「Continuous Temporality 野村在/赤石隆明」 gallery COEXIST-TOKYO

gallery COEXIST-TOKYO
「Continuous Temporalityー持続する、仮設ー野村在/赤石隆明」 
7/12-8/3



gallery COEXIST-TOKYOで開催中の「Continuous Temporalityー持続する、仮設 野村在/赤石隆明」を見て来ました。

ともに写真で表現にしながらも、「写真家という枠に収まらない」(ギャラリーサイトより)という2名のアーティスト、野村在と赤石隆明。

私がこの展示を見に行く切っ掛けになったのは野村在が出展していたこと。というのも昨年、清澄のアルマスギャラリーで個展を見た際、どこか惹かれるものを感じていたからです。

「野村在ーadditional fugitive 増刷する刹那」 アルマスギャラリー(はろるど)

さてその際に「物質のとある現象を彫刻として捉えた写真」と書きましたが、今回はどうでしょうか。写真2点と立体2点。注目の写真のサイズはかなり大きい。縦横一方は2メートルを超えている。そして一見するところ、作風もアルマスの時とはやや異なっているようにも思えます。


野村在 展示風景
 
アルマス出品作では少量の液体の落ちる様をさも彫刻に「見立てて」(この表現は適切ではないかもしれません。)写真に落とし込んだ野村、今回は一転してスケールが大きい。テニスコートです。真っ暗闇を背景に広がるコート。中央にはネットが張られている。言葉で表せばただそれだけに過ぎませんが、よく見ると、あることに気がつきました。


野村在「Floartable objects(tennis court)」 1830×2750mm ラムダプリント

ずばりネットがポール共々浮いているのです。

もう一点の写真にも目を向けてみましょう。同じく背景は闇です。右奥には小屋が見える。真っ平らで広い空間、そこに堆く積み上げられた白い物体。表面はゴツゴツしているようにも映ります。はじめは石の塊かと思いました。

種明かしをしてしまうとこの物体は雪。つまり除雪してかき集められた雪の山なのです。そして浮かぶテニスのネットの謎は何なのか。聞いて驚きました。実は写真の外に人がいてロープなりで引っ張って浮かせていたのだとか。そしてともに暗いのは全く明かりがない場所というわけではなく、例えばスタジアムのライトのような強い光源を用いて撮影した結果、ようは意図的に背景を飛ばして見せているというわけなのです。(ただし夜ではあるそうです。)

雪が雪らしからぬ物体として見えること。そしてテニスのネットが宙に浮いた瞬間の姿やかたち。それらはひょっとするとアルマスで見た液体が液体らしからぬもの、言わば現象が何らかの彫刻として見えたことに通じるのかもしれません。変化する物体の意外性を捉えていく野村の視点、また一つ興味深く思えました。


赤石隆明 展示風景

なお展示は赤石隆明との二人展。ガレキをモチーフにしたオブジェも目を引く。アプローチこそ異なりますが、被写体を本来ある形とは別のものとして立ち上げる点に関しては、野村に共通する面もあるかもしれません。



コエグジストは現代美術館から木場駅方面に向かった途中にあるギャラリー。清澄からは少し距離がありますが、もちろん歩けます。美術館帰りの際にも立ち寄られては如何でしょうか。

8月3日まで開催されています。

「Continuous Temporalityー持続する、仮設ー野村在/赤石隆明」 gallery COEXIST-TOKYO@coexist_tokyo
会期:7月12日(土)~8月3日(日)
休廊:毎週月曜日。
時間:11:00~19:00
住所:江東区木場3-18-17
交通:東京メトロ東西線木場駅3番出口から徒歩6分。
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「竹中大工道具館」新館オープン

1984年、日本唯一の大工道具の博物館として神戸市中山に開館した竹中大工道具館。全面新装です。この秋、2014年10月4日、新神戸駅前にリニューアルオープンします。


「鉋」
©Philippe Weisbecker


竹中大工道具館新館 2014/10/4~

新しい竹中大工道具館の資料を頂戴しました。こちらでもご紹介しましょう。


竹中大工道具館 外観

まずは場所です。神戸市中央区熊内町(くもちちょう)。市中心部の三宮からは北へ2キロ弱程度。山陽新幹線と市営地下鉄の交差する新神戸駅のすぐ近くです。またそもそも竹中工務店は設立当初、神戸を本店としていた。言わばゆかりの地でのオープンとなります。


玄関

同道具館が開設以来30年に渡って収集した資料は3万点超。来館者もこれまで25万人を数えるに至ります。しかしながら建物や施設などの老朽化は否めない。そもそも収蔵スペースも不足していたそうです。それを一気に解消するための新装でもあります。


中庭

さて現地は六甲山麓の緑豊かなロケーション。周辺環境との調和を意識してのことでしょう。建物は地上1階、地下2階。外観は和風。淡路のいぶし瓦を用いての瓦葺きです。ロビーには地元の木工作家の手によるテーブルとチェアも用意されている。また全面ガラス張りの建物からは六甲山の山並みも一望出来ます。反対の海側には枯山水庭園も作られるそうです。


1階ロビー

ロビー階の天井部分にも注目です。上部へ少しせり上がっているように見える。これは「舟底天井」と呼ばれる仕上げ。天然の無垢材を利用しているそうです。


地下1階吹き抜け

新しい展示室には収蔵資料のうち1千点が並びます。もちろん鋸、鑿、鉋、墨掛道具などの大工道具もずらり。現在では使われなくなった道具も展示されるとか。一口に道具といえども様々なバリエーションがあるそうです。


地下2階常設展示イメージ図

また高い専門性のゆえ、ともすると身近に感じにくいかもしれない大工の技。その点を分かりやすく伝える工夫も抜かりありません。キーワードは「直感的」です。模型や映像資料、さらには触って学べる「ハンズオン展示」を採用。ファミリーでも楽しめる「木の香りボックス」や「砥石を顕微鏡でのぞいてみよう」などの体験コーナーも開設されます。


地下2階常設展示鳥瞰図

また展示は単に大工道具を揃えるだけでなく、大工仕事のほか、大工と密接に関わった木造建築なども幅広く紹介。常設展は7章立て。テーマ別での構成です。

「歴史への旅」
「棟梁に学ぶ」
「道具と手仕事」
「世界を巡る」
「和の伝統美」
「名工の輝き」
「木を活かす」

例えば「歴史への旅」では日本の木造建築の推移を辿りながら大工道具の歴史を俯瞰。また「棟梁に学ぶ」では職人の仕事を模型や図面ともに紹介します。一方で「世界を巡る」は文字通り世界の大工道具を展示。とりわけヨーロッパと中国に着目するそうです。さらに「和と伝統美」や「名工の輝き」では職人の作り上げた優品を展観。大工道具から広がる世界を堪能出来るように展示されています。


茶室スケルトン模型
モデル:重要文化財「大徳寺玉林院蓑庵」


実寸大模型も目玉です。うち高さ7メートルにも及ぶのが唐招提寺金堂の柱と組物。また木造住宅の小屋組みや精巧な数寄屋造りを見られるスケルトン茶室も再現。うち茶室は大徳寺玉林院の蓑庵がモデルになるそうです。

また「みる」に「さわる」だけでなく、「つくる」も同道具館の特徴。木工室によるワークショップです。かつての旧館同様、宮大工の指導の元に鉋削りをはじめとした大工道具を体感出来る。子どもだけでなく大人向けの実演プログラムも用意されているそうです。

さらに新装オープンにあわせミュージアムショップも開設します。ここでは同道具館のオリジナルグッズも販売されるとか。また各種企画展にあわせて書籍やグッズなども入れ替わるそうです。


日本の大工道具
©Hiroshi Yoda


「日本の道具はおもしろい。その魅力、より深く分かりやすく。」とうたう竹中大工道具館。鑿で削り、鉋をかけることは誰しもが一度は体験したこと。それをプロの視点から改めて学べるチャンスでもあります。美術ファンのみならずも楽しめる施設になるのではないでしょうか。


竹中大工道具館新館現地案内図

竹中大工道具館の新館は2014年10月4日に新神戸駅前にオープンします。

「竹中大工道具館」
時間:9:30~16:30 入館は16時まで。
休館:月曜日。祝日の場合は翌日。年末年始(12/29~1/3)。
料金:一般500円 、大高生300円、65歳以上200円、中学生以下無料。
 *団体割引は20名以上。
住所:神戸市中央区熊内町7-5-1
TEL:078-242-0216 FAX:078-241-4713
URL:http://dougukan.jp
交通:JR山陽新幹線新神戸駅中央改札口より徒歩3分。神戸市営地下鉄新神戸駅北出口2より徒歩3分。駐車場(6台)あり。
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「たよりない現実、この世界の在りか」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「たよりない現実、この世界の在りか」 
7/18-8/22



資生堂ギャラリーで開催中の「たよりない現実、この世界の在りか」を見て来ました。

ピンク色のフライヤーに「たよりない現実、この世界の在りか」というタイトル。

アーティスト荒神明香と表現活動体「wah document」によって組織された「目」という現代芸術活動チームによる展覧会。少なくともフライヤーにタイトルのみで今回の展示内容を予測出来た人は、もはや殆どいないと言っても良いかもしれません。

実のところ私もかなり驚きました。そして初見の衝撃のみからすれば、過去このギャラリーで行われたどの展覧会よりも強かったとしても過言ではありません。

以下、ネタバレあります。(展覧会の核心のいくつかの部分については伏せていますが、まずは会場をご覧になってから読まれることをおすすめします。)

では何が衝撃的なのか。端的に言ってしまえばギャラリーの原型が殆ど残されていない。ようは予想だにも出来ない空間が広がっているのです。

ところで資生堂ギャラリーの展示室に入る際、階段かエレベーターのどちらを使われるでしょうか。

私は大方階段を利用します。何故なら途中で展示室を見下ろせる上、そもそも踊り場などに作品があり、それが全体の導入になっていることもあるからです。

ただ今回はひょっとするとエレベーターを使った方が良いかもしれません。ともかくはエレベーターで階下へ降りてみました。

するとそこから驚愕の世界です。ホテルのロビーです。天井にはシャンデリア。そして奥へとのびる廊下。赤いふかふかの絨毯が敷き詰められています。そもそも会場案内図からしてホテルの客室にあるような冊子風です。中には言わば支配人の挨拶でしょうか。「ホテルTGへようこそお越しくださいました。」と書かれていました。



廊下に沿って進みましょう。すると客室が101、102と続いていく。いずれも扉のみ。中には入れません。そして途中にはビデオカードの販売機まである芸の細かさ。照明もご覧の通り。ムードは満点です。ともかくここがギャラリー内部とは思えません。ホテルさながらの空間が再現されています。

そして案内図にはいくつか「ビューポイント」がある。殆どが客室の扉です。つまりは「作品」をドアスコープなどから見る仕掛け。また廊下には階段や消火栓などの点検口があり、そこからさらに中に入ったり覗き込むことも出来ます。いずれもかなり暗い。目が慣れないとなかなか分かりませんが、しばらくすると時に何かが浮かんでいることが見て取れます。(その何かは会場でご確認下さい。)



さらに奥へ進みましょう。ホテルの客室、シングルルームです。左手に口箱、奥には机とベット、それに冷蔵庫もある。またベット下には靴下が揃えられ、床にはペットボトルも転がっている。誰がか泊まっていることを意味しての演出でしょう。

机の上にはホテルの備品が置かれています。ルームサービスの価格表でしょうか。ベットカバーの上には係員の挨拶カードもあります。私の時は「筒井」と記されていました。また入口付近には「ミラー」。言ってしまえば大方通常のホテルの客室にありそうな備品や設備は全て整っているわけです。

しかしながらこの客室こそに今回の展示最大の「謎」がある。これもあえて触れません。簡単に分かることもあれば、そうでない場合もあるかもしれません。ともかく先のドアスコープ同様、何か捉え難いものをひたすら探して歩くかのような展示。ただこの客室では探して歩くだけでなく、あえて我が身を振り返る、言い換えれば姿を確認する必要があります。それがヒントです。

それにしてもラストの謎を知った時の驚き。よくぞここまで細かに作り込んだかと感心しました。ギャラリーのホワイトキューブは何から何まで作り替えられた。そもそも本展、荒神のアイデアを2012年からwah documentが練って実現したもの。2年越しの展示でもあります。

最後は再びエレベーターホールの前に戻って今度は奥の階段をあがりましょう。確かに階段、但し非常口扱い、つまり仮設です。ベニア板に鉄パイプが剥き出し。もちろん入口まで辿り着くことも出来ますが、より一層暗いせいか足元すら覚束ない。なおこちらにも「ビューポイント」があります。ちなみにギャラリーでは帰路としてエレベーターを推奨していました。(おそらく階段が狭いので行き来するのが大変だからでしょう。)一度、係の方に断って入った方が良いかもしれません。



銀座の地下に出現した希有な空間。内容の評価は分かれるかもしれません。ただそれでも現代美術ファンならずとも一度は体験する価値がある。百聞は一見にしかずです。見ないことには分かりません。まずはお出かけ下さい。

会場内、一部分が撮影出来ます。8月22日まで開催されています。

「たよりない現実、この世界の在りか」 資生堂ギャラリー
会期:7月18日(金)~8月22日(金)
休館:毎週月曜日
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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「戦後日本住宅伝説」 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
「戦後日本住宅伝説ー挑発する家・内省する家」
7/5-8/31



埼玉県立近代美術館で開催中の「戦後日本住宅伝説ー挑発する家・内省する家」を見て来ました。

戦後日本、50年代から70年代における住宅建築を追いかける展覧会。特に住まいにおける個人的な内部空間に着目します。出展は16名の建築家による16の住宅です。写真パネルに模型、図面、そして一部映像を交えて見せる。シンプルな構成ではありましたが、なかなか見応えがありました。

会場内、大判の写真パネルの撮影が可能でした。

さて一口に住宅と言っても多様。出展で最も古いのは冒頭の丹下健三、「住居」(1953)です。自邸ながらも四方に開かれた構えはどこか迎賓館のようでもある。一階はピロティでしょうか。かの広島の平和記念資料館を思わせるものがあります。


増沢洵「コアのあるH氏の住まい」(居間より庭をみる) 1953年

増沢洵の「コアのあるH氏の住まい」(1953)は平屋の簡素な住宅です。内部は回遊性をもたせる工夫をしているとか。興味深いのがブロック積みです。内部にブロックを積み上げ空間を仕切る。トイレまでが内側(壁に沿っていない)にあるのも目を引きました。


清家清「私の家」(居間) 1954年

清家清の「私の家」(1954)も自邸です。10m×3mの住まい。いわゆる単室で部屋が一つしかありません。奥の壁は作り付けの書棚でしょうか。一面に本が積まれています。床材が趣き深く感じました。と言うのも不揃いの石が敷き詰められているのです。そして大きく開かれた窓から望む庭にも同じように石が敷かれている。庭との連続性を考えてのことかもしれません。木々の緑が目に染みました。


東孝光「塔の家」(竣工当時の外観) 1966年

「70坪よりも6坪が良い」。狭くとも都市に住むことを提案したのは東孝光です。住宅は「塔の家」(1966)、狭い敷地に2階、3階と積みあがる。まるで階段そのものを家にしたかのような建物です。ただ吹き抜けが功を奏しているからなのでしょうか。案外見通しが良い。上階には子供部屋もあります。全5階、上下の行き来は階段です。バリアフリーといった概念はおそらくありません。


菊竹清訓「スカイハウス」(改修後の写真。2階部分は現在ではゲストルームとして使われている。) 1958年

立地もあるのか写真でも居心地良さそうに見えます。菊竹清訓の「スカイハウス」(1958)、これも自邸です。トイレもユニット化して外部に配置されるように設計されたとか。1本の柱もないリビング。見晴らしが良い。広々としています。


坂本一成「水無瀬の町家」(外観) 1970年

一転して重々しく映るのが、坂本一成の「水無瀬の町家」(1970)。まるで閉ざされた箱のような住宅です。鉄筋コンクリートながらも屋根は木造。2階の天井高が低いゆえか腰が低くどっしりと構えているように見える。この住居も吹き抜けが用いられています。それにしても吹き抜けのある住宅が多い。殆どと言って良いのではないでしょうか。何かと空間に制約のある住居。吹き抜けで表情や空間に変化を付けているのかもしれません。


磯崎新「新宿ホワイトハウス」(3間立方吹抜けのアトリエ) 1957年

新宿でネオダダの本拠地だったそうです。磯崎新の「新宿ホワイトハウス」(1957)です。外観はやや洋風で小屋、ホワイトキューブ3間立方のアトリエです。当時は多くのアーティストらが集い、その様子も写真で紹介されていましたが、現在は様変わり。カフェとして利用されているそうです。


安藤忠雄「住吉の長屋」(西側外観) 1976年

長くなってきました。少し先を急ぎます。安藤忠雄の「住吉の長屋」(1976)です。おそらくは16名の建築家の住宅の中でも特に知られた作品、トレードマークというべきコンクリート打ちっ放しの箱が長屋の立ち並ぶエリアに半ば挿入されている。間口が驚くほど狭く、そもそも周囲に開かれた部分が少ない。その意味では内省と言えるのかもしれませんが、内部空間に驚くべき仕掛けがあります。吹き抜けに屋根がありません。ようは雨の日に左右の部屋を行き来するためには傘をささなくてはいけないわけです。ともするとこれこそ住民を挑発している住宅と言えるのかもしれません。


石山修武「幻庵」(南側より内部を見る) 1975年

それに挑発という点では石山修武の「幻庵」(1975)も同様ではないでしょうか。奇異な外観、昆虫かなにかのイメージでしょうか。オレンジの半円ドームとコンクリートの組み合わせ。さながら飛行機のコックピットのようでもある。また原広司の「原邸」(1974)の内部も変わっています。公共建築をそのまま取り込んだかのような空間。オペラシティ(初台)のコンサートホール前の階段状のエントランスを思い出しました。


白井晟一「虚白庵」(客室、仕事室。薄暗い空間の中にブラジリアンローズウッドの壁が浮かび上がる) 1970年

「内省する家」の代表格と言えるのではないでしょうか。白井晟一の「虚白庵」(1970)です。石の壁が建物を囲み、重々しい金属製の玄関はまるで金庫の扉のようでもある。シェルターと称されたそうです。そして内部も薄暗い。ただ白砂の敷かれた庭もあるのか、見開かれる景色は息をのむほどに美しい。白井と言えばともかく松濤美術館の空間を連想しますが、人を優しく包み込んでは守り、さらに瞑想を誘うかのような住宅。私は惹かれるものを感じました。


伊東豊雄「中野本町の家」(居間) 1976年

スリット状のトップライトが効果的です。伊藤豊雄の「中野本町の家」(1976)です。U字型で一見、外には閉ざされた空間。ただし内部は光に満ちています。何でも寡婦となった姉とその娘のための住宅だとか。おそらく光はいわゆる癒しを求めてのことなのでしょう。居間は延々とカーブを描く空間。両サイドにキッチンや寝室がある。残念ながら後に取り壊されてしまったそうです。

建築の中でも住宅という身近な素材の展示だからでしょうか。自らの生活体験に引き寄せられる展覧会です。また家具などの配置などでも印象の変化する住宅。ともすると家を捉える際に建物や環境を重視し過ぎてはいなかったか。主役は建物ではなく内部での人間の生活そのものです。それに家に馴染むということもあります。展示は1950~1970年前後と、かなり時代を遡りますが、まずはそれらの住宅に住みたいか否か、そしてどう住むのかということを考えながら見るのも楽しいかもしれません。


毛綱毅曠「反住器」 1972年

映像に関しての情報です。簡単に建物を紹介する2~3分程度の作品も目立ちますが、中には建築家のインタビューなどを交えての長編、25分程度のものもありました。(長い方から25分1本、16分1本、11分3本など。)全部追うとゆうに1時間はかかるのではないでしょうか。時間に余裕をもっての観覧をおすすめします。

企画展に続く常設のMOMASコレクション、特に「リサーチ・プログラム 小村雪岱」が充実していました。よく知られた「青柳」に「落葉」、また「おせん」の挿絵原画をはじめ、「お傳地獄」に「山海評判記」の複製資料、さらには「雪兎模様着物」などの染織まで、出品は50点ほどです。新たに寄贈された書籍や資料を含みます。これほどのスケールで雪岱作品を見たのは久しぶりです。2010年に同館で行われた回顧展のことを思い出しました。

ところで今回出展のあった黒川紀章は言うまでもなく本美術館の設計者。中銀カプセルタワーの住宅カプセルも隣接する北浦和公園内に設置されています。


黒川紀章「中銀カプセルタワー」内部 (北浦和公園内)

既にご覧になった方も多いかと思いますが、展示とあわせて見るとまた面白いのではないでしょうか。そちらもお見逃しなきようご注意下さい。

[戦後日本住宅伝説展 巡回予定]
広島市現代美術館:2014年10月4日(土)~12月7日(日)
松本市美術館:2015年4月18日(土)~6月7日(日)
八王子市夢美術館:2015年6月~7月(予定)

なお埼玉県立近代美術館は本展終了後、第2期改修工事のため9月1日より来年4月10日まで休館します。(ちなみに第1期改修工事を終えたからでしょうか。お手洗いが見違えるほど綺麗になっていました。)

「戦後日本住宅伝説―挑発する家・内省する家/新建築社」

8月31日まで開催されています。これはおすすめします。

「戦後日本住宅伝説ー挑発する家・内省する家」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:7月5日(土)~8月31日(日)
休館:月曜日。但し7月21日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大高生880(710)円、中学生以下、65歳以上無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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「絵画の在りか」 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリー
「絵画の在りか」 
7/12-9/21



東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「絵画の在りか」を見て来ました。

いわゆる現代アートの領域において活動する美術家たちの表現。うち絵画に注目した展覧会です。出展は24名のペインター。いずれも今日も制作を続ける作家ばかりです。

「出品作家紹介」@絵画の在りか展

さて同館内のスペース、区切られた壁面に各作家毎の作品が数点展示されていく。構成はいたってシンプルです。というわけで直感を頼りに惹かれる作家を探して歩きました。

まずは政田武史です。5~6年前になるでしょうか。ワコウ・ワークスなどで何度か個展を見たことのある作家。ともかく特徴的なのは筆触、まるで点描を面的に広げたかのような表現です。


政田武史「HAITOKUKANのマーチ・覗き見OK、カモン」 2012年
油彩、キャンバス 117.0×91.0cm


今回は5点。いずれも映画やテレビ、それに記録写真などを素材としているそうですが、例えば「赤の他人列伝」(2012)は面白い。船に乗る三人の男。猿もいる。映画のポスターでしょうか。それに「HAITOKUKANのマーチ」(2012)も目立つ。高層マンションの立ち並ぶ夜景、都内かもしれません。空は濃いワイン色に染まっている。マンションの窓から白い明かりも漏れています。筆触は太く、細いものもある。そして手前には何故か甲冑を着た男たちが並びます。どこかシュールではないでしょうか。


竹崎和征「67 V」 2013年
ペンキを塗った古い雨戸、アクリル絵具、古い窓枠、キャンバス、油彩 199.0×170.5cm


竹崎和征、テーマは「風景の記憶」だそうです。興味深いのは支持体そのものに古びた窓枠や木の雨戸を用いていること。その一部にペンキで色を塗る。雨戸は作家の身近な場所にあったのでしょうか。平面とは言えどもインスタレーション的な表現ではあります。


五月女哲平「Saturn」 2011年
アクリル絵具、キャンバス 116.5×116.5cm


五月女哲平の「Saturn」(2011)は文字通り土星を描いたものでしょう。白く輝くリングが斜めに星を囲む。星は青いボーダーで塗り分けられています。何でもキャンバスの裏地を利用して薄い絵具を何度も塗り重ねているとか。真っ正面からバスを捉えた「Bus」(2014)も面白い。色面のみで示されたバスのフロント部分。まるで何かのアイコンのようでもある。極めて平面性の強い作品です。奥行きはありません。


今井俊介「untitled」 2013年
アクリル絵具、キャンバス 51.5×45.0cm


今井俊介はどうでしょうか。まるで旗を描いたようなシリーズ。今年の資生堂アートエッグにも出品がありました。色がストライプ状に広がっては交錯し、また流れていく。蛍光色を多用した色遣いも鮮やかですが、シルバーの使い方もことさらに魅惑的。平面の中に揺らぎや動きが生じています。


高橋大輔「無題(マドンナ)」2012-2013年
油彩、ボード 25.0×26.0cm


絵具を盛りに盛る高橋大輔、また魅せてくれました。5点の油彩、他の作家からすると小さな作品かもしれません。ただし存在感は強烈です。溢れてさも垂れ落ちそうな絵具。さらに厚みが増したでしょうか。まるで小さな花を散りばめたような作品もある。絵具が単なる素材を超えてモチーフそのものへと化しています。またタイトルには無題とありますが、サブタイトルにはマドンナとも記されています。東西の絵画作品が参照されているそうです。

まるで静物画のようです。ポットや矩形をモチーフにする高木大地。「window」(2013)は窓というよりも瓶の断面を描いたようにも映ります。水色と白の絵具。そこへ黒い影が切り込む。地と対象との関係は曖昧です。また水色の絵具の下には丸く突き出たようなモチーフが見え隠れしています。モランディという記述もありましたが、そのような雰囲気も感じられました。


風能奈々「片目は鳥の目 片目は虫の眼」 2013年
アクリル絵具、キャンバス 227.5×324.0cm


天井高のあるオペラシティのスペースがあってからこその展示でしょう。風能奈々の「数多夜一夜物語」(2013)です。40センチ四方のパネルがゆうに10枚以上積み上げられています。動物や植物、それにスプーンに鳥かご、はたまた食べかけのチーズなどが描かれている。「片目は鳥の目 片目は虫の眼」(2013)でも同じく動植物。さらに紋様のように広がっています。それにしても緻密な線描です。これは惹かれました。

今感想に挙げた作家は一部に過ぎません。また今回の展示では作家を幅広く紹介することを心がけたそうです。同館のプロジェクトNに出展した作家も南川史門、一人しかいません。そういう意味でも私にとって知らない作家が多く、発見の多い展覧会ではありました。


工藤麻紀子「いぬとねこ」 2011年
油彩、キャンバス 130.0×162.0cm


ただし如何せん20名以上のグループ展、作品の大小はあれども一人4~5点の出品です。個々の作家をじっくり追いかけるというよりも、多くの作家を見せようとする企画。もちろん章立てなどもありません。だからでしょうか。作品単体では面白くとも、一つの展覧会として捉えにくい面はあったような気がしました。

8月3日は日曜日ですが、オペラシティビルの点検日のため入館出来ません。翌8月4日(月)と連休になります。ご注意下さい。

9月21日まで開催されています。

「絵画の在りか」 東京オペラシティアートギャラリー
会期:7月12日(土)~9月21日(日)
休館:月曜日。(祝日の場合は翌火曜日。)8月3日(日)*全館休館日。
時間:11:00~19:00 *金・土は20時まで開館。入場は閉館30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大・高生800(600)円、中学生以下無料。
 *( )内は15名以上の団体料金。
 *閉館1時間前以降の入場、及び65歳以上は半額。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
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ヨコハマトリエンナーレ2014で「夜間特別鑑賞会」が開催されます

8月1日(金)よりはじまる「ヨコハマトリエンナーレ2014」。第5回展となる今回のディレクターは美術家、森村泰昌氏です。「華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」と題し、作品展示の他、様々なプログラムが行われます。



その「ヨコハマトリエンナーレ2014」にてSNSユーザー向けに特別内覧会が開催されます。

【ヨコハマトリエンナーレ2014『夜間特別鑑賞会』開催概要】
[実施日時] 2014年8月8日(金) 18:30~20:00(受付開始は18時より)
[会場] 横浜美術館
[スケジュール]
 18:00 受付開始
 18:30~19:00 ミニレクチャー(レクチャーホールにて)
 19:00~ 特別鑑賞会
 20:00 内覧会終了
[参加条件] ブログ、WEBサイト、SNSなどで本展について告知していただける方。
[参加費] 無料
[申込方法]下記、必要事項をご記入の上、 triennalenight@ypcpr.com 宛てにお申込みください。
 ・氏名(ふりがな)
 ・本展についてご紹介いただけるWEBサイト・ブログ等のURL、SNSアカウント
  *ご記入頂ける範囲でサイト・ブログの月間アクセス件数、SNSのフォロワー数の記載をお願いいたします
 ・メールアドレス
 ・電話番号
[申込締切]7月27日(日)事務局でのメール受信日。当選メール1件につき、お一人様のみ参加が可能です。当落はメールでご連絡いたします。電話でのお問い合わせは一切受け付けておりません。


Temporary Foundation「法と星座・Turn Coat / Turn Court」(完成予想図) 2014

開催日時は8月8日(金)の18時半から。(受付開始は18時)。会場は横浜美術館です。また参加資格はブログ、WEBサイト、SNSアカウントをお持ちの方で、本展について告知していただける方です。

【参加の特典】
1.夜間貸し切り特別観覧会です。
2.「ヨコハマトリエンナーレ2014」キュレーターによるミニレクチャーにご参加いただけます。
3.展示室内の撮影が行えます。*注意事項有り

当日は貸し切りでの観覧出来る上、キュレーターによるミニレクチャーも行われます。また展示室内の撮影も可能です。(注意事項あり)


マイケル・ランディ「アート・ビン」 2010
サウス・ロンドン・ギャラリーでの展示風景


さてそのヨコハマトリエンナーレ2014、いよいよ開催が迫って来ました。

主会場は横浜美術館と新港ピアの2箇所。前回展で初めて会場となった横浜美術館が今回もそのまま利用されます。(ちなみに新港ピアは2008年の第3回展の主会場でした。)



そして前回展の会場だったBankART Studio NYKなどは、「まちにひろがるトリエンナーレ」として、黄金町バザール2014ともに「創造界隈拠点連携プログラム」が展開されます。

[まちにひろがるトリエンナーレ](創造界隈拠点連携会場)
BankART Studio NYK
黄金町エリアマネジメントセンター
象の鼻テラス
ヨコハマ創造都市センター
急な坂スタジオ

よってチケットも主会場2箇所の単体券(一般当日1800円)と提携プログラムを含んだセット券(一般当日2400円)に分かれるようです。

ヨコハマトリエンナーレ2014 チケット情報

美術館に会場を移してからやや雰囲気が変わった気がしないでもありませんが、やはりヨコハマトリエンナーレは横浜市中心部における各プログラムあってのイベント。私もいつも展示のみを追ってしまいますが、今回は「まちにひろがるトリエンナーレ」の方も足を伸ばしてみたいと思います。

なお今回の夜間特別内覧会が行われるのは横浜美術館のみ。もう一つの主会場である新港ピアでは開催されません。(ただし当日は一般開催日です。18時までは新港ピアの展示を観覧出来ます。有料。)ご注意下さい。

「ヨコハマトリエンナーレ2014公式ハンドブック/マガジンハウスムック」

ヨコハマトリエンナーレ2014の「夜間特別鑑賞会」、応募締切は7月27日の日曜日です。興味のある方は応募されてみてはいかがでしょうか。

ヨコハマトリエンナーレ2014「夜間特別鑑賞会」参加者募集!

申込アドレス→triennalenight@ypcpr.com(問い合わせを含む)

「ヨコハマトリエンナーレ2014」 横浜美術館、新港ピア
会期:8月1日(金)~11月3日(月・祝)
休館:第1・3木曜日(8/7、8/21、9/4、9/18、10/2、10/16)
時間:10:00~18:00 *入場は閉場の30分前まで。
 *8月9日(土)、9月13日(土)、10月11日(土)、 11月1日(土)は20時まで開場。
料金:
 単体券 一般1800(1400)円、大学・専門学生1200(900)円、高校生800(500)。中学生以下無料。
 提携セット券 一般2400(2000)円、大学・専門学生1800(1400)円、高校生1400(1100)。中学生以下無料。
 *( )は前売券料金。(7/31まで発売)会場で20名以上同一券種の当日券購入の場合は各200円引。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1(横浜美術館)、横浜市中区新港2-5(新港ピア)
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口徒歩5分(横浜美術館)、みなとみらい線馬車道駅6番出口徒歩13分(新港ピア)。
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「アーティスト・ラボ つくられるの実験」 川口市立アートギャラリー・アトリア

川口市立アートギャラリー・アトリア
「アーティスト・ラボ つくられるの実験」 
7/19-8/31



川口市立アートギャラリー・アトリアで開催中の「アーティスト・ラボ つくられるの実験」を見て来ました。

「つくる実験」ではなく「つくられるの実験」と題した展覧会。出品は「気鋭」(公式サイトより引用)の4名のアーティストです。いわゆる個展形式で絵画にインスタレーションなどの展示が行われています。

[出品作家]
江川純太
谷本真理
知念ありさ
安西剛

さて「つくられる」とは一体何か。答えは観客がアーティストとともに作品をつくること。平たくいえばワークショップ、参加型の展示と言えるかもしれません。ゆえに作品からすれば観客に「つくられる」というわけなのです。

会場内、撮影が出来ました。


知念ありさ「Topography of the Dots/点々の在り処」
2014年 紙、シール、アセテートフィルム、糸、ピン


まずは知念ありさです。宙に浮く青と白のドット。それこそ点々と連なっているわけですが、壁面にも同じように点々が広がる。今にもさも散りそうな面、時にまるで鳥の羽根のようにも映ります。テーマは身体です。お分かりいただけるでしょうか。いずれも両足をモチーフとしている。確かによく目を凝らすと親指に爪のようなものが見える。そこに無数の点々が記されていることが見て取れます。


知念ありさ「Topography of the Dots/点々の在り処」
2014年 紙、シール、アセテートフィルム、糸、ピン


そしてこの点々を実際に身体へ描くワークショップも行われるとか。作家は元々、風景をテーマにしていましたが、今回新しく身体に着目しました。身体に潜む意外な造形。それをドットを介して発見する契機となるやもしれません。


谷本真理「起きてるつもりだった」
2014年 布団、陶土、紙粘土、木材、ロープ、ペン ほか


続いては谷本真理です。床面にうち広げられた無数の布団に吊るされたロープ、そして木材にシート。粘土も転がっています。キャプションには「一人遊びの痕跡」とありました。ようはこの布団の上で寝転がりながら粘土なりを触ってかたちをつくる。その意味では最も「つくられるの実験」に近い作品とも言えるでしょう。会期中の土日(一部除外日あり)は実際に観客が中に入って参加することが出来るのです。

素材の「感触」や「心地よさ」に強い関心を持つという谷本。確かに粘土も布団も触感が魅惑的です。来場者の行為如何では思いがけない方向にも展開し得るインスタレーション。私も靴を脱いでしばし布団の触感を楽しみました。


安西剛「platonic machines」
2014年 指示書、日用品、モーター、鉄管、木材 ほか


日用品とモーターを利用して「きかい」を制作するのが安西剛です。タイトルは「platonic machines」(2014)。鉄パイプでしょうか。木材と組み合わされた構造物。随所にはそれこそ日用品、カラフルなプラステック製の洗濯干しなりラックなどが釣り下がっています。そして写真では分かりませんが、いずれも可動式です。くるくる回ったり、ばたんばたんと上下に倒れたりして動いています。


安西剛「platonic machines」
2014年 指示書、日用品、モーター、鉄管、木材 ほか


その様子は何ともユーモラス、ついつい見入ってしまいますが、これらはいずれも「指示書」によってつくられたものです。ただし指示書はとかく曖昧。そもそも読んでもどう作って良いのか分かりません。また本作も参加型のワークショップがあります。ようはその曖昧な部分は参加者らが想像力を補って作らなければならないわけです。


江川純太 展示風景

ラストはeitoeikoでの個展も控える江川純太です。いずれも油彩画、全部で8点ほどでしょうか。真四角のフォーマットにストライプなり抽象的ながらもどこか有機的なモチーフも描かれる。また画面に「言葉」を取り入れた新作も出品。これまでにはない展開も見られます。


江川純太 展示風景

一番右下のキャンバスが真っ白です。まだ何も描かれていません。何故でしょうか。答えを明かせば、この作品は今後、アートウォッチングというイベントで参加者が制作、それを作家がさらに後の公開制作で加筆して完成するわけです。



「江川純太 全ては奥歯で砕かれる。」@eitoeiko(神楽坂) 7月26日~8月30日

展示は「つくられる」ことで刻々と変化する。嬉しいことに半券で会期中、何度も入場出来ます。また何度も触れてきたように公開制作やアーティストトークの他、主に小中学生向けのワークショップのイベントもあります。(事前申込制)作品の完成だけでなくプロセスを見せる展覧会。ちょうど夏休み期間中です。親子連れで出かけても面白いかもしれません。



イベントの詳細や参加方法については公式サイトをご参照下さい。

アーティスト・ラボ「つくられる」の実験@川口市立アートギャラリー・アトリア

8月31日まで開催されています。

「アーティスト・ラボ つくられるの実験」 川口市立アートギャラリー・アトリア
会期:7月19日(土)~8月31日(日)
休館:月曜日。但し7月21日(月・祝)は開館、7月22日(火)は閉館。
時間:10:00~18:00。土曜日は20時まで開館。*入館は閉館の30分前まで
料金:一般300円。高校生以下無料、65歳以上は無料。
住所:埼玉県川口市並木元町1-76
交通:JR線川口駅東口から徒歩約8分。
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都響スペシャル 「マーラー交響曲第10番」 インバル

東京都交響楽団 都響スペシャル

マーラー 交響曲第10番嬰へ長調(クック補完版)

管弦楽 東京都交響楽団
指揮 エリアフ・インバル

2014/7/20 14:00~ サントリーホール



エリアフ・インバル指揮、都響スペシャルの「マーラーの交響曲第10番」を聞いてきました。

2012年秋よりインバルとのコンビでマーラチクルスを展開して来た東京都交響楽団。かつてはベルティーニとのチクルスも行われた。このところコンサートから遠ざかっている私ですが、やはり国内でのマーラー演奏といば都響というイメージは依然として強くあります。

そしてマーラーは私も好きな作曲家の一人。振り返っても順に9番、5番、7番に1番、3番、そして2番等々、これまでにもいくつかのオーケストラのコンサートに出かけたものでした。

ただし10番を実演で聞くのは今回が初めて。CD演奏では確かラトル盤を何度か耳にしたことがある程度に過ぎません。そして正直なところ他の交響曲に比べてあまり強い印象を持ちませんでした。言うまでもなくマーラが没した段階では10番は完成していなかった作品。当時、演奏可能の状態にあったのは第1楽章と第3楽章の冒頭のみだったそうです。

「マーラー:交響曲第10番(D.クック復元版)/インバル/フランクフルト放送交響楽団」

さてほぼ前提知識なしでのコンサート。結論から言えば素晴らしかった。曲はクック補完版。そもそもインバルは若き頃クックが補完版を作る段階で本人と議論したこともあったとのこと。まさにスペシャリストによる演奏とも言えるわけです。

第1楽章は第9番の雰囲気を思わせる静謐でかつ時に抒情的なアダージェット。この日の都響はどちらかと言うと尻上がりに調子をあげていった感もありますが、それでも重なり合う弦の響きは美しい。第2、第3楽章のスケルツォとプルガトリオ、細かい部分ではやや難もあったかもしれません。ただそれでも錯綜する主題を巧みに表現する。そもそも10番、全体的に感動的云々よりもアイロニカル、どこか物事を斜めに捉えたかのような視点があります。

作曲時のマーラーの複雑な心境や精神状態を反映してゆえのことでしょうか。都響はそれを包み隠さずに示します。マーラー的なうねりはお手の物。特有のリズム感はいささかも損なわれることがありません。それでいて堅牢に音楽は構築されています。ここはインバルのタクトの為せる技なのでしょう。万華鏡のように変化するリズムに酔いしれました。

第4楽章から第5楽章にかけての大太鼓、かのハンマーを超えるほどに衝撃的な一撃です。何という乾ききった響きなのでしょうか。頭を何度も殴るかのように響く大太鼓。痛烈の極みである。葬列を意味したとも言われる表現。しかしながらあまりにも執拗、何度も繰り返されることでまた別の意味を持ち得るのかもしれません。繰り返される太鼓の不気味なまでの響きに思わず背筋が寒くなりました。

フィナーレ、ここで殆ど唐突なまでに第1楽章の主題が帰ってきます。まるで各地を彷徨い、旅した者が、さも安息の地へと舞い戻ったかのような調べ。インバルは「死後の世界で書かれた」ともいう第10番。9番がこの世との告別であれば、確かにそうとも言えるかもしれません。ただラストのラスト、再度上昇しては叶わずに果てて消えてゆく旋律を聞くと、ひょっとするとマーラーは何も9番で死を迎えたわけではない。第10番こそ臨終の前に夢見た自らの一生を回顧した時の音楽ではないか。漠然とながらもそのような気がしました。

「マーラーー没後100年総特集/文藝別冊/河出書房新社」

クック補完版。驚くほどの説得力をもって演奏した都響とインバルです。終演後は大きな拍手の渦に包まれたのは言うまでもありません。チクルスのフィナーレを飾るのにも相応しい名演です。インバルはオーケストラが下がった後も再度ステージに拍手で呼ばれました。私にとっても久々に一期一会のコンサートとなりました。
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「キネティック・アート展」 損保ジャパン東郷青児美術館

損保ジャパン東郷青児美術館
「不思議な動き キネティック・アート展ー動く・光る・目の錯覚」 
7/8-8/24



損保ジャパン東郷青児美術館で開催中の「不思議な動き キネティック・アート展ー動く・光る・目の錯覚」を見て来ました。

20世紀半ばにヨーロッパで盛んに作られた動く芸術ことキネティック・アート。私は展覧会の告知が為される前はその言葉すら知りませんでした。また漠然とながら例えば電気などの機械仕掛けで動く現代アートなのだろうと思っていました。

結論から言えばそれはキネティック・アートの特質なり面白さの一端しか捉えていなかった。そして前提知識ゼロでも十分楽しめる。思いがけないほど色々な意味で魅力のつまった展覧会でもあります。

さてその思いがけないとは。ずばり動かない作品があること。つまり作品自体は動かないながらも、動いて見えるような作品があることです。回りくどくなりました。ようは絵画や平面の作品です。


フランコ・グリニャーニ「波の接合 33」1965年 油彩・カンヴァス

まずはフランコ・グリニャーニの「波の接合33」(1965)。四角の平面にちょうど黒の凸と赤の凹を縦に組み合わせている。ともに曲線が縞模様になっています。目がチカチカ。何やら波打っているように見えないでしょうか。


ダダマイーノ「ダイナミックな視覚のオブジェ」1962年 アクリル・アルミニウム薄板・板

ダダマイーノの「ダイナミックな視覚のオブジェ」(1962)も面白い。小さな図版では分かりにくいかもしれませんが、大小様々な四角形が描かれた画面、配列の故か、球状に膨らんでいるようにも映る。もちろん作品に起伏などありません。ようは「波の接合」同様、キネティック・アートの一ジャンル、目の錯覚を利用したオプ・アートと呼ばれる作品でもあるのです。


トーニ・コスタ「交錯」1967年 ポリ塩化ビニルのレリーフ・板

また自分が動くことで初めてイメージが変化して見える作品もあります。トーニ・コスタの「交錯」(1967)です。白と青の縦のライン、ビニールのレリーフです。それがブラインドのように貼付けられている。微妙なねじれがあるからでしょうか、左右に目を動かすと白と青の画面が変化して見えます。

ちなみに「波の接合」は手書きの油彩、そして「視覚のオブジェ」はアクリル、「交錯」は板に塩化ビニールを用いたもの。動く芸術というと何か近未来的でデジタルなイメージがあるやもしれませんが、少なくともキネティックに関しては皆無。むしろアナログです。

他にもテンペラの技法やゴム紐を用いたもの、またアルミ板を細かく削って紋様を出す作品など、もはや丹念な手仕事、さも工芸的な味わいのある作品もある。中には前に立って手で風を送らなければ動かない作品すらあります。もちろん当時としては半ば前衛、金属やビニールが目新しかったのかもしれませんが、今となってむしろ素朴。愛おしさすら感じてしまいました。

さて一方で自ら動き出すキネティック・アートとは何か。こちらが機械仕掛けです。電気の力で装置が動き、光を発する。ジュリオ・ル・パルクの「赤い横縞柄の曲技的な形」(1968)はどうでしょうか。長方形のボックスに赤い縞模様が貼付けられ、その前に銀色の帯が吊るされている。足元のスイッチを押すと帯が可動。驚くほどにゆっくりです。タイトルには曲技的とありますが、その様子はまるで女性の身体のプロポーションのようでもあります。


ジョヴァンニ・アンチェスキ「円筒の仮想構造」1963年 鉄筋棒・電機仕掛の動き

ジョヴァンニ・アンチェスキの「円筒の仮想構造」(1963)も電気仕掛け。18本の垂直の棒がスイッチで一気動く。ただしあまり早くない。もっと回転が素早ければ一つの円筒が浮かび上がってくるのかもしれません。


ジョヴァンニ・アンチェスキ「水平流体の走行」1962年 木・プラスティックチューブ・ネオン・電気モーター・着色した液体

同じくアンチェスキの「水平流体の走行」(1962)には妙に感心してしまいました。大きなボックス、上部が開いて明かりがついている。中には何本もの緑のチューブ。透明です。そして液体が動いている。この大掛かりな装置にも関わらず、ただそれだけの動きをするだけですが、ともかく液体の動作がのんびりしていて楽しい。ついつい見入ってしまいます。

また電気仕掛けとありますが、その多くがモーターが回転したりするのみ。複雑で機敏な動きするものは殆どありません。1960年代に隆盛したキネティック・アート、今の現代アートからすると時にチープに映るかもしれませんが、むしろそれが新鮮でもある。適切な例えではないかもしれませんが、ちょうど同時代、60~70年代初頭のSF映画なりを見た時に受ける何とも懐かしい感覚。それに近いものがあるかもしれません。


ガブリエレ・デ・ヴェッキ「軸測投影法の歪み-1」1964年 エナメル塗装した金属・電気モーター

ちなみにキネティック・アートには当時の科学や工業の技術も盛り込まれています。よっていわゆる美術家だけでなく、デザイナーらも加わることがあったそうです。


グラツィア・ヴァリスコ「可変的な発光の図面 ロトヴォド+Q44」1963年 透明アクリル樹脂・木・電灯・電気モーター

また本展はイタリアにおけるキネティック・アートの系譜を紹介したもの。ほぼ全てが同国内の個人コレクションです。括りは漠然とした「動く芸術」ですが、作品しかり、展示は美術の一潮流を丹念に追いかけています。なかなかの好企画でした。

8月24日まで開催されています。

「不思議な動き キネティック・アート展ー動く・光る・目の錯覚」 損保ジャパン東郷青児美術館
会期:7月8日(火)~8月24日(日)
休館:月曜日。但し7/21日は開館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学・高校生600(500)円、中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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夏休み期間中「ミューぽん」が全国に拡大します

今年もやって来ました。夏休みの恒例企画です。お馴染み「Tokyo Art Beat」による美術館割引アプリ「ミューぽん」が期間限定にて全国に拡大します。



「夏休みはどこへ行く?美術館の割引アプリ「ミューぽん」が、夏休み限定で全国に拡大!!」(Tokyo Art Beat)

[夏休み限定「ミューぽん」割引対象展覧会の一覧]

青森県立美術館
「美少女の美術史『少女』について考えるための16の事柄展」 7月12日~9月7日

十和田市現代美術館
「そらいろユートピア展」 ~9月23日

松本市美術館
「たぐ展☆TAG-TEN」 7月19日~9月28日

豊田市美術館
「ジャン・フォートリエ展」 7月20日~9月15日

「BIWAKOビエンナーレ2014」
9月13日~11月9日

細見美術館
「デミタス コスモスー宝石のきらめき★カップ&ソーサー」 ~9月28日

美術館「えき」KYOTO
「海洋堂50周年記念 海洋堂フィギュアワールド」 8月1日~8月31日

あべのハルカス美術館
「デュフィ展」 8月5日~9月28日

国立国際美術館
「ノスタルジー&ファンタジー 現代美術の想像力とその源泉」 ~9月15日

伊丹市立美術館
「ビネッテ・シュレーダー 美しく不思議な世界」 ~8月31日

芦屋市立美術博物館
「GUTAI×INTERNATIONALー具体、海を渡る。」 ~9月7日

神戸ファッション美術館
「世界のファッションー100年前の写真と衣装は語る」 7月19日~10月7日

「六甲ミーツ・アート 芸術散歩2014」
9月13日~11月24日

横尾忠則現代美術館
「横尾忠則 枠と水平線と…グラフィック・ワークを超えて」 ~9月28日

兵庫県立美術館
「横山裕一 これがそれだがふれてみよ」 7月19日~11月9日

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
「拡張するファッション」 ~9月23日

広島市現代美術館
「第9回ヒロシマ賞受賞記念 ドリス・サルセド展」 7月19日~10月13日

鹿児島県霧島アートの森
「会田誠展 世界遺産への道!! 会いにいけるアーティストAMK48歳」 7月18日~9月23日



今年のポイントは1周年を迎えたKansai Art Beatの協力を得て、関西地域の割引対象イベントが増えていること。特に兵庫県は全部で5館です。また大阪府は本年開館したあべのハルカス美術館も割引。文化村から巡回したデュフィ展が対象になります。

関西地域外ではツイッターでも何かと話題な青森県立美術館の美少女展、また広島市現代美術館でのドリス・サルセドの日本初個展、それに九州初個展となる霧島アートの森の会田誠展なども目を引きます。



「広島)ヒロシマ賞のドリス・サルセド展、今月19日から」(朝日新聞デジタル)

うちサルセドは第9回ヒロシマ賞を受賞したコロンビア出身のアーティスト。暴力や差別をテーマとした作品を制作し、本展においても「展示室全体を死者を悼むための場に変容させながら、再生への願いを込めた作品を展示」(公式サイトより)するそうです。

「第9回ヒロシマ賞受賞記念 ドリス・サルセド展」@広島市現代美術館 7月19日~10月13日

広島市現代美術館、今年縁あって行く機会がありましたが、きっと力のある展示になるのではないでしょうか。

「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」(前編・美術館について) 広島市現代美術館(はろるど)
「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」(後編・コレクション展ついて) 広島市現代美術館(はろるど)

また夏のアートイベントでは滋賀のBIWAKOビエンナーレ2014と六甲山の六甲ミーツ・アート 芸術散歩2014も対象。もちろん今月末から始まるヨコハマトリエンナーレ2014も対象に入ります。



さらにミューぽん、入館料の割引ばかりに注目されがちですが、それ以外にもお得な使い方もある。例えば山種美術館です。現在開催中の「水の音」展が200円引きで入場出来る上、カフェの和菓子セットが100円引き、さらにグッズが5%引きになります。

7月19日(土)からはアプリ価格が夏休みセールで200円に割引。2~3館廻ればあっという間に元がとれるお値段です。期間は8/31(日)まで。これを機会にダウンロードしてみては如何でしょうか。

「ミューぽん 美術館割引クーポン 2014年版」@mupon_app
対応機種、動作環境:iOS 4.3以降 (iPhone, iPod touch)、Android 4.0以降(タブレット端末はサポート外)
利用料金:200円(セール価格。7/19~8/31まで。)
iOS: http://artbeat.ly/MuPon14
Android: http://artbeat.ly/MuPon14a
公式URL:Tokyo Art Beat→http://www.tokyoartbeat.com/apps/mupon
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「オルセー美術館展 印象派の誕生」 国立新美術館

国立新美術館
「オルセー美術館展 印象派の誕生ー描くことの自由」
7/9-10/20



国立新美術館で開催中の「オルセー美術館展 印象派の誕生ー描くことの自由」展へ行って来ました。

「印象派の殿堂」(ちらしより引用)ことパリはオルセー美術館。約4年ぶりの大規模な来日展です。絵画コレクション80点余による展覧会が始まりました。

さて4年前のオルセー展、覚えておられるでしょうか。サブタイトルは「ポスト印象派」、前史に印象派を踏まえて、そこからスーラ、シニャック、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャン、さらにはナビ派からルソーを見定める。ちょうど館内改装に入った頃の企画。その故もあるのか全115点と大規模な展示でした。

翻って今回はどうか。ずばり「印象派の誕生」です。今年は奇しくも第一回印象派展の行われた1874年から140年目の年。主役は印象派に他なりません。

そして構成上の大きな特徴と言えるのが、マネに始まりマネに終わること。冒頭、チラシ表紙を飾る「笛を吹く少年」など1860年代のマネ作品を数点展観した上で、歴史、裸体、風景、静物、肖像といったテーマ別に絵画を辿る。そして円熟期、1880年前後のマネ作品を展示する。19世紀後半の西洋絵画の諸相をマネを起点に見ていこうという仕掛けなのです。


ギュスターヴ・カイユボット「床に鉋をかける人々」1875年 油彩/カンヴァス

さてさすがに見どころも多数、大変に充足感のある展覧会ですが、まず嬉しかったのはカイユボットの「床に鉋をかける人々」(1875)が見られたこと。と言うのも、先だってのブリヂストン美術館の回顧展には出展の叶わなかった作品であるからです。

上半身裸でまるで競い合うように鉋をかける男たち。削りかすがあちこちに散乱、とても臨場感のある作品ですが、興味深いのは光の表現です。左奥の窓から差し込む光がちょうど削った部分の床面にあたっている。また図版では気がつきませんでしたが、窓の外にはパリの町並みでしょうか。建物の姿も確認出来ます。


ジャン=フランソワ・ミレー「晩鐘」1857-59年 油彩/カンヴァス

ミレーの「晩鐘」(1857-59)がやって来ました。祈りを捧げる農民夫婦。夕景です。鳥の羽ばたく空は朱色にも染まる。靴は木靴でしょうか。かなり大きい。夕方に祈りを捧げたミレーの祖母の記憶を元にした作品だそうです。

ジャン=シオン・ジェロームの「エルサレム」(1867)も興味深い。キリストの磔刑です。ゴルゴタの丘から帰り行く人々の姿。梯子を担いでいる者もいる。特徴的なのがキリスト自身が画中に描かれていないことです。示されるのは影のみ。ようは手前の丘の上に三つの十字架が影となって表されている。そこにキリストの姿も見て取れるのです。


ジュール・ルフェーヴル「真理」1870年 油彩/カンヴァス

まるで心を見透かされるような眼差しではないでしょうか。ジュール・ルフェーヴルの「真理」(1870)です。光り輝く鏡を手にして立つ女神。左手に持つのは縄でしょうか。白い裸体をさらけ出す。ちなみに本作のある「裸体」のセクション、これが良作揃いです。カバネルの「ヴィーナスの誕生」(1863)にクールベの「裸婦と犬」(1861-62)、そしてモローの大作「イアソン」(1865)と続く。モローは高さ2mです。なかなかこの大きさのモローの油彩を見る機会もありません。美しき裸体表現はもとより、腰布や紋章の描写も極めて細かい。そして画家によって異なる裸体表現のアプローチ。ルフェーブルは女神を描き、クールベは市井の女性のヌードを表した。その辺の比較もポイントになるかもしれません。


アルフレッド・シスレー「洪水のなかの小舟、ポール=マルリー」1876年 油彩/カンヴァス

ハイライトは「風景」でしょうか。モネの大傑作「かささぎ」(1868-69)を頂点に、シスレー、セザンヌ、ブータン、ピサロ、ルノワールらの風景画が並ぶ。その数18点です。うち好きなシスレーが4点ほど占めていたのも嬉しいところ。特に惹かれるのは「洪水のなかの小舟、ポール=マルリー」(1876)です。シスレーが6作残した同主題の1つ、青い空に浮かぶ丸い雲、陽光を受けて煌めく建物、そしてざわめくような筆遣いで表された水面。仄かに土色が混じっているのは洪水だからでしょうか。縦にのびるのは栗の木です。構図にタッチしかりこれぞシスレー。画家の魅力が最大限につまった一枚でもあります。


クロード・モネ「サン=ラザール駅」1877年 油彩/カンヴァス

モネでは「サン=ラザール駅」(1877)も出品。そういえば先の「かささぎ」しかり、国立新美術館のオープニングを飾った「大回顧展モネ」(2007年)にも展示があった。見るのはその時以来のことかもしれません。


ジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラー「灰色と黒のアレンジメント第1番」1871年 油彩/カンヴァス

今秋より京都国立近代美術館で回顧展(12月から横浜美術館へ巡回)の始まるホイッスラーの肖像画が展示されています。「灰色と黒のアレンジメント第1番」(1871)です。健康を患っていた母をモデルにした一枚。黒いドレスに身を纏って座っている。やや緊張した面持ちでしょうか。母はこの時67歳。横向けの構図です。壁のグレーの色やカーテンとも相まってか、実に物静かな印象を与えます。


フレデリック・バジール「家族の集い」1867年/1869年に加筆 油彩/カンヴァス

バジールの「家族の集い」(1867)も面白い。戸外における集団肖像画。モデルの一人には画家本人の姿も。両親も描かれているそうです。それにしてもいつくかの視点が交錯する本作、右の三名がこちらを覗き込んでいるからでしょうか。奇妙に落ち着かない。見ているようで見られているような作品でもあります。

モネの「草上の昼食」(1865-66)は初来日です。例のマネの作品に触発されて描いたという一枚、まず驚くのが高さが4mを超えることです。また現在は2枚に別れていますが、元々モネは横6mにも及ぶ大作を構想していたとか。その後サロンの出展に間に合わず、家賃代わりに大家の手に渡って損傷したため、このような分断した形になっている。若いモネの意欲作ですが、どうでしょうか。木漏れ日も表す白の使い方などに、後の片鱗を見ることが出来るかもしれません。


エドゥアール・マネ「ロシュフォールの逃亡」1881年頃 油彩/カンヴァス

展覧会を前後で挟むマネは全部で11点です。冒頭、その平面性に当時は批判もあったという「笛を吹く少年」(1866)が待ち構える。またラストは「ロシュフォールの逃亡」(1891)です。体制に反して追放されたジャーナリスト、ロシュフォールが逃亡する様子を描いたという作品、主題としてはドラマテックかもしれませんが、ともかく目を引くのは水面の描写。一面の海がエメラルドグリーンに染まる。荒い筆致は晩年のマネの特徴なのでしょうか。「笛を吹く少年」から約25年、マネの変化を伺い知ることも出来るかもしれません。


エドゥアール・マネ「読書」1865/1873-75年に加筆 油彩/カンヴァス

マネからマネへ。ここに挙げた作品はごく一部。アカデミズムの画家と見比べることで、当時の前衛、印象派画家の立ち位置も際立ってくる。今となっては甲乙つけるまでもない。いずれの画家も魅惑的です。西洋絵画ファンにとっては見逃せない展覧会としても過言ではありません。


クロード・モネ「かささぎ」1868-69年 油彩/カンヴァス

会期第一週の日曜日の午後(15時頃)に出かけましたが、館内はさすがに賑わっていたものの、特に規制もなく、チケット購入待ちの列もありませんでした。ただそれでもミレーの「晩鐘」などの人気作の前にはたくさんの人だかり。一部作品に関しては最前列を確保するための列も僅かながら出来ていました。

とは言えこのクラスの展覧会を考えれば、まだ空いていた方だと思います。(思っていたよりはスムーズに見られました。)そして会期が進むにつれて混雑することは必至。特に後半は大変な混雑が予想されます。

大型展は初めが肝心です。まずは早めに観覧されることをおすすめします。


ギュスターヴ・モロー「イアソン」1865年 油彩/カンヴァス

若い方へのお得な情報です。まず7月24日(木)から8月12日(火)の間は高校生無料観覧日。期間中、高校生は無料で入場出来ます。(要学生証)

また9月2日(火)は「キヤノン・ミュージアム・キャンパス」です。この日は休館日ですが、大学生のみを対象に無料で開放されます。

特別プログラム『キヤノン・ミュージアム・キャンパス』

当日はナビゲーターによるガイドツアーもあるとか。学生だけの特権、逃す手はありません。(要学生証。混雑時は入場制限あり。)

「オルセー美術館の名画101選ーバルビゾン派から印象派/小学館アート・セレクション」

10月20日まで開催されています。

「オルセー美術館展 印象派の誕生ー描くことの自由」 国立新美術館@NACT_PR
会期:7月9日(水)~10月20日(月)
休館:火曜日。但し8/12(火)、9/23(火・祝)、10/14(火)は開館、9/24(水)は休館
時間:10:00~18:00 *金曜日は夜20時まで開館。8/16(土)以降の毎週土曜日および10/12(日)以降は毎日20時まで開館。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円。高校生800(600)円。中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金
 *7/24(木)~8/12(火)は高校生無料観覧日(要学生証)
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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ミュージアムカフェマガジン「オルセー美術館特集」+「MINI GUIDE」

お馴染み毎月発行、美術館・博物館情報フリーペーパーの「ミュージアムカフェマガジン」。最新の7月号の特集は「19世紀フランス美術の本音が分かる」です。



現在、国立新美術館で開催中の「オルセー美術館展」に完全準拠。「オルセー美術館展の本気を見ろ」と題し、4名の専門家が出品作を挙げながら、展覧会の見どころなどを語っています。

さて専門家は以下の方々。トップバッターはフクヘンさんこと鈴木芳雄さんです。マネに始まりマネに終わる構成について触れながら、19世紀フランス絵画の守旧派と新興勢力の比較を見る。マネの「笛を吹く少年」などをピックアップしています。



私が特に面白いと思ったのは美術ジャーナリストの藤原えりみさん。テーマは「過去への眼差し」です。ここではあえてアカデミズム絵画をあげ、歴史画としての裸体表現を追いかけていく。ルフェーブルの「真理」なども目を引きます。



その他には林綾野さんが「印象派の明るさ」について語り、美術史家の喜多崎親氏がサロンを踏まえながら、前衛とアカデミスムの画家、その差異点と共通点を挙げる。簡潔なテキストながらも読ませます。



さてオルセー展、私も先日見て来ましたが、展覧会以外で興味を引かれたことが一つ。それはこのカフェマガジンと同じフォーマットによる「MINI GUIDE」が配布されていたことです。



表紙は展覧会ナビゲーターの東出さん。そして東出さんのオルセー展のインタビューが続く。その後が面白い。印象派画家の人物相関図が掲載されているのです。



さらに出品リストも兼ねている。少し驚きました。通常、リストといえば紙一枚ですが、マガジンと同様の冊子形式です。またあわせてグッズ紹介やイベントカレンダーもあります。なかなか優れものです。それに「MINI GUIDE」には「vol.1」ともありました。ひょっとすると他の展覧会でもリスト付きで発行されるのかもしれません。

オルセー展に準拠する「ミュージアムカフェマガジン」に出品リスト兼用の「MINI GUIDE」。ともにフリーです。まずは手にとってみては如何でしょうか。



美術館・博物館情報サイト「ミュージアムカフェ」
URL:http://www.museum-cafe.com(Web・モバイル共通)
ミュージアムカフェ事務局:@museumcafe

【Androidアプリ】「ミュージアムカフェ」
価格:無料  対応機種:Android OS 3.0以降
ダウンロード:Google Playからダウンロード
ジャンル:ライフスタイル
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.kosaido.musiumcafe

【iOSアプリ】「ミュージアムカフェ」
価格:無料  対応機種:iPad、iPhone、iPod touch
ダウンロード:AppStoreからダウンロード
ジャンル:ライフスタイル
http://itunes.apple.com/jp/app/id321825497?mt=8
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「イメージメーカー展」 21_21 DESIGN SIGHT

21_21 DESIGN SIGHT
「イメージメーカー展」 
7/4-10/5



21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「イメージメーカー展」を見て来ました。

突然ですが、ジャン=ポール・グードというアーティストをご存知でしょうか。

1940年のフランス生まれ。1960年代初頭に制作を始め、後に「エスクワイア」誌のディレクターに就任。以来、約40年に渡って絵画やポスターデザイン、写真や映画、さらにはイベントなどで足跡を残している。シャネルの香水のCMのディレクションなども手がけていたそうです。

失礼ながらも私は全く知りませんでした。そして本展は半ば彼の独擅場と言っても良い。そもそも何やら謎めいた「イメージメーカー」という言葉自体、ジャン=ポール・グードが「自らの創作活動を特徴付ける言葉として用いているもの」(ちらしより引用)なのです。

会場内、撮影が出来ました。


ジャン=ポール・グード「構成主義のマタニティドレス(アントニオ・ロペスとのコラボレーション)」1979年

ではまずこの作品、「構成主義のマタニティドレス」はどうでしょうか。頭には三角帽子とビックリマーク。手には赤い日本風の扇子を持っている。まるで舞を披露しているような姿。人形型のオブジェです。そして巨大。私の拙い写真では分からないかもしれませんが、人の高さの2倍近く。天井付近まであるのです。


ジャン=ポール・グード 展示風景

そしてこれが動く。広い展示室を端から端まで移動します。また同じくポール=グードの「回転する機械仕掛けの人形」も可動式です。マタニティドレスがゆっくりした動きに対して、目まぐるしく動いている。すばやい回転です。そして会場内には三宅純作曲の音楽が鳴り響いている。音楽に合わせては踊る人形たち。それにしても奇抜な出立ちです。剣を持ち、漢字をあしらった衣装を着る。黒のコスチュームは悪魔のイメージでしょうか。思わず後ずさりしてしまいます。


ジャン=ポール・グード「回転する機械仕掛けの人形 聞かざる(デリア・ドハーティとのコラボレーション) 三宅純による作曲と編曲」2013-2014年

ちなみにこの彫刻、言わばキッチュなまでに日本的なイメージを取り込んでいますが、例えば踊る人形は日光東照宮の「三匹の猿」に着想を得ているとか。タイトルも見ざる、言わざる、そして聞かざるです。その何とも大胆で自由なイマジネーションには驚かされるものがあります。


ジャン=ポール・グード「フランス革命200周年記念パレード パリ、1989年7月14日」

そしてこの大掛かりなインスタレーション、まるでお祭りの山車のようでもありますが、実際に彼は1989年、パリはシャンゼリゼ通りで行われたフランス革命200周年記念パレードの演出を手がけたそうです。会場内ではパレードの様子がパネルで紹介されていますが、それを見るだけでも大変なスケール感が伝わるというもの。多くの観客の好奇心を捉えたに違いありません。


ジャン=ポール・グード「ギャラリー・ラファイエット パリ地下鉄内のポスター」2012年

また目を引くのが「ギャラリー・ラファイエット パリ地下鉄内のポスター」です、全16面のスクリーンを用いた映像作品ですが、ともかく見せ方が面白い。舞台はパリのメトロ。ホームにはデパートの広告が掲示されている。そこに滑り込む地下鉄。さもパリを旅しているかのような気分にもさせられます。

アートやデザインの範疇に留まらない奇想天外なまでの展示。これぞ鬼才とも言うべきなのでしょう。もはや好き嫌い云々は問題にならないかもしれません。彼の世界観は他を圧倒していました。


デヴィッド・リンチ「リトグラフィ」2007-2013年 カルティエ現代美術財団

なおイメージメーカー展はポール=グードを含め6名のアーティストが参加したグループ展。人気はデヴィッド・リンチかもしれません。リトグラフの出展です。モノクロームの世界に心象風景を投影しています。


舘鼻則孝「アイデンティティーカラム」2014年

ファッションの分野で活動する舘鼻則孝も目立つ。不思議な足形や靴のオブジェが並びます。


ジャン=ポール・グード 展示風景

21_21 DESIGN SIGHTならではと言って良いグルーピング。私としてはともかくジャン=ポール・グードを知ったことが収穫でした。

10月5日まで開催されています。

「イメージメーカー展」 21_21 DESIGN SIGHT
会期:7月4日(金)~10月5日(日)
休館:火曜日。但し9/23は開館。
時間:11:00~20:00(入場は19:30まで)
料金:一般1000円、大学生800円、中高生500円、小学生以下無料。
 *15名以上は各200円引。
住所:港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
交通:都営地下鉄大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅、及び東京メトロ千代田線乃木坂駅より徒歩5分。
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「池田学 原展」 河合塾美術研究所新宿校 Gallery Kart

河合塾美術研究所新宿校 Gallery Kart
「池田学 原展」 
7/7-8/3



河合塾美術研究所新宿校内「Gallery Kart」で開催中の「池田学 原展」を見てきました。

ペンと鉛筆による超細密画、時にシュールでSF的な幻想風景を作り出す画家、池田学。

東京芸大在学以前、同研究所の東京校(現新宿校)に通っていたそうです。ようは所縁の場所での凱旋個展ということでしょうか。初期作を中心とした展覧会が行なわれています。


「受験期のデッサン」1993年 紙に鉛筆

さてその初期、まだ画家としてのキャリアを積む前の作品から展示されている。例えば高校時代の恩師に宛てた年賀状です。

何と池田は十二支を十二師にかける。大胆にも干支の動物に恩師の似顔絵をはめ込んで描いています。


「高校の恩師に宛てた年賀状 十二支」1995~2006年 はがきにペン、インク

例えば未年では未年が恩師に化ける。また午年では恩師が馬に跨り甲冑姿で勇ましく駆けています。面白いアイデアです。そして絵としてもクオリティが高い。最近の細密画を思わせるような緻密な画面が広がっています。


「東京芸大合格再現作品」1994年 紙にアクリル絵具

受験時代のクロッキーや芸大合格再現作品も展示。まさに原点ならぬ原展です。私もこれまで何度か個展に通ったつもりでしたが、ここまで初期の作品を見たのは初めて。まずは驚きました。


「法廷画」1999年 朝日新聞掲載

さて他の作品はどうでしょうか。まず面白いのは画家がこれまで手がけてきた法廷画です。こちらは麻原裁判など数枚。また中国や東南アジアでの旅行絵日記なども目を引く。ここでは絵とともにテキストも実に細かく丁寧。画家の性格も伺えます。それに美術学校の講師時代に学生の前で描いたというデッサンも展示されていました。


「再生」2001年 紙にペン、インク 浜松市美術館

「どうぶつと動物園」シリーズは挿絵原画で20点ほどの出品です。そしてやはり目立つのはチラシ表紙に大きく掲げられた「再生」。軍艦をモチーフにした細密画、船を舞台に魑魅魍魎の世界が展開されています。

日本画家の中島千波の所蔵するモノクロームの「森」も面白い。会場は同研究所一階、受付ロビー横、10人も入れば行き来も難しくなるような小さな小さなスペースです。



損保ジャパン美術館からは歩いて数分ほど。西新宿へお出かけの際にでも立ち寄っては如何でしょうか。

「池田学画集/羽鳥書店」

会期中無休です。8月3日まで開催されています。

「池田学 原展」 河合塾美術研究所新宿校 Gallery Kart
会期:7月7日(月)~8月3日(日)
休廊:月曜日。
料金:無料。
時間:10:00~18:00。日・祝・最終日は16時まで。
住所:新宿区西新宿7-14-5 河合塾美術研究所1F
交通:都営大江戸線新宿西口駅D5出口より徒歩2分。西武新宿線西武新宿駅南口より徒歩3分。JR線・小田急線・京王線・東京メトロ丸ノ内線新宿駅西口より徒歩7分。
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「ジャン・フォートリエ展」 東京ステーションギャラリー

東京ステーションギャラリー
「ジャン・フォートリエ展」 
5/24-7/13



東京ステーションギャラリーで開催中の「ジャン・フォートリエ展」を見て来ました。

アンフォルメルを代表する画家として知られるジャン・フォートリエ(1898-1964)。記憶が定かではありませんが、私が最初にこの画家を見知ったのはおそらくはブリヂストン美術館、アンフォルメルの画風をとった作品、「旋回する線」だったかもしれません。

厚く塗られた白の画肌に切れ込みのような細い線が渦を巻いている。素早い筆致。そして瑞々しいまでの青の色彩。素直に惹かれたことを覚えています。

一方で今度は例えば「人質の頭部」を見た。画肌の質感こそ似たものはあれども、当時はとても同じ画家の作品とは思えない。ずしりとのしかかるような重厚感。頭部は損傷しているのか、どこか惨たらしくも見える。にも関わらず目を離せない何かがある。時間をしばし忘れて見入ったものでした。

前置きが長くなりました。私にとってのフォートリエ体験は「人質」と「旋回する線」で半ば断絶していた。そしてこの展覧会で初めてフォートリエという画家の全体像が漠然とながらも浮き上がってくるような気がしました。日本初の回顧展です。出品は国内外の美術館などから集められた90点。彫刻や版画を含みます。

さて何が浮き上がるのか。端的に画業です。と言うのも本展は基本的には時代別に作品を並べている。実のところフォートリエ、初期のいわゆるレアリスムから「人質」を経由して戦後のアンフォルメルと、かなり作風を変化させています。


ジャン・フォートリエ「管理人の肖像」1922年 ウジェーヌ・ルロワ美術館

初期作品を少し追ってみます。ここは私のまるで知らないフォートリエです。最初期、20代の頃の「管理人の肖像」(1922年)。取り澄ましたように立つ老婆。黒いドレスに身を纏っている。両手は前で組んでいます。いわゆるレアリスムの作品、しかしながらモデルから発せられる異様なまでの存在感。よく見れば顔は緑がかり、手は紫色を帯びている。フォートリエは何故にこの色を選んだのでしょうか。

もちろん全てが「管理人の肖像」のようではありませんが、1920年代の肖像画、モデルの内面を見据えて引き出したかのような作品が多い。迫力があります。


ジャン・フォートリエ「兎の皮」1927年 個人蔵

1926年から1928年の間は黒の時代と呼ばれるそうです。プリミティブなものに関心のあったという画家、アフリカの黒人芸術にも着想を得る。例えば「美しい娘(灰色の裸婦)」(1926-27年)です。黒というよりもグレーを背景に立つ女。輪郭は地の色と交わり、身体の線はあまり定かではなく、手先はもはや溶けてすらいる。もちろん顔の表情も伺い知れません。皺の一本一本、髪の生え際までを細かに描いた先の「管理人の肖像」からすればまるで別の画風です。

「黒い花」(1926年頃)はどうでしょうか。やや青色を帯びた黒を背景に咲く花。花瓶に入れられたものでしょう。黄色やオレンジの花を付けている。しかしここでも形態は不明瞭で、何の花か判別することは出来ない。そして引っ掻き傷のような線が瓶や花の形を微かに象っている。線は震えてもいます。

1930年代にフォートリエは一度、美術界から離れたそうです。世界恐慌の影響もあってか絵が売れなくなった。特に1934年からの2~3年はスキーのインストラクターをしたり、アルプス地方でナイトクラブを経営するなどして生計を立ている。絵画も殆ど制作しなかったそうです。

そして1939年には第二次大戦が勃発。この少し前の頃でしょうか。下地の紙に塗料を分厚く塗る技法などを探求する。そしてパリへと戻った。1942年には近作の個展を開催。また文学作品の挿絵を手がけるなどしていたそうです。


ジャン・フォートリエ「林檎」1940-41年 個人蔵

この時期に見られる厚塗りの作品、顕著なのが「醸造用の林檎」(1943年頃)かもしれません。そして興味深いのはその2~3年前に描かれた「林檎」(1940~41年頃)との比較。暗がりに紅色を帯びた色彩、べったりと白い絵具が塗りこめられる。右側の球体が林檎でしょうか。確かにそう言われれば果実のようにも見えて来ます。

しかし「醸造用の林檎」はもはや林檎の原型は留めていません。さらに厚く、また広い範囲で塗られた白い絵具。ちょうどスポンジに生クリームを塗るかのように広がる。そして紅色の色彩、微かに線で丸みを帯びたものが示される。林檎と言われてもにわかには分かりません。

そして「人質」です。自身もドイツ軍に一時抑留された経験を持つフォートリエ。レジスタンスの人質たちの悲劇に取材したこの連作を、パリ解放後になって発表します。


ジャン・フォートリエ「人質の頭部」1944年 国立国際美術館

本展では「人質」を関連する版画をあわせて15点ほど展示。このスケールで接したのは私も初めてです。そしてここにもかつての「黒の時代」などと同じようにモデルは特定出来ません。暴力を受けた故でしょう。恐怖に怯え、歪み、陥没し、遂には死を迎えた頭部だけが描かれている。目は澄んでいるものもあれば、輝きを失っているものもある。明確な赤い血こそありません。しかしながらそれに代わるかのようなどす黒い何かが流れてもいる。その反面、色彩だけは恐ろしいほど美しい。周囲を覆う透明感のあるブルーやグリーン。何とも美しい輝きを放っています。

絵画における物語。必ずしもそればかり汲み取るものではないかもしれません。たださも黒くつぶされてまるで希望もない目をしたこの人質を前にしてどうしても感傷的にならざるを得ない。打ちのめされました。

さて戦後の展開。ここは一番馴染みのあるフォートリエかもしれません。例えば「籠」(1954年頃)、白地に水色の色彩が掠れながら広がる。中央にクリーム色の絵具です。例の厚塗りです。その上を曲線が断片的に囲んでいます。

裸体と題されたシリーズから一点、「無題」(1956年)に目が止まりました。何やら絵具の塊のようなものが中央に存在している。身体の一部なのでしょうか。先の「籠」同様、明瞭な形になる前の原初のようなものが描かれているようにも思えてきます。


ジャン・フォートリエ「黒の青」1959年 個人蔵

そう捉えると晩年の「黒の青」(1959年)や「雨」(1959年)も形になり得ぬ何か、言い換えればこれから立ち上がってくる現象が示されているようにも見える。何ともうまく表現出来ませんが、色や線のざわめき。それ故の心地良さ。そしてよく見れば切れ込みのような線はかなり早い段階からあった。フォートリエの変化、それも展覧会の一つの見どころではありますが、底に通じる要素は時代を超えていくつもある。そうとも言えるかもしれません。

「アンフォルメルとは現実を捉えるためのわなである」 ジャン・フォートリエ

「怒り狂う者 フォートリエ」(1964年、フランス。)と題された映像も面白い。晩年のフォートリエのインタビュー、字幕つきです。全15分でした。

画業を通すことで感じた初期作の魅力。もちろんアンフォルメル期の作品も好きではありますが、今回はむしろ「人質」以前に大いに惹かれました。これも回顧展ではなければ気がつかなかったかもしれません。現段階で望み得る最高のフォートリエ展としたら言い過ぎでしょうか。時間の許す限り堪能しました。

「Jean Fautrier: 1898-1964/Harvard Art Museum」

会期も迫っていたこともあってか、館内はそれなりの人出でしたが、不思議と静まり返っていました。「場」に張りつめる何とも言い難い緊張感。久々に美術館で味わったような気がします。

[フォートリエ展 巡回予定]
豊田市美術館:7月20日(日)~9月15日(月・祝)
国立国際美術館:9月27日(土)~12月7日(日)

7月13日までの開催です。遅くなりましたがもちろんおすすめします。

「ジャン・フォートリエ展」 東京ステーションギャラリー
会期:5月24日(土)~7月13日(日)
休館:月曜日。
料金:一般1100円、高校・大学生900円、小学・中学生600円。
 *20名以上の団体は100円引。
時間:10:00~18:00。毎週金曜日は20時まで開館。*入館は閉館の30分前まで
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)
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