「C-DEPOT 2006 ナチュラル」 横浜赤レンガ倉庫1号館 7/29

横浜赤レンガ倉庫1号館横浜市中区新港1-1-1
「EXHIBITION C-DEPOT 2006 ナチュラル」
7/25-30(会期終了)



ジャンルにとらわれない若手アーティストの緩やかなグループ「C-DEPOT」。その日頃の活動の成果を発表する場でもある展覧会が、先日、横浜の赤レンガ倉庫で開催されました。「ナチュラル」のテーマの元に、日本画からインスタレーション、それにビデオ・アートまで、多様な作品が一堂に介します。これまでに画廊などで拝見したことがある作品も展示されていると言うことで、それに再会出来た喜びを含め、とても楽しめた展覧会でした。

   

来場者をまず出迎えてくれたのは、天野由美子による針金や金属網などで出来たペンギンの群れです。高さ30センチほどのペンギンたちが、わさわさと体を揺らすかのように歩く構図が捉えられています。その数10体以上。思わず彼らの目線へ体を落として覗き込みたくなる可愛らしい作品です。その他、銀杏が降り注ぐ大地の様子を美しく描いた野地美樹子の日本画や、ミクストメディアで沢ガニや蝸牛などを味わい深く表現した天野由美子などにも惹かれました。

一番奥の暗がりの展示室で人気があったのは、以前に和田画廊で個展を拝見した鈴木太朗の「大気のかたち」です。例のプロペラが、近づくとまるで木の葉が風に舞い上がるかのように突如上昇する大きな作品。アーチ状になっているので、そのプロペラたちに囲まれながらくぐり抜けることも出来ます。それにしてもこの作品は来場者の反応がとても興味深い。おっかなびっくり作品へ近づいて、プロペラがバサバサと上昇すると思わず後ずさりしてしまう方、またはそれを何度も繰り返し、やがて思い切ったように作品をくぐり抜ける方、ともかくトンボ型のプロペラを前に、皆、思い思いの反応を示しています。(そう言えば私もこの作品を初めて見た時、いきなりプロペラが上昇してとても驚きました。)また反応と言えば、八木澤優記によるカラフルな椅子の作品も同様です。アクリル箱の上にポリウレタン製のクッションを被せた4つの小さな椅子。初めは青白い光を放っていますが、その上に誰かが座ると一つずつ色が変わっていく。もちろん色は座る位置によって変化します。赤、黄、そして青。どれもがその光りを仄かに発しながら展示室を美しく彩っていました。またこの部屋では、青木伸介による質感の高い漆塗りの器も見事でした。その素材を見るとさらに驚きが待っています。

赤レンガ倉庫の二階と言うことで、観光や買い物のついでにぶらり立ち寄られた方も多かったのではないでしょうか。難しいことを抜きに素直に楽しんでいらっしゃる光景が見受けられました。このような間口の広いアートのイベントは大歓迎です。これからも見続けていきたいと思います。(場所は最高!もう少し会期が長ければ…。)
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「吉原治良展」 東京国立近代美術館 7/22

東京国立近代美術館(千代田区北の丸公園3-1
「生誕100年記念 吉原治良展」
6/13-7/30



巨大な「円」の作品でも有名な具体派の画家、吉原治良(1905-1972)の大回顧展です。「円」だけではない吉原の画業を約190点の作品で概観します。「魚の画家」からアンフォルメル、そして「円」へ。その道筋が丁寧に示される展覧会でした。



私も吉原には「円」のイメージしかなかったので、彼があれほど多様な画風を見せていたことにまず驚かされます。初期の静物画における魚の存在感。窓辺に魚を置いた「燈台の見える窓辺の静物」(1928)や、水槽の中の魚を描いた「水族館」(1928)からは、その特異な、まるで干物のような魚の表現に目を奪われました。とても生気を欠いた魚たちの表情。同じく魚を描いた作品でも、水彩にて美しく表現した「スイゾクカン」シリーズとは対照的です。こちらは吉原の手がけた唯一の絵本と言うことですが、私には油彩の魚よりも魅力的に見えました。

「他人の影響があり過ぎる。」という藤田嗣治の言葉によって前衛画家への道を歩み始めた吉原は、早くも1930年代の頃から抽象画を描き始めます。この時期の作品では「窓」と呼ばれる作品と、いくつかのコラージュに惹かれました。また、この後にも見られる鮮やかなブルーの感触は、初期の静物画などでも出てきた色遣いに通じます。ただ、このような繊細な色の妙味は、晩年の「円」などでは殆ど見られません。彼のアンフォルメル期以前の色に少し惹かれていたので、この変化は少し残念にも思いました。



最後の「円」の印象が強烈だからでしょうか。吉原が具体へと進んでいく過程の作品には心に残るものがあまりありませんでした。もしかしたら私はいわゆる具体派を苦手としているか、もしくは見慣れていないだけなのかもしれません。一連の作品からは、彼が「具体」へどう取り組んでいき、さらにはどう表現するかという格闘の熱い痕跡こそ見られますが、結果として生まれた作品に惹かれるものが少ないのです。その意味で、最後の「円」は特別なモニュメントになっているのかと思います。あたかも具体を通り越して生まれたような「円」の美感は、ちょうどもの派を通り越して創作を続ける李禹煥の生み出したそれと似ている。新たな表現への格闘の道筋をなるべく消し去り、その場にどっしりと構える「円」の静けさ。そこでは、創作の緊張感よりも作品の静謐感が勝っています。ここに、アンフォルメル期以降にて初めて大きく感じられた吉原の魅力がありました。

具体派は関西主導の芸術運動だったということで、このリーダー格であった吉原の大回顧展は関東では初めてのことなのだそうです。今月30日までの開催です。
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2006年下半期 私の気になる美術展

美術情報誌「美術の窓」8月号に、今年下半期に予定されている展覧会のリストが掲載されていました。その中からいくつか気になる展覧会をここに挙げてみます。



現代美術

「作家たちの贈り物」 神奈川県立美術館葉山 8/12-10/9
「プリズム:オーストラリア現代美術展」 ブリヂストン美術館 10/7-12/3
「大竹伸朗 全景 1955-2006」 東京都現代美術館 10/14-12/24
「ビル・ヴィオラ:はつゆめ」 森美術館 10/14-07/1/8 (07年に兵庫県立美術館へ巡回)

日本美術

「浅井忠と関西美術院展」 府中市美術館 8/26-10/9 (京都市美術館10/17-12/3)
「国宝 風鈴雷神図屏風 - 宗達・光琳・抱一 琳派芸術の継承と伝統」 出光美術館 9/9-10/1
「国宝 伴大納言絵巻展」 出光美術館 10/7-11/5

西洋美術

「ルソーの見た夢、ルソーに見る夢」 世田谷美術館 10/7-12/10 (愛知県美術館10/20-07/2/12 07年に島根県立美術館へ巡回)
「生誕100年記念 ダリ回顧展」 上野の森美術館 9/23-07/1/4
「ベルギー王立美術館展」 国立西洋美術館 9/12-12/10 (07年に長崎県美術館と国立国際美術館へ巡回)
「スーパーエッシャー展」 Bunkamura ザ・ミュージアム 11/11-07/1/13

まずはやはりダリとルソーの両展覧会に注目したいところです。ダリは横浜美術館の常設展で、またルソーは世田谷美術館などで作品を見て惹かれていたので、これを機会にまとめて鑑賞出来るのはとても楽しみです。またまとめて見ると言えば、文化村でのエッシャー展も同様です。こちらはまだ作品へ惹かれるまでには至っていないのですが、たくさん拝見することで印象が変わるかもしれません。

MOTでの大竹伸朗と、森美術館で予定されているビル・ヴィオラ(ビデオ・アートで有名)の展覧会も楽しみです。また、神奈川県立美術館の葉山館にて開催される「作家たちの贈り物」は、1960年代以降の日本美術の展開を追う内容だそうで、幅10メートルにも及ぶ李禹煥の大作などが出品されるとのことです。そう言えば、私が初めて李の作品に惹かれたのもこの葉山での出来事でした。ここへはもう久しく行っていません。三浦半島の散策でも兼ねながら足を伸ばしてみようかと思います。

日本美術では、開館40周年を記念してお宝大公開中(?!)の出光美術館の展覧会に注目です。建仁寺所蔵の、誰もが知るあの宗達の「風塵雷神図屏風」と、光琳、抱一の手がけた同名の作品が一堂に会するという大企画。この3点がまとめて公開されるのは66年ぶりのことだそうです。少し会期が短いのが難点ではありますが、連日無休、19時までの開館です。これは絶対に行かなくてはなりません。もちろん、前回の展覧会で少しだけ見せてくれた「伴大納言絵巻」が全公開される企画も楽しみにしたいと思います。

その他、話題になりそうな展覧会を少し挙げてみました。

「大エルミタージュ美術館展」 東京都美術館 10/19-12/24 (07年に名古屋市美術館と京都市美術館へ巡回) 15世紀ヴェネツィア派からモネ、ピカソまで。
「モダン・パラダイス展」 東京国立近代美術館 8/15-10/15 大原美術館と東京国立近代美術館の名品約100点が集う贅沢な展覧会。
「NHK日曜美術館30周年展」 東京藝術大学大学美術館 9/9-10/15 (これ以降、京都、広島などへ巡回) NHKの「日曜美術館」で紹介した名品を展示。
「浦上玉堂展」 千葉市美術館 11/3-12/3 (岡山県立美術館より巡回) 関東では35年ぶりとなるという浦上玉堂の回顧展。
「伊東豊雄 建築 - 新しいリアル」 東京オペラシティアートギャラリー 10/7-12/24 建築家伊東豊雄の展覧会。

こんなところでしょうか。

この他に、何か皆さんオススメの展覧会があればご教示して下さると嬉しいです。展覧会の詳細な情報等は「美術の窓」8月号をご確認下さい。

*関連エントリ
2006年上半期 私の気になる美術展
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「持続/切断」(小企画展) 東京国立近代美術館 7/22

東京国立近代美術館千代田区北の丸公園3-1
「持続/切断 - 毛利武士郎・村岡三郎・草間彌生・河原温」(常設展示ギャラリー4・小企画展)
5/30-7/30

東京国立近代美術館の小企画展は、いつも常設展の一角でひっそりと行われていますが、なかなか見逃せない作品が展示されています。今回のタイトルは「持続/切断」。何やら良く分からないネーミングですが、要は、村岡三郎(1928-)、草間彌生(1929-)、河原温(1933-)らの初期作(50年代)と近作(80-90年代)が合わせて並べられた展覧会でした。

 

村岡三郎は、先日、初台のギャラリーでも個展を拝見したところですが、今回もどこか痛々しく見えるオブジェが展示されていました。クシャッと折れ曲がった酸素ボンベや、ノコギリの歯のように尖った鉄の彫刻。ともにその素材の質感が無味乾燥に、そして何ら飾り立てないで迫ってくる。またトマソンのように佇んで見える点も特徴的です。かつては何らかの道具として使われていた。何やら廃墟中から掘り起こしてきたようなオブジェです。

 

初めに展示されている毛利武士郎の立体も印象的です。キャリア初期に手がけた「作品」(1956)と、近作の「彼の/地球への/置手紙 その1」(1998)。その不可解な名前はさて置いても、絡み合う人間のようなブロンズの力感と、その一方でのステンレスの冷たく静謐な質感に惹かれる作品です。ちなみにこの制作年代の時間差が、展示テーマの「持続/切断」の意味を示しているようです。一人の作家が長い過程を経てどのような境地へたどり着いたのか。そこに持続性と、その一方での切断、要は繋がりのなさを見る。こういう切り口も面白いかと思います。

 

とんでもなく閉塞的な空間を生み出した、草間彌生の「残骸のアキュミレイション」(1950)は強烈です。幾重にもねじれたその空間が、襞状になって狭いトンネルを作り出す。先に見える明るい出口には木が二本。微かに確認出来るほど弱々しく立っていました。そしてその一方での「天上よりの啓示」(1989)。こちらは空間が平面的に広がって、限りなくドットが拡散しています。前者がそのトンネルに閉じ込められそうだとすれば、後者はそのドットに浸食されてしまうような気配を感じます。そしてこの生々しさ。草間のドットを見ると思わず鳥肌が立ってしまいます。

思弁的な解説が書かれたパンフレットによらずとも、見て、感じて楽しめるような企画かと思いました。(どれも意外と感覚的です。)今月30日までの開催です。
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東京メトロ一日乗車券で美術館巡り

都内へは大概メトロ(東京地下鉄)を使って出るので、美術館を廻る際には一日乗車券を買ってしまうことが多いのですが、その乗車券に、美術館・博物館の割引特典がついています。今更ながら、先日使用した際に初めて知りました。



メトロの回し者のようなエントリになってしまいそうですが、一日乗車券は710円で東京メトロ全線が乗り放題になるフリーパスです。メトロの初乗りは160円。単純計算でも5回乗り降りすれば元が取れます。また、東京都心部はJR線よりもメトロの方がフットワークが良く、土・日ともなればメトロの方が空いていて楽に移動出来ます。と言うことで、これをメインで使って美術館などを2、3カ所廻れば損はしないでしょう。ちなみに私が先日このパスで都心の美術館などを廻った時も、竹橋や六本木、それに京橋などへ向かい、計5、6回乗り降り(自宅からの行き来を含む。)しましたが、その都度切符を購入していたのでは710円を超えてしまいます。また、一度前もって支払う形となるので、運賃を気にすることなく移動出来るのもメリットです。



以下、一日乗車券で割引となる美術館もしくは博物館です。パンフレットから抜き出してみました。

太田記念美術館(千代田線明治神宮前駅) 入館料100円引き
明治神宮外苑聖徳記念絵画館(銀座線外苑前駅) 入館料100円引き
松下電工汐留ミュージアム(銀座線新橋駅) 入館料100円引き
山種美術館(半蔵門線半蔵門駅) 入館料100円引き
東京国立近代美術館(東西線竹橋駅) 常設展80円引き(工芸館40円引き)/企画展は別途割引(50円から100円程度。)
損保ジャパン東郷青児美術館(丸ノ内線新宿駅) 入館料100円引き
東京都写真美術館(日比谷線恵比寿駅) 併設カフェにてチョコ1個サービス
東京都庭園美術館(南北線白金台駅) 入館料2割引
相田みつを美術館(有楽町線有楽町駅) 入館料200円引き
出光美術館(有楽町線有楽町駅) 入館料200円引き
東京都現代美術館(半蔵門線清澄白河駅) 常設展100円引き/企画展は別途割引(50円程度。)
三井記念美術館(銀座線三越前駅) 入館料100円引き
ブリヂストン美術館(銀座線京橋駅) 入館料100円引き
東京国立博物館(銀座線上野駅) 入館料100円引き
国立科学博物館(銀座線上野駅) 入館料100円引き/ミュージアムショップ10%割引(一部対象外)
国立西洋美術館(銀座線上野駅) 常設展80円引き
弥生美術館・竹久夢二美術館(千代田線根津駅) 入館料100円引き
森美術館(日比谷線六本木駅) 入場料200円引き

こうして挙げてみると、意外にもかなりの数の施設が割引の対象になることが分かります。残念ながら、割引金額が総じて50円から200円程度とあまり期待出来ませんが、それでも全く引かれないよりははるかにお得です。ただ、不思議とメトロではこの特典をあまり宣伝していません。一日乗車券を持っていても、割引になることを知らずに入場してしまう方が多いと思います。その他、丸ビルやオアゾ、コレド日本橋やカレッタ汐留などの飲食店での特典、または六義園や浜離宮などの入場料の割引きなどもありました。詳しくは「ちか旅」公式サイトをご参照下さい。対象施設は全44件だそうです。

*関連リンク
東京メトロ
レッツエンジョイ東京「ちか旅」(特典割引施設一覧)

都心が対象のフリーパスとしては、その他にもメトロ、都営(都バス・都電)、JR線が利用出来る「東京フリーきっぷ」(1580円)や、メトロと都営が使える「東京メトロ・都営地下鉄一日乗車券」(1000円)などがあります。こちらはやや値段が高いのと、私があまり都営を利用しないので買ったことがないのですが、そちらにも特典があるやもしれません。また調べてみたいと思います。

*関連エントリ
都電・都バス・都営地下鉄一日乗車券の美術館割引
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「国宝『随身庭騎絵巻』と男の美術」 大倉集古館 7/22

大倉集古館(港区虎ノ門2-10-3 ホテルオークラ本館正面玄関前)
「国宝『随身庭騎絵巻』と男の美術」
6/3-7/30

いつもさり気なくお宝を見せてくれる大倉集古館の展覧会ですが、今回もまたいくつかの見応えある作品が展示されていました。テーマは「男」(をとこ)。日本美術に登場する「男の中の男」をキーワードに、この美術館の所蔵する「随身庭騎絵巻」(鎌倉時代)や抱一の「五節句図」(1827)などが公開されています。



「貴族が外出する際に警護にあたった」(公式サイトより。)という随身(ずいじん)の描かれた「随身庭騎絵巻」。荒々しい馬に跨がる汗臭い男たちの描かれた作品です。ただし汗臭いと言っても、美男子と教養人が求められたこの官職の性質なのか、皆どこか気位の高さを思わせる雰囲気を漂わせています。ちなみにこの作品は一部分だけの公開ですが、会期末(29、30日)には全場面が展示されるそうです。実は私は、今ひとつこの作品の良さが分からなかったのですが、貴重な品ということなので、再度また全てに目を通して見たいとも思いました。

   

さて、この展覧会で一番惹かれたのは酒井抱一の「五節句図」です。こちらは、宮中におけるいわゆる節句の行事(宮廷節会)をモチーフとしたもので、正月から9月まである5つの節句の場面が、抱一らしい精緻なタッチで鮮やかに描かれています。展示されているのは、その5つの節句のうち、男が登場する4つの場面です。それぞれ、元日の「小朝拝」、3月の「曲水宴」、5月の「菖蒲臺」、9月の「重陽宴」(画像上左から)が並んでいました。この中では特に、盃を優雅に川へ流して歌を詠む「曲水宴」と、大きな花瓶に見事な菊が生けられた「重陽宴」が魅力的です。こちらの男たちは、先ほどの随身とは異なりむしろなよなよとしている。「重陽宴」にて扇子を広げている貴族は、実にのんびりとした様で座っていました。逞しい随身たちか、それともこの優雅な貴族たちの世界か。さてどちらをとりましょう。



「男」とどう関係があるのかは分かりませんが、思いがけない作品が一つ展示されていました。それがこの伊藤若冲の「乗腰舟」(1767)です。拓版画という独特の技術によって刷られたモノクロ版画による水辺風景。淀川を舟で下る様子が表現されています。黒く広がる淀川と、その川岸で点々と連なる家々や林。左手には大きな橋が架かっていました。(残念ながら作品の一部だけの公開です。)ただ、一見しただけでは若冲とは分かりません。また合作でもあるとのことです。それにしてもまさかこの展覧会で若冲に会えるとは思いませんでした。若冲の拓版画は他にもたくさん知られていますが、今、東京ですぐ見られるのはこの作品だけではないでしょうか。これはラッキーでした。

その威容にいつも驚かされる常設の「普賢菩薩騎象像」(平安時代)も、この男たちに囲まれるとまた改めて存在感が増してきます。次の日曜、30日までの開催です。
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ネットラジオで聴くバイロイトとザルツブルク音楽祭 2006

いよいよ明後日からバイロイト音楽祭が始まりますが、今年も昨年に引き続きインターネットラジオの生放送があるようです。一部タイムシフトの中継があるとのことですが、音質良好なBartokRadioでまた楽しみたいと思います。

 

昨年ダウンロードしたバイロイト音楽祭の録音もまだ全てしっかりと耳を通せていません。と言うことで、今年も全部聴けるかどうか分からないのですが、やはりティーレマンの「リング」に一番注目してみたいと思います。私としては今ひとつ良く分からない指揮者の一人なのですが、ここはじっくりと聴いてみるつもりです。

ちなみにインターネットラジオでは、メモリアルイヤーで盛り上がりそうなザルツブルク音楽祭も楽しむことが出来ます。ここで指揮するのが今回で最後ともいうアーノンクールの「フィガロ」で開幕し、その後は初期のオペラまで網羅したスケジュールが怒濤のように続くようです。こちらもBartokRadioが公演のほぼ全てをカバーしています。読響でもお馴染みのホーネックの「コジ」や、強烈なテンポ感を楽しませてくれそうなハーディングの「ドン・ジョバンニ」、さらには秋に来日もあるノリントンの「イドメネオ」から、ミンコフスキの「ポントの王ミドリダーテ」、そして大御所ムーティの「魔笛」など、さすがに聞き所も満載です。これは前もってハードディスクの整理(?)をして、余裕をもって備えておかなくてはなりません。

ネットラジオの放送スケジュール等については、ブログ「オペラキャスト」様の情報がいつもながら群を抜いています。詳細はそちらをご参照下さい。
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「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第4期」 三の丸尚蔵館 7/16

宮内庁三の丸尚蔵館千代田区千代田1-1 皇居東御苑内 大手門側)
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第4期」
7/8-8/6

第3期では伝銭選の「百鳥図」の鳳凰がとても印象的でしたが、第4期ではいよいよ若冲の鳳凰がお目見えです。早速、その「旭日鳳凰図」から感想を書きたいと思います。



ともかくド派手な鳳凰でした。まず初めに、尾を優雅に靡かせて陽を仰ぐ右の鳳凰に目がいきますが、その左にはもう一羽の鳳凰がすました顔で座っています。雲の隙間からのぞく真っ赤な陽と、生い茂る竹の葉、そして飛沫を上げる白波。大きな岩を足場とする二羽の鳳凰がその威容を誇っている。華麗です。

それにしてもこの作品は、若冲ならではとも言える非常に精緻な筆遣いが冴えまくっています。右手の鳳凰は、首に青い羽を纏いながら、輝くような白い羽を大きく広げ、さらには赤と青の尾を靡かせている。対する左手の鳳凰は、首に緑の羽を生やしていました。そして尾は、緑と赤の鮮やかな配色。まるで白波のようにうねる鶏冠の色も双方で異なっています。(ピンクと赤。)これは見事です。

独特の水玉模様はこの作品でも健在でした。左の鳳凰に見える白地に緑の水玉はもとより、右の鳳凰の白い羽に描かれた、まるで宝石を散りばめたような白いドット模様。それらが電飾のようにキラキラと光り輝いています。迷いのない線による波の描写から、枯れた部分までしっかりと神経が行き届いている竹の葉、そしてこれらの鳳凰の描写。今まで見てきた若冲の作品の中でも特に優れた作品に見えました。



また鳳凰と言えば、動植綵絵の「老松白鳳図」(作品番号2-25)も見逃せません。こちらの鳳凰は、レースのように透き通り、また黄金色にも輝く羽を纏って、同じく陽を仰ぎながら片足で立っています。そして例の水玉模様。こちらもダイヤモンドのように光り輝いていました。それにしても尾のハートマークは奇抜です。尾がまるで生き物のようにうねうねと靡いている様も独特ですが、その先に描かれた赤や緑のハートマークが何とも強烈な印象を与えます。当然ながら今回展示されていた動植綵絵の中では最も目立つ作品です。鳳凰を見つめる小禽もまた可愛気でした。

  

さて、酒井抱一のファン(?)としては見逃せない作品も展示されています。それが、四季折々の美しい花や鳥の様子を描いた「花鳥十二ヶ月図」(1823)です。この手の画題を描かせたら抱一の右に出るものはいない。そう言ってしまいたいくらいに素晴らしい作品です。簡潔でシャープな線と、控えめなたらし込みによる朧げな面。伸びやかでありながら、それでいて隙のない構図感。ともかく無駄がありません。余白までが完全に画面へおさまりきっていました。ちなみに今、東京国立博物館で開催中の「若冲と江戸絵画」展にも、抱一の同系統の作品が展示されていますが、それと見比べて見るのもまた一興かと思います。ちなみに私は、この尚蔵館の作品へ軍配を挙げたいです。特に、1、10、11月の味わいはたまりません。(上の3点です。)如何でしょうか。

それでは、以下、いつもの通り、「老松白鳳図」を除く若冲の動植綵絵について感想を書いていきます。


「向日葵雄鶏図」(作品番号2-5)

立派な尾を靡かせる雄鶏。白と黒のツートンカラーが光っています。そしてバックの向日葵と朝顔。向日葵の花があちこちに向いているのと、黄色い花びらがてんでんばらばらに好き勝手な方向へ広がっているのがとても奇妙でした。それにしてもこの向日葵と朝顔は相思相愛です。知恵の輪以上の複雑さにて、これでもかと言うほどに絡み合っています。藍色の交じる朝顔の花びらが一際映えて見えました。


「大鶏雌雄図」(作品番号2-7)

まるで真っ黒なスーツに身を纏っているかのようなカッコ良い雌鶏の姿。華やかさこそカラフルな雄鶏にかないませんが、その引き締まった体つきは実にシャープです。私が主役だと言わんばかりに堂々と立っています。そして雌鶏の羽の描写が大変に精巧です。一枚一枚、黒色のみで、その立体感とボリュームを器用に表現しています。


「群鶏図」(作品番号2-20)

数えてみると13羽の雄鶏が描かれていました。同じものが一つとしてない羽の見本市。そして殆どぐちゃぐちゃになって入り乱れた鶏のオンパレード。それぞれが何をしているのか、またどの鶏がどういう格好をしているのかと考えさせる前に、取りあえずその数の多さに驚かされる作品です。圧倒されると言うよりも、ただ唖然とするしかありません。


「池辺群虫図」(作品番号2-23)

これほどガラスケースが邪魔に思えた作品もありませんでした。ともかく手元に引き寄せて、上から下まで虫眼鏡をくまなくかざして見たいと思うほどです。まず一番目を引いたのは、中央の池にて皆同じ方向を向いている7匹の蛙でした。何を拝んでいるのか、彼らの目線の先に一体何が有るのか、ほぼ同じ格好をして座っています。そして、そんな彼らを監督するかのように構えていたのは、左下でドーンと鎮座する一匹の大きな蛙。険しい目つきでこの池全体を眺めています。そして水の中でうごめく無数のオタマジャクシ。この親玉蛙の足軽兵のように群がって行進していました。とんでもなく凄い数です。

 

 

蛙の次に気になったのは、画面右手で白い腹を見せながらとぐろを巻く一匹の蛇でした。ちなみにこのとぐろを描く曲線は、蛇だけでなく、その他にも植物のツルなどの表現で使われています。左側から右上方向へ伸び、そしてクルクルと回転しながら降りていくツルの様子。まるでツルが道路のように伸びて、ちょうど昆虫たちが連なる車のようにその上を移動している。その他、毛虫やトカゲ、またはゲジゲジなど、気味の悪い虫たちも随所に隠れています。ツルにぶら下がって揺れるトンボや、葉っぱを丸くかじっておさまっている毛虫(ジェットコースターの一回転宙返り!)、それに「イエーイ!」(?)のポーズをとるキリギリスなど、見れば見るほど出てくる、まるで遊園地で遊ぶ子ども気取りの虫たち。計何匹、ここで好き勝手やっているのでしょうか。もうキリがありません。


「貝甲図」(作品番号2-24)

たくさんの貝が水辺に並ぶ様子が描かれた作品です。残念ながら貝についての知識が全くないもので、これらの貝が何と言う名前なのかがさっぱり分かりませんが、これで貝合せをしたらさぞかし盛り上がるのではないでしょうか。水の青みがとても良く映えていました。

いつも何かと騒がしい尚蔵館も心なしか落ち着いてきたように思いました。この第4期は8月6日まで、次回、早くも最後となる第5期は8月12日からの開催です。

*関連エントリ
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に>」 三の丸尚蔵館 第1期(4/9)第2期(5/22)第3期(6/18)第5期(8/27)
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「コーカサスの虜」 ロシア・ソビエト映画祭2006 7/16

東京国立近代美術館フィルムセンター中央区京橋3-7-6
「コーカサスの虜」
(1995年/ロシア・カザフスタン/セルゲイ・ボドロフ監督)
ロシア・ソビエト映画祭2006(ロシア文化フェスティバル2006 IN JAPAN)



有楽町朝日ホールで「異国の肌」を見た後は、京橋の近代美術館フィルムセンターへ向かい、ロシア・ソビエト映画祭の「コーカサスの虜」を鑑賞しました。トルストイの小説を原作に、現代のチェチェン問題へ鋭く切り込んだ作品です。国家及び地域間の戦争や対立というシステムの中へ投げ込まれた人間が、どのように生きざるを得ないのかということを、コーカサス地方の大自然を背景にして淡々と、しかし重い課題を投げつけながら描いています。佳作でした。

ロシア人とチェチェン人という対立項がなければ、そして彼らが戦争中でなければ、決してワーニャやサーシャらとチェチェンの村人たちはいがみ合うことがなかったのでしょう。もちろん、ワーニャらが捕虜にされている間も、ジーナはともかく、その父であり、またこの捕虜計画の立案者でもあるアブドゥルにも、ワーニャらに個人的な憎しみがあるわけではありません。あくまでも戦争といった、大きな対立の中に憎悪が生まれてしまう。アブドゥルが最後のシーンでワーニャにした行為は、まさに人が人として本来なし得る優しさの表れです。しかしまたそのすぐ後に訪れるロシア軍の無慈悲な行動は、逆に軍隊として、そして戦争として当たり前の行為に過ぎないのでしょう。それにしても惨たらしい。ここには、戦争を語る際のキーワードに有りがちな、善と悪や、勝者と敗者もありません。あるのは、ただこの対立の中で翻弄される、ごく普通の感情を持った人間たちだけでした。



ワーニャ役のセルゲイ・ボドロフ(監督の息子だそうです。)の素朴な心情表現はもとより、いかにも職業軍人風の雰囲気でありながら、随所に人としての温かみを見せるサーシャ役のメンシコフの演技はとても心に残りました。ワーニャとサーシャは、同じロシア軍に所属しながらもいがみ合っている。それが徐々に捕虜生活の中で生まれた連帯感によって結びつけられます。しかしそれもつかの間の出来事に過ぎなかった。結局、彼らは永遠の別れを告げることなります。サーシャの結末は実に悲しいものです。しかし彼はその後にもワーニャを導いていく。サーシャが、彼らを見張ったムラットを簡単に殺めてしまうのもまた戦争であり、その報いとして受けるサーシャの最期もまた戦争の一コマである。ハリウッドばりの金のかかった派手なアクションもなく、むしろロシア民謡にのった簡潔で素朴なシーンばかりが続きますが、それが余計に彼らを取り巻く巨大な戦争の恐ろしさを伝えてきます。

それにしてもこの戦争は複雑です。アブドゥルは捕虜交換のため、ロシア軍司令官へ直接交渉するのにも驚かされますが、なんとワーニャの母とも面会します。絡み合った糸のような彼らの関係。チェチェン問題を単純化出来ない要因が垣間見られるようでした。

「コーカサスの虜/オレグ・メンシコフ」

ポドロフ監督の、「戦争を始めることは簡単だが、終わらせることは難しい。人を愛することより、殺すことの方が簡単なのだ。」という言葉が非常に重みを持って響いてくる作品です。DVDでも発売されていますが、これは是非おすすめしたいと思います。
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「異国の肌」 ドイツ映画祭2006 7/16

有楽町朝日ホール(千代田区有楽町2-5-1 マリオン11階)
「異国の肌」
(2005年/ドイツ/アンジェリーナ・マッカローネ監督)
ドイツ映画祭2006



昨年も一作品鑑賞したドイツ映画祭ですが、今年もまた行ってみることにしました。拝見したのは、現代ドイツを取り巻く難民問題、または同性愛をテーマとした「異国の肌」。半ばエンドレスに続いていく、主人公ファリバの辛い生き様に考えさせられる作品です。

あらすじは映画祭の公式HPをどうぞ。

ともかくファリバは生き抜く為に様々な犯罪を侵し続けます。イランからドイツへと逃れるため、入管で出会った男性の死を利用し、自身も男装した上で成り済まして入国する彼女。男性の遺体は彼女が手厚く葬るとは言え、あれではまさしく死体遺棄罪です。そして何とか工場での働く口を見つけ、男性として毎日の生活を何とか営んでいく。もちろん自身の身分を明かすことは決してありません。男としての彼女に身を寄せられた同僚のアンネも、初めは全く真相が掴めなかったことでしょう。結果、素性がバレた後も、何とか強制送還を逃れるために再び犯罪へと手を染めることになる。この強烈な生への意思の前には、健全なモラルなど何も役に立つことがありません。ファリバはもう命がけなのです。



同性愛については、ファリバが男として生きることにより、その焦点がむしろぼやけてしまっているようにも感じました。イランでは許されることのない同性愛が、ドイツではどうなっていくのか。恋に落ちたアンネ以外とは結局分かり合えることなく、まさに裏切り者として扱われていく。最後、イランへ送還されるシーンでアンネは再び「転換」しました。彼女はイランで恋をすることが出来るのか。答えはこの映画では明かされません。男装したことで、女性として女性を愛することの意味が薄れてしまったかもしれない。初めから女性としてアンネへぶつかっていくファリバが見たかったとも思いました。

ファリバの意思は強く伝わってくるものの、アンネを初めとした他の登場人物にやや弱さがあったように感じます。アンネがどのようにファリバを受け入れていったのか。その辺をもっと丹念に描ければ、なお良い映画になると思いました。
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国立新美術館の開館記念展覧会

先日完成した東京・乃木坂の国立新美術館ですが、そのオープニングを飾る展覧会のパンフレットを見つけました。どうやら二本立ての企画のようです。

 
*クリックすると拡大します。

「20世紀の美術探検 - アーティストたちの3つの冒険物語」(仮称)
 2007/1/21-3/19
「異邦人たちのパリ1900-2005 『ポンピドー・センター所蔵作品展』」(仮称) 
 2007/2/7-5/7

展示スペースの規模から考えると、メインの展覧会は前者の「20世紀の美術冒険」です。日本国内の国立美術館所蔵作品と、国内外の主要美術館の作品が、ただ「20世紀」という大まかな括りの元で約500点集まるという壮大な展覧会。まだ名前が挙がっていませんが、「現代最先端の表現を追求する内外の重要作家7人が参加し、大規模な新作インスタレーションの発表」(公式HPより)するという企画も非常に楽しみです。

もう一方の展覧会は朝日新聞社の主催と言うことで、まさに「第二の都美としての国立美術館」を思わせるような内容になるかと思います。ちなみに、異邦人のパリと聞くと、すぐにピカソなどの活躍したエコール・ド・パリを思い起こしますが、この展覧会では、その時代から現代までにパリで活躍した、もしくは活躍中の外国人芸術家を紹介していくのだそうです。ピカソ、シャガール、モディリアーニ、ジャコメッティなどから、今もパリで制作するアフリカや中国人アーティスト(名前がまだ出ていませんが。)まで、こちらもポンピドー・センター所蔵の名に相応しいような錚々たる展覧会になることが予想されます。もちろん楽しみです。





ところで国立美術館では先日、シンボルともなるロゴマークも発表されていました。手がけられたのは、デザイナーとして大活躍中の佐藤可士和氏。auの「INFOBAR」やキリンビール「極生」などの商品デザイン、さらにはヴィッセル神戸のロゴマークなどを担当された方だそうです。一見、古風でありながらどこか斬新な漢字のロゴ。英文のロゴタイプもなかなかカッコ良い。如何でしょうか。

佐藤可士和氏の作品。(NTTドコモより。)N702iD(NEC)

「佐藤可士和の仕事と周辺」/佐藤可士和 (著)

そういえば徐々に体裁が整ってきた公式サイトに、美術館の基本情報として、開館時間や休館日などが告知されていました。これで目についたのは、休館日が火曜日だということです。大概の美術館は月曜日がお休みだと思うのですが、この火曜日というのには何か特別な意味合いでもあるのでしょうか。また夜間開館は、毎週金曜日のみ20時までです。(企画展・共催展に限る。通常は18時まで。)他の公立美術館の例を踏襲したのでしょうか。さすがに夜間開館のない都美よりはまともかと思いますが、随分と早く閉まるものです。



この2つの展覧会の詳細を含め、もう少し情報が欲しいところですが、まずは来年のオープンを心待ちにしたいと思います。
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「海に生きる・海を描く」 千葉市美術館 7/17

千葉市美術館千葉市中央区中央3-10-8
「海に生きる・海を描く - 応挙、北斎から杉本博司まで - 」
6/3-7/17(会期終了)

海の日にぴったりの展覧会です。会期最終日の駆け込みで見てきました。



出品作品数は約110点。全てこの美術館の所蔵品です。そして「応挙から杉本まで。」というサブタイトルにもあるように、江戸期の屏風画から関根伸夫や杉本博司までを幅広く楽しませてくれます。海にちなみながらも、特定のジャンルにとらわれない展示構成。コレクションを面白い切り口で見せる展示は、千葉市美術館の得意とするところでもあるようです。見事でした。





何度か前のコレクション展でも見た円山応挙(1733-1795)の「富士三保松原図」(1779)は久しぶりの再会です。スペースの関係か、ガラスケースの中で窮屈そうに折り畳まれていましたが、雄大な富士を背景にして、伸びやかに広がる駿河湾の光景が幻想的に表現されています。それにしてもこの十分な余白感。朧げに浮かび上がった松林の質感とともに、応挙ならではの空間構成がさすがの貫禄にて展開されていました。辺り一面に立ちこめる靄。見ているだけで包み込まれてしまいそうです。

この展覧会で一番惹かれたのは、10点ほど展示されていた川瀬巴水(1883-1957)の木版画でした。ともかく鮮やかな色彩表現に目を奪われます。藍とも取れるその深い青み。水に映り込む建物の影なども巧みに表現されていました。ちなみに川瀬巴水は、今月末から東京のニューオータニ美術館で回顧展が開催されます。これは是非見なくてはなりません。未知の作家による、思わぬ魅力溢れた作品。この美術館のコレクション展では多だある嬉しい出会いです。

三方を海に囲まれた千葉と言うことで、房総などにちなむ作品もいくつか展示されています。その中では藤田嗣治(1886-1968)の「夏の漁村(房州太海)」が印象的でした。太海は今でも鴨川の海水浴場として有名ですが、海を望んだ生活感溢れる漁師一家の光景が淡いタッチにて表現されています。同じ千葉県内とは言っても内陸部に住む私にとっては、千葉の海に殆ど親近感がありませんが、石井柏亭の「船橋」や、無縁寺心澄の「稲毛海岸」などを見るとさすがに地元意識がわいてきます。今の千葉は、例えば浦安から君津までベッタリ張り付いた埋め立て地のように、かつてあったであろう人と海との接触がかなり薄くなっていますが、これらの作品はその残滓なのかもしれません。少し羨ましくも思いました。



いわゆる現代アートでは、杉本博司の海シリーズはもちろんのこと、広い展示室を大胆に使った河口龍夫の「陸と海」の写真作品が見応え十分でした。汐の満ち引きを捉えたこの一連の写真からは、波の音や海の匂いが聞こえ、また漂ってきます。しばし見入りました。

最終日だと言うのに相変わらず閑散としていましたが、坂本繁二郎や宇治山哲平の版画も見ることが出来ました。この美術館のコレクション展はこれからも追っかけるつもりです。
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「畑絢子」展 INAXガレリアセラミカ 7/15

INAXガレリアセラミカ中央区京橋3-6-18 INAX銀座ショールーム2階)
「畑絢子展 - ツキノハナの陶景 - 」
7/6-31



「若い世代の陶芸作家の企画展を開催」(パンフレットより。)してきたINAXガレリアセラミカが、このほど新宿から、京橋の最も銀座よりにあるINAX銀座ショールームへと移転しました。展示スペースはショールームの2階。バスタブやキッチンなど、様々なINAX製品の置かれた一角にオープンしています。



ともかくまず作品を見て驚いたのは、おおよそ陶(白磁土)とは思えないツキノハナの質感です。展示室の風に揺られながら、ゆらゆらと気持ち良さそうに靡くツキノハナたち。非常に細い針金(直径1ミリ!)の茎を支えとして、手のひらサイズの真っ白な陶製の花が咲き誇っている。下にはこんもりとした砂の小山。そして上には花々に命を与える太陽に見立てた明かり。燦々と降り注ぐ光の下では、花の影が移ろい、そしてうごめいていました。思わず息をのむほどに美しい陶の花畑です。

ツキノハナの群生は二カ所ありました。奥のやや狭い砂の丘の上には、まだ開き切っていない、もしくは百合のような花が群がっています。そしてこちらは花の影がそれぞれ重なり合っている。薄い花びらからは光が漏れていました。手で触ってしまったら瞬く間に崩れ去ってしまいそうなその質感。その脆さもまた魅力なのかと思います。

銀座へお出かけの際には少し立ち寄ってみては如何でしょうか。おすすめしたいと思います。今月末までの開催です。
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「畠山直哉展」 タカ・イシイギャラリー 7/15

タカ・イシイギャラリー江東区清澄1-3-2 5階)
「畠山直哉展」
6/24-7/22

何度となく名前を聞いたことのある畠山直哉の写真をまとめて拝見したのは、今回が初めてです。2003年から、ドイツ・ミュンスター南東部の旧炭坑都市アーレンにて撮影された新作シリーズ(26点)の展示でした。



鳥瞰的に無機質に撮影されたアーレンの建物群。内部を撮影した作品からは、かつてその場にあったであろう人の営みが微かに感じられます。しかしそれは、今にも壊されていく建物の外側には全く残っていません。もの凄い轟音とともに消え去っていた炭坑跡。もちろん音は写真から完全に拭い取られています。粛々となされた破壊の軌跡。あくまでもむなしく倒れていく建物だけが捉えられていました。それにしても壊されたビルの残骸は生々しい。まさにコンクリートの破片は肉のように飛び散り、剥き出しの鉄筋は破れた血管のように散らかっています。これは、閉ざされていた過去の記憶が破壊によって露となり、直ぐさま飛び散ってまた忘れ去られていくような、そんな惨い瞬間の記録なのかもしれません。

今回の展示作品一例(画廊HP)

発売中の写真集も少し拝見したことがありますが、一つ手元にとっておきたくなりました。今月22日までの開催です。
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「4人展 千葉正也/池田光弘/徐美姫/イルバ・オーグランド」 シュウゴアーツ 7/15

シュウゴアーツ江東区清澄1-3-2 5階)
「4人展 千葉正也/池田光弘/徐美姫/イルバ・オーグランド」
6/3-8/5

千葉正也、池田光弘、徐美姫、イルバ・オーグランドの4名のアーティストが集う、シュウゴアーツで開催中の、その名もズバリ「4人展」へ行ってきました。絵画、写真などの力作がぶつかり合う展覧会です。



4名の中で圧倒的に印象深かったのは、徐美姫による海の写真です。岩場へ寄せる波打ち際がモノクロ写真にて捉えられている。暗がりの空間にて、波の飛沫と岩の影が重なり合い、また溶け合う様子。光の陰影だけが波の存在を伝えてくれます。そして不思議にも失われている水の重量感。波は、ちょうど山場へ立ちこめる霧のように岩場へと広がっています。また、波の陰影が、光に反射して輝く銀紙のようにも見えました。これほど軽い質感の波を見たのは初めてです。これが写真であることすら忘れてしまうような作品でした。



徐以外では、イルバ・オーグランドのバラバラになった絵画が心に残ります。一人の女性が寝ている姿。それがちぎれた画面にて緩やかに繋がっている。頭から足先までが別々の画面です。それぞれが見えない糸で辛うじて連なっているのかもしれません。睡眠の安堵と、画面のルーズな雰囲気が奇妙にマッチしている作品でした。

8/5までの開催です。
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