「東山魁夷 風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」 市川市東山魁夷記念館

市川市東山魁夷記念館
「通常展 東山魁夷 風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」
6/13-8/3



市川市東山魁夷記念館で開催中の「通常展 東山魁夷 風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」を見て来ました。

日本画家東山魁夷(1908~1999)が生涯の大半を過ごした千葉は市川の中山。そこに建つ東山魁夷記念館にて「風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」と題した展覧会が行われています。



主に東京美術学校時代の魁夷の足跡を辿る。卒業後のドイツ留学時の作品も一部展観します。また書簡などの資料も目を引く。いかに魁夷が風景画家の道を志したのか。それを簡単に見ていく内容となっていました。(出品リスト

冒頭は資料です。元々洋画家を志していた魁夷。父の反対にもあって日本画を学んだそうです。東京美術学校では2年次から特待生です。当時の選定証の複製なども紹介されています。

また1年次の夏休みには仲間と連れ立って木曽へ旅行へと赴き、その中で「山国への想い」(キャプションより)を深くしたとか。この際の旅行日記も出品。その他、まだ20代の魁夷が両親へ宛てた葉書もいくつか展示されていました。

資料関係で面白いのは双六です。少し時代は下りますが、制作年は1945年、終戦の年です。物資に乏しく、娯楽も少なかった当時、魁夷は双六を制作した。これがかなりの大判です。しかも題材が「キングコング」というのも面白い。画家の意外な一面を見るような気もしました。

その他には魁夷が唯一著した技法書、「日本画の技法」なども興味深い作品ではないでしょうか。風景画の制作をスケッチ段階から細かに解説しています。ちょうど山の稜線を描く場面が紹介されていました。

さて絵画です。出品は本画と複製をあわせて全部で20点ほど。最初期は中学校時代です。まだ10代の時の「川の畔り」(1923)、後の魁夷画の片鱗もありませんが、なかなか丹念に描いている。また留学前の日本画の小品「白梅」(1933)も佳作です。力強いまでの墨線が走る。梅も美しい。溌剌としています。


東山魁夷「花売り」1942年 紙本彩色、額装

一際目立つのが「花売り」(1942)です。留学時に取材した作品、モチーフはタイトルの通り花売りです。ドイツで見た老婆でしょうか。編み物をしながら客を待つ女性。うつむいている。その横に並べられたのが大輪の花束です。バラにスイートピーにビオラ。瑞々しい赤やピンクが目に染みます。白い布地に薄紫のチェック柄の入ったクロスも美しい。そして顔料を盛ったような質感。独特の味わいがあります。

ちなみに本作、元々は屏風絵だったそうです。それを保存のために額装にしています。中央部にはかつての右と左を貼り合わせた跡が見られるとのことでした。


東山魁夷「道(試作)」1950年 絹本彩色、額装

代表作としても知られる「道」(1950)の試作が出ていました。本画は東近美の所蔵、また同じく終戦後の「残照」と「郷愁」も並んでいましたが、いずれも近年制作のリトグラフ、及び複製画です。

実のところ絵画出品作のうちの何割かはこうした複製画。これはそもそも市川市が魁夷の本画をあまり所蔵していないからかもしれません。よく考えれば同館の名称も美術館ではなく記念館です。魁夷の本画を多く見たいと思って出向くと少し戸惑う面はあるかもしれません。

その他、魁夷唯一の巻物である「秋風行画巻」の「大下図」(1952)なども印象に残りました。全8mにも及ぶ大作、もちろんごく一部分のみの公開ですが、原画の複製と隣り合わせになって展示されています。ちなみに原画は東近美の所蔵。こちらも見たいものです。

本展は2期制です。途中、一度の展示替えがあります。(入れ替わる作品の大半は資料です。)

「風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」 6月13日~8月3日
「風景開眼2ー戦時中から戦後にかけて」 8月8日~10月5日

さて初めにも触れましたが、同館は魁夷が1953年から亡くなる1999年の間まで住んだ地に位置する施設。(市川に越して来たのは1945年。)開館は2005年。以来、魁夷顕彰活動の他、画家に関する様々な展示を行っています。



建物は魁夷の留学したドイツに想を得たという西洋風の外観。展示室は1階と2階の2室です。率直なところともに手狭ですが、他にカフェレストランやミュージアムショップなどを含めるとそれなりに立派。裏手には「KAIIの森」と呼ばれるミニガーデンもあります。雰囲気の良い記念館でした。



今回は通常展ということでいずれも館蔵品による展示でしたが、年に一回程度は特別展も行われます。その際は他館の所蔵品を交えての構成となるそうです。

[次回特別展]
「東山魁夷と東京美術学校有志ー橋本明治・加藤栄三・山田申吾」 10月11日(土)~11月30日(日)



現地は駅から2キロほど離れた中山の丘の上、周囲は閑静な住宅地です。下総中山駅から徒歩20分との案内がありますが、案内板があるとはいえ、周辺のルートは必ずしも分かりやすいとは言えません。また土地勘がないと20分で辿り着くのは難しい気もします。最寄の北方バス停は記念館の目の前です。まずは駅からのバスをおすすめします。(帰りは下り坂なので散策がてらに歩いても良さそうです。)

「もっと知りたい東山魁夷/鶴見香織/東京美術」

8月3日まで開催されています。

「通常展 東山魁夷 風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」 市川市東山魁夷記念館
会期:6月13日(金)~8月3日(日)
休館:月曜日。但し祝日にあたる場合は翌平日。
料金:一般510(410)円、65歳以上400円、高校・大学生250(200)円、中学生以下無料。
 *( )内は25名以上の団体料金。
時間:10:00~17:00。入場は閉館の30分前まで。
住所:千葉県市川市中山1-16-2
交通:JR下総中山駅より徒歩約20分。京成中山駅より徒歩約15分。JR線下総中山駅より京成バスシステム柏井線「市営霊園・保健医療福祉センター」行き、「北方」バス停下車約1分。(下総中山駅バス時刻表
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「翠玉白菜」(台北 國立故宮博物院展) 東京国立博物館

東京国立博物館
「翠玉白菜」(台北 國立故宮博物院展)
6/24~7/7



東京国立博物館で開催中の「台北 國立故宮博物院」展を見て来ました。

中国の歴代皇帝のコレクションを有する台北の国立故宮博物院。その名品の一部が海を渡って日本へとやって来ました。巡回は東京(東博)と福岡(九博)。現在は上野の東京国立博物館で公開されています。

うちとりわけ注目されているのは門外不出と呼ばれる「翠玉白菜」の出展。東京会場のみでの限定公開です。チラシ表紙にも「奇跡の出品」とのコピーがありますが、そもそも台湾外に一度も出ていないことを鑑みれば、あながち誇張とは言えないかもしれません。

まずは何より白菜を見たい。そういう方も多いのではないのでしょうか。私もその一人でした。

しかしながら白菜、話題ということもあって混雑は必至。しかも出品は僅か2週間です。現にまだ会期は4日を過ぎただけですが、平日にも関わらず最大で200分という観覧の待ち時間が発生してます。

「台北 國立故宮博物院展」公式アカウント→@taipei2014tokyo(混雑状況をリアルタイムで発信しています。)

実のところ私は並ぶのが苦手です。でもやはり見たい。こういう時は早めが肝心です。何とか予定を組んで平日の夜、26日(木)の夜間開館を利用して行って来ました。

「翠玉白菜の展示期間(6/24~7/7)は無休で連日20時まで開館」@東京国立博物館

博物館に到着したのは18時頃です。故宮展の会場自体は平成館ですが、白菜は本館の特別5室。1点のみの展示です。



一枚の特別展観覧券で、当日に限り、平成館、及び特5室の白菜の両方を観覧出来ます。ともに再入場も可能です。



どちらを先に見るか。それは自由です。私はまず本館の前へ行ってみました。すると白菜100分待ちのプラカードが出ている。この時点で「平成館がまだの方は先にそちらをご覧下さい。」との案内がありました。と言うのも、先に白菜に100分並んでしまうと、平成館を見る時間がなくなってしまうからです。一方で白菜は19時半(その時点で規制が行われている場合は20時まで可)に並べばOK。そのまま閉館後も見ることが出来ます。とのことで平成館へ移動しました。

さて平成館会場には故宮コレクションの文物がずらりと並ぶ。全180件超。見事です。青磁に白磁から宋元画に乾隆帝の「紫檀多宝格」の展示も美しい。感想は別エントリに書きます。まずは堪能しました。

平成館にいた時間は約1時間半だったでしょうか。最後は駆け足になってしまいました。なお出品数が多いため、個人差はありますが、少なくとも平成館だけで2時間程度は見ておいた方が良さそうです。(私も再訪するつもりです。)

(クリックで拡大)

19時半少し前に平成館を出て本館へ移動します。白菜の行列に加わるためです。この時点で18時にはあった本館外への行列は消えています。館内のみでの行列。表記は70分待ち。同じような形で動いていた方も多かったかもしれません。続々と列に人が加わってきました。(ただそれだからと言って極端に列が長くなることはありませんでした。)

館内での列はショップ横の展示室、テーマパークなどの列を想像すると分かりやすいでしょう。ロープに沿って二人ずつ横に並ぶ。意外とどんどん前に進みます。



特別5室に入りました。暗室です。ここでも同じようにロープで区切られた行列が続く。途中、随所に白菜を紹介する映像がありますが、パネルなどもなし。造作も簡素。言ってしまえば完全に並ばせるためのスペースです。

白菜は展示室右奥での1点展示。ちょうどサークル状の壁に囲まれています。壁はスリット状になっていて、行列の方からちらりと見やることも出来る。期待も高まります。

白菜のあるサークルの前まで来ました。入場は人数毎での入れ替え制です。白菜は最前列と二列目の二つのルートで鑑賞が可能。まずは最前列に案内され、その後任意で二列目へと移動可能です。最前列は立ち止まることが許されません。一方、二列目は自由に止まって鑑賞出来ます。


「翠玉白菜」 清時代・18~19世紀 國立故宮博物院(台北) *展示期間:6/24(火)~7/7(月)

大きさは20センチ、幅は10センチ弱。翡翠の彫刻です。私は思いの外に大きく、また少し平べったく見えました。丸々肥えた白菜というよりも、しゃきっとして歯ごたえの良さそうな白菜です。また台座へもたれかかるように置かれていますが、白菜自体は垂直性が際立つ。すくっと起立しては上部で葉を下へ垂らす。その出立ちはまるで噴水のようでもあります。

彩色はなく、色は元から石についているもの。そしてあの純度の高い白い輝き。強めの照明でさらに映えて見えます。また根元の部分にかけてはうっすらクリーム色を帯びている。葉先は深く濃い緑。そのコントラストは鮮やかです。


「翠玉白菜」(部分) 清時代・18~19世紀 國立故宮博物院(台北) *展示期間:6/24(火)~7/7(月)

そして葉っぱの上のキリギリスとイナゴ。緑の葉へ食いつくようにのるのがキリギリス、白い葉の上でひっそりと隠れるようにいるのがイナゴです。イナゴの方が小さいため、少し分かりにくいかもしれません。

それにしても何故に白菜なのかという気もしますが、そもそも白菜には純潔の意味があり、バッタには多産の象徴がこめられているそうです。そして本作は清の光緒帝の妃の瑾妃の宮殿に置かれていたもの。嫁いだ際の持参品という説が有力だそうです。

最前列はともかく、二列目は作品と距離がある。細かい部分は肉眼で判別不能です。単眼鏡があった方が良いかもしれません。

なお並んだ時間ですが、結局30分弱でした。表記の半分以下。思いがけないほどスムーズであったことを付け加えておきます。

「美術手帖7月号増刊 台北 國立故宮博物院/美術出版社」

さて白菜ですが、特に土日、また7月7日の公開終了に向けてさらに混雑してくると思います。

朝一番というのも考えなくはありませんが、既に連日、開門前から多くの方が列をつくって待っておられるそうです。そもそも東博はいつも驚くほど朝の出足が早い博物館です。また実際に開門後、かなり早い段階でゆうに100分を超える待ち時間が発生しています。

午後は最も混雑する時間帯です。初めにも触れましたが平日でも最大200分。実際の待ち時間は多少前後しますが、ともかくは長時間並ぶ覚悟が必要です。また屋外ではテントの下での行列となりますが、暑さ対策なども必要になってくるかもしれません。

「台北 國立故宮博物院を極める/板倉聖哲/とんぼの本」

夕方以降も多少人が引いてきますが、私が行った会期3日目の18時でも100分。最終入場は19時半です。但し既に入場規制が行われている場合は20時でも列に加わることが可能です。そして館の方に伺うと夜が一番列が短くて進みも早いそうです。先ほど触れましたが、私も19時半に並んで30分で済みました。

となると夜が狙い目かもしれません。そしてなるべく会期の早めです。初めから混雑している展覧会で後に空いて来たという話を聞いたことがありません。また今度の日曜の夜、及び来週月曜の夜も、僅かなりとも人が少ないのではないでしょうか。何故なら日曜夜は基本的に外出の少ない時間帯。そして月曜は通常休館日です。今回の「白菜」出品期間中だけ特別に開館します。



混雑必至の「翠玉白菜」限定公開。これからご覧になられる方、空いている時間帯は殆どないかもしれませんが、このエントリが少しでも参考になれば嬉しいです。

[追記]
土曜の夜に行かれた方のお話を伺いましたが、やはり19時半の段階で20~30分弱の行列で済んだそうです。また少なくとも夜に関しては、待ち時間が公式案内の時分よりも短い傾向があります。

「翠玉白菜」は会期中無休にて7月7日まで公開されています。

「台北 國立故宮博物院ー神品至宝」 東京国立博物館@TNM_PR
会期:6月24日(火) ~9月15日(月・祝) *「翠玉白菜」の展示期間は7月7日(月)まで。
時間:9:30~17:00。但し会期中の金曜日および「翠玉白菜」展示期間(6/24~7/7)は20:00まで、土・日・祝休日は18時まで開館。(入館は閉館の30分前まで。)
休館:7/14(月)、7/22(火)、7/28(月)、8/4(月)、9/1(月)、9/8(月)。但し6/30(月)、7/7(月)、8/18(月)、8/25(月)は特別展会場のみ開館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生700(500)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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「安田悠 Between」 YUKA TSURUNO GALLERY

YUKA TSURUNO GALLERY
「安田悠 Between」 
6/7-7/12



YUKA TSURUNO GALLERYで開催中の安田悠個展、「Between」を見て来ました。

1982年に香川県で生まれた油絵のペインター、安田悠。私が初めて意識して作品を見たのは2008年のこと。VOCA展とワンダーサイトのエマージング展です。まるで幻影を前にしたかのような心象風景。独特な揺らぎのある絵画世界に惹かれたことを覚えています。

何と約3年ぶりの個展です。東雲はツルユカノギャラリーで行われています。

安田悠「Between」Works in Exhibition

さて出品は大小15点ほど。まず印象深いのは色の層。縦や横方向に積みあがり、また並んでいる。色は様々、黒にグレーや焦げ茶、一転して明るいオレンジやエメラルドグリーンであったりもする。そこへ白が混じり合います。ストロークは一定ではなく、うねうねと曲がり、細かに切れていたりする。それらがさも溶け合うかのように美しいグラデーションを描いています。

上記フライヤー作の「Diaphanous」(2014)、どのように映るでしょうか。色の層が上から下へと連なる。上は青く手前はクリーム色です。しばらく見ていると視点が上下から奥、前後へと動いていく。すると手前が砂浜で奥がさざ波、海のように見えてこないでしょうか。そして見上げれば空。薄曇りかもしれません。実在の場所か架空の景色なのか。「心象風景」という言葉も当てはまるような気がします。

数年前の旧作に比べてタッチ、またモチーフとも穏やかになっているかもしれません。以前はまるでブラマンク画の如く荒い筆致が画面を暴風雨のように駆けていた。今は総じて凪です。またなだらかな曲線がさも山の稜線を象るように進む。幽玄な味わいは山水画を連想させるものもあります。

色の層の中にふと人のシルエットが見えるのも特徴です。ぽつんと寂し気に浮かぶ人影。それを目で追いかけながらいつしか画面へ入り込んでいく。タイトルの「Between」には以下のような意味がこめられているそうです。

「中間的な風景」という意味と、「絵の内容がすべてを主張をするのではなく、見る人との間で何かがリンクする作品でありたい」 *ギャラリー公式サイトより

すっと引込まれる景色の魅力。これまでとは違った展開を楽しむことが出来ました。

なおユカツルノギャラリーは、先だって竹尾ペーパーショウの会場ともなった東雲のTOLOT(トロット)内のギャラリー。2013年に同施設に移転オープンしてきました。

「竹尾ペーパーショウ2014」 TOLOT/heuristic SHINONOME(はろるど)

またトロットは複合型のアートスペースです。現在ではこのユカツルノの他に、ヒロミヨシイギャラリーの企画展、またG/P galleryでの緒方範人の個展が行われています。とりわけ東日本大震災の被災地の建築物を写真で捉えた緒方の展示は見入るものがありました。

TOLOT/heuristic SHINONOME

東雲のトロット、場所柄なかなか足が向きませんでしたが、これからはなるべく追いかけていきたいと思います。

7月12日まで開催されています。

「安田悠 Between」 YUKA TSURUNO GALLERY
会期:6月7日(土)~7月12日(土)
休廊:日・月・祝
時間:11:00~19:00
住所:江東区東雲2-9-13 TOLOT/heuristic SHINONOME 2階
交通:東京臨海高速鉄道りんかい線東雲駅A出口より徒歩5分。
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「こども展」 森アーツセンターギャラリー

森アーツセンターギャラリー
「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」
4/19-6/29



森アーツセンターギャラリーで開催中の「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」を見て来ました。

主に子どもの描かれた西洋近代絵画を紹介する絵画展。出品は90点。ほぼフランス国内のコレクションです。先立ってパリのオランジュリー美術館で開催された「モデルとなった子どもたち展」を日本向けにアレンジした展覧会でもあります。

出品作家が約50名と多いのもポイントです。そしてルソーやルノワールにモネ、セザンヌ、マティスらといった「巨匠」の他に、あまり日本では知られていない画家が多いのも興味深いところかもしれません。(出品リスト

さて行くのが遅れに遅れてしまいました。既に会期末を迎えています。


ウジェーヌ・カリエール「病気の子ども」1885年 オルセー美術館
© RMN-Grand Palais(musee d'Orsay)/
Herve Lewandowski / distributed by AMF-DNPartcom


まずはカリエールの「病気の子ども」(1885)です。例のカリエールの霧とも呼ばれる褐色のモノクロームに覆われた室内風景。横は2メートル50センチほど。画家最大級の作品でしょうか。母に抱かれた一人の子ども。目は虚ろで疲れた様子をしている。言うまでもなく病んでいるのでしょう。他二人の子どもたちが取り囲む。カップを持って立つ少女は水を持って来たのかもしれません。介抱する家族。ペットの犬までがどこか心配そうにしています。

チラシ表紙を飾るのはルソーの「人形を抱く子ども」(1904~1905)。画家では珍しい単独で子どもを描いた肖像画です。


アンリ・ルソー「人形を抱く子ども」1904-05年頃 オランジュリー美術館
© RMN-Grand Palais(musee de l'Orangerie)/ Franck Raux / distributed by AMF-DNPartcom


先に画像を前にした時は何やら表情のない子どものようにも見えました。しかし実際に絵を見ると違う。極めて複雑です。少し不安な面持ちでもあり、またどこか泣き出しそうでもある。手に持つ人形までもが寂しげにも映ります。ひょっとして何かに怯えているのかもしれません。


アンリ・ジュール・ジャン・ジョフロワ「教室にて、子どもたちの学習」1889年 パリ、フランス国民教育省
© RMN-Grand Palais / Jean-Gilles Berizzi / distributed by AMF-DNPartcom


ジョフロアの「教室にて、子どもたちの学習」(1889)が秀逸です。教室での一コマ。今でいう小学生の授業でしょうか。長いテーブルの前に所狭しと座る子どもたち。ノートを開いてはペンでメモをとっている。とはいえ皆が何も真面目なわけでもない。集中力が切れたのかペンを触ったり、肘を立てては退屈そうにしている子もいる。それにしてもまさに今、見て来たかのような臨場感です。何でも画家のジュフロアは若い頃に小学校に住み込んでいた経験があるそうです。

ちなみにジュフロアという画家、知っている方がどれほどおられるでしょうか。実は本展、最初にも触れたように、日本ではあまりスポットの当たらない画家も多い。そこにも見るべき点がかなりありました。

その一例と言えるかもしれません。クロード=マリー・デュビュッフです。ダヴィットの弟子としてキャリアを築き、後には肖像画のジャンルで人気を博した画家です。


クロード=マリー・デュビュッフ「デュビュッフ一家、1820年」1820年 ルーヴル美術館
© RMN-Grand Palais(musee du Louvre)/ Gerard Blot / distributed by AMF-DNPartcom


「デッビュッフ一家。1820年」(1820)です。7人の集団肖像画、中央が画家夫妻。手前で黒い帽子を被っているのが子のエドワールです。肌の質感や髪の色合い、そして衣服の装飾までもが真に迫る。そもそもデッビュッフ一族は代々画家を輩出してきた家柄だとか。何と本展のフランスでの企画者であるエマニュエル・ブレオン氏も一族の末裔だそうです。驚きました。

エルネスト・ルーアールの「書斎のジュリー」(1920)はどうでしょうか。カーテン越しに差し込む淡い光に包まれた室内。一人の女性が肘をつき、頭を支えながら、やや疲れた様子でペンを走らせている。雰囲気のある佳作ではありますが、一体子どもの姿はどこにと思う方もおられるやもしれません。

実はジュリーこそがかのマネの弟、ウージェーヌの子のこと。母はモリゾです。そしてルーアールはジュリーの夫。画家アンリ・ルーアールの子でもあります。


ベルト・モリゾ「庭のウジェーヌ・マネとその娘」1883年 個人蔵
© Christian Baraja, studio SLB


そして会場にはこのジュリーをモデルにした絵画が本作を含めて3点出品されています。一つが母モリゾの描いた「庭のウージューヌ・マネとその娘」(1883)、もう一枚がルノアールの描いた「ジュリー・マネの肖像、あるいは猫を抱くこども」(1887)です。そして前者は5歳、後者は8歳の時のジュリーがモデル。ではルーアールの描いたジュリーは何歳の頃なのか。結論からすると40歳の姿です。


ピエール=オーギュスト・ルノワール「ジュリー・マネの肖像、あるいは猫を抱く子ども」1887年 オルセー美術館
© RMN-Grand Palais(musee d'Orsay)/
Herve Lewandowski / distributed by AMF-DNPartcom


複数の画家の眼差しを通して見たジュリー・マネの成長記録。これぞアルバムとも言えるのではないでしょうか。「モデルの年齢」という普段はあまり気を留めないような切り口での展示。感心しました。

ちなみに本展、サブタイトルに「画家の絆」とあるように、ジュリーだけでなく、画家の子どもを描いた作品が多く出品されています。うち9人の子の親でもあったドニでは、長女、四女、次男、三男を描いた4点が揃う。うち次男を描いた「リザール号に乗ったドミニック」(1921)が目を引きます。小麦色の肌を露にして船に乗る男の子。白いマストとの対比も鮮やかである。いかにも健康的な姿。水夫の格好も板について見えます。


モーリス・ドニ「トランペットを吹くアコ」1919年 個人蔵
© Archives du catalogue raisonne MD; Photo Olivier Goulet


三男をモデルにした「トランペットを吹くアコ」(1919)も注目の一枚です。大きなトランペットはおもちゃでしょうか。簡素な造りをしています。また草花を配した衣服の模様が実に装飾的。まさしくドニの作風を思わせます。本作は日本初公開です。そして振り返れば出展作の3分の2が日本初公開でもあります。

最後に一点、グザヴィエ・ピラトの「ヌマとボール」(1986)に触れないわけにはいきません。幼い子どもが部屋の床で裸で寝そべっている。遊んでいるのでしょう。前には赤いボール。表情こそ伺えませんが、おそらくはこれから手を伸ばして掴もうとするに違いありません。

画家のピラトはピカソの甥、ハビエ・ピラトの長男。キュビズムの影響下にあったのでしょうか。室内における色の三分割はもはや幾何学的でもある。子どもを象る黒い輪郭線も独特。さらに画面は極めて平面的です。また部屋にかかる一枚の額には絵が掛けられている。うねる樹木。レジェの作品を思わせるものがあります。

他にはイランに生まれパリで絵を学んだダヴード・エンダディアンも。レンピッカにパスキン、そしてラストは藤田で終わります。ずばり「子ども展」というダイレクトなタイトル、大きな括りですが、一口に子どもの絵画と言っても当然ながら内実は多様。好企画です。思いの外に発見の多い展覧会でした。


オーギュスタン・ルーアール「眠るジャン=マリー、あるいは眠る子ども第1番」1946年 個人蔵

最後に会期末限定のキャンペーン情報です。会期末日まで開館、及び夕方入館時に限り、先着でポスターやポストカードがプレゼントされます。

[モーニングプレゼント]
 *配布日時:6月14日(土)~29日(日)  各日10時~
 *各日先着50名、なくなり次第配布終了
 *プレゼント内容:展覧会ポスター(非売品)
 *配布方法:52階会場入口にて、ご入場時に「プレゼント引換券」を1名様につき1枚配布。

[トワイライトプレゼント]
 *配布日時:6月14日(土)~29日(日) *17日(火)を除く 各日17時~
 *各日先着30名様、なくなり次第配布終了
 *プレゼント内容:特製クリップボードorオリジナルポストカード

残り一週間を切ったこともあってか、館内もさすがに盛況でした。但し行列などはありません。比較的スムーズに観覧出来るのではないでしょうか。

6月29日まで開催されています。なお東京展終了後、大阪(大阪市立美術館:7/19~10/13)へと巡回します。

「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」@kodomo2014) 森アーツセンターギャラリー
会期:4月19日(土)~6月29日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~20:00(4/29、5/6を除く火曜日は17時まで)入館は閉館時間の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学生1200(1000)円、高校・中学生800(600)円。小学生以下無料。
 *( )内は15名以上の団体料金
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
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「佐藤時啓 光ー呼吸」 東京都写真美術館

東京都写真美術館
「佐藤時啓 光ー呼吸 そこにいる、そこにいない」
5/13-7/13



東京都写真美術館で開催中の「佐藤時啓 光ー呼吸 そこにいる、そこにいない」を見て来ました。

1957年に山形県に生まれ、「光・時間・空間・身体といったキーワードをテーマにして、写真装置による制作を続けている」(ちらし裏面より)佐藤時啓。

恥ずかしながら全く存じ上げませんでした。ゆえにともすると見逃していたかもしれない展示。切っ掛けは一枚のちらしです。上に挙げた表紙の写真、静かな海。モノクロームの水平に蛍のような明かりが点々と連なっている。素直に惹かれるものを感じます。ようはこの画像に誘われて会場へと足を運びました。

さて見る前に一つ不思議なことがありました。一体どのようにして撮影したのかということです。写真を加工して後から光を入れているのではないか。そう漠然とながら思い込んでいました。

それは結論から言えば間違いでした。光は佐藤自身がペンライトか鏡を持って動き回った痕跡なのです。ペンライトは夜、鏡は昼の撮影に利用する。では何故に作家本人の姿が写り込んでいないのか。シャッターの開閉時間です。長い時間露光することで人の動きは消えてしまいます。


「光ー呼吸」より「#22」 1988年

「光ー呼吸より#22」(1988)はどうでしょうか。とある無人の階段、そこに立ち上がるのは無数の白い線。これこそがおそらくはペンライトを持って上下した跡なのでしょう。そしてちらし表紙の「光ー呼吸より#347 Hattachi」(1988)は、波間に鏡を持って太陽の光を受けていたに違いない。ともに言わば佐藤自らが体を張って出来た写真でもあるわけです。


「光ー呼吸」より「Shirakami#7」 2008年

光の彫刻とも呼べるかもしれません。写真だからこそ保存し得る光の軌跡。作家はひたすらに光を採取している。にも関わらず写真には写らない。まさに「そこにいる」のにも関わらず、「そこにいない」。光は宝石のように輝きながら、人の気配を残している。一見、クールにも見えますが、実は泥臭いまでに身体を介在させた表現でもあります。


「Polaroid Works」より「via Appia Antica」 1991年

さて写真、何もモノクロームにだけ留まりません。色の導入です。例えば「Polaroid Works」。文字通りポラロイドカメラを用いての展開。ローマの遺跡を写す。これもおそらくは鏡をもって動いたのでしょう。光はかつてここに集っていた者の魂の跡なのか。幻想的でもあります。


「Gleaning Lights」より「The site」 2005年

また面白いのはピンホールカメラです。何と24個ものピンホールカメラを球体にして360度撮影可能にする。「Gleaning Light」です。高層ビルの立ち並ぶ大パノラマが広がる。そこへ一種の歪みも加わります。幻のような人影。光の強い軌跡。都市における時間の移ろいまでもが蓄積されている。まるで映像表現のようです。


「Wandering Camera2」より「Musenyama#1」 2013年

さらに自作のカメラオブスクラを使用した「Wandering Camera」も。スケールの異なるイメージが一つの画面で緩やかに交わっていく瞬間。桜並木が砂地に溶けていく。地面に写る影を写した作品ですが、一体自分が何を見ているのか分からなくなります。この感覚、何とも言葉で表現するのが難しいのですが、思いがけないほどに魅力的でした。

写真を表現のみならず、装置にまで手を加えて挑戦する佐藤。芸術家であるとともに科学者でもあるのかもしれない。そうしたことも思い浮かびました。

迷路のようにスペースを区切った展示も個性的です。手狭なスペースをあえて逆手にとったような仕掛け。最初と最後に「光ー呼吸」シリーズを置く構成も面白いのではないでしょうか。

「光ー呼吸/美術出版社」

ところで東京都写真美術館ですが、今秋より改修工事のため、長期にわたって休館となります。

「東京都写真美術館 改修工事にともなう休館について」 *休館期間:2014年9月24日(水)~2016年8月末(予定)

7月13日まで開催されています。おすすめします。

「佐藤時啓 光ー呼吸 そこにいる、そこにいない」 東京都写真美術館
会期:5月13日 (火)~7月13日 (日)
休館:毎週月曜日。(月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日休館。)
時間:10:00~18:00 *毎週木・金曜日は20時まで。(入館は閉館の30分前まで。)
料金:一般700円(560円)、学生600円(480円)、中高生・65歳以上500円(400円)
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *第3水曜日は65歳以上無料。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。
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「ヴァロットン展」 三菱一号館美術館

三菱一号館美術館
「ヴァロットンー冷たい炎の画家」 
6/14~9/23



三菱一号館美術館で開催中の「ヴァロットンー冷たい炎の画家」展のプレスプレビューに参加してきました。

スイスに生まれ、19世紀末のパリで活動し、「外国人のナビ」とも呼ばれた画家、フェリックス・ヴァロットン(1865-1925)。

ともすると画家の知名度は今ひとつかもしれません。しかしながらチラシ表紙を飾る一枚、「ボール」(1899)には見覚えがあるという方も多いのではないでしょうか。2010年に国立新美術館で行われた「オルセー美術館」に出品がありました。


左:フェリックス・ヴァロットン「5人の画家」1902-1903年 油彩/カンヴァス ヴィンタートゥール美術館

またこの同じ年の「ザ・コレクション・ヴィンタートゥール展」にも少ないながらも一定数の出品があった。ナビ派の画家を描いた「5人の画家」(1902-1903)など約5点ほど展示。実のところ私はこの時初めてヴァロットン画を意識したことを覚えています。

何故あまり知られていないのか。端的にまとめて紹介されたことがなかったからかもしれません。ここにようやく実現、国内初のヴァロットン回顧展です。監修はオルセー美術館及びヴァロットン財団。3カ国の国際巡回展です。パリのグラン・パリにアムステルダムのゴッホ美術館を経て、東京の一号館美術館へとやって来ました。


左:フェリックス・ヴァロットン「チューリップとマイヨールによる彫像」1913年 油彩/カンヴァス スイス、個人蔵

出品は油彩に版画他をあわせて計134点。油彩と版画はおおよそ半分ずつです。時系列ではありません。7つのキーワードからヴァロットン芸術の特性を探る内容となっていました。

第1章 線の純粋さと理想主義
第2章 平坦な空間表現
第3章 抑圧と嘘
第4章 「黒い染みが生む悲痛な激しさ」
第5章 冷たいエロティズム
第6章 マティエールの豊かさ
第7章 神話と戦争

いくつか代表的な作品を挙げてみましょう。


フェリックス・ヴァロットン「公園、夕暮れ」1895年 油彩/厚紙
三菱一号館美術館


「公園」(1895)です。今回の展示にあわせての一号館の新収蔵品、曲線を描いて進みゆく小路と半円状の緑地、そこで思い思いに語り、また遊ぶ人たちを描いている。ナビ派の画家が多く手がけたパリの公園を主題としたものですが、どこか平面的で装飾的な画風は、同派の特徴を示しているとも言えるのではないでしょうか。

「化粧台の前のミシア」(1898)も同様です。この頃のヴァロットンはヴュイヤールらとの交流も盛ん。モデルのミシアもナビ派の画家のミューズであった人物です。ヴァロットン絵画にしては比較的親密感もあります。

では「夕食、ランプの光」(1899)はどうでしょうか。円卓を囲んでは食事をともにする人々。デモルは自身の家族です。右手に妻ガブリエル、奥に座っているのが子ども。妻と前夫の間の出来た子、いわゆる連れ子です。そしてテーブルの上にはボトルが置かれ、果物も盛られている。ではヴァロットンはどこにいるのか。一番手前のシルエットこそ画家本人の姿なのです。


フェリックス・ヴァロットン「夕食、ランプの光」1899年 油彩/板に貼り付けた厚紙
パリ、オルセー美術館
Paris, musee d'Orsay


食事時の団らんというシーンであるにも関わらず、どこか冷めても見える家族間の関係。それぞれはとりあえず集まったものの、心はあらぬ方向にあるかのように座っている。そもそもシルエットのヴァロットンは表情すら伺えない。大きな影絵。さも絵のこちら側に立つ鑑賞者の影、言い換えれば異界から闖入した傍観者のようでもあります。また子どもはヴァロットンと目を合わしているのではなく、画面を飛び越して、我々に向いているのではないか。強い自我を思わせる眼差し。目はキラリと輝いている。画家の存在は殆ど視界に入っていない。何とも言い難い疎外感を感じさせます。

実際にもヴァロットンは結婚後、妻の連れ子を「仕事の障害物と見なしていた」(図録より)。それを暗示したかのような作品です。どこかぎくしゃくした家族、親子間の関係。そこに近代的な家族観を見出すことが出来るのかもしれません。

またこうした心理劇とも言える複雑でかつ謎めいた人物同士の関係、「貞節なシュザンヌ」(1922)でも表現されてはいないでしょうか。


右:フェリックス・ヴァロットン「貞節なシュザンヌ」1922年 油彩/カンヴァス ローザンヌ州立美術館

ピンク色に輝く大きなソファ。座るのは3名。手前には禿頭の男が2名です。ともに後ろ向き、恰幅の良い姿をしている。両者とも黒い服に身を包むものの、一人は前屈みになり、またもう一人は首をすくめてやや上を向く。その二人の前でこちらを見やるのが女性です。緑色の帽子についた白や黄などの紋様。着飾っているのでしょう。やや深く被った帽子の下には太い眉とともに横に長い目が妖しく光る。曲がった口元は縦にのびる。よからぬ話をしているのか。何とも不敵な笑み。貞節どころか卑猥です。結論から述べれば聖書のパロディー。本来的に貞節なシュザンヌを娼婦にして描いている。大胆な読み替えでもあります。

それにしても隣のソファから覗き見するかの光景。もはや悪趣味です。また先に心理劇とも書きましたが、さながら映画のワンシーン、演劇的だとも言えるのではないでしょうか。そしてドラマテックなまでの明暗の対比です。猥雑なピンクを引き立てる漆黒の闇。一見、善なる光には常に邪な闇が迫っているのか。もはや男は女から逃れられない。思わず背筋が寒くなりました。

さて少し視点を代えて裸婦像を見てみましょう。もはやフェティシズムとしても言っても良いかもしれません。それはヴァロットンの絵画おける臀部の表現です。


フェリックス・ヴァロットン「トルコ風呂」1907年 油彩/カンヴァス
ジュネーヴ美術・歴史博物館
© Musee d'art et d'histoire, Ville de Geneve


と言うのもヴァロットン、後ろ向きの裸婦の女性、とりわけ臀部を見定めた作品が少なくない。例えばアングルに傾倒していた頃に描いた「トルコ風呂」(1907)、全裸の女性が寛いだ姿でいる様子が描かれていますが、如何せん一人背を向けて立つ女性の臀部に着目せざるを得ません。また両肘を立てて横たわりながらこちらを流し目で見る女性の「赤い絨毯に横たわる裸婦」(1909)も同様です。画面の下段中央に位置する臀部。さも全ての視線を集めるかのように描かれています。


フェリックス・ヴァロットン「赤い絨毯に横たわる裸婦」1909年 油彩/カンヴァス
ジュネーヴ、プティ・パレ美術館
© Association des Amis du Petit Palais, Geneve / photo Studio Monique Bernaz, Geneve


極めつけは「裸婦の習作」(1884)です。時代は戻り、まだ10代の画家の描いた油彩画、文字通り臀部しか描かれていません。それにしてもボリューム感のある力強いまでの臀部。一つの肉塊として浮き上がる。習作とは思えません。細部の筆致、肌の皺や光の陰影までを見事に描ききっています。


フェリックス・ヴァロットン「赤ピーマン」1915年 油彩/カンヴァス
ソロトゥルン美術館、デュビ=ミュラー財団
Kunstmuseum Solothurn Dubi-Muller-Stiftung


そして実のところ臀部だけでなく、ヴァロットンの画肌は意外に緻密です。「赤ピーマン」(1915)です。白いテーブルの上のピーマン。オレンジ色のものもある。かなり熟れているのでしょうか。もはや表面は艶やかですらある。細い実の襞。丹念な描写です。確かに「リアリズム」(キャプションより)という言葉も誇張ではないかもしれない。そして手前のナイフ。先端に赤い色がついている。まるで血のようにねっとりとした質感。これは目を引きます。


左:フェリックス・ヴァロットン「竜を退治するペルセウス」1910年 油彩/カンヴァス ジュネーヴ・歴史博物館

ヴァロットンは神話もパロディ化してしまいます。例えば「竜を退治するペルセウス」(1910)です。ギリシャ神話のペルセウスとアンドロメダの物語、無表情のペルセウスが退治するのは竜どころか着ぐるみのようなワニ。背を向けるアンドロメダはどこか嫌悪の眼差しを見せている。そもそもヴァロットンは神話を通して男女の葛藤なり闘争を描こうとした。二人の奇妙な関係。もはや読み取れません。

晩年のヴァロットンは第一次世界大戦を経験します。自身も画家として従軍、戦地の様子を捉えたいわゆる戦争画を描きました。


左:フェリックス・ヴァロットン「ヴェルダン、下絵」1917年 油彩/カンヴァス パリ、オルセー美術館

中でもポイントになるのが木版画の連作、「これが戦争だ!」(1915-1916)です。戦地での兵士の姿に塹壕で炸裂する爆弾を描く。また油彩の「ヴェルダン、下絵」(1917)では大戦の激戦地の様子を抽象的とも言える表現で表している。未来派との関連も指摘される作風。上空のサーチライトと大地で燃え盛る炎が交錯する姿。この地の戦闘では計70万名もの死傷者が生じたそうです。


右:フェリックス・ヴァロットン「短刀で刺された男」1916年 油彩/カンヴァス ヴィンタートゥール美術館

目の前に現れた「死」の世界。その意味ではホルバイン作に由来するという「短刀で刺された男」(1916)も大いに関係あるのかもしれません。元々ヴァロットン絵画には不気味な「影」があった。木版画には「自殺」(1894)や「処刑」(1894)などを描いた作品もあります。それが戦争を切っ掛けにより顕著になる。「戦争と死」が大きなテーマになっていたことは間違いありません。

最後に改めて「ボール」(1899)を振り返ってみましょう。おそらくは国内で最も知られているヴァロットン絵画、夏の陽射しの差し込む公園の中で女の子がボールを追ってかけていく。何よりもさも遠方から覗き込んだかのような引きのある空間、そして女の子の走る前景と二人の女性の立つ後景との二分された構図が際立つ。これは2枚のスナップ写真を組み合わせることで初めて得られた視点だそうです。


左:フェリックス・ヴァロットン「ボール」1899年 油彩/板に貼り付けた厚紙 パリ、オルセー美術館

それにしても何とも言い難い不安感。何処に由来するのでしょうか。遠くの女性は女の子を見守る親なのか。もはや手の届かないほどに離れている。女の子はそのまま走り去ってもう二度と戻らないのかもしれない。木立の影はまるで触手のように彼女を後ろから襲っています。前後で引き裂かれた日常。一見、何気ない、いやむしろ朗らかなまでの光景が描かれているにも関わらず、その奥に隠れている不穏でただならぬ気配。やはりこれこそがヴァロットンの最も「魅力」と言うべき点なのかもしれません。

長くなりました。ともすると「変態」などとも語られるヴァロットン。冷ややかな眼差しは見る者を決して温かくは包み込まない。好き嫌いは分かれるかもしれません。ただ異様なまでに気に懸かり、また何か捉え難く謎めいたものを持っている。時に神秘的な象徴派絵画を連想します。また適切な言葉はではないかもしれませんが、中毒性のある画家と言えるかもしれません。思わず時間を忘れて見入ってしまいました。


「ヴァロットン展」会場風景

会期は長く9月後半までです。ただし一号館の展覧会は後半に混雑が集中する傾向があります。早めの観覧がベストです。

国内巡回はありません。9月23日までの開催です。もちろんおすすめします。

「ヴァロットンー冷たい炎の画家」@vallotton2014) 三菱一号館美術館
会期:6月14日(土)~9月23日(火・祝)
休館:毎週月曜。但し祝日の場合は翌火曜休館。9/22(月)は18時まで開館。
時間:10:00~18:00。毎週金曜日(祝日除く)は20時まで。
料金:大人1600円、高校・大学生1000円、小・中学生500円。
 *「W相互割引」あり:「バルテュス最後の写真展」のチケットを提示すると100円引。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「キネティック・アート展」にてWEB内覧会が開催されます

7月8日(火)から損保ジャパン東郷青児美術館で始まる「キネティック・アート展」。



主に1960年代のイタリアで展開した「動く芸術」ことキネティック・アートを紹介。機械仕掛けに発光、また目の錯覚に視点の移動。様々な「動き」を取り込んだ作品が展示されます。

その「キネティック・アート展」にてSNSユーザー向けにWEB内覧会が開催されます。

[損保ジャパン東郷青児美術館「キネティック・アート展」WEB内覧会 開催概要] 
・日時:2014年7月7日(月) 18:00~20:00
・会場:損保ジャパン東郷青児美術館(東京都新宿区西新宿1-26-1)
・スケジュール
 18:00~ 受付開始
 18:30~ 内覧会
 18:30~19:00 ギャラリートーク
 20:00  内覧会終了
・定員:50名
・参加資格:ブログ、Faceboook、Twitterアカウントをお持ちの方。ブログの内容は問いません。
・参加費:無料
・申込方法:専用申込フォームより→https://admin.prius-pro.jp/m/win/form.php?f=5
・申込締切:6月25日(水) 18時まで。応募者多数の場合は抽選。当選者には6月30日(月)までにメールで通知。(落選者への通知はありません。)


ジョヴァンニ・アンチェスキ「円筒の仮想構造」1963年 鉄筋棒・電気仕掛の動き

開催日時は展覧会開幕前日の7月7日(月)の18時半より。(受付開始は18時)参加資格はブログ、Faceboook、Twitterアカウントをお持ちの方で、展示の感想なり魅力をご紹介いただける方です。

[参加の特典]
1.開催前に展覧会をいち早く観覧できる貸切内覧会です。
2.参加いただいた皆様に本展のジュニア版ブックレットをプレゼントいたします。
3.担当学芸員によるギャラリーツアーに参加できます。
4.展覧会会場内で写真だけでなく動画の撮影も可能です。(注意事項あり。)

当日は内覧中にギャラリーツアーが行われる他、会場内の写真、動画の撮影も可能です。また毎度の展示で感心するほど良く出来ているジュニア版ブックレットもいただけます。

定員は50名。申込は展覧会に先立つ6月25日(水)の18時まで。応募多数の場合は抽選となります。

なかなか見る機会のないキネティック・アート。出品は90件。全てイタリアのコレクションだそうです。

不思議な動き キネティック・アート展


動きのある作品が多いからかもしれません。写真に加えて動画も撮影可というのがポイント。思い思いに撮ってYoutubeなりにアップするのも面白いかもしれません。

開催日前日夜の貸し切り観覧、興味のある方は応募されてはいかがでしょうか。なお申込の締切が6月25日(水)までと少し早めです。ご注意下さい。

申込フォーム→https://admin.prius-pro.jp/m/win/form.php?f=5

「不思議な動き キネティック・アート展ー動く・光る・目の錯覚」 損保ジャパン東郷青児美術館
会期:7月8日(火)~8月24日(日)
休館:月曜日。但し7/21日は開館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学・高校生600(500)円、中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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「イグノア・ユア・パースペクティブ25 『JUST THE WAY IT IS』」 児玉画廊 東京

児玉画廊 東京
「イグノア・ユア・パースペクティブ25 『JUST THE WAY IT IS』」
5/31-7/5



児玉画廊東京で開催中の「イグノア・ユア・パースペクティブ25 『JUST THE WAY IT IS』」を見て来ました。

児玉画廊が連続して展開しているグループショー「イグノア・ユア・パースペクティブ」。新進の若手作家の作品が集う。早くも25回目です。今回は以下の5名の作品が展示されています。

[出品作家]
神山貴彦/貴志真生也/佐藤克久/杉本圭助/谷中佑輔

さて同シリーズ展、ともかく発見や感心の多い展示。ここで好きになった作家も少なくない。ここ数年はほぼ毎回見ているつもりでいます。

さて今回非常に気になったのは谷中佑輔です。上記DMの作品、ひょっとすると覚えておられる方も少なくないかもしれない。そうです。この春に丸の内で行われた「アートアワードトーキョー2014」にて見事グランプリを獲得した作品。タイトルは「山の振動」(2014年)です。

「受賞作品」@アートアワードトーキョー丸の内2014

実のところ私もアートアワードで「山の振動」を見て、写真とオブジェを活かした独特のボリューム感に多少なりとも印象を受けたものでした。

ただその時は強く惹かれるには至らなかった。しかし会場を換えてここ児玉画廊で見たらどうか。面白いのです。

と言うのもまずアートアワードの際にあったガラス展示ケースがない。剥き出しです。すると何か匂いが漂っている。木の香りです。アートアワードの時はてっきり全て発泡スチロールで出来ていると思った岩石のオブジェ。これが木彫だったのです。

またケースを介すと映り込みなどもあってか、どうしても臨場感に欠けるきらいがありますが、露出であれば話は別。限りなく近くによっては離れてみる。すると前後の感覚、ようは奥の岩肌の写真と手前の岩石のオブジェの位置の感覚が危うくなる。錯視と言って良いのでしょうか。非常にトリッキーでもあります。

奥は本物の岩肌を写真に収めたもので、手前の岩が作られたフェイクである。バルーンもずしりと重量感があります。赤や黄色などの暖色系が奥へ突き出し、寒色系は手前に迫り出している。その関係も興味深いものがあります。

「山の稜線に触れる」ということは現実には不可能であっても、感覚的には可能で、山並みの岩肌や樹々の梢をそっと手で触れる感覚を視覚によって得て、それを物質化するのです。 *児玉画廊リリースより

また石と果物を用いた立体作品「quack rock」も目を引きます。石に食い込むリンゴ。硬いものと柔らかいものの関係。初めはどちらかが偽物なのかと思いました。いや違う。両方とも本物である。素材のフェイク感はより際立っているかもしれません。


田中祐輔「山の振動」2014年 写真、木、発泡スチロール、ラッカー、他 *「アートアワードトーキョー丸の内2014」での展示風景

アートアワード会場の行幸ギャラリー、如何せん手狭なケースの中だけあってか、いつも展示の難しさを感じますが、そこから言わば解放された「山の稜線」がまさかこれほど魅惑的だとは思わなかった。また一人、展示を追っかけたい作家が見つかりました。

7月5日まで開催されています。

「イグノア・ユア・パースペクティブ25 『JUST THE WAY IT IS』神山貴彦/貴志真生也/佐藤克久/杉本圭助/谷中佑輔」 児玉画廊 東京
会期:5月31日(土)~7月5日(土)
休廊:日・月・祝
時間:11:00~19:00
住所:港区白金3-1-15 白金アートコンプレックス1階
交通:東京メトロ南北線・都営三田線白金高輪駅3番出口より徒歩10分。東京メトロ日比谷線広尾駅1番出口より徒歩15分。
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「永井裕明展 GRAPHIC JAM ZUKO」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー

ギンザ・グラフィック・ギャラリー
「永井裕明展 GRAPHIC JAM ZUKO」 
6/6-6/30



ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の「永井裕明展 GRAPHIC JAM ZUKO」を見て来ました。

主に広告を中心に様々なアートディレクションを手がける永井裕明(1957~)。テーマは「図我交錯」、略して「図交」です。

はて「図我交錯」、一体何を意味するのでしょうか。

まずは始まりです。永井はものづくりの原点を自らの小学校の図画工作に見出し、そこから改めて今の制作を振り返ってみた。すると様々な事情の交錯する大人の世界を咀嚼するために自我をもたなくてはならない。そう考えたそうです。


「永井裕明展」会場風景

そこで「図画工作」ならぬ「図我交錯」、ようは「図交」というわけです。会場では広告制作の他、テーマに沿っての多様な「図交」が紹介されていました。

それにしても聞き慣れぬ「図交」、なかなかイメージがわかないかもしれませんが、実のところ展示自体もかなり変わっています。


「ベーゴマ」 制作:日三鋳造所

というのも端的に「図交」が思いがけない素材で出来ているのです。例えばベーゴマはどうでしょうか。鋳造所の協力を得て制作されたコマ。「図交」の文字が記されている。そもそも永井は東京下町の生まれ。ベーゴマは身近な存在でもあったのだそうです。


「建築模型」 制作:杉本木工所 杉本孝行

突如現れた建築模型にも「図交」がある。等高線を描くなだらかな丘。その上に「図」と「交」の建物が建っていることがお分かりいただけるでしょうか。


「フィルム」

他にはレゴブロックやフィルム、それに雲母摺りに何と水槽などによって「図交」が象られている。いずれも永井が興味を持っている素材です。そして見るまでもなくチラシ表紙も「図」、さらには会場床面にも「図交」の文字が記されているほどの念の入れよう。他には角砂糖や鉄文字といった素材もありました。奇想天外な「図交」の数々。意外な出会いが待ち受けています。

階下のフロアへと進みましょう。今度は永井の仕事を紹介する。これまでに手がけた広告ポスターなどがずらり。企業ロゴタイプやグラフィック、また仕事ノートなども展示されています。


左:「ヤン・ファーブル展」2001年 ポスター 他

美術展の広告ポスターも見逃せません。丸亀市猪熊弦一郎美術館にDIC川村記念美術館です。前者はヤン・ファーブル展(2001)で後者はバーネット・ニューマン展(2010)。またモーリス・ルイス展(2008)なども手がけている。特にインパクトのあるニューマン展のデザインは覚えている方も多いかもしれません。ちなみに私も大好きで、今もチラシを大切に持っています。

他にも川村記念のピカソ展や群馬県立近代美術館のポップアート展のポスターなども目を引きました。


上:サントリー「CAMPARI」2000年 ポスター 他

企業広告ではサントリーのウィスキーやカンパリなどが良く知られているのではないでしょうか。また紀伊国屋本左衛門もシンプルながらもカラフルで美しい。25年のキャリア。さすがに唸らされるものはあります。


「永井裕明展」展示風景

「図々しくもいろいろな方々に協力していただきました。」(ちらし裏面より)と述べる永井。広告作品はもちより、人となりにも興味がわきます。過去と今の仕事を丁寧に紹介しながらも、どこかユーモアのある作品で魅せる展覧会。楽しめました。


「永井裕明展」会場風景

6月30日までの開催です。おすすめします。

「永井裕明展 GRAPHIC JAM ZUKO」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)
会期:6月6日(金)~6月30日(土)
休廊:日曜・祝日
時間:11:00~19:00 土曜は18時まで。
料金:無料
住所:中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅から徒歩5分。JR線有楽町駅、新橋駅から徒歩10分。
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「バルテュス最後の写真」 三菱一号館美術館歴史資料室

三菱一号館美術館歴史資料室
「バルテュス最後の写真ー密室の対話」 
6/7-9/7



三菱一号館美術館歴史資料室で開催中の「バルテュス最後の写真ー密室の対話」のプレスプレビューに参加して来ました。

バルテュスが生涯にわたって描き続けた女性の姿。それは時にスキャンダラスな話題を起こし、一方で人々を惹き付けてきた。画家は最晩年にポラロイドカメラを手にしてさらに女性を捉えています。ずばりその写真を紹介する展覧会です。一号館の歴史資料室で始まりました。

さて一号館の歴史資料室、ご存知の方も多いのではないでしょうか。いわゆる美術館の企画展示室(今はヴァロットン展を開催中です。)とは別のスペース。通常は一号館の復元の経緯などを紹介するコーナーです。


「バルテュス最後の写真展」会場風景

率直なところかなり狭い空間。ミニ企画展と呼んでも差し支えありません。しかしながらバルテュス晩年のポラロイドを日本で公開したのは今回が初めてでもある。その意味では貴重な展覧会と言うことも出来そうです。

それにしても何故に画家がカメラを手にしたのか。第一に身体の自由が利かなくなり、長時間のデッサンが耐えられなくなったからです。モデルをデッサンする替わりに写真に収める。いずれも油画制作の下絵として撮影されました。

そしてここに登場するのは一人の女性。バルテュスの近所に住んでいた医者の娘、アンナ・ワーリー氏です。何と8歳の時からモデルをつとめている。会場には彼女をモデルとしたポラロイドがずらりと並んでいます。

ともかく印象的なのは同じようなポーズを写していることです。さながら連続写真と言っても良いかもしれません。手や身体の向きが一見するだけでは違いが分からないほど似ている。微妙な動きの変化を見ては全体の様態を捉えています。

実際にもバルテュスはポーズについて事細かに指示を出していたそうです。やはりデッサンの手法に近いのでしょう。一方で光に対する感覚は時に大胆です。強い光をモデルに取り込む。ドラマテックでもあります。


「バルテュス最後の写真展」展示風景

半裸で横たわる女性の姿、やはりバルテュス画のイメージとも重なり合うのではないでしょうか。しかしながら単に官能的とも言い切れない。絵画同様に神秘的でもある。バルテュスは少女を天使のように描きたいと考えていた。写真と絵画との関係は思いの外に密でもあります。

出品は全部で150点。写真自体は結構ボリュームがありますが、初めにも触れたように、狭いスペースでの展示です。

入場料は500円。但しバルテュス展(東京都美術館及び京都市美術館)、またはヴァロットン展(三菱一号館美術館)のチケットを提示すると100円引の400円になります。(また逆に写真展のチケットを提示するとバルテュス、ヴァロットンの両展示がそれぞれ100円引になります。)半券をお忘れなきようご注意下さい。

「バルテュス展」 東京都美術館(はろるど)

バルテュス展の京都巡回展(京都市美術館:7/5~9/7)最終日までの展示です。9月7日まで開催されています。

「バルテュス、自身を語る/河出書房新社」

「バルテュス最後の写真ー密室の対話」 三菱一号館美術館歴史資料室
会期:6月7日(土)~9月7日(日)
休館:6月13日(金)。
時間:10:00~18:00。毎週金曜日(祝日除く)は20時まで。
料金:大人500円。
 *「W相互割引」:バルテュス展、及びヴァロットン展のチケットを提示すると100円引。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「デュフィ展」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム
「デュフィ展 絵筆が奏でる 色彩のメロディー」
6/7-7/27



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「デュフィ展」のプレスプレビューに参加してきました。

20世紀前半のフランスを代表する画家、ラウル・デュフィ(1877~1953)。まさに「色彩のメロディー」(サブタイトルより)ならぬ美しく鮮やかな色遣い。フランスの各地の風景はもとより、オーケストラなどの音楽の主題も手がけた。華やかな近代生活。ともすると憧憬の眼差しをもって捉えられているかもしれません。

ところでデュフィ、すぐさま何らかの作品のイメージが頭に思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。そういう意味では個性の際立つ画家でもあります。

ではデュフィの画業とは如何なるものなのか。実のところ私自身、この展覧会に接するまで、その一端しか知らなかったことに気がつきました。

国内におけるデュフィ回顧展の決定版と呼んでも差し支えないでしょう。出品は160点弱。ポンピドゥーやパリ市立近代美術館など海外からも多数作品がやって来ています。

さてデュフィ、原点は印象派です。故郷ノルマンディ地方の港町ル・アーヴルからパリにやって来たデュフィ。そのまま国立美術学校に入学し、当初は印象派風の絵画を描きます。


左:ラウル・デュフィ「サン=タドレスの桟橋」1902年 油彩、カンヴァス パリ国立近代美術館、ポンピドゥー・センター

ともすると初めに展示されている絵画、デュフィとは気がつかないかもしれません。しかしこれらが意外にも魅惑的です。「サン=タドレスの桟橋」(1902)はどうでしょうか。ブータンもモネも扱った彼の地の光景、白く輝く陽光の差し込んだ水辺の一コマ。ゆらりと靡くテントが風を表す。素早い筆致。水平線と桟橋が平行に並ぶ構図にも安定感があります。


左:ラウル・デュフィ「レスタックの木々」1908年 油彩、カンヴァス パリ国立近代美術館、ポンピドゥー・センター
右:ラウル・デュフィ「レスタックのアーケード」1908年 油彩、カンヴァス パリ国立近代美術館、ポンピドゥー・センター


ただし数年で印象派を放棄。次いでマティスやセザンヌらの作品に倣います。ブラックとともに滞在した南仏の街で描いた「レスタックの木々」(1908)も目を引く。キュビズムでしょうか。他にもフォーブをも取り込む。その後に自らの画風を模索していくようになりました。

デュフィが木版画とテキスタイルを手がけていたことをご存知でしょうか。

ミュンヘン旅行で出会ったドイツ表現主義の木版画に触発されたデュフィ。1910年にはアポリネールの「動物詩集あるいはオルフェウスとそのお供たち」の挿絵に連作の木版画を制作します。


ラウル・デュフィ「アポリネール:動物詩集あるいはオルフェウスとそのお供たち」(挿絵)1911年 木版、紙 群馬県立館林美術館

デュフィの木版画、特徴を一言で申し上げれば装飾性にあると言えるのではないでしょうか。植物の曲線やハッチングなどを多用した活気のある画面。密度は濃くまた躍動感もある。表現は豊かです。


中央:ポール・ポワレ(デザイン:ラウル・デュフィ)「デイ・ドレス」1925年 絹グログランにプリント 島根県立石見美術館

そしてこれらの木版画のモチーフをテキスタイルに転用したのも興味深いところ。デザイナーと共同して製作所まで立ち上げるほどの力の入れようです。また1920年代にはリヨンの絹織物製造業と契約を結び、布地のデザインを提供する。ドレスもお手の物です。木版でも得意とした植物のモチーフから時に東洋趣味まで。実に様々なテキスタイルを生み出します。


左:ラウル・デュフィ「エプソム、ダービーの行進」1930年 油彩、カンヴァス ひろしま美術館

よく知られたデュフィの世界へと進みましょう。Bunkamuraの展示室も一際華やかに見える。1920~30年代の代表作がずらり。例えば「エプソム、ダービーの行進」(1930)。同時期にスポーツの主題を積極的に取り上げた画家は少ない。デュフィの好んだ競馬場を描いた作品です。


右:ラウル・デュフィ「馬に乗ったケスラー一家」1932年 油彩、カンヴァス テート

「馬に乗ったケスラー一家」(1932)も充実しています。石油会社の創業者であったというケスラー一家の家族肖像画。馬に乗ってポーズをとる人たち。笑顔を見せている。そして花の生える草地の緑に空の青、また馬の茶色のコントラストも美しい。まさに色彩のデュフィならではの一枚です。

そしてさらに注目したいのが色彩のニュアンスです。と言うのもデュフィ、『デッサンとフォルムの色彩の隔離』を目指した。例えば馬の脚の部分、茶色が草の緑の箇所まで浸食している。また馬自体も青みを帯びています。デュフィの色彩、必ずしもモチーフにとらわれない。時に自由でもある。どことなく心地良く感じるのも、そうした伸びやかな色彩表現に由来するのかもしれません。


ラウル・デュフィ「電気の精」1952-53年 リトグラフ、紙 パリ国立近代美術館、ポンピドゥー・センター

1937年のパリ万博に出品された超大作「電気の精」の縮小版がやって来ました。いわゆる電気に関する歴史を古代の神話を織り交ぜて表したスペクタクル絵巻。本画の壁画は全60mにも及ぶそうですが、この縮小版もかなり大きい。登場人物は100名です。電気の学者や電気の精も描かれている。人物はヌードデザインから始まり、衣装も時代考証を重ねた。また発電所もデュフィ自ら現地に訪れてスケッチしています。これまでの集大成とも位置づけられる作品です。


左:ラウル・デュフィ「ヴァイオリンのある静物:バッハへのオマージュ」1952年 油彩、カンヴァス パリ国立近代美術館、ポンピドゥー・センター

晩年の音楽をテーマとした作品も見逃せません。音楽一家に育ち、自身も音楽が大好きだったデュフィです。大作曲家たちへのオマージュも。一例が「ヴァイオリンのある静物:バッハへのオマージュ」(1952)です。まるでガラスに当たった光が煌めくかのような色彩美。驚くほどに透明感に満ちている。ちなみに申し遅れましたが、デュフィの繊細な色味に筆致。写真はおろか、図録を含めた印刷物でも殆ど分かりません。こればかりは実際の作品に当たっていただくしかなさそうです。


デュフィ・デザインの陶芸、及び家具

最後に再び意外なデュフィをご紹介します。彼のデザインによる陶芸と家具です。陶芸でよく見られるのは水浴の女性像。また家具のテーマは「パリとその名所」です。長椅子から屏風に至る一連の家具セット。屏風の下絵はゴブラン織り。モチーフは言うまでもなくパリの景観です。椅子にもシャン=ゼリゼやオペラ座などの名所が登場。何と完成まで10年も要したそうです。


中央:ラウル・デュフィ「麦打ち」1953年 油彩、カンヴァス パリ国立近代美術館、ポンピドゥー・センター

油彩や水彩に版画に留まらず、テキスタイル、陶芸、家具までが並んでいる。単に「画家」の展覧会と思って出向くと良い意味で期待を裏切られます。デュフィの全貌を知る展覧会。デザイナーとしても見るべきものがある。まさかこれほど多方面に才能を発揮していたとは知りませんでした。



お馴染みミュージアムカフェマガジンの最新6月号がデュフィ特集です。デュフィを知る6つのキーワードなど展覧会の内容にも準拠。村上弘明さんと緒川たまきさんのインタビューも思いの外に読ませます。こちらもお見逃しなきようご注意下さい。


デュフィ展会場風景

7月27日まで開催されています。まずはおすすめします。なお東京展終了後、大阪(あべのハルカス美術館:8/5~9/28)、名古屋(愛知県美術館:10/9~12/7)へと巡回します。

「デュフィ展 絵筆が奏でる 色彩のメロディー」 Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:6月7日(土)~7月27日(日)
休館:7月2日(水)。
時間:10:00~19:00。毎週金・土は21:00まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学・高校生1000(800)円、中学・小学生700(500)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。要電話予約。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「佐藤翠展 A June House」 第一生命南ギャラリー

第一生命南ギャラリー
「佐藤翠展 A June House」 
6/2-7/4



第一生命ギャラリーで開催中の佐藤翠個展、「A June House」を見てきました。

ハンドバッグや靴の並ぶシェルフやラックを真っ正面から捉えて描く。

1984年に愛知で生まれ、名古屋芸術大学美術学部絵画科を卒業。2010年には東京造形大学大学院の造形学部を修了した画家、佐藤翠。

近年では名古屋のギャラリーでの展示の他、2012年には若手作家を紹介するオペラシティの「project N」にも出品がありました。

「project N 48 佐藤翠」@東京オペラシティ アートギャラリー 2012/1/14~3/25

さてまず目を引くのは「Shelf」です。文字通りシェルフ、棚の中に並ぶのはピンクや赤などのヒールにカバン。いずれも女性用でしょう。どこかファッショナブルとも言える雰囲気をたたえています。


佐藤翠「Bag shelf 3」(部分) 2014年 *アートアワードトーキョー2014での出品作

私自身、佐藤の作品を初めて意識したのはついこの前のこと。丸の内行幸ギャラリーの「アートアワードトーキョー2014」でした。

過去入賞作の特別展示に出ていた作品、今回同様、靴やカバンをモチーフにしたものでしたが、時に荒々しい筆致にポップな色の感触、そして正面性の強い構図が印象的だったことを覚えています。

第一生命ギャラリーでの出品作も「Shelf」など8点です。また天井高を活かしての大作も展示されています。

「Flower closet」はどうでしょうか。今度はクローゼットを捉えた作品。上にはずらりとヒールが並び、その下のハンガーにはたくさんの衣装がかかっている。ハンガーは金色です。衣装も花柄など華やか。シェルフと同じく正面から描かれています。

この正面性、例えばバラを描いた「English Rose garden」も同様かもしれません。深い緑に咲くバラ。余白の殆どを埋め尽くす。ともすれば上も下も判別出来ません。もはや一つの装飾ともいうべき画面が作られています。

さてここに装飾と書きましたが、奥行きが殆ど見られないのも特徴です。そもそもシェルフやクローゼットに奥行きは少ない。まるでカーテンの絵柄の如く描かれたカバン。構図の正面性と空間の平面性。その辺もキーワードになるかもしれません。

ペルシャ絨毯でしょうか。シンメトリーの花柄模様。これも正面から描いている。高さは2メートル50センチを超えます。ひょっとすると実寸大の絨毯をモチーフにしたのかもしれません。

DM表紙の「Pale mint carpet」はやや趣が異なります。刷毛を細かに動かしたようなストロークはどこか抽象的ともとれる画面を作っている。四方に「枠」のようなものが見られることから、これも絨毯などをモチーフにしているのかもしれませんが、紋様はさも溶け出すかのように散っています。

それに画肌の質感、垂れた絵具に掠れ、また時には塗り残しを用いたりするなど多様です。


佐藤翠「Bag shelf 3」他 2014年 *アートアワードトーキョー2014での出品作

アートアワードで気になっていた佐藤の個展、ともかくは近作をまとまった形で見ることが出来ました。

なお第一生命ギャラリーのオープンは平日午後のみ、土日祝日はお休みです。ご注意下さい。

7月4日まで開催されています。

「佐藤翠展 A June House」 第一生命南ギャラリー
会期:6月2日(月)~7月4日(金)
休館:土・日・祝日
時間:12:00~17:00
住所:千代田区有楽町1-13-1DNタワー21 第一生命本館1階
交通:JR線有楽町駅中央西口より徒歩2分。東京メトロ日比谷線・千代田線、都営三田線日比谷駅B1、B2出口より徒歩1分。東京メトロ有楽町線有楽町駅徒歩1分。
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「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展」の特設サイトがオープンしました

6月20日(金)から東京国立近代美術館ではじまる「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展」。

長らく同館WEBサイトに「特設サイトが6月にオープンします。」とのアナウンスがありましたが、この度ようやく正式にオープン。チラシ同様の鮮烈なビジュアルで目を引くサイトが開設されました。



「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展」特設サイト

さて長いタイトルを略して「世界の宝展」。端的には台湾の電子部品メーカー、ヤゲオ・コーポレーションによるヤゲオ財団所蔵の現代美術コレクションを展示するもの。40作家、全75点です。ベーコン、ザオ、ウォーホル、リヒターにグルスキー他。西洋の近現代美術はもとより、中国の近現代美術も紹介されます。

それに本展、単にコレクションを例えばジャンル別などに分けて紹介するわけではないのもポイント。何でも「美術史における連続性を表現」し、「コレクターの感覚を追体験」し得る「ゲームを提供」するとか。(カッコ内は公式サイトより。)また「空前絶後」などの案内もあります。ともかくもこれまでの現代美術展とは趣きの異なる展覧会になりそうです。

「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展」東京国立近代美術館 ウェブCM


また東近美らしからぬ、やや挑戦的でキャッチーなプロモーションがかかっているのも興味深いところ。例えばWEBCMです。かの「きゃりーぱみゅぱみゅ」のミュージックビデオを手がけた田向潤氏の制作。メインビジュアルでもあるマーク・クインの「ミニチュアのヴィーナス」に触発された少年がテクノの音楽にのって踊り出す。舞台は美術館の展示室でしょうか。なかなかセンセーショナルな内容になっています。

そしてもう一つ、「フォロー&リツートキャンペーン」です。同館のアカウント(@MOMAT60th)をフォローした上で、対象ツイート(下記リンク先ご参照下さい。)をリツイートすると、抽選で展覧会の貸し切りチケットが当たります。

「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展」フォロー&リツートキャンペーン

応募期間は6月11日(水)から会期中の6月30日(月)まで。当選は1組(2名)限定です。そして観覧時には本展企画者で東近美の保坂健二朗さんが付きっ切りで解説して下さいます。

かの広い東近美のスペース、100名でも入れそうな気もしますが、あえてそうはしない。完全貸し切りの1組です。プレミアム感ということでしょうか。お話の上手な保坂さんとの言わばデート鑑賞。ようは作品だけでなく保坂さんも独り占め可能です。面白いのではないでしょうか。



展覧会スタートまであと一週間を切りましたが、実は特設サイトはまだ全て公開されたわけではありません。近日「特別コンテンツ」もオープンするそうです。

[講演会]
登壇:保坂健二朗(本展企画者、当館主任研究員)
日程:7月12日(土)
時間:14:00~15:30 *開場は開演の30分前
場所:東京国立近代美術館講堂(地下1階)
*無料(140名)、申込不要

[ギャラリー・トーク]
トーク:保坂健二朗(本展企画者、当館主任研究員)
日程:8月1日(金)
時間:18:30~19:30
場所:企画展ギャラリー(1階)
*無料、申込不要、要観覧券

[映画上映 ハーブ&ドロシー]
「ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人」/「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」
日程:6月21日(土)、6月28日(土)
時間:13:00~16:30 *開場は開演の30分前
場所:東京国立近代美術館講堂(地下1階)
*無料(140名)、申込不要

東近美の「世界の宝展」、展覧会に向けてさらなる企画などがあるやもしれません。まずは期待しましょう。

[追記]Twitter・Facebook・メールマガジン限定での追加キャンペーンが発表されました。

開催日前日、6月19日(木)の「オープニングセレモニー」に先着100名をご招待していただけるそうです。応募方法については同館アカウント(@MOMAT60th)をご覧ください。

[巡回予定]
名古屋市美術館:2014年9月6日(土)~10月26日(日)
広島市現代美術館:2014年12月20日(土)~2015年3月8日(日)
京都国立近代美術館:2015年3月31日(火)~5月31日(日)

「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展」は東京国立近代美術館で6月20日(金)から始まります。

「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展 ヤゲオ財団コレクションより」 東京国立近代美術館@MOMAT60th
会期:6月20日(金)~8月24日(日)
休館:月曜日。但し7/21は開館。7/22は休館。
時間:10:00~17:00(毎週金曜日は20時まで)*入館は閉館30分前まで
料金:一般1200(900)円、大学生500(250)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
主催:東京国立近代美術館、ヤゲオ財団
協賛:全日本空輸株式会社、ヤマトロジスティクス株式会社
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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「背守り 子どもの魔よけ展」 LIXILギャラリー

LIXILギャラリー
「背守り 子どもの魔よけ展」 
6/5-8/23



LIXILギャラリーで開催中の「背守り 子どもの魔よけ展」を見て来ました。

「背守り」という言葉をご存知でしょうか。

かつて子どもの魔除けとして広まった習俗。着物の後ろ襟から背中にかけて施された飾りです。子どもは霊魂が不安定だとされ、背中から魂が抜けると信じられていた。それを守るためのもの。起源は鎌倉時代にまで遡ります。洋装が普及する昭和初期の頃まで見られたそうです。

出品は全110件です。着物だけでなく守り袋や帽子などの小物も含みます。(着物は30数件)様々な背守りが展示されていました。

会場内撮影が出来ました。


「背守りー糸じるし」

まず背守りの中で一番ポピュラーである「糸じるし」です。文字通り着物の背中にわざわざ縫い目を入れて魔除けとしたもの。最も簡略なお守りとも言えるでしょう。

例えば江戸時代の祝い着です。裕福な家のものかもしれません。美しい紫地に松竹梅模様。それだけでも目を引きますが、やはり注目したいのは糸じるしです。背中の上から赤と白の糸が腰の辺りまで縫い込まれています。


「背守りー飾り縫い」

「飾り縫い」です。鶴や亀といった吉祥文などを背中に縫い付けたお守り。赤い絹織りものには柘榴の刺繍が施されている。これも魔除けの意味があったそうです。


「背守りー飾り縫い」

それにしても着物の艶やかな様子。金魚に滝登りならぬ鯉をあしらったものまでがある。可愛らしいものです。目移りしてしまいます。


「背守りー飾り縫い(JOAK)」

一風変わった着物を見つけました。「JOAK」という英字が散りばめられた柄です。これは大正時代のラジオ放送局の名を取り込んだもの。その中の番組で募ったという「シロイオウチタテマシタ」という詩も書かれています。子どもに見せて教えたのでしょうか。ちなみに背守りは桜です。写真では分かりにくいかもしれませんが、白い糸で桜が刺繍されています。

「百徳着物」には驚きました。子育ちの良い家や長寿のお年寄りなどから端切れをもらい、それを百枚あわせて綴ったという着物です。金沢のお寺に今も大切に保管されています。


「背守りー百徳」(重要有形民族文化材:真成寺)

この百徳は何と全部で250枚ものの端切れを縫いあわせています。そもそも背守りは着物に縫い目を施すことに意味がある。同じように着物を縫い合わせることも魔除けということなのでしょう。明治時代の着物だそうです。


「背守りー紐」(重要有形民族文化材:真成寺)

背中に紐を垂らしたり襟下に小裂を縫った背守りもある。紐は例えば子どもが井戸から落ちた時に神様が引き上げてくれる。そうした願いを持ち合わせています。

またそもそも昭和以前、子どもの着物は大人のお古を直して使うことが多かった。何も「プロ」が仕立てたわけではありません。おそらくは母が子どもに合う着物の柄なりを考えて縫ったものばかり。着物にも背守りにも母から子への愛情がこめられていると言えるかもしれません。


「背守り」展会場風景

石内都が本展のために撮った背守りの写真も会場に花を添えます。なおそれに関連し、併設のギャラリー2では石内の個展も開催中。背守りや百徳を写したシリーズ。計19作が展示されていました。(石内展は撮影不可。)



「石内都展ー幼き衣へ」@LIXILギャラリー2 6月5日(木)~8月23日(土)

石内のファインダーを通すと着物の意匠がより映えて見えるのも興味深いところ。その反面、皺やくたびれた部分も際立つ。これも着物の「歴史」や「記憶」に向き合っている所以かもしれません。


「背守り」展会場風景

「背守り」を通して見た日本の知られざる服飾文化。コンパクトな展示ですが、実に見応えがありました。

「背守りー子どもの魔よけ/LIXIL BOOKLET」

入場は無料です。8月23日まで開催されています。おすすめします。

「背守り 子どもの魔よけ展」 LIXILギャラリー
会期:6月5日(木)~8月23日(土)
休廊:水曜日。
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 LIXIL:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分
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「新進作家展 白木麻子・大和由佳」 川口市立アートギャラリー・アトリア

川口市立アートギャラリー・アトリア
「新進作家展 白木麻子・大和由佳」
6/7-6/22



川口市立アートギャラリー・アトリアで開催中の「新進作家展 白木麻子・大和由佳」を見て来ました。

埼玉は川口発、比較的若い世代の作家の制作を紹介する新進作家展。現在の形(公募展)になってからは3回目です。白木麻子と大和由佳の展示が行われています。

さて展示は個展形式。一つの展示室でそれぞれ一人の作家が展示を見せる。まずは大和由佳です。1978年の愛知生まれ。現在は埼玉の在住です。都内他のギャラリーでの個展の他、近年では群馬の中之条ビエンナーレにも参加。焼物やブロンズ、紙にガラスに水。どちらかと言えば身近な素材を用いてインスタレーションを展開しています。


大和由佳「沈黙の作られ方/蜂の歌」2014年 *参考図版

今回はどうでしょうか。会場に一歩足を踏み入れて開けて来たのは、床面へ曲線を描くように並ぶ白く薄い板。石膏です。一辺は15センチ、或は20センチほどでしょうか。大きさも形も様々。まさに欠片と言うのに相応しい。それらが緩やかに連なっています。

その姿は例えて言うならば庭園に並ぶ石です。また床を水面に見立てれば無数に浮かぶ蓮の花ともとれる。欠片の並ぶ姿はどこか断片的で今にも途切れてしまいそう。しかしながらまるで手を取り合うように確かに繋がっている。儚くも映ります。

欠片に顔を近づけて驚きました。何と一つ一つの欠片には例えばスプーンであり本でありまた玩具でありと、実に様々なモノが象られているのです。ようはこれらの石膏はそうしたモノの写し、また抜け殻です。そしてモノはいずれも作家自身の身近な場所から採られています。

以前の展示では欠片を吊って見せたこともあったそうです。しかしながら今回はあえて床に並べている。確かな繋がり。あくまでもモノの記憶のつまった欠片同士を繋ぐということに重きを置いています。

石膏でありモノの型でもある欠片。さらに当初は会場に水をはり、その上に並べることも考えていたそうです。ただ水に浮かべると如何せん欠片同士の繋がりは弱くなってしまう。またモノの痕跡は意外にも強く欠片に残っています。一部の欠片にはモノ元来の色であったり素材そのものが残っている、言い換えれば剥離して写っているものもありました。

欠片の頭上でさも結界を張るかのように置かれたガラスの器も重要です。そこでは水との関連を示唆する紋様も描かれている。石膏の欠片とモノ自体とガラス。それらを繋ぐのは「水」のイメージかもしれません。各々が空間の中で呼応しているようにも思えました。

さて続いては白木麻子。1979年の東京生まれの作家。ポーラ美術振興財団在外研究員として2013年にドイツに派遣。現在は一時帰国して活動しています。


白木麻子「Between the ceiling and the floor」2014年 *参考図版

ジャンルは彫刻でしょうか。木製の階段にポール。小さな茶碗に椅子やテーブルも見える。ぱっと入って感じたのはどこかで見たような家具、もしくは居住空間を連想させること。初めは既製の家具、いわゆるレディメイドを用いたインスタレーションかと勘違いしてました。

しかしながら実際は全て作家自身が制作したオリジナル。元々、工芸を専門に学んでいたそうです。そしてよく見れば家具はあくまでも家具風。本来の用途を持ちえていない。例えば宙で行き止まりの階段に何物でもない柱。底の抜けた椅子に無数に連なる脚。トマソンを思い浮かべました。そして目を転じれば器も中がくり抜かれていない。ようは機能することなくただ存在しているのです。

また随所に絡み合うロープの所以でしょうか。それぞれの作品同士が緩やかに繋がっているような感覚も。オブジェは確かに強度がありますが、例えれば柱は椅子を外せば倒れてしまうなど、決してすべてが自立しているわけでもない。相互の関係が重要です。全体が各々の役割を持った何らかの装置のようにも見えます。

白木さんに直接お話を伺った際、「引き算」というキーワードが印象に残りました。機能を削ぎ、その上で手を加えて、新たな形として提示する。非常に興味深く感じました。

さて新進作家展、この両者の展示の他に続き、次の第4回展の二次審査もあわせて公開中。109組の応募の中から選ばれた9名の入選者の作品が紹介されています。

出品者:小田原のどか、今実佐子、カナイサワコ、山賀さつき、堀口泰代、對木裕里、稲垣立男、藤井龍、鈴木のぞみ

そして先日、審査員によって對木裕里・堀口泰代の二名が優秀賞に選定されました。来年6月に展示が行われるそうです。

なお審査員は第1回より埼玉県美の前山裕司、彫刻家で所沢ビエンナーレの実行委員でもある戸谷成雄、そして女子美術大学の南蔦宏がつとめています。私も過去展を追って来ましたが、今回も展示の内容はもとより、プレゼンテーションの公開など、かなり丁寧な「作り」の企画だという印象を受けました。


川口市立アートギャラリー・アトリア

川口市立アートギャラリー・アトリアは2006年、サッポロビールの工場跡地にオープンした市の「アート施設」(公式サイトより)です。展示スペースはいわゆるホワイトキューブですが、天井高が5m弱とかなりあります。また床材にビール工場の土台の杭が用いられているのも大きな特徴です。

6月22日まで開催されています。

「新進作家展 第3回優秀者 白木麻子・大和由佳」 川口市立アートギャラリー・アトリア
会期:6月7日(土)~6月22日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~18:00。土曜日は20時まで開館。*入館は閉館の30分前まで
料金:無料
住所:埼玉県川口市並木元町1-76
交通:JR線川口駅東口から徒歩約8分。
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