「19世紀パリ時間旅行」 練馬区立美術館

練馬区立美術館
「19世紀パリ時間旅行ー失われた街を求めて」 
4/16~6/4



練馬区立美術館で開催中の「19世紀パリ時間旅行ー失われた街を求めて」を見てきました。

フランスの第二帝政期に行われたパリ大改造は、都市の風景を一変させ、現代の「パリの都市の骨格」(解説より)を築き上げました。

そうした19世紀パリの都市と社会、また美術の動向を探る展覧会です。出品は約300件。国内の所蔵の古地図、版画、絵画ほか資料などを中心に、大改造前後のパリの歴史を追っています。


ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ「聖ジュヌヴィエーヴの幼少期」 1875年 島根県立美術館

冒頭、古えのパリへと誘うのはシャヴァンヌでした。パリの守護聖人を描いた「聖ジュヌヴィエーヴの幼少期」です。シャヴァンヌはパンテオンに聖ジュヌヴィエーヴの生涯をテーマとした大壁画の連作を制作します。出展は油彩の習作です。中央の少女がジュヌヴィエーヴです。聖人としての生涯を告げられる場面を表現しています。

続くのがパリの古地図でした。ローマ支配下のパリにはじまり、大改造以前、18世紀のパリの地図などが展示されています。時代が進むにつれて市域は拡張し、道路も整備されていきました。ちなみにパリの起源は古く、おおよそ紀元前3世紀には集落が形成されたそうです。改造以前のパリの基盤を作ったのは中世でした。

オフボエールの版画の連作が目立っていました。タイトルは「パリ、時代時代」です。パリの時代別の風景記録集と呼んでも良いかもしれません。古くは13世紀から19世紀に至るパリの建築物を石版画で描いています。

改造によってパリは中世の面影を失います。同時に「犠牲」(解説より)も強いられました。いわゆる貧民街を整備する一方、都市の労働者や職人らを街の周縁部へと追いやります。バルザックの著したパリはもうありません。かつての街並みを懐かしむ声も上がったそうです。

改造前の名所旧跡の図版は今も多く残っています。しかし市井の人々、すなわち貧しい人の家々などを記録した図版は多くありません。


そこで重要なのがアドルフ・マルシアル・ポテモンの版画集「いにしえのパリ」です。

版画は全300点。うち70点ほどが揃って展示されています。(展示替えあり)そしてこの版画集がすこぶる面白い。ポテモンは改造によって「失われた街」、つまり路地裏などの何気ないパリの街角を克明に描いているのです。

例えば「モンデトゥール通り:古い家々 1850年」です。この場所こそユーゴーの「レ・ミゼラブル」にてアンジョルラスらがバリケードを築いたとされる路地でした。さらに「バスティーユ濠 1836年、サンマルタン運河」では同じくミゼラブルでガヴローシュが住処としていた場所を描いています。ほか「ビュット=ショーモン、モンフォーコン 1840年」では、改造後は公園として整備された地域が、し尿処理場であったことを記録しています。改造前のパリを伝える貴重な資料と言えるのではないでしょうか。

出品中、最大を占めるメディアは版画です。中でもドーミエやメリヨンが充実。時に風刺的なドーミエの版画は、芋洗い状態の水浴場など、パリの人々の生活を生き生きと捉えています。一方のメリヨンは同地の風景を端的に描くだけに留まりません。時に独自の空想を交えることによって、いわば幻想的なパリを生み出しました。

モードについても言及があります。19世紀に着用されたドレスです。全6着。1815年頃から1895年頃までと幅広い。流行の変化が分かるのではないでしょうか。いずれも横浜美術館の「ファッションとアート展」にも出展中の京都服飾文化研究財団のコレクションでした。

改造によってパリは「近代化」し、国際的な都市としての地位を築きます。最大のイベントは計6回のパリ万博です。万博を記念してエッフェル塔も建設されました。そしてこれらを伝える資料や絵画も出展。万博の会場風景図のほか、塔の基礎工事を示す石版画などもあります。ややマニアックです。見慣れない資料も少なくありませんでした。


アンリ・ルソー「エッフェル塔とトロカデロ宮殿の眺望」 1896〜98年 ポーラ美術館

新たなパリは印象派をはじめとした画家たちの格好の題材でもありました。。例えばルソーの「エッフェル塔とトロカデロ宮殿の眺望」です。宮殿は万博の主会場でした。塔の頂上には国旗がなびいています。夕景に染まるセーヌ河岸には牧歌的な雰囲気も漂っています。どことなく可愛らしく見えるのはルソーならではの表現だからでしょうか。なおエッフェル塔は当初、あくまでも時限的なもので、のちに取り壊される予定でした。しかし国防上の理由に取り壊しを間逃れ、結果的にパリの象徴として現在まで残りました。


ポール・シニャック「ポン・ヌフ」 1927年 茨城県近代美術館

さらにユトリロやシニャックの絵画も展示。僅かながらミュシャやロートレック、シュレのポスターもあります。ベル・エポック期のパリの華やかな賑わいを感じることが出来ました。

アンリ・リヴィエールの「エッフェル塔36景」も一つのハイライトかもしれません。北斎の富嶽三十六景ならぬエッフェル塔を舞台にした36景です。もちろん北斎画に影響されて作られました。塔の支柱の身をクローズアップするほか、前景と後景を強く対比させるなど、構図も浮世絵風です。リヴィエールはフランスの浮世絵師とも称されています。会場では、展示替えのため、36点のうちの半数、18点ほどが展示されていました。

「失われたパリの復元/鹿島茂/新潮社」

展覧会の基盤となるのが、フランス文学者の鹿島茂による連載、「失われたパリの復元」(芸術新潮)です。とりわけ前半部の「失われたパリ」を同連載に則っています。

同時開催中のミニ展示「鹿島コレクションで見る『レ・ミゼラブルの世界』」も面白いのではないでしょうか。同作の登場人物を挿絵などで紹介。ポンポンの制作したコゼットのブロンズ像も目を引きました。

「19世紀パリ時間旅行 失われた街を求めて/青幻舎」

内容は膨大です。ここで紹介した内容などごく一部にすぎません。練馬のスペースは必ずしも広いとは言えませんが、ともかく密度が濃いのには驚きました。作品はもとより、キャプションの一つ一つを追いかけるだけでも相当の時間がかかります。観覧には余裕をもってお出かけ下さい。



間もなく会期末です。6月4日まで開催されています。

「練馬区独立70周年記念展 19世紀パリ時間旅行ー失われた街を求めて」(@19cParis) 練馬区立美術館@nerima_museum
会期:4月16日(日)~6月4日(日)
休館:月曜日。但し7月18日(月祝)は開館。翌19日(火)は休館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人800(600)円、大・高校生・65~74歳600(500)円、中学生以下・75歳以上無料
 *( )は20名以上の団体料金。
 *ぐるっとパス利用で300円。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。
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「茶の湯のうつわー和漢の世界」 出光美術館

出光美術館
「茶の湯のうつわー和漢の世界」 
4/15〜6/4



主に江戸時代に好まれた茶の湯のうつわの名品が集います。出光美術館で開催中の「茶の湯のうつわー和漢の世界」を見てきました。

はじまりは楽焼の祖、長次郎でした。赤と黒が各1点ずつです。赤楽は「銘 僧正」でした。表情は端正ですが、腰の部分がやや窪んでいるようにも見えます。黒楽は「銘 黒面翁」です。小ぶりで丸みのある茶碗です。落ち着いた佇まいが感じられました。

さらに楽家の系譜が続きます。常慶、道入から一入、宗入らの茶碗も並んでいました。うち目立つのが道入の黒楽、「銘 此花」でした。黒飴色の釉薬には照りがあり、実に艶やかです。正面には白い素地が開けています。それを梅の花に見立てたのでしょう。「此花」と名付けられました。

ただどうでしょうか。雪が降りしきる山の影のようにも見えなくはありません。どことなく幽玄でもあります。闇夜を背景にした雪山の光景を連想しました。


「萩茶碗 銘 雪獅子」 日本 江戸時代前期

一楽、二萩、三唐津。楽に続くのが萩焼でした。「萩茶碗 銘 雪獅子」が見事です。口縁には歪みがあります。腰の部分に白と僅かな茶色が混じり、まるで砂利を敷き詰めたような景色が広がっています。一方で見込みは滑らかでした。素朴ながらも趣深い茶碗ではないでしょうか。

萩では「銘 五月雨」にも魅せられました。外面をヘラで擦ったのか、斜めに3本の線が走っています。それを五月雨と表現したのでしょう。そして「銘 白鷺」も美しい。ヘラの目が波のように広がっています。高台が高く、2カ所に割り込みが入っていました。

唐津の「皮鯨茶碗 銘増鏡」も興味深い作品です。口縁には鉄釉がかかっていて黒く光っています。鯨とはうまく名をつけたものです。確かに胴の部分に色の変化があり、それが海面を進む鯨の姿のように見えました。さらに背の部分に裂け目があり、あたかも鯨が空気を吐き出しているようにも思えなくはありません。一つの茶碗から大海原の光景が浮かび上がっていました。

京焼にも優品が揃っています。ここではなんと言っても仁清です。香合、茶碗、水指などの10点ほどの作品が展示されています。


「色絵扇面散文茶碗」 野々村仁清 日本 江戸時代前期 出光美術館

一際、華やかなのが「色絵扇面散文茶碗」でした。地は漆黒。すなわち仁清黒です。そこへ桜や牡丹の装飾を施した扇が開いています。金や銀の色彩も目映い。デザインは至極モダンです。一面を切り取れば抽象的と呼んでも良いかもしれません。

しかし同じ仁清とは言え、全く異なる作風を見せるのが「銹絵富士山文茶碗」でした。白釉の上に銹絵で富士の頂を描いています。山の中腹には雲もかかっていました。一転して幽玄です。色絵の仁清とは別種の魅力をたたえていました。

「和漢の世界」とあるように、和だけでなく、唐物、高麗、安南なども充実。見逃せない作品も少なくありません。

うっすらとミルク色を帯びた青みが目にしみます。「青磁下蕪花生」です。南宋時代の作で、鹿島家の伝来です。胴は下部が広がり、球の形をしています。全般的に腰の低い作品です。口縁が僅かに反っていました。


「高麗写荒磯文急須」 青木木米 日本 江戸時代後期 出光美術館

さらに黄天目、灰被天目のほか、朝鮮の井戸、伊羅保茶碗なども味わい深い。伊羅保茶碗の「銘 さが野」は僅かな褐色を紅葉に見立て、「さが野」と呼ばれるようになったそうです。それにしても渋い。全体を覆う鉄色からは滋味も感じられました。


「色絵魚介文鮑形鉢」 中国 明時代末期 景徳鎮窯 出光美術館

怒涛の茶の湯コレクション。これだけでは終わりません。続くのは懐石のうちわです。中でも興味深いのは「高取斑釉割山椒形向付」でした。全部で五客。手のひらサイズながらも底の深い器です。まるで花弁のごとく、山椒の実の割れた姿を表現しています。内側に青い釉薬が滲んでいます。滝が流れているかのようでした。


「五彩十二ヵ月花卉文杯」(部分) 中国・清「大清康煕年製」銘 景徳鎮官窯 出光美術館

ラストは煎茶でした。ここでは「五彩十二ヵ月花卉文杯」が絶品です。作は中国は清の時代、景徳鎮でした。ともかく繊細な絵が素晴らしい。全12客、各1客を1月から12月に準え、それぞれの季節に合う花と詩句を描いています。

例えば2月は杏、3月は桃、4月は牡丹で5月は柘榴です。ともかく花は緻密です。肉眼では細部の描写が確認出来ないかもしれません。単眼鏡が必要なほどでした。

出展作品は140点。ほぼ全てが出光美術館の所蔵品でした。さらに特集展示として、江戸の茶人、松平不昧の道具リストである「雲州蔵帳」が、約13年ぶりに公開されています。

現在、都内では「茶の湯」と題した展覧会が同時に3展行われています。*近代美術館の「茶碗の中の宇宙」は終了しました。

いずれも会期の終盤を迎えました。またとない機会です。揃って楽しむのが良いのではないでしょうか。

「茶の湯」@東京国立博物館 4月11日(火)~6月4日(日)
「茶の湯のうつわー和漢の世界」@出光美術館 4月15日(土)〜6月4日(日)
「茶の湯の名品―破格の美・即翁の眼」@畠山記念館 4月8日(土)~6月18日(日)

5月最終週の土曜日の夕方に出かけてきましたが、場内は思いの外に賑わっていました。


6月4日まで開催されています。

「茶の湯のうつわー和漢の世界」 出光美術館
会期:4月15日(土)〜6月4日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜日は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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「ファッションとアート 麗しき東西交流展」 横浜美術館

横浜美術館
「ファッションとアート 麗しき東西交流展」 
4/15~6/25



横浜美術館で開催中の「ファッションとアート 麗しき東西交流展」を見てきました。

ファッションとアートは、近代以降の東洋と西洋において、互いに影響を与え合いながら、新たな歴史を築いてきました。


飯田髙島屋「室内着」 1906(明治39)年頃 京都服飾文化研究財団

会場内には日本、および西洋を彩ったドレスや服飾品がずらり。その数、100点です。さらに工芸、絵画、写真などの100点を加え、日本と西洋が服飾文化を、美術の観点を交えて検証しています。

冒頭から舞台は横浜でした。歌川貞秀の「横浜商館真図」です。そもそも1859年の開港以来、横浜は交易地として発展します。開港場には外国人居留地が設けられ、商館やホテルも立ち並びました。そして日本人も時に洋服を着て外国人と交流します。つまり西洋文化を早い段階で摂取したのが横浜であったわけです。

横浜側の動きも機敏です。早速、外国人向けに洋装の生産に乗り出します。その一つが椎野正兵衛商店でした。同地にて絹織物商の事業を開始し、日本初の服飾ブランドを立ち上げます。ハンカチやマフラー、ネクタイを販売、室内着などを輸出しました。一例が「輸出用室内着」です。菊の刺繍が施されています。色は茶色でした。ともすると地味でもありますが、大いに売れたそうです。日本的なデザインに魅力を感じたのかもしれません。


宮川香山「高浮彫桜ニ群鳩大花瓶」 明治前期 田邊哲人コレクション(神奈川県立歴史博物館寄託)

さらに横浜の輸出品といえば宮川香山です。同地に窯を開き、高浮彫の技法による真葛焼を生産。外国へと輸出します。西洋でも人気を博しました。ほか下総の生まれで、主に横浜から海を渡った芝山細工の飾棚なども重宝されたそうです。あわせて展示されていました。

日本で洋装を早くから受容したのは上流階級の人々でした。皇族や華族は維新後に洋装を導入します。鹿鳴館で舞踏会や音楽会が頻繁に開催されました。一方で庶民に洋装が浸透したのは関東大震災後のことでした。


鏑木清方「嫁ぐ人」 1907(明治40)年 鎌倉市鏑木清方記念美術館 *5月20日から展示

当時の女性の洋装を知るのに有用なのが絵画でした。例えば山本芳翠の「岡田けい像」です。モデルは駐英領事の園田孝吉男爵の妻です。さらに岡田三郎助や山村耕花、鏑木清方らも洋装の女性をモデルとした作品を残しています。

うち山村耕花の「婦女愛禽図」に興味が引かれました。二幅の屏風絵です。左右には確かに小鳥を愛でる女性が描かれています。しかしながらいずれも和服です。洋服は着ていません。一体、どこに洋装の要素が見られるのでしょうか。

答えは髪型でした。当時、「耳かくし」と呼ばれるスタイルが流行。これが洋装にも和装にも似合うとされたのです。何もすぐさま全てが洋装化したわけではありません。髪飾りや着物の一部に洋風の模様が取り入られていきました。

和装にも西洋的なモチーフが現れます。夏の単衣です。白地にバラやチューリップの模様が油絵風にあしらわれています。和洋折衷的と呼んでも差し支えないかもしれません。

勝田哲の「朝」が力作です。ベットの上で花柄のツーピースを着た女性が寝そべっています。手前にはレコードが置かれていました。一度、着替えては聞いているのでしょうか。朝の空気を入れるためは窓は開け放たれています。戸外に広がるのは緑です。白いレースのカーテンが僅かに揺れています。まさにモダン・ガール。実に洒落ています。戦前に最後に花開いた華美な気風を感じることが出来ました。


「昭憲皇太后着用大礼服」 1910年頃(明治末期) 共立女子大学博物館

一つのハイライトとも言えるのが「昭憲皇太后着用大礼服」です。吹き抜けの展示室をほぼ独占。肩からトレーンが3.3メートルも延びています。ゴージャスです。深い緑色も艶やがあります。もちろんモチーフは菊花でした。新年式に着用したと言われています。

ラストが西洋での受容です。いわゆるジャポニスムの展開を追いかけています。日本の美術品は、のちのアール・ヌーボー、アール・デコなどの装飾芸術にも大きな影響を与えました。


ジュール=ジョゼフ・ルフェーヴル「ジャポネーズ(扇のことば)」 1882年 クライスラー美術館

ではファッションはどうだったのでしょうか。日本製のドレスが受け入られるとともに、西洋においても日本の模様を取り入れたドレスが生産されました。

チラシ表紙を飾ったターナーの「デイ・ドレス」のモチーフは軍配です。さらに葉や椿も加わります。刺繍自体は和風です。ロンドンで日本の小袖をほどいてバッスルスタイルに仕立てあげられました。

そして非対称の模様も導入。カキツバタがアイリスに似ているとして取り入られたこともありました。一般的にデザインは平面化します。和風の柄が採用されました。中には虎の顔を大胆にプリントしたドレスもあります。またコルセットの解放にも着物の影響があったそうです。メゾンもこぞって日本の着物にインスピレーションを得たドレスを発表しました。

会場内、一部展示台のみ撮影が可能でした。(但し平日のみ)



日本の漆芸のデザインもテキスタイルへ影響を及ぼします。シャネルは漆塗りに金や銀粉を蒔いた技法に着想を得ます。またリバティ商会は螺鈿の輝きを連想させる色のドレスを販売しました。ほか青海波風の模様など、日本のモチーフをドレスの随所で垣間見ることが出来ました。



出品のドレスは「京都服飾文化研究財団」(KCI)のコレクションです。世界屈指の服飾品を有し、研究活動を行う団体です。KCIのコレクションがまとまって公開されるのは約20年ぶりのことでした。



ファッションとアート。いささかアバウトなタイトルにも聞こえますが、構成自体は練られていました。またドレスはほぼ露出での展示です。一部は360度の角度から見ることも可能です。東西文化の交流地でもあった横浜ならではの展覧会と言えるかもしれません。



6月2日(金)は横浜開港記念日のために無料で観覧出来ます。

「ファッションとアート 麗しき東西交流/六耀社」

6月25日まで開催されています。

「ファッションとアート 麗しき東西交流展」 横浜美術館@yokobi_tweet
会期:4月15日(土)~6月25日(日)
休館:木曜日。但し5月4日(木・祝)は開館。5月8日(月)。
時間:10:00~18:00
 *5月17日(水)は20:30まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1400)円、大学・高校生900(800)円、中学生600(500)円。小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体。要事前予約。
 *毎週土曜日は高校生以下無料。
 *当日に限り、横浜美術館コレクション展も観覧可。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口から徒歩5分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩約10分。
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「佐藤直樹 秘境の東京、そこで生えている」 アーツ千代田3331

アーツ千代田3331
「佐藤直樹個展 秘境の東京、そこで生えている」 
4/30~6/11



アーツ千代田3331で開催中の「佐藤直樹個展 秘境の東京、そこで生えている」を見てきました。

アートディレクターとして活動する佐藤直樹は、2012年頃から、身近な植物をひたすらに描き続けてきました。

その創作行為は今も進行中です。当初から何らかの完成を意図したわけでもなく、また画家を目指して描いたわけでもありませんでした。



結果生まれた絵画は全100メートル超。さらに約30メートルの新作も加わります。冒頭のタイトルは「そこで生えている」です。ご覧の通りのスケールです。ほぼ全ての壁面を、植物をはじめとした自然のモチーフが埋め尽くしていました。

素材は木炭。よってモノクロームです。筆はかなり密で、余白の部分は殆どありません。



一目で見て連想したのが熱帯のジャングルでした。幹の太い大木がそびえ立ち、巨大な花がむせかえるように咲き誇り、分厚い葉が力強く四方に開いています。木目しかり、葉脈の一つをとっても、線に迷いはありません。執拗なまでの描写です。何か呪術的な要素を感じたのは私だけでしょうか。そして闇が侵食します。空間を覆う無数の樹木や葉は光を遮っていました。



特に下絵も用意せず、構図も考えずに描き進めていたそうです。支持体は木の板です。キャンバスではありません。高さ1.8メートル、横1メートル弱の板を横へ繋ぎ合わせています。さながら巨大な絵巻のようでした。



大木の向こうには白波を立てては荒れ狂う海も広がっていました。まさに秘境ならぬ、人跡未踏の魔境なのかもしれません。これほどの自然にも関わらず、動物はおろか、昆虫の姿も一匹も確認出来ませんでした。



世界は未だ拡張しています。この自然の一大パノラマに終わりはやって来るのでしょうか。

会場は3部構成です。一連の大作に続くのは、新作の「植物立像図」でした。1枚の板に各1点の植物をまさしく立像のように描いています。



全26枚の連作です。一室をぐるりと取り囲んでいます。立ち並ぶ植物の様態に同じものはありません。しばらく眺めていると伊藤若冲の動植綵絵のイメージが頭に浮かびました。



ラストは最奥部の暗室です。タイトルは冒頭と同様の「そこで生えている」でした。2013年に東京電機大学跡の地下で描かれた10メートル弱の壁画を展示しています。



ここでは壁画にあわせて光と音を交えたインスタレーションも展開しています。詳しくは会場で体験していただきたいところですが、より「秘境」を、視覚、聴覚、ないし一部、触覚に引きつけて味わうことが出来ました。

インスタレーションはおおよそ10分ほどです。開始時間が毎時2回、15分と45分です。お出かけの際にはご注意下さい。


会期中、数多くのトークやライブ、パフォーマンスイベントが行われます。いずれも観覧とは別料金ではありますが、そちらに参加するのも良いかもしれません。



6月11日まで開催されています。

「佐藤直樹個展 秘境の東京、そこで生えている」@It_has_grown) アーツ千代田3331@3331ArtsChiyoda) 1階メインギャラリー
会期:4月30日(日)~6月11日(日)
休館:火曜日。
時間:12:00~19:00
 *但し5/4(木祝)、5/12(金)、5/13(土)、5/19(金)、5/27(土)、6/3(土)はイベントのため18時閉場。
料金:一般800円、シニア・学生700円、高校生以下無料。
場所:千代田区外神田6-11-14 アーツ千代田3331 1階
交通:東京メトロ銀座線末広町駅4番出口より徒歩1分、東京メトロ千代田線湯島駅6番出口より徒歩3分、都営大江戸線上野御徒町駅A1番出口より徒歩6分、JR御徒町駅南口より徒歩7分。
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「アブラハム・クルズヴィエイガス展」 メゾンエルメス

メゾンエルメス
「The Water Trilogy 2 アブラハム・クルズヴィエイガス展」 
4/21~7/2



メゾンエルメスで開催中の「The Water Trilogy 2 アブラハム・クルズヴィエイガス展」を見てきました。

メキシコシティを拠点に活動する現代アーティスト、アブラハム・クルズヴィエイガスは、「訪ねた土地のローカルな素材」(解説より)に作品を制作してきました。

では「ローカル」とは、一体どのような素材に基づくのでしょうか。



まずは新聞でした。巨大なオブジェが宙吊りになっています。全面、日本の新聞です。雑誌なども無数に重ねています。さらに割り箸や竹も使用。いずれも日本で採取したのでしょう。オブジェはまるでビルのようでした。建築的とも呼べ得るかもしれません。実際、クルズヴィエイガスは、日本での建築運動、メタボリズムを参照しているそうです。



オブジェ下部には朝顔の植木鉢がぶら下がっています。思いがけない組み合わせです。とはいえ、外光の差し込むエルメスのスペースです。会期の進行に応じて成長するのかもしれません。



「ツマミディザスター」にも身近な素材が利用されています。板に古紙、雑誌類でした。一部に建築用の廃材も利用しているのかもしれません。無数の細い棒らしきものが突き出ています。ややトゲトゲしい。鳥の巣のようでもあります。私は生け花を連想しましたが、実際はどうなのでしょうか。



最も美しく感じたのは「ブラインド・セルフポートレート」でした。青や水色、時に深緑の紙がたくさん壁に貼られています。全体では山の形を築いています。まるでモザイクタイルのようでした。

この紙自体も「ローカルな素材」でした。というのも、段ボールや新聞の切り抜きのほか、作品制作で日本に滞在した際に溜まったレシートやクーポン、また手紙やチケットなどを用いているのです。それにアクリル絵具で色をつけています。



「リソース・ルーム」でも段ボールなどを使用。農作物や資材を運ぶ手押し車までも作品に引用しています。さらに水槽の中にはウーパー・ルーパーが泳いでいました。



クルズヴィエイガスは「美的な乱雑さ(混沌)」(解説より)をルーツとしているそうです。人で溢れかえる東京にどのようなカオスを見出したのでしょうか。


7月2日まで開催されています。

「The Water Trilogy 2 アブラハム・クルズヴィエイガス展」 メゾンエルメス
会期:4月21日(金)~7月2日(日)
休廊:会期中無休。
時間:11:00~20:00 
 *日曜は19時まで。入場は閉場の30分前まで。
料金:無料
住所:中央区銀座5-4-1 銀座メゾンエルメス8階フォーラム
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅B7出口すぐ。JR線有楽町駅徒歩5分。
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「自転車博覧会2017 自転車とモード展」 伊藤忠青山アートスクエア

伊藤忠青山アートスクエア
「自転車博覧会2017 自転車とモード展~門外不出のヤガミ・コレクション」 
4/29~5/28



毎年春の恒例、伊藤忠青山アートスクエアで行われる「自転車博覧会」も、今年で6回目を数えるに至りました。

テーマは「自転車とモード」です。モードとは服飾の流行の様式を意味します。一体、自転車とどのように関係しているのでしょうか。

その例がポスターでした。というのも場内には、ビンテージ自転車の実車に加え、ほぼ同時代の自転車のポスターを展示。モデルとして男性や女性が描かれています。そこから当時のファッションを知ることが出来るわけです。


手前:「前輪駆動式トライシクル」 1884年 イギリス サイクル・ギャラリー・ヤガミ
奥:「HOWE BICYCLES TRICYCLES」(ポスター) 1878年頃 ホー自転車(フランス)製作 自転車文化センター


まず目を引くのが「前輪駆動式トライシクル」でした。近代的な三輪車は19世紀中頃に開発。しばらくしてから商業用として生産されます。そもそも三輪車は二輪車と異なり、運転に一定の技術を必要としません。よって女性や年配の男性に人気を博しました。一説では二輪よりも三輪の方が早く製作されたと考えられているそうです。

その三輪車を扱ったポスターが「HOWE BICYCLES TRICYCLES」でした。身を飾った男性が三輪車に乗っています。帽子のスカーフがなびいていました。風を切っているのでしょうか。背後で疾走する機関車と相まって、スピード感を表現しています。


「ミショー型自転車」 1868年 ピエール・ミショー製作 フランス サイクル・ギャラリー・ヤガミ

当初、自転車を愛用したのは上流階級の人々でした。「ミショー型自転車」は19世紀半ばに量産体制に入り、6年後には1000台も生産されます。レース用としても活躍します。自転車は端的な移動手段のみならず、スポーツの競技としても取り入れられました。


手前:「ピエール・アロー号」 1915年 アメリカ サイクル・ギャラリー・ヤガミ
奥:「HUMBER」(ポスター) 1900年頃 ハンバー自転車(フランス) 自転車文化センター


アメリカでは1890年代に自転車ブームを迎えます。メーカーは数千社も乱立し、年間100万台以上もの自転車が作られました。しかしのちに自動車が普及することで、市場は縮小。オートバイの生産が追い打ちをかけます。そこでオートバイのハンドルに似せたのが「ピエール・アロー号」でした。確かにハンドル部分がかなり屈曲しています。

なお「HUMBER」では、女性の自転車にのみ、後輪にネットが取り付けられていることが分かります。これはスカートが巻き込みを防ぐためのカバーです。女性が快適に乗るための工夫も随所に取り入れられました。


「子ども用馬型自転車」 1890年前後 アメリカ サイクル・ギャラリー・ヤガミ

子供用の自転車では馬のデザインが人気でした。かのモネも息子のジャンが馬の自転車に乗る姿を描いているそうです。しかし馬が一際大きい。うまく漕ぐことが出来るのでしょうか。まるでメリーゴーランドを見ているかのようでした。


「十字号」 1947年 三菱重工業 自転車文化センター

日本の古い自転車も展示されています。その名は「十字号」です。制作は戦後間もない1947年、三菱重工業が販売しました。見るからに頑丈です。終戦により廃材となった航空機用のジュラルミンを採用しました。鉄に比べて強度が50%も増しています。


「ボーデン スペース ランダー」 1950年 ベンジャミン・ボーデン製作 アメリカ サイクル・ギャラリー・ヤガミ

なにやらSF的です。アメリカの「ボーデン スペース ランダー」はどうでしょうか。1950年の試作品です。コンセプトは「THE BICYCLE OF THE FUTURE」でした。だからこそ近未来的なのでしょうか。素材がファイバーグラスです。これにより、錆びずに、腐食しない車体であることをアピールしました。しかし強度に弱点がありました。斬新なデザインではありますが、普及するには難しかったのかもしれません。


「自転車博覧会2017 自転車とモード展」会場風景

ほかには幕末明治期の東京の錦絵コレクションも展示されています。何故に錦絵かと思いきや、いずれも二輪や三輪車が描かれた作品ばかりでした。これまではあまり意識したことがありませんが、確かに錦絵には自転車がたくさん登場します。今も昔も生活に欠かせない乗り物の一つであると言えそうです。


「自転車博覧会2017 自転車とモード展」会場風景

自転車はいずれも個人の所蔵です。これまでは「一部の関係者しか見ることができなかった」(公式サイトより)そうです。だからこそ門外不出です。中には世界で2台しか現存しない一輪車もあります。自転車黎明期を飾る貴重なコレクションばかりでした。



入場は無料です。5月28日まで開催されています。

「自転車博覧会2017 自転車とモード展~門外不出のヤガミ・コレクション」 伊藤忠青山アートスクエア
会期:4月29日(土・祝)~5月28日(日)
休館:会期中無休。
時間:11:00~19:00
料金:無料。
住所:港区北青山2-3-1 シーアイプラザB1F
交通:東京メトロ銀座線外苑前駅4a出口より徒歩2分。東京メトロ銀座線・半蔵門線・都営大江戸線青山一丁目駅1出口より徒歩5分。
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「谷津バラ園」のバラが満開でした

かつては東洋一とも称された習志野の谷津バラ園が見頃を迎えています。



谷津バラ園の最寄駅は京成本線の谷津駅です。駅南口から商店街を抜け、京葉道路の高架を潜ると辿り着きます。駅からせいぜい歩いて5分ほどです。アクセスに難はありません。



敷地面積は12600平方メートル。ご覧の通り、かなり広大です。右も左もバラが咲いています。5月21日の時点でほぼ満開の状況でした。



バラ園の開業は昭和32年に遡ります。当時は京成電鉄が運営していた谷津遊園の一施設でした。昭和40年に現在の場所に移転。最盛期には1200種類ものバラが栽培されます。しかし昭和57年に谷津遊園が閉園するとバラ園も閉鎖されてしまいました。



遊園地は解体。跡地には団地が建設されます。一方でバラ園に関しては存続を求める声も多かったそうです。よって習志野市が敷地を買収し、都市公園としての谷津バラ園が整備されました。昭和63年のことでした。



現在、栽培されているバラは全800種。7500株にも及びます。また基本的に庭園は西洋式ですが、一部に和を志向した日本庭園があるのも特徴です。



皇室や王室に因むバラをはじめ、「香りの庭」と題し、香りの強いバラを集めたコーナーなどもあります。色も品種も様々です。お気に入りのバラを見つけるにはさほど時間はかかりません。



バラのアーチも人気スポットです。つるバラを誘引し、長さ50メートルものトンネルを築き上げています。



この日は快晴。気温も30度近くに達し、かなり強い日差しが照りつけていました。それゆえかバラもより華やかに映っていたかもしれません。



パーゴラのアーチにはベンチも設置され、眼下のバラ園を一望することも出来ます。千葉県内でも有数のバラの名所です。この日は多くの方で賑わっていました。



一般の入園料が370円とリーズナブルなのも嬉しいところです。園内をぐるりと一周、色に香りに楽しめるバラを見やりながら散歩しました。



バラ苗や園芸用品の販売ブースもありました。また週末を中心に園内のガイドツアーなども開催されています。そちらに参加するのも面白いかもしれません。

[谷津バラ園ガイドツアー]
開催日:5月18日(木)、21日(日)、26日(金)、28日(日)、6月2日(金)、8日(木)、11日(日)、16日(金)
時間:14:00~15:00



バラについては当面、見頃が続くと思います。公式サイト内に開花状況の案内もありました。お出かけの際にはあわせて参照下さい。

「谷津バラ園」
敷地面積:12600平方メートル
入園時間:9:00~18:00(5月1日~6月30日)、9:00~17:00(7月1日~9月30日)、9:00~16:30(10月1日~翌年4月30日)
休園日:月曜日(月曜日が祝祭日の場合は、その翌日休園)。12月28日~1月4日(年末年始)。但し5月、6月、10月~11月15日は休園なし。
入園料(5月1日〜11月15日):高校生以上370円、65歳以上180円、小・中学生100円。それ以外の期間は高校生以上180円、65歳以上90円、小・中学生50円。
問合せ:谷津バラ園管理事務所。047-453-3772
住所:千葉県習志野市谷津3-1-14
交通:京成線谷津駅下車徒歩5分。
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「アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国」 東京ステーションギャラリー

東京ステーションギャラリー
「アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国」 
4/29~6/18



東京ステーションギャラリーで開催中の「アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国」のプレスプレビューに参加してきました。

スイスの芸術家、アドルフ・ヴェルフリは、全25000ページにも及ぶ絵を描き続けることで、自らの君臨する王国を築き上げました。

生まれはベルン郊外、1864年のことです。父は酒に溺れ、母は病弱という家庭でした。貧しいゆえに幼い頃から里親を転々とします。11歳で両親を亡くし、一度は農場などで働きますが、暴行未遂事件を起こし、2年間の刑に服しました。さらに別の事件で精神鑑定を受け、統合失調症の診断を受けます。31歳で病院に収容されました。

ヴェルフリが絵を描き出したのは、収容後、4年ほど経ってからでした。医師から鉛筆と新聞用紙を与えられます。もちろん美術の教育は受けていません。はじめはあくまでも「自発的」(解説より)でした。


アドルフ・ヴェルフリ「前掛けをした神の天使」 1904年 ほか

最初期に制作されたのは計300点です。しかし当初は残すという観点がなかったのでしょう。現存するのは50点に過ぎません。一部に彩色があるものの、鉛筆ゆえにほぼモノクロームです。ともかく細部の描きこみが緻密で凄まじい。余白を埋めつくさんとばかりに描いています。

ヴェルフリ自身、鉛筆画を「楽譜」と呼び、そこに出身地の地名を意味する「シャングナウの作曲家」という署名を記しました。円形や人がフレームの中へ装飾的に収められています。むろん実際に演奏可能な楽譜ではありません。あくまでもヴェルフリの中でこそ再生することが出来る楽譜です。


アドルフ・ヴェルフリ「『揺りかごから墓場まで』第4冊 デンマークの島 グリーンランドの南=端」 1910年

その後、ヴェルフリは「揺りかごから墓場まで」のシリーズの制作に着手。全3000ページ弱の一大叙事詩を作り上げます。


アドルフ・ヴェルフリ「『揺りかごから墓場まで』第4冊 北=アマゾンの大聖堂=ヘルヴェチア(スイスの擬人像)=ハル(響き)」 1911年

主人公は少年ドゥフィです。ドゥフィとはヴェルフリの名、アドルフの愛称でした。その彼が世界中を旅し、自然や都市をはじめ、地形や距離などを記述し、体系化した上で、目録のようにまとめ上げました。つまり少年ヴェルフリの冒険物語です。彼は各地を地を歩いては、これまでにない新たな発見を成し遂げます。また時に困難に襲われるも、見事に乗り越えていきました。実際のヴェルフリの少年期は「悲惨」(解説より)なものでした。つまりそれを打ち消すべくスペクタクルな物語を創造したわけです。


アドルフ・ヴェルフリ「『揺りかごから墓場まで』第4冊 氷湖の=ハル(響き) 巨大=都市」 1911年 ほか

この頃は色鉛筆も多用したのか、彩色がかなり豊かです。詩と表による散文形式に音符が加わります。戦いあり、破壊あり、惨劇ありの物語です。その意味ではドラマチックです。絵画自体も初期作より表情豊かで躍動感もあります。画は極めて密です。膨大な情報を記しています。


手前:アドルフ・ヴェルフリ「『揺りかごから墓場まで』第5冊 アリバイ」 1911年

「揺りかごから墓場まで」の中でも一際巨大な「アリバイ」が圧巻です。全長5メートル弱。巻物状に物語が連続しています。よどみなくモチーフが増殖しては、互いに絡み合っています。まるでモザイク画や万華鏡を覗き込むかのようでした。

さてヴェルフリは冒険の成功だけでは飽き足りません。今度は未来を予言すべく、新たなシリーズの制作します。それが「地理と代数の書」でした。


アドルフ・ヴェルフリ「『地理と代数の書』第12冊 象による取るに足らない私の救済」 1914年

ここで彼は「聖アドルフ巨大創造物」なる王国を築きあげます。元手は「聖アドルフ資本資産」です。資金力は無尽蔵でした。資産の利子で地球の全てを買い上げ、支配し、宇宙にまで勢力を伸ばします。と、同時に地名も改称されます。スイスは「聖アドルフ森」、海は「聖アドルフ洋」などと改められました。彼のための森であり、海であることを意味するのかもしれません。宇宙へは「巨大透明輸送機」によって進出が果たされました。


アドルフ・ヴェルフリ「『地理と代数の書』第13冊 全能なる=巨大な=汽船 聖アドルフの揺りかご」 1915年

「聖アドルフの資本資産」の富は2000年を超えても増え続けます。まさに無限拡張の王国です。よって数も拡張し、新たな単位が設定されました。最大の単位は怒りの意を示すツォルンでした。

「聖アドルフ巨大創造物」にてヴェルフリは聖アドルフ2世を名乗ります。ここに全てを統治する王者として君臨しました。


アドルフ・ヴェルフリ「『歌と舞曲の書』第15冊 父なる=神=聖アドルフの=ハープ」 1917年 ほか

この祝祭曲として描かれたのが「歌と舞曲の書」です。全7000ページ。ドレミファの音階で、ポルカ、マズルカ、行進曲などを作曲します。音楽書のゆえに描画は控えめです。代わって雑誌の切り抜きのコラージュが登場します。ヒロイズム、美、快楽、そして富などの要素を好んで利用しました。いずれも実際にヴェルフリが得られなかったものと言っても良いかもしれません。現実は物語によって次々と書き換えられています。


アドルフ・ヴェルフリ「『葬送行進曲』 無題(恐竜)」 1929年 ほか

晩年は自らのレクイエムの作曲にも乗り出しました。「葬送行進曲」です。こちらも8000ページと膨大です。より絵の部分は減ります。コラージュのほか、抽象的でかつ音声的なリズムを描きました。「葬送行進曲」は未完です。ヴェルフリは制作の途中、病にて亡くなりました。時は1930年、66歳でした。死を間際にして涙を流しながら絵を描けないことを嘆いたそうです。さぞかし無念だったに違いありません。

「アドルフ・ヴェルフリ:二萬五千頁の王国/国書刊行会」

死から15年経過した1945年、ヴェルフリは画家のジャン・デュビュッフェにより、いわゆるアール・ブリュットの芸術家として紹介されました。今ではアウトサイダーアートの先駆的存在として位置付けられています。


「アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国」会場風景

このスケールにてヴェルフリの芸術が紹介されるのは日本で初めてのことです。また一見、自在に描いているようなモチーフにも、帯や平面処理、ないし環の部分に一定のルールが存在します。その部分を解説する「ヴェルフリの形態語彙」と題したシートも会場で配布されています。あわせて参照するのも良さそうです。

ヴェルフリの膨大な絵画世界に入り込むことは容易ではありません。暗号、ないし記号的な描写も多数。読み解くことは困難です。ただそれでも少年期の冒険にはじまり、無限の富を築き、世界を支配し、宇宙を目指し、さらに音楽家として活動しようとしたヴェルフリの野心は、確かに絵画の中で実現しています。その大胆でかつあまりにも旺盛な想像力には圧倒されるものがありました。

6月18日まで開催されています。

「アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国」 東京ステーションギャラリー
会期:4月29日(土)~6月18日(日)
休館:月曜日。但し5月1日は開館。
料金:一般1100(800)円、高校・大学生900(600)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「茶の湯」 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館
「茶の湯」
4/11~6/4



東京国立博物館・平成館で開催中の「茶の湯」を見てきました。

12世紀頃、中国に由来する点茶と呼ばれた喫茶法が、日本の禅宗寺院や武家の間にも広がりました。

まさに茶のオールスター。総出展数は250点を超えます。(展示替えあり)茶に関する文物が平成館の広大なスペースを埋め尽くしていました。


重要文化財「遠浦帰帆図」 牧谿 中国 南宋時代・13世紀 京都国立博物館 *展示期間:5月9日〜5月21日

はじまりは12〜13世紀です。いきなり牧谿(伝を含む)が4点も出ていました。うち「遠浦帰帆図」が見事です。中国の洞庭湖一帯を描いた瀟湘八景図の一枚でした。右手には広い水面が広がり、二艘の帆船も浮かんでいます。手前の陸には楼閣が立っていました。驟雨でしょうか。湖面がやや雨で霞んでいる上、木々も枝を揺らしています。ともかく墨のニュアンスが素晴らしい。湿潤な大気が画面から伝わってきました。

茶の世界で尊ばれたのは中国由来の美術品、すなわち唐物でした。いきなりの目玉が登場です。国宝の「油滴天目」が展示されていました。


国宝「油滴天目」 中国・建窯 南宋時代・12〜13世紀 大阪市立東洋陶磁美術館

所蔵は大阪の東洋陶磁美術館です。ひしめき合う斑模様の端正な美しさといったら比類がありません。やや強めの照明です。見込みは水色から紫、一方で外周は深い群青に染まっているように見えます。秀次所持とも伝えられる作品です。照明器具のない時代、一体どのように映ったのでしょうか。

なお同じく国宝の「曜変天目 稲葉天目」の出展は終了しました。6月17日より所蔵先の静嘉堂文庫美術館で公開が予定されています。


重要文化財「青磁輪花茶碗 銘 馬蝗絆」 中国・龍泉窯 南宋時代・13世紀 東京国立博物館

「青磁輪花茶碗 銘 馬蝗絆」が忘れられません。義政の所持です。ひびが入ったため、中国へ替るものを求めるも、鎹を打って送り返されたというエピソードはあまりにも有名です。それを蝗に見立てました。ミルク色を帯びた水色が透き通っています。うっすら光を放っているかのようでした。

15世紀になると町衆が力をつけ、一部の茶人らが唐物だけでなく、日常の道具を茶に取り入れはじめます。いわゆる侘茶でした。


重要文化財「灰被天目 銘 虹」 中国 明時代・14〜15世紀 文化庁

当初、評価が低かった器にも新たな価値が見出されます。一例が「灰被天目 銘 虹」でした。確かに曜変や油滴ほどの輝きはありません。しかしながら群青に柿色が沈み込むような色には渋みがあります。ここに美を見たのかもしれません。


「黄天目 珠光天目」 中国 元〜明時代・14〜15世紀 永青文庫

侘茶の祖、村田珠光が所持したと伝えられるのは「黄天目 珠光天目」です。下釉の色が黄色を帯びています。高台の上あたりで釉薬が緩やかな曲線を描いていました。この黄天目も灰被天目同様、侘茶の流行により再評価されました。

唐物から高麗物、そして和物へと茶湯道具の志向も変化します。朝鮮の「雨漏茶碗」に魅せられました。全体は白、ないしクリーム色です。そこに気泡が生じて、雨漏り状の模様が浮き上がっています。腰に亀裂が走っていました。偶然でしょうか。そこに染みが広がっています。雨漏り状の粒が実、染みが葉とすれば、まるで葡萄を表したかのようです。器へ色々と自由に景色をイメージするのも楽しいかもしれません。

侘茶を大成したのが千利休でした。会場では「利休が取り上げたもの」と「利休の創造」の2つに分け、利休に因む様々な茶道具を紹介しています。

ここでは何と言っても長次郎です。赤楽に黒楽。全6点が2点ずつ互いに対になるように展示されています。


重要文化財「黒楽茶碗 銘 ムキ栗」 長次郎 安土桃山時代・16世紀 文化庁

まずは赤楽です。「銘 白鷺」と「銘 一文字」が並んでいます。ともに手の中にすっぽりと収まるような小ぶりの茶碗です。次いで黒楽の「銘 ムキ栗」と「口寄香炉」と続きます。「ムキ栗」は上部が正方形という独特の形をしています。一方で香炉は円形でした。「ムキ栗」との形の対比が面白いのではないでしょうか。

ラストも黒楽、「万代屋黒」と「銘 俊寛」でした。後者は長次郎の黒楽の「代表作の一つ」(解説より)です。腰がともかく低く、どっしりと構えています。両者で黒の色味に違いがありました。「万代屋黒」はややマットで古色を帯びているのに対し、「俊寛」はともかく艶やかで、黒が強く主張をしているようにも見えます。一言に黒楽といえども、その表情は多様でした。


国宝「志野茶碗 銘 卯花墻」 美濃 安土桃山時代・16〜17世紀 三井記念美術館

それにしても名品揃いです。光悦の「黒楽茶碗 銘 時雨」に「志野茶碗 銘 卯花墻」などと、一つ一つ挙げていくとキリがありません。右に左に目移りするほどでした。

江戸時代では小堀遠州や松平不昧などにも着目。「古典復興」として茶の湯の新たな動向を紹介しています。


重要文化財「色絵若松図茶壺」 仁清 江戸時代・17世紀 文化庁

任清の「色絵若松図茶壺」が目立っていました。任清黒と呼ばれる闇を背景に、山々や若松、それに桜や椿を描いています。金と銀も眩い。見るも鮮やかなです。任清は「茶人金森宗和のもとで天皇や公家好み」(解説より)の茶陶を制作しました。

ラストの第5章、「新たな創造」の展示が少し変わっています。というのも、茶に深く関わった近代の4名の実業者を取り上げているものの、1人ずつを2週毎に分けて紹介しているからです。

その人物とは平瀬露香、藤田香雪、益田鈍翁、原三溪の4名でした。いずれも茶の湯の数寄者で知られています。既に藤田香雪と益田鈍翁の展示は終了。現在は大阪の金融界の重鎮だった平瀬露香に因んだ作品が展示されています。(5月21日まで。以降、会期最終日までは原三溪。)


「伊羅保片身替茶碗 銘 千種伊羅保」 朝鮮 朝鮮時代・16〜17世紀 個人蔵 *展示期間:5月9日〜5月21日

平瀬の屋号、千種屋の名の記された「伊羅保片身替茶碗 銘 千種伊羅保」も興味深いのではないでしょうか。朝鮮の高麗茶碗です。日本からの注文で焼かれたとされています。胴の部分の色が縦に分かれています。シンプルながらもモダンな感覚も感じられました。


この規模での茶関連の展覧会は、昭和55年の「茶の美術」(東京国立博物館)にまで遡らなくてはなりません。37年ぶりです。残念ながら展示替えまでは追えませんが、集大成に相応しい内容と言えるかもしれません。


「梅竹図真形釜」 芦屋 室町時代・15世紀 公益財団法人美術工芸振興佐藤基金

なお総合文化展こと常設展示室内にも茶関連の品が何点かありました。


「志野網干文水指」 美濃 安土桃山〜江戸時代・16〜17世紀 個人蔵

志野の茶碗に水指、芦屋釜のほか、灰被天目、また薩摩の黒釉茶碗などの目を引く作品も少なくありません。常設展とあわせて楽しむのが良さそうです。

「茶碗の中の宇宙」を開催中の東京国立近代美術館との間に無料シャトルバスが運行されています。



「東京国立博物館×東京国立近代美術館 コラボ企画 無料シャトルバス運行」(5月21日まで)

所要時間は30分。上野、竹橋間のダイレクトアクセスです。案内によれば、13時半、14時の便は発車20分前に満席になる傾向があるそうです。

会期は残り1ヶ月を切りました。展示は膨大です。時間に余裕を持ってお出かけ下さい。



6月4日まで開催されています。

「茶の湯」@chanoyu2017) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:4月11日(火)~6月4日(日)
時間:9:30~17:00。
 *毎週金・土曜は21時まで、日曜は18時まで開館。
 *GW期間中の4月30日(日)、5月3日(水・祝)~5月7日(日)は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し5月1日(月)は開館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生900(600)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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「津村耕佑展 RECOMBINATION」 スパイラルガーデン

スパイラルガーデン
「津村耕佑展 RECOMBINATION」 
5/10〜5/21



スパイラルガーデンで開催中の「津村耕佑展 RECOMBINATION」を見てきました。

ファッションデザイナーの津村耕佑は、突起とスリットを持つピースを組み合わせた「パズルウエアー」を用いて作品を作り続けています。

さてパズルウエアーとは如何なるものでしょうか。率直なところ想像を遥かに超えていました。



ご覧の通りです。突起物を持ったピースがマネキンを覆っています。この一つ一つが「パズルウエアー」でした。各々は分離、接合が可能です。素材も色も様々です。衣服の素材はもちろん、工業用の資材、さらには国旗などを利用しています。



ピースは細胞分裂から着想を得て制作されたそうです。確かにマネキンを半ば侵食するかのように広がっていました。



ピースのパターンは全部で4つあるのでしょうか。作品は実に独創的です。服の一般的な用途を超えています。その一つがジーンズでした。生地の一部をピースでくり抜き、さらにほかの赤い生地のピースと合わせては、新たな造形を生み出しています。



いわゆるプチプチこと緩衝材を利用した作品が多いのも特徴です。会場では実際に使われたピース、「プチプチタングル」も販売。ラッピングや装飾などに利用することが出来ます。



展示ではプチプチを装飾、ないしオブジェとして見せていましたが、より実用的なテーブルウエアや小箱、また玩具として活用することが可能です。アイデア次第では思いがけない用途が見つかるかもしれません。

緩衝材はクッションです。単に服は身を飾るだけでなく、衝撃から身を守るという重要な役割も果たしています。そこに津村はファッションの機能の意味を問い直しています。

さてパズルウエアーを用い、津村が別に手がけているのが「Re ART project」です。



壁に展示されているのはたくさんのキャンバス、すなわち絵画です。元々は計8名の作家による作品ですが、何らかの事情から、いずれも不要になったものばかりでした。それを津村はパズルウエアーの金型でくり抜き、新たな作品として蘇らせています。



かなり手を加えています。中にはフレームのみ残り、キャンバス地の原型を留めていないものもありました。元の作品を想像しながら見るのも楽しいのではないでしょうか。


5月21日まで開催されています。

「津村耕佑展 RECOMBINATION」 スパイラルガーデン@SPIRAL_jp
会期:5月10日(水)〜5月21日(日)
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:港区南青山5-6-23
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅B1出口すぐ。
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「川原慶賀の植物図譜」 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
「ロシア科学アカデミー図書館所蔵 川原慶賀の植物図譜」 
4/8~5/21



江戸時代後期、長崎の地で、シーボルトの要請を受けては、植物の写生に勤しむ一人の絵師がいました。

それが川原慶賀です。生まれは天明6年。長崎の町絵師として活動し、出島への出入りも許されます。その画力が知れ渡ったのでしょう。当時、日本の植物をヨーロッパに紹介しようと考えていたシーボルトから、植物画の制作の依頼を受けました。

結果、シーボルトは1000点以上もの植物の絵を持ち帰ります。現在はロシア科学アカデミー図書館の収蔵です。うち125点が里帰りして来ました。


川原慶賀「ツクシシャクナゲ」 1824〜1828年頃 ロシア科学アカデミー図書館

一連の植物図譜が殊更に魅惑的でした。まずは写実性が高い。そして何よりも緻密です。細い葉脈から茎のうぶ毛、花弁に蕊も事細かに描いています。また彩色も繊細です。遠目からではまるで本物の押し花かと錯覚するほどでした。


川原慶賀「植物図譜 ビワ」 1824〜1828年頃 ロシア科学アカデミー図書館

慶賀は陰影や明暗表現を西洋画に学びます。例えば長崎の特産でもあるビワです。果実に影を描き入れることで、その立体感を表すことに成功しています。また近代的な植物学に基づいているのもポイントです。植物を単に写しているわけではありません。一つの図に、植物の全体図だけでなく、花弁や実、また根などの解剖図を描き加えています。こうすることで植物の形態を多角的に捉えることが出来ます。


川原慶賀「植物図譜 ヤブコウジ」 1824〜1828年頃 ロシア科学アカデミー図書館

一方で墨線をあえて残したり、別の実と重ね合わせたりするなど、絵画的な志向を見せているのも面白いところです。植物図譜だけで120点超。かなりのボリュームです。しかも質に殆ど差がありません。極めて均一です。シーボルトも出来栄えに納得したのではないでしょうか。解説に「慶賀の目はカメラの目」とありましたが、あながち誇張とは思えませんでした。

さて「川原慶賀の植物図譜」展は、何も植物図譜だけで構成されているわけではありません。というのも、慶賀自身、植物画以外の作品を数多く残しているからです。


川原慶賀「年中行事絵」より 19世紀 長崎歴史文化博物館

一例が「人の一生」でした。10点以上の連作です。出産にはじまり、宮参り、お見合い、結納、縮減、病臥、死去、葬列、送り火といった、日本人の一生を描いています。

「出産」の構図は吹抜屋根でした。大和絵の絵巻を連想させます。「お見合い(出会い)」では、店先の縁側でくつろぐ男たちが、行き交う女性の一行を見やっています。「結納」の場面は夜でした。結納品を載せた輿が到着し、仲人と主人が挨拶を交わす様子を表しています。面白いのが「死去」でした。居室では家人が床に伏せた死者を嘆き悲しむ一方、家の先ではやれやれといったような表情をした医者が籠に乗ろうとしています。あえて対比的に描いたのでしょうか。何やら風刺的でもありました。

また「年中行事絵」では長崎の風俗や情景を表現。花見や七夕、観菊会などの、今の日本でも馴染みのある風俗をはじめ、「陸ペローン」といった長崎の伝統的な祭りなどを克明に表しています。


川原慶賀「長崎の年中行事 子供中、陸ペローン」 19世紀 長崎歴史文化博物館

これらは何故に制作されたのでしょうか。答えはオランダ人の依頼でした。というにも、出島で生活していたオランダ人は、外に出て日本人と交流することは叶いません。しかし日本人の生活には強い関心を抱いていました。そこで慶賀の絵が重宝されたわけです。一説ではオランダ人の旺盛な要求に応えるために工房を構えていたとも言われています。


川原慶賀「蘭館紅毛芝居絵巻」 1820(文政3)年頃 黒船館

「人の一生」で死に関する主題が多いのは、オランダ人が日本人の死にとりわけ興味を持っていた現れでもあるそうです。一方で出島ではオランダ人の肖像画も制作しています。それらは長崎を訪ねた日本人らの鑑賞の対象となりました。鋭い観察眼を持つ慶賀はともかく器用な画家です。日蘭双方の注文を見事にこなしています。

町絵師ゆえか没年は不明。墓所もわかっていないそうです。しかし植物画だけでなく、長崎の風俗を描いた絵画も面白い。西洋画と日本画を時に折衷させたような技法も見逃せません。


「狩野家及南画家寄合画帖」 1841(天保12)年頃 個人蔵

狩野派や土佐派の絵師、20名超の合作、「狩野家及南画家寄合画帖」にも慶賀は絵を寄せています。コウシンバラと小禽の組み合わせです。これも優品です。一つの花鳥画として洗練されていました。


江戸の長崎に慶賀あり。再評価の機運も高まるやもしれません。作品の魅力はもとより、その足跡を含め、発見の多い展覧会でした。

[ロシア科学アカデミー図書館所蔵 川原慶賀の植物図譜 巡回予定]
下関市立美術館:8月5日(土)〜9月24日(日)
長崎歴史文化博物館:10月7日(土)〜11月26日(日)



5月21日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。

「ロシア科学アカデミー図書館所蔵 川原慶賀の植物図譜」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:4月8日 (土) ~ 5月21日 (日)
休館:月曜日。但し3月20日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大高生800(640)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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「大エルミタージュ美術館展」 森アーツセンターギャラリー

森アーツセンターギャラリー
「大エルミタージュ美術館展 オールドマスター西洋絵画の巨匠たち」
3/18~6/18



「美の百科事典」とも称されるエルミタージュ美術館のコレクションが、六本木の森アーツセンターギャラリーへやって来ました。


ウィギリウス・エリクセン「戴冠式のローブを着たエカテリーナ2世の肖像」 1760年代
©The State Hermitage Museum, St Petersburg, 2017-18


タイトルの「オールドマスター」が全てを表します。実際のところ、エルミタージュ展は以前から度々開催。最近では2012年(国立新美術館)にも行われました。その時は「西欧絵画400年」と題し、ルネサンスからバロック、ロココ、印象派を経由して、マティスなどの20世紀絵画までを網羅していました。

一方で今回はどうでしょうか。起点は同じくルネサンスです。ただし終点は1点を除いて18世紀絵画でした。だからこそオールドマスターです。印象派以降の作品はありません。

冒頭はイタリア絵画です。「聖チェチリア」に惹かれました。描いたのはカルロ・ドルチ。国立西洋美術館の「悲しみの聖母」(常設展示)でもお馴染みの画家です。音楽家の守護聖人をチェンバロを弾く女性として表しています。ドレスの質感も美しい。「悲しみの聖母」では底抜けの青が特徴的ですが、「聖チェチリア」では深い緑色を帯びたドレスが殊更に魅惑的でした。表情はまさしく優美です。細くか弱い指先で鍵盤を叩いています。


ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「羽飾りのある帽子をかぶった若い女性の肖像」 1538年
©The State Hermitage Museum, St Petersburg, 2017-18


ティツィアーノ・ヴェチェッリオの「羽飾りのある帽子をかぶった若い女性の肖像」も優品です。モデルはかのウルビーノのヴィーナスに近いことから、ティツィアーノの恋人ではないかと指摘されています。両手で羽織るのはビロードのコートです。右手でコートを胸の辺りに寄せています。白いダチョウの羽根飾りをつけた帽子もゴージャスでした。いささか無表情です。緊張しているのでしょうか。口をやや強めに閉じています。

ポンペオ・ジローラモ・バトーニの「聖家族」も目を引きました。中央が聖母です。幼きキリスト同様、真っ白な肌を見せています。光も当たっていて輝かしい。聖アンナはキリストに手を差し出し、洗礼者ヨハネがキリストを見据えています。窓のそばで書物を手にするのが父ヨセフです。思いの外に険しい表情をしています。バトーニは「イタリア最後のオールドマスター」(解説より)とも呼ばれているそうです。18世紀のローマで活動しました。


レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン「運命を悟るハマン」 1660年代前半
©The State Hermitage Museum, St Petersburg, 2017-18


続くのはオランダ絵画です。まず目立つのがレンブラントの「運命を悟るハマン」でした。胸に手を当て、さも気落ちしたように立つのがハマンです。足元がふらついているのか、よろけているようにも見えます。運命とは死です。王の右腕として活動しながらも、不興をかい、極刑を言い渡されます。背後にはレンブラントならではの深い闇が広がります。ターバンや衣服からは重厚感も感じられました。


ピーテル・デ・ホーホ「女主人とバケツを持つ女中」 1661-1663年頃
©The State Hermitage Museum, St Petersburg, 2017-18


オランダでは、ホーホ、ヤン・ステーン、メツーにも優品が揃います。ピーテル・デ・ホーホの「女主人とバケツを持つ女中」はどうでしょうか。戸外の一コマ、なんら変哲のない日常の風景を描いています。真ん中に座るのが女主人です。そこにやや緊張した面持ちの女性がバケツを抱えて来ています。中には魚が入っていました。夕食のための食材かもしれません。壁の煉瓦の質感も巧みです。扉の留め金は錆び付いているようにも見えます。手前の床の碁盤の目から、半開きの格子戸を超え、木立の向こうには別の邸宅が開けています。遠近感のある空間表現にも隙がありません。

フランドル絵画では、ルーベンス、ヨルダーンスらに加え、テニールス(2世)が充実していました。彼だけで5点です。出展画家中、最も多くの作品が展示されています。


ダーフィット・テニールス(2世)「厨房」 1646年
©The State Hermitage Museum, St Petersburg, 2017-18


うち最大なのが「厨房」でした。広い厨房です。多くの人が忙しなく食材を持ち、竃では火を焚べています。しかしながら主役は彼らではありません。ともかく目立つのは犬です。何故に厨房にこれほどの犬を描いたのでしょうか。テニールスの関心は明らかに犬などの動物にあります。


フランシスコ・デ・スルバラン「聖母マリアの少女時代」 1660年頃
©The State Hermitage Museum, St Petersburg, 2017-18


スペイン絵画は少数ながらも、フランシスコ・デ・スルバランの「聖母マリアの少女時代」が絶品でした。まだ幼いマリアが天を仰いで祈りを捧げています。6〜7歳ほどでしょうか。しかしながら眼差しは真剣そのものです。その敬虔な祈りが伝わってきます。刺繍の最中なのでしょう。手元には白い布に糸も垣間見えました。対比的なのが赤い衣服です。のちのキリストの死を暗示しています。これほど優美なマリアもほかになかなかありません。

展示中で一番多くを占めるのがフランス絵画でした。プッサンにシャルダン、ロランにユベール・ロベールなど、20点超の作品が揃っていました。


ルカス・クラーナハ「林檎の木の下の聖母子」 1530年頃
©The State Hermitage Museum, St Petersburg, 2017-18


チラシ表紙も飾るクラーナハの「林檎の木の下の聖母子」はラストでの展示です。幼きキリストは、右手でパンを、左手でリンゴを握っています。そして聖母の後ろにはリンゴがたわわに実っていました。むろん原罪、そしてキリストの贖罪のシンボルです。聖母のブロンドの髪が鮮やかに浮かび上がります。背後に見えるのはドナウ川だそうです。木々の生い茂る緻密な風景もクラーナハならではの表現と言えるかもしれません。

出展は85点。全てエルミタージュ美術館の常設で展示されている作品ばかりです。派手さこそありませんが、さすがに粒は揃っています。一定の充足感はありました。

なお現在、映画「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」も公開中です。



「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」(@hermitage0429
http://www.finefilms.co.jp/hermitage/

同美術館の歴史、ないしコレクションに迫った良質のドキュメンタリーです。展覧会と映画をあわせて観覧するのも良いのではないでしょうか。

GW中の祝日に出かけてきました。

同じく森タワー内で開催中のマーベル展には長蛇の列が出来ていましたが、エルミタージュ展は行列とは無縁です。スムーズに入場出来ました。


バルトロメ・エステバン・ムリーリョ「幼子イエスと洗礼者聖ヨハネ」 1660年頃
©The State Hermitage Museum, St Petersburg, 2017-18


場内は一部に通路状のスペースがあり、やや混み合うこともありましたが、どの作品も概ね好きなペースで見られました。

[大エルミタージュ美術館展 オールドマスター 西洋絵画の巨匠たち 巡回予定]
愛知県美術館:2017年7月1日(土)~9月18日(月・祝)
兵庫県立美術館:2017年10月3日(火)~2018年1月14日(日)


6月18日まで開催されています。

「大エルミタージュ美術館展 オールドマスター 西洋絵画の巨匠たち」@Dai_hermitage) 森アーツセンターギャラリー
会期:3月18日(土)~6月18日(日)
休館:5月15日(月)
時間:10:00~20:00
 *但し火曜日は17時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1300(1100)円、高校・中学生800(600)円。小学生以下無料。
 *( )内は15名以上の団体料金
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
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「蜷川実花 うつくしい日々」 原美術館

原美術館
「蜷川実花 うつくしい日々」 
5/10~5/19



原美術館で開催中の「蜷川実花 うつくしい日々」のプレビューに参加してきました。

写真家の蜷川実花は、父で演出家の蜷川幸雄の死に向き合う日々を、ひたすらカメラにおさめ続けました。それは彼女をして「逝く人の目で撮った」ものであり、「どうして撮れたのかわからない」というほどの、穏やかで「うつくしい」写真でした。*「」内は解説より。

父の幸雄が亡くなったのは2016年の5月です。以来、ちょうど1年。その日々を捉えた写真が原美術館にやって来ました。

さて蜷川実花の写真展として思い出すのが、2015年、同じく原美術館で開催された個展「Self-image」です。

金魚や花に象徴される鮮やかな色彩が所狭しと埋め尽くすとともに、一転してのモノクロームでポートレートなどを表現。いわゆる蜷川カラーに加え、新たな展開を見せた挑戦的な展覧会でもありました。

そして今回です。明らかに以前の作品とは一線を画しています。まず例のヴィヴィッドな極彩色はほぼ見られません。代わって存在するのは、淡くて柔らかく、また温かみのある光でした。



桜が満開です。淡いピンクを帯びた花が咲いています。背景には水色の空が広がっています。光は白く眩い。まるで桜を祝福するかのように降り注いでいました。



草花は可憐です。白い藤のカーテンが僅かに風に揺られています。イメージは必ずしも明瞭ではありません。薄いヴェールに包まれているかのようです。時に朧げに対象を捉えていました。



明るい空、芽吹く若葉、さらに桜や藤など春の気配が随所に滲み出しています。確かに美しい。春は何故にこうも魅惑的なのでしょうか。

キャプションは皆無です。よって場所や場面の特定は出来ません。それでも伝わるのは死を間近に控えた父の存在でした。



例えば亡くなる直前の心電図です。さらにむくんだ父の手そのものを写しています。蜷川はこれらの作品を発表するか最後まで迷ったそうです。「センチメンタルになり過ぎる」とは彼女の言葉でした。確かに儚く、物悲しい。ただそれでもあえて取り入れました。

病院と思しき建物や病室と思われる場所も捉えています。極めてプライベートな空間です。一つ一つの写真に父と娘の視点が重なりあっているのかもしれません。



父が倒れた時、蜷川の子どもが生まれた時期と重なったそうです。80歳の父と0歳の子の間に自身が存在します。そこに彼女は「生命をつないでいくこと」を見出しました。



必ずしも明示されているわけではありませんが、写真から何らかのストーリーを感じたのは私だけでしょうか。まるで父と娘によるドラマを追っているかのようでした。



最後に交差点を捉えた一枚に目がとまりました。道路には蜷川自身の影が写っています。とすれば隣に立つのは小学生という息子なのでしょうか。ともに前を向き、交差点を進もうとしています。ここに未来への歩みが投影されているのかもしれません。


「うつくしい日々」出品作品に限り、撮影が可能です。ただしフラッシュ、動画のほか、常設展示作品は出来ません。ご注意下さい。

「うつくしい日々/蜷川実花/河出書房新社」

写真集「うつくしい日々」(河出書房新社)も刊行されました。よほど思い入れがあるのでしょう。蜷川が「代表作」ともなり得ると自負しています。



スケジュール上の都合から開催は極めて短期間です。僅か10日間しか展示されません。

5月19日まで行われています。

「蜷川実花 うつくしい日々」 原美術館@haramuseum
会期:5月10日(水)~5月19日(金)
休館:会期中無休。
時間:11:00~17:00。
 *水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
 *原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
 *20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
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「アートで解明!空気の正体」 川口市立アートギャラリー・アトリア

川口市立アートギャラリー・アトリア
「アートで解明!空気の正体」 
3/11~5/14



川口市立アートギャラリー・アトリアで開催中の「アートで解明!空気の正体」を見てきました。

アートの立場から「くうきさんに迫る」(公式サイトより)という異色の展覧会です。一体どのようにして「くうきさん」なる存在を掴み取っているのでしょうか。

奥中章人が利用したのはポリオレフィンフィルムです。入口から行く手を阻むかのように透明な膜が広がっています。かなりごわついて、厚みもあります。係の方の案内に従い、恐る恐る膜を開けて入ってみました。


奥中章人「Inter-world-sphere」 2017年

中は小部屋です。周囲は全て膜で覆われています。触ってみると弾力があり、すぐさま押し返されました。ようは膜の中に終始、送風機で空気を送り込んでいるわけです。その空気をポリオレフィンフィルムの膜を通して触ることが出来るという作品でした。


奥中章人「Inter-world-sphere」 2017年

それにしてもかなり弾みます。うっかりしていると足元も危うくなりました。空気に包み込まれるというよりも、跳ね返されるかのようでした。

なお小部屋は指定のルートのみ行き来可能です。矢印が付いています。膜をめくっては前へと進み、左右から押し込んでくる空気の感触を味わいました。

布で空間、ひいては空気の存在を可視化させたのが大巻伸嗣です。タイトルは「Liminal Air Space-Time」。下部に設置されたファンによって布は常に上下へと動いています。


大巻伸嗣「Liminal Air Space-Time」 2017年

布の動きは予測不能。姿形をさながら自在に変えています。ふんわりと軽やかに舞ったかと思えば、くるくると回転するように下がってきます。しばらく眺めていると布自体が生動し、さながら踊っているようにも見えました。素早い身のこなしです。気持ち良さそうでした。



同種の作品は以前、森美術館の「シンプルなかたち展」(2015年)にも出展されましたが、心なしか今回の方が、よりスケールが増しているようにも感じられました。


本間純「春夏秋冬」

本間純は映像ほかコラージュで自然の景色を表現。とりわけパフォーマンス映像の「春夏秋冬」からは確かに風、ないし空気の流れを感じることが出来ました。



5月14日まで開催されています。

「アートで解明!空気の正体」 川口市立アートギャラリー・アトリア
会期:3月11日(土)~5月14日(日)
休館:月曜日。但し3月20日は開館。翌21日は休館。
時間:10:00~18:00。
 *土曜日は20時まで開館。
料金:300円。(パスポート制。会期中何度でも再入場可。)高校生以下無料。
住所:埼玉県川口市並木元町1-76
交通:JR線川口駅東口から徒歩約8分。
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「いちはらアート×ミックス2017」(後編:アートハウスあそうばらの谷、月出工舎、内田未来楽校)

千葉県市原市南部地域
「いちはらアート×ミックス2017」
4/8~5/14



「前編:市原湖畔美術館、IAAES 旧里見小学校、森ラジオステーション」に続きます。「いちはらアート×ミックス2017」へ行ってきました。

「いちはらアート×ミックス2017」(前編:市原湖畔美術館、IAAES 旧里見小学校、森ラジオステーション)

月崎を過ぎるとほぼ山道です。出発地の五井は海近くの平地でした。しばらく進むと谷戸の地形となり、養老渓谷近くでは丘陵地帯へと変化します。市原は広大です。表情も多様で、起伏に富んでいます。



養老渓谷の展示は1点です。会場は養老川近くに建つアートハウスあそうばらの谷でした。ちなみに「あそうばら」とは地名の朝生原に由来します。



アートハウスあそうばらの谷は築100年を超える古民家です。養老渓谷駅より駅側の小道を抜け、踏切を越えて右折。急な坂を下ると赤いトラス橋が見えてきます。



眼下の養老川の新緑も眩しい。駅近くの駐車場から歩いて10分弱でアートハウスあそうばらの谷に到着しました。

アートハウスで展示を行っているのが鈴木ひらくです。反射板やステンレスなどを素材とした立体作品などを制作しています。タイトルは「道路」でした。



いきなり登場するのが反射板です。円形や直線、中にはL字型に組み合わされているものもあります。光を受けてはキラキラと瞬いていました。古びた和室とメタリックな反射板の組み合わせも面白いのではないでしょうか。見る角度によって光の向きは多様に変化していきます。



作品リストに「フラッシュ撮影をお試しください。」との案内がありました。早速、フラッシュで撮影してみます。するとどうでしょうか。より光が強く浮き上がります。宝石のように輝いていました。



暗室も効果的です。会場の奥では映像のほか、紙やLEDを用いた作品も展示しています。うち魅惑的なのが「永昌寺トンネル」でした。月崎近くの素掘りのトンネルの壁面をフロッタージュの技法で紙に写し取っています。



まるで闇の中に異界へと続く穴がぽっかりと開いているかのようです。白く、妖しい光を呼び込んでいます。しばし光に誘われるかのように見入りました。



なおアートハウスあそうばらの谷には、地元のJAの女性部によるレストラン「おもいでの家」が出店中です。地元食材を利用した食事の提供もあります。但しラストオーダーが14時と早めです。ご注意ください。

養老渓谷の後は月出工舎を目指しました。月出地区は市原市内南西部の丘陵部にあります。養老渓谷からは細い山道を経由して30分弱ほどです。会場は2007年に閉校となった旧月出小学校でした。



建物の裏手は崖です。左に校舎があり、校庭を挟んで右にプールがありました。周囲は一面の緑が生い茂ります。アート×ミックス内でも最も自然に囲まれていると言えるかもしれません。



入口でカラフルなオブジェが出迎えてくれました。岡田杏里の「脳内原始旅vol.2」です。赤や青の鮮やかな原色が目に飛び込んできます。作家はメキシコを拠点に活動。「森羅万象の旅」(解説より)をテーマとした作品を作り続けています。



近年は国内外の小学校で地域参加型のプロジェクトも展開しているそうです。人や馬、それにトーテムポールもモチーフです。まさしくプリミティブ。不思議な動植物のモチーフが祝典的な雰囲気を生み出していました。



岡博美の「たゆたう」も美しいのではないでしょうか。素材は布です。卵型のバスタブのように吊り下がっています。一部は藍色、ないし水色を帯びています。そして窓も一面の布で覆われていました。今度は黄色や紫などの色が滲んでいます。



窓から布を通した光は柔らかい。光に包まれるような感覚を覚えます。水玉の色が重なり合っては美しいグラデーションを描いていました。



食をテーマにしたのが「風景と食設計室 ホー」でした。「ホー」は高岡友美と永森志希乃によるユニットです。円卓のテーブルには、ナイフやフォーク、グラスやメニューがセットされていました。



1つは手紙を書く席でした。一方では朗読をヘッドホンで聴くことが出来ます。タイトルは「月出る処、今と昔Vol.2~月出への手紙」です。観客は月出に宛てた手紙を書くことで参加することが出来ます。冊子には月出地区に関する風習などのエピソードが記されていました。

月出工舎は屋外も見逃せません。場所や地形を利用した大掛かりなインスタレーションが展示されています。



まず目を引くのは白いテントです。「火処の大屋根」でした。前回の芸術祭でかまどを作ったチョウハシトオルが、今度は屋根作りに挑戦しました。火や食をテーマとしたワークショップなどが行われます。



プールに巨大な彫刻がそびえたちます。岩間賢の「うたつち」です。円錐とウサギの耳のような形をした彫刻が2点、前後に置かれています。それにしても大きい。一体高さは何メートルあるのでしょうか。



中へ降りて近くことも可能です。風雨にさらされているからでしょうか。一部は既に剥落。ひび割れも生じています。一見したところの質感は土です。初めは紛れもなく粘土だけで出来ているのかと思いました。

素材を知って驚きました。何と粘土の一部に象のふんを混ぜているのです。市原には動物園「市原ぞうの国」があります。その象のふんを利用。3年も熟成させた上で土やワラと合わせています。トラック20台分というから凄まじい。なおふんは繊維質が多く、糊の代わりにもなるそうです。ふんなくしては造形出来なかったのかもしれません。



さらに崖の面には同じく岩間の「蔵風得水」が展開。前回の芸術祭で制作された倒木を利用したインスタレーションです。さすがに3年。樹木は枯れていて古色を帯びています。以前に観覧した際は、ダイナミックな様子に圧倒されましたが、今回はむしろ生命の儚さを感じました。



月出工舎はアート×ミックス中、最も個性的な会場です。アクセスには難がありますが、やはり足を伸ばして正解でした。

さてこの時点で16時前。日帰りを予定していたので、そろそろ帰路につかなくてはいけません。よって起点の五井へ向かって北上。最後にアート×ミックスの中で最も北に位置する内田未来楽校へ行くことにしました。



内田未来楽校は上総牛久駅の東部、宿(しゅく)と呼ばれる水田の広がる地区にあります。元は小学校です。昭和3年に建造された、市内に残る唯一の木造校舎でもあります。

建物は昭和40年に民間に払い下げられます。長らく工務店の作業所として使われてきました。しかしながら近年、売りに出され、一時は取り壊すことが決まりました。



そこで立ち上がったのが地域の住民です。「報徳の会」を結成。5年計画で校舎を買収します。費用を持ち寄っては修繕も行ったそうです。以来、内田未来楽校として朝市や地域のイベントに活用されてきました。



建物正面は作業所時代に一部、改造されています。よって建築当時の姿ではありません。一方で裏側はほぼそのまま残っています。ガラスなども当時のままだそうです。かなり傷んでいるようにも見えましたが、歴史の重み、ないし風格も感じられました。



この内田未来楽校を舞台にしたのがキジマ真紀の「蝶々と内田のものがたり」です。多くの市民の手によってつくられた蝶の刺繍を校舎内に解き放ちました。



いずれもワークショップで制作されたものです。昨年5月には「刺繍カフェてふてふ」も開催。市内の中学校の生徒も加わりました。結果出来た蝶は全部で1300頭にも及びます。蝶は形も色も様々です。一つ一つに作り手の感性が反映されているのかもしれません。



蝶は再生の象徴を意味しているそうです。それこそ内田未来楽校を将来を祝福するかのように群れていました。

なお未来楽校内はカフェも併設。かの「報徳の会」の運営だそうです。楽校では地元の方が建物の由来や歴史について丁寧に説明して下さいました。

内田未来楽校の鑑賞を終えたのが17時前でした。そのあと五井に戻り、鉄道で自宅界隈へと帰りました。朝から湖畔美術館、IAAES、月崎、養老渓谷のアートハウス、月出工舎、そして内田未来楽校を周りましたが、車であれば1日で十分に観覧することが出来ます。

さて2度目のいちはらアート×ミックス。前回と様相が少し変わりました。予算、ないし開催期間を縮小。その分、プロのアーティストの出展から、いわゆる市民参加のプロジェクトが進められました。中には住民団体が出展者側に立つようにもなりました。

パスポートも3800円から2000円に値下げされました。ただ前回はコンセプトの「小湊鉄道の活用」の観点から、小湊鉄道の乗り放題が含まれていました。それがなくなりました。(小湊鉄道の一日乗車券は1800円。)一方で今年は駐車場を全て無料化。レンタカーのキャンペーンを実施するなど、車での来場も推奨していました。



予算の兼ね合いもあるのか、確かに展示自体は小粒でした。ただその分、背伸びすることなく、参加型のワークショップをはじめ、地誌を丹念に掘り起こす作品が目立つなど、前回よりも地元志向、いわば地域に根ざしているようにも感じられました。



日帰りも可能な中房総の里山への旅。遠足気分で巡るのも楽しいのではないでしょうか。


間も無く会期末です。5月14日まで開催されています。

「いちはらアート×ミックス2017」@IchiharaArtMix) 千葉県市原市南部地域(小湊鉄道上総牛久駅~養老渓谷駅一帯)
会期:4月8日(土)~5月14日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~17:00 *施設やイベントによって異なる。
料金:[鑑賞パスポート]一般2000円、学生(高校生以上)1000円、中学生以下無料。
   [個別観覧料]
   ・300円=内田未来楽校、市原湖畔美術館(かこさとし展)、イチマル(市原湖畔美術館敷地内)、森ラジオステーション、いちはらクオードの森、白鳥公民館、アートハウスあそうばらの森
   ・500円=月出工舎(旧月出小学校)
   ・800円=IAAES(旧里見小学校)
  *鑑賞パスポート=会期中、芸術祭の作品の全てを観覧可。
  *個別観覧料=鑑賞パスポートをもたない来場者のための作品観覧料。
住所:千葉県市原市不入75-1(市原湖畔美術館)他
交通:JR線五井駅から小湊鉄道にて高滝駅下車。徒歩20分で市原湖畔美術館。各会場間の無料周遊バスあり。各会場無料駐車場あり。
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