2021年 私が観た展覧会 ベスト10

年末恒例の私的ベスト企画です。2021年に観た展覧会のベスト10をあげてみました。

2021年 私が観た展覧会 ベスト10

1.「マーク・マンダース ―マーク・マンダースの不在」 東京都現代美術館(3/20~6/20)



会場へ足を踏み入れた途端、かつて見たことのないような光景に驚かされるともに、痛みや苦しみを抱えては瞑想するような人物の彫刻に旋律さえ覚えるような展覧会でした。ひび割れた粘土のようなブロンズの彫刻は、あたかもポロポロと朽ち果てていく遺物のようで、時間のとまったような空間を行き来していると、いまだかつて見たことのない異次元の世界へと引き込まれていくような錯覚に囚われました。

2.「テート美術館所蔵 コンスタブル展」 三菱一号館美術館(2/20~5/30)



イギリスの風景画家、コンスタブルの実に35年ぶりの回顧展でした。初期から晩年までの油彩や水彩によって丹念に辿りながら、同時代のターナーとの関係などについても触れていて、特に「ヘレヴーツリュイスから出航するユトレヒトシティ64号」の隣に「ウォータールー橋の開通式」が並ぶ光景は壮観でした。また妻に先立たれ、親友もなくした晩年のコンスタブルは、かつてを懐かしむように絵を描いていたともされていて、後年の生き様にも共感を呼ぶものがありました。

3.「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island ―あなたの眼はわたしの島」 水戸芸術館(9/14~10/17)



身体やジェンダー、それにエコロジーをテーマにしつつ、独自の音楽と空間を構築するピピロッティ・リストの30年にわたる活動を紹介する展覧会でした。「アパートメント・インスタレーション」と呼ばれる、色彩豊かな映像と劇場的ともいえる空間構成は、時間を忘れるほどに居心地よく感じられました。その一方で直接的な性といった際どい表現も散見されて、安らぎと刺激を同時に感じるような稀有な鑑賞体験を得ることができました。

4.「曽我蕭白 奇想ここに極まれり」 愛知県美術館(10/8~11/21)



江戸中期に活躍し、奇想の絵師とも呼ばれる曾我蕭白の回顧展の決定版でした。特にハイライトを飾る「旧永島家襖絵」は44面のすべてが公開されていて、さまざまな技法を使い分けて描いた蕭白の高い画技を見ることができました。以前に千葉市美術館で開かれた「蕭白ショック!!」は蕭白の面白さが伝わるような内容でしたが、質量ともにさらに充実した今回の回顧展では絵師の凄みすら感じられました。

5.「没後30年記念 笠松紫浪―最後の新版画」 太田記念美術館(2/2~3/28)



今年いくつか開催された新版画に関する展示の中で、特に心を引かれたのが主に大正から昭和にかけて活動した笠松紫浪の回顧展でした。笠松も例えば巴水と同じく、日本各地の風景を描き続けましたが、どこか人の生活も滲み出ているようで、ドラマのワンシーンを切り取るような情緒的な味わいも感じられました。また戦後は東京タワーや横浜の大型貨物船など近代的な風景も描いているのも興味深く思えました。

6.「渡辺省亭 欧米を魅了した花鳥画」 東京藝術大学大学美術館(3/27~5/23)



明治から大正にかけて活動した日本画家、渡辺省亭の国内の美術館としては初めての回顧展でした。省亭は渡仏し、印象派の画家と交流したり、ロンドンで個展を開くなど、いち早く海外で評価されましたが、国内では画壇に属さなかったゆえか特に没後は知られてきませんでした。そうした中、現在の望みうる最上の作品にて省亭の魅力を紹介していて、特に色彩豊かでかつ繊細な表現による花鳥画に心を奪われました。

7.「加藤翼 縄張りと島」 東京オペラシティアートギャラリー(7/17~9/20)



複数の参加者との協働作業によるパフォーマンスで知られるアーティスト、加藤翼の美術館としての初個展でした。これまでに加藤が手がけた建物を引き倒したり、あるいは引き起こすパフォーマンスを映像とインスタレーションにて紹介していて、それこそ「セーノ!セーノ!」や「go!go!」といった掛け声とともにプロジェクトに参加しているようなライブ感を得ることができました。また構造物と映像とが一体となったような空間構成も面白かったかもしれません。

8.「ホー・ツーニェン 百鬼夜行」 豊田市美術館(10/23~2022/1/23)



妖怪を起点に、軍人やスパイを登場させつつ、第二次世界大戦を挟んだ日本の文化や精神史を浮かび上がらせる異色の展覧会でした。ともかく妖怪の行進から「マレーの虎」へと連なる虎の物語は衝撃的で、おおよそ想像もつかない展開に驚きを覚えながらアニメーションに見入りました。アジアでの歴史や伝承をリサーチしつつ、映像やインスタレーションにて時空を超えた物語を紡ぎ出すホー・ツーニェンは、まさに鬼才といえるのではないでしょうか。

9.「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」 東京国立近代美術館(10/26~2022/2/13)



これまでにも民藝の作品を見る機会はありましたが、今回は民藝運動そのものを体系立って紹介した「民藝の総括」とでも呼べるような展覧会でした。陶磁器、染織、木工、籠、それに民画や出版物、写真などの約400点の資料が充実していたのはもちろんのこと、民藝と社会との関係や柳を中心とした民藝に携わった人々の活動をさまざまな観点から掘り起こしていて、「民藝とは何だったのか?」ということの一端を知ることができました。

10.「生誕260年記念企画 特別展『北斎づくし』」 東京ミッドタウン・ホール(7/22~9/17)



「北斎漫画」、「冨嶽三十六景」、そして「富嶽百景」の全点、及び全図を公開するという過去になかった異色の北斎展でした。また通常、見開きのみで展示される機会の多い「北斎漫画」についても883もの全てのページを閲覧できて、もはや1人の絵師が生み出したとは思えないほど膨大な北斎の創造力に感じいるものがありました。また建築家の田根剛の空間構成をはじめ、祖父江慎のグラフィックデザイン、橋本麻里の監修による音声ガイド、さらに充実したミュージアムショップなど、1つのパッケージとしての展覧会の完成度には目を見張るものがありました。

次点.「柚木沙弥郎 life・LIFE」 PLAY! MUSEUM(11/20〜2022/1/30)



ベスト10以外で特に印象に残った展覧会は以下の通りです。(順不同)

・「奥村土牛 ―山﨑種二が愛した日本画の巨匠 第2弾―」 山種美術館(11/13~2022/1/23)
・「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×森村泰昌 M式「海の幸」―森村泰昌 ワタシガタリの神話」 アーティゾン美術館(10/2~2022/1/10)
・「鈴木其一・夏秋渓流図屏風」 根津美術館(11/3~12/19)
・「戸谷成雄 森―湖:再生と記憶」 市原湖畔美術館(10/16~2022/1/16)
・「木組 分解してみました」 国立科学博物館(10/13~11/24)
・「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない! 人生絵日記」 世田谷美術館(9/4~11/7)
・「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」 SOMPO美術館(10/2~12/26)
・「福田美蘭展 千葉市美コレクション遊覧」 千葉市美術館(10/2~12/19)
・「山城知佳子 リフレーミング」 東京都写真美術館(8/17~10/10)
・「杉浦非水 時代をひらくデザイン」 たばこと塩の博物館(9/11~11/14)
・「写真芸術展 CHIBA FOTO」 千葉市内13会場(8/21~9/12)
・「イサム・ノグチ 発見の道」 東京都美術館(4/24~8/29)
・「GENKYO 横尾忠則  原郷から幻境へ、そして現況は?」 東京都現代美術館(7/17~10/17)
・「Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる」 東京都美術館(7/22~10/9)
・「イラストレーター 安西水丸展」 世田谷文学館(4/24~9/20)
・「包む-日本の伝統パッケージ」 目黒区美術館(7/13~9/5)
・「開館60周年記念展 ざわつく日本美術」 サントリー美術館(7/14~8/29)
・「国宝 鳥獣戯画のすべて」 東京国立博物館(4/13~5/30)
・「大・タイガー立石展 POP-ARTの魔術師」 千葉市美術館(4/10~7/4)
・「膠を旅する——表現をつなぐ文化の源流」 武蔵野美術大学美術館(5/12〜6/20)
・「電線絵画展-小林清親から山口晃まで-」 練馬区立美術館(2/28~4/18)
・「佐藤可士和展」 国立新美術館(2/3~5/10)
・「あやしい絵展」 東京国立近代美術館(3/23~5/16)
・「モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」 SOMPO美術館(3/23~6/6)
・「筆魂 線の引力・色の魔力ー又兵衛から北斎・国芳まで」 すみだ北斎美術館(2/9~4/4)
・「小村雪岱スタイル-江戸の粋から東京モダンへ」 三井記念美術館(2021/2/6~4/18)
・「写真家ドアノー/音楽/パリ」 Bunkamura ザ・ミュージアム(2/5~3/31)
・「千葉正也個展」 東京オペラシティ アートギャラリー(1/16~3/21)
・「冨安由真展|漂泊する幻影」 KAAT神奈川芸術劇場(1/14~1/31) 
・「米谷健+ジュリア展 だから私は救われたい」 角川武蔵野ミュージアム(11/6~2021/3/7)
・「フランシス・ベーコン バリー・ジュール・コレクションによる」 神奈川県立近代美術館 葉山(1/9~4/11)

今年も昨年と同様、コロナ禍に振り回される一年となりました。年の初めに一都三県へ飲食店の時短営業を中心とした緊急事態宣言が発出され、一度、3月末に解除されました。しかし4月に入り今度は休業要請の伴う緊急事態宣言が出されると、都内を中心とした美術館や博物館が臨時休館に追い込まれました。それにより国立新美術館の「佐藤可士和」展や府中市美術館の「与謝蕪村 『ぎこちない』を芸術にした画家」、さらに三菱一号館美術館の「コンスタブル展」など、いくつもの展覧会が会期途中で打ち切りとなりました。また水戸芸術館の「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island ―あなたの眼はわたしの島」など、開幕が延期され、実質的に会期が短くなった展覧会もありました。

新型コロナウイルスへの対応に伴う「美術館・博物館」休館情報 第十報(2021年1月9日)、第十一報(3月25日)、第十二報(4月26日)、第十三報(5月13日)、第十四報(6月1日)

そして現在、国内においては一時期よりも感染状況は落ち着いていますが、諸外国に目を転じると新たな変異株によって急速な感染拡大が続くなど、いまだ収束が見通せない状況に置かれています。世界的なコロナ禍から約2年経ちました。

皆さまは今年一年、どのような美術との出会いがありましたでしょうか。このエントリをもちまして年内のブログの更新を終わります。今年も「はろるど」とお付き合い下さりどうもありがとうございました。それではどうぞ良いお年をお迎え下さい。

*過去の展覧会ベスト10
2020年2019年2018年2017年2016年2015年2014年2013年2012年2011年2010年2009年2008年2007年2006年2005年2004年その2。2003年も含む。)
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