鶏図、池辺郡虫図、菊花流水図、群魚図・蛸)

ほかの出品作については「一番の傑作、良作を集めようとし」、「極上のリスト」を作成しては、最終的に作品を選定したそうです。(*「 」内は本展監修で美術史家の小林忠先生による。)



主な展示予定作品は以下の通りです。

[若冲、そのはじまり]
「糸瓜群虫図」(細見美術館)、「隠元豆・玉蜀黍図」(草堂寺)、「牡丹・百合図」(慈照寺)、「旭日鳳凰図」(宮内庁三の丸尚蔵館)

[若冲、祈りを込めて]
「釈迦三尊像」(相国寺)、「動植綵絵」(宮内庁三の丸尚蔵館)

[若冲、生きものたちの楽園]
「鳥獣花木図屏風」(エツコ&ジョー・プライスコレクション)

[若冲、障壁画]
「仙人掌群鶏図屏風」(西福寺)、「蓮池図」(西福寺)、「葡萄小禽図襖絵(鹿苑寺大書院襖絵)」(鹿苑寺)、「松鶴図襖絵(鹿苑寺大書院襖絵)」(鹿苑寺)、「芭蕉叭々鳥図襖絵(鹿苑寺大書院襖絵)」(鹿苑寺)

[若冲、画に遊ぶ]
「果蔬涅槃図」(京都国立博物館)、「花鳥版画」(平木浮世絵財団)、「乗興舟」(京都国立博物館)

[若冲、ますます活躍]
「三十六歌仙図押絵貼屏風」(岡田美術館)、「百犬図」(個人蔵)、「菜蟲譜」(佐野市立吉澤記念美術館)、「象と鯨図屏風」(MIHO MUSEUM)



これまでにも若冲といえば、2000年の京都国立博物館の「若冲展」にはじまり、「動植綵絵」と「釈迦三尊像」が揃い踏みした2007年の承天閣美術館、さらには2009年の「若冲ワンダーランド」(MIHO MUSEUM)と翌年の「若冲アナザーワールド」(千葉市美術館ほか)と大きな展示が続きました。

ほかにも「プライスコレクション展」などで若冲が大きくクローズアップされたこともありました。最近ではサントリー美術館の「若冲と蕪村展」の記憶も新しいところです。その都度、若冲の人気に火が付き、高まり、さらに不動のものになったという印象があります。私も京都国立博物館の若冲展以外は全て追いかけました。

辻惟雄先生が「空前絶後」とまで語った今回の若冲展。今世紀の若冲の受容史に大きな足跡を残すことは間違いありません。



若冲展は来春の上野限定。東博ではなく都美館です。期間は1ヶ月のみ。巡回はありません。



「生誕300年 若冲展」
http://jakuchu2016.jp

公式の仮サイトも開設されました。なお本サイトについては来年1月下旬頃、チームラボの制作によりオープンするそうです。(前売券情報なども追って掲載されます。)そちらにも期待しましょう。

「生誕300年 若冲展」は2016年4月22日より東京都美術館で開催されます。

*関連エントリ(実際に見てきました。)
「若冲展」 東京都美術館(はろるど)

「生誕300年 若冲展」 東京都美術館@tobikan_jp
会期:2016年4月22日(金)~5月24日(火)
時間:9:30~17:30
 *毎週金曜日は夜8時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで
休館:4月25日(月)、5月9日(月)。
主催:東京都美術館、日本経済新聞社、NHK、NHKプロモーション
協力:宮内庁
料金:一般1600円(1300円)、大学生1300円(1100円)、高校生800円(600円)、65歳以上1000(800)円、中学生以下無料。
 *( )内は前売券、及び20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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「ゴーギャンとポン=タヴァンの画家たち展」 パナソニック汐留ミュージアム

パナソニック汐留ミュージアム
「ゴーギャンとポン=タヴァンの画家たち展」
10/29-12/20



パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「ゴーギャンとポン=タヴァンの画家たち展」を見てきました。

いわゆるポスト印象派の画家として知られるポール・ゴーギャン。彼が絵画における新しい時代を開いた切っ掛けの一つに、フランス北西部ブリュターニュはポン=タヴァンへの滞在経験がありました。

そのゴーギャンのポン=タヴァンでの制作を俯瞰する展覧会です。またタイトルにも記載があるように、ほぼ同時代、ゴーギャンとともにポン・タヴァンで活動した画家もあわせて紹介しています。

ゴーギャンがポン=タヴァンへやって来たのは1886年。37、8歳の頃です。最初の滞在は夏から秋にかけておおよそ3ヶ月間。土地の風景を気に入ってはデッサンや油彩画を描きました。2年後にも再びポン=タヴァンを訪れます。この時に会ったのがエミール・ベルナールです。若きベルナールの才能に感化されたゴーギャンは、平坦な色面を黒い輪郭線で囲むクロワゾニスムと呼ばれる様式に関心を示します。


ポール・ゴーギャン「2人のブルターニュ女性のいる風景」 1888年 ニイ・カールスベルグ・グリプトテク美術

印象派風ながらも、後の画風を予見させるのが、「2人のブリュターニュ女性のいる風景」です。筆触は繊細。しかしながらクローズアップされた女性や、かなり大きな牛の存在など、遠近感、ないし空間表現には大胆さも見られます。手前から奥へV字に分かれる道路も特徴的でした。


ポール・セリュジエ「呪文或いは物語 聖なる森」 1891年  カンペール美術館

ナビ派のメンバーでもあるポール・セリュジエの「呪文或いは物語、聖なる森」に魅せられました。ブリュターニュの伝説を題材にしたという一枚、深い森の中で3人の女性が火を起こしては儀式をしています。赤褐色で立ち並ぶ樹木は平面的です。リズムすら感じられます。日本美術に影響を受けたのでしょうか。その神秘的な様相は象徴派絵画を思わせました。


エミール・ベルナール「会話(ステンド・グラスのエスキス、サン=ブリアック)」 1887年 ブレスト美術館

ベルナールでは「会話」に目が留まりました。ステンドグラスのための水彩の習作です。3人の人物が談笑していますが、確かにいずれも色面を黒い輪郭線で囲んでいます。なお本展、ゴーギャンとあるので、ゴーギャンの作品で大半を占めていると思いがちですが、実はそれ以外、つまり「ポン=タヴァンの画家たち」の方が多く出品されています。そしてむしろそうした画家たちの作品にこそ見るべき点が少なくありません。

1889年、ゴーギャンはパリでポン=タヴァンで描いた作品の展覧会を開きました。またこの年の6月にはポン=タヴァン近くの小村、ル・プールデュへ移り、仲間たちと装飾の仕事を請け負うなど、新たな交流を深めていきました。

先に触れたセリュジエと親交があったのがジョルジュ・ランコブです。「森の中の3人のビグダン地方の女性」はどうでしょうか。また赤い幹の森。同じく3人の女性が描かれています。彼女たちのポーズもやはり祭儀のためのものだそうです。技法はテンペラ。そして構成はより装飾的です。黒い輪郭線も目立っていました。

最後にゴーギャンがポン=タヴァンに来たのは1893年です。滞在は数ヶ月。この後フランスを去り、マルキーズ諸島へ向かうことになります。


モーリス・ドニ「小舟のブルターニュの女性」 1891-92年 カンペール美術館

「ゴーギャンの最後の仲間たち」として括られた画家もまた魅惑的でした。まずはドニです。彼は1890年にはポン=タヴァンを訪れ、ゴーギャンに出会っています。今回のドニ作品は全部で5点です。「小舟のブリュターニュの女性」は母子の愛情を描いたもの。伝統的なブリュターニュの衣装をまとった母が小舟の上で幼子を守るように抱いています。こげ茶色に青い線を混ぜて海面を描く一方、舟の中は薄い水色で表現しています。そのコントラストも興味深いのではないでしょうか。


フェルディナン・ロワイアン・デュ・ピュイゴドー「藁ぶき家のある風景」 1921年 カンペール美術館

フェルディナン・ロワイアン・デュ・ピュイゴドーという画家がいました。必ずしも有名ではないかもしれません。しかしながら作品は美しい。「藁ぶき家のある風景」です。大海原を背に一面のオレンジ、ないしは薄ピンク色に染まった夕景を表しています。空の中央には黄色い太陽が輝いていました。水面には帆船が浮かびます。やはりオレンジ色です。海辺には一軒の家が建っています。確かに藁ぶきです。夕飯の支度をしているのでしょうか、煙突からはゆらゆらと煙が立ち上っていました。そして一人黄昏る人。ポツンと座っては海を見ています。何とも牧歌的な光景です。この眩い色彩感、ピュイゴドーは光彩主義の画家として知られているそうです。

ほかには独学で絵を学んだシャルル・ラコストや、晩年にアルコール中毒で作品を破壊してしまったエミール・ジュールダンも登場。ともに知られざる画家と言っても良いでしょう。そもそも国内でポン=タヴァン派を紹介するのが22年ぶりです。作品の多くは海外の所蔵です。日本初公開も少なくありません。


ポール・ゴーギャン「タヒチの風景」  1893年 ニイ・カールスベルグ・グリプトテク美術館

気がついてみれば会期末を迎えていました。12月20日まで開催されています。

「ゴーギャンとポン=タヴァンの画家たち展」 パナソニック汐留ミュージアム
会期:10月29日(木)~12月20日(日)
休館:11月4日(水)、11月11日(水)
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:一般1000円、大学生700円、中・高校生500円、小学生以下無料。
 *65歳以上900円、20名以上の団体は各100円引。
 *ホームページ割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分。
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「坂茂ー紙の建築と災害支援」 世田谷文化生活情報センター生活工房

世田谷文化生活情報センター生活工房
「坂茂ー紙の建築と災害支援」
11/28-12/20



世田谷文化生活情報センター生活工房で開催中の「坂茂ー紙の建築と災害支援」を見てきました。

2014年にはプリツカー賞を受賞した世界的建築家、坂茂。元々、世田谷区に生まれ育ち、建築設計事務所も同区内にあるそうです。その由縁でしょうか。三軒茶屋の生活工房にて、坂の業績と活動を紹介する展覧会が行われています。


「坂茂ー紙の建築と災害支援」会場風景

まず目に飛び込んで来るのが「紙管」と白いカーテン。言うまでもなく、坂がかねてより取り組んできた災害支援の一つである避難所の間仕切りシステムです。


「大分県立美術館」 2014年 日本

そのシステムが展示の言わば造作です。坂の建築作品がカーテンを背に写真、および模型を交えて紹介されています。はじまりは一般住宅や美術館です。最近では今年開館したばかりの「大分県立美術館」が注目を集めているのではないでしょうか。木材を多用した外壁も個性的。構造が竹工芸のようになっているそうです。


「ニコラス G ハイエック センター」 2007年 日本

身近なところでは銀座の「ニコラス G ハイエック センター」も坂建築です。1階は間口の狭いファサードを逆手に取り、前後のガラスシャッターを開放すると通り抜けが出来るようになっています。またいわゆる垂直の庭こと、壁面を飾る緑も特徴的と言えるかもしれません。

坂といえば紙の建築家です。特にトイレットペーパーの芯として利用される紙管を建築の構造に取り込むことで知られています。最初に紙管を恒久的な建築に使ったのは、1995年の「紙の家」だそうです。より大掛かりな建物では2000年の「ハノーバー国際博覧会日本館」も挙げられます。


「ハノーバー国際博覧会日本館」 2000年 ドイツ

博覧会のテーマは環境問題。パビリオンは閉会後、解体されます。よって坂はリサイクル可能な紙管を採用しました。さらに屋根は紙です。紙というと、如何せん燃えやすいというイメージも拭えませんが、そこは耐火性のある膜材で覆ったそうです。


「避難所用間仕切りシステム」より紙管

後半は坂の災害支援の取り組みです。紙管は安価。また工業製品として一度に大量生産することができます。そのため仮設住宅を建てるための素材としても重宝されるようになりました。


「紙のログハウス 神戸」 1995年 日本
 
阪神・淡路大震災の被災者のために作られたのが「紙のログハウス」です。壁と小屋組が紙管、屋根はテント膜、そして基礎には何と砂袋を詰めたビールケースを使用しています。再利用品の有効活用です。建設も解体もさほど時間はかかりません。


「紙の教会」 1995年 日本

同じく震災時に神戸に建てられたのが「紙の教会」です。並ぶのは59本の紙管。建材は企業から寄付を受け、建設にはボランティアが募られました。おおよそ5週間で完成したそうです。


「キリンダ村復興プロジェクト」 2007年 スリランカ

こうした坂の活動は何も日本だけに留まりません。世界各地で災害が起こる度に行動を起こしています。また一時的な仮設住宅だけでなく、より長いスパンで利用可能な住宅も提供しました。一例が2007年の「キリンダ村復興プロジェクト」です。場所はスリランカ南東部、海岸沿いの村です。災害とはかのスマトラ沖の大地震です。津波で家を失った現地住民のため、復興プロジェクトとして67棟の住宅を建設しました。


「女川町仮設住宅」 2011年 日本

そして東日本大震災です。コンテナを活用した「女川町仮設住宅」では住宅用地の不足を解決するため、多層型、つまり2、3階建ての住宅を建設。海上輸送用のコンテナを積み上げて作りました。


「JR女川駅」 2011年 日本

また女川町では再建された駅舎も坂が設計したそうです。イメージは鳥が翼を広げた姿。内部には駅や売店だけでなく、町営の温泉施設までが入っているそうです。カーブしては建物を覆う木の屋根の存在感が際立っています。


「避難所用間仕切りシステム」 

坂が考案して実際に利用された避難所用間仕切りシステムを体験することが出来ました。紙管の長さは梁も柱も180センチ。家族の人数などに応じては必要なサイズに合わせられるようになっています。


「避難所用間仕切りシステム」

仕切りシステムは災害が起こる度に改良されています。よって幾つかのバリエーションがありました。もちろん日常と隔絶した避難所での生活は被災した方にしか分かりません。ただそれでもこうしたシステムに触れることで、坂がいかにして災害時にアイデアを出し、行動したのかを、より臨場感のある形で知ることが出来るのではないでしょうか。


「ネパールプロジェクト」 2015年 ネパール

今年4月に起きたネパール地震でも坂は被災者向けの住宅の開発を行っています。最初のプロトタイプが発表されたのは10月下旬。今後、必要とする地域に提供するほか、学校などの建設も手がけていくそうです。


「避難所用間仕切りシステム」

あまり広くないスペースではありますが、写真や解説は充実。模型は多くありませんが、先の避難所システムのほか、紙管の実物なども見ることが出来ました。現在進行形で活動する坂の「今」を知るにも重要な展示と言えそうです。


「坂茂ー紙の建築と災害支援」会場入口

入場は無料です。12月20日まで開催されています。

「坂茂ー紙の建築と災害支援」 世田谷文化生活情報センター生活工房@setagaya_ldc
会期:11月28日(土)~12月20日(日)
休館:会期中無休。
時間:11:00~19:00 *最終日は17時まで。
料金:無料
住所:世田谷区太子堂4-1-1 キャロットタワー3F・4F。
交通:東急世田谷線三軒茶屋駅よりすぐ。東急田園都市線三軒茶屋駅より徒歩3分。
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「フリオ・ゴンサレス展」 世田谷美術館

世田谷美術館
「スペインの彫刻家フリオ・ゴンサレスーピカソに鉄彫刻を教えた男」
2015/11/28~2016/1/31



世田谷美術館で開催中の「スペインの彫刻家フリオ・ゴンサレスーピカソに鉄彫刻を教えた男」を見て来ました。

バルセロナに生まれ、金工職人から画家を経て、彫刻家として業績を残したフリオ・ゴンザレス(1876~1942)。必ずしも国内では有名な彫刻家とは言えないかもしれません。

日本初の本格的な回顧展です。作品は約100点。ほぼ海外の所蔵です。スペインのバレンシア現代美術館のコレクションを中心に、金工、彫刻、さらには一部デッサンを交え、ゴンザレスの制作を時代を追って紹介しています。


「花(菊)」 1890-1900年頃 バレンシア現代美術館

父は金工職人でした。ゴンザレスも10代の頃から修行を積み、展示会などで様々な賞を受賞。早々に職人として歩み出します。初期の金属装飾品が思いがけないほど魅惑的でした。真鍮のブローチやバックル。蝶を象った銀のピンの大きさは僅か2センチです。羽根の部分には細かな装飾も施されています。それに「菊」も美しいもの。高さは30センチ、鉄製です。花弁が包まっては波打つ様子が精巧に再現されています。

一時はパリへ出て画家を志しますが、金工を手放すことはなく、同時に彫刻を制作し始めました。この頃はロダンやマイヨールに影響されていたそうです。裸体をさらしては仰向けに横たわる「横たわる裸婦」はいかにも官能的。「恋人たち」においても男女は円を描くように抱き合っては口付けしようとしています。

なおパリ時代、第一次世界大戦が勃発すると、金工装飾だけでは生計を立てられず、ルノーのガス溶接会社で働いたこともあったそうです。そしてその溶接の技術こそが、後のゴンザレスの彫刻で重要な地位を占めることになります。


「尖ったマスク」 1929-30年頃 バレンシア現代美術館

初期には叩き出しの技術を用いて金属板に人の姿を浮かび上がらせていましたが、1920年代後半になると、輪郭線に切り込みを入れたり、折り曲げては他の金属板を溶接するなど、作品に変化が現れ始めました。

薄い金属板を曲げては凹凸を作り、切り込みを入れて顔を象ったのが「切り抜かれたマスク(小)」です。また「女とアンフォラ」はよりシンプル。やはり薄い金属板を切り抜いては身体のラインを描き、頭にアンフォラを載せた女性を表現しています。

作品は次第に抽象化していくのもポイントです。「三つ折りと呼ばれる女」では何枚かの金属板を溶接で縦に繋げては曲げ、女性の立ち姿を表していますが、頭や身体は金属面のみで示され、もはや具体的な表情を見ることは出来ません。

展覧会のサブタイトルに「ピカソに鉄彫刻を教えた男」とありますが、元々ゴンザレスは画家志望時代からピカソと親交があり、1928年から31年頃、彼に溶接の技術を教えていたことがあったそうです。また一時はブランクーシの助手を務めていました。同時代の芸術家との交流もゴンザレスの業績を追うのに重要なポイントと言えそうです。


「鏡の前の頭部」 1934年頃 バレンシア現代美術館

1930年代に入ると「空間の中のドローイング」と呼ばれるスタイルを確立します。ドローイング、すなわち線ならぬ棒です。既に金属面を多用して作品を作っていましたが、今度は金属の棒を溶接しては繋げ、空間に配置。より抽象性の増した人物像などを生み出していきます。

「立つ人(大)」が目を引きました。高さ1メートル超、文字通り、人の立ち姿を表した作品です。顔のみが金属板である以外は全て棒で象られ、曲線を多用しては独特の人物像を作り上げています。腕や頭部をイメージしたのでしょうか。上や横に伸びる細い棒はまるでアンテナのようでした。

そうした「空間の中のドローイング」の一方、頭部を象った彫刻を残しているのも興味深いところです。切っ掛けは台座の石です。そこにゴンザレスは惹かれ、ノミを振るいました。「スカーフを巻くモンセラの農婦」はどうでしょうか。一面にノミの痕跡が付いた頭部です。作品はブロンズですが、まるで石塊を切り出してはそのまま用いたような形をしています。ほか「横たわる男の頭部ーモンテイヨン」も良いもの。一転してのほぼ具象。重量感があります。一つ一つの頭部、つまり顔には表情があり、何かを強く訴えかけているようにも見えました。


「座る女1」 1935年頃 バレンシア現代美術館

ラストは面と線の統合です。1930年以降、「面で空間を囲むこと」と「線で空間を構成すること」(ともにキャプションより)を合わせることに取り組んだゴンザレス。その結実が「ダフネ」でした。彼の彫刻を象徴するということでしょうか。この作品は導入として初めの展示室に置かれていますが、確かに身体や脚の折り曲げた金属面と、頭部なのか、やはりアンテナのように伸びる金属棒の組み合わせが面白い。もし彫刻をキャンパスに置き換えることが可能であるなら、例えば上部の一つをとると、まるでミロの絵画のようでもあります。

第二次世界大戦中は物資不足により、ブロンズ制作の一部を断念さぜるを得なかったそうです。それでも石膏やドローイングなどの作品を作り続けていきます。

腕が下から突きあがる「差し上げられた右手NO.1」に目が止まりました。腕の表面はゴツゴツしていて重々しい。振り上がる腕はやや後ろに反っていて、まさに跳ね上がるかのようです。そして掌は大きく広がります。ただし指の一本が欠けていました。痛々しい。しかしながら全体には躍動感が漲ってもいます。

ゴンザレスは晩年、スペイン内戦や世界大戦への「怒りや悲しみをにじませた作品」(キャプションより)を幾つか制作したそうです。力強く奮われた腕にはどこか暴力に対する抗議の意思が込められているのかもしれません。


ゴンザレスと「鏡の前の女」、アルクイユの工房にて

金工職人としての技術に裏打ちされながら、ひたすらに鉄を曲げ、切り入れ、折り、重ねては溶接したマリオ・ゴンザレス。実のところ彫刻家としての活動は約10年あまりに過ぎません。しかしながら作品はもとより、一つの手仕事として捉えても惹かれる面は多々あります。また一人、魅惑的な彫刻家と出会いました。

砧公園の緑を背景に鑑賞するゴンサレスの彫刻(セタビブログ)

世田谷美術館のブログにも記載がありますが、通常、壁で仕切られている展示室の窓が開放されています。もちろん窓の外に広がるのは、葉も散っては冬支度をした砧公園の景色です。窓越しには光も差し込みます。言わば借景と化した砧公園を背に見る彫刻群。特に導入でかつハイライトでもある初めの展示室が効果的です。ぐっと惹きつけられました。



2016年1月31日まで開催されています。おすすめします。

「スペインの彫刻家フリオ・ゴンサレスーピカソに鉄彫刻を教えた男」 世田谷美術館
会期:2015年11月28日(土)~2016年1月31日(日)
休館:毎週月曜日。但し2016年1月11日(月・祝)は開館、翌1月12日(火)は休館。年末年始(12月28日~1月4日)。
時間:10:00~18:00 *最終入場は17時半まで。
料金:一般1000(800)円、65歳以上800(600)円、大学・高校生800(600)円、中学・小学生500(300)円。
 *( )内は20名以上の団体料金
 *リピーター割引あり:有料チケット半券の提示で2回目以降の観覧料を団体料金に適用。
住所:世田谷区砧公園1-2
交通:東急田園都市線用賀駅より徒歩17分。美術館行バス「美術館」下車徒歩3分。
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