2004年 私が観た美術展 ベスト10 その2

それでは早速昨日の記事、「私が観た美術展 ベスト10 その1」の続きです。今回は「その2」(「その1」と「その2」しかありませんが…。)ということで、それぞれの美術展について、今、あらためて感じることをつらつらと書いてみようと思います。

1番はズバリ、ライマンでした。これについては感想にも書きましたが、作品そのものはもちろんのこと、それを取り巻く空間全体も、非常に素晴らしかったと思います。初めて行った川村記念美術館は、京成の駅からもかなり遠かったのですが、その分(?)、あの美術館全体の雰囲気は、何とも言えない良さを醸し出していました。また、それに、作品と美術館との相性が抜群に良く、ライマン本人によると言う作品配置もかなりキマッていたのではないでしょうか。バターをパンに塗ったような「白」の感触は、まだ忘れられません。それぞれの作品が相互に関係し合って、その場の空間を変化させる。気がつくと、その世界の虜になった私がいました。ライマンの作品へは、様々な批判もあるようで、中には、ネガティブに見ている方もおられると聞きました。ただ、私は、彼の世界観に出会えたことが本当に幸せです。あの「白」。次はどこで出会えるでしょうか。今から楽しみです。

2番目のザオについては、年明け早々にでも、もう一度、京橋まで見て来ようと思います。と言うのも、まだまだ気になるところが多いのです。今度は色だけでなく、その形態や動き、それに他の作品との関連などもしっかり見て来ようかと思います。しかし一体、私はザオの何に魅了されたのでしょうか。実は私、あまりその辺がまだよく分かっていないのかもしれません…。色、それともそこにあった形なのでしょうか。しかしながら、ともかくも、グッと心に迫ってくる大きな力を感じました。「魂を奪われた。」そう表現しても過言ではありません。絶対に再度見に行きます。

3番目はピッチニーニです。失礼ながら、全然存じ上げない方で、全く期待もせずに拝見しました…。しかし、それがどうでしょう、一見、奇怪な形をしているあの何かを見つめていると、強烈な衝撃が体を突き抜けたのです。「う~ん、なんて愛くるしい表情をしているのだ…!」まさに真の癒しがそこにあったようにも思いました。美術作品から、あれだけの優しさと慈しみを感じたのは、あの時が初めてです。作品たちと、カーペットの上に一緒に座って場を共有出来たのが、本当に幸せでした。

4番目の具体展は、神戸へ行った時に駆け足で見てきました。今でも、あの「具体の世界」に触れた驚きを忘れられません。私はそれまで、「具体」とされるいくつかの作品を、断片的に見てきたことはあるのですが、あれだけまとまった形で鑑賞したのは初めてでした。1時間ぐらいかと、適当に考えていた滞在時間も大幅に超過して、ひたすら見入っていたことを覚えています。何故、作品があんなに熱気に包まれていたのかはわかりません。しかしともかくも、恐ろしいまでの当時の作者の熱意が作品から放出されていました。展示の企画自体も、作成の過程をわかりやすく見せるコーナーがあったりして、なかなか充実していたと思います。これは是非、東京でもお願いしたいです。

5番目は東京駅で見た難波田さんの個展です。難波田さんは、この展覧会を見る前に、オペラシティーでやっていた「タイム・オブ・マイ・ライフ-永遠の少年たち」という展覧会で初めて知りました。そしてその時に、彼の作品がとても気になったわけです。すると、なんとタイミングの良いことに、この個展が開催されているではありませんか。慌てて行きました。私は特に、後期の心象風景を描いた作品に心が打たれましたが、それ以外にも、繊細な感性を示すようなナイーブな作品がたくさんありました。32歳で亡くなったことが、彼の作品に何らかの意味を付与させるのかはわかりません。ですが、「夭折の天才」という決め文句で片付けきれない才能が、難波田さんにはあると思いました。

続いて6番目は、千葉市美術館でやっていたダン・グレアムです。この展覧会、信じられないほどガラガラで、お客さんが5~6人しかいませんでした…。しかし、展示はそれに反してピカイチです。もちろん「パヴィリオン」と呼ばれる小型の建築物に入って、不思議な視覚体験をしたことも面白かったのですが、「ロック・マイ・リリジョン」という、シェーカー教とロック音楽を重ね合わせたようなビデオ作品もとても印象に残りました。(「まんがダン・グレアム物語」も良い。)ところで、千葉市美術館については、ベスト10には入れませんでしたが、5月から7月にかけて開催されていた「ピカソ、マティスと20世紀の画家たち」と、それとほぼ同時開催の「勅使河原蒼風とその周辺」もとても印象に残りました。(もちろん、それらもガラガラでしたが。)良い展覧会をやっているのに、あの客入り。本当に勿体ないと思います。頑張れ!千葉市美術館。

7番は損保ジャパンのピカソ展です。ところで、ピカソの作品と言いますと、あちこちで見る機会がありますので、その分、逆に一つ一つの印象が散漫になってしまいがちですが、この展覧会のピカソは久しぶりの大ヒットでした。ひたすら最晩年の作品群に圧倒され続け、見終わった後にはヘトヘトに…。充実感抜群、疲労感抜群、(もちろん良い意味です。)といった感じでしょうか。また、この展覧会は、ご承知の通り、その後川村美術館でも開催されました。そしてそちらでは、さらに作品が生き生きと輝いていたそうでしたから、私も川村で見たら、もっと感動していたかもしれません。(木場のピカソ展も、ポイントを「エロス」に絞り込んだ、良い企画の展覧会だったと思います。ただどうしても、このジャクリーヌ展には及ばないかなあ、という感じはしました。展示室内に土産物コーナーを持ってくるのもちょっと残念…。その分、別の作品が見たかったです。)

8番目はノルデ展です。思い出すだけでも、作品の幻想的な雰囲気がまた漂ってきます。あれだけのまとまった形で、ノルデを見たことも素晴らしかったのですが、その会場が庭園美術館だったことが、さらに良さを増したのではないかと思います。作品保護ということで、グッと落とした照明からにじみ出てくるノルデのカラー。その背後には歴史を感じる美術館の窓がある。「北フリースラントの夕景」の美しさを忘れることはないでしょう。(ところで、庭園美術館では、田原桂一さんの展覧会もとても印象に残りました。この美術館、箱が美術品だけに、展示品もそれと共鳴します。そのコンビネーションを楽しむのも面白いと思います。)

草間さんの展覧会は、あちこちの美術館で断片的に見る彼女の世界観を、一気に凝縮したような内容になっていました。私は、六本木の方でやっていた草間展を見そびれてしまったので、初めての草間体験だったのですが、これで彼女に対する変な先入観が一掃されたと言っても良いと思います。小さなお子さんが、あれほど楽しそうに作品に見入る展覧会もないでしょうか。彼女の作品の持つ力は、一部の固定的な美術ファンにだけではなく、もっと多様な層へ影響を及ぼしていくのかもしれません。それとも世の中がようやく草間さんに近づいてきただけなのか。これからも彼女が新しい世界観を披露して下さると思うと、今からウキウキします。オーバーかもしれませんが、同じ時代を生きているのが幸せだとも思いました。

さて、10番目は西洋美術館のマティス展です。この展覧会、専門家の方にはとても評判が良いようで、新聞紙上でも絶賛されていました。僭越ながら、私にも、この展覧会がいかに素晴らしいプロダクションであったかは、何となくわかる気がします。様々な角度からマティスを触り尽くす。実に贅沢な内容でした。ただ、それではなぜ10番目なのかというと、この展覧会で、私の中にあったマティスへの想いがややマイナスの方向へ変化してしまったという、極めて主観的な問題が生じたからなのです。これについてはブログにも書きましたし、いつも見て下さっている皆さんからも、とても貴重な意見を頂きました。一体私はマティスが好きなのか嫌いなのか。面白いのか面白くないのか。こう書くと、凄く下らないことに見えてきますが、何かとオーバーに考えてしまう私には、極めて重大なことが持ち上がった展覧会だったのです…。

以上で、ベスト10になります。長々と書いてしまいました。

これ以外には、森美術館の「ハピネス展」(恐ろしく疲れましたが。)や「MoMA展」、また、西洋美術館の「聖杯展」や竹橋の「RIMPA展」なども印象に残っています。しかし、こうして10個の展覧会を挙げてみると、どうやら私は、個展のスタイルをとった展覧会の方が印象に残るようです。ライマンや、最近良いと思う李の作品は、確か「ハピネス展」でも見たはずですが、不思議とそんなに印象に残らなかった。何故でしょう。しかしながら当然かもしれませんが、作品自体と、それをどう見せるかという美術館の企画力、さらに美術館のハコそのもの。これらの3つの要素が上手くかみ合うと、大変印象に残る展覧会になるようです。ザオを川村で見ていたらどうだったか。ノルデを損保ジャパンで見たらどうだったのか…。考えるときりがありませんが、それはまた別の印象を受けていたことでしょう。

いつもご親切に私のブログにコメントを書いて下さるDADA.さんも、ブログで「ベスト10」をやっておられます。私から見ると超人的なペースで、美術館からギャラリーまで見ておられますが、その中から輝かしい1番はザオで、2番はライマン。3番は難波田さんだそうです。明日以降お書きになるという振りかえりも楽しみです。

さて、みなさんは今年一年、どのような素晴らしい展覧会に出会われましたでしょうか。ところで、昨年もこのベスト10をやったのですが、そちらは閉鎖したdiaryの方に書かれていてわかりにくいので、ここで再掲載しておきたいと思います。

「2003年 私が観た美術展 ベスト10」

1 「ヴォルフガング・ライプ展」 東京国立近代美術館
2 「フランス近代美術展」 損保ジャパン東郷青児美術館
3 「野見山暁治展」 東京国立近代美術館
4 「サウンディング・スペース展」 ICC
5 「ドイツ・ロマン主義の風景素描展」 国立西洋美術館
6 「フェアリー・テイル 妖精たちの物語展」 埼玉県立近代美術館
7 「エイヤ=リーサ・アハティラ&束芋展」 東京オペラシティアートギャラリー
8 「ジャン・ヌーベル展」 東京オペラシティアートギャラリー
9 「ブラック・アウト 現代日本写真展」 国際交流基金フォーラム
10 「アウト・オブ・ザ・ブルー展」 トーキョーワンダーサイト

03年は、25程度の美術展を見ました。


来年も素晴らしい出会いがあることを祈って…。
長々と拙い文章を読んで下さってありがとうございました。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
僕も振り返り完了。 (DADA.)
2004-12-28 22:34:10
僭越ながら書いてみました。



森美術館のクサマトリックスは、先の草間展で黄色地に黒の斑点があしらわれた通路がありましたよね、あれが最初から最後まで、という印象でした。

東京国立近代美術館の草間展が、もし川村記念美術館で開催されたら・・・と考えると、居ても立ってもいられない気分になります(笑)。
 
 
 
DADA.さんの振り返り、読みました。 (はろるど・わーど)
2004-12-29 23:51:28
こんばんは。



振り返り拝見させて頂きました。



ステーションギャラリーは、とっても味がありますよね。

最近まであんな所に美術館があるなんて知りませんでしたが、

このところはファンです。

立地の割には空いていますしね。



ボナールの展覧会は、私も見ました。

確かに優しいタッチが心に残りました。

ボナールは、別の作家の作品と一緒に見ると、

あまり印象に残らないのですが、

この展覧会は不思議とインパクトがありました。

DADA.さんの仰る通りです。



HANGA展は行き損ねました。

ご推薦ということで、年明け早々には見に行きたいと思います。



金沢21世紀美術館、私も行きたいです。

あっち方面に用事が出来ると良いのですが。
 
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