2005年 私が観た美術展 ベスト10

昨日のコンサート編に続いて、美術展のベスト10です。いつもの如く、かなり迷いましたが、これをやると、今年あった展覧会をもう一度思い返すことができます。(昨年はこちらへ。

「2005年 私が観た美術展 ベスト10」

1 「北斎展」
   東京国立博物館 10/25~12/4
2 「杉本博司展 時間の終わり」
   森美術館 9/17~2006/1/9
3 「イサム・ノグチ展」
   東京都現代美術館 9/16~11/27
4 「小林古径展」
   東京国立近代美術館 6/7~7/18
5 「ジョルジュ・ド・ラ・トゥール展」
   国立西洋美術館 3/8~5/29
6 「ベルナール・ビュフェ展」
   損保ジャパン東郷青児美術館 7/23~8/28
7 「難波田龍起展」
   東京オペラシティアートギャラリー 7/15~9/25
8 「タピエス展 熱き絵画の挑戦」
   原美術館 3/30~5/29
9 「フィリップス・コレクション展」
   森アーツセンターギャラリー 6/17~9/4 
10 「李禹煥展 余白の芸術」
   横浜美術館 9/17~12/23

第1位は文句なしに東博の「北斎展」です。浮世絵から肉筆画まで、壮絶なその画業を、圧倒的なボリュームにて見せてくれました。特に晩年の、空恐ろしいまでの作品群!まだ頭から離れません。混雑ぶりもまた第一級ではありましたが、それを鑑みても、もう二度とないような、史上最強の北斎展でした。

そして2位は、たった今、今日見て来たばかりの杉本博司展です。作品自体は当然のこと、その見せ方の細部に至るまで、ともかく抜群の完成度を誇ります。今年見た、いわゆる現代美術の展覧会では堂々の1番です。ともかく素晴らしい!会期中、もう一度行きたいくらいです。

続いては、会場構成にやや批判もあった、木場の現代美術館での「イサム・ノグチ」展です。恥ずかしながら、この展覧会を見るまで、彼の作品にあまり感銘を受けたことがなかったのですが、「エナジー・ヴォイド」を初めとする、力感漲るその彫刻芸術に、ただひたすらに圧倒…。札幌のモエレ沼公園や、香川のイサム・ノグチ庭園美術館へ、是非とも足を運ばなければと思わせた展覧会です。

4番目は、近代日本画の巨匠、小林古径の大回顧展を挙げてみました。幸いにも前期と後期展示の両方を見ることが出来て、日本画を見る喜びを大いに味わえた展覧会です。また日本画と言えば、今年は山種美術館へも足繁く通いましたが、上村松園の個展や「百花繚乱展」などはかなり印象に残っています。それに、三越ギャラリーでの、大観や小倉遊亀の展覧会も、思わぬ充実度で見応え満点でした。こう振り返ってみると、日本画の深みにどっぷりはまった一年でもありました。

西洋美術館の底力を見せつけたような、ラ・トゥールの展覧会が第5位です。日本ではかなり知名度が低いと思われるこの画家を、大変に充実した形で見せたこと自体、とても素晴らしいと思いますが、一点一点の作品の質もこれまたピカイチで、闇の中でぽっかりと光る一瞬間の輝きの美しさを、存分に楽しむことが出来ました。ちなみに、西洋美術館では、来年、ロダンとカリエールの展覧会が予定されています。こちらも今から期待大です。

6位は損保ジャパン美術館での、ビュフェの展覧会です。これを見て、三島の「クレマチスの丘」にある、「ビュフェ美術館」へも出向くことになったのですが、被写体の存在感の強烈さという点で、ビュフェ以上に凄みを見せる画家もそういないのではないかと思わせたほどでした。これは予想以上に感銘させられた展覧会でした。

7番目はオペラシティーでの難波田龍起の回顧展です。難波田については、昨年、東京ステーションギャラリーで開催された、子の史男の展覧会が、拙ブログのランキングの5位に収まっているわけですが、今年の父龍起のランクインと合わせ、二年連続での栄誉に輝きました。(と偉そうに言っております…。)史男の作品が、脆さや儚さを連想させるとすれば、龍起のそれは、豪胆さと生命への意思。半ば対極にあるような親子の作品の連なりを、この二年間でゆっくりと味わうことができました。

8位は原美術館のタピエスでしょうか。同じく原でのやなぎみわ展も相当に楽しめたのですが、タピエスの作品に見る強い余韻感は、未だ体に染み付いています。アニミズム的な、素材の泥臭さをそのままに打ち出した作品たち。あまり日本では紹介されなかったこの作家の不思議な創作世界は、作品の美的解釈云々以前に、ただあるものとの対話を迫られる内容でもありました。

9番目には、いわゆる「名画展」の中で、驚異的な充実度を誇った森美術館のフィリップス・コレクション展を挙げたいと思います。極上のルノワールにシスレー、そしてマティス。既視感のある画家たちと言ってしまうのは失礼なほどに、一点一点が強く訴えかけてきます。特にマティスの「エジプトのカーテンがある室内」。これには心底驚きました。昨年、西洋美術館でのマティス展を見たのにも関わらず、この一作品で初めて彼のスゴさが分かったと言っても良いほどです。参りました。

そして最後は、このブログでも何度と取り上げた、横浜美術館の李禹煥展です。回顧展なら1位(?)だったかとは思うものの、それでも近作に見る、静謐な作品の雰囲気とは裏腹の過激さを、ヒシヒシと感じとることの出来た展覧会でした。レクチャー等で、李本人のたのしいお話をたくさん聞けたのも良い思い出です。今後の方向性は如何なるものになるのか。次の個展も、何時かは分かりませんが、非常に楽しみです。また追っかけます!

さて、今年は、このベスト10以外にも「番外編」として、強く印象に残った展覧会をいくつか挙げてみることにします。(これは、私が好きか、そして感銘したかはさておき、問題意識をストレートにぶつけられた、頭を殴られたような衝撃を味わった展覧会です。順不同。)

 「ゴッホ展」 東京国立近代美術館 
 「榎倉康二展」 東京都現代美術館 
 「マルセル・デュシャンと20世紀美術」 横浜美術館 
 「痕跡展」 東京国立近代美術館

ゴッホは、未だに好きになれない画家なのですが、この展覧会以来、彼の作品に出会う度に、その恐ろしい心象風景にタジタジとなります。デュシャンと痕跡展については、ずばり「芸術と何ぞや。」ということを、今更ながらに突き詰められた展覧会です。また、榎倉展は、会場構成等にも優れた企画で、かなり興味深く見ることが出来、感想にも色々とゴチャゴチャ書いてしまったのですが、今振り返ると、自分の作品に対する受容の度合いがまだ足りないようにも感じるので、「番外編」にてのピックアップです。

それにしても今年は、ともかく怒濤のように美術館へと繰り出しました。ランキングや番外編に挙げなかったものでも、まだここに記しておきたい展覧会がいくつかあります。それは、何故か首都圏各地の美術館で多く取り上げられた、通称(?)「ベルギー・シリーズ」の展覧会から「ジェームス・アンソール展」、また、写真美術館でのシリーズ企画「ものの見方~」展や、同じく写真展であるオペラシティでの「森山新宿荒木展」、さらには、東京ステーションギャラリーの「国芳 暁斎展」と、鑑賞会シリーズから千葉市美術館の「ミラノ展」などです。一昨年と昨年のベスト10と比べてみると、いわゆる現代美術がやや少ないようにも思うのですが、新年早々は、まず川村のリヒター展を予定しています。これは非常に楽しみです。

それでは、来年も美しく、また刺激的なアートに出会えることを祈って、今年最後のエントリにすることに致します。最後になりましたが、今年一年、この「はろるど・わーど」にお付き合い下さり、どうもありがとうございました。あと数時間で年が明けますが、みなさん、どうぞ良いお年をお迎え下さい!
コメント ( 13 ) | Trackback ( 0 )
« 「収蔵品展019... 謹賀新年 2006 »
 
コメント
 
 
 
Unknown (Julia)
2005-12-31 20:49:48
はろるどさん



はろるどさんのベスト10をすごく楽しみにしておりました。



はろるどさんらしいご選択と感想文にもう感激しております。今年はラ・トゥール展からはろるどさんとはブログでもお世話になっておりますが、ブログ仲間でも最優等生さんですね。



また、来年も何回か鑑賞会などでご一緒させていただけたらと思います。本年はお優しいコメントやTBなどありがとうございました。

どうぞ良いお年をお迎えくださいませ。
 
 
 
大晦日 (Tak)
2005-12-31 21:00:12
こんばんは

TBありがとうございます。



杉本展良かったでしょう~

私ももう一度できれば日が沈む時間帯に行きたいです。

そして能舞台に映る「光」をこの目で見たいです。



ここで買ってきた日本酒をお正月のお屠蘇にします。

(残りは新年会にでも)



川村のリヒター展は絶対絶対お勧めです。

これ観ないと後悔します。

そしてはろつどさんの感想が楽しみです。



長々と書きましたが

来年もどうぞ宜しくお願いいたします。
 
 
 
Unknown (Megurigami)
2005-12-31 21:01:09
はろるどさん、



残念ながら「北斎展」は行きたかったランキングに入ってしまいました。。。人が多いと聞くと迷ってしまいますね。



来年は是非、クラシックの方面でも教えていただければー、と思っております。



ではでは良いお年を!
 
 
 
素敵な選択ですね (自由なランナー)
2005-12-31 21:03:42
こんにちは。

なるほどな、と思いながらはろるさんのベスト拝見しました。

今年は、感動を与えてくれた美術展、多かったと思います。

来年も、素敵な作品に出会えるといいですね。
 
 
 
良いお年を! (r)
2005-12-31 21:06:13
はろるどさん、こんばんは



私はクラッシックの方は疎いのですが、美術系については楽しくブログを読ませていただいておりました。



来年も楽しみにしております。

時々コメントしにお邪魔したいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。



良いお年をお過ごしください。
 
 
 
TBさせていただきました (hamigaki)
2005-12-31 21:50:56
こんばんは!



はろるどさんの1位2位は、私の行きたかった1位2位です。

行きたかったなぁ。

杉本博司展はまだやってるだけに行けないのがより未練をそそります。。。
 
 
 
TB有難う御座います☆ (Shallot B.)
2005-12-31 22:04:01
TB有難う御座います☆



7位の『難波田龍起展』では、はろるどさんのおっしゃるように、生きることへの意志を感じさせる作品、特にその「青」の使い方が印象深かったと思います。



来年もまた、宜しくお願い致します☆

ひとまず、よいお年を☆

 
 
 
Unknown (lysander)
2006-01-01 01:11:54
コメントを入れたつもりでいたのですが、反映

されていなかったので、もう一度書かせていた

だきます。



昨年はお世話になりました。



今年は、是非、ギャラリー巡りをしましょう!

ではでは。
 
 
 
あけおめ (おけはざま)
2006-01-01 10:22:04
あけまして おめでとうございます.



タピエス,李禹煥,難波田龍起,ビュフェ



はろるどさんの趣味が出てますね.

今年も「はろるど・わーど」楽しませてもらいます.



今年もよろしくお願いします.
 
 
 
明けましておめでとうございます。 (アイレ)
2006-01-01 20:06:29
はろるどさん

明けましておめでとうございます。

私も拙いながらもBEST10を書きましたのでTBさせていただきます。

北斎展、すごかったですよね。人と作品に酔った記憶が蘇ります。あの膨大な作品が一人の手によって成されたかと思うと本当に驚愕です。

また昨年は日本画の素晴らしさを再認識できた年でもありました。

こうやってみますと日本は展覧会によって西洋画と日本画の名画を双方見られるので、ある意味お徳かもしれませんね。
 
 
 
Unknown (イッセー)
2006-01-01 22:00:59
はろるどさま

こんばんは、コメント&TBありがとうございます。

やっぱり今年は北斎ですよねえ、って私行けませんでした。残念。

また精力的にギャラー廻りされてますね、今年は私もギャラリー廻り復活させたいです。

今年もよろしくお願いします。

こちらからもTBさせていただきました。
 
 
 
Unknown (DADA.)
2006-01-01 22:34:19
あけましておめでとうございます。

TBとコメント、ありがとうございました!



はろるどさんのベスト10を拝見して、やはり今年も納得のセレクションだなぁ、と。

杉本展が上位にくる辺りが特にそう思います(笑)。

北斎展は、振り返ればもっと早い時期に覚悟を決めてしっかりと観るべき展示だったかと。



いま、というか秋から今にかけて文庫のイサム・ノグチ伝を読んでいるのですが、無論イサム展は面白かったし僕もベスト10に入れているのですが、映画よりも原作のほうが面白いっていうよくある話にも似た感覚があります。



今年は時間を作ってギャラリー巡り、ぜひご一緒しましょう!
 
 
 
みなさま、ありがとうございます! (はろるど)
2006-01-01 23:11:16
みなさま、コメントありがとうございます!

また新年あけましておめでとうございます!





@juliaさん



早速ありがとうございました。



>はろるどさんのベスト10をすごく楽しみにしておりました。



そうjuliaさんに仰っていただけると、

やって良かったなあなんて思います!



>今年はラ・トゥール展からはろるどさんとはブログでもお世話



こちらこそ本当にお世話になりました。

全く何から何までお任せしっぱなしで申し訳ないくらいです。

また今年も鑑賞会など楽しみです。どうぞよろしくお願いします!





@Takさん



杉本展、いやいや本当にもう言葉が見つからないくらいで…。

感銘しました。もう一度行きたいです。

夜も良いのでしょうねえ。

三日(?)にでも出向いてこようかななんて思っています…。



>ここで買ってきた日本酒をお正月のお屠蘇



如何でしたか?

結構お安かったですよね。

私もミュージアムショップで見ました。



リヒターは絶対絶対行きます!

もうとっても楽しみにしていますので。



それでは今年もどうぞよろしくお願いします!





@Megurigamiさん



コメントありがとうございます。



>人が多いと聞くと迷ってしまいます



そうなんですよね。

私も美術館の混雑は苦手なのですが、

幸いにも出向いた日がそうでもなく助かりました。



また是非お会いしましょう!

私もキリスト教美術にとても関心があるので、

色々とご教授願えればと思います。





@自由なランナーさん



コメントありがとうございます。

李の展覧会を自由なランナーさんがピックアップされておられるのが嬉しかったです!

私も頑張って(?)追っかけましたが、

終ってしまうと寂しい限りで…。



また今年もどうぞよろしくお願いします。





@rさん



こんばんは!いつもコメント嬉しいです!



rさんのベスト10も気になる所ですが、

如何でしょうか。



美術展では、rさんのコメントで気がつくことばかりなもので、

今年もまたよろしくお願いします!





@hamigakiさん



ようこそ拙ブログへお越し下さいました。

杉本展も北斎も巡回すると良いのですが、

残念ですよね…。



今後ともよろしくお願いします。

また名古屋方面のアート情報、楽しみにしております!





@Shallot B.さん



コメントありがとうございます。



難波田親子はもっと見られて良い作家かと思います。

オペラシティーでは常に見たいくらいですよね。



今年もよろしくどうぞ!





@lysanderさん



こんばんは。

二度手間になって申し訳ありません。不具合でもあったのでしょうか。最近のgooは安定しているかななんて思っていたのですが…。



そうですね。ギャラリー巡り!(と言う私はど素人ですが…。)

今年もまた変わらずお願いします!





@おけはざまさん



こちらこそおめでとうございます!



そうです。思いっきり趣味丸出しです。

ベスト10をやると、

みなさんの趣向も良く分かりますよね。



それでは今年もお願いします!

またお会いしましょう!





@アイレさん



こんばんは。TBとコメントをありがとうございます。



>北斎展、すごかったですよね。人と作品に酔った記憶が蘇ります。あの膨大な作品が一人の手によって成されたかと思うと本当に驚愕



まさに仰られる通りで!

信じ難い偉業ですよね!



>昨年は日本画の素晴らしさを再認識できた年



私も昨年は日本画にハマりました。

山種の常連です…。また行かないと…。(禁断症状??)



それではまた今年もよろしくお願いします。





@イッセーさん



イッセーさんの北斎展の感想を拝見したかったです。

ともかく何から何まで、壮絶な展覧会でした。



>精力的にギャラー廻りされてますね、今年は私もギャラリー廻り復活



イッセーさんも!

また記事を楽しみにしております。



それでは今年もどうぞよろしくお願いします。





@DADA.さん



こんばんは。



>今年も納得のセレクション



いえいえ、DADA.さんのも納得です。

榎倉だけがもの凄く迷ったのですが…。



>杉本展が上位にくる辺りが特にそう思います



あれはともかく、何から何までの完成度がすばらしいですよね。

これまでの森美術館ではベスト1です!

あれほど完璧に作品を見せるとは本当に脱帽…。

また意外なほど空いていたので、じっくりと楽しめました。



ノグチの評伝ですか。結構色々と出ていますよね。

私も少し追っかけてみたいです。



>今年は時間を作ってギャラリー巡り、ぜひご一緒しましょう!



是非!

今年もよろしくどうぞお願いします!
 
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。