「あそびのじかん」 東京都現代美術館

東京都現代美術館
「あそびのじかん」 
2019/7/20~10/20



東京都美術館で開催中の「あそびのじかん」を見てきました。

時に好奇心や創造性を喚起させる様々な遊びは、子どもと大人を問わず、多くの人々を夢中にさせてきました。

その遊びをテーマした展覧会が「あそびのじかん」で、6組の現代美術家らが参加型のインスタレーションを中心にした作品を発表していました。


開発好明「受験の壁」 2019年

開発好明が展示室内に巨大な壁を築き上げました。「受験の壁」なる作品で、古びたタンスを積み上げた、高さ8メートルのクライミングウォールでした。


開発好明「受験の壁」 2019年

一見するところ壁を超えなくては先に進めないようにも思えましたが、実際は1段目のみ手をかけることも可能で、右手には向こうへ抜けるための出口もありました。


開発好明「受験の壁」 2019年

開発は受験戦争で受験生の背負うプレッシャーを壁に表現していて、それぞれの背負う「家」の象徴を示すため、タンスを用いていました。さらに出口の先には何やら迷路のような空間が広がっていて、扉には「行き詰まった時、人生を振り返るのも良い。」なるテキストも記されていました。プレッシャーに置かれた状況下こそ、むしろ立ち止まって自らを省みることが必要なのかもしれません。


野村和弘「笑う祭壇」 2014/2019年

ひっきりなしにカラカラと鳴る音が聞こえてきました。それが野村和弘の「笑う祭壇」で、ボタンを小さな台座に乗せるゲームのような作品でした。そして会場では多くの人がボタンを手にしながら、台座を目がけ、線の外から何度も投げ入れる姿が見られました。


野村和弘「笑う祭壇」 2014/2019年

とはいえ、台座はあまりにも小さく、稀に当たって音を立てるものの、繰り返してもうまく乗せることが叶いません。(ボタンは1人小皿2杯分まで)いつの間にか躍起になって投げ込んでしまいましたが、ふと我に返って台座の下に広がる色とりどりのボタンを見やると、さも点描による抽象画のようにも思えました。


ハンバーグ隊「今までの行動や信頼性が一言の言葉で揺らぐなら、人のために何かをすることは∞でしかない」 2019年

私が思いがけないほどに引かれたのが、SNS上のグループチャットで活動し、13人のメンバーで構成されたハンバーグ隊のインスタレーションでした。ちょうど暗室の展示室の壁面に、三原色の映像が映されていて、時折、色が揺れ動いては、他の色と混じりっていました。またその動く様は奇妙なほどリズミカルで、しばらく眺めていると、思わずステップを踏んでは踊りたくなるほどでした。


ハンバーグ隊「今までの行動や信頼性が一言の言葉で揺らぐなら、人のために何かをすることは∞でしかない」 2019年

そして映像の反対にあるプロジェクターを見やると、実に意外なシステムで三原色が投影されていることが分かりました。というのも3つに重なったプロジェクターは、電動の乗馬フィットネス機器の上に置かれていて、ランダムに作動することで、映像が揺れ動いていたからでした。


タノタイガ「タノニマス」 2007年(2019年再制作)

一際、大勢の観客を集めていたのが、タノタイガによるお面のインスタレーション「タノニマス」でした。展示室内には床から天井へ至るまで無数のお面で彩られていて、多くはカラフルにデコレーションされていました。


タノタイガ「タノニマス」 2007年(2019年再制作)

実のところお面は作家の顔から型を取っていて、全て同じものでした。しかし会期中、観客がワークショップでお面にデコレーションをしていて、それらも同じように飾られていたわけでした。


タノタイガ「タノニマス」 2007年(2019年再制作)

ワークショップは事前の整理券制で、私が出向いた時は既に受付を終えていました。とは言え、展示室内では大人と子どもを問わず、文房具などを手に楽しそうにデコレーションをする姿を目の当たりに出来ました。同じ形のお面でありながら、デコレーション次第で無数に異なった表情を見せているのも面白いところかもしれません。


TOLTA「ポジティブな呪いのつみき」 2016年〜2019年

「言葉」の関わりをテーマに作品を発表している、TOLTAの展示も多くの観客の注目を集めていました。「ポジティブな呪いのつみき」では、複数の言葉が書かれたつみきがたくさん置かれていて、自由に組み合わては、思い思いの文章を作ることが出来ました。


TOLTA「ポジティブな呪いのつみき」 2016年〜2019年

ただ文章の組み合わせは、必ずしも全てに脈絡があるわけでなく、ポジティブな言葉ながらもシュールで、不穏な雰囲気を醸し出していました。



ラストは「みんなとアイディアを共有しよう」と題し、好きな遊びを紙に記入し、自由に壁にかけられるコーナーもあり、来場者同士で様々な遊び方を共有することも出来ました。多くの遊びの書かれた紙を前にした時、もはや遊びは人によって無限にあるとさえ思えました。


うしお「不如意の儀」 2019年

参加型の作品が多いため、動きやすい服装、あるいは靴がマストと言えるかもしれません。見るだけでなく、手足を動かし、そして作品について頭で考えては、まさに全身で遊ぶことの楽しさを感じられるような展覧会でした。

夏休み期間中(7/26~8/30)の金曜日は、サマーナイトミュージアムとして21時まで開館し、入館料が割引になります。 *学生は無料(要証明書)。一般・65歳以上は団体料金。


文谷有佳里 公開ドローイング作品

私もサマーナイトミュージアムを利用し、金曜の夕方以降に観覧してきましたが、場内は比較的余裕がありました。しかし先にも触れたようにタノニマスのワークショップの整理券の受付は既に終了していました。ワークショップに参加を希望する方は、早い時間に出かけた方が良いかもしれません。


毛利悠子「1/0」 2011年〜2016年

引き続きコレクション展の「MOTコレクションただいま/はじめまして」も見てきました。リニューアルオープン時の第1期とは一部の内容が入れ替わり、新たに小林正人、松本陽子、毛利悠子の3作家が展示に加わっていました。


小林正人「この星へ#2」 2009年

現代美術館の醍醐味の1つには充実したコレクション展にもあります。あわせてお見逃しなきようにおすすめします。


夏休みから秋に向けてのロングランの展覧会です。10月20日まで開催されています。

「あそびのじかん」 東京都現代美術館@MOT_art_museum
会期:2019年7月20日(土)~10月20日(日)
休館:月曜日。但し8月12日、9月16、23日、10月14日は開館し、8月13日、9月17、24日、10月15日は休館。
時間:10:00~18:00
 *7月26日、8月2、9、16、23、30日の金曜日は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1200(960)円、大学・専門学校生・65歳以上850(680)円、中高生600(480)円、小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOTコレクションも観覧可。
 *7月26日(金)~8月30日(金)の毎金曜日17時~21時はサマーナイトミュージアム割引あり。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分。都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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「中村弘峰 SUMMER SPIRITS」 ポーラミュージアムアネックス

ポーラミュージアムアネックス
「中村弘峰 SUMMER SPIRITS」
2019/8/8~9/1



ポーラミュージアムアネックスで開催中の「中村弘峰 SUMMER SPIRITS」を見てきました。

104年続く博多人形師の4代目として福岡に生まれた中村弘峰は、東京藝術大学大学院で彫刻を学んだ後、従来の概念に留まらない創作人形を作り続けては、人気を博してきました。


「黄金時代 波千鳥」 2019年

入口正面、右手で振りかぶっては、力強くボールを投げ込むピッチャーの姿が目に飛び込んできました。それが「黄金時代 波千鳥」なる作品で、東北楽天ゴールデンイーグルスの18番のユニフォームを身に付けていました。その番号からすれば、現在、MLBのヤンキースで活躍中の田中選手の楽天時代をイメージした人形なのかもしれません。


「黄金時代 波千鳥」 2019年

中村は、「江戸時代の人形師が、現代にタイムスリップしたらどうなるか。」という視点で制作していて、鮮やかな色彩による伝統的な文様を取り込みながら、主にスポーツ選手などの現代の人物を古典的な人形に表現してきました。


「不動如山」 2018年

その投手の先には、まるで狙い球を読みきったかのようにバットを得意げに構えるバッターに、真剣な眼差しでボールを受け取ろうとするキャッチャーもいて、野球における投打の攻防の緊迫したシーンが演出されていました。細かな彩色はもとより、丸みを帯びた身体の表現、さらには生々しい顔の表情なども魅力的と言えるかもしれません。


「この矢はずさせ給うな」 2019年

「この矢はずさせ給うな」なる作品は、中村が今年4月に生まれた次男のために作った端午の節句の人形で、平家物語の弓の名手、那須与一にあやかり、弓を大きく引いては的を狙うアーチェリー選手に表現しました。

やや眉間に皺を寄せ、口元を引いては弓を引く姿は真剣そのものでしたが、よく見ると頬には笑くぼも象られていて、ユーモラスな雰囲気も感じられました。


「Para Heroes:立石 アルファ 裕一」 2018年

「Para Heroes:立石 アルファ 裕一」は、現役のパラ卓球のナショナルチームに所属する立石選手をモデルとした作品で、江戸時代の京都で子どもの健康を願って作られたという「御所人形」のスタイルを反映させていました。ラケットを持ち、体を捻らせて構える姿は、まさに一瞬の動きを捉えていて、大変に緊張感があるのではないでしょうか。


「日はまた昇る Platinum」 2019年

さらに競馬のジョッキーやアメフト選手、ゴルファーなどの人形の他、靴や小さな動物を象った作品なども目を引きました。先の野球やアーチェリーなど、空間全体でスポーツを意識させる構成も面白いかもしれません。


「優駿サマースピリッツ」 2019年

昔の桃太郎などのヒーローを現代に置き換えると、スポーツ選手にあると考えた中村は、数年前よりアスリートをモチーフとした作品を作ってきました。いずれも力作揃いで、古典人形と現代のアスリートの意外な邂逅に見入りました。


9月1日まで開催されています。

「中村弘峰 SUMMER SPIRITS」 ポーラミュージアムアネックス@POLA_ANNEX
会期:2019年8月8日(木)~9月1日(日)
休館:会期中無休
料金:無料
時間:11:00~20:00 *入場は閉館の30分前まで
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
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「47酒店 酒づくりから、その土地の文化を学ぶ展覧会。」 渋谷ヒカリエ

渋谷ヒカリエ 8F d47 MUSEUM
「47酒店 酒づくりから、その土地の文化を学ぶ展覧会。」
2019/7/26~9/2



渋谷ヒカリエ 8F d47 MUSEUMで開催中の「47酒店 酒づくりから、その土地の文化を学ぶ展覧会。」を見てきました。

日本各地では、日本酒はもとより、ビール、焼酎、ウィスキー、ワインなど、地域の特性を活かしては、多様な酒が造り続けてきました。

そうした酒造りに着目したのが「47酒店 酒づくりから、その土地の文化を学ぶ展覧会。」で、47都道府県より各1社ずつ選ばれた、酒の生産者を紹介していました。



展示は北からはじまりました。まず目を引いたのは青森県のリンゴ農園であるもりやま園で、規格外のリンゴを使用したシードルなどを展示していました。同園ではリンゴ業界初の情報通信システム技術を開発し、日本では難しいとされてきた果樹の大規模農園を経営していて、捨てる作業をモノづくりに転換する発想から、通常廃棄されるリンゴを用いた商品を開発しました。



酒好きにはよく知られた蔵元と言えるかもしれません。宮城県を代表するのが、1973年に4社が集まって創業した一ノ蔵でした。一ノ蔵では米の9割以上を県内産で調達していて、有機や環境保全型の米を積極的に用いてきました。



茨城県の「鹿嶋パラダイス」にも目が留まりました。同県では初の農家直営のクラフトビール店として、ブルワリーとカフェを経営していて、自然栽培の野菜を手がけてきました。ラガータイプのビールなどが出展されていましたが、パッケージラベルも魅惑的かもしれません。



東京の港区にも酒造メーカーがあるとは思いもよりませんでした。それが2011年、かつて廃業した酒造若松屋の跡地に生まれた東京港醸造で、麹作りから瓶詰めなどを同区芝にあるビルの中で行ってきました。またキッチンカーを利用した日本酒イベントなど開いていて、作り手と顧客を繋ぐネットワーク作りにも積極的に取り込んできたそうです。三田駅に近いとのことで、私も一度、出向いてみたいと思いました。



元々は老舗の茶屋であった三重県の伊勢角屋麦酒も興味深いのではないでしょうか。茶屋として創業したのは1575年と極めて古く、醤油や味噌の製造を経て、1997年にビール醸造を開始し、以降、実力派のブルワリーとして注目を集めてきました。2018年には東京の八重洲にも旗艦店をオープンさせるなど、販路を拡大させながら精力的に活動しています。



岡山の北西部、新見市に位置する「domaine tetta」も地域性を活かしたワイナリーでした。ここでは同市の主産業である石灰業の石灰石採掘トンネルの中でワインを熟成、貯蔵していて、国内では珍しい坑道内の天然ワインカーブを利用してきました。トンネル内は無振動、かつ静音で、通年平均12~15度の温度に保たれているそうです。



様々な副産物を活用したビールで知られた、福岡県のブルーマスターも人気のブルワリーの1つかもしれません。九州各地の農産物や野菜に着目し、開業時から苺やかぼすなどの10種類のフルーツビールを開発してきました。この他にもコーヒー豆を使用したビールもあり、様々な味を楽しむことが出来ます。



ラストは日本最南端の沖縄で、同県の名産である泡盛の瑞泉酒造がピックアップされてきました。古くから伝わってきた麹菌が沖縄戦で壊滅したものの、その後、東京で真空保存されていたことが分かり、御酒と呼ばれる泡盛が誕生しました。私も焼酎と並んで好きなお酒の1つで、夏の暑い時期は、大きめの氷を入れたグラスへ並々と注いではロックを楽しむことが少なくありません。



いわゆる「全国銘酒案内」のような展示ではありませんが、それぞれの生産者による真摯で時に斬新な取り組みと、酒造りに対するポリシーを知ることが出来ました。


なお会場では一部の展示品を除いて購入も可能な上、キャッシュオンで複数のお酒を楽しめる「角打ち」もありました。



ただし販売数に限りがあるのか、既に完売していたり、入荷待ちの商品も少なくありませんでした。また要冷蔵の商品については、展示スペースではなく、ショップで販売されています。在庫状況などについては、あらかじめd47 MUSEUMまでお問い合わせ下さい。



9月2日まで開催されています。

「47酒店 酒づくりから、その土地の文化を学ぶ展覧会。」 渋谷ヒカリエ 8F d47 MUSEUM@d47store
会期:2019年7月26日(金)~9月2日(月)  
休館:会期中無休  
時間:11:00~20:00
 *最終入館は19:30まで。
料金:無料。
住所:渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ8階
交通:東急田園都市線、東京メトロ副都心線渋谷駅15番出口直結。東急東横線、JR線、東京メトロ銀座線、京王井の頭線渋谷駅と2F連絡通路で直結。
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「虫展-デザインのお手本-」 21_21 DESIGN SIGHT

21_21 DESIGN SIGHT
「虫展-デザインのお手本-」
2019/7/19~11/4



21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「虫展-デザインのお手本-」を見てきました。

約4億年前から地球上で生息してきた虫は、環境の変化に応じながらも多様に進化し、人間の生活とも深く関わってきました。

その虫をデザインの手本として捉えたのが「虫展-デザインのお手本-」で、虫好きで知られる解剖学者の養老孟司を監修に迎え、デザイナー、建築家、アーティストらが、虫からインスピレーションを受けた作品を展示していました。


佐藤卓「シロモンクモゾウムシの脚」 精密写真提供:小檜山賢二

いきなり虫の巨大模型が姿を現しました。それが佐藤卓による「シロモンクモゾウムシの脚」で、約5ミリほどしかないゾウムシの脚を、700倍ものスケールにして模した作品でした。下に潜って見上げると、まるで人が700分の1のスケールになっているような錯覚に陥るかもしれません。


阿部洋介+小檜山賢ニ+丸山宗利「虫のかたち」 映像編集:高野光太郎、音楽:蓮沼執太

阿部洋介らによる映像インスタレーション、「虫のかたち」も迫力満点でした。蓮沼執太による軽快な音楽とともに、前方3面、及び床面へ色とりどりの昆虫の拡大写真が次々と映されていて、まさに昆虫の世界を全身で浴びるように体感出来ました。


阿部洋介+小檜山賢ニ+丸山宗利「虫のかたち」 映像編集:高野光太郎、音楽:蓮沼執太

あまりにもカラフルな昆虫ばかりが映されるため、初めはCGかと思ってしまいましたが、実際は研究者が長年に渡って撮影し続けてきた昆虫の細密写真でした。そもそもこれほど大きな昆虫の写真を見る機会からして殆どありません。


吉泉聡「アメンボドーム」 制作協力:三原悠子(三原悠子構造設計事務所)

TAKT PROJECTの吉泉聡は、水に浮かぶアメンボに着想を得て、実際のアメンボの数百倍にも及ぶアメンボドームを築き上げました。ドームは固定されておらず、表面張力で建っていて、時折、風に揺られてか、ゆらゆらと動いていました。


パーフェクトロン「キレイとゾゾゾの覗き穴」 写真提供:奥山清市

パーフェクトロンの「キレイとゾゾゾの覗き穴」も面白いのではないでしょうか。ハンディタイプの万華鏡の中には虫が入れられていて、くるくる回転すると、まるで貴石を覗き込むかのようにキレイな光景が広がりました。しかしその一方、思わずゾッとさせられるような、言わばおぞましい模様も現れて、虫の一様ではない姿を知ることが出来ました。


向井翠「虫漢字のかんじ」

向井翠の「虫漢字のかんじ」も目を引く作品でした。壁の一面に、蚊や蚕、蜂など「虫」が付いている漢字のパネルが並んでいて、それぞれのパネルを押すと読み方が表示される仕掛けになっていました。


向井翠「虫漢字のかんじ」

特に興味深いのは、虹や蛸など、虫とは関係のないものにも虫が付いていることでした。何故に虫であるのかについて考えるのも面白いかもしれません。


鈴木啓太「道具の標本箱」 展示協力:針山孝彦(浜松医科大学)、小檜山賢二 標本協力:福井敬貴

今回、最も印象に深かったのが、鈴木啓太の「道具の標本箱」でした。ここでは虫の身体と人間の道具の関係について触れながら、てんとう虫の足を発想源にしたスニーカーや、カブトムシの頭角に着目した栓抜きなど、様々な道具を考案していました。


鈴木啓太「道具の標本箱」 展示協力:針山孝彦(浜松医科大学)、小檜山賢二 標本協力:福井敬貴

オニクワガタの歯をトングに見立てたり、エビガラスズメの巻き上げ式の口をメジャーになぞらえるなど、虫と道具を繋ぐアイデアからして面白いのではないでしょうか。その意外な組みあわせに終始、見入りました。


岡篤郎+小林真大「MAO MOTH LAOS」 サウンドデザイン:穴水康祐

ラオスを拠点に活動する小林真大の一日を追った、「MAO MOTH LAOS」のドキュメンタリー映像も目立っていたかもしれません。小林は、ラオスの首都のビエンチャンより車で8時間ほどに位置する、標高1400メートルの村、プークンに住んでいて、アジアの蛾のフィールド研究とブレイクダンサーとして活動を行なっています。


岡篤郎+小林真大「MAO MOTH LAOS」 サウンドデザイン:穴水康祐

小林が無数の蛾に囲まれながら、ダンスをする様子が映されていましたが、そもそも同国では市場に食用として虫が売られるなど、生活と昆虫が密接な存在にあり、虫が近くに飛んできても嫌がることはしないそうです。一様に虫といえども、生態はもちろんのこと、人とのあり方など、地域や国によって大きく異なることについて、改めて考えさせられました。


「虫マメチ」

会場の随所に掲示された「虫マメチ」と「養老語録」も見逃せません。「虫マメチ」は「コオロギの耳は脚にある」や「一番小さな昆虫は0.139ミリしかない。」などの豆知識を記していて、虫の生態を理解するのに有用でした。一方の「養老語録」は、監修の養老の虫に関したコメントが付されていて、いずれもが2015年に廣済堂出版より刊行された著作「虫の虫」のテキストの一節でした。


「虫の標本群」 標本蒐集:福井敬貴 標本協力:九州大学総合研究博物館

虫といえば、昨年、国立科学博物館で大規模な「昆虫点」が開催された他、今年も東京スカイツリータウンで「大昆虫展」が開かれるなど、各地で様々な展示が行われています。


隈研吾建築都市設計事務所+アラン・バーデン/江尻憲泰/佐藤淳「トビケラの巣」

しかしデザインの専門施設である21_21 DESIGN SIGHTだけに、率直なところ想像も付かないほど従来の昆虫展とは内容が異なっていました。虫の生態を通して、デザインの可能性を探る、かつてない虫の展覧会と言っても良いかもしれません。


会場内の撮影も可能でした。11月4日まで開催されています。

「虫展-デザインのお手本-」 21_21 DESIGN SIGHT@2121DESIGNSIGHT
会期:2019年7月19日(金)~11月4日(月・祝)
休館:火曜日。但し10月22日は開館。
時間:11:00~19:00
 *入場は閉場の30分前まで。
料金:一般1200円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料。
 *15名以上は各200円引。
住所:港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
交通:都営地下鉄大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅、及び東京メトロ千代田線乃木坂駅より徒歩5分。
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「青木美歌 前触れの石」 日本橋高島屋美術画廊X

日本橋高島屋美術画廊X
「青木美歌 前触れの石」 
8/14〜9/2



日本橋高島屋美術画廊Xで開催中の「青木美歌 前触れの石」を見てきました。

1981年に東京で生まれ、武蔵野美術大学工芸工業デザイン科ガラス専攻を卒業後、主に菌類やバクテリアなどのミクロな世界をガラスで表現してきた青木美歌は、これまでにも国内外で多くの展示を重ねてきました。



そして平成29年度にポーラ美術振興財団在外研究員にてアイスランドへと研修し、同地の自然に寄り添っては、「地球そのものの美しさや、大地に秘められたエネルギー」(解説より)を感じたとしています。その成果を踏まえたのが、今回の「前触れの石」とした個展で、ガラスによる彫刻、約10点ほどを出展していました。



青木はアイスランドにおける生活を、「地球に生じている現象がありのままにあり、夜には降る光の下で宇宙との繋がりの中に眠る日々」だったと振り返っています。



いずれも旧作と同様、微生物のように有機的でありながら、まるで宝飾品のような美しさをたたえていましたが、例えば雪の結晶や鉱石、ないし星など、より大地や宇宙をイメージさせるように思えなくはありません。また抽象的で、幾何学性が増しているようにも感じられました。



近年、青木は2017年に「あなたに続く森」と題し、銀座のポーラアネックスミュージアムでも個展を開催して、菌類や細胞などをモチーフとした作品を出展した他、同年にの21_21 DESIGN SIGHTの「野生展」にも参加し、博物学者の南方熊楠の用いた実験道具とともにガラスの作品を出展しました。



以来、都内では約2年ぶりの展示です。マクロへの関心を持ちつつも、より視野を広げ、自然や宇宙の形を取り出して表すような、どこか神秘的な作品に改めて見入りました。



撮影も可能です。9月2日まで開催されています。*写真は全て「青木美歌 前触れの石」より展示作品。

「青木美歌 前触れの石」 日本橋高島屋美術画廊X
会期:8月14日(水)〜9月2日(火)
休館:会期中無休。
時間:10:30~19:30 
料金:無料。
住所:中央区日本橋2-4-1 日本橋高島屋本館6階
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B1出口直結。都営浅草線日本橋駅から徒歩5分。JR東京駅八重洲北口から徒歩5分。
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「みんなのミュシャ」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム
「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ─線の魔術」
2019/7/13~9/29



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ─線の魔術」を見てきました。

アール・ヌーヴォーを代表するチェコの美術家、アルフォンス・ミュシャ(1860〜1939)は、グラフィックなポスターでも人気を集め、日本や西洋を問わず、後世のデザイナーや漫画家に多くの影響を与えました。

そうした影響関係を追ったのが「みんなのミュシャ」で、ミュシャのポスターや装飾パネルを発端に、1960年から70年代の英米のレコード・ジャケットやアメリカンコミック、はたまた日本の明治の文芸雑誌の挿絵から現代のマンガなど、約200点の作品を紹介していました。

会場内の一部の撮影が可能でした。(グレーの線の外より可。)



冒頭ではミュシャがポスター画家としての地位を確立するまでのプロセスを追っていて、モラヴィアの伝統工芸のガラス画や花瓶、また日本の七宝の花瓶や中国の刺繍、それにロココ風の家具などが展示されていました。こうした品々は、いずれもミュシャのコレクションとしてアトリエを飾っていたもので、制作のインスピレーションの源泉となっていました。言うまでもなく、ミュシャは当時、ヨーロッパで流行していたジャポニスムの影響を受けていて、初期のカリカチュアには北斎漫画との関連が見られるなど、日本美術についても深い関心を寄せていました。



続くのがミュシャのイラストレーターとしての活動に光を当てた内容で、主に1880年代にチェコの雑誌のために手がけた初期作品から、アール・ヌーヴォーの本のデザイン、それにイラストや雑誌などが並んでいました。パリ市の紋章で飾られたマントを羽織りながら、堂々たる姿で人々を見下ろすカーニヴァルの女王を描いた、「オー・カルティエ・ラタン」などの鮮やかなポスターも目を引くかもしれません。


女優サラ・ベルナールをモデルとした「ジスモンダ」などの、ミュシャの代表的な劇場ポスターもハイライトの1つでした。細かな装飾モチーフを衣装などに描きこみ、曲線や円などのパターンを組み合わせては、女性の立ち振る舞いを表現していて、まさに甘美でかつ優雅なミュシャ様式を目の当たりに出来ました。



ミュシャが欧米のグラフィック・アーティストらに影響を与えた1つの切っ掛けが、ミュシャの没後24年経過した1983年、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で開かれたミュシャ展でした。当時は冷戦下だったため、東欧のミュシャの記憶は、西側において幾分薄れていましたが、業績が再び顕彰されると、ミュシャの異世界的なイメージが、アメリカやイギリスのアーティストらの心を捉えました。とりわけ顕著だったのがロックのアート・ワークやコンサート・ポスターで、ローリング・ストーンズのアルバムなど、多くのイラストレーターらがミュシャ風の作品を作りました。



そうした一連のジャケット・デザインなども数多く出展されていて、ミュシャの作品と合わせ見ることが出来ました。この他、1990年代のテリー・ムーアやジョー・ケサダといったアメリカン・コミックも出展されていて、ミュシャとの影響関係について触れていました。率直なところ、ミュシャ展でアメコミが登場するとは思いませんでした。数多く開催されてきたミュシャ関連の展示の中でも、特にオリジナルでユニークな内容と言えるかもしれません。

今回、私が最も興味深かったのが、日本におけるミュシャの受容に関した展示でした。明治33年、与謝野鉄幹の主宰の「明星」の表紙にミュシャを彷彿させる挿画が登場すると、よほど評判を得たのか、次々と文芸誌や女性誌の表紙にミュシャやアール・ヌーヴォー風の女性像が描かれました。ミュシャの作品は20世紀初頭にはパリに留学していた学生らによって日本に紹介され、藤島武二も多くミュシャ風のデザインも手がけるなど、美術家にも影響を与えました。また与謝野晶子の歌集しかり、女性の近代的自我の象徴としてミュシャ様式が重視されたとの指摘もなされていました。



ラストは日本の現代のマンガやグラフィック・アーティストで、とりわけ目を引いたのがファイナルファンタジーシリーズのデザインを手がけた天野喜孝の作品でした。実のところ私も初期のファイナルファンタジーをいくつかプレイした記憶がありますが、当時はキャラクターデザイン等にミュシャやアール・ヌーヴォーとの関係を意識したことが全くなかっただけに、意外な邂逅に思わず見入ってしまいました。

私にとってロックやアメコミなど未知な作品も多い分、ミュシャとの関係などに発見の多い展覧会でもありました。おそらくアートファン以外にも大きく引きのある内容ではないでしょうか。



最後に巡回の情報です。Bunkamuraでの展示を終えると、全国各地へ以下のスケジュールで巡回します。

京都文化博物館:2019年10月12日(土) 〜2020年1月13日(月・祝)
札幌芸術の森美術館:2020年1月25日(土) 〜4月12日(日)
名古屋市美術館:2020年4月25日(土) 〜6月28日(日)
静岡県立美術館:2020年7月11日(土) 〜9月6日(日)
松本市美術館:2020年9月19日(土) 〜11月29日(日)

お盆休み中に観覧してきましたが、待機列こそなかったものの、会場内はかなり賑わっていました。実際、同展の公式サイトによれば、現在、土日の昼間の時間を中心に混み合っています。よって金曜、土曜の夜間開館(21時まで)も有用となりそうです。



9月29日まで開催されています。 *掲載写真は全て「みんなのミュシャ」会場風景。撮影OKコーナーで撮影しました。ラスト1枚は会場外のパネル。

「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ─線の魔術」@mucha2019) Bunkamura ザ・ミュージアム@Bunkamura_info
会期:2019年7月13日(土)~9月29日(日)
休館:7月16日(火)、7月30日(火)、9月10日(火)。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金・土は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学・高校生1000(800)円、中学・小学生700(500)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。要事前予約。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。
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「川島小鳥 まだなまえがないものがすき」 キヤノンギャラリーS

キヤノンギャラリーS
「川島小鳥 まだなまえがないものがすき」
2019/7/20~9/9



キヤノンギャラリーSで開催中の「川島小鳥 まだなまえがないものがすき」を見てきました。

1980年に生まれた写真家の川島小鳥は、2007年に「BABY BABY」でデビューを果たすと、2015年には「明星」で第40回木村伊兵衛写真賞を受賞するなどして評価を得てきました。



一面の暗がりの展示室の中に大小様々な写真が目に飛び込んできました。それが川島が過去に撮りためてきた「数えきれない世界のカケラ」なる作品で、モノクロ、カラーを合わせて約100点ほどが展示されていました。



いずれの写真も都市の日常的な風景などを捉えていて、とりわけ人を写したポートレートには、対象に近しい親密な雰囲気が感じられました。また作品は自然体でありながらも、モチーフを部分的に切り取った、風景の断片、言わば「カケラ」を捉えているような印象も受けました。



ラーメン屋のカウンターと思しき店内や、電車の中でつり革に両手でつかまって立つ人、そしてゴミが無造作に捨てられたゴミ捨て場のほか、たくさんの食品サンプルの並ぶショウウインドウ、はたまた昼間の山手線のホーム、あるいは車窓から眺めた雑多な街並みの向こうのスカイツリーの写真なども目を引きました。それこそ誰もが目にするような光景と言えるかもしれません。



また必ずしも明示的ではないものの、幾分、年代を感じさせる写真が混じっているのも興味深いところでした。実際に作品の中には20年前に撮った写真も含まれていました。



さて会場では川島の写真の他にもう1つ、重要な要素が組み込まれていました。それが写真とともにランダムに展示されたテキストで、全てが川島と親交の深い谷川俊太郎による詩作でした。それらは「かなしみ」や「はにかむ」、「できたら」などと題した短編の作品で、全部で30編ほどありました。



谷川のテキストを通して、改めて川島の写真に接すると、点在する風景などの「カケラ」が互いに響きあい、複数の物語が紡がれるようにも感じられるかもしれません。写真と詩を見やりつつ、漠然とストーリーを頭に浮かべながら、会場を2巡、3巡しては楽しみました。



なおタイトルの「まだなまえがないものがすき」とは、谷川の詩、「どうでもいいもの」の一節を引用したそうです。そうした「なまえがないもの」や「どうでもいいもの」が川島のファインダーを通して見ると、どこか愛おしく思えてなりませんでした。

9月9日まで開催されています。

「川島小鳥 まだなまえがないものがすき」 キヤノンギャラリーS
会期:2019年7月20日(木)~9月9日(月)
休廊:日・祝日。夏季休館:8月10日(土)~8月18日(日)
時間:10:00~17:30
料金:無料
住所:港区港南2-16-6 キヤノンSタワー1階
交通:JR品川駅港南口より徒歩約8分、京浜急行線品川駅より徒歩約10分
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「原三溪の美術 伝説の大コレクション」 横浜美術館

横浜美術館
「生誕150年・没後80年記念 原三溪の美術 伝説の大コレクション」
2019/7/13~9/1



横浜美術館で開催中の「生誕150年・没後80年記念 原三溪の美術 伝説の大コレクション」を見てきました。

1868年に岐阜で生まれ、横浜を拠点に生糸貿易や製糸業で財を成した原三渓(本名:富太郎)は、書画を描き、茶を嗜み、美術品を蒐集したり日本画家を援助するなど、文化面でも幅広く活動しました。

その原三溪の旧蔵品が横浜美術館へ一堂に集まりました。出展数は約150点(展示替えあり)に及び、このスケールで公開されたのは、没後にコレクションが分散した後、初めてことでもあります。

冒頭のプロローグ、原三溪が自ら描いた「白蓮」に心惹かれました。そもそも三溪は、母方の祖父である南画家の高橋杏村に絵を学ぶなど、幼少期の頃から書画や詩文に親しんでいました。同作は輪郭線を用いず、淡い色彩によって蓮を表した作品で、三溪は故郷の岐阜の生産で有名な蓮を多く描きました。



「乱牛図」は三溪が16歳の頃に描いた一枚で、放牧牛や牧童を南画風に表していました。また先の高橋杏村や、長男で三溪の叔父に当たる高橋杭水の南画も展示されていて、あわせて見比べるのも興味深いかもしれません。

平安や鎌倉期の仏画をはじめ、雪舟や雪村、それに光琳から応挙、さらには玉堂に鉄斎など、三溪の蒐集した書画も大変に見応えがありました。「愛染明王像」は、数少ないとされる平安期の愛染明王の優品で、蓮華座の上で口を開け、6本の腕を四方へ伸ばしては、見る者を畏怖するように座る姿を捉えていました。


「寝覚物語絵巻」 平安時代後期(12世紀) 大和文華館 展示期間:8月9日(金)~9月1日(日)

「寝覚物語絵巻」も絶品でした。11世紀末頃に成立した「夜の寝覚」なる絵巻の末尾部分の残欠で、戸外で桜が可憐に咲く光景などを、実に繊細でかつ優美に表していました。またどこか装飾的な表現も印象的でしたが、実際にも三溪は本作において、琳派の創作者が何らかの刺激を受けたのではないかと指摘しているそうです。

伝毛益の「萱草遊狗図」も忘れられません。南宋の宮廷画家による作品で、親犬と戯れ合う子犬などを可愛らしく、また生き生きと描いていました。三溪は本作を大正8年、同じく毛益作とされる「蜀葵遊猫図」とともに購入して、「優秀ナルモノ」と高く評価しました。先の「寝覚物語絵巻」とあわせ、三溪の蒐集した古美術品の中でもすこぶる優品と言って良いかもしれません。

江戸時代の絵画では浦上玉堂の「積翠鐘声図」に魅せられました。墨を重ねては、迫り上がるような山水の風景を表現していて、何とも言い難い躍動感も感じられました。この他、小品ながらも、余白を活かしては、虹の広がる様を雄大に示した応挙の「虹図」も印象に残りました。

三溪は茶や懐石の際、伝統的な作法によらず、自由な趣向で楽しんでいたそうです。それゆえか茶にまつわるコレクションも実に幅広く、会場でも奈良時代の水瓶から桃山の黒織部、朝鮮の刷毛目茶碗、それにシリア北部のラッカの杯や香炉など、様々な品が展示されていました。そのうち特に見入ったのが、森川如春庵の「信楽茶碗 熟柿」で、それこそ熟れきった柿色に染まった、表面のざらりとした質感に心惹かれました。


下村観山「弱法師」 大正4(1915)年 東京国立博物館 展示期間:8月9日(金)~9月1日(日)

ラストはパトロン三溪、すなわち三溪が支援した同時代の日本画家の作品でした。ここでは下村観山の「弱法師」や菱田春草の「秋林遊鹿」、さらに今村紫紅の「近江八景」、小林古径の「極楽井」や速水御舟の「萌芽」など、いずれも甲乙つけがたいほどに魅力的な作品が並んでいました。三溪は単に美術家を金銭的に援助しただけでなく、古美術品を見せる場を与えたりするなど、教育的な支援もあわせて行っていました。ともすると近代日本画の発展は、三溪の存在なくしては成し得なかったのかもしれません。



展覧会にあわせ、同館内アートギャラリー1で行われている「もっと知ろう!原三溪―原三溪市民研究会10年の足跡」も充実していました。2007年に「原三溪翁伝」を読み解くために発足した市民研究会による展示で、原三溪の人間像や足跡を写真や解説パネルなどで事細かに紹介していました。

最後にイベントの情報です。8月の後半、5日間限定にて横浜美術館と三渓園を結ぶ無料のシャトルバスが運行されます。



5日間限定!「横浜美術館・三溪園間 無料シャトルバス」(PDF案内
運行日:8月19日(月)、20日(火)、21日(水)、23日(金)、26日(月)
料金:無料。(要整理券、先着順、定員制)
*美術館からの乗車は「原三溪の美術」展のチケット半券の提示が必要。

横浜美術館発は11:10、12:30、14:00、15:20で、三溪園発は10:30、11:50、13:20、14:40、17:10で、各便26人までの定員制です。横浜美術館、三渓園とともに当日、事前に整理券を配布し、なくなり次第終了となります。

所要時間は約30分ほどです。三溪園へは通常、美術館の最寄駅である桜木町からも市営バスで行き来可能ですが、シャトルバスを利用して改めて三溪園を散策するのも良いかもしれません。なお展覧会会期中に限り、本展のチケットを提示すると三溪園の入園料が100円引、また三溪園の入園チケットで本展の観覧料が300円引になります。


お盆休み期間中の平日に観覧してきましたが、混雑こそしていなかったものの、場内は思いの外に盛況でした。会期末も迫り、終盤にかけてより多くの方で賑わうのではないでしょうか。



まさにご当地、横浜美術館のみの単独の展覧会です。巡回はありません。

9月1日まで開催されています。

「横浜美術館開館30周年記念 生誕150年・没後80年記念 原三溪の美術 伝説の大コレクション」 横浜美術館@yokobi_tweet
会期:2019年7月13日(土)~9月1日(日)
休館:木曜日。
時間:10:00~18:00
 *毎週金曜・土曜は20時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1500)円、大学・高校生1200(1100)円、中学生600(500)円、小学生以下無料、65歳以上1500円
 *( )内は20名以上の団体料金。要事前予約。
 *毎週土曜日は高校生以下無料。(要学生証)
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口から徒歩5分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩約10分。
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「円山応挙から近代京都画壇へ」 東京藝術大学大学美術館

東京藝術大学大学美術館
「円山応挙から近代京都画壇へ」 
2019/8/3~9/29



東京藝術大学大学美術館で開催中の「円山応挙から近代京都画壇へ」の報道内覧会に参加してきました。

18世紀の京都では、写生画で名を馳せた円山応挙による円山派とともに、蕪村や応挙に師事した呉春によって四条派が結成されると、以降、円山・四条派として、近代へ至った京都画壇の中心的な位置を占めました。

その円山・四条派の系譜を辿るのが「円山応挙から近代京都画壇へ」展で、応挙、呉春をはじめに、長沢芦雪、岸駒、松村景文らの江戸の絵師から、竹内栖鳳、上村松園など昭和の画家の作品、約123点が一堂に会しました。(展示替えあり)


大乗寺襖絵 立体展示

冒頭、会場入口からして目を引くのが、ハイライトでもある大乗寺の襖絵の立体展示でした。大乗寺は、日本海に面した、兵庫県北部の香住町にある高野山真言宗の寺で、応挙を筆頭に門人13人の絵師が、合計13の部屋に165面もの障壁画を描きました。現在は全ての障壁画が重要文化財に指定され、同寺も応挙寺と称されています。


円山応挙「松に孔雀図」 寛政7(1795)年 兵庫・大乗寺 重要文化財

うち今回出展されたのは、応挙の「松に孔雀図」や呉春の「四季耕作図」など6点の障壁画で、ちょうど正面に応挙の「松に孔雀図」が左右に4面ずつ、計8面広がっていて、その裏に呉春の「四季耕作図」と山本守礼の「少年行図」、さらに亀岡規礼の「採蓮図」と呉春の「群山露頂図」が展示されていました。ちょうど十字を描くような形の設えと言って良いかもしれません。


円山応挙「松に孔雀図」(部分) 寛政7(1795)年 兵庫・大乗寺 重要文化財

応挙の「松に孔雀図」は、墨一色で松や孔雀を金地へほぼ原寸大で描いていて、粒子の荒い墨と細かい墨を重ねては、緑がかった松葉などを表現していました。また孔雀の羽は、光の当たり方によっては、僅かに青みを帯びているようにも思えました。応挙の手にかかると、墨も実に多様な表情を見せることに改めて感心させられました。


呉春「群山露頂図」 天明7(1787)年 兵庫・大乗寺 重要文化財

呉春の「群山露頂図」も魅惑的でした。山の頂の部分のみを、まるで空を飛ぶ鳥の視点から俯瞰するように描いていて、霧に包まれた深山幽谷の景色を幻想的に表していました。また筆触は時に点描のように細かく、師の蕪村の南画的な作風を思わせる面がありました。


長沢芦雪「花鳥図」(左) 天明年間後期(1785〜89) 株式会社千總

この一連の障壁画を囲んだ、円山・四条派にも引かれる作品が少なくありません。一例が長沢芦雪の「花鳥図」で、左右の画面へ岩や藤、あるいは水流などを表し、その中に妙に人懐っこい雀や燕などを描いていました。左の藤の枝ぶりは応挙の「藤花図屏風」を連想させるものの、突然に屈曲する姿や、右の岩の奇態な様からは、芦雪の強い個性を伺えました。


国井応文・望月玉泉「花卉鳥獣図巻」 江戸時代後期〜明治時代 京都国立博物館

円山派の5代目の国井応文と4代目望月派の望月玉泉の合作である「花卉鳥獣図巻」も見逃せませんでした。鶏に孔雀、鹿や山羊、それに犬や兎などの動物と、水仙や紅葉といった植物を、上下巻とも実に10メートルを超える長さに表していて、1つ1つの動植物はさながら博物図鑑を開くかのように写実的でした。

さて必ずしも時系列に円山・四条派の系譜を追っていないのも、展覧会の特徴かもしれません。むしろ近世と近代の絵師、ないし画家の作品を合わせ並べることで、双方の個性が浮かび上がるような内容にもなっていました。


右:長沢芦雪「薔薇蝶狗子図」 寛政後期頃(1794〜99) 愛知県美術館(木村定三コレクション)
左:竹内栖鳳「春暖」 昭和5(1930)年 愛知県美術館(木村定三コレクション)

その1つが長沢芦雪の「薔薇蝶狗子図」と竹内栖鳳の「春暖」で、前者では丸っこく可愛らしい応挙犬に倣いながらも、より人の赤ん坊のように無邪気で楽しげに戯れる5匹の子犬を描いていました。一方の栖鳳も、同じ犬をモチーフとしていて、より写実を追求しつつも、モダンな雰囲気を醸し出していました。何やら怪訝に人を見据える仕草もリアルかもしれません。


岸竹堂「猛虎図」 明治23(1890)年 株式会社千總

岸竹堂の「猛虎図」が並々ならぬ迫力を見せていました。六曲一双の中央に水の落ちる渓流を表し、右隻に3頭、左隻に1頭の虎を配していて、うち右の1頭は吠え立てているのか、大きな口を開けては威嚇していました。岸竹堂は、虎を得意とした岸駒に連なる岸派の画家で、明治19年にイタリアから来日したサーカス団で実際の虎を観察した後、この作品を描きました。

動植物を写実的に捉えた円山・四条派の絵師らは、風景においても実際の場所を描くことを重視し、その場に立った時の臨場感を写そうと試みました。それは山水画と言うよりも風景画的で、後の近代絵画へと続いていきました。


塩川文麟「嵐山春景平等院雪景図」 文久3(1863)年 京都国立博物館

塩川文麟の「嵐山春景平等院雪景図」は、右に雪の平等院、左に桜の咲く嵐山を描いていて、とりわけ後者では応挙の「嵐山春暁図」を思わせるなど、応挙、つまりは円山派より写生を受け継ぎました。


岸竹堂「大津唐崎図」 明治9(1876)年 株式会社千總

また先の岸竹堂も「大津唐崎図」において、実景のスケッチを基に琵琶湖畔の唐崎を表していて、家々の立ち並ぶ大津の浜や四方へ枝を伸ばした唐崎の松などを、金銀泥を用いてやや幻想的に描いていました。奥行きのある空間表現などは、西洋画的とも呼べるかもしれません。


左:円山応挙「江口君図」 寛政6(1794)年 静嘉堂文庫美術館

人物画にも優品が少なくありませんでした。応挙の「江口君図」は、謡曲の「江口」から、遊女が境涯を嘆きつつ、世の無常を悟り、菩薩と化して消えゆく場面を表していて、白象に乗った普賢菩薩として姿を暗示していました。それにしても遊女は実に気品があり、泰然としてはいないでしょうか。また着物の柄なども細かに描かれていて、晩年の作とは言えども筆に衰えは感じられませんでした。


右:上村松園「羅浮仙女図」 大正時代末期

上村松園の「羅浮仙女図」も忘れられません。唐の時代の物語の仙女をモデルとしていて、月明かりの下、白い花をつけた梅の木を背に、目を伏してはやや笑みをたたえて立つ唐美人を描いていました。松園は大正の後半より昭和の初めにかけ唐美人を多く描きましたが、一部には円山派の描いた画を参照したとも指摘されています。


円山応挙「写生図巻(乙巻)」 明和7(1770)〜安永元(1772)年 株式会社千總 重要文化財

最後に展示替えの情報です。会期中、前後期を挟み、作品の大半が入れ替わります。

「円山応挙から近代京都画壇へ」出品リスト(PDF)
前期:2019年8月3日(土)~9月1日(日)
後期:2019年9月3日(火)~9月29日(日)

総出展数123件のうち、通期で公開されるのは、大乗寺の襖絵6面と森寛斎の「魚介尽くし」、それに川合玉堂の「鵜飼」のみに過ぎません。よって前後期の2つで1つの展覧会として捉えて差し支えありません。 *国井応文・望月玉泉の「花卉鳥獣図巻」、野村文挙の「近江八景図」、松村景文の「景文画帖」は、それぞれ通期展示ながらも前後期で巻替え、及び場面替え。


亀居山大乗寺(通称:応挙寺)と香美町香住地区の展望 *プロジェクターによるパノラマ映像展示

また本展は藝大美術館での会期を終えると、京都国立近代美術館へと巡回(2019/11/2~12/15)しますが、大乗寺の襖絵は全点入れ替わります。つまり大乗寺の襖絵を全て見るには、東京と京都の両方の展示を見る必要があります。


「円山応挙から近代京都画壇へ」会場風景

応挙の作品を見る機会は必ずしも少なくありませんが、これほど円山・四条派を網羅的に紹介した展覧会はなかったのではないでしょうか。作品は粒ぞろいで、見応えがありました。


9月29日まで開催されています。おすすめします。

「円山応挙から近代京都画壇へ」@okyokindai2019) 東京藝術大学大学美術館
会期:2019年8月3日(土)~9月29日(日)
 *前期:2019年8月3日(土)~9月1日(日)、後期:2019年9月3日(火)~9月29日(日)
休館:月曜日。但し月曜日が祝日または振替休日の場合は開館、翌日休館。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1500(1200)円、高校・大学生1000(700)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「第13回 shiseido art egg 小林清乃展」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「第13回 shiseido art egg 小林清乃展」
2019/8/2~8/25



資生堂ギャラリーで開催中の「第13回 shiseido art egg 小林清乃展」を見てきました。

1982年に愛媛県に生まれた小林清乃は、かねてより無名の人や市井の人が残した言葉に関心を寄せては、「私とそれ以外の世界の関わり」(解説より)をテーマにした作品を発表してきました。



暗がりの空間の中、ステージの上で円を描くように並ぶのが、7台の小さなスピーカーで、いずれも女性の音声で、日常の何気ない出来事と思しき内容のテキストが日本語でひたすらに語られていました。しかししばらく聞いていくと、それぞれには戦争についての話題があるなど、少なくとも現代の日本とは異なった時代が舞台であることが分かりました。



実際のところ、そのテキストは、1945年の3月から約1年間、東京の女学校を卒業した7人の残した手紙で、現在の同世代の女性が演じつつ朗読していたものでした。そして手紙の故か、くだけた話し言葉ではなく、書き言葉であるのも特徴でした。今ではなかなか聞くことの出来ない畏まった言葉のように思えるかもしれません。



それぞれの手紙は、日付に基づき、時系列でかつ同時にスピーカー上で再生されていて、相互に関わりあうようで、すれ違うような、複雑な音声のコミュニケーションが築かれていました。



小林は一連のサウンドインスタレーション「Polyphony 1945」において、戦争によって散り散りになった女性が手紙の中で語った「ふたたび、逢いたい」との気持ちを、過去の手紙の声と今に発する声にて、時空を超えて再会させたいと考えたそうです。中には東京大空襲で被災したり、終戦前に広島へと疎開した女学生もいました。



バッハの「平均律 クラヴィア第13番」のピアノの厳かな調べが聞こえてきました。戦争中もクラシック番組は放送されていて、こうしたピアノ曲を女学生らが聞きつつ、手紙に感想を書きあったこともあったそうです。



2つの原子爆弾が甚大な被害をもたらし、多くの人命を失いつつ、ようやく終戦へと至った1945年の8月から、今年で74年を迎えます。物静かに、しかしどこか気位高く日常を語る女学生の声を通し、改めて戦争や平和について考えたい展覧会と言えるかもしれません。



【第13回 shiseido art egg 展示スケジュール】
今村文展: 2019年7月5日(金)~7月28日(日)
小林清乃展:2019年8月2日(金)~8月25日(日)
遠藤薫展: 2019年8月30日(金)~9月22日(日)


8月25日まで開催されています。*写真はいずれも「第13回 shiseido art egg 小林清乃展」会場風景及び展示作品。

「第13回 shiseido art egg 小林清乃展」 資生堂ギャラリー@ShiseidoGallery
会期:2019年8月2日(金)~8月25日(日)
休廊:月曜日。*祝日が月曜にあたる場合も休館
料金:無料。
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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根津美術館にて「企画展 優しいほとけ・怖いほとけ」が開催中です

古くから人々は、特に厳かであり、また慈悲や忿怒の相を見せるなど、様々な表情をした仏に祈りを捧げてきました。



その仏の表情に着目したのが根津美術館の「優しいほとけ・怖いほとけ」展で、飛鳥時代から江戸時代へと至る仏教絵画、彫刻の約35件を、「やさしい」、「きびしい」、「おそろしい」などに分類し、表情の意味や信仰のあり方について紹介していました。

その「優しいほとけ・怖いほとけ」について、pen-onlineのアートニュースに書きました。

仏の表情から信仰のあり方を知る、根津美術館『優しいほとけ・怖いほとけ』展。
https://www.pen-online.jp/news/culture/nezu-hotoke/1


今回の展覧会で特に印象に深かったのは、修復を経て初めて公開された「愛染明王坐像」でした。赤々とした身体で3つの目を開きながら、髪を逆立てては忿怒の相をしていて、確かに怒りを帯びながらも、さも見る者を笑い飛ばすような豪放な面持ちにも目を引かれました。

この「愛染明王坐像」をはじめ、同じく仏像の「菩薩立像」、あるいは「毘沙門天立像」が、いずれもガラスケースなしの露出展示であったのも興味深いところでした。うち「菩薩立像」は、目をやや伏しつつ、口元には穏やかな笑みをたたえた、まさにやさしい表情をした仏像で、薄く整った着衣の細かな表現も充実していました。



また展示では如来、菩薩、明王、天などの諸仏の特徴などにも触れていて、仏像の表情の性質などについても知ることが出来ました。ともすると、普段、何気なく見てしまう仏に新たな視点をもたらす展覧会と言えるかもしれません。


同時開催の「鍋島の小品」や「納涼の茶」も魅力的な展示でした。青みを帯びた鍋島をはじめ、いずれも涼しげな器が並んでいて、まさに目で涼を感じ取れるような作品ばかりでした。



館内も海外のお客さんを中心に盛況でした。8月25日まで開催されています。

*写真はいずれもロビー内で撮影したものです。展示室内の撮影は出来ません。

「企画展 優しいほとけ・怖いほとけ」 根津美術館@nezumuseum
会期:2019年7月25日(木)~8月25日(日)
休館:月曜日。但し8月12日(月・祝)開館し、8月13日(火)休館。
時間:10:00~17:00。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100円、学生800円、中学生以下無料。
 *20名以上の団体は200円引。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
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「塩田千春展:魂がふるえる」 森美術館

森美術館
「塩田千春展:魂がふるえる」
2019/6/20~10/27



森美術館で開催中の「塩田千春展:魂がふるえる」を見てきました。

1972年に大阪で生まれ、現在はベルリンを拠点に活動する塩田千春は、これまでにも「記憶、不安、夢、沈黙」(解説より)などを表現したインスタレーションを多く発表してきました。

その塩田の過去最大となる個展が「魂がふるえる」で、インスタレーションをはじめ、映像、写真、ドローイングなどで、約25年に渡る制作を網羅的に紹介していました。


塩田千春「不確かな旅」 2016/2019年

これほど冒頭から多くの人の心を掴みとる展示も少ないかもしれません。舟を模した鉄枠より、さも炎が燃えるかのように赤毛糸が広がるのが、「不確かな旅」と題したインスタレーションで、まさに展示室の一面が輝かしいまでの赤に染まっていました。


塩田千春「不確かな旅」 2016/2019年

「糸はもつれ、絡まり、切れ、解ける。それは、まるで人間関係を表すように、私の心をいつも映し出す。」塩田千春 *会場内より


塩田千春「不確かな旅」 2016/2019年

おおよそ見当もつかないほど無数に張り巡らされた糸は、互いに複雑に絡み合いながら、舟から激しく吹き上がるように上へ広がっては、天井や壁へと達していました。それらは何やら身体を巡る血管のようでもある一方、様々な情念を表すエネルギーが噴出しているかのようでもありました。


塩田千春「不確かな旅」 2016/2019年

塩田の赤い糸のインスタレーションといえば、2016年にKAAT神奈川芸術劇場での「鍵のかかった部屋」も圧巻でしたが、同様のスケール感があったかもしれません。


塩田千春「蝶のとまっているひまわり」 1977年

まさか5歳の時に描いた水彩画が出ているとは思いませんでした。それが「蝶のとまっているひまわり」で、黄色いひまわりにオレンジの蝶がとまる様子を奔放に捉えていました。また左上に塩田の自身の名を記していましたが、右からの鏡文字になっていました。


塩田千春「無題」 1992年

大学1年生の時の油彩、「無題」も興味深い作品かもしれません。黄色や緑など色を分厚いタッチで塗りこめた抽象画で、とりわけねっとりと焦げた血のような赤が目を引きました。ともすると塩田の赤の原点がここにあったのかもしれません。

今でこそインスタレーション作家としての印象の強い塩田ですが、そもそもは半ば身体を張ったパフォーマンスでも知られたアーティストでした。うち「バスルーム」は、自宅のバスタブで泥を被りながら、「洗っても拭えない皮膚の記憶」(解説より)を表した映像で、パフォーマンスを映像化した最初の作品でした。その光景は、身体に染み付いた怨念を打ち払うかのようで、不気味にも映りました。


塩田千春「アフター・ザット」 1999年、「皮膚からの記憶」 2000/2001年

この皮膚も塩田にとって重要なモチーフの1つでした。「アフター・ザット」は自身の縫った長さ7メートルにも及ぶ泥まみれのドレスを壁に吊り、上からシャワーで水を流し続けるインスタレーションで、ドレスは不在の身体を示すとして、「どれだけ洗っても皮膚の記憶は洗い流せない」(解説より)としていました。そしてこの作品は、後にドレスの長さを13メートルに伸ばし、タイトルを「皮膚からの記憶」と変え、第1回の横浜トリエンナーレに出展されました。おそらくは多くの人々に強い印象を与えたのではないでしょうか。


塩田千春「小さな記憶をつなげて」 2019年

窓の外に東京を一望するスペースに展開した、「小さな記憶をつなげて」も魅惑的でした。塩田が古くから集めてきた家具のミニチュアがたくさん置かれていて、それらは互いに赤や黒の糸で絡むように繋がっていました。ドールハウスのような雰囲気も感じられるかもしれません。


塩田千春「小さな記憶をつなげて」 2019年

また家具のみならず、鍵やビーズ、さらには短い鉛筆などもあり、さながらおもちゃ箱をひっくり返したような光景が広がっていました。その1つ1つに塩田の大切にしてきた記憶や体験が込められているのかもしれません。


塩田千春「静けさのなかで」 2002/2019年

赤糸より一転し、無数の黒糸で覆われた「静けさのなかで」も圧巻のインスタレーションでした。もはや行く手を阻むかのように広がる黒糸の向こうには、一台の焼けたピアノと、同じく黒焦げになった椅子がいくつか置かれていて、不穏な気配が漂い、それこそ火事で焼けた家を目の当たりにしたような恐怖感すら覚えました。

塩田は9歳の頃、隣の家の火事を目撃し、次の日に外に焼け出されたピアノが「以前にも増して美しく見えた。」と語っています。そして「何ともいえない沈黙が襲い、焼けた匂いが家に流れるたびに、自分の声が曇る」のを感じたそうです。*「」内は解説より。


塩田千春「静けさのなかで」 2002/2019年

洞窟を築くような黒い糸は、ピアノを拘束するかのように覆いかぶさり、椅子もろともを飲み込んでいました。椅子とピアノの位置関係からすれば、演奏者と聴衆の向き合うコンサート会場のようにも見えますが、ともかく何者も存在しない空間、言わば喪失感を強く感じさせてなりませんでした。


塩田千春「内と外」 2009/2019年

塩田の拠点にするベルリンを舞台としたのが「内と外」で、旧東側で集められた古い窓枠を積み上げては、1つの屈曲した壁を築いていました。そして「内と外」の前にはベルリンの工事現場を捉えた写真が並んでいて、壁の崩壊後も変わり続けた街の姿を記録していました。


塩田千春「ベルリンの工事現場」 2004年

「人為的に28年もの間、東西に別れ、同じ国籍の同じ言葉の人々が、どういう思いでこのベルリンの生活を見ていたのだろう。」 塩田千春 *会場内より


塩田千春「集積:目的地を求めて」 2014/2019年

入口の「どこへ向かって」で誘われた塩田の作品世界への旅は、スーツケースが天の高みを目指した「集積:目的地を求めて」にてフィナーレを迎えました。約400以上ものスーツケースが赤い糸で階段状に吊るされていて、スーツケースは時折、まるで自ら意思を持つかのように振動していました。


塩田千春「集積:目的地を求めて」 2014/2019年

いずれもドイツで集められたトランクで、全て使い古しであるのか、中には相当に年季の入っているものもありました。既に本来の持ち主との旅を終えたトランクは、ここで塩田の手を介しては、また新たな旅をはじめたとしても良いかもしれません。

この他、撮影は出来ませんでしたが、塩田が過去に手がけた舞台美術も興味深いものがありました。そのうちドイツではキール歌劇場において、「トリスタンとイゾルデ」や「神々の黄昏」などのワーグナーの作品の演出も行なっていて、展示でも記録映像や写真などを通し、舞台の一端を知ることも出来ました。


塩田千春「時空の反射」(部分) 2018年

会場内の状況です。今回はタイミング良く、夏休み前の平日の火曜日に見ることが出来ました。15時頃に美術館へ到着し、特に並ぶこともなく入館すると、場内は思いがけないほどの混み合っていました。特に大規模なインスタレーションは写真映えもするため、スマホなどで記念撮影を楽しむ方が多く見受けられました。海外のお客さんも目立っていました。



実際に開幕22日目の7月11日には、入館者が早くも10万人に達しました。SNSでの拡散、及び展望台やピクサー展への来館者との相乗効果などもあり、連日、多くの方で賑わっているようです。


塩田千春「赤と黒」 2019年

この日は火曜日のため、閉館時間が17時でした。そのためか16時を過ぎると人出もやや落ち着き、16時半以降には最初の展示室も人が疎らになりました。


塩田千春「どこへ向かって」 2017/2019年

この夏と秋、全国でも最も話題を集める現代美術展になるかもしれません。また森美術館のチケットブースは展望台や他の展示と共通のため、混雑時は並ぶことも少なくありません。事前にオンラインなどで用意されることをおすすめします。


10月27日まで開催されています。

「塩田千春展:魂がふるえる」 森美術館@mori_art_museum
会期:2019年6月20日(木)~10月27日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
 *火曜日は17時で閉館。但し10⽉22⽇(⽕)は22時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、学生(高校・大学生)1200円、子供(4歳~中校生)600円、65歳以上1500円。
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。

注)写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
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「特別展 三国志」 東京国立博物館・平成館

東京国立博物館・平成館
「特別展 三国志」
2019/7/9~9/16



東京国立博物館・平成館で開催中の「特別展 三国志」を見てきました。

2世紀末の中国において、後漢の勢力が衰えると、多くの武将が覇権を得るべく戦いを繰り広げ、魏、蜀、呉が天下を分かつ三国時代へと入りました。そして三国時代の動向は、正史「三国志」や小説の「三国志演義」などに著され、特に後者は中国のみならず、日本でも長らく親しまれてきました。

その三国志に関する文化財が中国から海を越えてやって来ました。出展数は162件に及び、うち同国で特に貴重な有形文化財として位置付けられる1級文物が、42件ほど含まれていました。


「関羽像」 明時代・15〜16世紀 新郷市博物館

まずは三国志の英雄、チラシ表紙も飾った「関羽像」が威容を放っていました。三国志において最も神格化された関羽の明時代の像で、甲冑に身を包み、太い左足を前に出しては、厳しい表情で座る姿をブロンズで象っていました。長い髭がトレードマークでもあり、美髭公とも称された関羽ですが、同像においては殊更に髭を強調することもなく、いわば有り体に武将の姿を捉えていました。


「関帝廟壁画」 清時代・18世紀 内蒙古博物院

その関羽を祀る関帝廟の壁画も目を引きました。内モンゴル自治区のフフホト市の寺に伝来する清時代の作品で、盟友の劉備や張飛らと黄巾の軍を打ち破る姿や、関羽が兵書を読む場面などを描いていました。各場面の表現は稚拙味もあり、素朴絵のような味わいも感じられました。


横山光輝「三国志」原画 新書判第1巻「桃園の誓い」

さて今回の三国志展において、中国に由来する文化財の他に、展示構成上、重要な意味を持つ作品がありました。それが横山光輝の漫画「三国志」の原画と、昭和57年より3年間、NHKで放送された「人形劇 三国志」で使われた人形でした。


右:「曹操」、左:「劉備」 飯田市川本喜八郎人形美術館 *NHK「人形劇 三国志」より

これらが基本的に各章の冒頭に配されていて、三国志の大まかなあらすじを紹介するとともに、曹操、劉備、孫権をはじめ、関羽、諸葛亮、曹丕、甘寧らの人形を通して、それぞれの英雄の略歴なり概要について学べるようになっていました。もちろん事前に演義などの内容を踏まえておくに越したことはありませんが、たとえ三国志を知らずとも極力楽しめるように工夫されていました。


「儀仗俑」 後漢時代・2〜3世紀 甘粛省博物館

2世紀から3世紀にかけての後漢、三国時代の考古遺物も多く出展されていました。「儀仗俑」は、現在の甘粛省、つまり後漢時代の涼州に当たる張将軍と呼ばれる有力者の墓に副葬された品で、後漢末期に宮廷の権力を握った董卓も同じ涼州出身であることから、董卓の部下であったとの指摘もなされています。


「儀仗俑」 後漢時代・2〜3世紀 甘粛省博物館

粛々と長い隊列を組む光景が再現されていましたが、異様なまでに口を大きく上げては鳴き叫ぶような馬の造形も面白いかもしれません。


1級文物「多層灯」 後漢時代・2世紀 涿州市博物館

「多層灯」も同じく後漢時代の副葬品でした。死後の世界を照らすため土製の灯りで、4つの部品を積み重ねつつ、各段にひとや動物、樹木などの像がつけられていました。同時代の副葬品の灯りとしては、かなり複雑に作られていると言われています。


「環頭太刀」 後漢〜三国時代(蜀)・3世紀 綿陽市博物館

後漢から三国時代の武器も見逃せません。火薬のない当時の主要な武器は、剣、刀、槍と弓で、城の攻防戦では、石を飛ばす投石機も用いられました。また鉄製が鎧も普及しつつありましたが、革製も用いられていました。


1級文物「弩」 三国時代(呉)・黄武元(222)年 湖北省博物館

「弩」は、弩機に木臂と呼ばれる部分がともに残った珍しい資料で、呉の年号、黄武元年が記されていました。いわゆるクロスボウでもある弩は、弓に比べて矢のスピードも早く、重いために、殺傷力が強く、戦いで重要な役割を果たしました。なお呉の武器は、年号や所有者などを刻むのも特徴であるそうです。

今から約1800年前もの古い時代ゆえに、明らかでないことも多く、なかなか三国の特色を定めるのは難しいかもしれませんが、魏、蜀、呉の各地より出土した文物を比べるのも興味深いのではないでしょうか。


右:「舞踏俑」 後漢〜三国時代(蜀)・2〜3世紀 四川博物院
左:「舞踏俑」 後漢〜三国時代(蜀)・2〜3世紀 重慶中国三峡博物館

うち現在の四川省に位置する蜀は、物産が豊富で、天険にも囲まれていたことから、地域色の濃い文化が花開きました。中でも目立つのは、実に豊かでコミカルな表情をした俑で、琴を弾いたり、踊ったりする人の姿を生き生きと象っていました。


「ガラス連珠」 後漢時代・1〜3世紀 広西壮族自治区博物館 他

一方で長江下流地帯に拠点を置いた呉は、高い造船技術によって、域内に留まらず、東南アジアや南アジアなどの地域とも交流していました。そのうち現在の広東省、江西省などにまたがる交州は、呉に服従すると、当主の孫権へガラス製品などを献納しました。


右:1級文物「神亭壺」 三国時代(呉)・鳳凰元(272)年 南京市博物総館

この他、呉では東晋にかけて焼かれた器、「神亭壺」も目を引きました。壺上に楼閣や家畜や人物などを象っていて、銘より孫権の父、孫堅も務めた長沙太守に因む作品とも言われています。


曹操高陵内部(パネル展示)

展覧会のハイライトであるのが、2008年から翌年にかけ、河南省安陽市で発掘された曹操墓、すなわち曹操高陵の再現展示でした。


1級文物「罐」 後漢〜三国時代(魏)・3世紀 河南省文物考古研究院

ここでは陵墓の空間を擬似的に築いていて、本来は6世紀末の隋が起源とされるものの、300年も前の墓より出土した「罐」と呼ばれる白磁を展示していました。これを一部の研究では、3世紀の後漢末期、現在の湖南省で短い間作られた「原始白磁」だとしていて、6世紀以降の白磁とは焼成工程や造形が異なると考えているそうです。湖南省は三国時代に呉の領域であるため、何らかの形で魏へ渡ったのかもしれません。


1級文物「石牌」 後漢〜三国時代(魏)・3世紀 河南省文物考古研究院

また曹操高陵を特定するに至った「石牌」も重要な資料で、小さな板には曹操を示す「魏武王」の文字が確かに刻まれていました。なお曹操は遺言に際して、葬儀を出来るだけ簡略化することを命じたゆえか、後漢の王や上流層の墓から出土する金細工もなく、概ね質素な副葬品しか残されませんでした。政治と軍事の双方に長け、常に人と時局を冷静に見極めた曹操ならではのエピソードとも言えるかもしれません。


「虎形棺座」 三国時代(呉)・3世紀 南京市博物総館

ラストは蜀や呉の墓からの副葬品、ないし三国時代終焉へのプロセスに関する展示でした。155年に曹操が生まれ、黄巾の乱以降の群雄割拠の時代が続き、魏、蜀、呉と建国して争った三国でしたが、結果的には280年、魏より禅譲を受けた司馬炎の西晋により統一されました。


「墓門」 後漢時代・2世紀 四川博物院

キャッチコピーに「リアル三国志」との言葉もありましたが、あながち誇張ではないかもしれません。ともすると見過ごしてしまいそうな何気ない考古資料が、三国志のストーリーに沿うと、俄然に身近で親しみやすくなり、いわば雄弁に語り出すように思えてなりませんでした。



最後に会場内の状況です。私は7月26日(金)、ちょうど夏のビアガーデンイベント、「トーハクBEER NIGHT!」の行われた日の夕方に行ってきました。まだ日の明るい17時頃に平成館前に到着しましたが、待機列は皆無で、場内もほぼスムーズに流れていました。どの展示も好きなペースで見られました。

現在のところ、会期早々の7月14日(日)に最大で20分の入館の待ち時間が発生しましたが、それ以外は特に規制は行われていません。


とはいえ、土日の昼間の時間帯は混み合っているそうです。既に夏休みの期間にも入りました。当面は金曜、土曜日の夜間開館(21時まで)が有用となりそうです。


「諸葛亮」 飯田市川本喜八郎人形美術館 *NHK「人形劇 三国志」より

会場内、映像展示以外は、全ての作品と資料の撮影が可能でした。(フラッシュ、自撮り棒、三脚、動画は不可。)ただし混雑時は中止される場合もあります。

9月16日まで開催されています。なお東京展終了後、九州国立博物館へと巡回(2019/10/1〜2020/1/5)します。

「特別展 三国志」@sangokushi2019) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:2019年7月9日(火)~9月16日(月)
時間:9:30~17:00。
 *毎週金・土曜は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。7月16日(火)。ただし7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)は開館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生900(600)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
 *本展観覧券で、会期中観覧日当日1回に限り、総合文化展(平常展)も観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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2019年8月に見たい展覧会【美ら島からの染と織/円山応挙から近代京都画壇/加藤泉】

関東では長い梅雨が明け、一転して最高気温が35度を超えるなどの猛暑が続いています。連日、うだる様な暑さゆえに、体調など崩されていませんでしょうか。

7月に見た展示では、六本木の2つの展覧会、「クリスチャン・ボルタンスキー展」(国立新美術館)と「塩田千春展:魂がふるえる」(森美術館)、それに上野での「伊庭靖子展 まなざしのあわい」(東京都美術館)など、各現代美術家の個展が印象に残りました。

8月にスタートする展覧会はさほど多くありません。今月に気になる展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・「山口蓬春展」 日本橋高島屋S.C本館8階ホール(8/7~8/19)
・「山種美術館 日本画アワード」 山種美術館(8/10~8/23)
・「唐三彩 ―シルクロードの至宝」 出光美術館(~8/25)
・「江戸のスポーツと東京オリンピック」江戸東京博物館(~8/25)
・「第8回 新鋭作家展 あ、これ、ウチのことです。」 川口市立アートギャラリー・アトリア(~8/25)
・「異世界への誘い ―妖怪・霊界・異国」 太田記念美術館(8/2~8/28)
・「谷中圓朝まつり 幽霊画展」 谷中・全生庵(〜8/31)
・「高橋秀+藤田桜――素敵なふたり」 世田谷美術館(~9/1)
・「日本の素朴絵」 三井記念美術館(~9/1)
・「MAY I START?計良宏文の越境するヘアメイク」 埼玉県立近代美術館(~9/1)
・「原三溪の美術 伝説の大コレクション」 横浜美術館(~9/1)
・「太田喜二郎と藤井厚二-日本の光を追い求めた画家と建築家」 目黒区美術館(~9/8)
・「国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展」 国立西洋美術館(~9/23)
・「モダン・ウーマン―フィンランド美術を彩った女性芸術家たち」 国立西洋美術館(~9/23)
・「マイセン動物園展」 パナソニック汐留美術館(~9/23)
・「日本のよろい」 東京国立博物館(~9/23)
・「1933年の室内装飾 朝香宮邸をめぐる建築素材と人びと」 東京都庭園美術館(~9/23)
・「嶋田忠 野生の瞬間 華麗なる鳥の世界」 東京都写真美術館(~9/23)
・「美ら島からの染と織―色と文様のマジック」 渋谷区立松濤美術館(8/10~9/23)
・「みんなのミュシャ」 Bunkamura ザ・ミュージアム(~9/29)
・「みんなのレオ・レオーニ展」 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館(~9/29)
・「円山応挙から近代京都画壇へ」 東京藝術大学大学美術館(8/3~9/29)
・「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」 水戸芸術館(~10/6)
・「しなやかな闘い ポーランド女性作家と映像 1970年代から現在へ」 東京都写真美術館(8/14~10/14)
・「あそびのじかん」 東京都現代美術館(~10/20)
・「MOTサテライト2019 ひろがる地図」 東京都現代美術館およびMOTスポット(8/3~10/20)
・「塩田千春展:魂がふるえる」 森美術館(~10/27)
・「虫展 デザインのお手本」21_21 DESIGN SIGHT(~11/4)
・「シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート」 ポーラ美術館(8/10~12/1)
・「加藤泉 – LIKE A ROLLING SNOWBALL」 原美術館(8/10~2020/1/13)

ギャラリー

・「風能奈々 触っても触っても遠い」 小山登美夫ギャラリー(~8/24)
・「第13回 shiseido art egg 小林清乃展」 資生堂ギャラリー(8/2~8/25)
・「宮島達男 Counting」 Akio Nagasawa Gallery Ginza(~8/31)
・「中村弘峰 SUMMER SPIRITS」 ポーラ ミュージアム アネックス(8/8~9/1)
・「中谷ミチコ 個展」 アートフロントギャラリー(8/9~9/1)
・「毛利悠子/David Horvitz 『summer rains』」 SCAI THE BATHHOUSE(~9/7)
・「川島小鳥 写真展:まだなまえがないものがすき」 キヤノンギャラリーS(~9/9)
・「αMプロジェクト2019 東京計画2019 vol.3 Urban Research Group」 ギャラリーαM(~9/14)
・「竹中大工道具館企画展 木工藝 清雅を標に―人間国宝 須田賢司の仕事」 ギャラリーA4(8/2~9/20)
・「青柳龍太|sign」 ギャラリー小柳(8/3~9/27)

まずは染色の展覧会です。渋谷区立松涛美術館にて「美ら島からの染と織―色と文様のマジック」が開催されます。



「美ら島からの染と織―色と文様のマジック」@渋谷区立松濤美術館(8/10~9/23)

これは琉球に花開いた紅型をはじめとする染色文化を紹介するもので、沖縄県立博物館・美術館の他、那覇市歴史博物館のコレクションなど、制作地が全て沖縄に由来する作品が一堂に介します。また古い時代の染色だけでなく、現代の人間国宝や名工らの作品も合わせて紹介されます。


琉球に関した展覧会といえば、2018年にサントリー美術館で「琉球 美の宝庫」展があり、そこでも多くの染色が出展され、朱やオレンジなどの色鮮やかな紅型に魅了されたものでした。今回もどこか涼しげで、また華やいだ琉球の染色を愛でることが出来そうです。

続いては日本美術です。東京藝術大学大学美術館にて「円山応挙から近代京都画壇へ」が行われます。



「円山応挙から近代京都画壇へ」@東京藝術大学大学美術館(8/3~9/29)

18世紀の京都では、写生画で名を馳せた応挙による円山派とともに、応挙に師事した呉春が四条派を形成し、円山・四条派として、近代へ至るまでの京都の中心的な画壇の地位を占めました。


その応挙や呉春にはじまる円山・四条派の系譜を近代まで引きつけて紹介する展覧会で、いわゆる江戸絵画のみならず、竹内栖鳳、山元春挙、上村松園らの作品なども出展されます。また兵庫県香美町にある応挙寺こそ大乗寺に描かれた、応挙や呉春らによる障壁画の空間再現展示も見どころとなりそうです。

ラストは現代美術です。独特な木彫の人物表現などで知られる作家、加藤泉の個展が原美術館にてはじまります。



「加藤泉 – LIKE A ROLLING SNOWBALL」@原美術館(8/10~2020/1/13)

1990年代より絵画を描き、2000年代に入ると彫刻を制作した加藤は、近年、木彫のみならず、石やソフトビニールなどの多様な素材を用いては、インスタレーションを手がけるようになりました。


その加藤の新作の絵画、彫刻約30点からなる展示で、意外にも東京の美術館としては初めての個展でもあります。おそらくは旧邸宅の建築空間とのマッチングにも注目が集まるのではないでしょうか。

全国各地では芸術祭シーズンに入りました。少なくとも8月には「あいちトリエンナーレ2019 情の時代」(8/1~10/14)、「リボーンアート・フェスティバル 2019」(8/3〜9/29)、「中之条ビエンナーレ」(8/24〜9/23)、それに「瀬戸内国際芸術祭 2019」の夏会期(〜8/25)などが開催されます。夏休みを兼ねて遠征される方も多いかもしれません。

今年で開館43周年を迎え、7月末で累計入館者数が600万人に達した東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館の移転、リニューアルオープンが発表されました。



2020年5月28日、「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」は、「SOMPO美術館」に生まれ変わります。(PDF)

新美術館は「SOMPO美術館」と名を変え、現在の損保ジャパン日本興亜本社ビル敷地内に建築中の新たな建物に移転します。それを祝し、開館記念展として以下の展覧会が行われます。

開館記念展Ⅰ:珠玉のコレクション 2020年5月28日(木)~7月5日(日)
開館記念展Ⅱ:秘蔵の東郷青児 2020年7月18日(土)~9月4日(金)

新しい美術館は6階建てです。展示フロアは3層に渡り、4メートルの天井高が確保されるなど、いかんせん空間に制約のあった現美術館よりもスケールアップします。詳しくは開館案内(PDF)をご参照下さい。


それでは今月もどうぞ宜しくお願いします。
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