『シャネルを紡ぐ手 アンヌ ドゥ ヴァンディエール展』 シャネル・ネクサス・ホール

シャネル・ネクサス・ホール
『シャネルを紡ぐ手 アンヌ ドゥ ヴァンディエール展』 
2022/8/31~10/2



シャネル・ネクサス・ホールで開催中の『シャネルを紡ぐ手 アンヌ ドゥ ヴァンディエール展』を見てきました。

1980年代よりジャーナリストとして活動をはじめた写真家のアンヌ ドゥ ヴァンディエールは、手をテーマとした「H/and」シリーズを発表すると、以来ポートレイトを取り続け、世界各地の美術館などで作品を発表してきました。

そのアンヌ ドゥ ヴァンディエールの活動を紹介するのが『シャネルを紡ぐ手』とで、会場にはアンヌの撮り下ろした大小さまざまなモノクロームの作品が展示されていました。

今回の個展に際してアンヌが取材したのは、パリにあるシャネルのオートクチュールのアトリエ、およびそのクリエイションを支えるメティエダールの13のアトリエで、いずれも職人の手にフォーカスとして撮影を行いました。



そのうちのマサロとは1894年創業の靴のアトリエで、シャネルのシューズを職人らがすべて手作業にて製作してきました。



絹織物のアトリエのドゥニ&フィスでは、リヨンの絹織物の伝統を守りつつ、革新的な技術を取り入れながら、さまざまなシルク生地を生産していて、アーカイブとして17500もの図案が保管されてきました。



一方で1829年創業のコスチュームジュエリーのアトリエであるデリュは、手作業を基本としながらも、3Dプリンターを用いた技術を取り入れていて、職人らが繊細な手仕事をする光景を目の当たりに出来ました。



また職人たちが自らの手について語るコメントも付いていて、例えば水の中で手を動かす必要性やケアが大切であることなど、仕事を行う上でのエピソードも伺い知れました。



こうした職人らの手仕事はほとんど公開されていなかったことからしても、貴重な写真といえるのではないでしょうか。まさにシャネルを支える職人らのモノづくりの真髄が臨場感をもって切り取られていました。



会期中は無休です。10月2日まで開催されています。

『シャネルを紡ぐ手 アンヌ ドゥ ヴァンディエール展』 シャネル・ネクサス・ホール
会期:2022年8月31日(水)~10月2日(日)
休廊:会期中無休。
料金:無料。
時間:11:00~19:00。 
 *最終入場は18:30まで。
住所:中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A13出口より徒歩1分。東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅5番出口より徒歩1分。
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『新版画 進化系UKIYO-Eの美』 千葉市美術館

千葉市美術館
『新版画 進化系UKIYO-Eの美』
2022/9/14~11/3



千葉市美術館にて開催中の『新版画 進化系UKIYO-Eの美』を見てきました。

主に大正から昭和にかけて制作された新版画は、海外でも人気を集め、複数の版元が参入しては多くの作品が生み出されました。

その新版画の系譜をたどるのが『新版画 進化系UKIYO-Eの美』で、新版画の成立から発展期までの約190点に加え、明治末期に木版画を制作したヘレン・ハイドとバーサ・ラムの約50点の作品が展示されていました。

まずプロローグでは「新版画誕生の背景」と題し、新版画へと連なる木版画が紹介されていて、中でも当時の輸出向けとして人気を呼んだ小原古邨の作品に魅せられました。古邨は近年に茅ヶ崎市美術館や太田記念美術館にて展覧会が開かれるなど、愛好家からの注目を集めてきました。

新版画をおこしたのは版元の渡邉庄三郎で、従来の浮世絵の伝統的な摺りや彫りに、同時代の画家による下絵をあわせた新たな表現を目指しました。それに応えたのが橋口五葉や伊東深水といった画家で、五葉は『浴場の女』の一作で渡邉から離れるものの、のちも深水は多くの絵を描きました。


左:川瀬巴水『東京十二ヶ月 三十間堀の暮雪』 大正9年(1920) 右:川瀬巴水『東京十二ヶ月 谷中の夕映』 大正10年(1921)

一連の新版画の中でも特に名を馳せたのが、海外でも北斎、広重と並ぶ「3H」として高く評価された川瀬巴水でした。そして展示でも「旅みやげ第一集」や「旅みやげ第二集」といった風景画の名作が並んでいて、同じく渡邉とともに新版画を手がけた伊東深水の「新美人十二姿」や山村耕花の「梨園の華」の連作など一緒に楽しむことができました。


吉田博『光る海 瀬戸内海集』 大正15年(1926)

渡邉以外の版元の作品や私家版の作品も見どころといえるかもしれません。それらは時に渡邉版とは大きく作風を変えていて、一口に新版画といえども多様な作品があることが分かりました。また鳥居言人や伊藤孝之、三木翠山といった、必ずしもよく知られているとは言えない画家にも魅力的な作品が少なくありませんでした。


小早川清『近代時世粧ノ内六口紅』 昭和6年(1931)

私家版では橋口五葉や吉田博と並んで、当時のモダンガールと呼ばれる女性を描いた小早川清の作品も目立っていました。


小早川清『近代時世粧ノ内 一 ほろ酔ひ』 昭和5年(1930)

そのうちの女性風俗を描いた連作の「近代時世粧」の『ほろ酔い』では、肌をあらわにした女性がタバコを手にしながら、どこか艶っぽい眼差しで笑みを浮かべていました。かつての浮世絵も当時の風俗を生き生きと描き出しましたが、小早川の作品もまた鮮やかに「現代」を切り取ったといえるかもしれません。

イロハニアートへも展示の内容について寄稿しました。

新版画進化系UKIYO-Eの美展の見どころは?千葉市美術館で開催中! | イロハニアート

なお展示は昨年から東京、大阪、山口を巡回したもので、ここ千葉市美術館が最後の開催地となります。


ヘレン・ハイド『入浴』 明治38年(1905)

作品数は特集展示を含めると実に240点にも及んでいて、質量ともに圧倒的ともいえる内容でした。まさに新版画展の決定版と呼んで差し支えありません。

展示替えはありません。すべての作品が全会期中にて公開されます。


一部の作品の撮影が可能です。11月3日まで開催されています。おすすめします。

『新版画 進化系UKIYO-Eの美』 千葉市美術館@ccma_jp
会期:2022年9月14日(水)~11月3日(木・祝)
休館日:10月3日(月)*休室日:10月11日(火)。
時間:10:00~18:00。
 *入場受付は閉館の30分前まで
 *毎週金・土曜は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は前売り、市内在住の65歳以上の料金。
 *常設展示室「千葉市美術館コレクション選」も観覧可。
 *ナイトミュージアム割引:金・土曜日の18時以降は共通チケットが半額
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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『石井光智 電車の顔』 市川市芳澤ガーデンギャラリー

市川市芳澤ガーデンギャラリー
『石井光智 電車の顔』 
2022/9/9〜10/16



市川市芳澤ガーデンギャラリーで開催中の『石井光智 電車の顔』を見てきました。

イラストレーターの石井光智は、主に鉄道のイラストで知られ、図鑑や雑誌などの書籍に掲載されるなどして活動してきました。



その石井の作品を紹介するのが『石井光智 電車の顔』で、会場には電車のイラストのほか、鉛筆の下書きや映像などが公開されていました。



まず目を引くのが「電車の顔」、つまり電車の先頭車両を真正面から描いた作品で、JRや私鉄、また普通電車や特急を問わずに多様な電車が表されていました。



一連のイラストで魅力的なのは、運転台に映り込む景色やライトの光、また車両そのもの微妙な陰影までを細かく描きこんでいることで、それが作品に独特のメタリックともいえる味わいを生み出していました。その美しいすがたは、ピカピカに磨かれた鉄道車両と言っても良いかもしれません。



かつての東武鉄道のりょうもうやけごんといった懐かしい電車も少なくない中、石井が最も好きな車両とする旧営団地下鉄丸ノ内線の500形のイラストも目立っていました。



このほか同じく好きという小田急9000形といった通勤型車両のイラストも多く展示されていて、いずれも貫通扉やヘッドライト、それに連結器などが精緻に描かれていました。



石井は電車の顔を制作するに際して、快晴で正午頃の太陽光のもとでの車両と設定していて、それにより陰影のはっきりとした立体感や質感を出すことができるとしています。



その観点からも意外にも描くのが難しいとするのが新幹線で、とりわけ形状が複雑でかつ色も難しいE5系については苦労したとコメントしていました。



このほか「157系ができるまで」や映像の「電車の顔ができるまで」といった、イラストの制作プロセスを紹介する展示も興味深いのではないでしょうか。

また市川市に本社を構える京成電鉄から「旧博物館動物園駅の設計図」やヘッドマークなどの資料も出品されていて、鉄道好きはもちろん、ファミリーでも楽しめるように工夫されていました。



会場の芳澤ガーデンギャラリーの駐輪場にハローサイクリングのステーションが完成しました。同ギャラリーへは市川駅から歩いて15分以上かかりますが、同駅北口の図書館横のステーションよりシェアサイクルにて行き来することも可能です。



予約は不要ですが、新型コロナ対策のため入館時に連絡先などを記入する必要がありました。



一部展示室を除き撮影も可能です。10月16日まで開催されています。

『石井光智 電車の顔』 市川市芳澤ガーデンギャラリー
会期:2022年9月9日(金) 〜10月16日(日)
休館:月曜日。但し9月19日・10月10日(月・祝)は開館し、9月20日・10月11日(火)は休館。
時間:9:30~16:30
 *最終入館は16時まで。
料金:一般200円、中学生以下無料。
住所:千葉県市川市真間5-1-18
交通:JR線市川駅より徒歩16分、京成線市川真間駅より徒歩12分。
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『高橋大輔個展 絵画をやるーひるがえって明るい』 ANOMALY

ANOMALY
『高橋大輔個展 絵画をやるーひるがえって明るい』
2022/9/10〜10/8

(*)

ANOMALYで開催中の『高橋大輔個展 絵画をやるーひるがえって明るい』を見てきました。

1980年に埼玉県で生まれた画家の高橋大輔は、絵具を厚く盛った厚塗りの抽象絵画で知られ、「絵画の在りか」(東京オペラシティアートギャラリー、2014年)といった国内のグループ展に参加するなどして活動してきました。

その高橋の近作と最新作によるのが『高橋大輔個展 絵画をやるーひるがえって明るい』で、会場には油彩による30点の絵画が展示されていました。


『無題』 2022年

まず目を引くのは、比較的サイズの小さな数点の絵画で、何らかのかたちこそ見え隠れするものの、具体的なモチーフは示されていませんでした。


「外壁」シリーズ

この一連の絵画は「外壁」シリーズと呼ばれていて、高橋が日頃の生活で目にするという近所の建物の外壁の色を抽出して描いたものでした。そしていずれも明るい色彩による絵具が塗られているものの、決して厚塗りではありませんでした。


右:『Toy(キリン)』 2021年

こうした外壁シリーズと同様、かつての厚塗りの絵画とは大きく異なって見えたのが、「Toy」と題した動物をモチーフとしたシリーズでした。ここでも明るい色彩と素早いタッチによって動物が描かれていて、明らかに具象的なイメージが立ち上がっていました。

今回の個展でとりわけ鮮烈な印象を与えたのは、自動筆記によるドローイングを契機に生み出されたという「白昼夢」と呼ばれるシリーズでした。


『白昼夢 #4』 2022年

中でも『白昼夢#4』は縄文から令和への時代や年号の漢字のみを一面に描いていて、それぞれの文字はどこか記号を示すように連なっていました。


『Toy(キリン)』(部分) 2021年

一見するところ、いずれのシリーズもかつての厚塗りの絵画とは大きく異なっているようでしたが、下地の色やストロークの痕跡、また色が滲むようなタッチなど絵具に対するこだわりとも言える表現も垣間見ることができました。


『無題/One Yen Coin』 2021年

身近なモチーフを描くようになった高橋の新たな方向性の示された展覧会だったかもしれません。その清新でかつむしろ大胆な表現に心を引かれました。


厚塗りの抽象絵画から新たな境地へ!画家、高橋大輔の個展がANOMALYで開催中|Pen Online

10月8日まで開催されています。*は『Toy(虎)』 2021年

『高橋大輔個展 絵画をやるーひるがえって明るい』 ANOMALY
会期:2022年9月10日(土)〜10月8日(土)
休廊:日、月、祝祭日。
時間:12:00~18:00。
料金:無料
住所:品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex 4F
交通:東京臨海高速鉄道りんかい線天王洲アイル駅B出口より徒歩約8分。東京モノレール羽田空港線天王洲アイル駅中央口より徒歩約11分。京浜急行線新馬場駅より徒歩12分。
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『フィン・ユールとデンマークの椅子』 東京都美術館

東京都美術館
『フィン・ユールとデンマークの椅子』
2022/7/23~10/9



1912年にデンマークで生まれたフィン・ユールは、25歳にして家具職人組合の展示会に初出品を果たすと、戦後はアメリカへと活動を広げ、家具デザインだけでなく、建築家としても幅広く活躍しました。

そのフィン・ユールとデンマークの家具デザインの変遷をたどるのが『フィン・ユールとデンマークの椅子』展で、会場には国内外の美術館、および個人蔵による椅子を中心としたさまざまな作品が展示されていました。



まず前半は「デンマークの椅子」と題し、デンマークデザインのはじまりからコーア・クリント、さらに多くのデザイナーによる椅子が並んでいて、一部は撮影することも可能でした。



クリントに学んだアクセル・ベンダー・マドセンとアイナー・ラーセンによる『メトロポリタンチェア』は、革張りの大きな背がカーブを描くのが特徴的で、メトロポリタン美術館が購入したことからこのように名付けられました。



グレーテ・ヤルクの『ブライウッドチェア』は、折り紙で作られたようなユニークなかたちをしていて、シンプルながらも軽快な印象を与えていました。



こうした椅子に続くのが後半の「フィン・ユールの世界」で、フィン・ユールの業績をたどりながら、「彫刻のような椅子」とも評される椅子の造形などが紹介されていました。



『イージー・チェア No.45』は、フィン・ユールの代表作として知られる作品で、とりわけゆるやかな曲線を描く肘掛けが魅力的に思えました。どことなくシートが浮かんでいるような軽やかさも特徴といえるかもしれません。



フィン・ユールが建てた自邸についての展示も見どころだったのではないでしょうか。1942年、父の死によって得た遺産を元に自邸を建設したフィン・ユールは、かつてはオフィスを別に設けていたものの、1966年以降は仕事場兼住居として生涯に渡り住み続けました。



一連のフィン・ユールに関する資料で特に魅力的だったのは、彼の描いた展示会のための平面図や立体図でした。いずれも極めて精細に室内空間を表していて、複製ながらも色合いのニュアンスなどに心を引かれました。



ラストのコーナーでは「デンマーク・デザインを体験する」と題し、デンマークのデザイナーらの手がけた椅子へ実際に座ることができました。



各デザイナーの創意工夫の凝らされた椅子に触れながら、座り心地を試すのも面白いかもしれません。



会期も残すところ1ヶ月を切りましたが、会場内は思いの外に盛況でした。また同時開催中の特別展「ボストン美術館展 芸術×力」のチケットを提示すると観覧料が300円引きとなります。(1名1回限り)


10月9日まで開催されています。

『フィン・ユールとデンマークの椅子』 東京都美術館@tobikan_jp
会期:2022年7月23日(土)~10月9日(日)
時間:9:30~17:30
 *毎週金曜日は20時まで開館
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。ただし8月22日(月)、29日(月)、9月12日(月)、19日(月・祝)、26日(月)は開館。9月20日(火)。
料金:一般1100円、大学生・専門学校生700円、65歳以上800円、高校生以下無料。
 ※オンラインでの日時指定予約制。
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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『シアトル→パリ 田中保とその時代』 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
『シアトル→パリ 田中保とその時代』
2022/7/16~10/2



埼玉県立近代美術館で開催中の『シアトル→パリ 田中保とその時代』を見てきました。

埼玉県の岩槻に生まれた田中保(1886〜1941年)は、18歳にてシアトルへ渡ると画家としての地位を築き、パリへと移り住んで生涯を過ごしました。

その田中の画業をたどるのが『シアトル→パリ 田中保とその時代』で、田中の絵画とパリで同時代に活動した画家の作品、約100点が公開されていました。


田中保『自画像』 1915年頃

はじまりは画家を志した初期の作品が並んでいて、自ら絵筆を持ちながらポーズを構えるすがたを木炭で描いた『自画像』が印象に残りました。


左から田中保『キュピストA』、『キュピストB』 ともに1915年

シアトルへ移った田中は、裸婦像や風景画などを手がけていて、一時は前衛美術の関心から『キュピストA』などに見られるような抽象絵画的な作品を描きました。そして1915年にはパナマ・パシフィック万博 に出品すると、1917年には美術批評家のルイーズ・ゲブハード・カンと国籍の違いを越えて結婚しました。

1920年、ルイーズとともにパリへと移住した田中は、個展を開いたり、サロンへ出展するなどして活動し、画家としての名声を高めました。


田中保『黄色のドレス』 1925〜30年

この頃の田中の作品で目立つのは比較的サイズの大きな肖像画で、『黄色のドレス』では黄色いドレスに身をまとい、大きな椅子に腰掛けた女性をやや厚塗りのタッチにて描いていました。


田中保『窓辺の婦人』 1925〜30年

また『窓辺の婦人』は、海を望む窓辺にて、花柄のドレスを着た女性がソファに腰掛けつつ、本を持つすがたを描いていて、背後には花の飾られた花瓶とともに日本を思わせるような屏風が置かれていました。


田中保『花』 1926年頃

パリで画家として地位を確立した田中は、日本での成功を志すも、日本人美術家との間にあった溝は埋まることがなく、日本の画壇にも受け入れられることはありませんでした。


田中保『黒いドレスの腰かけている女』 1925〜30年

結果的に日本へと渡ることのなかった田中は、一連の肖像画はもとより、フランス各地の風景や装飾美術への関心を伺わせる作品を描き続けていて、1941年に同国にて生涯を閉じました。


田中保『水辺の裸婦』 1920〜25年

『水辺の裸婦』や『泉のほとりの裸婦』といった、裸婦をモチーフとした作品も魅力的といえるのではないでしょうか。いずれも裸婦が水辺などにて寛いだりする光景を濃厚なタッチにて描いていて、どこか官能的であるとともに、リアルな風景というよりも神話の中の世界を覗き込むような雰囲気も感じられました。


田中保『泉のほとりの裸婦』 1920〜30年

一連の絵画とともに、新出の書簡や入国記録といった資料も公開されていて、知られざる田中の足跡を丹念に追いかけていました。埼玉県立近代美術館での田中の回顧展は実に25年ぶりのこととなります。


10月2日まで開催されています。おすすめします。*一部の作品の撮影が可能でした。

『シアトル→パリ 田中保とその時代』 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:2022年7月16日(土) ~10月2日(日)
休館:月曜日。(7月18日、8月15日、9月19日は開館)
時間:10:00~17:30 
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般900(720)円 、大高生720(580)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクション(常設展)も観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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世界遺産の町、岩手・平泉を半日でめぐる旅~毛越寺と中尊寺~

奥州藤原氏が3代にわたって拠点を構えた平泉には、中尊寺や毛越寺などの古刹が点在し、2011年には「仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」として世界遺産にも登録されました。



仙台のホテルをチェックアウトすると、朝9時に仙台駅を出発する東日本急行の高速バスに乗って、平泉へ行くことにしました。同社の高速バスは、朝と昼過ぎから夕方にかけて計4便、仙台と平泉間を運行していて、所要時間は片道1時間50分ほどでした。



一ノ関を経由し、定刻通りの11時前に平泉へ着くと、少し早めの昼食を取ることにしました。ちょうど駅前にあるそば屋の芭蕉館へ入ると、ランチタイム前だったからか人はまばらで、名物の盛り出し式わんこそばを注文しました。



薬味とわんこそば2段のセットで、さらにサービスの1段の36杯をいただくと、さすがにお腹もいっぱいになりました。



まず平泉で目指したのは、平安時代の浄土世界を今に伝える毛越寺でした。同寺は奥州藤原氏2代基衡と3代秀衡の時代に多くの伽藍が造営され、往時は中尊寺さえしのぐほどの規模を誇ったものの、奥州藤原氏滅亡後は荒廃し、すべての建物が失われました。



しかしながら現在、大泉が池を中心とする浄土庭園と伽藍遺構が残されていて、国の特別史跡と特別名勝の指定を受けています。



その広大な池泉には島が2島、さらに南側に出島などが築かれ、大きい中島の正面には金堂の跡が残されていました。



また随所に山水の景観も築かれていて、平安時代の曲水の宴の舞台ともなり、同時代では唯一の遺構とされる遣水も見ることができました。ともかく想像以上に広大で、この地にていかに奥州藤原氏が力を持っていたのかを肌で感じることができました。



一通り、毛越寺を見学したのちは、平泉でも特に有名な中尊寺へと向いました。毛越寺から中尊寺へは道なりで約1.5キロほどあり、歩くこともできますが、たまたまやってきた巡回バス「るんるん」に乗車することにしました。

平泉駅や毛越寺、中尊寺や道の駅などを巡るバス「るんるん」は、冬季を除く土日のみに運行されていて、中尊寺へは平泉文化遺産センターを経由して僅か5分ほどでした。



バスで中尊寺へ着くと、土産物店が連なる駐車場にはたくさんの車が停まっていて、大勢の人々がやって来ていました。



850年に比叡山延暦寺の僧、円仁によって開かれた中尊寺は、12世紀に奥州藤原氏の初代清衡が前九年・後三年の合戦によって亡くなった人を供養するため、大規模な伽藍を造営しました。その後、14世紀に多くの堂塔が焼失するも、金色堂をはじめとする実に3000点余りもの国宝や重要文化財といった寺宝が残されました。



弁慶堂や物見台などのある月見坂を進み、地蔵堂をすぎると右手に見えてくるのが本堂でした。中尊寺は標高130メートルほどの丘陵に堂塔が点在するため、表参道でもある長い坂道をあがる必要があります。中尊寺は本寺と17ヶ院の子院からなる一山寺院で、中心となるのが明治42年に再建された本堂でした。



そして本堂から不動堂、大日堂などの並ぶ参道を進むと左手に見えてくるのが、いわゆる宝物館である讃衡蔵と創建当初のすがたを唯一今に伝える金色堂でした。



讃衡蔵には平安時代の諸仏、国宝の中尊寺経、そして奥州藤原氏の副葬品などが納められていて、その一部を仏像を中心に見学することができました。



阿弥陀堂である金色堂は、極楽浄土を表すべく内外に金箔が押されていて、一面に極めて精緻な蒔絵や螺鈿が施されていました。まさに眩いばかりの輝きに目を奪われましたが、奥州藤原氏の遺体や首級の安置された霊廟であることを鑑みると、どこか寂しい気持ちにもさせられました。



この金色堂を見学したのちは、かつて同堂を守っていた旧覆堂や能楽堂などを歩き、再び参道へと戻って丘を降りることにしました。

平泉レストハウスのお土産店へ立ち寄り、少し休憩していると、帰りのバスまでにまだ時間があることに気づきました。



そこで中尊寺通りから駅の方向へ歩くことにすると、しばらくして右手に水をたたえた広い池のある場所へとたどり着きました。それが三代秀衡が平等院を模して建立したという寺院の跡地、無量光院跡でした。



この無量光院跡から左手に折れ、北上川の方へと歩くと開けてくるのが、清衡、基衡の屋敷跡とも伝わる柳之御所遺跡で、その向かいに平泉世界遺産ガイダンスセンターが建っていました。



昨年11月に開館したばかり平泉世界遺産ガイダンスセンターとは、世界遺産平泉の文化をパネルや資料などを交えて紹介する施設で、平泉の歴史と奥州藤原氏の関係や足跡などを学ぶことができました。



こうした平泉に関する常設展示とは別に、企画展示室では遠野と平泉のつながりを紹介する「遠野と平泉 ―新発見!平泉時代の遺跡を探る―」も行われていました。(9月11日終了)いずれも観覧無料ながらもかなり充実していたのではないでしょうか。



ガイダンスセンターのすぐ横の道の駅に立ち寄ったあとは、中尊寺駅へ向かい、偶然見つけた駅前のカフェSATOで美味しいコーヒーとロールケーキをいただき、高速バスにて仙台へと戻りました。



平泉へ行ったのはおそらく中学生以来のことだったかもしれません。この日は毛越寺や中尊寺を中心としたルートだったため、少し離れた達谷窟や名勝の厳美渓や猊鼻渓までは行くことができませんでした。また次に旅する際は、足を伸ばして巡りたいと思いました。

毛越寺
拝観時間:8:30~17:00 *11月5日~3月4日は16:30まで
拝観料:大人700円、高校生400円、小・中学生200円。
住所:岩手県西磐井郡平泉町平泉字大沢58
交通:JR線平泉駅より徒歩10分。平泉町巡回バス『るんるん』(土日のみ運行。冬季運休)毛越寺バス停。

中尊寺
拝観時間:8:30~17:00 *11月4日~2月末日は16:30まで
拝観料:大人800円、高校生500円、中学生300円、小学生200円。
 *讃衡蔵・金色堂・経蔵・旧覆堂の拝観
住所:岩手県西磐井郡平泉町平泉衣関202
交通:JR線平泉駅より徒歩20分。平泉町巡回バス『るんるん』(土日のみ運行。冬季運休)中尊寺バス停。

平泉世界遺産ガイダンスセンター
開館時間:9:00~17:30(4月~10月)、9:00~16:30(11月~3月)
 *最終入館は閉館の30分前まで
休館日:毎月末日、年末年始、資料整理日
料金:無料
住所:岩手県西磐井郡平泉町平泉字伽羅楽108-1
交通:JR線平泉駅から徒歩12分。平泉町巡回バス『るんるん』(土日のみ運行。冬季運休)道の駅平泉バス停。
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渋谷区立松濤美術館にて『装いの力―異性装の日本史』が開催されています

日本において男性が女装したり、女性が男装する異性装の文化をたどる展覧会が、渋谷区立松濤美術館にて開かれています。



その『装いの力―異性装の日本史』についてPenオンラインに寄稿しました。

女装はいつから始まったのか?『装いの力―異性装の日本史』で考える多様な性の未来|Pen Online

この展覧会では古事記にまでさかのぼる異性装の歴史について追いかけていて、中世王朝物語や能といった芸能、そして女武者や江戸の若衆、さらに歌舞伎などにおける異性装の諸相を、絵巻や装束、また浮世絵などを通して見ることができました。

キリスト教といった教義上の理由からタブーだった西洋とは異なり、日本では芸能を中心に異性装の文化が根付いていて、江戸時代では祭礼でも男装の女芸者などが現れるなど、比較的身近な場においても許容されていました。



そうした異性装の文化に大きな転機が訪れたのが明治時代のことで、異性装は西洋諸国に対して恥ずべき風俗として位置付けられるようになりました。

そして現在の軽犯罪法にあたる違式詿違条例(いしきかいいじょうれい)が制定されると、歌舞伎などを除き異性装は禁止の対象となり、実際に違反者が摘発されるなど大きな影響を与えました。

同条例は8年間にて廃止されるものの、異性装を忌避する感情が次第に一般化していきました。ただそれでも少女歌劇の男役など芸能による異性装の習慣が続きました。

*館内の撮影コーナー

今回の展示で興味深いのは現代における異性装についても触れていることで、漫画や映画だけでなく、ダムタイプや森村泰昌などの現代アートなども紹介されていました。ラストにはDIAMONDS ARE FOREVERのメンバーによるドラァグクイーンたちを描いたインスタレーションも楽しかったかもしれません。


一連の作品と資料は実に150点近くにも及んでいて、あまり知られているとは言い難い日本の異性装の諸相について丹念に掘り下げていました。またジェンダーの問題も踏まえ、未来の異性装のあり方についても考えさせられるような内容と言えるかもしれません。

最後に展示替えの情報です。前後期、及び前期、後期の各会期にて一部の作品が入れ替わります。詳しくは作品リストをご覧ください。

『装いの力―異性装の日本史』作品リスト(PDF)
前期:9月3日(土)~10月2日(日)
A期間:9月3日(土)~9月19日(月・祝)/B期間:9月21日(水)~10月2日(日)
後期:10月4日(火)~10月30日(日)
C期間:10月4日(火)~10月16日(日)/D期間:10月18日(火)~10月30日(日)

巡回はありません。10月30日まで開催されています。

『装いの力―異性装の日本史』 渋谷区立松濤美術館@shoto_museum
会期:2022年9月3日(土)~10月30日(日)
 *前期:9月3日(土)~10月2日(日) 、後期:10月4日(火)~10月30日(日)
休館:月曜日。但し9月19日、10月10日は除く。9月20日、10月11日。
時間:10:00~18:00 
 *毎週金曜日は20時まで開館
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学生800(640)円、高校生・60歳以上500(400)円、小中学生100(80)円。
 *( )内は渋谷区民の入館料。
 *渋谷区民は毎週金曜日が無料。
 *土・日曜、祝日は小中学生が無料。
場所:渋谷区松濤2-14-14
交通:京王井の頭線神泉駅から徒歩5分。JR線・東急東横線・東京メトロ銀座線、半蔵門線渋谷駅より徒歩15分。
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『リボーンアートフェスティバル 2021-22』 宮城県石巻市街地・牡鹿半島

東日本大震災の復興支援を機に構想され、2017年にスタートした『リボーンアートフェスティバル』の2021-22年度の後期展示が、宮城県の石巻市街地や牡鹿半島にて開催されています。



今回の『リボーンアートフェスティバル 2021-22』の主な会場は、石巻中心市街地、復興祈念公園周辺、渡波、桃浦・萩浜、および鮎川の5つで、各エリアにて常設作品に加えて新作が展示されていました。



まず石巻中心市街地では、旧鮮魚店や古い納屋、また銭湯やサウナの跡などにて展示が行われていて、旧つるの湯では笹岡由梨子が映像インスタレーションの『パンジー』を公開していました。石巻の人々への応援歌とされる合唱も楽しいかもしれません。



この中心市街地のインフォメーションがある旧観慶丸商店では、アーティストの川俣正が石巻タワーのプロジェクトの資料展とサンパウロビエンナーレへ出展した初期作品の模型などを公開していて、映像などと合わせて楽しむことができました。



1930年に石巻で初めての百貨店として建てられた旧観慶丸商店は、東日本大震災にて被害を受けたものの、災害復旧工事を経て、2017年に文化活動拠点施設として開館しました。



かつて震災の記録展示を行ってきた旧情報交流館では、有馬かおるが残された資料を活かした展示を行っていて、写真やドローイングなどを見ることができました。



復興の歩みをまとめた年表や震災の写真などを展示してきた旧交流館は、7年に渡って石巻市の復興・復旧事業やまちづくり情報を発信してきたものの、2022年の3月に閉館しました。



これに続く復興祈念公園エリアでは、公園北側のさわひらき、加藤泉、風間サチコらの展示が充実していて、そのうちのさわひらきは日本製紙旧社宅の建物を用い、独自のイマジネーションに満ちたインスタレーションを公開していました。



一方の復興祈念公園の中では、弓指寛治がこころの森ガーデンカフェとみやぎ東日本大震災津波伝承館を舞台に作品を制作していて、伝承館ではガラス張りの壁へ公園の未来を想像した景色を描きました。



弓指は祈念公園にて続く植樹にも参加していて、いずれ樹木で覆われる公園を絵画に表現しました。



この公園に近い南浜マリーナ隣の空き地に建てられた、川俣正の石巻タワーも見どころといえるかもしれません。高さは7.5メートル、らせん状のスロープを内部に備えていて、実際に登ることも可能でした。また日没後は太陽光発電により、街へと向かって明かりを灯すとのことでした。



またタワー横の硬く整地された土地を耕し、約40種類もの野菜を植えて畑を築いた保良雄も、未来へと生命を育もうとする取り組みとして興味深く思えました。



石巻中心市街地を離れ、2駅先に位置する渡波地区では、旧水産加工場を舞台に小谷元彦と保良雄が展示を行っていました。



そのうちの小谷は『リボーンアートフェスティバル 2021-22』のキービジュアルである『サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)』を公開していて、サーフボードに乗りながら両手を広げて立つ天使のすがたを目の当たりにできました。



牡鹿半島の中の桃浦・荻浜エリアでは、『リボーンアートフェスティバル 2021-22』にて最も有名な作品と呼んで良い名和晃平の『White Deer』が海を背にして立っていて、神々しいまでの美しい光景に心を引かれました。



このほか、市街地エリアのプレナミヤギにおける渡邊慎二郎の映像インスタレーションも面白いかもしれません。今回は時間とスケジュールの都合上、雨宮庸介や目、それに鮎川エリアの作品を見ることができませんでしたが、それでも石巻の街や自然を取り込んだ展示に見入るものがありました。



WEBメディアイロハニアートにも『リボーンアートフェスティバル 2021-22』の様子について寄稿しました。

リボーンアートフェスティバル 2021-22の見どころを徹底レポート!エリアごとに紹介 | イロハニアート



ブログの内容と一部重なりますが、鮎川を除く4つのエリアより新作を中心に見どころを紹介しました。これからお出かけの際の参考にしていただければ嬉しいです。


『リボーンアートフェスティバル 2021-22』は10月2日まで開催されています。※写真はプレスツアー時に撮影しました。

『リボーンアートフェスティバル 2021-22』@Reborn_Art_Fes
開催地域:宮城県石巻市街地(石巻中心市街地、復興祈念公園周辺、渡波)、牡鹿半島(桃浦・荻浜、鮎川)
開催期間:2022年8月20日(土)~10月2日(日)
開催時間:10:00〜17:00(石巻市街地)、10:00〜16:00(牡鹿半島)
 ※土日祝日の牡鹿半島会場は17:00まで
休祭日: 9月7日(水)、9月14日(水)
料金:一般3500円、大学・高校生・専門学生2500円、宮城県民2000円、中学生以下無料
 ※リボーンアート・パスポート料金
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『スイス プチ・パレ美術館展』がSOMPO美術館にて開かれています

スイス・ジュネーブの旧市街に位置し、フランス近代絵画を中心としたコレクションで知られるプチ・パレ美術館のコレクション展が、東京・西新宿のSOMPO美術館にて開催中です。


『スイス プチ・パレ美術館展』バナー(*)

その『スイス プチ・パレ美術館展』の見どころについて、WEBメディアのイロハニアートへ寄稿しました。

プチ・パレ美術館展の見どころとは?スイスから知られざる画家の名品が東京へ! | イロハニアート

まず展覧会では、印象派、新印象派、ナビ派、フォーヴィスム、キュビスム、エコール・ド・パリといった絵画の動向を時代別にたどっていて、38名の画家による65点の作品を全6章立てにて紹介していました。


スイス プチ・パレ美術館 写真(*)

またルノワールやドニ、ユトリロ、キスリングといったよく知られた画家だけでなく、カモワン、ブランシャール、メッツアンジェなど国内ではマイナーな画家の作品が充実しているのも特徴でした。どちらかと言えば、知られざる画家の作品に見るべき点の多い内容かもしれません。



一連の作品の中で印象に深いのは、ともに新印象派の画家であるアンリ=エドモン・クロスとマクシミリアン・リュス、またフォーヴィスムのアンリ・マンギャン、それにナビ派に属しながら古典主義へと立ち返ったフェリックス・ヴァロットンなどでした。

このうちヴァロットンの『身繕い』は、白いシュミーズを着た女性が手鏡をのぞき込むすがたを描いていて、あたかもプライベートの室内空間へと入り込んだような趣きが感じられました。また黄色いバラの花束と白いシュミーズ、それに濃い緑色のテーブルクロスの色のコントラストも鮮やかではないでしょうか。


ルノワール『帽子の娘』(1910年)、『浴女』(1892〜93年頃) *ともにSOMPO美術館の収蔵作品。会期中も写真撮影が可能です。

全65点の絵画のほかには、SOMPO美術館の収蔵作品も10数点ほど展示されていて、藤田やドニなどの作品を鑑賞することができました。


プチ・パレ美術館は、創設者であるオスカー・ゲーズが没した1998年以降、現在に至るまで休館していて、同国内外の美術展にて作品を出展するかたちにて活動を続けてきました。よってスイスへ行っても美術館にて見ることは叶いません。

なお同展は昨年秋の佐川美術館を皮切りに、静岡市美術館にて開かれてきた巡回展で、ここSOMPO美術館が最後の開催地となります。


SOMPO美術館全景

10月10日まで開催されています。*の写真は内覧会にて許可を得て撮影しました。

『印象派からエコール・ド・パリへ スイス プチ・パレ美術館展』 SOMPO美術館@sompomuseum
会期:2022年7月13日(水)~10月10日(月)
休館:月曜日。但し7月18日、9月19日、10月10日は開館。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1500)円、大学生1100(1000)円、高校生以下無料。
 ※( )内は電子チケット「アソビュー!」での事前購入券料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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2022年9月に見たい展覧会【THE 新版画/アーツ・アンド・クラフツとデザイン/ピカソ 青の時代を超えて】

今月は秋から冬に向けて開幕する展覧会が少なくありません。少し遅くなりましたが、9月に見ておきたい展覧会をリストアップしてみました。



展覧会

・『シアトル→パリ 田中保とその時代』 埼玉県立近代美術館(7/16~10/2)
・「創業200周年記念 フィンレイソン展 ─フィンランドの暮らしに愛され続けたテキスタイル─」 京王百貨店新宿店(9/21~10/3)
・『フィン・ユールとデンマークの椅子』 東京都美術館(7/23~10/9)
・『アレック・ソス Gathered Leaves』 神奈川県立近代美術館 葉山館(6/25~10/10)
・『立花文穂展 印象 IT'S ONLY A PAPER MOON』 水戸芸術館(7/23~10/10)
・『ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで/MOTアニュアル2022 私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ』 東京都現代美術館(7/16~10/16)
・『生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎』 アーティゾン美術館(7/30~10/16)
・『大勾玉展-宝萊山古墳、東京都史跡指定70周年-』大田区立郷土博物館(8/2~10/16)
・『仙厓のすべて』 出光美術館(9/3~10/16)
・『アールヌーヴォーからアールデコに咲いたデザイン オールドノリタケ×若林コレクション』 そごう美術館(9/10~10/16)
・『合縁奇縁~大倉集古館の多彩な工芸品~』大倉集古館(8/16~10/23)
・『リニューアルオープン記念展Ⅲ 古美術逍遙 ―東洋へのまなざし』 泉屋博古館東京(9/10~10/23)
・『鈴木大拙展 Life=Zen=Art』 ワタリウム美術館(7/12~10/30)
・『装いの力―異性装の日本史』 渋谷区立松濤美術館(9/3~10/30)
・『日本の中のマネ ―出会い、120年のイメージ―』 練馬区立美術館(9/4~11/3)
・『新版画 進化系UKIYO-Eの美』 千葉市美術館(9/14~11/3)
・『地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング』 森美術館(6/29~11/6)
・『THE 新版画 版元・渡邊庄三郎の挑戦』 茅ヶ崎市美術館(9/10~11/6)
・『長坂真護展 Still A “BLACK” STAR』 上野の森美術館(9/10~11/6)
・『開館15周年 生誕120年 猪熊弦一郎展』 横須賀美術館(9/17〜11/6)
・『開館15周年記念 李禹煥』 国立新美術館(8/10~11/7)
・『イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき』 Bunkamuraザ・ミュージアム(9/17~11/10)
・『美をつくし―大阪市立美術館コレクション』 サントリー美術館(9/14~11/13)
・『宮城壮太郎展 使えるもの、美しいもの』 世田谷美術館(9/17~11/13)
・『柳宗悦と朝鮮の工芸 陶磁器の美に導かれて』 日本民藝館(9/1~11/23)
・『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』 すみだ北斎美術館(9/21~11/27)
・『旅と想像/創造 いつかあなたの旅になる』 東京都庭園美術館(9/23~11/27)
・『アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで』 府中市美術館(9/23~12/4)
・『見るは触れる 日本の新進作家 vol.19』 東京都写真美術館(9/2~12/11)
・『ヴィンテージライターの世界 炎と魅せるメタルワーク』 たばこと塩の博物館(9/10~12/25)
・『ポーラ美術館開館20周年記念展 ピカソ 青の時代を超えて』 ポーラ美術館(9/17~2023/1/15)

ギャラリー

・『上田義彦 「Māter」』 小山登美夫ギャラリー六本木(8/27~9/24)
・『コーネーリア・トムセン個展 「Unfolding Ratio」』 √K Contemporary (8/27~9/24)
・『ヴォイド オブ ニッポン 77 展 戦後美術史のある風景と反復進行』 GYRE GALLERY(8/15~9/25)
・『シャネルを紡ぐ手 アンヌ ドゥ ヴァンディエール展』 シャネル・ネクサス・ホール(8/31~10/2)
・『高橋大輔 個展 絵画をやるーひるがえって明るい』 ANOMALY(9/10~10/8)
・『カミラ・テイラー 静かな友達 - Quiet Friend」 Kanda & Oliveira(9/14~10/8)
・『八木マリヨ・八木夕菜「地殻を辿る」』 ポーラ ミュージアム アネックス(9/16~10/23)
・『細谷巖 突き抜ける気配』 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(9/5~10/24)
・『HIROSHI SUGIMOTO | OPERA HOUSE』 ギャラリー小柳(9/3~11/6)
・『発酵と暮らし ―人も海も土も森も…すべてはつながっている―』 ギャラリー エー クワッド(9/16~11/10)
・『第八次椿会 このあたらしい世界 杉戸洋、中村竜治、Nerhol、ミヤギフトシ、宮永愛子、目[mé]』 資生堂ギャラリー(8/27~12/18)

まずは新版画の展覧会です。茅ヶ崎市美術館にて『THE 新版画 版元・渡邊庄三郎の挑戦』が開かれます。



『THE 新版画 版元・渡邊庄三郎の挑戦』@茅ヶ崎市美術館(9/10~11/6)

これは明治末期、新しい時代の浮世絵を提唱した渡邊庄三郎と彼の版元・渡邊版画店に焦点を当て「新版画」の潮流を紹介するもので、伊東深水、山村耕花、川瀬巴水、笠松紫浪、小原祥邨らの作品が一堂に公開されます。


なお展示はひろしま美術館からの巡回で、関東での開催は茅ヶ崎市美術館のみとなります。(以降、高知県立美術館と美術館「えき」KYOTOへと巡回予定。)ちょうど今月は千葉市美術館でも『新版画 進化系UKIYO-Eの美』(9/14~11/3)がスタートするので、あわせて見るのも楽しいかもしれません。

続いてはデザインに関する展覧会です。府中市美術館にて『アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで』が行われます。



『アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで』@府中市美術館(9/23~12/4)

19世紀後半のイギリスで興ったデザインの革新運動「アーツ・アンド・クラフツ」は、日々の暮らしを美しく彩るべく、画家や建築家、職人らが一体となって手仕事による作品を手がけ、アメリカや日本の民藝などにも多様な影響を与えました。

その「アーツ・アンド・クラフツ」の世界を紹介するのが今回の展示で、家具、テキスタイル、ガラス器、ジュエリーなど約150点の作品が公開されます。モリスのデザインした室内装飾やブックデザイン、またアメリカの建築家フランク・ロイド・ライトによるステンドグラスなども見どころとなりそうです。

ラストは西洋美術です。ポーラ美術館にて『ポーラ美術館開館20周年記念展 ピカソ 青の時代を超えて』が開催されます。



『ポーラ美術館開館20周年記念展 ピカソ 青の時代を超えて』@ポーラ美術館(9/17~2023/1/15)


これは青の時代のピカソを起点に、初期から晩年までの画業をたどるもので、国内外の作品、約70点が公開されます。また青の時代の絵画作品の光学調査の成果など、ピカソの制作に関しての新たな知見が得られる展覧会となりそうです。

WEBメディア「イロハニアート」へも9月のおすすめの展覧会を寄稿しました。


2022年9月おすすめ展覧会5選!ヴィンテージライターから、イッタラ、フィンレイソンまで | イロハニアート

それでは今月もよろしくお願いいたします。
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『国際芸術祭 あいち2022』 Vol.6 常滑市(INAXライブミュージアム)

『国際芸術祭 あいち2022』 Vol.5 常滑市(やきもの散歩道)から続きます。「やきもの散歩道」に点在する5つの展示会場を見終えて、再び起点となる陶磁器会館へと戻ると、次のINAXライブミュージアムへのバスまで少し時間が空いていました。



常滑市で6つ目の会場にあたるINAXライブミュージアムは、「やきもの散歩道」エリアとは離れていて、会場の1つである常々から徒歩で約20分ほどと案内されていたものの、すでにかなり歩いていたので無料の巡回バスを利用することにしました。

常滑市での巡回バスは、常滑駅より陶磁器会館、そしてINAXライブミュージアムなどを回っていて、土日祝日限定にて運行(1日8便)されています。



陶磁器会館の近くにあるカフェni:noに入り、ケーキなどをいただきながら、バスの時間を待つことにしました。



いわゆる古民家風のアンティークな店内も居心地が良く、すでにピークタイムも過ぎていたからか空いていて、炎天下の常滑で歩いた疲れも癒すことができました。



巡回バスに乗り、とこなめ陶の森を経由して、約20分弱にてINAXライブミュージアムに着くと、お子さんを連れたファミリーなどで賑わっていました。



INAXライブミュージアムとは、世界のタイル博物館、建築陶器のはじまり館、土どろんこ館、陶楽工房など6館からなる文化施設で、さまざまな展示を行うだけでなく、「体験・体感型ミュージアム」として体験教室やワークショップなどを開いてきました。



「あいち2022」における同ミュージアムの展示は、大正時代の窯と建物、煙突を保存し、公開している窯のある広場・資料館の2階にて行われていて、常滑市生まれの鯉江良二が陶を用いたインスタレーションを見せていました。



それらは反核をテーマとした『証言(ミシン)』や『チェルノブイリ・シリーズ』といった作品で、いずれも社会への強いメッセージを伴っていました。



INAXライブミュージアムでの「あいち2022」の展示は鯉江の作品のみだったので、その後はミュージアムのチケットを購入し、館内の施設を見学することにしました。



まず大正から昭和初期の建築陶器と呼ばれるやきもののタイルで飾られていたのが、建築陶器のはじまり館と呼ばれる施設で、屋外広場では日本を代表するテラコッタ作品などが展示されていました。かつての横浜松坂屋本館のテラコッタや朝日生命館(旧常盤生命館)の巨大なランタンなどが目立っていたかもしれません。



子どもたちやファミリーでも賑わう土・どろんこ館では、「日本のタイル100年 ― 美と用のあゆみ」と題した企画展が開かれていて、古くは飛鳥時代にさかのぼる瓦の伝来にはじまり、明治以降の西洋の建築文化の流入によるタイル文化の変遷をたどることができました。(8月30日にて終了)



またここでは台所、トイレ、それに洗面所や銭湯、またビルや地下鉄の駅などに使われたタイルといった資料も多く展示されていて、いかに人間の生活にとってタイルが密接に関わっているのかを知ることができました。



INAXライブミュージアムでも特に見応えがあったのは、実に7000点もの装飾タイルを収蔵する世界のタイル博物館でした。



1階の常設展示室ではメソポタミアにおけるやきものの壁の再現(BC3500年頃)をはじめ、世界最古のタイルとされるエジプトの「魂のための扉」(BC2650年頃)やイスラムのタイル張りドーム天井などが紹介されていました。



とりわけ幾何学模様が広がって宝石のように輝くイスラムのドームの美しさには心を奪われました。



オランダのブルー&ホワイトのタイル(17〜18世紀)やイギリスのヴィクトリアン・タイル(1830~1903年)などにも目を引かれたかもしれません。いずれも空間を演出するかのような臨場感のある展示方法も魅力的に思えました。



続く2階では古代から近代までのタイルコレクションが、オリエント、イスラム、スペイン、中国、日本など地域別に分けて展示されていて、まさに世界各地のさまざまなタイルの様相を一覧することができました。



シリアやパキスタン、それにモロッコなど、必ずしも馴染みの深いとは言えない地域のタイルも興味深い品が多かったのではないでしょうか。さまざまに意匠の凝らされたタイルの奥深い世界に目を見張りました。



タイルに関するグッズも充実したショップを見た後は、閉館の17時まで滞在し、17時15分発の無料巡回バスに乗って常滑駅へと戻りました。

さて今回の「あいち2022」ですが、私は1日目に一宮市と愛知芸術文化センター、2日目に有松地区と常滑市の展示を巡りました。



基本的にすべての展示を見たつもりでしたが、1泊2日のスケジュールでは映像作品などへじっくり向き合う時間はなく、やはり公式サイトも推奨するように2泊3日にてスケジュールを組むのがマストと思われます。



愛知芸術文化センターの展示にどれほど時間をかけるかは人ぞれぞれかもしれませんが、少なくとも一宮市は丸1日、また常滑市も観光を兼ねると同じく1日は欲しいように感じました。一方で有松地区はコンパクトのため、私のように常滑市と兼ねて1日で回るのも無理ないかもしれません。公式サイトのモデルコースでも、有松地区と常滑市はあわせて1日としておすすめされていました。



一宮市では駅エリアと尾西エリア、および常滑市ではやきもの散歩道とINAXライブミュージアムの間の移動時間を考慮してプランニングする必要がありました。とはいえ、特に車がなくとも、徒歩や路線バス、また巡回バスを利用すれば不自由なく回ることができました。ただし屋外での移動が多いため、温度の高い日は暑さ対策が必須です。



「あいち2022」を通して特に印象に残ったのは、旧一宮市立中央看護専門学校の塩田千春と旧一宮市スケート場のアンネ・イムホフ、および愛知芸術文化センターの和合亮一、リタ・ポンセ・デ・レオン、カズ・オオシロ、百瀬文、リリアナ・アングロ・コルテス、ホダー・アフシャール、そして有松地区のガブリエル・オロスコとAKI INOMATA、常滑市でのデルシー・モレロス、シアスター・ゲイツでした。



また一概に言えませんが、愛知芸術文化センターでは「STILL ALIVE」のテーマのもと、まさにどう生きるのかが問われるような作品が多く、一方でまちなか会場では、各地の歴史や産業、文化などにリサーチした作品が目立っているように思えました。



6回に分けてブログに感想を書きましたが、少しでもこれから廻られる方の参考になれば嬉しいです。

国際芸術祭「あいち2022」は10月10日まで開催されています。

『国際芸術祭 あいち2022』関連エントリ
 Vol.1 一宮市(一宮駅エリア) / Vol.2 一宮市(尾西エリア) / Vol.3 愛知芸術文化センター / Vol.4 有松地区(名古屋市) / Vol.5 常滑市(やきもの散歩道) / Vol.6 常滑市(INAXライブミュージアム)

国際芸術祭「あいち2022」@Aichi2022
開催地域:愛知芸術センター、一宮市、常滑市、有松地区(名古屋市)
開催期間:2022年7月30日(土)~10月10日(月・祝)
開催時間:10:00~18:00(愛知芸術センター、一宮市)、10:00~17:00(常滑市、有松地区)
 ※愛知芸術センターは金曜日は20:00まで。一宮市役所は17:15まで
休館日:月曜日(愛知芸術センター、一宮市)、水曜日(常滑市、有松地区)
料金:一般3000円、学生(高校生以上)2000円、中学生以下無料
 ※フリーパス。この他に1DAYパスあり
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『国際芸術祭 あいち2022』 Vol.5 常滑市(やきもの散歩道)

『国際芸術祭 あいち2022』 Vol.4 有松地区(名古屋市)に続きます。『国際芸術祭 あいち2022』を見てきました。



有松地区から常滑市の会場へは、名鉄名古屋本線で有松駅から神宮前駅まで行き、そこから名鉄常滑線に乗り換えて常滑駅へ向かう必要があります。

神宮前から名鉄の特急に揺られること約25分、常滑駅に着くと12時をまわっていました。常滑市は知多半島の中央、西海岸に位置する街で、瀬戸、信楽、越前、丹波、備前と並んで日本六古窯の1つとして数えられる焼き物の街として知られています。

そして「あいち2022」の展示は、昭和初期の風情を残し、現在も陶芸作家や職人らが住むという、やきもの散歩道と呼ばれるエリアに集中していました。

駅から招き猫の並ぶ通りを歩き、やきもの散歩道のスタート地点である陶磁器会館にて案内図を入手したのちは、1970年代まで土管を生産していたという工場跡地の旧丸利陶管を目指しました。



やきもの散歩道の界隈は、一本道を間違えると迷子になってしまうほど、狭まく曲がりくねった道が網の目のように広がっていて、展示会場を記した案内図が極めて有用でした。



旧丸利陶管では、デルシー・モレロス、グレンダ・レオン、それに服部 文祥+石川 竜一といった計5組のアーティストが、複数の建物を用いてインスタレーションを公開していました。



そのうちコロンビアを拠点とするデルシー・モレロスは、一階のスペースをまるでクッキーや餅を思わせるような作品で埋め尽くしていて、いずれも常滑焼に用いられる粘土にシナモンなどのスパイスを混ぜて作られたものでした。



モレロスはアンデス山脈の一部の儀式に、豊穣のしるしとしてクッキーを土に埋めるという風習に着想を得て作品を制作していて、今回は日本での開催を踏まえ、餅や大福のかたちをした作品も組み入れました。



キューバに生まれ、スペインにて活動するグレンダ・レオンは、星座や月といった天体を連想させるインスタレーションを展示していて、さながら楽器のように実際に触れて音を出すことも可能でした。



これらはギターなどの弦やタンバリンのかたちをした月などから象られていて、会場では作曲家の野村誠が楽器を鳴らして演奏する様子も映像にて見ることができました。



この工場跡とは別棟である旧住宅を用いていたのが、アメリカのシアスター・ゲイツでした。



1999年より常滑に滞在して陶芸を学び、以降もこの地を訪ねてきたゲイツは、旧住宅のスペースを音楽や陶芸研究のためのプラットフォーム「ザ・リスニング・ハウス」へと作り替えました。



ゲイツは近年、日本の哲学とブラックアイデンティティを融合させた「アフロ民藝」に取り組んでいて、その考えのもとに「ザ・リスニング・ハウス」を音楽イベントやワークショップの場として機能させました。



自ら「第二の故郷」とまで呼ぶ、ゲイツの常滑への愛着を感じるようなインスタレーションともいえるかもしれません。



この旧丸利陶管より土管坂方向へ歩くと見えてくるのが、江戸から明治にかけて廻船業を営んでいた瀧田家の住宅でした。



瀧田家住宅は「あいち2022」の会場として用いられているだけでなく、航海といった海と移動に関する作品なども公開されていて、市指定文化財の建物とともに見学することができました。



ベトナムのトゥアン・アンドリュー・グエンは、人類の滅亡後のフィリピンを舞台に、船で旅しながら過去の文明の遺物と出会う少年少女たちの物語を映像などで表現していて、太平洋戦争やインドシナの難民などもモチーフとして取り込んでいました。



一方でニュージーランドのニーカウ・へンディンは、直線的なデザインを描いた作品を展示していて、いずれも梶の木の樹皮をうち伸ばして作られる樹皮布によって作られていました。



ヘンディンはオセアニアの島嶼国に根付く樹皮布の文化を踏まえつつ、マオリの伝統的なデザインを参照したモチーフを描いていて、和室の空間にも良く映えて見えました。



やきもの散歩道のエリアで最も南に位置するのが、製陶所跡地を利用したギャラリーカフェ常々でした。ここでは田村友一郎が愛知県の陶製人形を主題にした作品を公開していて、人形浄瑠璃仕立てとなった「プラザ合意」のドラマが映像にて展開していました。



焼酎と土管の積まれた土管坂をはじめ、日本で現存する最大級の登窯を見学しつつ、一連の展示を見ていくと、ゆうにランチタイムを過ぎてしまいました。



この日は一宮市を巡った前日と同じく、凄まじいまでの暑さで、歩いているだけでも体力が奪われることがひしひしと感じられました。



散歩道沿いの中腹にあったカフェMEM.にてたまごサンドとコーヒーを美味しくいただき、少し休憩したのちは、再びやきもの散歩道へと繰り出すことにしました。



次に向かったのはやきもの散歩道の駐車場から北側に位置し、ギャラリーや陶芸店なども立ち並ぶ一体にある旧青木製陶所でした。



かつての窯がそのまま残る旧青木製陶所では、黒田大スケとフロレンシア・サディールが、常滑の歴史や陶ににまつわる展示を行っていました。



アルゼンチンを拠点とするサディールがは、黒い小さなボールを建物に吊り下げたインスタレーションを見せていて、かつては陶製品が生み出された空間を美しく彩っていました。このボールは常滑の土を用い、地元の陶芸家とのコラボによって作られたもので、実に1万2千個ものボールが野焼きによって生み出されました。



5つ目の「やきもの散歩道」の会場である旧急須店舗・旧鮮魚店では、尾花賢一が、この地に生まれたとする「イチジク男」を起点に、個人や常滑の歴史を重ね合わせたインスタレーションを見せていました。



虚実入り混じるストーリーとともに、旧店舗の内部だけではなく、裏手の屋外へと続く展開も面白かったかもしれません。



『国際芸術祭 あいち2022』 Vol.6 常滑市(INAXライブミュージアム)へと続きます。

『国際芸術祭 あいち2022』関連エントリ
 Vol.1 一宮市(一宮駅エリア) / Vol.2 一宮市(尾西エリア) / Vol.3 愛知芸術文化センター / Vol.4 有松地区(名古屋市) / Vol.5 常滑市(やきもの散歩道) / Vol.6 常滑市(INAXライブミュージアム)

国際芸術祭「あいち2022」@Aichi2022
開催地域:愛知芸術センター、一宮市、常滑市、有松地区(名古屋市)
開催期間:2022年7月30日(土)~10月10日(月・祝)
開催時間:10:00~18:00(愛知芸術センター、一宮市)、10:00~17:00(常滑市、有松地区)
 ※愛知芸術センターは金曜日は20:00まで。一宮市役所は17:15まで
休館日:月曜日(愛知芸術センター、一宮市)、水曜日(常滑市、有松地区)
料金:一般3000円、学生(高校生以上)2000円、中学生以下無料
 ※フリーパス。この他に1DAYパスあり
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