「2009 両洋の眼」 日本橋三越本店新館7階ギャラリー

日本橋三越本店新館7階ギャラリー中央区日本橋室町1-4-1
「2009 両洋の眼 第20回記念展」
1/27-2/1



会場で初めて知りましたが、計20回を数えるに至った本展覧会も、今年限りでその歴史に幕を閉じるのだそうです。日本橋三越で開催中の「2009 両洋の眼」へ行ってきました。

記念すべき第20回、及び最終回を迎えるとのことで、内容は第1回以来の作家の集う、文字通り集大成となっています。以下、印象深い作家を挙げてみました。



奥村美佳(1974~)「坂の街」
屋根の連なる街の遠景。まずは直線で切り取られた幾何学模様が目に飛び込んでくるが、霞がかかりながらも透明感のある水色の美しさがたまらない魅力を醸し出している。ぽつんと建つ塔は寂し気だった。

斉藤典彦(1957~)「しぐれの」
うっすらと紫色を帯びた肌色の色面が雲のようにたゆたう。膠の瑞々しい質感が良い。

福田美蘭(1963~)「ヴェルアベニュー千歳船橋」
ありふれた都会のマンションの夕景を正面から描く。輪郭のぼやけた抽象性が、鮮やかな色遣いとともに独特の美感を生み出していた。エントランスや窓辺からもれる明かりが温かい。

小杉小二郎(1944~)「I氏の回想」
ルソーを見るような孤独感と、ボーシャンのように素朴でかつ華やかな色遣いが合わさっている。『小人』がカーテン越しに遠くの山々を見やっていた。



石井礼子(1974~)「水族館」
重厚な絵画の多い本展示の中では明らかに異色。水墨のみで子供たちが魚を見やる水族館の喧噪を表現している。墨の質感がまるでチョークのようだった。あえて狙われた稚拙な線にこそ面白さがありそう。

菅原さちよ(1964~)「久遠」
縦長の二面の日本画。暗がりの中でうっすらと桃色に染まった蓮の蕾と花が描かれている。その静謐な味わいは抱一の「白蓮図」のようだった。

國司華子(1987~)「Black8」
作家自身の「家を占領していた」(キャプションより)という、8匹の猫を描いた日本画。まさに群猫図。まるで水彩絵具を流し込んだような画肌が興味深い。挑戦的な猫の眼がキラリと光っていた。

岡村桂三郎(1958~)「玄象」
神奈川県美(鎌倉)の個展の印象が忘れられない岡村の作品。1メートル四方の『小品』だが、傷だらけの鱗肌の体よりギロリと睨む象の迫力はやはり圧倒的だった。

川嶋淳司(1967~)「シロクマ」
プラチナ箔をバックにシロクマがのんびりと佇む。目は優しく、口元は緩んでいた。白と微かな黄色を帯びた絵具の感触が美しい。

そもそもいわゆる中堅以上の画家を多く紹介する展覧会ですが、中でも比較的若い世代に注目してしまうのは、やはり彼ら彼女らを応援したくなる気持ちがあるからかもしれません。

失礼ながらも、毎年肌に合うものは多くありませんでしたが、少なくともここ2、3年は見続けていただけに、今回で終わってしまうのは率直に寂しく感じます。

明日(2/1)の17時半で終了します。(閉場は18時。)
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「北村怜子 - 2018 - 」 FOIL GALLERY

FOIL GALLERY千代田区東神田1-2-11 アガタ竹澤ビル201)
「北村怜子 - 2018 - 」
1/16-2/11



のびやかに広がる絵具の幕の向こうには、いつか見た景色の残像が広がっています。フォイルギャラリーで開催中の北村怜子展へ行ってきました。

リヒターの絵画を連想したのは私だけではないかもしれません。アクリルやインク、それに墨などを混ぜ合わせて出来た色面はまさに抽象そのものですが、その奥に垣間見えるモチーフには、見る者の多様な心象風景が投影されてはいないでしょうか。ピンクやブルーの膜が、ちょうどレースのカーテンを通した光のような輝きを放ち、所々に空く穴の奥底からは、森や草むらの上を舞う蝶のようなイメージがわきあがってきました。爛れ落ち、うっすらと伸びる絵具が、何ら形をとることなく、あたかも水を自由に泳ぐような多様な表情をとっています。一抹の儚さもたたえていました。

実際にこれらの作品は、紙の上へ絵具と水を垂らして作られているのだそうです。その偶然性にさらなる世界の広がりを予感させます。

2月11日までの開催です。
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2009年 私の気になる美術展(「美術の窓」最新号より)

少し遅れましたが「美術の窓」の今月号に、今年の展覧会情報が掲載されています。以下、該当の「今年必見の展覧会ベスト200」記事より、私が注目したい展示をリストアップしてみました。

[2009年 私の気になる美術展]

「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」川村記念美術館 2/21-6/7
待望のロスコ展が『聖地』川村でついに開催。シーグラム壁画の半数を一堂に見る機会など最初で最後になるかもしれない。



「ルーヴル美術館展」国立西洋美術館 2/28-6/14 (京都市美術館 6/30-9/27)
新美とのルーヴル対決では、17世紀ヨーロッパ名画に絞った西美に軍配があがりそう。個人的にはダウ、ロラン、ドルチ、ラ・トゥールなどが楽しみ。



「やなぎみわ」東京都写真美術館 3/7-5/10 (国立国際美術館 6/20-9/23)
新作を含む27点で構成されるというやなぎみわの個展。「マイ・グランドマザーズ」などを出品。

「山水に遊ぶ 江戸絵画の風景250年」府中市美術館 3/20-5/10
超大当たり企画「動物絵画の100年」の感激を再び!若冲の石灯籠をはじめ、曾我蕭白の山水画の傑作「月夜山水図屏風」などを紹介。



「阿修羅展」東京国立博物館 3/31-6/7 (九州国立博物館 7/14-9/27)
既に異様な広告露出度を誇る展覧会。興福寺所蔵の阿修羅を含む八部衆像と十大弟子像を一挙に公開する。会員数6000名突破の阿修羅ファンクラブはもう入られましたか。

「岸田劉生」損保ジャパン東郷青児美術館 4/25-7/5
没後80年を迎えた岸田劉生の画業を、特に肖像画に焦点を絞って紹介する回顧展。苦手な画家だが、絵の説得力は抜群なだけに、非常に見応えのある展示となりそう。



「ネオテニー・ジャパン 高橋コレクション」上野の森美術館 5/20-7/15
鹿児島や札幌でも話題を集めた現代アート展がいよいよ東京に殴り込みをかける。青山悟、池田学、小川信治、小谷元彦、さわひらき、奈良美智…、出品作家を眺めるだけでも涎が出る。

「日本の美と出会う 琳派・若冲・数寄の心」日本橋高島屋 6/3-15 (難波・京都・名古屋の各高島屋へ巡回。)
細見美術館のコレクション展。琳派、若冲とあれば見ないわけにはいかない。



「ゴーギャン展」東京国立近代美術館 7/3-9/23 (名古屋ボストン美術館 4/18-6/21)
超大作「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」を日本初公開。ボストン美術館のゴーギャン作品と合わせて展観する。

「だまし絵展 イリュージョンを楽しむ」Bunkamura ザ・ミュージアム 6/13-8/16 (名古屋市美術館 4/11-6/7 兵庫県立美術館 8/25-11/3)
アルチンボルド派からマグリットまでを紹介する。西洋絵画の奇想絵展となるか。

「写楽 幻の肉筆画~マノスコレクションより」江戸東京博物館 7/4-9/6
コルフ・アジア美術館(ギリシャ)で発見された、写楽の肉筆扇面画を世界で初めて公開。写楽以外にも状態の良い歌麿、清長らの浮世絵も出る予定。

「鴻池朋子展」(仮)東京オペラシティアートギャラリー 7/18-9/27
意外にも都内美術館では初めてとなるという鴻池の個展。「床から天井まで空間をまるごと使ったインスタレーション」(美術の窓より)に期待。

「シアトル美術館名品展」サントリー美術館 7/25-9/6
日本国外では最良(美術の窓より)とされるシアトル美術館の日本美術コレクションを公開。詳細は不明。

「一蝶リターンズ」板橋区立美術館 9/5-10/12
板橋の江戸絵画シリーズにハズレなし。英一蝶の画業を一挙に展観。講演会などの関連プログラムにも期待出来そう。

「パウル・クレー」(仮)横須賀美術館 9/5-10/18
海を望む白いテラスにあのリズミカルな色彩はどう反応するのか、横須賀美でのクレーの展覧会。



「速水御舟 日本画への挑戦」山種美術館 10/1-11/29
現在、新築中の新山種美術館のオープニングを飾る展覧会。既知の作品は多そうだが、珠玉の御舟コレクションを見る最良の機会となるだろう。

「束芋展 断面の世代」(仮)横浜美術館 12/11-2010年3月(未定)
無味乾燥な横浜の箱に対して束芋はどう挑むのか。過去最大となるという個展。

如何でしょうか。どうしても関東一円に偏ってしまいますが、今年もまた面白そうな展示が盛りだくさんです。

「美術の窓 2009年02月号」

なお同月号には、お馴染みの「2008年展覧会入場者数ベスト50」も特集されています。それによれば、一位はやはり都美のフェルメールでした。ちなみに93万人という総入場者数は、「モナ・リザ」(1974年/151万人@東博)、「バーンズ・コレクション」(1994年/107万人@西美)に続き、歴代3位だったそうです。道理で平日でも入場まで一時間も待つわけでした。

会期などの記載ミスがあるやもしれません。詳細は誌面をご覧下さい。
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「DOMANI・明日展2008」 国立新美術館

国立新美術館港区六本木7-22-2
「DOMANI・明日展2008」
2008/12/13-2009/1/26(会期終了)



新宿(損保ジャパン)より六本木へと場所を移しました。文化庁の芸術家在外研修によって近年、海外へ「派遣された研修生を中心に、15名の作家とその作品を紹介」(公式HPより)します。DOMANI・明日展2008へ行ってきました。

以下、全て網羅するわけではありませんが、各作家についての印象を挙げます。

田中信太郎
鉄やFRPを使った三点のオブジェ。ガラスにガーゼのような白い生地を織り交ぜ、白熱灯に照らす「Basilica」(2002)は、まるでたゆたう波面のよう。モニュメント的な鉄塔は新美の空間を切り裂いていた。もの派的でもある。

舟越桂
最近の『奇獣系』の立体彫像数点。羽や翼などの異様な体つきと、視点の定まらない端正な顔立ちとのギャップにいつもながら戸惑う。ドローイングの方が好きだ。

山本富章
巨大な展示室だからこそ成り立つ作品。壁からオレンジ色に染まるカラフルな『円筒』がいくつも突き出していた。表面を覆うドットは草間のような生々しさを感じる。

石井勢津子
ホログラムアート。猫じゃらしの浮かび上がる草原の景色だけが妙に美しかった。

ヒグマ春夫
何枚かのスクリーンを紗幕状に連ねて映像を複層的に浮かび上がらせる。洪水(?)のモチーフは意味不明。



小林浩
オペラシティのprojectNでも印象に残った『ぬいぐるみ絵画』。藍色に染まるぬいぐるみが白い虚空を舞う。マスキングの効果なのか、ぬいぐるみの毛羽立った質感までが巧みに示されていた。

馬場磨貴
マンレイを思わせるシュールなモノクロ写真。ポートレートに魅力を見出せなかったが、女性性を見るというオブジェ写真はなかなか美しかった。

開発好明
94年から毎朝撮り続けたという顔写真ボックス。失礼ながらも作家の髪の毛が徐々に後退する様子が、逃れられない時間の変遷を示していた。

伴戸玲伊子
9.11にも喚起されたという大作の日本画数点。ノアの洪水のように全てを飲み込む力強く破滅的な水の渦が印象的だった。



菱山裕子
今展示で最もインパクトのあるインスタレーション。アルミやステンレスを利用した巨大人間が宙に浮く。右奥のおばさんの表情がリアルで楽しい。きっと身近にいる。



小山利枝子
ペンで描いたような細やかな線が大きな光の波を引き出す。蛍光色のパステルカラーが目に鮮やかな力強い日本画。その一方で、近づくと花弁の中を覗き込むかのような優しさをたたえていた。

いつもながらテーマ軸も皆無ということで総花的の極致のような展覧会でしたが、今年はさらに各作家の回顧的な様相も加わっていたかもしれません。旧作も目立っていました。

私立美術館の損保では致し方なかったとは言え、新美のような国立の施設で文化庁政策の一種の成果発表をするのであれば、入場は無料にするべきだと思います。

展覧会は既に終了しています。
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「大舩真言 - Prism」 ニュートロン東京

ニュートロン東京港区南青山2-17-14
「大舩真言 - Prism」
1/10-2/1



南青山に注目すべきギャラリーが誕生しました。日本画を「出自」に、光と色に包まれた「多面体」(ともに画廊HPより引用)を描く大舩真言を紹介します。京都よりやって来たニュートロン東京のオープニング個展を見てきました。





まずは作家云々の前に、同ギャラリーの建物について触れないわけにはいきません。外観のシンプルなホワイトキューブからして、さながら南青山のフラッグ・ギャラリーとなり得るようなインパクトがあるのではないでしょうか。白く、また重厚な入口扉の先に開けたのは、暗がりの地底世界に広がる『真夜中の海』でした。同ギャラリーは計三層、旧住宅をリノベーションした一戸建てです。吹き抜けのガラスからは柔らかい光も差し込み、フローリング上にソファの並ぶ住居風のスペースにて作品を楽しむことが出来ました。その居心地の良さは山手線内の画廊随一と言って良いでしょう。





一階より三階へ向かうにつれて、明るくなりゆく外光の効果を取り入れた大舩の絵画は、まるでモネの「睡蓮の池」のような輝きを放っています。森の奥の湖面より靄が沸き立ち、深い藍色に包まれた青みが無限の時を刻んでいました。また星屑を巻いたような画肌に見る、仄かな立体感もさらなる深みをもたらしています。光の移ろいに呼応して表情を変化させる様子は、たとえばニューマンの「アンナの光」(川村美)を連想させました。水の質感、大気の循環、そして日本画の素材に由来もするのか、水墨の幽玄さをも引きつけています。まさに多面的な様相をとる作品です。



ユニマット美術館そばの住宅街の中にあります。銀座線外苑前駅(浅草側の出口が便利です。)よりも至近でした。



ともかくこの空間を味わってみて下さい。2月1日までの開催です。
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「智積院講堂襖絵完成記念 田渕俊夫展」 日本橋高島屋

高島屋東京店8階 ホール(中央区日本橋2-4-1
「智積院講堂襖絵完成記念 田渕俊夫展」
1/14-27



絢爛たる等伯の金碧障壁画に相対するのは、四季の情緒を伝える幽玄な水墨画でした。京都智積院、講堂に奉納された田渕俊夫の新作襖絵(全60面)を展観します。日本橋高島屋での「田渕俊夫展」へ行ってきました。

講堂(5室)に設置される襖の見取り図は、「Art & Bell by Tora」のとらさんの該当記事をご覧下さい。展示では各室の襖絵を順に紹介していました。

金剛の間:「夏(けやき)」、「夏(めたけ)」
胎蔵の間:「春(枝垂れ桜)」、「春(やなぎ)」
智慧の間:「秋(すすき)」、「秋(柿)」
大悲の間:「冬(雪山)」
不二の間:「朝陽」、「夕陽」



順路正面、全6面の「夏(けやき)」からして、身も心も希有壮大な大自然の空間へと誘われたのは私だけではないでしょう。中央には濃い墨で示された太い幹が力強く貫き、後方には湿り気を纏う枝葉が朧げに広がっています。また目を凝らして見ると、あたかも木版のような素朴な味わいも感じられました。襖絵を通し、作家の自然への優しき眼差しを汲み取るのはそう難しいことではなさそうです。

まるで牡丹雪のような大振りの花を一面に散らす「春(枝垂れ桜)」はもちろんのこと、眩しき陽光に包まれて大きく枝を伸ばす「やなぎ」には、生命の活気づく春の華やかさが控えめに表されています。柳のひなたぼっこはとても気持ち良さそうでした。



一転しての大悲の間の「冬(雪山)」には、雪に閉ざされて眠る山の景色が泰然と示されています。雪と冷気は渾然一体となって、険しくもじっと耐える木々の様子をただ静かに伝えていました。

一日の始めと終わりを描いた「朝陽」と「夕陽」も見事です。朝陽を浴びた林は枝葉を潤わせ、雲も広がる夕景色に包まれたそれは下草を靡かせながら消えゆく光に感謝を捧げていました。思わず手を合わせたくなります。

会場ではその他、新日曜美術館でも放映されたという田渕の制作過程(映像)も紹介されていました。高島屋のホールというと、時に店内の喧噪が煩わしく感じることがありますが、今回ばかりは静寂を呼び込む凛とした空気が流れていました。



東京展は明日で終了(17時30分まで)します。なお本展は以降、難波、横浜、名古屋、京都の各高島屋、及び今治市大三島美術館へと巡回の予定です。(会期は新日曜美術館のサイトを参照下さい。)

*智積院での現地公開は2009年6月以降を予定。
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「日韓若手作家交流展」 クムサンギャラリー東京

クムサンギャラリー東京中央区東日本橋3-5-5 矢部ビル1階)
「日韓若手作家交流展」
1/7-30



同画廊では二回目の企画だそうです。日韓の計四名のアーティストが集います。クムサンギャラリー東京で開催中の「日韓若手作家交流展」へ行ってきました。

出品作家は以下の通りです。80年代生まれの若い世代の作家が目立っていました。

荒木愛
増田智己
Lee So-Yoon
Noh Kyoung-Hee
添野郁



色味にも対照的な日本人作家二名が秀逸です。物質感を損なわず、丹念に顔料を塗り込めて深みのある画肌を引き出していたのは、赤や緑などの鮮やかな色を操って果実を描く荒木愛でした。時に執拗なドットを交えて表面に陰影をもたらす様子は、実りの瑞々しさを素直に感じさせるとともに、それとは対比的な、たとえて言えばリキテンシュタイン絵画を見るかのような抽象性をも醸し出しています。また、煌めく金箔や銀箔の感触はまるで工芸のようです。錯綜する技法が緩やかに混じり合っている点に、大いなる魅力が秘められているのかもしれません。



添野郁の「白昼夢より」(2008)には、一見スタイリッシュな作風とは裏腹の、消えゆく日常の記憶の断片を繋ぎ合わせたような儚さが漂っています。余白というよりも、むしろ像を隠すかの如く瞬いたフラッシュに包まれるのは、人々の行き交う姿やビルなどの街の残像でした。上下に白い部分をとり、中央部にだけ像を浮かび上がらせる様子は、あたかも張り合わせた映像フィルムのようです。未知の作家でしたが、是非とも他の作品も拝見したいところです。



馬喰町のレントゲンからも至近の画廊です。今月末まで開催されています。
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「夢の美術館 - 日本名建築写真展」 FUJIFILM SQUAREギャラリー

FUJIFILM SQUAREギャラリー港区赤坂9-7-3 東京ミッドタウン・ウエスト)
「夢の美術館 - 日本名建築写真展」
2008/12/23-2009/1/28



「えりすぐりの日本建築を写真で表現」(公式HPより)します。ミッドタウン内、富士フィルムギャラリーで開催中の「日本名建築写真展」へ行ってきました。



昨年にNHKで放映された「夢の美術館 - 世界の名建築」に関連する展覧会です。誰もが知る赤鳥居で有名な厳島神社をはじめ、桂離宮、二条城二の丸御殿、西本願寺飛雲閣など、おそらくはNHKカメラマンによる構図にも隙のない写真にて堂々と示されていました。東照宮のある種のゴテゴテした表現主義より一転して、簡素ながらも随所の仕掛けに多弁な桂離宮、そしてあたかも回転するコマのようなさざえ堂(模型も展示されています。)と、それぞれに異なった表情を楽しむことが出来ます。それにしてもこれらの建物とまるで時代の違う、代々木の国立競技場第一体育館が全く見劣りしていない点に至極感心させられました。さすがは丹下の最高傑作とうたわれるだけのことはあります。



スペースこそ手狭ですが、蒔絵展の際にでも立ち寄られては如何でしょうか。もちろん入場は無料です。

「飛雲閣ものがたり/荒木経惟/本願寺出版社」

今月28日まで開催されています。
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伊藤若冲 「松梅群鶏図屏風」 東京国立博物館

東京国立博物館台東区上野公園13-9
平常展・本館2階(日本美術の流れ)8室「書画の展開 - 安土桃山・江戸 - 」
伊藤若冲 「松梅群鶏図屏風」

妙心寺展にて奇想の金字塔を見るかのような「老梅図襖」が注目を集めていますが、本館常設にも同じく奇想と言えば外せない伊藤若冲の大作屏風がお目見えしています。「松梅群鶏図屏風」を見てきました。


右隻。右上に走るのは棕櫚でしょうか。そういえば先日発見された「象鯨図屏風」にも同じような植物の表現がありました。


左隻。やや様式化された嫌いはありますが、お馴染みの鶏たちが歌舞伎役者の如く大見得を切っています。


石灯籠部分拡大。対決展に出ていた「石灯籠図屏風」同様、点描によって示されています。


灯籠の上にのる鶏。若冲にかかればどんな場所でも立ち止まることが可能です。


確か「動植綵絵」の鶏にもこのようなポーズがありました。


卵形の鶏たち。何故か皆困った顔をしてソワソワしています。


尾はまるで書の味わいです。

松に梅とお目出度いモチーフばかりとのことでお正月向けなのかもしれません。残念ながら公開は明後日(25日)で終わりです。お見逃しなきようご注意下さい。

*関連エントリ(妙心寺プレビュー)
「特別展 妙心寺」 東京国立博物館(その2・展示全般)
「特別展 妙心寺」 東京国立博物館(その1・速報『江戸絵画』)
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「内海聖史 - 十方視野 - 」 ラディウム

ラディウム-レントゲンヴェルケ中央区日本橋馬喰町2-5-17
「内海聖史 - 十方視野 - 」
1/10-2/14



色にも形にも変化するドットが、心にそっと寄り添う多様な心象風景を生み出しています。レントゲンで開催中の内海聖史の個展へ行ってきました。

二階建ての新レントゲンを、今回ほど一つの『箱』として意識させられたことはありません。壁という壁、ギャラリーの白の空間を埋め尽くすのは、大小様々なキャンバスに切り取られた色の粒、または球の群れです。それらは時に抜けるような青みをたたえながら空を広げ、また深い緑を帯びながら木立に吹く風を起こし、さらには朱色に染まりながら瑞々しい柿の実りをもたらしていました。ちょうど一階より吹き抜けを経由した二階スペースを見上げた瞬間、それ自体は抽象でしかないドットに生命の息吹を感じたのは私だけではないかもしれません。内海のドットはまさに細胞のように生き、そしてうごめいていました。

「天地と八方向の意味をもつ」(画廊HPより)『十方』ということで、構造面に無理はあるものの、天井面にも何か仕掛けがあれば更なる迫力があったのではないでしょうか。

2月14日まで開催されています。
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「特別展 妙心寺」 東京国立博物館(その2・展示全般)

東京国立博物館・平成館(台東区上野公園13-9
「特別展 妙心寺 - 京が伝える禅の名宝 - 」
1/20-3/1



南北朝時代に開創した妙心寺の寺宝は何も江戸絵画だけによりません。「その1」で紹介した江戸絵画以外の文物をまとめてみます。東京国立博物館での妙心寺展プレビューへ行ってきました。

*写真撮影、掲載については主催者の許可をいただいています。



まず平成館のエスカレーターをあがって向かって左、第1章「臨済禅」冒頭で待ち構えるのが、妙心寺の開山である「関山慧玄坐像」(江戸時代/通期)です。実際のところ同僧の肖像は一切残っていないため、後の世の人々が想像にてこのような坐像を作り上げました。



国宝の「宋峰妙超墨蹟『関山』道号」(鎌倉時代/前期)。大徳寺の開山であり、関山慧玄を花園天皇に推挙した宋峰妙超が書いたとされています。



「六代祖師像」(鎌倉時代/前期)。初祖達磨に始まる禅の六代祖師が一挙に登場します。ちなみに同作例としては国内で現存する最古のものです。



関山と並びもう一体、一際目立つのが「花園法王坐像」(江戸時代/通期)です。そもそも妙心寺は花園天皇の離宮を禅寺としたことに始まっています。泰然と構えておられました。



「瑠璃天蓋」(明時代/通期)。ガラスの小玉で精緻に表された天蓋です。法王の座所、玉凰院の外陣に懸かっていました。こうした工芸品もまた見所の一つです。



同じく玉凰院で用いられていた戸、「山水楼閣人物図螺鈿引戸」(明時代/通期)が初公開されています。仄かな光沢感を纏っているのをお分かりいただけるでしょうか。これは文様に螺鈿、つまりは夜光貝が用いられているためです。修復を終え、輝きもよみがえりました。

(第3章「妙心寺の中興」展示室)

前半部では主に開山、開基(寺院開創時に経済的に支援する世俗の信者)にまつわる作品を紹介していましたが、同章を含む中盤では、義満の時代、応永の乱(1339)のために中絶した妙心寺の苦難の歴史を辿っています。現在こそ広大な敷地を誇る同寺ですが、その発展の経緯は決して順風満帆というわけではありませんでした。(同時期の僧侶の肖像画などが並んでいます。)

(第4章「禅の空間2」展示室)

さて俄然面白くなってくるのが第4章以降です。ここからは室町絵画など、中、近世絵画ファンには見逃せない文物が続いています。



狩野元信「瀟湘八景図」(室町時代/前期)。狩野派の始祖、正信の子元信の四幅の八景図です。



放屁が得意だったという男を題材とした滑稽な物語絵巻、「福富草紙」(室町時代)です。禅寺がこうした作品を所蔵しているとは思いませんでした。



妙心寺は戦国大名の帰依も多く受けました。第6章「妙心寺と大檀越」入口、正面に見えるのは、豊臣秀吉の子で僅か三歳にして亡くなった棄丸所用の「玩具船」(安土桃山時代・通期)です。赤ん坊の棄丸がこの船(実際には四輪車になっています。)に乗り、臣下に引っ張らせて遊んだと伝えられています。ちなみに棄丸の葬儀は妙心寺の僧侶が行ったそうです。両者には深いつながりがありました。



再び登場した別バージョンの「瑠璃天蓋」(明時代/通期)です。こちらは同じく帰依した春日局を祀る麟祥院に懸かっています。春日局は長男正勝の菩提を弔うため、妙心寺に隣接する場所に麟祥院を建てました。



後半部、第7章「近世の禅風」では妙心寺の生んだ最大の改革者、白隠が登場します。豪快な「達磨像」(江戸時代/通期)に、彼の気宇壮大な心持ちを見る思いがしました。

白隠を過ぎると、前回取り上げた主に江戸期の襖絵、障壁画の一括展示です。ハイライトは壮観でした。

「特別展 妙心寺」 東京国立博物館(その1・速報『江戸絵画』)

改めて一点、メトロポリタン美術館よりやって来た狩野山雪の「老梅図襖」(江戸時代/通期)を挙げておきます。このただならぬ気配を是非会場で味わってください。

(クリックで拡大します。)

「さながら身もだえしのたうちまわる巨大な蟠龍のように、上昇し、下降し、屈曲し、痙攣している。」(展覧会図録より。辻惟雄著『奇想の系譜』から。)

私も出来れば前期にもう一回、そして絵画作品の多く入れ替わる会期後半に必ず足を運ぶつもりです。

前期展示:1/20~2/8、後期展示:2/10~3/1出品リスト

3月1日まで開催されています。
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「特別展 妙心寺」 東京国立博物館(その1・速報『江戸絵画』)

東京国立博物館・平成館(台東区上野公園13-9
「特別展 妙心寺 - 京が伝える禅の名宝 - 」
1/20-3/1



本日より上野の国立博物館で始まっています。妙心寺展の内覧会に参加してきました。



本来の鑑賞の在り方にはそぐわないかもしれませんが、まさかビジュアルとして見るだけでも十分に楽しめるとは思いませんでした。まずは以下、展示後半部に紹介された主に江戸時代の屏風、襖絵をご覧下さい。禅寺を紹介する難解な展示であろうと構えていると、良い意味で思いっきり期待を裏切られます。『正統』から『奇想』まで、この時代を代表する絵師たちの作品がこれ見よがしに紹介されていました。

*写真撮影、掲載については主催者の許可をいただいています。



曾我蕭白「福島正則像」(前期)
妙心寺に縁のある戦国武将の肖像もいくつか展示されていますが、その白眉とも言えるのが奇想のトップバッター、曾我蕭白の作品です。画像では少し分かり難い点がありますが、半ばデフォルメされた形相には鬼気迫るものがあります。





狩野元信「四季花鳥図」(前期)
全十二面にも及ぶ元信渾身の襖絵です。墨の濃淡にて、四季折々に彩られる花鳥の様子が軽妙に表されています。



長谷川等伯「枯木猿猴図」(前期)
相国寺の「竹林猿猴図」との関連も指摘されています。木に上ってじゃれ合う親子猿がほのぼのとした様で描かれていました。



海北友松「琴棋書画図屏風」(前期)
古来より尊ばれた琴、棋、書、画の四芸を示します。



狩野山楽「文王呂尚・商山四皓図屏風」(前期)
呂尚とは太公望のことです。(ご多分に漏れず、釣り糸を垂れています。)ちょうど文王が彼を引き立てるためにやって来たところです。



狩野山楽「松図」(前期)
『身悶えの松』と命名しましょう。隆々と迫り出して見る者を威嚇します。永徳の「檜図屏風」の烈しさにも匹敵し得る山楽の「松図」です。



狩野山楽「龍虎図屏風」(前期)
大きな口を開けて吠える虎が龍に対峙します。ちらし表紙にも飾られた「龍虎図屏風」です。剥き出しの牙に今にも食いちぎられてしまうかのような迫力が感じられました。

(クリックで拡大します。この迫力を是非!)

狩野山雪「老梅図襖」(通期)
これ一点でもおそらくは見るべき展示ではないでしょうか。メトロポリタンより奇想の大傑作がやってきました。あるべき姿を放棄して、半ば化石となりつつ老梅が、臨終の瞬間を迎えたかのように毒気を吐きながら身体を揺らします。



狩野探幽「山水図襖」(前後期2面ずつ)
雪舟の伝統すら思わせる厳格さをたたえています。探幽の「山水図」です。

絵画作品の主役は紛れもなく狩野山楽、山雪親子です。上記メトロポリタンの「老梅図」は当然のこと、東京で近年、二者の大作襖、屏風絵が今回ほどのスケールで展示されたことはあったのでしょうか。妙心寺展、失礼ながらもタイトルだけでは内実を大いに見誤ります。

また一つ、上の屏風群でとりわけ興味深い点は、各々のサイズ、特に高さです。妙心寺に設置された屏風作品は、通常一般的なそれと比べ、全て縦が約25センチほど長くなっています。つまり高さは約2メートル近くにまで達しているのです。道理で迫力があるわけでした。



途中一回の展示替えを挟みます。上記の作品は老梅図を除き、全て2月8日まで、前期期間中のみの展示です。

前期展示:1/20~2/8、後期展示:2/10~3/1出品リスト

東博というと既にどこの広告をとっても阿修羅ばかりですが、その影に隠れてしまうにはあまりにも勿体ない展覧会です。まずは一回目、前期内の早めのご観覧をおすすめします。

傑作170点、特別展「妙心寺」開幕(読売新聞)

なお江戸絵画以外の妙心寺所蔵の文物をはじめ、同寺の高僧であった白隠の展示については、また写真を交えて別個のエントリでご紹介します。

「特別展 妙心寺」 東京国立博物館(その2・展示全般)

*関連エントリ
ハンディサイズな障壁画(「寺院別障壁画の見かた」/宮元健次著):妙心寺の障壁画も一部掲載されています。
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「杉浦慶太 - Dark Forest - 」 CASHI

CASHI - Contemporary Art Shima中央区日本橋馬喰町2-5-18
「杉浦慶太 - Dark Forest - 」
1/10-1/31



タイトルにネタバレしていますが、DM画像では殆ど分かり得ない『闇』の秘密が詳らかにされています。GEISAI出身のアーティスト、杉浦慶太の個展へ行ってきました。

ホワイトキューブの展示室に入ると目に飛び込んでくるのは、ほぼモノクロームで統一されたかのように見える大判のシート、数点です。もちろん目を凝らすとそれが夜の森の光景であり、また写真であることが分かりますが、半ばミニマルアートのように黒の主張する様子は、例えば杉本の写す海景を連想させるものがありました。その表情は極めて非生物的であり、また冷ややかです。

光を失い、まさに闇夜に包まれる森の景色が、これほどまでに神々しく、そして全てを吸い込むかのような深淵な力をたたえてるとは知りませんでした。またストイックなまでに抑制された黒味は、隣接するレントゲンで開催中の生命感に満ちた色鮮やかな内海の世界とは対照的です。これは偶然なのでしょうか。

外の闇の力を取り込む日没後の鑑賞がおすすめです。今月末まで開催されています。
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「束芋 - ハウス - 」 ギャラリー小柳

ギャラリー小柳中央区銀座1-7-5 小柳ビル8階)
「束芋 - ハウス - 」
208/12/20-2009/2/14



丁寧に作り上げたはずのドールハウスが、いつしか押さえられない『悲しみに沈んだ』(doleful)何かに打ち破られました。ギャラリー小柳で開催中の束芋の新作個展へ行ってきました。

事実上、映像作品「dolefullhouse」(2007)の一点勝負です。一人の人物、正確には作り手を示す両手により、西洋趣味に彩られたドールハウスを組み立てていく光景が淡々と描かれています。終始、背後にゴボゴボと不気味に鳴る水の音と、ニュと伸びる手が互いに掻きむしることを除けば、ミニチュア家具や皿がてきぱきと配置される様子は、一瞬たりとも遅滞しません。理路整然、実にてきぱきと完成を目指して突き進んでいます。

この不穏ながらも明快な秩序は、突如、闖入してきたタコを切っ掛けにして乱されました。タコは一端、何とか茹でられて鍋へと押し戻されますが、それはいつしかドールハウスを支配するかのように触手を伸ばし、最後には堰を切った洪水を起こして全てをメチャクチャにリセットしてしまいます。ドールハウスはまさに作り手、そして見る側の何かを作り出す『論理』であるとするならば、破壊的に出現するタコに象徴されるそれは『感情』ではないでしょうか。壁を手が破っていく様は、社会の秩序(=ドールハウス)をズタズタにするような、半ば犯罪的な快感すら呼び起こしていました。抑圧され、またそれこそ手のように肥大化した自我は、欲望を投影したタコの力を借りることで一種、きれいサッパリに解き放たれていたのかもしれません。

2月14日までの開催です。
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「宮永愛子 - 地中からはなつ島 - 」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階)
「第3回 shiseido art egg 宮永愛子 - 地中からはなつ島 - 」
1/9-2/1



銀座のアートシーンを飾る一企画として定着した感があります。第一弾に登場するのはナフタリンの魔術師、宮永愛子です。資生堂での新作インスタレーション個展を見てきました。

アートエッグは個々の作品はもとより、かの展示スペースをどう演出するのかにも見るべき点がありますが、今回、宮永がイメージしたのは、かつて銀座に多数存在していたという「井戸と湧水」(*)でした。階段下の、暗がりの地下空間に広がっているのは、青白い光に包まれた、あたかも竹林のように並ぶ何本もの「水脈」(*ともに画廊HPより引用)です。そしてそのくり抜かれた部分に、貝殻や小さな瓶などを模したナフタリンのオブジェが置かれていました。まるで隠された宝物です。

水の中で洗われ、やがて消えゆくであろうオブジェは、ちょうど空気へ拡散して形を失うナフタリンの性質を巧みに表しています。淡々と過ぎる時間の流れは、水を介し、ナフタリンの溶解へと繋がっていました。

奥の小部屋にも要注目です。洞窟の奥底には純白の蓮池が清き水をたたえていました。



2月1日までの開催です。(最上段のDM画像は、実際の展示作品とは異なります。)
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