2020年 私が観た展覧会 ベスト10

年末恒例の私的ベスト企画です。私が2020年に観た展覧会のベスト10をあげてみました。

2020年 私が観た展覧会 ベスト10

1.「開館記念展 見えてくる光景 コレクションの現在地」 アーティゾン美術館



コロナ禍において、かつてないほど美術館のコレクションの価値が見直されていますが、アーティゾン美術館のオープニングを飾った「見えてくる光景 コレクションの現在地」は極めて充実していたのではないでしょうか。旧ブリヂストン美術館より2倍に広がったスペースには、印象派から現代へと至る200点超もの石橋財団コレクションが展示されていて、まさに圧巻の一言でした。また新たに加わった作品も見逃せないものが少なくなく、とりわけジュルジュ・マチューやマリア=エレナ・ヴィエラ・ダ・シルヴァといった現代美術の質の高さには舌を巻くほどでした。以降、同館では「鴻池朋子 ちゅうがえり」や「琳派と印象派」などの見応えのある展示も続いていて、今、東京で一番おすすめの美術館を問われれば、私はアーティゾン美術館を挙げると思います。

2.「ヨコハマトリエンナーレ2020」 横浜美術館、プロット48、日本郵船歴史博物館



国内の大半の芸術祭が中止となる中、人数を制限しながらも、ほぼ唯一開かれたのが「ヨコハマトリエンナーレ2020」でした。横浜美術館やプロット48などを会場に30カ国、計60名(組)のアーティストが多様な展示を行っていて、既存の価値や通念の転換を迫るような批評的な作品も少なくありませんでした。また「独学」、「発光」、「友情」、「ケア」、「毒」の計5つのキーワードが設定されていましたが、最も考えさせられたのが「世界に否応なく存在する毒と共生すること」(パンフレットより)とされた「毒」でした。価値の分断や対立など、何かと単純化して物事を捉えがちな今だからこそ、見るべき点の多い展覧会でもありました。

3.「ロンドン・ナショナル・ギャラリー」国立西洋美術館



今年の西洋絵画展の中で最も質量ともに充実していると感じたのが「ロンドン・ナショナル・ギャラリー」展でした。クリヴェッリの「聖エミディウスを伴う受胎告知」をはじめとして、これほど一点一点の作品を時間をかけて見たことはなかったかもしれません。緊急事態宣言解除後、久しぶりに足を運んだ展覧会の1つでしたが、会場に足を踏み入れた途端、湧き上がるような高揚感とともに絵を見る喜びを強く感じたことを覚えています。また公式ガイドブックの制作に一部携わったのも勉強になりました。

4.「ピーター・ドイグ展」 東京国立近代美術館



イギリスの現代アートシーンで脚光を浴びたピーター・ドイグの日本初の個展でした。初期から現在に至るまでの油彩約30点とポスター「スタジオフォルムクラブ」の40点が一堂に並んでいて、中でも見たことがあるようで見たことのない幻夢的な光景を描いた油彩に強く魅せられました。具象的でありながら歪みを伴い、また明るく美しい色彩を基調としつつも、不思議と毒々しく、一抹の恐怖感すら覚えるドイグの作品の魅力を存分に味わうことが出来ました。

5.「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」 東京都現代美術館



皆川明が設立したミナ ペルホネンの25周年を期した展覧会でした。ファッションからインテリア、さらにはシェルハウスへと多様に展開する皆川のものづくりを紹介していて、単にデザインというよりも、皆川のアイデアに心を惹かれました。現代美術家の藤井光や会場デザインを担った田根剛など、専門家との協働も大きな見どころでした。

6.「作品のない展示室」 世田谷美術館



新型コロナウイルス感染症の影響によりスケジュールの変更を余儀なくされた世田谷美術館が、作品を展示せずに美術館の空間のみを公開した展覧会でした。実のところ出向く前はやや懐疑的に思っていましたが、実際に見ると砧公園の緑が絵画のフレームのように展示空間へ映り込むのが殊更に美しく、これまで何度も通っていたにもかかわらず、殆ど初めて美術館の建物に魅力を感じました。また普段は閉じられた搬入口を公開するなど、通常とは異なった姿を見られたのも良かったと思いました。

7.「桃山―天下人の100年」 東京国立博物館



安土桃山時代を中心に花開いた芸術を圧倒的な質量で見せるかつてない展覧会でした。絵画、刀剣、甲冑などの200件を超える作品はどれも優品揃いで、ほぼ全編がハイライトと呼んで差し支えないほどでした。中でも狩野山雪、山楽の天球院や大覚寺を飾る屏風絵が魅力的で、山雪の「籬に草花図襖」の大胆な構図には強く驚かされました。

8.「コレクション展 2020-3:ふるえる絵肌」 青森県立美術館



今年はいくつか関東以外の美術館に出かけましたが、その中で最も感銘を受けたのが青森県立美術館で開催されていたコレクション展でした。ここでは伊藤二子に馬場のぼる、それに成田亨や佐野ぬいなど青森出身の作家を「絵肌」をキーワードに紹介していて、いずれの作品も引き立って見えました。また通年展示である奈良美智のコレクションも充実していた上、シャガールの「アレコ」の舞台背景画全4点の展示も想像以上のスケールで感銘を受けました。

9.「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」 東京都現代美術館



世界的なデザイナーでアートデイレクターでもある石岡瑛子の仕事を振り返った、世界初の大規模な回顧展でした。資生堂やPARCOの仕事からはじまり、忠臣蔵やシルク・ドゥ・ソレイユ・ヴァレカイ、そしてイーモウの北京五輪からオランダ国立オペラのニーベリングの指環へと至る展示は質量ともに圧倒的で、会場を進めば進むほど石岡の世界観にのみ込まれるような熱量を感じました。

10.「生誕140年記念 背く画家 津田青楓とあゆむ明治・大正・昭和」 練馬区立美術館



図案で生計を立てつつ、日本画や洋画、それに書など幅広い分野で活動した津田青楓の画業を、約250点もの作品と資料で丹念に辿る回顧展でした。若い頃の装飾図案に心惹かれるとともに、日露戦争の従軍体験や社会運動への関心、そして拷問を受ける運動家の姿を描いた「犠牲者」などを通して、自らの制作を切り開いていった津田の生き様がひしひしと伝わるような展覧会でした。

次点.「アイヌの美しき手仕事」 日本民藝館



ベスト10以外で特に印象に残った展覧会は以下の通りです。(順不同)

・「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」 横浜美術館
・「横浜美術館コレクション展 ヨコハマ・ポリフォニー:1910年代から60年代の横浜と美術」 横浜美術館
・「琳派と印象派 東⻄都市文化が生んだ美術」 アーティゾン美術館
・「生誕100年 石元泰博写真展 伝統と近代」 東京オペラシティアートギャラリー
・「式場隆三郎 腦室反射鏡」 練馬区立美術館
・「宮島達男 クロニクル 1995-2020」 千葉市美術館
・「The UKIYO-E 2020 ─ 日本三大浮世絵コレクション」 東京都美術館
・「和巧絶佳展 令和時代の超工芸」 パナソニック汐留ミュージアム
・「ART in LIFE, LIFE and BEAUTY」 サントリー美術館
・「開館15周年記念特別展 三井家が伝えた名品・優品」 三井記念美術館
・「特別展 きもの KIMONO」 東京国立博物館
・「ドレス・コード? ─ 着る人たちのゲーム」 東京オペラシティ アートギャラリー
・「オラファー・エリアソン展」 東京都現代美術館
・「鴻池朋子 ちゅうがえり」 アーティゾン美術館
・「Thank You Memoryー醸造から創造へー」 弘前れんが倉庫美術館
・「聖地をたずねて 西国三十三所の信仰と至宝」 京都国立博物館
・「古典×現代2020―時空を超える日本のアート」 国立新美術館
・「奇才―江戸絵画の冒険者たち―」 江戸東京博物館
・「ドローイングの可能性」東京都現代美術館
・「杉本博司 瑠璃の浄土」京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ
・「生誕120年・没後100年 関根正二展」 神奈川県立近代美術館鎌倉別館
・「白髪一雄」 東京オペラシティ アートギャラリー
・「奈良原一高のスペイン――約束の旅」  世田谷美術館
・「小さなデザイン 駒形克己展」 板橋区立美術館

今年は一にも二にも新型コロナウイルスに振り回された一年でした。年の初め、中国・武漢での報道を見聞きして、日本や世界へも感染が広がるとは思いましたが、その時点でまさかこれほど長期渡って影響が及ぶとは予想も付きませんでした。

本来、オリンピックイヤーだったこともあり、インバウンドを意識した大型展が多く企画され、一方で海外館の借用作品を含む西洋美術展も予定されていましたが、残念ながら中止に追い込まれる展覧会も少なくありませんでした。また緊急事態宣言下においては殆ど全ての美術館が臨時休館となりました。新型コロナウイルスに伴う一都三県の美術館の休館情報はブログでもまとめましたが、かつては当たり前の日常だった、休日に美術館へ出かけて展覧会を鑑賞すること自体が困難となりました。

新型コロナウイルスへの対応に伴う「美術館・博物館」休館情報 第一報(3月2日)、第二報(3月9日)、第三報(3月16日)、第四報(3月24日)、第五報(4月1日)、第六報(4月9日)、第七報(5月2日)、第八報(6月2日)、第九報(6月25日)

そうした中、家にいながらにして美術のコンテンツを楽しめる、オンライン配信に積極的に取り組む美術館や博物館も見られました。私のブログでも外出が叶わなかった時期、いくつかの美術館のオンラインでの活動を「WEBで見る美術館」として追いかけました。

「オンラインミュージアム」で楽しむ國學院大學博物館
「広島⇔東京 インスタギャラリートーク」で見たい「生誕135年 川端龍子展」
「バーチャル北海道博物館」で学びたい北海道の自然・歴史・文化
「どこでも恐竜博物館」で知りたい福井県立恐竜博物館
オンライン・プログラム「Mori Art Museum Digital」で楽しむ現代アート
山種美術館の「おうちで日本画」でチャレンジする塗り絵
「どこでもれきはく」で学びたい 日韓の海にまつわる生活文化
コレクションから庭園まで 「美術館オリジナル動画」にて楽しむ岡田美術館
「おうちでミュージアム」で知りたい「竹中大工道具館」の魅力
坂茂のオンライン・ギャラリートークで鑑賞する「坂茂建築展」
アーティストが動画で語る「ふたつのまどか―コレクション×5人の作家たち」展
「みる」、「よむ」、「つくる」など多様なコンテンツで楽しむ「おうちでポーラ美術館」
くまモンと一緒に見る「モダンアート ニッポン!ウッドワン美術館名品選」
「おうちで式場展」で見る「式場隆三郎:脳室反射鏡」展
オンラインショップで探したい展覧会カタログ&グッズ
「おうちで体験!かはくVR」で探検する国立科学博物館
バーチャル・ツアーやニコニコ美術館で見る「ピーター・ドイグ展」
かはくチャンネルで見る「ボタニカルアートで楽しむ日本の桜-太田洋愛原画展-」 
解説動画で楽しみたい「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」
「オンラインで楽しむ横浜美術館」で見たい「澄川喜一 そりとむくり」展

特設サイトを開設して展示風景を閲覧できたり、中止された展覧会を学芸員やアーティストがyoutubeで解説を配信したり、Instagramライブやニコニコ動画でトークイベントを行うなど多様な取り組みが行われました。また北海道博物館による「おうちミュージアム」など全国の美術館のオンライン活動をつなげる試みも見られました。それらはコロナ禍の今も進行中であったり、アーカイブとして残されていて、美術鑑賞の新たなあり方について示唆に富む内容も少なくありませんでした。

皆さまは今年一年、どのような美術との出会いがありましたでしょうか。このエントリをもちまして年内のブログの更新を終わります。今年も「はろるど」とお付き合い下さりどうもありがとうございました。それではどうぞ良いお年をお迎え下さい。

*過去の展覧会ベスト10
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