2018年 私が観た展覧会 ベスト10

あっという間に一年を終えようとしています。年末恒例の、独断と偏見による私的ベスト企画です。私が今年観た展覧会のベスト10をあげてみました。

2018年 私が観た展覧会 ベスト10

1.「ヌード NUDE ―英国テート・コレクションより」 横浜美術館



西洋の芸術にとって普遍的なテーマでもあるヌード表現を、イギリスのテートのコレクションから多角的に検証する展覧会でした。絵画や彫刻、写真などの多数のメディアのみならず、現代美術からジェンダーや政治にまで踏み込んだキュレーションが面白く、ともかくロダンを超えた付近から、夢中で見入っていたことを覚えています。これほどスリリングでかつ興奮した展覧会もそうないかもしれません。

2.「ムンク展―共鳴する魂の叫び」 東京都美術館



ムンクの輝かしいまでの色彩美に強く魅了されました。何かと「叫び」のイメージが強く、メランコリックに捉えられがちでもあるムンクですが、「夏の夜、人魚」や「太陽」、それに「生命のダンス」などは、何やら生命、自然賛歌とも呼べるような世界が開けているようで、熱気にのまれるような活力すら感じました。この展覧会で初めてムンクのことを知ったような気がしました。

3.「ピエール・ボナール展」 国立新美術館



大好きなボナールの待ちに待った大回顧展でした。二度の戦争を経験しながらも、色彩溢れる絵画は、どこか多幸感に満ちていて、ともかく心を掴んでなりません。また出展作の多くを占めた、オルセーの質の高いコレクションにも目を引かれました。

4.「芳年-激動の時代を生きた鬼才浮世絵師」 練馬区立美術館



ようやく芳年の大規模な回顧展を見ることが出来ました。いずれも世界屈指の芳年コレクションを誇る西井正氣氏の作品で、まとめて公開されたのは、15年ぶりのことでした。代表的な無惨絵はもとより、新聞挿絵や美人画にも優品が少なくなく、芳年がマルチに活動していたことが見てとれました。大好きな「月百姿」も揃いで楽しむことが出来ました。

5.「ルドンー秘密の花園」 三菱一号館美術館



ドムシー男爵が城館を飾るためにルドンに注文した一連の装飾画が、初めて「グラン・ブーケ」との邂逅を果たしました。植物をモチーフとした連作は、淡い色彩を伴った、装飾性の高い作品ばかりで、ルドンが空間を意識して制作していたこともよく分かりました。「グラン・ブーケ」のある一号館美術館だからこそ実現し得た展覧会でした。

6.「琉球 美の宝庫」 サントリー美術館



2006年に一括して国宝に指定された「琉球国王尚家関係資料」を含む、琉球に関した文化財が一堂に公開される貴重な機会でした。染色、工芸のみならず、あまり紹介されて来なかった琉球絵画にも魅惑的な作品が少なくなく、琉球に花開いた芸術に目を奪われることしきりでした。しかしながら失われた美術品があまりにも多いことを知ると、改めて沖縄戦で被った甚大な被害が痛ましく思えてなりませんでした。

7.「ゴードン・マッタ=クラーク展」 東京国立近代美術館



1970年代にニューヨークで活動したゴードン・マッタ=クラークの、アジア初の大規模な回顧展でした。常に街へ出ては、切断や破壊などのパフォーマンスを繰り返したクラークは、時に滑稽ながら、社会に立ち向かうかのようにチャレンジングで、不思議な共感を覚えました。中でも木っ端微塵に車がスクラップされる「フレッシュキル」が妙に面白く、思わず手に汗を握って見入りました。「プレイグラウンド」をコンセプトとした会場構成も効果的でした。

8.「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」 町田市立国際版画美術館



全く見知らぬ版画家ながらも、気がつけば大きく惹かれるものを感じた展覧会でした。世界を旅しては風景を描き続けたシュマイサーの作品は、どこか抽象性を帯びつつ、幻視的でもあり、その変化する作風を追っていくと、シュマイサーと一緒に各地を旅しているかのようでした。

9.「小村雪岱ー「雪岱調」のできるまで」 川越市立美術館



かつて「小村雪岱とその時代展」(2010年。埼玉県立近代美術館。)で出会った雪岱の久しぶりの回顧展でした。主に挿絵の仕事に注目し、雪岱の画風を確立していくプロセスを見る内容で、出展数も資料を含めて190点と不足はありませんでした。近年、発見された「おせん」の挿絵原画も展示されるなど、直近の研究成果も交えていて、雪岱の魅力を改めて再確認することが出来ました。

10.「縄文―1万年の美の鼓動」 東京国立博物館・平成館



縄文時代の全6件の国宝をはじめとした、200件もの縄文関連の文物が並ぶ光景は、まさに圧巻の一言でした。土器の用途にも目を向けつつ、草創期、早期、前期、中期、後期、晩期と時代で変遷する造形の「美」を追っていて、縄文の多面的な世界を知ることが出来ました。ラストの岡本太郎へと繋げる展開も、目線が変わって面白かったのではないかと思います。*なお本展の感想はWebメディアの「楽活」にまとめました。

次点.「内藤礼―明るい地上には あなたの姿が見える」 水戸芸術館

またベスト10以外で特に印象に残った展覧会は以下の通りです。(順不同)

「吉村芳生 超絶技巧を超えて」 東京ステーションギャラリー
「フィリップス・コレクション展」 三菱一号館美術館
「エミール・ガレ 自然の蒐集」 ポーラ美術館
「木島櫻谷 PartⅠ 近代動物画の冒険/PartⅡ 四季連作屏風+近代花鳥図屏風尽し」 泉屋博古館分館
「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building」 東京オペラシティアートギャラリー
「石井林響展-千葉に出づる風雲児」 千葉市美術館
「さわひらき 潜像の語り手」 KAAT神奈川芸術劇場
「ブルーノ・ムナーリ―役に立たない機械をつくった男」 世田谷美術館
「大千住 美の系譜―酒井抱一から岡倉天心まで」 足立区立郷土博物館
「村上友晴展―ひかり、降りそそぐ」 目黒区美術館
「中国近代絵画の巨匠 斉白石」 東京国立博物館・東洋館
「生誕110年 東山魁夷展」 国立新美術館
「駒井哲郎―煌めく紙上の宇宙」 横浜美術館
「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」 東京国立博物館・平成館
「横山華山」 東京ステーションギャラリー
「原安三郎コレクション 小原古邨展」 茅ヶ崎市美術館
「リー・キット 僕らはもっと繊細だった。」 原美術館
「狩野芳崖と四天王」 泉屋博古館分館
「フェルメール展」 上野の森美術館
「1968年 激動の時代の芸術」 千葉市美術館
「世界を変えた書物展」 上野の森美術館
「ミラクル エッシャー展」 上野の森美術館
「没後50年 河井寬次郎展」 パナソニック汐留ミュージアム
「ブラジル先住民の椅子 野生動物と想像力」 東京都庭園美術館
「木版画の神様 平塚運一展」 千葉市美術館
「小瀬村真美:幻画~像(イメージ)の表皮」 原美術館
「BENTO おべんとう展―食べる・集う・つながるデザイン」 東京都美術館
「ビーマイベイビー 信藤三雄レトロスペクティブ」 世田谷文学館
「モネ それからの100年」 横浜美術館
「ミケランジェロと理想の身体」 国立西洋美術館
「線の造形、線の空間」 菊池寛実記念智美術館
「岡本神草の時代展」 千葉市美術館
「長谷川利行展 七色の東京」 府中市美術館
「特別展 琳派 俵屋宗達から田中一光へ」 山種美術館
「人間・高山辰雄展―森羅万象への道」 世田谷美術館
「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」 森美術館
「大名茶人・松平不昧」 三井記念美術館
「名作誕生ーつながる日本美術」 東京国立博物館
「つなぐ、神奈川県博―Collection to Connection」 神奈川県立歴史博物館
「五木田智央 PEEKABOO」 東京オペラシティアートギャラリー
「プーシキン美術館展ー旅するフランス風景画」 東京都美術館
「百花繚乱列島-江戸諸国絵師めぐり」 千葉市美術館
「東京⇆沖縄 池袋モンパルナスとニシムイ美術村」 板橋区立美術館
「ビュールレ・コレクション」 国立新美術館
「写真都市展ーウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち」 21_21 DESIGN SIGHT
「プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」 国立西洋美術館
「寛永の雅」 サントリー美術館
「会田誠『GROUND NO PLAN』展」 青山クリスタルビル
「いのちの交歓」 國學院大學博物館
「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」 東京都美術館
「仁和寺と御室派のみほとけ」 東京国立博物館
「小沢剛 不完全-パラレルな美術史」 千葉市美術館
「南方熊楠ー100年早かった智の人」 国立科学博物館
「石内都 肌理と写真」 横浜美術館
「毛利悠子 グレイ スカイズ」 藤沢市アートスペース

いつものごとく、絞りきれずに、多くの展覧会をあげてしまいましたが、今年は、これまで私の知らなかった芸術家の回顧展が特に印象に残りました。

例えば府中市美術館の「長谷川利行展 七色の東京」では、長谷川の壮絶な画業を知るとともに、走馬灯のように巡る風景画などに魅せられました。また「石井林響展-千葉に出づる風雲児」(千葉市美術館)でも、歴史画、風景画、文人画と作風を変えて制作を続けた、千葉の絵師、林響の全体像を知る良い機会となりました。

「横山華山」(東京ステーションギャラリー)や「原安三郎コレクション 小原古邨展」(茅ヶ崎市美術館)、それに「木版画の神様 平塚運一展」(千葉市美術館)についても、いずれも殆ど初めて見知り、惹かれた絵師と呼んでも差し支えありません。中でも小原古邨展は、口コミで話題を集めたのか、会期後半には大勢の人が詰めかけ、大変な盛況となりました。そして小原古邨は、来年にも太田記念美術館で回顧展(2月1日~3月24日)が予定されています。茅ヶ崎とは出品内容が異なるだけに、また大いに楽しめそうです。

東京では33年ぶりの大規模な展覧会となった「線の造形、線の空間」(菊池寛実記念智美術館)も、私にとって新たな竹工芸なる芸術との出会いとなりました。そこで取り上げられた飯塚小玕齋は、来年2月より太田市美術館で「生誕100年 飯塚小玕齋展―絵画から竹工芸の道へ」(2月2日~4月7日)と題した展覧会もはじまります。あわせて見に行くつもりです。

日本美術では東京国立博物館の仏像関連の展覧会が充実していました。「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」では、快慶のリアリティーのある「十大弟子立像」に驚かされ、「仁和寺と御室派のみほとけ」では、葛井寺「千手観音菩薩坐像」の佇まいに惹かれるとともに、観音堂の33体の再現展示に圧倒されました。

西洋美術にも充実した展覧会が目立ちました。そのうち、ともに個人のコレクションによって形成された「フィリップス・コレクション展」(三菱一号館美術館)と「ビュールレ・コレクション」(国立新美術館)では、想像を超えるほどに魅惑的作品ばかりで感心させられました。また「フィリップス・コレクション展」では、作品の成立年代や画家別ではなく、コレクターのダンカン・フィリップスが収集した年代の順に並べた構成も良かったと思います。

現代美術では、ベスト10の次点にあげた「内藤礼―明るい地上には あなたの姿が見える」(水戸芸術館)をはじめ、「リー・キット 僕らはもっと繊細だった。」(原美術館)も強く印象に残りました。ともに美術館の空間そのものを作品に取り込んでいて、見るというよりも、場所を体感、ないし共有する喜びのような感情が湧き上がる展覧会でした。また過去から現在の作品を、あたかも1つの物語に紡ぐかのように展開していた「さわひらき 潜像の語り手」(KAAT神奈川芸術劇場)と、都市の抱える諸問題を抉りつつも、いつもながらに刺激のある展示を繰り広げていた「会田誠『GROUND NO PLAN』展」(青山クリスタルビル)も面白く見られました。

改修を終え、再開館した神奈川県立歴史博物館の「つなぐ、神奈川県博―Collection to Connection」も大変に興味深い展示でした。「つなぐ」をテーマに、神奈川県博の歴史を踏まえながら、コレクションを多面的に見せる構成が優れていて、学芸員の方のメッセージも強く伝わってきました。コレクションをどう見せるのかについて、1つのあり方を示した展覧会ではなかったと思います。

今年は特に後半、色々と手が回らずに、ブログの更新が滞ってしまいました。展覧会を見た回数は、例年とほぼ同じだったものの、感想をアウトプットせずに、そのままにしてしまうことも少なからずありました。また遠征も殆ど出来ませんでした。

皆さんは今年一年、どのような美術や展覧会との出会いがありましたでしょうか。このエントリをもちまして、年内の更新を終わります。今年も「はろるど」とお付き合いくださりどうもありがとうございました。それではどうぞ良いお年をお迎え下さい。

*過去の展覧会ベスト10
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