「酒井幸菜 ダンスパフォーマンス『ノワールの呼吸』」 東京都美術館

東京都美術館
「酒井幸菜 ダンスパフォーマンス『ノワールの呼吸』」
1/4、5(開催終了)



現在、東京都美術館で開催中の「TOKYO 書 2014」展。その関連のアート・コミュニケーション・プログラムとして、「書」をテーマとしたダンスパフォーマンスが行われました。

出演は酒井幸菜。1985年生まれのモダンダンサーです。また最近では演劇や美術の領域でも活躍。2012年にはあざみ野コンテンポラリーに参加。ペインターの佐々木愛とのコラボによる見事なダンスを披露してくれました。

実のところ私が初めて酒井を見知ったのもあざみ野。幻想的な舞台に見惚れたことを思い出します。

今回のテーマは先にも触れた「書」です。会場は同館の地下3階のギャラリーA。比較的広いスペースです。また伴奏としてヴィオラとチェロの音楽も。一体どのようなダンスを繰り広げるのか。期待を胸に会場へと足を運びました。

結論から申し上げると素晴らしかった。そしてともかく印象深かったのは書の躍動感なりがダンスとして表現されていたことです。白い大きな紙を敷いた空間の上を酒井が舞う。ドレスは黒。その姿はまさしく半紙に向かった筆の動きです。飛び跳ねて駆け回る様子が書のイメージとも結びつく。また酒井は途中、1枚、2枚とドレスを脱ぎ捨てます。これぞ紙に滴る墨汁の痕跡。どこに筆を降ろすのか。大変な緊張感です。書の魂、墨の妖精。神秘的なまでに美しいダンスを見せてくれました。

さて酒井を巧く盛り上げたのが音楽。つまりはヴィオラの佐藤とチェロの関口ではないでしょうか。即興的でかつ断片的でながらも時に静謐な調べ。曲は次第に躍動感を増し、大きなうねりを呼び起こす。酒井はそうした音楽の力を借りてより強く羽ばたいていく。驚いたのはヴィオラの佐藤です。声の導入。高音から低音まで、何やら言霊とも言えるような音を口から発する。すると酒井もヒートアップ。顔持ちは恍惚となり、まるで物の怪に取り憑かれたように激しく動く。プリミティブな祭祀を前にしている。そうした印象さえ与えられました。

アンコールがまた魅惑的でした。こちらは一転しての華やかで軽やかなステップ。新年の寿ぎを全身で表現する。実際のところダンスに疎い私ですが、何か心の底からわき上がるような喜びを感じました。

上演中の写真(1/4公演)が東京都美術館のツイッターアカウント(@tobikan_jp)にあがっていました。あわせてご覧ください。

@tobikan_jp
【ダンスパフォーマンス、大盛況御礼】明日5日14時からもダンスパフォーマンスを開催いたします。本日(4日)もたくさんの方がご来場くださいました。ありがとうございました。(YK) pic.twitter.com/eTl7oeYacy


年始に佳いものを見せていただきました。酒井幸菜「ダンスパフォーマンス『ノワールの呼吸』」は終了しました。

「酒井幸菜 ダンスパフォーマンス『ノワールの呼吸』」 東京都美術館@tobikan_jp
日時:1月4日(土)、1月5日(日)
時間:両日とも14時から30分程度。
会場:東京都美術館内ギャラリーA
出演:酒井幸菜(ダンス)、佐藤公哉(ヴィオラ)、関口将史(チェロ)、長嶋恭介(衣裳制作)
料金:無料。
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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新国立劇場 「夏の夜の夢」

新国立劇場 2006/2007シーズン
シェイクスピア「夏の夜の夢」

翻訳 松岡和子
演出 ジョン・ケアード
演奏 オーベロン・バンド/ティターニア・バンド
キャスト
シーシアス/オーベロン 村井国夫
ヒポリタ/ティータニア 麻実れい
イジーアス/フィロストレイト 大島宇三郎
ハーミア 宮菜穂子
ヘレナ 小山萌子
ライサンダー 細見大輔
ディミートリアス 石母田史朗
クウィンス 青山達三
ボトム 吉村直
スナッグ 小嶋尚樹
フルート 水野栄治
スナウト 大滝寛
スターヴリング 酒向芳
パック、またはロビン・グッドフェロー チョウソンハ
豆の花 神田沙也加
蜘蛛の糸 坂上真倫
蛾の精 JuNGLE
カラシの種 松田尚子

2007/6/3 13:00 新国立劇場中劇場



新国立劇場で「夏の夜の夢」を観てきました。松岡訳による日本語上演です。

ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのディレクターでもあるという、ジョン・ケアードの演出が一番の見所だったかと思います。ともかくどんちゃん騒ぎの連続です。例の恋人同士が錯綜する夜の場面では、まるで夢遊病者のようなパジャマ姿の4人が彷徨いながら罵り合い、また激しく愛を語らっています。パックはやはりシェイクスピア一流の道化なのでしょうか。キャスト一の運動量もなんのその、舞台を所狭しと駆け巡り、この騒ぎをひた向きに盛り上げています。そして妖精の出で立ちは現代風です。皆、王お抱えの間抜けな劇団員ともいった風情で歌いに踊り、一夜の夢を楽しく飾り立てていました。またピラマスとシスビーの物語も、当然ながら終始コミカルに描かれます。こちらはあまり舞台を動かさずに、まさに学芸会風情の素人のノリでじっくりと劇を楽しませてくれました。劇作では僅かな部分を、これほど長時間にわたって演じるのには驚かされましたが、夜の物語だけを本筋とし過ぎない、つまりは劇の「昼-夜-昼」の三部構成を印象付けるのに適していたと思います。劇中劇は、あくまでも「惚れ薬」による夜の部分なのです。

キャストではパックのチョウソンハが非常に優れていました。彼の熱演がなければ、おそらくこの公演の魅力も半減してしまったのではないでしょうか。大円団を迎え、舞台を昼から現実、つまり新国立劇場へ転換しての口上(「パックが舞台でお礼をいたします。」)は特に印象的です。それまでの飛んで跳ねるパックではなく、まさに一役者として述べたあの行は、この劇の主役がもう彼にあることを示します。切々とした気持ちで述べられるセリフは心に染み入りました。

メインの二人はさすがに貫禄十分です。落ち着きのある公爵とお茶目な妖精王の両面を器用に演じ分けた村井はもちろんのこと、途中、ロバに惹かれて妄想を爆発させる女王を艶やかに演じた麻実もやはり魅力的でした。ただ、これは演出の都合以前に日本語上演の問題かもしれませんが、全体的に先を急ぐ、つまりは些か早口過ぎるような嫌いがあった印象も受けました。もちろんこのドタバタ劇に見る疾走感も重要ですが、例えばシーシアスが詩人について語る場面は、もっと腰を据えた、それこそ一語一句を噛み砕くようなセリフまわしが欲しかったと思います。シェイクスピアならではの含蓄のある美辞麗句はやはり劇の核心です。ここは飛ばせません。

ハーミアの宮、ヘレナの小山、ライサンダーの細見、それにディミートリアスの石母田も好演です。どちらかというと女性陣によるノリに乗ったドタバタぶりに比べ、男性陣はややそれにおされるかのようにして控えめでしたが、薬があろうがなかろうが愚直に愛を信じるライサンダーの誠実な役作りは特に印象に残りました。もちろん、その身長の差までが原作に指定されるハーミアとヘレナも役にハマっています。中でもヘレナの小山は哀れなほど必至でした。これは同情を誘います。

手堅く劇をまとめたピラマスとシスビー組の出演者に比べ、妖精たちはやや分が悪かったようです。歌に踊りももう一歩という印象が拭えませんでした。またバンドによる勢いのある生演奏や、特に夜における詩的な雰囲気を演出していた照明などは優れていたと思います。同劇場御自慢(?)の回転舞台も巧みに用いられていました。ちなみに結婚のシーンの音楽はやはりメンデルスゾーンです。ここはお決まりなのでしょうか。

「シェイクスピア全集(4)夏の夜の夢・間違いの喜劇/松岡和子/筑摩書房」

四大悲劇は別格として、一連の喜劇から見ても「夏の夜の夢」はいわゆる『傑作』ではないと思うのですが、それでも3時間以上の長丁場を楽しく過ごすことが出来ました。是非、また他のシェイクスピア劇も堪能してみたいです。
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