2020年11月に見たい展覧会【ベルナール・ビュフェ/琳派と印象派/トライアローグ】

朝晩を中心に冷え込むようになり、関東では紅葉の季節を迎えようとしています。

11月も興味深い展覧会が目白押しです。まずは気になる展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・「工藝2020―自然と美のかたち」 東京国立博物館表慶館(9/21~11/15)
・「日本の美術を貫く 炎の筆《線》」 府中市美術館(9/19~11/23)
・「生誕100年 石元泰博写真展 生命体としての都市」 東京都写真美術館(9/29~11/23)
・「後藤克芳 ニューヨークだより」 渋谷区立松濤美術館(10/3~11/23)
・「ふたつのまどか―コレクション×5人の作家たち」 DIC川村記念美術館(6/16~11/29)
・「国立公園―その自然には、物語がある」 国立科学博物館(8/25~11/29)
・「式場隆三郎 腦室反射鏡」 練馬区立美術館(10/11~12/6)
・「性差(ジェンダー)の日本史」 国立歴史民俗博物館(10/6~12/6)
・「生誕100年 石元泰博写真展 伝統と近代」 東京オペラシティアートギャラリー(10/10~12/20)
・「根津美術館の国宝・重要文化財」 根津美術館(11/14~12/20)
・「M meets M 村野藤吾展 槇文彦展」 BankART KAIKO / BankART Temporary(10/30〜12/27)
・「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」 森美術館(7/31~2021/1/3)
・「光―呼吸 時をすくう5人」 原美術館(9/19~2021/1/11)
・「だれも知らないレオ・レオーニ展」 板橋区立美術館(10/24~2021/1/11)
・「上田薫」 埼玉県立近代美術館(11/14~2021/1/11)
・「生命の庭―8人の現代作家が見つけた小宇宙」 東京都庭園美術館(10/17~2021/1/12)
・「1894 Visions ルドン、ロートレック展」 三菱一号館美術館(10/24~2021/1/17)
・「本城直季 (un)real utopia」 市原湖畔美術館(11/7~2021/1/24)
・「東郷青児 蔵出しコレクション〜異国の旅と記憶〜」 SOMPO美術館(11/11〜2021/1/24)
・「琳派と印象派 東⻄都市文化が生んだ美術」 アーティゾン美術館(11/14~2021/1/24)
・「ベルナール・ビュフェ回顧展 私が生きた時代」 Bunkamuraザ・ミュージアム(11/21~2021/1/24)
・「東山魁夷と四季の日本画」 山種美術館(11/21~2021/1/24)
・「138億光年 宇宙の旅」 東京都写真美術館(11/21〜2021/1/24)
・「国宝の名刀 日向正宗と武将の美」 三井記念美術館(11/21~2021/1/27)
・「生きている東京」 ワタリウム美術館(9/5~2021/1/31)
・「さかざきちはるの本づくり展 手のひらサイズの大冒険」 市川市文学ミュージアム(11/7~2021/1/31)
・「MOTアニュアル2020 透明な力たち/石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」 東京都現代美術館(11/14~2021/2/14)
・「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」 横浜美術館(11/14~2021/2/28)
・「国立ベルリン・エジプト博物館所蔵 古代エジプト展 天地創造の神話」 江戸東京博物館(11/21~2021/4/4)

ギャラリー

・「ポーラ ミュージアム アネックス展2020 後期」 ポーラ ミュージアム アネックス(10/15~11/15)
・「フィリップ・ワイズベッカーが見た日本 大工道具、たてもの、日常品」 ギャラリーA4(10/2~11/20)
・「小西紀行 内なる基準」 ANOMALY(10/24〜11/21)
・「第14回 shiseido art egg 橋本晶子展」 資生堂ギャラリー(10/30~11/22)
・「福永大介 はたらきびと」 小山登美夫ギャラリー(11/7〜12/5)
・「宮島達男 Uncertain」 SCAI THE BATHHOUSE(11/7〜12/12)
・「渋谷敦志写真展:GO TO THE PEOPLES 人びとのただ中へ」 キヤノンギャラリー S(11/5~12/14)
・「内藤礼」 タカ・イシイギャラリー(11/27〜12/26)
・「内海 聖史 : squid」 アートフロントギャラリー(11/27〜12/27)
・「名和晃平 ORACLE」 GYRE GALLERY(10/23~2021/1/31)
・「ダグ・エイケン New Ocean:thaw」 エスパス ルイ・ヴィトン東京(11/13〜2021/2/7)

まずは西洋絵画です。20世紀後半のフランスの画家、ベルナール・ビュフェの回顧展が、Bunkamuraザ・ミュージアムにて開催されます。



「ベルナール・ビュフェ回顧展 私が生きた時代」@Bunkamuraザ・ミュージアム(11/21~2021/1/24)

これは近年、パリ市立近代美術館で回顧展が行われるなど、再評価の進むビュフェの画業を年代を追いながら探るもので、ベルナール・ビュフェ美術館の油彩を中心とした80点の作品が公開されます。


なおベルナール・ビュフェ美術館とは、静岡県のクレマチスの丘の中に位置していて、世界でも随一の画家のコレクションで知られています。私も二、三度出かけたことがありますが、特に大展示室での「キリストの受難」などの見応えのある力作揃いばかりで、もはや国内でのビュフェの聖地と思えるほどでした。今回はビュフェの作品を渋谷でまとめて楽しめる絶好の機会となりそうです。

洋の東西の美術の意外な接点を探る展覧会となるかもしれません。アーティゾン美術館にて「琳派と印象派 東⻄都市文化が生んだ美術」が開かれます。



「琳派と印象派 東⻄都市文化が生んだ美術」@アーティゾン美術館(11/14~2021/1/24)

17世紀の俵屋宗達から18世紀の尾形光琳、そして19世紀に酒井抱一や鈴木其一へと連なる琳派は、いわば京都の町人から江戸へと変奏を遂げた都市の美術でした。一方で印象派は19世紀後半のフランス・パリを中心に、マネやモネ、ルノワールやセザンヌらにより、主に日常的な経験の印象や市民生活を表した新しい芸術でした。


そうした日本とヨーロッパの東西の都市文化の生んだ作品を通し、互いの美意識を比較しようとするのが「琳派と印象派」で、アーティゾン美術館の印象派コレクションに加え、国内の寺院や博物館から集められた琳派の名品など約100点の作品が公開されます。かつて東京国立近代美術館にてクリムトやボナールの作品などと併せて見た「RIMPA」展が行われましたが、また琳派の魅力を思わぬ観点から引き出す展覧会となるかもしれません。

長期休館前の最後の展覧会です。横浜美術館にて「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」が行われます。



「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」@横浜美術館(11/14~2021/2/28)

これは「トライアローグ」、つまり3者による話し合いの鼎談を1つのキーワードに、横浜美術館と愛知県美術館、それに富山県美術館の各公立美術館のコレクションを紹介するもので、ピカソからクレー、そしてウォーホルやリヒターへと至る20世紀の西洋美術作品が約120点が一堂に展示されます。


なお横浜美術館は同展を終えると、2021年3月より大規模改修工事のため、2年を超える長期休館に入ります。1910年代から60年代にかけての横浜のアートシーンを探るコレクション展「ヨコハマ・ポリフィニー」と合わせて、しばらく見納めとなりそうです。

それでは11月もどうぞよろしくお願いします。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「いきることば つむぐいのち 永井一正の絵と言葉の世界」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー

ギンザ・グラフィック・ギャラリー
「いきることば つむぐいのち 永井一正の絵と言葉の世界」 
2020/10/9~11/21



ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の「いきることば つむぐいのち 永井一正の絵と言葉の世界」を見てきました。

日本デザインセンターの創設に携わり、数々の自治体や企業のCIやポスターなどを手掛けてきた永井一正は、1980年代後半より動植物をモチーフとした「LIFE」シリーズをライフワークとして制作してきました。



その「LIFE」の動植物を中心に紹介したのが「いきることば つむぐいのち」と題した個展で、今年4月に刊行された同名の書籍を映像やインスタレーションなどへ立体的に展開していました。



まず1階に並んでいたのが「いきることば つむぐいのち」と、同作に先立って東日本大震災を機に刊行された「つくることば いきることば」に登場する絵と言葉でした。暗がりの中、ちょうど掛け軸のような形にて展示されていて、照明によって絵と言葉が交互に浮かび上がっていました。



「LIFE」を描いた永井は2003年より銅版画として制作していて、個々の作品においても動物や植物を象った精緻な線が目を引きました。



ギャラリーの公式サイトに「異空の森」との言葉がありましたが、確かに動物たちの住む夜のジャングルへと迷い込んだかのような錯覚に陥るかもしれません。また同時に展示された「自分の余計な部分を削ぎ落としていくと、普遍なものにたどりつく。」や「魂の鏡を磨いていないと、そこには本物は映ってこない。」などの永井の言葉も深く印象に残りました。



続いて地下のスペースでは、同じく「LIFE」の動物が壁一面へ上下にスクロールするように映されていて、鳥のさえずりや動物の鳴き声などがBGMとして流されていました。



映像は左右に2つに分かれていて、別々の動物が登場していましたが、全体図と拡大図が同時にスクロールされていました。それぞれを互いに見比べるのも興味深いかもしれません。


2階のライブラリーで公開されていた永井本人のインタビュー映像も見逃せません。ここでは永井が戦争体験にまで遡りながら、デザイナーとしての活動を振り返っていて、「LIFE」の制作にこめた意図などを聞くこともできました。またコロナ禍を鑑みつつも、未来への希望を感じさせるメッセージも胸に響くものがありました。



新型コロナウイルス感染症対策に伴い、混雑時には入場制限する場合があるそうです。但し事前予約制ではありません。

11月21日まで開催されています。*写真は全て「いきることば つむぐいのち 永井一正の絵と言葉の世界」展示風景。撮影が可能でした。

「いきることば つむぐいのち 永井一正の絵と言葉の世界」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー
会期:2020年10月9日(金)~11月21日(土)
休廊:日曜・祝日。
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅から徒歩5分。JR線有楽町駅、新橋駅から徒歩10分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「トム・サックス:店舗体験」 イセタン ザ・スペース

イセタン ザ・スペース(ISETAN THE SPACE)
「トム・サックス:店舗体験」 
2020/9/29~11/30



1966年にニューヨーク州で生まれたトム・サックスは、日本の茶道を学ぶと、茶の湯の世界をDIYのようなインスタレーションにて独自に表現してきました。



そのトム・サックスがイセタン ザ・スペースで行っているのが「店舗体験」と題した展覧会で、「小売の体験」をデザインすべく、過去から新作までのアート、プロダクト作品、それに家具を展示販売していました。



まず目を引くのはNASAや宇宙を素材とした作品で、サックスを代表する茶碗やチェアの他、盤面のマグネットによって無重力でも楽しめるというチェスなどが並んでいました。



さらにはイサム・ノグチ庭園美術館とコラボレーションしたランプをはじめ、チェアやテーブルといった家具もいくつか展示されていて、アート作品といわば混在する形で空間を築いていました。売り場と展示を同一に体験できるのも、それこそ「店舗体験」の魅力の1つかもしれません。



また合板を用いた内装もサックスが手掛けていて、あたかも作家のスタジオへと立ち入ったかのような印象も与えられました。

さてトム・サックスとして記憶に新しいのが、2019年に東京オペラシティアートギャラリーで行われた「トム・サックス ティーセレモニー」展で、飛行機のユニットトイレや工事現場に使われる柵、または歯ブラシの盆栽などによって、茶室から庭へと至る茶の湯の空間を築き上げていました。それにイサム・ノグチの彫刻にオマージュを寄せた、ダンボールのオブジェなども印象に深かったかもしれません。



そもそもトム・サックスのアーティストとしての最初の仕事は、アメリカの高級百貨店「バーニーズ・ニューヨーク」のウィンドウディスプレイの制作にあったそうです。その意味でデパートが会場の今回の試みも、「小売」を原点としたサックスならでは展示と言えるのかもしれません。



なおイセタン ザ・スペースとは、今年3月25日に伊勢丹新宿店へ開設された実験的ポップアップスペースで、過去には写真家の森山大道とアートディレクターのYOSHIROTTENによる「SHINJUKU_RESOLUTION」なども開かれました。



場所はちょうど本館2階のWEST-Parkのエスカレーターの近くで、化粧品売り場の横に位置していました。新宿へお買い物の際に立ち寄るのも良いのではないでしょうか。



11月30日まで開催されています。

「トム・サックス:店舗体験」 イセタン ザ・スペース(ISETAN THE SPACE)
会期:2020年9月29日(火)~11月30日(月)
休館:会期中無休
時間:10:00~20:00
料金:無料
住所:新宿区新宿3-14-1 伊勢丹新宿店本館2階
交通:東京メトロ丸ノ内線新宿三丁目駅より徒歩1分。都営新宿線新宿三丁目駅より徒歩3分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「宮島達男 クロニクル 1995-2020」 千葉市美術館

千葉市美術館
「千葉市美術館拡張リニューアルオープン・開館25周年記念 宮島達男 クロニクル 1995-2020」 
2020/9/19~12/13



千葉市美術館で開催中の「宮島達男 クロニクル 1995-2020」を見てきました。

1957年に東京で生まれた宮島達男は、1980年代よりLEDのデジタル・カウンターを用いて作品を制作し、以降LEDのみならず、パフォーマンスやアートと社会をつなぐプロジェクトなどで幅広く活動してきました。

そして宮島は1995年、千葉市美術館での開館記念展に出展された「地の天」を制作した他、パフォーマンスの再開や被爆した柿の木2世の苗木を植樹する「時の蘇生・柿の木プロジェクト」の始動など、重要な転換期を迎えたとしています。

その1995年を起点として宮島の創作を辿るのが「クロニクル 1995-2020」で、映像、LEDをはじめ、大規模なインスタレーションなど約45点の作品が公開されていました。


宮島達男「Floating Time」 2000年

まず1階のクラシカルなさや堂ホールでの「Floating Time」からして魅惑的といえるかもしれません。一面の床には青、赤、黄色の3色の色面とともに、幾つものデジタル数字が浮遊するように投影されていて、鑑賞者は自由に立ち入ることができました。


宮島達男「Floating Time」 2000年

それぞれに異なる色を持つカウンターは終始、時を刻んでいて、しばらく中で鑑賞していると、あたかも数字が身体に触れては纏わりつくような錯覚に陥りました。全身でカウンターのシャワーを浴びているような気持ちにさせられるかもしれません。


宮島達男「Floating Time」 2000年

なお同作は1992年より構想され、1999年にデジタル数字にCGを用いて完成されたもので、その後に秋田市の病院にて、終末期医療の患者への精神的なケアを目的とした「時の浮遊ーホスピス・プロジェクト」で使用されました。プロジェクトに参加した患者によって、数字やスピードの異なる5つの作品が制作されたそうです。

続いて展示室へ進むと目に飛び込んでくるのが、大型の映像「Counter Skin on Faces」で、赤、黒、白の3色を顔に塗った女性が、数字のカウントダウンする中をひたすら前を見据えていました。ただ聞こえるのは息を吐く静かな音で、いわば無意識的な「生」を意識させていました。

同じく映像の「Counter Voice in Chinese Ink」は宮島本人が登場する作品で、真っ黒な墨の液体を蓄えた盤を前に、宮島が1から9を叫びつつ、0の時に顔を沈めるパフォーマンスを行っていました。同シリーズは1995年にパフォーマンスを再開してから、場所を変えて行われ続けていて、本作も2019年の中国・上海での個展で発表されました。


宮島達男「Counter Window No.3」 2003年

美術館の建物の窓を用いていたのが「Counter Window No.3」で、2つの切り取られた窓の中においてデジタル数字がカウントを続けていました。


宮島達男「Counter Window No.3」 2003年

ちょうど数字の部分のみ外の景色を見やることができて、時間の中に空間が切り取られているような印象も与えられました。



今回の個展の1つのハイライトと呼べるのが、河原温や杉本博司、それに中西夏之に李禹煥などとのコラボレーション展示でした。ここでは展示室のミラーケースに1から9のデジタル数字を切り抜きつつ、宮島が選んだ同館の5点のコレクションを展示していて、数字の部分より中の作品を垣間見る仕掛けとなっていました。

ちょうどミラーが3面に展開しているからか、数字が互いに写り込んでいて、見る角度や立ち位置によっても景色が大きく変わって見えました。いずれの作品とのコラボも魅力的でしたが、とりわけデジタル数字と李禹煥の「点より」のドットが響き合う様に心を引かれました。


宮島達男「Innumerable Life/Buddha MMD-03」 2019年

さて展示後半へ連なっているのが、宮島の代名詞とも呼べるLEDのデジタルカウンターでした。ホワイトキューブの壁面にはぐるりと一周、主に近年に制作された作品が展示されていて、各々が青や赤、それに緑などで1から9の時を刻んでいました。


宮島達男「Life (le corps sans organes) - no.18」 2013年

生命科学の観点より2012年から制作されたのが「Life」シリーズで、「Life ( le corps sans organes) - no.18」では、コードで繋がれた小さなカウンターが、まさに「生命」のようにランダムに変化していました。


宮島達男「C.F.Plateauxーno.7」 2007年

「C.F.Plateauxーno.7」は「Fragile」、つまり脆い、壊れやすいをシリーズ化した作品で、極小のワイヤーが驚くほどに小さいLEDを繋げてはカウントを続けていました。まるで息を吹きかけるだけでも崩れてしまいそうなほどに繊細で、これほど数字がはかなく感じられることはありませんでした。


宮島達男「Diamond in You No.17」 2010年

三角形のステンレスミラーを組み合わせた「Diamond in You No.17」は、それこそ貴石のような形をした中、小さなカウンターが瞬いていて、ミラーの反射によって無限への空間を築くように連なっていました。


宮島達男「Time Train to Auschwitz-No.3」 2008年

この他ではドイツ製の鉄道模型にLEDを取り付けた、「Time Train to Auschwitz-No.3」も重要な作品と言えるかもしれません。列車の中で青く光るLEDは愛おしくも映りましたが、タイトルが示すようにアウシュビッツでの惨劇ををテーマとしていて、光のカウントは犠牲者への鎮魂の祈りのようにも思えました。

あたかも教会の祭壇を思わせるように神秘的な新作の「HITEN - No.11」を過ぎると、最後に展示されているのが、同館のコレクションでもある大型のLEDインスタレーション「地の天」でした。初めにも触れたように開館記念展「Tranquility—静謐」に際して公開されたもので、宮島の恩師であるという榎倉康二への追悼の意を込めて制作されました。

暗室の元、直径約10メートル近くの宇宙をイメージとした円形の中には、197個の青色LEDが数字を刻んでいて、それこそ星々がきらきらと瞬いているかのようでした。

私も過去、千葉市美術館で何度か目にした「地の天」でしたが、今回も作品の周りを歩きつつ、あたかも夜空で星を眺めるかのようにLEDの光へと見入りました。


宮島達男「C.F Lifestructurism-No.18」 2009年

実に関東では水戸芸術館で行われた「宮島達男|Art in You」(2008年)以来、約12年ぶりの大規模な個展です。1995年以降の展開を追いながら、LEDを踏まえつつも、宮島の多様な創作の全体像も知ることができました。


宮島達男「Life (le corps sans organes) - no.13」(部分) 2013年

一部の作品、及び展示室の撮影ができました。(本エントリ掲載の写真は全て撮影可能作品。)


12月13日まで開催されています。おすすめします。

「千葉市美術館拡張リニューアルオープン・開館25周年記念 宮島達男 クロニクル 1995-2020」 千葉市美術館@ccma_jp
会期:2020年9月19日(土)~12月13日(日)
休館:10月5日(月)、10月19日(月)、11月2日(月)、11月16日(月)、12月7日(月)。時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
 *入場受付は閉館の30分前まで
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は前売り、市内在住の65歳以上の料金。
 *ナイトミュージアム割引:金・土曜日の18時以降は観覧料が半額。
 *5階常設展示室「千葉市美術館コレクション名品選2020」も観覧可。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「ジャン=ミシェル・オトニエル 『夢路 DREAM ROAD』 ペロタン東京

ペロタン東京
「ジャン=ミシェル・オトニエル 『夢路 DREAM ROAD』 
2020/9/16~11/7



ペロタン東京で開催中の「ジャン=ミシェル・オトニエル 『夢路 DREAM ROAD』へ行ってきました。

1964年にフランスに生まれ、パリに在住するジャン=ミシェル・オトニエルは、1980年代後半より彫刻やインスタレーションなどで創作を続け、1990年代からガラスを用いた作品で人気を集めるようになりました。

そのオトニエルの個展が『夢路 DREAM ROAD』で、ガラス玉のオブジェのほか、ドローイングや絵画などが展示されていました。



まず目を引くのは白い台の上に並ぶガラスの彫刻で、透明から緑、紫、それにオレンジなどへと美しいグラデーションを描いていました。



ちょうどガラス玉はネックレスのように連なっていて、幾重にも渦を巻いては、有機物として形を変えていくかのように自立していました。いずれもが50センチほどの大きさで、ギャラリー内を鮮やかに彩っていました。まさに宝飾品のように煌めいて見えるのではないでしょうか。



オトニエルが一連の彫刻の制作に際して着想を得たのは、1992年の初来日以来、何度も目にしたという菊の花でした。そもそも作家は幼い頃から花に親しみを持ち、制作へと取り込んでいて、例えば2014年にはルーブル美術館にてバラをモチーフにした作品を発表したことがありました。



そして来日するごとに日本庭園を訪ねては「菊まつり」などを見学していて、自ら「日本で最も重要で象徴的な花のひとつ」(リリース)とする菊をガラス玉にて表現しました。またともすれば結び目のようにも見えなくありませんが、実際にオトニエルも日本文化における「結び」の意味も踏まえて作り上げたそうです。

個々のガラス玉を覗き込めば、周囲の風景はもちろん、観客、すなわち自分の姿も映り込んでいて、見る角度によって変化していきました。そうした映りこみも作品の一部と呼べるのかもしれません。



さてガラス玉の色鮮やかな彫刻の一方で、いわばモノクロームに染まっていたのが同じ菊をモチーフとした大型の絵画でした。



ここでは白銀箔の上に黒インクで花のイメージを描いていて、あたかも花弁が散っては宙に舞っているような光景にも思えました。そして黒インクは白銀の中へ滲み出すように広がっていて、一部は掠れながら、溶けていくような質感を見せていました。その様子は夜の闇へと消えていくシャボン玉のようで、彫刻よりもはかなく感じられました。

私がオトニエルの展示で思い出すのは、2012年に原美術館で開催された「マイウェイ」と題した個展でした。

2011年よりパリのポンピドゥー・センターにはじまり、ソウル、東京へと巡回した国際展で、原美術館の空間を効果的に活かし、美しいガラス玉のインスタレーションを築き上げていました。また蜜蝋や硫黄を用いた旧作も出展されていて、ガラスへと至った作風の変遷も辿ることができました。



今回は実にそれ以来、約8年ぶりの個展となります。改めてガラス玉の放つ鮮やかな光と自在に変化する造形美に見入りました。

入場はオンラインでの事前予約制です。また当初の会期(10月24日まで)が延長されました。



11月7日まで開催されています。*写真は「ジャン=ミシェル・オトニエル 『夢路 DREAM ROAD』」展示作品。撮影が可能でした。

「ジャン=ミシェル・オトニエル 『夢路 DREAM ROAD』」 ペロタン東京
会期:2020年9月16日(水)~11月7日(火) *会期延長
休廊:日、月曜日。
料金:無料。
時間:12:00~18:00
住所:港区六本木6-6-9 ピラミデビル1階
交通:東京メトロ日比谷線・都営大江戸線六本木駅1a、1b、3番出口から徒歩2分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「第14回shiseido art egg 西太志展 ゴーストデモ」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「第14回shiseido art egg 西太志展 ゴーストデモ」
2020/10/2~10/25



資生堂ギャラリーで開催中の「第14回shiseido art egg 西太志展 ゴーストデモ」を見てきました。

「新しい美の発見と創造」(公式サイトより)を目指すべく、2006年より公募プログラムとして展開してきた「shiseido art egg」も、今年で第14回目を迎えました。

全215件の応募のうち選ばれたのは西太志、橋本晶子、藤田クレアの3名で、それぞれ10月より約1ヶ月弱、個展の形式で作品が公開されます。

まず第1期として行われているのは、1983年に大阪で生まれた西太志の個展「ゴーストデモ」で、油絵具やアクリル樹脂などによる絵画の他、陶土や角材、それに段ボールなどを用いたインスタレーションを展示していました。



ともかく会場に入って目を引くのは、ほぼモノクロームに染まった16枚の絵画で、ホワイトキューブを取り囲むようにぐるりと並んでいました。いずれの絵画にも殴り書きのような筆触で人物や樹木、はたまた何物にも捉えがたい妖怪のような生き物などが表されていて、奇異でかつ幻想的とも呼べるような光景を生み出していました。タイトルに「ゴースト」とあるように、幽霊の住み家へと迷い込んだような気持ちにさせられるかもしれません。



そして何よりも黒の感触が生々しく、コールタールを塗り込めたような質感を見せていて、一部の絵具は爛れるように黒光りしていました。また一見、樹木のような具象に映りながらも、線が乱れるように渦を巻く抽象のようにも思えて、イメージは複雑に展開していました。例えばポロックのドリッピングを連想させる面もあるのではないでしょうか。



また絵画には「煙をつかまえる」や「丘の上で」、それに「草むらに眠る」などのタイトルが付けられていて、何らかの物語が進行しているようにも感じられました。このうち特に印象的な「月の裏側を見る」では、横たわる人をたくさんの猫や犬と思しき動物や鳥が囲んでいて、釈迦入滅の光景を表した涅槃図のイメージと重なって映りました。



続く奥のスペースでは、人型の陶のオブジェなどが展示されていて、絵画の中の人物が立体化していました。また木材や段ボールなどが一見、無造作に置かれている上、制作途中のような作品もあって、アトリエへと迷い込んだかのようでした。



西はスペインの画家、フランシスコ・デ・ゴヤの「黒い絵」に影響を受けたとしています。「我が子を食らうサトゥルヌス」などの「黒い絵」の直接的な引用は見られませんでしたが、しばらく作品を前にしていると、人の奥底に潜む何らかの強い感情が画面全体へ憑依しているようにも思えました。



「第14回 shiseido art egg」展示スケジュール
西太志展:2020年10月2日(金)~10月25日(日)
橋本晶子展:2020年10月30日(金)~11月22日(日)
藤田クレア展:2020年11月27日(金)~12月20日(日)

新型コロナウイルス感染症対策に伴い、入場はオンラインで事前に予約する必要があります。また紙の作品リストは会場で配布されずに、スマートフォンで閲覧する形になっていました。また同ギャラリーサイトからも見ることも可能です。


10月25日まで開催されています。 *写真は全て「第14回shiseido art egg 西太志展 ゴーストデモ」展示風景。

「第14回shiseido art egg 西太志展 ゴーストデモ」 資生堂ギャラリー@ShiseidoGallery
会期:2020年10月2日(金)~10月25日(日)
休廊:月曜日。*祝日が月曜にあたる場合も休館
料金:無料。
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「秋の青森のアートと史跡・街歩き」 Vol.4:弘前市街(土手町・弘前城周辺・禅林街ほか)

Vol.3:弘前れんが倉庫美術館に続きます。弘前の街を訪ね歩いてきました。



弘前を旅するのは初めてだったので、まずは街の雰囲気を肌で感じるべく、しばらく歩きのみで市内を巡ることにしました。



美術館を出て、中央弘前駅付近から弘前城の方向を目指していくと、古い商店やデパートなどの立ち並ぶ通りが見えてきました。



それが江戸時代から城下町として商工の町屋が並んでいた土手町で、現在も飲食店などが集中する中心街でした。



いわゆる看板建築や蔵を改装したと思われる建物、それに洋館風のビルなどが続いていて、風情ある街並みを形成していました。



そもそも古い歴史を有する弘前には、明治、大正、昭和へと遡る歴史的建築物が多いことでも知られています。



土手町からお城の方へ進めば進むほど、車と人通りが明らかに増えてくることが分かりました。この日はちょうど弘前公園にて「弘前城 秋の大祭典」が開催されていて、スポーツイベントやフード関連のショップ、アートクラフト展などを目当てに、主に地元の方が多く出かけていたようでした。



渋滞する道路を横目に中央広場から旧第五十九銀行本店本館へと歩くと、江戸時代から弘前に山車まつりの文化を伝える山車展示館が建っていました。



ここでは各町会が運行する山車や、ねぷたともに出陳するという大太鼓などが並んでいて、手狭なスペースながらもまつりの活気を感じることができました。



山車展示館より弘前市役所を過ぎて、かつて旧陸軍師団長の官舎だった洋館のスターバックスを過ぎると、左手に見えてきたのが東北地方有数の規模を誇る藤田記念庭園でした。



藤田記念庭園とは大正時代の弘前の実業家、藤田謙一が別邸を構える際、東京から庭師を招いて築いた江戸風の庭園で、1992年に一般向けに開園しました。総面積21800平方メートルある庭園は、岩木山を望む高台部の庭と池泉回遊式の低地部の2つから構成されていて、高低差は実に16メートルにも及んでいました。



ちょうど高台部の東案内所から入場すると右手に和館、左手に洋館があり、それぞれクラフト&和カフェ匠館と大正浪漫喫茶室のカフェが入っていました。しかしお城のイベントゆえか、どちらも混雑していて、特に大正浪漫喫茶室は相当の待ち時間が発生しているようでした。



とはいえ、手入れの行き届いた庭園自体は人もまばらで、和館を含めてゆっくり見学することができました。



さて弘前城や藤田記念庭園の南西方向にあるのが、津軽家の菩提寺である長勝寺をはじめとした33の曹洞宗寺院が並ぶ禅林街でした。



入口の黒門を抜けると、すぐ左に東北で2つしかない栄螺堂(六角堂)が建っていて、真っ直ぐに伸びた一本道には杉の木が整然と立ち並んでいました。



その並木道の左右には大小の寺院が点在していて、杉並木と合間ってか独特の景観を築き上げていました。なお同じ宗派によって造られた寺院街は全国でも珍しいことから、長勝寺構として国の史跡に指定されています。



秋のお彼岸の時期からかお墓参りをしている方々が目立つ中、杉並木を進んでいくと一番奥に位置する長勝寺に辿り着きました。



1528年に津軽家の祖である大浦光信を弔うため、子の盛信が鰺ヶ沢町に創建した長勝寺は、1610年の弘前城の築城とともに現在の地に移され、長らく同家の菩提寺として信仰を集めてきました。



境内には鎌倉時代に遡る梵鐘や、江戸時代の本堂や三門、それに御影堂などが並んでいて、歴代の藩主や正室の霊屋とともに重要文化財に指定されています。



基本的に外観のみの拝観は自由で、杉林に囲まれた霊屋も遠目に見ることができました。私自身、弘前に寺町のイメージがなかったので、まさかこれほど立派な寺院が建っているとは知りませんでした。

そして一度、弘前城付近から駅へ土手町100円バスへ戻り、軽く昼食を済ませた後、再び弘前城へ行きました。



依然としてイベントのために大勢の人で賑わう中、弘前文化センター近くの東門より入城し、東内門を過ぎると内濠の向こうに天守が見えてきました。



1611年、二代藩主の津軽信枚によって完成した弘前城は、6つの郭と3重の濠から築かれていて、門や櫓などの城郭の遺構が、ほぼ当時のままの姿で残されています。



現存する天守は1810年に建てられたもので、他の遺構と同様に重要文化財として指定され、東北地方唯一の江戸時代の天守としての威容を誇っています。



現在、100年ぶりの本丸石垣工事のため、当初の位置より北西約70メートルに移されていて、内部を見学することも可能でした。三層の天守は風格がありながらも小規模ゆえか、どこか可愛らしく見えるかもしれません。



それにしても廃城時の姿をほぼ留めているだけあり、櫓や天守はもちろん、濠や石垣などからも長い歴史の蓄積がひしひしと感じられました。



本丸から鷹丘橋を渡り、北の郭に出て丑寅櫓などを見学した後、三ノ丸から城外へ出ると、北側に位置するのが弘前ねぷた館でした。



弘前ねぷた館は、10メートルにも及ぶ大型のねぷたの展示のほか、三味線の生演奏、工芸体験、また土産店などからなる観光施設で、ちょうど私が出向いた際もねぷたの解説とともに太鼓の演舞が披露されていました。



帰りの電車の都合もあり、あまり時間的に余裕がなく、じっくりと見学は出来ませんでしたが、力強い太鼓の轟きともに、壮麗なねぷたの魅力をしばし味わうことができました。



ねぷたを見学すると16時を過ぎていました。この日の18時過ぎの新青森発の「はやぶさ」で帰る予定をしていたため、そろそろ青森と弘前の旅を終えなくてはなりません。最後に一休みしようと土手町へ向かい、老舗カフェレストラン煉瓦亭にてアップルパイをいただきました。



朝から夕方にかけて弘前れんが倉庫美術館、藤田記念庭園、禅林街、弘前城、弘前ねぷた館など、弘前の街を練り歩きましたが、反省点をあげるとすれば、やはりスケジュールがタイトであったことでした。



また連休中やイベントの開催もあってか、大勢の人が繰り出していて、事前に気になっていたカフェやレストランの殆どは満席などで利用できませんでした。よって昼食のタイミングを逸してしまったのも反省材料でした。



それに弘前には前川建築など想像以上に見どころが多く、1日では十分に廻りきれませんでした。再度行く機会があれば弘前に宿泊し、より広域を巡るのも良いのかもしれません。

青森には十和田市現代美術館など注目すべきアートスポットも他に存在します。またぜひ旅したいと思いました。

「弘前公園」@HIROSAKIPARK_JP
休館:11月24日~3月31日(弘前城)
 *弘前城本丸・北の郭は11月24日~3月31日の期間は入園無料
時間:9:00~17:00(4月1日~11月23日)
料金:大人320(250)円、子供100(80)円。
 *有料区域入場料金(本丸・北の郭)
 *弘前城本丸・北の郭、弘前城植物園、藤田記念庭園の共通券あり。大人520円、子供160円。
 *( )内は10名以上の団体料金。
住所:青森県弘前市下白銀町1
交通:JR弘前駅より弘南バス(土手町循環100円バス)「市役所前」下車徒歩4分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「森万里子 Central」 SCAI THE BATHHOUSE

SCAI THE BATHHOUSE
「森万里子 Central」
2020/9/11〜10/17



SCAI THE BATHHOUSE(スカイザバスハウス)で開催中の「森万里子 Central」を見てきました。

1967年に東京で生まれ、ニューヨークを拠点に活動する現代美術家の森万里子は、近年「古代の信仰や最新の素粒子データ」(*)をインスピレーションにして、彫刻などで多様に表現してきました。

森はコロナ禍の影響で一時帰国し「蟄居生活」(*)を送りつつ、作品を制作したそうです。そうした森の近作で構成されたのが「Central」と題した個展で、立体に平面、それにドローイングなどが公開されていました。

まず目を引くのが、鉱石や氷河の断片のようにも見える高さ1メートル超のオブジェで、虹のように染まった光を空間へ淡く放っていました。



この「Divine Stone」と名付けられた作品は、日本のアニミズムにおける磐座をリサーチして作られていて、表面には作家自らが開発に携わった特殊なコーティングが施されていました。その特性によって特定の波長の光を分離し、美しい色彩のスペクトルが生み出されるそうです。



こうしたオブジェと同様にオーロラのような光をまとっていたのが、円盤状の平面の作品「Radiant Being」でした。



円盤の内部には空色やピンク色の球形が浮かび上がっていて、奥には太陽を思わせる輝かしい光のリングが広がっていました。ちょうど日差しの強い日中、眩しい太陽の光に向き合う感覚に近いかもしれません。



森はコロナ禍において外界世界から疎遠になることで、多くの時間を内的世界の探究に費やすことになったとしています。



ともかく角度を変えて見れば見るほど、光の色や煌めきが移ろうのが美しくてなりませんでした。磐座は古代の人々にとっての信仰の対象でしたが、あたかも作品の光を通して神聖なエネルギーを浴びているかのようでした。



新型コロナウイルス感染症対策に関する情報です。WEBでの事前予約制が導入されました。それに伴って入口は基本的に施錠され、インターホンにて名前を告げて入場する形が取られていました。

会期末も迫っているからか、最終の週末に向け、かなりの入場時間枠がキャンセル待ちとなっていました。お出かけの際はご注意下さい。

10月17日まで開催されています。(*は解説より引用)

「森万里子 Central」 SCAI THE BATHHOUSE@scai_bathhouse
会期:2020年9月11日(金)〜10月17日(土)
休廊:日・月・祝。
時間:12:00~18:00
料金:無料
住所:台東区谷中6-1-23 柏湯跡
交通:JR線・京成線日暮里駅南口より徒歩6分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩7分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「秋の青森のアートと史跡・街歩き」 Vol.3:弘前れんが倉庫美術館

Vol.2:三内丸山遺跡・青森港に続きます。弘前れんが倉庫美術館へ行ってきました。



明治・大正期に酒造工場として建設され、後に近代産業遺産に指定された青森県弘前市の煉瓦造りの倉庫が、2020年7月に弘前れんが倉庫美術館としてグランドオープンしました。



朝早くに宿をチェックアウトし、青森駅から9時過ぎの「つがる2号」に乗ってしばらくすると、車窓に田んぼとりんご畑の広がる風景が見えてきました。そこが津軽平野の南部に位置し、東に八甲田の連峰、そして西に雄大な岩木山を望む弘前の街でした。



弘前駅は市中心部の西側に位置していて、弘前城などの主要な観光スポットへ向かうには、約10分間隔で市内を循環する土手町100円バスが便利でした。



弘前れんが倉庫美術館の最寄りバス停は中土手町で、江南鉄道中央弘前駅近くの住宅街の中に建っていました。芝生の広場を前に赤い煉瓦造りの建物が2棟並んでいて、大きい建物が展示室やスタジオなどの美術館のスペース、もう1棟にカフェとミュージアムショップが入居していました。



この地に煉瓦倉庫を築いたのは、明治から大正にかけて酒造業などを営んでいた福島藤助で、1907年頃には現在のカフェ棟の一部を含む建物を市内の茂森町より移築しました。その後、事業拡大とともに日本酒造工場として倉庫などを増設して、今の美術館棟も1923年頃には建てられました。



終戦後、シードル事業を興した吉井勇が朝日シードル株式会社を設立すると、同社の弘前工場として稼動するようになり、最終的にはシードル約1800万リットルを見込むなどして製造されました。そして1960年頃にニッカウヰスキー株式会社に事業が移されると、同社の弘前工場として東北向けにウイスキーが生産されました。



しかし1965年に工場が移転し、1975年には建物の一部も取り壊され、現存する煉瓦倉庫の形となりました。その後は1997年に至るまで、政府備蓄米の保管倉庫として用いられていたそうです。



1980年代後半から煉瓦倉庫の活用法が模索されると、2002年には「市民の手」(リーフレットより)によって奈良美智の展覧会が開かれました。結果的に2015年、弘前市が土地と建物を取得して「弘前市吉野町煉瓦倉庫・緑地検討委員会」が組織され、2017年から「(仮称)弘前市芸術文化施設」として整備が始まり、2018年から本格的な改修工事が行われました。



改修を担ったのは建築家の田根剛で、「記憶の継承」をコンセプトに、耐震補強や煉瓦壁の保存、またチタン材を用いた「シールド・ゴールド」の屋根などが導入されました。屋根は昔の洋館に多い菱葺きの手法が用いられていて、光の角度によって表情が変化していくそうです。


奈良美智「A to Z Memorial Dog」 2007年

エントランスの奈良美智の「A to Z Memorial Dog」やフランスのジャン=ミシェル・ オトニエルのりんごに着想を得た彫刻を過ぎると、展示室へと続いていて、ちょうど開館記念展の「Thank You Memory ― 醸造から創造へ」が行われていました。


ジャン=ミシェル・ オトニエル「Untitled」 2015年 *代替作品。会期中に展示替えを予定。

なお展示は9月22日に終了し、10月10日より「小沢剛展 オールリターン―百年たったら帰っておいで 百年たてばその意味わかる」が開催されています。

これは開館記念に際し、建物の場所と記憶に焦点を当てたもので、広々とした倉庫内のスペースを用い、8名の現代アーティストが絵画、写真、インスタレーションなどの多様な作品を展示していました。



最初の展示室では、煉瓦倉庫に残されていたタンクや看板などが並んでいて、土地の歴史を記した年表とともに、煉瓦倉庫の史的変遷を辿ることができました。



古びたシードル瓶や広告ポスター、またタイルの欠片なども、長い歴史を物語る興味深い資料と言えるかもしれません。


畠山直哉×服部一成「Thank You Memory」 2020年

写真家の畠山直哉は、美術館のロゴやグラフィックを担当した服部一成と協働して、シードル工場当時の写真や資料を引用しつつ、新たな読み物としての印刷物を作り上げました。ここでは工場時代の資料や新聞記事などがいわばコラージュするように展開していて、設計を担った田根剛のドローイングも描きこまれていました。


笹本晃「スピリッツの3乗」 2020年

私が一連の作品で特に魅惑的に感じられたのが、建築倉庫の窓や扉、さらには階段を用いて大規模なインスタレーションを築いた笹本晃の「スピリッツの3乗」でした。


笹本晃「スピリッツの3乗」 2020年

作品には建材だけでなく、ボトル型のガラス彫刻などがダクトで繋ぎ合わさっていて、あたかも研究室や培養室に立ち入ったかのような錯覚に囚われました。


笹本晃「スピリッツの3乗」 2020年

またダクトからは風も送り込まれているからか、装置としても稼働しているように見えて、かつてのシードル工場の醸造工程を擬似的に表現していました。


尹秀珍「ポータブル・シティー」 2001年〜

中国の尹秀珍(イン・シウジェン)は「ポータブル・シティー」において、ブリュッセルや敦煌、台北にメルボルン、そしてニューヨークや弘前の街をスーツケースへ古着のジオラマとして表現しました。


尹秀珍「ポータブル・シティー」 2001年〜

古着を人々の記憶を宿すものと考える尹は、弘前を訪ねては古着を集めて制作していて、岩木山を背に弘前城や古い家々、そしてシールド・ゴールドの屋根が光り輝く倉庫美術館などの弘前をスーツケースの上に展開していました。一際目立っていた高い塔は、古くは東北一の美塔と称された最勝院五重塔のようでした。


奈良美智「SAKHALIN」 2014〜2018年

アイヌの文化に興味を持ち、実際に青森や北海道、それにサハリンへとアイヌ語の残る地域を旅した奈良美智は、写真シリーズ「SAKHALIN」においてサハリンの先住民との出会いを写真に収めました。なんでもサハリンでは、かつて奈良の祖父が炭鉱や漁業を携わっていた地でもあるそうです。


藤井光「建築  2020」 2020年

この他では煉瓦倉庫から美術館へ生まれ変わるプロセスを映像に捉えた、藤井光の「建築 2020」も見応えがありました。どのように工事が進み、建物が再生されたのかを臨場感をもって知ることができるのではないでしょうか。



美術館の内部でともかく印象に残ったのは、鉄骨を剥き出しにした吹き抜けの広いスペースと、暗がりの中で黒光りする壁でした。


左:尹秀珍「ウェポン」 2003〜2007年
右下奥:ナウィン・ラワンチャイクン「いのっちへの手紙」 2020年

この黒い壁はかつてシードルの貯蔵タンクがあった場所で、安全性を確認した上でコールタールの塗られた壁面をそのまま残していました。まさにこの場所だからこそ叶った展示空間と言えるかもしれません。



2階を区切る白い壁も当時のまま使われていて、向かって右側は工場の瓶詰室、そして左側にある現在のオフィスはかつて研究室と事務室として利用されました。



さらに同じく2階には市民ギャラリーとライブラリーがあり、無料施設として自由に立ち入ることも可能でした。



一通り展示を見終えて早めにランチをとろうと、隣のカフェ棟へ向かいましたが、パーティーの貸切予約により立ち入ることが叶いませんでした。私がチェックをし損ねていましたが、一応、事前にWEBサイトで告知があったようです。


よってカフェの利用を諦めて、弘前の街へと繰り出すことにしました。

Vol.4:弘前市街(土手町・弘前城周辺・禅林街ほか)へと続きます。

「Thank You Memoryー醸造から創造へー」 弘前れんが倉庫美術館@hirosaki_moca
会期:2020年6月1日(月)~9月22日(火・祝) *会期終了
休館:火曜日(祝日の場合は、翌日休館)。年末年始。
時間:9:00~17:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人1300(1200)円、学生1000(900)円。高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:青森県弘前市吉野町2-1
交通:JR弘前駅より徒歩20分。弘南バス(土手町循環100円バス)「中土手町」下車徒歩4分。
コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )

「ベゾアール(結石) シャルロット・デュマ展」 メゾンエルメス

メゾンエルメス
「ベゾアール(結石) シャルロット・デュマ展」
2020/8/27~11/29



メゾンエルメスで開催中の「ベゾアール(結石) シャルロット・デュマ展」を見てきました。

1977年にオランダで生まれ、アムステルダムを拠点に活動するアーティスト、シャルロット・デュマは、かねてより「社会の動物と人間の関係性」(解説より)に注目して、馬や犬などの人間に身近な動物の写真を撮り続けてきました。

そのデュマが日本各地の在来馬に取材したのが「ベゾアール(結石)」と題した個展で、オブジェ、写真に映像のほか、馬にまつわる資料などを組み合わせたインスタレーションを展開していました。



まず目を引くのが青く染まった36枚のオーガニックコットンによる作品で、中央のスクリーンには与那国島を舞台とした映像「潮」が映し出されていました。



与那国島には約120頭の在来馬が生息していて、「潮」では沖縄生まれの少女のゆずが愛馬うららに乗る様子が捉えられていました。その姿は親密にも感じられて、人と馬の繋がりが伝わるかのようでした。



また手前には藁で編んだ馬沓や腹帯など、馬に関した様々な資料が展示されていて、とりわけ日本で最初に馬を連れた渡来人の住んだ四條畷から出土した埴輪に目を引かれました。



もう1点の映像「依代」は、「潮」と対になるような作品で、デュマの5歳の娘アイヴィが、馬の衣装を着てオランダから東京、京都を経て与那国島へと旅する様子が映されていました。



「潮」のゆずと異なり、アイヴィは実際の馬を見たことのない少女で、与那国で初めて在来馬に巡り合うラストシーンでは、どこか恐る恐る馬に触れているかのようでした。なおデュマは一連の少女が登場する映像を三部作に構想していて、最後の作品は2021年に完成するとのことでした。

それにしても神秘的とも言える響きをたたえた「ベゾアール」に、デュマは一体何を見出して、作品として表現しようとしたのでしょうか。



「ベゾアール」とは動物の胃の中に結成される結石のことで、特に馬は水を飲まないために巨大化しやすいとされています。現代では獣医師によって取り除かれることがありますが、古くのヨーロッパでは解毒の効果があるとして、薬として水に浸して飲む習慣がありました。



こうした「ベゾアール」は本来的に馬を死に追いやる存在であるものの、デュマはまるで宇宙に浮かぶ惑星のように神秘的に見えたとして、馬の一生について考察を巡らせつつ、インスタレーションとして築き上げました。もちろん「ペゾアール」も実際に並んでいて、確かに惑星とも、白い光を放つ自然の貴石のようにも思えました。



馬の生死、そして人間との関わりが多様なアプローチを取りつつ、詩的に紡がれていくような展示と言えるかもしれません。テキスタイルデザイナーのキッタユウコとのコラボレーションや、建築家の小林恵吾と植村遥が担当した会場デザインも魅惑的でした。



新型コロナウイルス感染症対策に伴う銀座店混雑緩和のため、通常の晴海通り側の入口ではなく、ソニー通り側のエレベーターから入場する形となっていました。またマスク着用のない場合は入場ができません。


11月29日まで開催されています。 *写真は全て「ベゾアール(結石) シャルロット・デュマ展」展示風景。撮影が可能でした。

「ベゾアール(結石) シャルロット・デュマ展」 メゾンエルメス
会期:2020年8月27日(木)~11月29日(日)
休廊:会期中無休。
時間:11:00~20:00 
 *日曜は19時まで。入場は閉場の30分前まで。
料金:無料。
住所:中央区銀座5-4-1 銀座メゾンエルメス8階フォーラム
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅B7出口すぐ。JR線有楽町駅徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「都市への挿入 川俣正」 BankART Station、BankART Temporary、馬車道駅構内

BankART Station、BankART Temporary、馬車道駅構内
「BankART LifeⅥ 都市への挿入 川俣正」
2020/9/11~10/11



「BankART LifeⅥ 都市への挿入 川俣正」を見てきました。

1953年に北海道で生まれ、フランスに在住する川俣正は、公共空間で構造物を取り込んだインスタレーションを制作するなど、世界各地で精力的に活動してきました。

その川俣が2013年の「川俣正 Expand BankART」以来、久しぶりに横浜を舞台にしたのが「都市への挿入 川俣正」で、新高島のBankART Station、及び馬車道にあるBankART Temporaryと馬車道駅構内にて作品を公開していました。



まずBankART Stationでは、過去のアーカイブとも言える作品資料が展示されていて、今回のBankART Temporaryのための新作の模型も並んでいました。



中でも目を引くのは、かつてのBankART Studio NYKを木製パレットで覆った「Expand BankART」で、写真でも展示の光景を振り返ることができました。



私が初めて川俣の大規模なインスタレーションに出会ったのは、2008年に東京都現代美術館で開催された「川俣正 通路」で、当時は美術館をベニヤ板の通路に置き換えた空間そのものに強く戸惑ったことを覚えています。



「Expand BankART」では内部でも木製パレットを使い、まるで洞窟のような空間を築いていて、解体中の窓枠を用いた大掛かりな作品も記憶に残りました。



さて新高島より馬車道へと移動すると、改札外の吹き抜けに設置されていたのが、工事用のフェンスを使った新作でした。高さは約7.5メートルほどあり、頂点の部分は駅の天井にまで到達していて、中へ出入り可能な開口部が前後に開いていました。



下から見上げるとあたかもフェンスが雪崩れ落ちてくるかのようで、どことない恐怖感すら覚えましたが、単管を張り巡らせた構造は堅牢に築かれているようでした。



今回の個展に際して川俣は、横浜にて解体や建築の工事が多く行われているのを目にして、工事用のフェンスなどの建築資材を使うプランを練ったそうです。それを自身、「工事現場の中に工事現場を装った場を中に入れ込む」(解説より)と表現していました。少し離れて眺めるとミノムシのように見えましたが、おおよそ駅構内とは思えない不思議な光景にしばし目を見張りました。



この馬車道に直結する歴史的建造物のBankART Temporaryでも、同様のインスタレーションを公開していて、内外に工事用のフェンスが展開していました。



まず屋外では、半円型のバルコニー付近をフェンスが覆っていて、何やら人の顔にバンダナを被せているようにも見えました。



一方の内部では天井付近を波打つようにフェンスが巡らされていて、列柱の立ち並ぶ重厚な空間へ大きな変化をもたらしていました。



新型コロナウイルス感染症のために来日が不可能となった川俣は、作品の制作に際して、日本のスタッフへタブレットなどで指示を出し、リモートで完成させたそうです。



その制作の様子を捉えた映像も見応えがありました。今回の作品も会期を終えると全て取り除かれますが、構想、制作、解体のプロセス全体こそが川俣の作品と言えるのかもしれません。



10月11日まで開催されています。

「BankART LifeⅥ 都市への挿入 川俣正」 BankART Station、BankART Temporary、馬車道駅構内
会期:2020年9月11日(金)~10月11日(日)
休館:木曜日。但し10月8日を除く。
時間:11:00~19:00
料金:一般1000円、大学・専門学生・横浜市民600円、高校生以下・65歳以上無料。
 *「BankART Life VI」と「ヨコハマトリエンナーレ2020」、「黄金町バザール2020」を全て観覧できる「横浜アート巡りチケット」(一般2800円)あり。
住所:横浜市西区みなとみらい5-1 新高島駅地下1F(BankART Station)、横浜市中区本町6-50-1(BankART Temporary)
交通:みなとみらい線新高島駅より改札口を出てすぐ。(BankART Station)みなとみらい線馬車道駅1b出口よりすぐ。(BankART Temporary)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「秋の青森のアートと史跡・街歩き」 Vol.2:三内丸山遺跡・青森港

Vol.1:青森県立美術館に続きます。三内丸山遺跡を見学してきました。



三内丸山遺跡は青森県立美術館の北西に隣接していて、入口に当たる縄文時遊館へは道なりで約450メートルほどでした。



遺跡は博物館の縄文時遊館と屋外のピクニック広場、それに復元建物などの集落跡の広がる縄文のムラから構成されていて、全体が1つの三内丸山遺跡センターとした有料施設となっていました。



まず先に遺跡へ向かうべく、ジオラマを見て屋外へ出ると、芝生と木立の連なる広々とした風景が見えてきました。ちょうど案内板の右側がピクニック広場、左側が遺跡の点在する縄文のムラでした。



縄文時代の前期から中期にかけての大規模集落跡である三内丸山遺跡は、1992年から発掘調査が進み、竪穴と掘立柱建物跡や墓、それに盛土や貯蔵穴などが次々と発見されました。



また土器や石器、木製品、土偶や骨格器、ヒスイや黒曜石も数多く出土し、2000年には国の特別史跡に指定されるなど、日本を代表する縄文遺跡として知られてきました。



ちょうど西側に東北新幹線と幹線道路が通っているからか、時折、鉄道や車の通過する音が聞こえるものの、辺りは風が木々を揺らすのみで、自然豊かな環境であることが感じられました。



一際目を引いたのは、大型竪穴建物や掘立柱建物などの復元施設で、一部は実際に立ち入ることも可能でした。



そのうち特に大きいのが大型竪穴建物で、復元されたのは長さ32メートル、幅10メートル近くにも及ぶ日本最大の建物でした。



薄暗い内部には木の炭の匂いが漂っていて、さも縄文時代へとタイムスリップするかのような臨場感も味わえました。なお建物は、住居や集会場、共同作業場として使われていたと考えられているそうです。



さらに木々や草の匂いを感じつつ、掘立柱建物や地面に掘られた土坑墓と呼ばれる墓を見て回った後は、再び縄文時遊館へ戻って、館内の展示を見学することにしました。



遺跡から出土した遺物が約1700点ほど公開されているのが、縄文時遊館の中の常設展示「さんまるミュージアム」でした。ここでは土器、石棒、土偶、加工痕のある哺乳類の骨、石槍、さらにはヒスイのペンダントなどの出土品が所狭しと並んでいて、縄文人の暮らしについて学ぶことができました。



中でも最も目立っていたのは、一面に土器が雛壇へ展示された土器ステージでした。いずれの土器も露出で並んでいて、細かな模様なども見ることができました。



これほどまとまった形で土器や土偶類を目にしたのは、かつて東京国立博物館で開催された縄文展以来のことだったかもしれません。


「大型板状土偶」 縄文時代中期 紀元前3000年 重要文化財

また縄文時代中期の「大型板状土偶」も興味深い資料で、大きく口を開けるような表情に心を奪われました。それこそ狂気的なまでの叫びを感じられないでしょうか。


「漆塗り土器」 縄文時代中期 紀元前2800年前 重要文化財

表面に漆の痕が残る「漆塗り土器」も印象に深かったかもしれません。1700点の所蔵資料のうち500点ほどが重要文化財とありましたが、確かに右も左も目を引かれる資料ばかりでした。



常設に続き企画展「三内丸山と大湯」を見て、整理作業室やミュージアムショップを巡っていると15時半近くになっていました。



この日は青森駅近くに宿をとっていたので、再び周遊バスねぶたん号乗り、荷物を預けていた新青森駅へ向かいました。



新青森駅から青森駅へは奥羽本線で6〜7分ほどで、しばらく電車に揺られていると大きく左へとカーブして、港へホームが突き出るように伸びる青森駅に到着しました。



ここで本来ならば駅近くにあるねぶたの家「ワ・ラッセ」を見学できれば良かったのですが、閉館時間との兼ね合いもあり諦めて、港に面した青い海公園を散歩することにしました。



公園の前にはレストランや土産店などの入居する「青森県観光物産館アスパム」が建っていて、高層階には展望台もありました。但し短縮営業のため17時で既にクローズしていたため、上がって見ることは叶いませんでした。



冷ややかな海風を感じつつ、夕暮れ時の青森港をしばし歩いては、アスパムの中の西むらにて「つがる定食」(特にホタテの貝焼き味噌が美味でした。)を頂いた後、宿へと戻りました。



Vol.3:弘前れんが倉庫美術館へと続きます。

「特別史跡 三内丸山遺跡」
休館:毎月第4月曜日(祝日の場合は、翌日休館)。年末年始(12月30日~1月1日)。
時間:9:00~17:00 *入場は閉館の30分前まで
料金:大人410(330)円、大・高校生200(160)円、中学生以下無料。
 *遺跡を含む常設展観覧料。
住所:青森市大字三内字丸山305
交通:JR新青森駅東口よりルートバスねぶたん号「三内丸山遺跡」下車。青森駅前6番バス停より三内丸山遺跡行きより「三内丸山遺跡前」下車。駐車場あり。
コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )

「秋の青森のアートと史跡・街歩き」 Vol.1:青森県立美術館

2006年に三内丸山遺跡の隣に開館した青森県立美術館は、シャガールの「アレコホール」や多彩なコレクション、はたまた奈良美智の「あおもり犬」などで県内外より広く注目を集めてきました。



東京駅から8時過ぎの「はやぶさ」に乗車し、いくつもの街と森とトンネルを猛スピードで駆け抜け、青森市の玄関口である新青森駅と到着したのは11時20分頃でした。



そして同駅から周遊バスねぶたん号に乗ってしばらくすると、広々とした公園の中に白い建物、つまりは青森県立美術館が姿を見せました。



青森県立美術館を手掛けたのは建築家の青木淳で、設計に際しては三内丸山遺跡の発掘現場に着想を得たとしています。私も雪景色に覆われる建物を写真で目にしたことはありましたが、白い外観は青空にも良く映えていました。



シンボルマークやロゴタイプなどのヴィジュアル・アイデンティティは、グラフィックデザイナーの菊地敦己が担っていて、建物の壁面にもシンボルマークのネオンサインがまるで森を象るように設置されていました。夜になると青い光を放つそうです。



建物内部に入るとまずインフォメーションがあり、図書館やシアターと続いていて、その奥の向かって左側にカフェとショップが連なっていました。通路空間からして広々としていて、想像していた以上よりも大きな建物でした。



インフォメーション横のエレベーターで1階より地下2階へ降り、チケットブースを過ぎると、まず広がるのが縦横21メートル、高さ19メートルに及ぶ吹き抜けの大空間「アレコホール」でした。


マルク・シャガール バレエ「アレコ」の背景画 展示風景

ここではマルク・シャガールのバレエ「アレコ」のために描いた全4点の背景画が露出で展示されていて、いずれの作品も自由に撮影することができました。それぞれが横幅14メートル超、縦幅9メートルほどに及んでいて、まさにこの空間でなくては展示自体も叶わないような超大作でした。


右:マルク・シャガール バレエ「アレコ」の背景画 第1幕「月光のアレコとゼンフィラ」 1942年
左:マルク・シャガール バレエ「アレコ」の背景画 第2幕「カーニヴァル」 1942年

全4点のうち最も目を引くのが、満月の照る夜空の中、寄り添って男女の浮かぶ第1幕の「月光のアレコとゼンフィラ」でした。そして画面の下には満月の光を写す湖とバレエの舞台でもあるロマのテントも描かれていて、青く渦巻く大気とともに幻想的な光景を築き上げていました。


マルク・シャガール バレエ「アレコ」の背景画 第3幕「ある夏の午後の麦畑」 1942年

第3幕の「ある夏の午後の麦畑」はアメリカのフィラデルフィア美術館のコレクションで、長らく同館にて公開されてきましたが、改修工事のために青森県立美術館への長期借用が決まり、現在のように4点揃って展示されました。なお4点がまとまって公開されたのは、2006年の開館記念展「シャガール『アレコ』とアメリカ亡命時代」展以来のことだそうです。(2021年3月頃までを目処に公開予定。)



シャガールの「アレコ」に魅せられながら展示室を先に進むと、同じく通年展示として奈良美智の絵画、彫刻、インスタレーションなどが約30点ほど並んでいました。また展示室の窓からは同館のシンボルと化した「あおもり犬」も望むことができました。


棟方志功「二菩薩釈迦十大弟子」 1939年/1948年改刻 個人蔵(青森県立美術館寄託)

通年展示に続いて開催されていたのが、「ふるえる絵肌」と題した絵肌に着目したコレクション展でした。いずれも青森県出身の棟方志功や伊藤二子、馬場のぼる、橋本花、佐野ぬいなどの作品がそれぞれ個展の形式で紹介されていて、とりわけ馬場のぼるの動物をモチーフにした作品や、青や赤などの色面が心象風景を描くような佐野ぬいの絵画などに心を惹かれました。


ウルトラマンや怪獣のデザインで知られる成田亨の展示も充実していて、酒呑童子や阿修羅などを象った巨大なFRPの彫刻にも圧倒されました。地元の青森の作家を丹念に紹介した内容で、作品の量も不足なく、大変に充実したコレクション展でした。



一通り館内の作品を見終えた後は、奈良美智の屋外の作品、「あおもり犬」と「Miss Forest / 森の子」を見学することにしました。



まず一度地下の入口を出て、コンクリートに囲まれた「あおもり犬連絡通路」の階段を上り、再び降りて、展示室の裏手に当たる美術館の西側へ進むと、「あおもり犬」が目に飛び込んできました。


奈良美智「あおもり犬」 2005年

高さ8.5メートル、横幅6.7メートルほどある「あおもり犬」は、写真で見るよりも大きく、下から潜り込むようにして見上げると、かなりの迫力がありました。



やや首を垂れつつ、目を伏した「あおもり犬」は静かに笑っているように見えつつ、哀愁を漂わせているようで、思いの他に複雑な表情をしていました。解説に「大仏」とありましたが、それこそ見る角度や立ち位置によって変化して見えるのかもしれません。



雪のかぶった姿も有名ながら、この日の晴天を背にした「あおもり犬」も魅力的ではないでしょうか。来場者も続々やって来ては、思い思いに記念写真を撮っていました。



もう1点の「Miss Forest / 森の子」は、美術館の南側にある「八角堂」と呼ばれる煉瓦造りの建物の中に展示されていて、「あおもり犬」と同様に屋根のないスペースにて、日差しを浴びながら鎮座していました。


奈良美智「Miss Forest / 森の子」 2016年

石畳と苔の合間から頭を突き出す姿は、目を閉じては瞑想しているようで、あたかも古くから堂内に住んでいた精霊のようにも見えました。



その八角堂と公園に面しているのがカフェ「4匹の猫」とミュージアムショップで、カフェでは青森の食材を用いたカレーやピラフ、ベーグルなどが提供されていました。



私は昼食を既に済ませていたので、デザートセットから「タルト・オ・ポム ドリンクセット」(青森県産りんごのタルト)を注文しました。70席以上あるカフェ「4匹の猫」は空間にも余裕があり、タルトをいただきながらゆっくりとした時間を過ごすことができました。



「あおもり犬」は設備改修工事のため、10月5日から来年4月頃まで連絡通路が閉鎖されます。(展示室内からガラス越しで観覧は可。)



公園から吹き抜ける心地良い風を感じながら、美術館の建物を眺めた後は、次の目的地である隣の三内丸山遺跡へと歩いて向かいました。



Vol.2:三内丸山遺跡・青森港へと続きます。

「シャガール「アレコ」全4作品完全展示」 青森県立美術館@aomorikenbi
会期:2017年4月25日~2021年3月頃(予定)
休館:毎月第2、第4月曜日 (祝日の場合は、翌日休館)。年末年始(12月28日~1月1日)。この他、展示替え休館、館内改修工事のための臨時休館日あり。
時間:9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人510(410)円、大・高校生300(240)円、中学生・小学生100(80)円。
 *常設展観覧料。
 *企画展は別料金。
住所:青森市安田字近野185
交通:JR新青森駅東口よりルートバスねぶたん号「県立美術館前」下車。青森駅前6番バス停より三内丸山遺跡行きより「県立美術館前」下車。駐車場あり。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「アイヌの美しき手仕事」 日本民藝館

日本民藝館
「アイヌの美しき手仕事」 
2020/9/15~11/23



日本民藝館で行われている「アイヌの美しき手仕事」を見てきました。

アイヌの文化に敬意を払い、工芸に魅せられた日本民藝館の創設者の柳宗悦は、1941年に美術館として初めてアイヌ工芸展となる「アイヌ工藝文化展」を開催しました。

これは当時、商業図案家として成功を収めていた杉山寿栄男のアイヌ工芸コレクションを紹介したもので、染織から木工品、首飾りや楽器など約600点もの作品が公開され、会期が延長されるほど人気を博しました。

残念ながら杉山のコレクションは第二次世界大戦の空襲により焼失してしまいましたが、柳は自らもアイヌの工芸品を収集し、日本民藝館へ約200点の作品を納めました。

その柳の収集品、及び「アイヌ工藝文化展」で選品を担当した芹沢けい介のアイヌコレクションを紹介するのが「アイヌの美しき手仕事」で、玄関回廊から本館大展示室へと至るスペースに約200点の作品が展示されていました。



最大の見どころは、1941年の「アイヌ工藝文化展」の一部再現展示と言えるかもしれません。本館大展示室の最奥部では、壁面に様々な紋様の施されたアイヌの衣装が刀掛け帯と並んで掲げられ、下のケースにはガラス玉を連ねた色とりどりの首飾りやマキリと呼ばれる小刀、それに神(カムイ)に祈る際に用いられる儀礼具イクパスイなどが並んでいました。



それぞれの作品は互いに響き合っていて、特に衣装や刀掛け帯の展示は、全体が一つの造形美を見せているように思えました。このように1941年の展示では、かつて民俗的資料と受け止められていたアイヌの工芸を、「美の対象」(解説より)として評価したことに重要な意味を持つとされています。(再現展示の壁面のみ撮影可)



私が今回の展覧会で特に魅せられたのは木工品、とりわけイクパスイでした。ヘラ状の上部の表面には線刻とも言えるような装飾が力強く彫り込まれていて、作り手の魂を感じるかのようでした。なおアイヌの制作した後、いわゆる和人が漆を塗った作品もあるそうです。

また端的に衣装と言えども、樹皮や草皮、木綿、はたまた魚皮を縫い合わせたものと様々で、模様のパターンも多岐にわたっていました。

少なくとも都内でこれほどアイヌの工芸品を見られる機会はあまりないかもしれません。改めて強く魅せられるものを感じました。


新型コロナウイルス感染症対策に関する情報です。マスクの着用、手指の消毒が行われる他、西館の公開と団体見学を中止しています。また接触防止の観点から、スリッパではなく使い捨てのシューズカバーが用意されていました。さらに混雑時は状況に応じて入場制限を行う場合があるそうです。お出かけの際はご注意下さい。



なお日本民藝館は改修工事のため、本展を終えると2021年3月末まで休館します。

11月23日まで開催されています。おすすめします。

「アイヌの美しき手仕事」 日本民藝館
会期: 2020年9月15日(火)~11月23日(月・祝)
休館:月曜日。但し祝日の場合は開館し翌日休館。
時間:10:00~17:00。 *入館は16時半まで
料金:一般1100円、大学・高校生600円、中学・小学生200円。
 *団体見学は当面中止。
住所:目黒区駒場4-3-33
交通:京王井の頭線駒場東大前駅西口から徒歩7分。駐車場(3台分)あり。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )