「酒井抱一筆 夏秋草図屏風の魅力」 東京国立博物館

東京国立博物館の「秋の特別公開」に展示されていた酒井抱一の「夏秋草図屏風」。関東では千葉市美術館の抱一展以来の出品となりました。



公開中の9月28日、平成館大講堂にて、絵画・彫刻室研究員の本田光子さんの講演会、「酒井抱一筆 夏秋草図屏風の魅力」が行われました。

所要は約1時間。「夏秋草図屏風」のスライドをあげながら、屏風のモチーフ、制作背景、また作品を特徴づける銀のイメージなどについて語って下さいました。

それでは以下、私が特に印象に残った部分についてまとめてみます。


酒井抱一「夏秋草図屏風」展示室風景

まず屏風のモチーフ、夏草と秋草からです。ススキ、ヒルガオ、ユリ、ガンピなど、様々な草花が描かれていますが、秋草では山上憶良による万葉集の参照がポイントです。

「萩の花 尾花葛花 なでしこの花 女郎花 また藤袴朝がほの花」

夏秋草図屏風には、萩の花以外、全て描かれています。

また屏風における雨と風、言うまでもなく、夏の驟雨と秋の野分の表現も重要です。


酒井抱一「夏秋草図屏風」(写真、右隻部分)

雨に打たれて背を曲げる夏草、その右上には庭たずみが流れています。これは大雨の後の水たまりを表したもの。そしてこうした水流の表現は小袖や蒔絵の模様にもよく登場するそうです。抱一の屏風では「四季花鳥図屏風」にも水の青い帯が描かれています。


酒井抱一「夏秋草図屏風」(写真、左隻部分)

野分の秋草では風に吹き上げられた葉の描写など、構図として下から上を志向するのに対し、夏では手前の雨に打たれた草と奥の庭たずみ、つまり手間と奥との関係が組み込まれている。つまり草を捉える視点が異なるのではないかということでした。

作品の制作背景へ進みます。よく知られるように「夏秋草図屏風」は尾形光琳の「風神雷神図屏風」の裏面に描かれました。風神と秋草、雷神と夏草との関係。さらに風神雷神の金に夏秋草図の銀、天上の神と地上の自然などの対比がなされています。

長らくこの屏風は裏絵として存在していましたが、昭和49年に作品保護のため分離されました。

落款と左右の配置も注目です。一般的には屏風の右下、左下にあることの多い落款が、本作に関しては中央に寄り添うように記されています。


東京国立博物館「創立百周年記念特別展 琳派」図録 昭和47年10月

このことからかつては左右逆に紹介されたこともあったそうです。昭和47年に東博で行われた琳派展においても図録には逆に記載されました。

屏風の左右の配置の問題に終止符を打ったのは、近年発見され、出光美術館に収蔵されている草稿です。そこには右に夏、左に秋の場面が描かれています。よって抱一が構想段階から左右の配置を明確にしていたことが明らかとなりました。(ちなみに草稿と本画はほぼ同じですが、草稿の方が夏草の庭たずみの幅がやや太いようです。)

また草稿の裏貼紙から屏風の注文主、制作年も判明しました。

「一橋一位殿御認上 二枚折屏風一双下絵 銀地 光琳筆表 雷神/風神 裏 夏草雨/秋草風 抱一 文政四年辛巳十一月九日出来/差上」

注文主は一橋治済。時の将軍11代家斉の実父です。文政3年、古稀を迎えた治済は、この年に従一位の宣下を受けます。

一方で酒井家においても慶事がありました。文政4年に抱一の甥にあたる忠実が昇進。また文政5年には忠実の子、忠学と、将軍家斉の子、喜代姫が婚約します。一橋徳川家と酒井家の関係はより密になりました。


酒井抱一「夏秋草図屏風」*2010年の東博平常展において撮影

「夏秋草図屏風」が描かれたのは文政4年。おそらくはこれらの慶事に際して描かれたとされています。

さてここで本田さんから興味深い指摘がありました。お祝い事の作品にしては、夏秋草図屏風が、随分と物悲しい印象を与えられはしないでしょうか。

実は草稿に年紀の記された文政4年には大干ばつがあり、大変な被害をもたらしたそうです。その時の抱一の記憶なり経験が作品に反映されたのではないかとのことでした。

ちなみに屏風が制作された場所は抱一の住まい兼工房である「雨華庵」です。場所は下谷、現在の台東区根岸5丁目。「雨華庵」の様子は弟子の田中抱二が見取り図に残していますが、庭には秋の草花がたくさん植えられていました。抱一はその植物を参照しつつ、「夏秋草図」に向かったのかもしれません。

ラストは屏風の印象を決定付ける銀のイメージです。

静かさ、クール、波の色、物悲しさ。抱一は銀屏風の名手です。銀地をそのまま波の色として用いた「波図屏風」はよく知られています。

また他の絵師では光悦の「四季草花下絵和歌巻」や蕪村の「山水図屏風」なども名作です。ことに蕪村は寒村の冷えた大気を銀で表現しました。

ある学者は「夏秋草図屏風」を「反骨のデカダンス」と評しました。また銀は物思う色という意味もあるそうです。敬慕する光琳への思い。そうした意味もこめられているのかもしれません。

*追記訂正*
「反骨のデカダンス」は「反骨のエレガンス」の誤りでした。なお出典は千澤(木へんに貞)治編の「日本の美術 186号 酒井抱一」(至文堂、1981年)だそうです。私の聞き間違いにより誤って書いてしまいました。本田先生、大変失礼致しました。ここにお詫びして訂正致します。


講演会「夏秋草図屏風の魅力」会場(立ち見が出るほどの盛況でした)

登壇の本田さんはこの日、講演会デビューだったそうです。時に笑いを誘ってのあっという間の一時間。貴重なお話をありがとうございました。

「もっと知りたい酒井抱一/玉蟲敏子/東京美術」

講演前と後に改めて「夏秋草図屏風」を見に行きました。必ずしも毎年出るとは限りません。次に見られるのはいつのことか。後ろ髪を惹かれながら会場をあとにしました。

講演会「酒井抱一筆 夏秋草図屏風の魅力」
日時:9月28日(土)15:00~16:00
会場:平成館大講堂
講師:本田光子(絵画・彫刻室研究員)
定員:380名(先着順)
夏の雨、秋の風、銀地屏風の草花たち。季節の一枚にこめられた、さまざまなイメージをご紹介します。
聴講料:無料(当日の入館料が必要。)
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「国宝卯花墻と桃山の名陶」 三井記念美術館

三井記念美術館
「国宝卯花墻と桃山の名陶ー志野・黄瀬戸・瀬戸黒・織部」 
9/10-11/24



三井記念美術館で開催中の「国宝卯花墻と桃山の名陶ー志野・黄瀬戸・瀬戸黒・織部」へ行ってきました。

桃山時代後期に美濃地方で新しくおこったやきもの、志野、織部、黄瀬戸、瀬戸黒。焼かれた時期は慶長から元和年間の僅か20~30年。しかしながらその独特でかつ進取性にも富んだやきものは、今もなお多くの人を惹き付けて止まみません。

まさにやきものに強い三井記念美術館ならではの展覧会です。桃山期の美濃における作陶世界を一挙に紹介。その数は約120点です。やきもの魅力を存分に堪能出来る内容となっていました。


「重要文化財 志野茶碗 銘広沢」桃山時代 16~17世紀 湯木美術館

まずは三井ご自慢のはじめの展示室から。縦にずらりと並ぶのは主に志野、織部の名品です。冒頭「志野橋の絵茶碗」におけるざらりとした白い釉薬の質感、そしてその温もり。描かれた橋の図柄は軽やかでした。

面白いのは「織部扇面形向付」です。台形と半円をあわせたような造形からして個性的ですが、かの原三渓は本作を茶碗として見立てて使用したとか。また「瀬戸黒茶碗 銘冬の夜」の照りと艶のある黒い色味にも惹かれました。

「卯花墻」も早々のご登場です。比較的厚手の茶碗。重みを感じさせますが、ともかく形に動きがあるのが特徴です。正面から見ると少し右方向に出っ張っている。ぐるりと一周、一つとして同じ部分のない景色。垣根に咲き誇る卯の花。たっぷりとまた滑らかな釉も美しいものでした。


「黄瀬戸茶碗」 桃山時代 16~17世紀

さて以降の展示室では志野、黄瀬戸・瀬戸黒、織部の順に作品が並びます。まずは志野からいきましょう。茶碗に香合に鉢に向付。いずれも白土の質感が何とも魅惑的ですが、「志野撫子文向付」などは洒落た逸品。縁には珍しい花唐草模様。見込みにも花が描かれ、そこには小動物がちょこんといる。なんとも楽し気な意匠です。

白を離れた鼠志野にも美しい作品がありました。それが「鼠志野鶺鴒文鉢」です。広いつばに水流の模様。中央には岩がありますが、これは偶然生じた白の部分をそのまま用いているとか。岩で羽を休めるのはセキレイ。涼し気です。


「瀬戸黒茶碗 銘小原女」桃山時代 16~17世紀

瀬戸黒では「銘小原女」が忘れられません。ともかく半筒形の妙味。しゃがんで下をのぞき込まないと分からないほど高台は低く、腰は今にも床面に付きそう。また黒一色の世界の中にも歪みなどの作為があり、微妙に表情が変化していることが見て取れます。


「織部波車文沓茶碗 銘山路」桃山時代 17世紀

織部では何と言っても団子でしょう。その名も「織部串団子文茶碗」。模様にはまさに串団子が。団子の数は三つです。それが可愛らしく串に連なっている。また面白いのは裏側にも串があることです。こちらには団子は描かれていませんが、これは既に食べたことを示しているのだそうです。何という機知でしょうか。

衝撃的な茶碗に出会いました。それが茶室如庵に鎮座する「志野茶碗 銘羽衣」です。ともかく凄まじいまでの歪み。そして胴を焼き焦がす鮮烈な赤。それでいて中には一筆書きの線がふわりと舞っている。この強引なまでに激しい造形感覚はもはや前衛。まさに変革の桃山に相応しい作品です。また風の噂では20年ぶりの出現だとか。驚きました。

器から広がる小宇宙。一期一会となる器との邂逅。この茶碗を見られただけでも満足でした。

一部展示替えがあります。(出品リスト

「すぐわかる産地別やきものの見わけ方/佐々木秀憲/東京美術」

11月24日までの開催です。

「国宝卯花墻と桃山の名陶ー志野・黄瀬戸・瀬戸黒・織部」 三井記念美術館
会期:9月10日(火)~11月24日(日)
休館:月曜日。但し9/16、9/23、10/14、11/4は開館。翌火曜日は休館。
時間:9:30~17:30  *毎週土曜日は19:30まで。 
料金:一般1200(1000)円、大学・高校生生700(600)円、中学生以下無料、70歳以上900円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
場所:中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線三越前駅A7出口より徒歩1分。JR線新日本橋駅より徒歩5分。
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「ル・コルビュジエと20世紀美術」 国立西洋美術館

国立西洋美術館
「ル・コルビュジエと20世紀美術」 
8/6-11/4



国立西洋美術館で開催中の「ル・コルビュジエと20世紀美術」へ行ってきました。

言うまでもなく国立西洋美術館本館を設計したル・コルビュジエ。建築家としての業績は多大。国内でも2007年に森美術館で一大回顧展が開催され、かなりの注目を集めました。

しかしながら画家として、また彫刻家として、さらには映像作家としてはどうなのか。コルビュジエと美術との関係は少なくとも建築ほどよく知られているものではありません。


ル・コルビュジエ「円卓の前の女性と蹄鉄」1928年 ル・コルビュジエ財団

そこを狙うのが「ル・コルビュジエと20世紀美術」展です。主にコルビュジエの絵画、美術作品に着目します。また彼の関心のあった美術家たちの制作を併せ見ることにより、かの時代の美術の一潮流を探る仕掛けともなっていました。

では早速順に。まずは通常ロダンの彫刻の置かれる空間。ここにコルビュジエの彫刻作品がずらり。言い忘れましたが、本展の会場は新館でも企画展示室でもなく本館の常設スペース。つまりコルビュジエの手がけた空間の中での展示なのです。


ルシアン・エルヴェ「アトリエのル・コルビュジエ」1950年 大成建設

端的に言ってしまえばこれが意外なほどに新鮮味があります。コルビュジエの空間の中でコルビュジエの作品を見る。この展覧会の醍醐味でもありました。

さてどこか無機的な木彫からスロープへ眼をやると壁面に何やら映像が。「電子の詩」です。コルビュジエが1958年にブリュッセルに設計した「フィリップス・パヴィリオン」内で上映された映像作品。音楽はかのヴァレーズです。西美に電子音楽が流れている。映像もさることながら、この音楽もまた聞かせます。


ル・コルビュジエ「開いた本、パイプ、グラス、マッチ箱のある静物」1918年頃 ル・コルビュジエ財団

スロープをあがって絵画スペースへと進みましょう。本館の常設スペースを一周、ぐるりと取り囲むのはコルビュジエと主に同時代の美術家の絵画です。出品元はパリのコルビュジエ財団の他、国内の美術館、及び世界有数のコレクションを有する大成建設など。150点とかなりのスケールでした。(出品リスト


ル・コルビュジエ「垂直のギター(第2作)」1920年 ル・コルビュジエ財団

興味深いのは作風の変遷です。早い段階においてはいわゆる静物を時に幾何学的に構成。キュビズムの影響なども色濃く残しますが、1920年頃になると新たな展開が。形は不規則となり画面に動きも表れます。さらに1920年代末には人物が登場し、1930年代に入ると自然のモチーフを描くようになりました。

コルビュジエはボーシャンやデュヴュッフェにも注目。さらにはアフリカのプリミティブな彫刻にも関心を寄せます。先に挙げた「電子の詩」にもこうしたアフリカのイメージが取り込まれていました。

1940年代以降は言わば有機的な展開です。メタモルフォーゼの他、一角獣などの神話的物語も取り込みます。詩画集「直角の詩」を刊行したのは1955年です。彼の思想を絵と言葉で詩的に示しています。

コルビュジエは建築と絵画の融合を目指して壁画の制作も行います。会場では「スイス学生会館」の壁画の習作を展示。さらにはタピスリーやブックデザインの仕事も紹介されていました。


フェルナン・レジェ「女と花」1926年 東京国立近代美術館

時にレジェやピカソを思わせるコルビュジエの絵画世界。作品自体の評価なり印象は分かれるかもしれませんが、少なくとも今回ほどのボリュームで見たのは初めてです。またそもそも彼は毎朝アトリエで絵画制作、そして午後は事務所で設計の仕事に当たっていたとか。絵画と建築を行き来するコルビュジエ。その溢れんばかりの創造力には感心させられました。

なお常設展示室での開催ですが、通常と異なり写真の撮影は出来ません。(その後に続く新館での常設展は撮影可。)ご注意下さい。

11月4日までの開催です。ずばりおすすめします。

「ル・コルビュジエと20世紀美術」 国立西洋美術館
会期:8月6日(火)~11月4日(月・休)
休館:月曜日。但し8/12、9/16、23、10/14、11/4は開館。9/5、17、24、10/15は休館。
時間:9:30~17:30 *毎週金曜日は20時まで開館。
料金:一般420(210)円、大学生130(70)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *毎月第2・第4土曜日、文化の日(11/3)は観覧無料。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成電鉄京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
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「朝倉彫塑館」が10/29にリニューアルオープンします

東京・谷中にある朝倉彫塑館



言うまでもなく彫塑家の朝倉文夫(1883~1964)がアトリエ兼住宅として使用していた施設。設計は朝倉自身によるもの。水庭を望む日本家屋と洋館が融合した建物は独特な趣きをたたえています。


朝倉彫塑館

建物は2001年に国の登録有形文化財に指定されるも、築80年を経過し老朽化。2009年に耐震補強も伴った工事がスタートし、現在まで長らく休館中でした。

その朝倉彫塑館がいよいよ10月29日(火)にリニューアルオープン。記念の展覧会の他、シンポジウムなどが行われます。

[記念展示 朝倉文夫コレクション]
第1期:「朝倉文夫と中国書画」2013年10月29日(火)~12月26日(木)
第2期:「朝倉文夫 掌の感覚」12月28日(土)~2014年3月2日(日)
第3期:「朝倉文夫の道具遊楽」2014年3月4日(火)~5月11日(日)

[記念シンポジウム 保存修復改修工事を終えて](PDF)
日時:2013年11月15日(金) 13:30~
場所:朝倉彫塑館 朝陽の間
登壇:樋口崇氏(文化財建造物保存技術協会)他
定員:50名
参加費:2000 円
要事前申込(往復ハガキにて)

[ギャラリートーク]
 11月21日(木)、12月19日(木)14:00~(各日30分程度)


中庭

私も休館前に一度、同館を訪ねたことがあり、和洋とが隣り合わせとなった空間に驚かされるとともに、こじんまりとした日本庭園を望む和室に居心地の良さを感じたものでした。

「朝倉彫塑館を歩く」(台東区文化ガイドブック)

確か写真もたくさん撮った記憶がありますが、何故か見つかりません。それでもアトリエ洋館部の冷ややかな空気感と、そこに堂々と鎮座した朝倉の作品の迫力に感じ入ったことは良く覚えています。


朝陽の間・次の間

また本リニューアル工事は、朝倉の晩年にあたる昭和30年代の建物と庭園を復原することを目的としたそうです。修復工事をほぼ終えた現在の彫塑館の様子については下記リンク先の台東区のサイトでも公開中。確かに随所で修復前と変わっています。

「工事進捗状況(平成25年2月から平成25年6月)」(台東区WEBサイト)

久々の朝倉彫塑館、秋も深まる谷中散策とあわせて楽しむのも良いかもしれません。上野公園方面へは格好の散歩コースです。


朝倉文夫「市川団十郎像(九世団十郎)」1935年

朝倉彫塑館は10月29日にリニューアルオープンします。

「記念展示 朝倉文夫コレクション」 朝倉彫塑館
会期:2013年10月29日(火)~2014年5月11日(日)
休館:月・金曜日。祝日と重なる場合は翌日開館。年末年始(12/29~1/3)。特別整理期間。
時間:9:30~16:30 *入館は16時半まで。
料金:一般500(300)円、小・中・高校生250(150)円、未就学児は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区谷中7-18-10
交通:JR線、京成線、日暮里舎人ライナー日暮里駅西口より徒歩5分。
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「興福寺仏頭展」 東京藝術大学大学美術館

東京藝術大学大学美術館
「興福寺創建1300年記念 国宝興福寺仏頭展」
9/3-11/24



東京藝術大学大学美術館で開催中の「興福寺創建1300年記念 国宝興福寺仏頭展」へ行ってきました。

12世紀に山田寺より移送されるも、15世紀のはじめに火災にあって破損。一度は行方不明になったものの、約500年後の1937年に再び発見された「白鳳の貴公子」こと興福寺の「仏頭」。

一方で「木造十二神将立像」は東金堂に安置されていた神将像。「仏頭」もかつては東金堂の本尊。つまり同じ空間にあったわけです。しかしながら火災によって本尊には新たな薬師如来が鋳造されます。以来、「仏頭」と「木造十二神将立像」とが揃って並ぶことはありませんでした。

まさに600年ぶりの出来事です。「仏頭」と「木造十二神将立像」が出会います。展示ではこれらの他に、同じくかつて東金堂に配置されていた「板彫十二神将像」、また興福寺由来で法相宗関連の絵画など約65点の文物が紹介されていました。


重要文化財「厨子入り木造弥勒菩薩半跏像」 鎌倉時代 興福寺

まず入口に鎮座するのは「厨子入り木造弥勒菩薩半跏像」。鎌倉期の仏様です。顔立ちは険しく、威厳に満ちているもの、足や指先などは実に滑らか。装身具も繊細で優美です。貴族的な趣味も感じられます。

絵画では「護法善神扉絵」も見どころの一つではないでしょうか。保存状態も良好なのか、彩色がいずれも鮮やか。全12点のうち会期途中での入れ替えということで6点の出品でしたが、とりわけ「増長天王像」は迫力がありました。

レリーフ状の神将像、「板彫十二神将像」も見逃せません。その数は全12点。かつて東金堂の如来の守護神として台座にはめられていたといわれる像ですが、ともかく力感漲る造形が印象的です。いずれも厚さは約3センチほどですが、思いの外に立体感があります。


国宝「迷企羅大将像」 平安時代 11世紀 興福寺

特に右手、左足を振り上げて、大きく跳躍するかのように構える「迷企羅大将像」の躍動感は圧巻の一言。またどこかプリミティブな印象を受けたのは私だけでしょうか。静止する「真達羅大将像」などは、全く時代も異なりますが、木喰の作風を連想させるものがあります。

ちなみにこの「板彫十二神将像」、一列ではなく、ぐるりと一周、四方に展示されているのもポイントです。これは台座を囲んでいた当時の姿を半ば再現するべく試みられました。

それではハイライトへ。「仏頭」と「木造十二神将立像」のそろい踏み。展示スペースは同館最大の3階の第3展示室です。最奥部に「仏頭」が人の背の高さほどに置かれ、そこから入口に向かって「木造十二神将立像」が左右に並んでいる。いずれもケースのない露出展示。しかも仏様を360度ぐるりと廻って歩くことも可能です。かの東博阿修羅展を彷彿させる造作。背の部分もじっくりと観覧出来ました。


国宝「伐折羅大将立像」 鎌倉時代 13世紀 興福寺

それにしても「十二神将立像」、いずれも表情豊かですが、中でも激しいのは「伐折羅大将立像」です。剣を持った右手を大きく振りかぶり、今にも下方の敵に向けて刺さんとする一瞬の動きが見事に表されています。少し屈んで、立像の視線と向き合うと、思わず仰け反ってしまうほどの迫力です。


国宝「鋳造仏頭」 白鳳時代 685年 興福寺

「仏頭」はどうでしょうか。丸いというより、四角いともいえるような張りのある顔立ち。首は太く肉感的。切れた眼は細く鋭く彼方を見つめている。「青年のように若々しい」とも称される仏頭。表情こそ穏やかながらも実に生命感があります。

後ろへ廻ると後頭部に穴がぽっかりとあいていることが見て取れます。また左耳はちぎれ、左頬も歪んでいる。痛々しいまでの姿です。この仏様の苦難の歴史も思い起こさせました。


重要文化財「銅造釈迦如来倚像」 白鳳時代 7世紀 深大寺

会場ではVR映像で往時の仏頭を再現する試みも。欠落部から形を推測して復元した姿が映し出されています。また特別陳列として深大寺からやって来た「銅造釈迦如来倚像」も重要です。こちらも仏頭と同じく白鳳期の作。小ぶりの仏様ですが、確かに「仏頭」を想像させるものがあります。

「仏頭」は2004年に同じく芸大美に出品されるなど、東京で展示されることは何も初めてではありません。ただそれでも「仏頭」を核に「木造十二神将立像」が露出展示でずらりと一揃いする空間。照明も効果的です。その美しさは息をのむほどでした。

人気の仏像展ということで混雑を覚悟しましたが、確かに賑わってはいたものの、特に行列が出来るような状況ではありませんでした。ただ何かと手狭でかつ動線に難もある芸大美術館、混雑すると大変です。後期にもう一度出向くつもりですが、まずはなるべく早めの観覧が良さそうです。


国宝興福寺仏頭展特設サイト「仏像タイムス」

展覧会のサイトがなかなか充実しています。キャッチーな「仏像タイムス」ですが、「教えて仏像のすべて」などは読み応えもありました。

「仏頭」が発見されたのは1937年の10月29日のことです。ちょうど展覧会会期中、その日にあわせてのイベントも行われます。

[仏頭発見の日記念イベント]*参加申込の締切は10月1日。

・特別法要と特別鑑賞の夕べ
日時:10月29日(火)18時~20時
内容:参加者限定の本展特別鑑賞会を実施するほか、展示会場内で興福寺貫首以下の寺僧による特別法要を行います。定員200名。

・「見仏記」トークショーと特別鑑賞の夕べ
日時:10月30日(水)18時30分~20時30分
内容:参加者限定の本展特別鑑賞会を実施するほか、本展仏頭大使のみうらじゅんさん、いとうせいこうさんによるトークショーを行います。会場は東京藝術大学内。定員150名。

2018年に落慶を目指して工事の進む中金堂再建の勧進を兼ねての展覧会です。館内には奉賛のための写経の案内もありました。

「もっと知りたい興福寺の仏たち/金子啓明/東京美術」

11月24日まで開催されています。

「興福寺創建1300年記念 国宝興福寺仏頭展」 東京藝術大学大学美術館
会期:9月3日(火)~11月24日(日)
休館:月曜日。但し9/16、9/23、10/14、11/4は開館。翌火曜日は休館。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1500(1200)円、高校・大学生1000(700)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
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速水御舟「京の家・奈良の家」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館所蔵品ギャラリー「MOMAT コレクション」
速水御舟「京の家・奈良の家」
8/10~10/14

右に京都の町屋、左に奈良の大和棟の家屋を描いた二面の風景画。せり上がる三角形の屋根と赤や黄色の壁面。作品に組み込まれた色と形が鮮やかに浮かび上がってくる。


速水御舟「京の家・奈良の家」1927年 紙本彩色 額2面

東京国立近代美術館に今年度、新たに収蔵された速水御舟の「京の家・奈良の家」です。

描かれたのは1927年、御舟33歳の時。「モダニズム日本画への意識」(キャプションより引用)とも称される独特な画面構成。翌年には「翠苔緑芝」、さらに翌々年には「名樹散椿」と、時にセザンヌやキュビズムと関連付けられる名作を生み出した時期の作品でもあります。


速水御舟「京の家・奈良の家」1927年 左面

それにしてもここに見られる構図感は個性的です。縦に家屋も連なる奥行きのある空間にも関わらず、建物の面を切り取った構成だから、おおよそ平面的。建物を図像、もしくは平面として連ねていくという意識が強く感じられます。


速水御舟「京の家・奈良の家」1927年 右面

面白いのは建物の上部に着目した構成でもあることです。地面を描き入れないことで屋根と空が相似的に浮かび上がってくる。また大和棟の白い三角屋根と、なだらかな曲線を描く町屋の屋根の図形もどこか対比的です。また空も京都の「静」に対し、奈良は渦巻く雲が描かれるなど「動」的です。

新収蔵とありますが、何も新出の作品というわけではありません。近年、関東では一度、2008年に平塚市美術館で開催された「速水御舟ー新たなる魅力」にも出品されました。カタログにも図版の掲載があります。

「いつもとはからりと変つたものー二題ながら構図は児童のように単純だ。(略)壁の色の対比、屋根の頂上の鳩の瓦、作者の境地に住みたい。」
 評:京都日出新聞 昭和2年10月25日(「速水御舟ー新たなる魅力」展図録より。)

「もっと知りたい速水御舟/尾崎正明/東京美術」

半ば造形と色面構成の実験とも呼べるような展開。常に新たな画面の獲得を目指した御舟ならではの進取性にも富んだ作品と言えそうです。

速水御舟「京の家・奈良の家」 東京国立近代美術館本館所蔵品ギャラリー「MOMAT コレクション」 
会期:8月10日(土)~10月14日(月)
休館:月曜日。但し9/16、9/23、10/14は開館。9/17、9/24は閉館。
時間:10:00~17:00(毎週金曜日は20時まで)*入館は閉館30分前まで
料金:一般420(210)円、大学生130(70)円、高校生以下、65歳以上無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *無料観覧日(所蔵作品展のみ):9月1日(日)、10月6日(日)
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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「神のごときミケランジェロ」 とんぼの本(新潮社)

新潮社とんぼの本、「神のごときミケランジェロ」を読んでみました。

「神のごときミケランジェロ/池上英洋/とんぼの本」

「私たちは彼のことをまだ知らない。」

冒頭に記されたこの一文、確かにレオナルドにラファエロと並ぶ三巨匠としての地位や、「ダヴィデ」に「最後の審判」程度は知っているものの、どのような人生を辿り、またどれほどの作品を残したのか。そう問われれば、美術史を学んでいればともかく、なかなか答えられるものではありません。

本書ではミケランジェロの業績を、主に時間軸、つまりは彼の人生に沿って紹介。作品の図版をあげながら制作の意図、さらには美術史にとどまらず、一部社会的な背景までを取り込んで、ミケランジェロの全容を詳らかにするものとなっています。



はじめはミケランジェロの残した3つの大きな業績から。言うまでもなく、彫刻、絵画、建築です。絵画には「絵画嫌いの大画家」というサブタイトルが。かの巨匠、絵画は自分の本分ではないとして、制作依頼から「逃げ回っていた。」(本文より。)そうです。残された業績からすると信じ難いものがあります。

出自は没落貴族です。彼は後にその出を誇ったものの、実際はかなり貧しく、6歳にして母を亡くしてもいます。ちなみに三巨匠、いずれも同じように母の愛を受け容れられない状況で育ったそうです。

デビューが「詐欺」とはセンセーショナルです。ミケランジェロは枢機卿より注文を受けて「眠れるクピド」を制作しますが、記録によれば、ある助言により、完成した作品を土に埋め、古色をつけたとのこと。

その行為は一度バレて、作品自体は返却されますが、枢機卿は作者に興味を持ち、結果的にミケランジェロの芸術家としての道を開くきっかけになります。ただでは転びません。



かのダヴィデ像が実は今と別の場所に置かれる可能性があったことをご存知でしょうか。

現在はヴェッキオ宮殿の入口に置かれていますが、(レプリカです。)そもそも大聖堂の内部を飾るための作品であったこともあり、当初は聖堂の正面に置かれる予定だったそうです。また宮殿でも回廊の下を推すレオナルドらと対立、結局ミケランジェロの主張が通って入口に置かれることになります。



ちなみに年齢差こそあるものの、ほぼ同時代を生きたレオナルドとの関係についても本書では触れられています。「美男で優雅」なレオナルドなのか、それとも「無骨で怒りっぽい」(ともに「」内は本文より。)ミケランジェロなのか。その辺の対比もポイントかもしれません。

制作においてミケランジェロの姿勢なりを伺えるエピソードとして印象深いのが「システィーナ礼拝堂」の天井画です。

描画面の合計は1000平方メートル、描かれた人体総数は300名にも及ぶという超大作ですが、ミケランジェロは自ら声をかけて集めた6名の画家や助手を途中で全て首にしてしまい、その後は一人で描いたとか。彼らの出来に満足がいかなかったそうです。



畢竟の名作「最後の審判」も当時は悪評で迎えられます。それもあってか完成後には別の人物によって加筆が行われますが、むしろそのおかげで作品そのものの破壊を免れたとのこと。またこの幻想的な作風の背景には一人の女性の存在があったことに触れられています。

本書はミケランジェロの作品を単に美術の立場からのみ分析したものではありません。彼を取り巻く人々、そして社会状況にも言及。そもそもミケランジェロはフィレンツェで革命軍に参加し、共和国政府の軍事技師の任務も行っています。(一方でその後の粛清からは逃れて、共和国の敵であるメディチ家のために仕事をしました。)



ラストはずばり「ミケランジェロとは何者か」。晩年の制作と生活。家族を持たなかった彼は使用人や弟子たちを養っていたとあります。果たして彼は今の名声を予想したでしょうか。

お馴染みとんぼの本ということで写真も多数。また「最後の審判」図像プログラムなど、作品鑑賞の助けとなりそうな図版もあります。


「ミケランジェロ展ー天才の軌跡」@国立西洋美術館(9/6~11/17)

国立西洋美術館で開催中のミケランジェロ展への導入に限らず、その存在を分かりやすく、また専門的にまとめた一冊。実のところこれまで殆ど作品を見たことがなかったせいか、ミケランジェロに対しての思い入れがありませんでしたが、本書を踏まえるとともかく圧倒。「神のごとき」であることに頷かされるとともに、どこか親しみも覚えました。

「神のごときミケランジェロ/池上英洋/とんぼの本」

「神のごときミケランジェロ」 とんぼの本(新潮社
内容:「ダヴィデ」、「最後の審判」、「サン・ピエトロ大聖堂クーポラ」ー彫刻、絵画、建築のすべてで空前絶後の作品群を創りだし、「神のごとき」と称された、西洋美術史上最大の巨人。教皇や国王と渡りあった89年の波瀾の生涯と、変化と深化を続けた作品の背景をていねいに解説。最新の知見をもとに全容をひもとく、待望の入門書。
著者:池上英洋。美術史家。東京造形大学准教授。イタリアを中心に西洋美術史、文化史を研究。1967年広島県生まれ。東京藝術大学卒業、同大学院修士課程修了。
価格:1680円
刊行:2013年7月
仕様:126頁
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「竹内栖鳳展」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館
「竹内栖鳳展 近代日本画の巨人」
9/3~10/14 *前期:9/3~9/23、後期:9/25~10/14



東京国立近代美術館で開催中の「竹内栖鳳展 近代日本画の巨人」へ行ってきました。

こうも見どころの多い展覧会となるとなかなか感想もまとまりませんが、はじめに触れておくと、まさに栖鳳回顧展の決定版。過去最大規模というのもあながち誇張ではありません。

出品は全100点です。途中、展示替えがあり、一度に見ることは叶いませんが、久々に日本画、絵を見る喜びを素直に感じられる展覧会でした。

では前置きをこのくらいにして、順に沿って感想をつらつらと。まずは修行時代を経て、いわゆる京都画壇の若手画家として名を馳せた頃の作品です。

早くも画業を極めたのではと思ってしまうほどですが、例えば「百騒一睡」。左隻には何匹もの雀が藁を突き、右隻には応挙犬ばりのわんこ(とあえて申します。)がじゃれ合う中、一匹の大型犬が我関せずというような表情を見せている。栖鳳は四条派の画家に学びましたが、それを吸収したことも伺わせる作品です。


「金獅」1901(明治34)年頃 株式会社ボークス

また栖鳳といえばライオンの画家。堂々たるは「金獅」です。筆の硬軟を巧みに使い分ける栖鳳、身体の部分は薄塗りなのか、地の色が見えるほど透明感があり、一方で頭部は比較的絵具をたっぷり用いて重量感を与えている。細部の筆致は必ずしも全て精緻でないのにも関わらず、全体の形なり存在はくっきりと浮かび上がってきます。

長沢蘆雪の「白象黒牛図屏風」を思わせる「象図」はどうでしょうか。こちらも象の身体は太いストロークでざっくりと塗り上げ、鼻や顔の部分だけハッキリとした輪郭を与えている。そして小さなわんこと猿の存在。これらの対比、見事です。


「ベニスの月」(四代 飯田新七作、竹内栖鳳原画)1907(明治40)年 大英博物館

栖鳳の原画を元にしたビロード友禅、「ベニスの月」が大英博物館からやって来ました。こちらは海外輸出用、栖鳳自らプロデュースした作品ですが、ともかくベニスを望む美しい水辺、その類稀な透明感。光の滲みに帆船と聖堂の明暗の対比。深い叙情性には心打たれます。

1900年にパリ万博のために渡欧した栖鳳が、ヨーロッパ絵画を踏まえて作品群。彼は西洋画の「写実」に日本画の「写意」(外形より本質を描くこと)を融合させようと心がけていたそうです。


「羅馬之図(右)」1903(明治36)年 海の見える杜美術館 *前期展示

雄大パノラマ「羅馬之図」も忘れられません。大画面を活かして右へ左へ伸びゆくローマの遺構。栖鳳の半ば一つの理想風景。しかしながらその中でも薪を背負う女性や山羊の姿など、穏やかな日常の姿も。木の描写がどこか南画風であるのも興味深いポイントです。

さて本展、こうした風景画だけでなく、人物画にも焦点が当たっています。


「絵になる最初」 1913(大正2)年 京都市美術館

ここでは何と言っても「絵になる最初」。服を脱ぐモデルの恥らう瞬間を切り取った傑作ですが、今回は下絵もあわせて紹介。力強い描線で対象を明確に捉えています。下絵からも栖鳳の高い写実力を見て取れました。

また再発見された「日稼」も注目の一枚です。汗を拭きつつ、湯飲みを片付ける女性。口はやや半開きになり、疲れている様子を伺わせます。

今回はこうしたレア作品がいくつか登場。展覧会に初出品されるのは「龍神渡御の図」。その他「富士図」や「花に蔵」なども、古い図版でしか知られていなかった作品です。

昭和に入ると栖鳳は体調を崩し、療養のため湯河原へと赴きます。以降、湯河原と京都を行き来しながら多くの作品を描きますが、言わば晩年様式とでも称すべき、作風に変化が見られるのも特徴です。筆はより自由闊達。スピード感のある線で対象を大きく掴みます。


「驟雨一過」1935(昭和10)年 京都市美術館

適切ではないかもしれませんが、俳画的世界とも呼べるのかもしれません。例えば「驟雨一過」。木にとまって鳴く鴉。幹は黄緑色かかり、葉は青みを帯びる。美しいパステル調の色遣いが目を引きます。

ラストの2点、同じく渓流を描いた「保津川」とその名も「渓流」に目が止まりました。前者は明治、後者は昭和に入ってからの晩年の作品(未完)ですが、その作風の違いには驚かされるものがあります。

「保津川」はまさに応挙風、岩場へ水流がぶつかる様子が『写実的』に描かれていますが、「渓流」はもはや心象風景と言える世界。形態や色彩は殆ど溶けて融合していく。幽玄です。晩年のモネやらターナーを連想させます。

本画のみならず、下絵や写生帳などもあわせて展示。そもそも大規模な単独の回顧展としては1957年以来のことだそうです。

「竹内栖鳳展 近代日本画の巨人」展示替えリスト(PDF)
前期:9月3日~9月23日
後期:9月25日~10月14日



「班猫」(重要文化財)1924(大正13)年 山種美術館 *後期展示

会場内、混雑というほどではありませんが、予想以上に賑わっていました。後期にはお馴染みの名品、「班猫」も登場します。そちらもまた人気を集めるかもしれません。

「竹内栖鳳:京都画壇の大家/別冊太陽/平凡社」

10月14日まで開催されています。おすすめします。 *東京展終了後、京都市美術館(2013/10/22~12/1)へと巡回。

「竹内栖鳳展 近代日本画の巨人」 東京国立近代美術館
会期:9月3日(火)~10月14日(月) *前期:9/3~9/23、後期:9/25~10/14
休館:月曜日。但し9/16、9/23、10/14は開館。9/17、9/24は閉館。
時間:10:00~17:00(毎週金曜日は20時まで)*入館は閉館30分前まで
料金:一般1300(900)円、大学生900(600)円、高校生400(200)円。中学生以下無料
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *割引引換券あり
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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「生誕120年 宮芳平展」 練馬区立美術館

練馬区立美術館
「生誕120年 宮芳平展ー野の花として生くる。」
9/15-11/24



練馬区立美術館で開催中の「生誕120年 宮芳平展ー野の花として生くる。」の特別内覧会に参加してきました。

森鴎外の知遇を得て、小説「天龍」のモデルともなった画家、宮芳平(みや よしへい。1893-1971。)。中村彝に学び、画家としての成功を目指しながらも、美術教師の職を得て、子供たちに絵を教えつつ、市井の画家として生きた。

彼の名と作品は必ずしもよく知られていないかもしれません。

その宮の生誕120周年を記念したのが本展覧会です。初期から晩年の油画、素描、ペン画、そして銅版画まで。約200点もの作品にて画業を辿っています。

では早速、鴎外との関係から。出会ったのは宮がまだ20代の頃。東京美術学校に通っていた1914年、第3回文展に出品した「椿」が落選したことに始まります。


宮芳平「椿」1914年 安曇野市豊科近代美術館

宮はこの「椿」に大変自信を持っていたため、落選理由を聞くために、審査委員であった森鴎外を訪ねます。その際に鴎外は丁寧に対応。邪険にはしません。そしてさながら父親のように宮へ様々なアドバイスを行います。以来、二人の交流が始まりました。

それにしてもこの「椿」、文展の審査で「再三考の部」まで残ったそうですが、実に個性的でかつ異質。半ば点描的な筆致で女性が描かれていることは分かるものの、ほぼ光はなく、モチーフの全てが沈み込んでいる。ともかく暗鬱です。


右:宮芳平「聖夜」1916年 安曇野市豊科近代美術館

宮は画風を何度か変化させますが、若かりしき頃は、こうした象徴派とも幻想ともいえる作品を描いています。荒野にぽつんと一人佇む人物、そこからのびる長い影。「聖夜」の夢幻的な世界には惹かれました。

さて宮は美大卒業後、貧困の中、東京から柏崎、平塚へと転居。結局、中村彝の紹介により諏訪で美術教師の職を得ることになります。1923年のことです。彼はその後、35年間にわたって教職生活を送ります。そこで諏訪の風景や家族や教え子などの身近な人々を描き続けました。


宮芳平「諏訪湖(立石)より」1930年 安曇野市豊科近代美術館

柏崎以降、諏訪での制作を一言で語ることは出来ませんが、作品はともかく濃厚。かつての点描的な表現は影を潜め、筆致はより大胆、モチーフに色面が溶け合いながらせめぎあい、時にぶつかり合うかのような激しい作風へと変化します。


左:宮芳平「雪解くる頃」1942-1949年 長野県岡谷東高等学校

細部をとってみればもはや抽象面ともいえるような平面。絵具もうねるように隆起し、支持体へとこびりついている。物質感も強烈です。


左:宮芳平「海 その2」1959年 安曇野市豊科近代美術館

これら一連のアクが強いまでの宮の作品、好き嫌いが大いに分かれるやもしれませんが、絵から発せられる何とも言い難い熱気、迫力には感じ入るものはありました。


中央:宮芳平「母と子 その1」1954年 茅野市美術館

晩年は宗教色を強めていきます。柏崎時代から聖書に親しんでいた宮は次第にキリスト教に傾倒。ついに1966年、77歳になった彼は悲願でもあった聖地巡礼の旅に出発。欧州から中近東を旅して歩きます。


宮芳平「ゴルゴダ」1970年 新潟県立近代美術館

これを反映して描かれたのが「聖地巡礼」シリーズ。宮の最後の到達点とも言うべき作品です。ここでも画家一流の濃密極まりない色面構成が強く押し出され、ルオー画を連想させるような世界が展開されています。

また宮は詩作をいくつも残していたとか。自らを「巡礼詩人、またの名を巡礼絵画き。」とも名乗っています。会場でも彼の言葉が随所に紹介されていました。


右:宮芳平「木」(ペン画)制作年不詳 安曇野市豊科近代美術館

油画とは一転してのペン画が思いの外に魅力的です。これらは宮が教職につく頃、生活の糧を得るために絵葉書の原画として描いたものとか。元々彼はフォーゲラーや夢二の挿絵などを好んでいたそうですが、作風も実に甘美でかつ繊細。詩情にも満ちていました。

「清浄く美しい足跡を残そう 雪の上を裸足で歩いて来たような足跡を。」宮芳平

「野の花として生くる。ー宮芳平画文集/求龍堂

求龍堂より刊行の画文集がまた良く出来ています。帯には鴎外とのエピソードからとられた一節、「おれの絵のどこが悪い?」。何者にも動じないような自画像の宮のイメージとも重なってか、実に挑戦的です。一般書籍の扱いでした。


宮芳平展会場風景

11月24日まで開催されています。

[巡回予定]
島根県立石見美術館 2013年12月21日~2014年2月24日
新潟県立近代美術館 2014年4月26日~6月1日
安曇野市豊科近代美術館 2014年7月19日~9月7日

「生誕120年 宮芳平展ー野の花として生くる。」 練馬区立美術館
会期:9月15日(日)~11月24日(日)  
休館:月曜日。但し9月16日、9月23日、10月14日、11月4日は開館、翌日休館。
時間:10:00~18:00
料金:大人500円、大・高校生・65~74歳300円、中学生以下・75歳以上無料。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。

注)写真は特別内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「京成電鉄展」 市川市芳澤ガーデンギャラリー

市川市芳澤ガーデンギャラリー
「京成電鉄展」 
8/31-10/14



市川市芳澤ガーデンギャラリーで開催中の「京成電鉄展」へ行ってきました。

上野・押上から千葉・成田空港へ。千葉県内を走る唯一の大手私鉄である京成電鉄。本年9月17日、まさに今日、本社を墨田区押上から市川市八幡へと移転し、名実ともに千葉県の鉄道会社として歩み始めました。

その本社移転を記念して企画されたのが「京成電鉄展」です。京成と市川の歴史を様々な資料などで振り返りつつ、車両デザインの変遷、さらにはNゲージやプラレールのジオラマなどを展示。京成の魅力を紹介する内容となっていました。


「京成電鉄展」チケット(硬券風です)

さて市川と京成との関係とは如何なるものなのか。話はそこから始まります。遡ること約100年前です。1912年に押上ー市川(仮・現江戸川駅西側。当初は江戸川を渡船で連絡していたそうです。)、曲金(現、高砂)ー柴又間を開業させた京成電鉄の初代社長、本多貞次郎氏は市川に在住。その後、当時の市川町の町長を務めるなど、市川とゆかりの深い人物でもあります。


「京成電気鉄道(株)記念絵葉書 中川橋梁を渡る」1912年

会場では1907年に交付された「電気軌道敷設特許状」や、鉄道工事の記録として明治後期の架橋工事図の絵葉書などを展示。また創業時から行われていた電力供給事業などについての記録も紹介しています。

それにしてもこの展覧会、言ってしまえばかなりマニアックです。もちろんジオラマなどの鉄道好きへのアピールも事欠きませんが、ともかく本流はこうした歴史的資料。昭和初期の沿線の写真、また1930年代の沿線案内図などの戦前の資料が目を引きました。

ちなみに押上から江戸川の開業時は計5両の車両で運行され、約1ヶ月で7000名が乗車したそうです。京成はその後、柴又ー金町、江戸川ー市川新田(現、市川真間)、また中山、船橋へと延伸し、1921年には船橋ー千葉間が開業。そして1925年には成田まで開通します。

上野への延伸は1933年。そして反対運動などの影響もあり、京成の経営を一時悪化させる要因ともなった成田空港へ延伸は1978年のことでした。


「京成百貨店包装紙」図案:東山魁夷

さて資料で興味深いのは、今も遺構として残る上野公園の博物館動物園駅の設計図です。上屋の装飾の図面もあわせて展示されています。また美術関連では東山魁夷による京成百貨店の包装紙原画が見どころです。

タイトルは「緑の森」。現在も水戸にある京成百貨店で用いられている包装紙です。第五代社長である川崎千春氏が魁夷の親戚だったことから、今はなき上野店のオープン時にあわせて描いてもらったものとか。ちなみに京成百貨店はかつて市川市の八幡にもありました。そしてその跡地に今回、本社が移転してくることになったわけです。


「京成電鉄展」会場入口

資料以外では、京成のマスコットである京成パンダ、それに鉄道デザインのイラストなどの展示もあります。また鉄道関連ではお馴染みの行先表示板やヘッドマークプレート、方向幕も登場。ジオラマはNゲージでスカイライナーが疾走します。さらに新型スカイライナーの20分の1模型、ブルーリボン賞プレートなども並んでいました。

それに絵本作家で市川市在住の井上洋介さんの木版や水彩なども見どころではないでしょうか。井上さんが見つめた京成の沿線。江戸川や真間といった市川の風景も数多く描いています。


「スカイライナー2分の1カットモデル」

スカイライナーの2分の1カットモデルでは運転士の制服(子どもサイズのみ)を着て撮影することも可能。ちなみのこのモデル、東京都立城東職業能力開発センターの溶接科の生徒が二ヶ月に渡って作ったものとか。素材はアルミニウム合金。実に精巧です。


「本多貞次郎頌徳碑」(市川真間駅前)

手狭なスペースなので必ずしも十全とは言えないかもしれませんが、京成電鉄の長い歴史の一端に触れられたような気がしました。


京成電鉄新本社ビル(京成八幡駅前)

10月14日まで開催されています。

「京成電鉄展」 市川市芳澤ガーデンギャラリ
会期:8月31日(土)~10月14日(日)
休館:月曜日(祝日の場合開館、翌日休館)
時間:9:30~16:30
料金:一般300円、中学生以下無料。
住所:千葉県市川市真間5-1-18
交通:JR線市川駅より徒歩16分、京成線市川真間駅より徒歩12分。*市川駅北口に「市営無料レンタサイクル」(市川第6駐輪場)あり。
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「横山大観展」で夜間特別内覧会が開催されます

10月5日(土)から横浜美術館ではじまる「横山大観展ー良き師、良き友」。


「横山大観展ー良き師、良き友」@横浜美術館(10/5~11/24)

大観の画業だけでなく、今村紫紅や小杉未醒、また小川芋銭らといった画家との交流にも着目。主に大正期の近代日本画壇の一潮流を辿る展覧会でもあります。

その横山大観展にてブログ、WEBサイト、Twitter、Facebookアカウントをお持ちの方を対象にした夜間特別内覧会が行われます。

[横浜美術館「横山大観展」夜間特別鑑賞会 開催概要]
・実施日時:2013年10月5日(土)18:00~20:00(受付開始17:30~)
・会場:横浜美術館(横浜市西区みなとみらい3-4-1)
・スケジュール
 17:30~     受付開始
 18:00~18:30 ミニレクチャー(レクチャーホール)
 18:30~20:00 特別鑑賞会(展覧会会場)
・定員:150名
 *ブログ、WEBサイト、Facebookなどで本展について告知していただける方。
・参加費:無料
・申込み方法:
 下記、必要事項をご記入のうえ、右のアドレスへ返信。→taikannight@ypcpr.com
  氏名(ふりがな)
  本展についてご紹介頂けるWEBサイト・ブログ等のURL、Twitter、Facebookアカウント
  メールアドレス・電話番号
・締切 9月20日(事務局でのメール受信日)
 *当選メールは1件につき、お一人様のみ参加可能。
 *抽選制。当選はメールで連絡。電話でのお問い合わせは一切受け付けておりません。

開催日時は10月5日(土)の夜18時から20時まで。つまりは展覧会の初日。閉館後、貸し切りでの観覧です。また特典として横浜美術館主任学芸員八柳サエ氏によるミニレクチャーに参加出来る上、展示室内の撮影も行えます。(注意事項あり。)


横山大観(1868~1958)

[参加の特典]
1.開幕日(10月5日)の当日の夜間貸し切り特別鑑賞会です。
2.参加の皆様に、マスコミ用のプレスリリースを特別にプレゼントいたします。
3.音声ガイドを、無料で貸し出しいたします。
4.横浜美術館主任学芸員 八柳サエ氏によるミニレクチャーにご参加頂けます。
5.展示室内の撮影が行えます。(注意事項あり)

定員は150名。応募多数の場合は抽選です。申込期限の9月20日(金)までに「横山大観展 夜間特別鑑賞会」受付専用アドレスまで必要事項を明記の上、ご返信下さい。

申し込み先:横山大観展「夜間特別鑑賞会」受付専用アドレス→taikannight@ypcpr.com
 *必要事項:氏名(ふりがな)、WEB・ブログのURL、Twitter、Facebookアカウント、メールアドレス・電話番号


横山大観「屈原」1898年 厳島神社 *展示期間:10/5~10/16

嬉しいのは開催が土曜の夜ということです。それに本展は会期中、展示替えがあります。(前期:10/5日~10/30、後期:11/1~11/24)まずは先に前期を特別内覧会で鑑賞しておき、改めて後期は別の日に出向くいうのも良いのではないでしょうか。


小杉未醒「列仙屏風(左隻)」1915年 小杉放庵記念日光美術館

なお本展ではお馴染みの山口晃さんが展覧会タイトルと、大観の他、天心、紫紅らといった6名の画家の肖像画を描かれるとか。もう間もなく発表されると思います。期待しましょう。

「横山大観展ー良き師、良き友」 横浜美術館
会期:10月5日(土)~ 11月24日(日)
休館:木曜日。
時間:10:00~18:00(入館は17時半まで)
料金:一般1400(1300)円、大学・高校生1100(1000)円、中学生500(400)円。小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体。要事前予約。
 *毎週土曜日は高校生以下無料。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口から徒歩5分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩約10分。
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「引込線 2013」 旧所沢市立第2学校給食センター

旧所沢市立第2学校給食センター
「引込線 2013」
8/31-9/23



旧所沢市立第2学校給食センターで開催中の「引込線 2013」へ行ってきました。

2008年のプレ展からおおむね二年毎、所沢を舞台に開催されてきた現代美術の展覧会、「所沢ビエンナーレ 引込線」。今年は名称をシンプルに「引込線」に変更。会場も前回展の2つから1つへ。西武線航空公園駅よりバスで10分ほどの同市内中富地区、旧所沢市立第2給食センターにて行われています。

ともかく前回同様、給食センター跡地という場所を活かしての企画です。目の前にあるのは流し台や調理台に鍋。作品は果たしてどこにあるのか。空間全体で楽しめる展示となっていました。


旧所沢市立第2給食センター全景

それではまず会場の様子をご紹介。旧給食センター全景。ご覧の通りの簡素な建物です。入口は最奥部。建物の左手から奥へ回り込んで一番右手にあります。


「引込線2013」会場内

こちらは一階のメインフロアです。給食センターとして使用されていた設備が至る所に残されている。場所性を強く意識した展示です。そしてこの空間こそが引込線の醍醐味でもあります。


戸谷成雄「洞穴体ーミニマルバロックから」2011年 木・灰・アクリル

フロア中央に鎮座するのは戸谷成雄の「洞穴体」。作家を代表するミニマルバロックの彫刻シリーズ、チェーンソーで刻まれた表面が特徴的な作品、その姿はまるでモノリスのようです。


利部志穂「雨のない街」(部分)2013年 アルミニウム・磁石・LED・給食調理器・不要になったもの他

そしてうっかりすると見落としてしまうかもしれないのが、本年のアーティストファイルにも出品のあった利部志穂のインスタレーション、「雨のない街」です。


利部志穂「雨のない街」(部分)2013年

写真はインスタレーションの一部ですが、鍋に潜むのはミラーボールや鏡といった既製品。配管にはライトが灯され、シルバーシートが宙に張られています。作品は奥へと緩やかに繋がり、空間そのものを巻き込みつつ、また一方で対峙していました。


益永梢子「カップ一杯」2013年 小麦粉

益永梢子の「カップ一杯」がシンプルながらも美しい景色を描いています。調理台の上に並ぶ白い小山。素材は小麦粉です。おそらくは計量カップに入れたであろう小麦粉をそのまま逆さにして立てています。かつてこの場で使われていた素材が作家の手を介すことで作品となる。場所の記憶を呼び起こしています。


荻野遼介 展示風景

また絵画では荻野遼介の作品が目立っています。荻野の作品は色や形にどこか幾何学模様を連想させるものがありますが、今回はこの給食センターのタイルの壁面へ埋め込むように展示。それがタイルの正方形と半ば呼応して、非常におさまりよく並んでいるのです。


荻野遼介「1.2kg」2010年 アクリル絵具・キャンバス

配管下の一枚、「1.2kg」には思わずにやりとさせられます。描かれた測りは確かに1.2kgを示していました。


冨井大裕「銀色の垂直さん#3」2013年 水準器・バイス・クランプ

冨井大裕の「銀色の垂直さん」もまた給食センターという借景を効果的に用いた作品です。縦方向のみに並ぶ水準器。配管や調理器、また天井や蛍光管など、何かと『線』の際立つ給食センターの空間へ穏やかに主張しながら進入。美しく起立しています。


末永史尚 展示室風景

2階へあがりましょう。ここで面白いのは末永史尚の一連の作品。これが既存の部屋の設備や風景と呼応し、絵画にオブジェがさながら場の住人のようにおさまっているのです。作品と場の境界線。それを半ば曖昧にしてもいます。


遠藤利克「空洞説ー浴槽・身体」2013年 木・鉄・廃油・タール・(火)

建物外、別棟の倉庫の展示も見逃せません。ここでは何と言っても遠藤利克の「空洞説ー浴槽・身体」が圧巻の一言です。お馴染みの炭化した巨大な長方形の立方体廃油プール。黒ずんだ表面の質感、そして3mを越える立方体自体にも迫力を感じますが、床面には廃油がプールから漏れ出している。その滲みの痕跡がまた何とも言えない重みを持ちえています。


前野智彦「Stage of Uninhabited/island Season-Episode Final」(部分)2013年 汚水処理設備・DHMO他

引込線2013、確かに前回の2会場制の時よりは物理的にスケールダウンした感は否めませんが、やはりこの場所あってこその展示。現地へ出向かないと魅力は掴めません。ストイックなまでに場所を意識しています。

カタログは鋭意制作中でした。「引込線」のカタログは毎回、論文多数。非常に読み応えがあります。こちらも要チェックです。

[参加アーティスト]
伊藤誠、遠藤利克、荻野僚介、利部志穂、倉重光則、末永史尚、鷹野隆大、戸谷成雄、冨井大裕、登山博文、豊嶋康子、中山正樹、前野智彦、眞島竜男、益永梢子、水谷一、箕輪亜希子

[参加論考執筆者]
阿部真弓、荒川徹、石川卓磨、石崎尚、井上康彦、沢山遼、高嶋晋一、中井悠、野田吉郎、桝田倫広、松浦寿夫、峯村敏明、森啓輔、米田尚輝


中山正樹「BODY SCALE」2013年 ポリエステル樹脂・木・スリムライト・和紙

9/22(日)にはガイドツアー、それに各週末には「ゼミナール給食センター」と題したトークイベントも予定されています。また情報はツイッター(@hikikomisen)でもこまめに発信しています。

「引込線2013 イベント」

なお会場にはエアコンがありません。駅からはバスですが、バス停からも400~500mあります。暑いと大変です。少し涼しい日を狙って行っても良いかもしれません。また台数限定ながらも駐車場もあります。


「引込線2013」会場入口

入場は無料です。9月23日まで開催されています。

「引込線 2013」@hikikomisen) 旧所沢市立第2学校給食センター
会期:8月31日(土)~9月23日(月・祝)
休館:会期中無休
時間:10:00~17:00
料金:無料
住所:埼玉県所沢市中富1862-1
交通:西武新宿線航空公園駅東口より徒歩40分。航空公園駅東口より1番乗り場「西武バス航空公園駅」より所20-3系統「並木通り団地行き」または、新所03系統「新所沢駅東口行き」に乗り「並木通り団地入口」下車。バス停から約400m。
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「日本の絵 三瀬夏之介展」 平塚市美術館

平塚市美術館
「日本の絵 三瀬夏之介展」
7/13-9/16



平塚市美術館で開催中の三瀬夏之介個展、「日本の絵」を見てきました。

まるで画面から溢れんとばかりに噴き上がる山々に雲、そしてそこに隠れるかのようにそっと立つ建物や人、そしてすらりと飛ぶ飛行機。

モチーフは絶えず増殖しては分断し、いつしかカオスを成すかのように巨大な世界を築く。

現実と空想を超えた異界を描き続ける三瀬夏之介の絵画世界を言葉にするのは極めて困難。ともかく作品の前に立ち、圧倒され、その無限の広がりと奥行きを全身で受け止めるしかありません。

本展では三瀬の画業を近作を中心に展観。初期作から本年制作の最新作まで、約30点の作品が展示されています。

さて幾つかの作品の感想の前に全体の印象を。それは平塚市美術館の天井高を効果的に活かしたスケール感のある展示であることです。


「日本の絵~ハヨピラ」2013年

そもそも三瀬の作品は時に横10メートルを超えるようなものがあるほどに巨大。相応のスペースがないと展示出来ません。

かつての佐藤美術館での個展では手狭な空間を逆手にとり、作品を足の踏み場もないほど仕掛け、実に濃密な展示を行っていましたが、今回はシンプル。壁面いっぱいに大作が連続して並ぶという構成となっています。

三瀬の作品はまず引きで見てそのスケールに圧倒され、近づいて見て、いわば全体の「動」の中の「静」、つまりは静かに広がる水辺や野山、またそれらを象る細かな絵肌に感心することが多いのですが、少なくとも私は今回ほど広い空間で見たのは初めて。作品を見ているというよりも、その渦巻くエネルギーに飲まれるような感覚を受けました。

興味深いのは「奇景」です。何と全40メートルにも及ぶ大作ですが、これは三瀬が2003年から2010年の間に渡って描き続けたもの。会場ではスペースの都合上、上下2段で展示されていますが、左上から右下まで、目まぐるしく変化するモチーフを追っていると、作家のモノローグを聞いているような気持ちになってきます。


「ぼくの神さま」2013年

五重塔といった奈良の景色から、いつしかもっと険しく深い山々へ。三瀬は奈良の出身。そして現在は東北芸術工科大学で教鞭をとるために山形に在住しています。おそらくは彼が見てきたであろう景色、その移り変わりが反映されていました。

衝撃的な作品に出会いました。それが「日本の絵~小盆地宇宙」。壁面ではなく、順路を遮るかのように天井から吊るされた一枚です。

ともかくここで驚くのは風景が散り散りになっていることです。具体的には支持体の和紙そのものがいくつも裂け、向こう側が透けて見えるわけですが、かの増殖する風景が半ば解体され、崩れ落ちそうになりつつも、辛うじて留まる瞬間。これは破壊なのか。向こう側には紙の裂けた影がまるで鳥の羽ばたくように連なっている。それがまた意外なほどに美しいのです。


「だから僕はこの一瞬を永遠のものにしてみせる」(部分)2010年

三瀬自身、会場のキャプションでも二つの震災、つまり阪神と先の大震災について触れています。「日本の絵」の一つの行き先。まさかこのような作品が見られるとは思いませんでした。

「三瀬夏之介作品集 日本の絵/青幻舎」

会期末になってしまいました。トーク他、対談などに参加出来なかったのは心残りです。なお青幻舎より刊行の図録が充実しています。一般書籍の扱いです。書店でも販売しています。

圧巻の大作、それでいて緻密な画肌。図版では分かりません。こればかりは会場で体験するしかなさそうです。

9月16日までの開催です。おすすめします。

「日本の絵 三瀬夏之介展」 平塚市美術館@hiratsuka_art
会期:7月13日(土)~9月16日(月・祝)
休館:月曜日。但し7/15(月・祝)、9/16(月・祝) は開館、翌火曜休館。
時間:9:30~17:00 *「はじめての美術 絵本原画の世界2013」開催中は開館時間を1時間延長。
料金:一般200(140) 円、高大生100(70) 円、中学生以下、及び毎週土曜日の高校生は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *65歳以上の平塚市民は無料、市外在住者は団体料金。
住所:神奈川県平塚市西八幡1-3-3
交通:JR線平塚駅東口改札・北口4番バス乗り場より神奈川中央交通バス 「美術館入口」下車、徒歩1分。または「日産車体前」下車、徒歩5分。JR線平塚駅東口改札・北口、または西口から徒歩約20分。
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「レオナール・フジタ展」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム
「レオナール・フジターポーラ美術館コレクションを中心に」
8/10~10/14



国際最大のフジタコレクションを展観します。Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「レオナール・フジターポーラ美術館コレクションを中心に」へ行ってきました。

フジタと言えばまず思い浮かぶのは美しき乳白色。その質感表現はどのように成されたのか。意外と知られていない面も多いかもしれません。

本展ではそうした乳白色の『秘密』についても探求。乳白色の作品はもとより、フジタと関わりのあったエコール・ド・パリの画家、また彼がパリのアトリエに飾ったタイル画などを紹介。いくつかのトピックからフジタの画業を見る仕掛けとなっています。


レオナール・フジタ「タピスリーの裸婦」1923年 油彩/カンヴァス 京都国立近代美術館

さてはじまりは乳白色、その誕生です。1913年に渡仏、1920年代の初めには早くも乳白色で名を挙げたフジタ。「タピスリーの裸婦」に展開されるのも乳白色です。また細い面相筆による描線もフジタならではもの。またタピスリーに描かれた香しい花々も見どころです。どこかモミュメンタルでかつ彫像的な感も受ける裸婦像ですが、花や猫は思いの外に写実的に描かれていることが見て取れます。

また乳白色と並び興味深いのは、フジタが同時代の画家と如何に交流し、また彼ら彼女らから何を学んでいたのかということです。


アメデオ・モディリアーニ「ルニア・チェホフスカの肖像」1917年 油彩/カンヴァス ポーラ美術館

ここではフジタとともに、ルソー、モディリアーニ、パスキンらの作品もあわせて展示しています。ともに南仏に旅したモディリアーニやスーティンらと深く交流。モディの描く特徴的な首の長い人物像、言われてみればフジタの描く女性にもそのような表現が見られます。

さて最初にも触れた乳白色の秘密とは何なのか。それがベビーパウダーです。フジタは下地の油分を制御するためにベビーパウダーを用います。パウダーには墨を引きやすくするタルクという成分が含まれているのだそうです。

ちなみに本展では土門拳がパリのアトリエのフジタを捉えた写真も公開。そこには確かにベビーパウダーの缶が写っています。筆を手にとりキャンバスへと向かうフジタの姿には迫力がありました。


レオナール・フジタ「つばめと子供」1957年 油彩/キャンバス ポーラ美術館

展示後半のテーマは子どもとアトリエです。戦後、再びフランスへと渡ったフジタはパリを拠点に活動、子どもを主題とした作品を多く制作します。

フジタの描いた子どもは理想の家の住人のこどもです。そしてその家にはアトリエが。フジタは同じく理想のアトリエをマケット(模型)で表現。それが展示されているのです。

小さなベットにテーブル、そして暖炉。ドールハウスそのものですが、このマケットを舞台にして子どもを描いた絵画を描いているのもポイントです。例えば「たまごを持つ少女」はマケットの暖炉の前でのポーズ。また油彩の「室内」はそもそもマケット内部を描いたものです。またチラシ表紙、11人の子どもたちが円卓を囲む「誕生日」は、ポーラ美術館の創業家で二代目の鈴木常司が最初にコレクションした作品だとか。どこか無表情にも映る子どもたちもここでは生き生きとしています。


レオナール・フジタ「床屋」1958年 油彩/ファイバーボード ポーラ美術館

ラストはタイル画の「小さな職人たち」シリーズです。アトリエの壁面に飾るため、晩年にタイル画を200点ほど制作したそうですが、ポーラではうち95点を所蔵。それらの全てが公開されています。

またこれに先行して作られたアトリエのスペイン扉を飾るパネル画も紹介。また復元されたスペイン扉もあわせて展示されています。

最後に面白かった作品を一つ。それが大型の2面の油彩、「植物のなかの裸婦」です。青みを帯びた背景に絡む植物の蔓、そして裸婦の描かれた作品ですが、元々は屏風絵であったとか。戦後、GHQとともに来日してきた人物のために描かれたものだそうです。その装飾的な作風からはミュシャを連想しました。


レオナール・フジタ「秋」1953年 油彩/キャンバス ポーラ美術館

いわゆる回顧展ではなく、タイル画などの小品も多い展示ですが、いくつかのトピックに焦点を絞ったフジタ展。フジタ・ファンにはたまらない内容かもしれません。

「もっと知りたい藤田嗣治/林洋子/東京美術」

館内は余裕がありました。ゆったり楽しめると思います。

10月14日まで開催されています。

「レオナール・フジターポーラ美術館コレクションを中心に」 Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:8月10日(土)~10月14日(月・祝)
休館:会期中無休。
時間:10:00~19:00。毎週金・土は21時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300(1100)円、大学・高校生900(700)円、中学・小学生600(400)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。要電話予約。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。
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「富田菜摘 おとなの大運動会」 ギャルリー東京ユマニテ

ギャルリー東京ユマニテ
「富田菜摘 おとなの大運動会」
8/26-9/14



ギャルリー東京ユマニテで開催中の富田菜摘個展、「おとなの大運動会」へ行ってきました。

金属廃材や新聞や雑誌といった素材を用い、動物や人物の立体作品で知られる作家、富田菜摘。若手ながらも今年は佐藤美術館でも個展を開催。楽しくも、社会の世相を鋭く切り取るような作品世界を披露してくれました。

その富田が約3年ぶりにユマニテで個展を行っています。



では早速、ギャラリーの会場へ。入口から覗くと、おや新聞を広げた男性が立っている。もちろん近づいて見るとご覧の通り。新聞の切り抜きによる等身大の人物像。「さんざん待たせてごめんなさい」シリーズから「鈴木虎之介」と名付けられた人物です。


「さんざん待たせてごめんなさい」2008-2010年 新聞紙、ミクストメディア

このように富田はキャラクターに架空の人名を付けますが、その人物がまたいかにも彼ら彼女らを象徴する素材によって作られているのもポイント。お腹もポッコリ、中年の鈴木虎之介が開くのは新聞の健康欄。また身体の部分も株式欄などの紙面で構成されています。



一方で買物かごをぶら下げた同じく中年の女性、その名も「田中俊子」は電気店のチラシです。また女子高生の「佐藤奈々」はファッション誌で象られていました。


「騎馬戦ー国会乱闘」2013年 新聞紙、ミクストメディア

さてもう一つの部屋へ。こちらは壁にレリーフ状に展開された作品、これこそが今回の主役「おとなの大運動会」です。背広姿の男性がまるで取っ組み合いをするかのように広がっている。騎馬戦でしょうか。もの凄い形相です。



実はこれ、「騎馬戦ー国会乱闘」と名付けられたもの。取り合っているのは議員バッチ。よく見ると新聞は政治の記事。そういえば顔も何方かの議員に似ています。


「花いちもんめー合コン」2013年 雑誌、ミクストメディア

若い男女が向き合うのは「花いちもんめー合コン」。それこそ合コンです。そしてここでも身体に注目。女子には「かしこく、かわいく決める」の文字が。そして男子にも「モテる!!」やら「好印象」といった、おそらくはファッション誌から切り取られたであろうコピーが踊っています。



また運動会ということでファミリーの組体操も。逆立ちする男性はちょうど床面に手をつけるようにして必死の様子。臨場感があります。



これらのレリーフ状の作品は元々、浮世絵をモチーフとしたものから生まれているのだそうです。また先ほどの「国会乱闘」は鳥獣戯画がヒントとなったとか。巧みです。

【同時開催】
富田菜摘展 「小さな森」
会期:2013/9/2(月)~9/14(土) 日曜休 13:00~18:30
会場:Galerie412 渋谷区神宮前4-12-10 表参道ヒルズ 同潤館3F

9月14日までの開催です。おすすめします。

「富田菜摘 おとなの大運動会」 ギャルリー東京ユマニテ@gtokyohumanite
会期:8月26日(月)~9月14日(土)
休廊:日曜日
時間:10:30~18:30
住所:中央区京橋2-8-18 昭和ビルB2F
交通:地下鉄銀座線京橋駅6番出口から徒歩1分。JR東京駅八重洲口から徒歩8分。
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