3月の展覧会・ギャラリーetc

3月に見たい展覧会などをリストアップしてみました。

展覧会

・「アートフェア東京2014」 東京国際フォーラム(3/7~3/9)
・「ハイレッド・センター 『直接行動』の軌跡」 渋谷区立松濤美術館(~3/23)
・「探幽3兄弟~狩野探幽・尚信・安信」 板橋区立美術館(~3/30)
・「星を賣る店 クラフト・エヴィング商會のおかしな展覧会」 世田谷文学館(~3/30)
・「岡田謙三&目黒界隈のモダンな住人たち展」 目黒区美術館(~3/30)
・「VOCA展2014」 上野の森美術館(3/15~3/30)
・「野口哲哉の武者分類図鑑」 練馬区立美術館(~4/6)
・「清麿ー幕末の志士を魅了した名工」 根津美術館(~4/6)
・「観音の里の祈りとくらし展」 東京藝術大学大学美術館(3/21~4/13)
・「江戸絵画の19世紀」 府中市美術館(3/21~5/6)
・「MOTアニュアル2014/驚くべきリアル」 東京都現代美術館(~5/11)
・「富士と桜と春の花」 山種美術館(3/11~5/11)
・「大江戸と洛中」 江戸東京博物館(3/18~5/11)
・「101年目のロバートキャパ」 東京都写真美術館(3/22~5/11)
・「栄西と建仁寺」 東京国立博物館(3/25~5/18)
・「中村一美展」 国立新美術館(3/19~5/19)
・「魅惑のニッポン木版画」 横浜美術館(3/1~5/25)
・「イメージの力ー国立民族学博物館コレクションにさぐる」 国立新美術館(~6/9)
・「コメ展」 21_21 DESIGN SIGHT(~6/15)

ギャラリー

・「ミヤケマイ 兆し」 壺中居(~3/1)
・「石川真生 森花ー夢の世界」 Zen Foto(3/5~3/15)
・「楽園創造ー芸術と日常の新地平 vol.7 八幡亜樹」 ギャラリーαM(~3/22)
・「宮本佳美ーCanon」 イムラアートギャラリー東京(~3/23)
・「第8回 シセイドウ アートエッグ 古橋まどか展」(3/7~3/30)
・「リチャード・セラ」 山本現代(3/8~4/5)
・「ポーラ ミュージアム アネックス展2014」 ポーラ・ミュージアム・アネックス(3/14~4/6)
・「伊藤幸久展ーあなたならできるわ」 リクシルギャラリー(~4/12)
・「橋本照嵩 瞽女」 ツァイト・フォト・サロン(3/14~4/12)
・「さわひらき展」 オオタファインアーツ(~4/26)
・「横山奈美展」 アルマスギャラリー(3/15~4/26)

さて3月、春を迎える恒例企画もいくつか登場。うちまず注目したいのが、府中市美術館の「春の江戸絵画まつり」シリーズから「江戸絵画の19世紀」です。



「江戸絵画の19世紀」@府中市美術館(3/21~5/6)

3世紀に渡る江戸時代の最後の世紀に焦点を当てた企画。よく知られる若冲も応挙も盧雪はいずれも一つ前の18世紀です。それに続く時代には如何なる表現が生まれたのか。北斎に其一に国芳に広重、そして芳崖に文晁。浮世絵に文人、洋風画までを展観します。なお会期中に展示替えも予定されています。まずは早めに行くつもりです。

さて続いては現代美術。こちらも恒例です。上野の森美術館でVOCA展が始まります。



「VOCA展2014」@上野の森美術館(3/15~3/30)

また同じく恒例のアートフェア東京も国際フォーラムで開催。タイトなスケジュールですが、関連イベントも盛りだくさんです。

その一方でもう一つのアートフェアとして知られる「G-tokyo」が、昨年を最後に活動を休止することが決まりました。

@Gtokyo
トップギャラリーによるショーの形式で斬新且つユニークなアートフェアのあり方を 提案してきたG-tokyoですが、今年から活動を休止します。事務局も2月28日をもって解散します。4年間のご支援をどうも有難うございました。

5年ぶりに宗達の「風神雷神図」がやってきます。東京国立博物館で「栄西と建仁寺」が始まります。



「栄西と建仁寺」@東京国立博物館(3/25~5/18)

その5年前とはかの「大琳派展」。もうそんなに経つのかと思わないこともありませんが、久々の東京での展観です。また4月には館蔵の光琳作の「風神雷神図屏風」(総合文化展にて)も展示されます。また東博では3月18日よりこれまた恒例の「博物館でお花見を」も開催。まだまだ寒い日が続きますが、3月は一気に季節が進む時期でもあります。下旬にはお花見も兼ねて出かけたいです。

それではどうぞ宜しくお願いします。
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「板谷波山の夢みたもの」 出光美術館

出光美術館
「没後50年・大回顧 板谷波山の夢みたものー〈至福〉の近代日本陶芸」
1/7-3/23



出光美術館で開催中の「没後50年・大回顧 板谷波山の夢みたものー〈至福〉の近代日本陶芸」を見て来ました。

明治末期から昭和にかけて活躍した陶芸家、板谷波山。時に美しき乳白色を帯びた陶芸品。独特のつや消しによる色味には温かみもある。私も漠然とながらも惹かれるものを感じていました。

しかしながら波山の辿った制作史はどうなのか。実のところ私は何も知りませんでした。これぞ決定版です。出品は陶芸、図案などをあわせて計180件。波山の魅力を探っていきます。

さて回顧展、当然ながら波山の作品を時間軸で追いかけていますが、単にそれだけではないのが大きな特徴です。ではそれは何か。言ってしまえば陶芸以外にも目を向けていること。かの時代の芸術の潮流なども踏まえ、波山の業績を多角的に見定めているのです。

その一例を。まずは「葆光彩磁鸚鵡唐草彫篏模様花瓶」。文字通り生い茂る唐草にオウム。南国風の意匠をとる花瓶ですが、それと津田青楓による漱石の「道草」の装丁デザインを比較している。確かに似たものがあります。

このように展示では漱石や泉鏡花の小説における「生命礼賛」を波山の陶芸にも見出している。白秋の引用もあります。

そして興味深いのが「葆光磁梅花文瓢形花瓶」です。青い花瓶に梅があしらわれる。また本作は明治末期のものですが、この青。大正期には日露戦争の勝色として流行したとか。その辺の関係についても触れられていました。

波山の作陶に進みます。よく知られるのは薄肉彫と呼ばれる彫の作品ですが、そうではなく塗りもある。比較的早い段階の「彩磁牡丹文花瓶」も一例。牡丹を描いています。それに先に挙げた「葆光磁梅花文瓢形花瓶」も同様です。まるで抱一画の如く軽快な筆さばきが印象に残ります。

さらに色の世界です。まずは独自の葆光釉。分かりやすいのは「葆光彩磁葡萄文香爐」と「彩磁葡萄文香爐」の比較です。両者とも紋様は葡萄ですが、前者は釉薬により仄かな白い光を発している。後者は彩磁です。当然ながら色味は強い。まるで表情は異なります。

また当然ながら波山の色は単に葆光彩によるものだけではありません。黒、茶、紅。また一口に白とは言えども、白磁、氷華磁、蛋殻磁、凝霜磁、葆光磁の5種類もある。カラリストと言う言葉は相応しくないかもしれません。しかしながら波山の色への探求。その関心は驚くほど多岐にわたっています。

ちなみに白ではやはり葆光磁に惹かれますが、氷華磁も趣き深い。例えば「氷華磁葡萄彫文花瓶」です。白磁の上に青みを帯びた釉薬をかける。すると透明感が出るとともに、線刻の部分に青い影が生まれ、紋様が際立ってくる。また青磁はどうでしょうか。「青磁二重鎬瓢花瓶」と「青磁瓢花瓶光」の取り合わせ。模様のない素文と蓮弁を彫刻で表した作品。大小2種の花瓶。それぞれに別の趣きがあります。

さて展示は主に前半が色別での展開、後半はモチーフ別です。鉱物、天体、植物、動物。波山は何を見つめていたのか。中でも一推しは「朝陽磁鶴首花瓶」。波山の天文学への関心。そして天目にも小宇宙が広がる。「曜変天目茶碗 銘天の川」です。ちなみに天目の銘は茶碗を手にした人物が名付けていたとか。星空を器に見やる。イメージは深淵でした。

あまり見慣れない図案や写生集も出ていました。植物を丹念にスケッチする波山。作陶に活かしたのでしょうか。時に文字で指示書きのようなものも記されていました。

それにしてもこの充実極まりない展覧会。そもそも出光美術館の波山コレクションは国内最大。波山の残した全1000件のうち280件余を有します。何でも創設者の出光佐三が惚れ込んで収集したそうです。

そうした両者の関係の一端を示すのが「天目茶碗 銘命乞い」かもしれません。この茶碗を制作後、僅かな傷を見出して打ち捨てようとした波山。対して佐三はまさに命乞いをした。結果、譲り受けた作品だそうです。

名品揃いに巧みな構成。初心者の私にはもちろん、波山に馴染み深い方にも発見の多い展示ではないでしょうか。感銘しました。

「炎芸術 115ー特集:板谷波山/阿部出版」

3月23日までの開催です。これはおすすめします。

「没後50年・大回顧 板谷波山の夢みたものー〈至福〉の近代日本陶芸」 出光美術館
会期:1月7日(火)~3月23日(日)
休館:月曜日。但し月曜が祝日の場合は開館。
時間:10:00~17:00 毎週金曜日は19時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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「葛飾応為 吉原格子先之図ー光と影の美」 太田記念美術館

太田記念美術館
「葛飾応為 吉原格子先之図ー光と影の美」 
2/1-2/26



太田記念美術館で開催されていた「葛飾応為 吉原格子先之図ー光と影の美」を見て来ました。

北斎の娘であり、自らも絵師として活動した葛飾応為。その業は晩年の父の制作を助けたと言われるほど。しかしながら北斎の没した数年後に消息を絶つ。生没年すら不明です。現存する作品も僅か10点ほどしかありません。

よく「幻の」という言葉でも語られる応為。あながち誇張ではないかもしれません。そして残された作品の中でも特に有名なのが表題の「吉原格子先之図」。光と闇の鮮やかなコントラスト。類い稀な個性を感じます。

その応為作を中心に浮世絵における光と影の表現を追いかけます。

さて既に本日をもって会期を終えた展覧会。手短かに感想を。まずは応為の「吉原格子先之図」。てっきりラストに掲げられているのかと思いきや、冒頭での展示。この作品を初めて見たのも太田記念。振り返れば2008年の「浮世絵の夜景」展のことでした。

それにしても何度見ても引込まれるものがある。格子の向うには吉原の遊女、艶やかな宴。明るくまた華やかです。そしてそれを覗き込む男たち。反面のシルエット。闇夜です。明暗の対比。明かりは格子からもれる光と提灯のみ。多くは後ろ姿で表情も伺えません。またよく見ると格子の向うにもシルエット状の人物がいる。さらに覗き込むのは自分、絵を見る鑑賞者です。だまし絵とまでは言いませんが、どこか不思議な印象を与えられます。

さて本作に続くのは、葛飾派以下、多様な浮世絵の絵師たち。それを「洋風表現」、「夜と美人」、「夜景」、「影、シルエット」の他、「閃光」などのキーワードで見ています。

まず印象深かったのは広重の「隅田堤闇夜の桜」。夜桜を愛でる三人の女性たち。いわゆる美人画ですが、あえて桜をモノクロ、ようは色を入れないで表現しているのがポイント。女性たちの着物の美しさが浮かび上がる。背景の闇とのコントラストも見事です。


月岡芳年「風俗三十二相 つめたさう 文化年間めかけの風俗」1888年

芳年の「風俗三十二相 つめたさう 文化年間めかけの風俗」はどうでしょうか。夜中に水で手を洗う女の姿。口には拭くための紙をくわえている。どこかエグ味のある人物表現は芳年ならではですが、面白いのは背景。右に暗、左に明。それを斜めの構図で切り取っているのです。


喜多川歌麿「中田屋」1794-95年頃

歌麿の「中田屋」も趣き深い一枚。縁側でしょうか。手前の階段に腰をかけるのは一人の女性。背後には障子があり、別の女が少しあけて手前の女と会話している。障子には同じく女性のシルエットが映ります。はじめは腰掛けている女の影かと思いました。違います。さらにもう一人、障子の向うにいる女のもの。三名の女性の演じる瞬間の情景。それを巧みに描き出しています。

国貞の「二見浦曙の図」は劇的です。言うまでもなく伊勢は二見浦の夫婦岩に取材した作品。岩の彼方、水平性の向うから朝日が浮かび上がる。四方に散る閃光。上空に5本、海には6本でしょうか。また岩の手前には小さな人影が。何でも身を清めようとする人たちなのだそうです。


井上安治「銀座商店夜景」1882年

ラストは清親に井上安治らが登場。維新後、明治の夜景です。中でも井上安治の「銀座商店夜景」が目を引く。当時まだ珍しかった缶詰を得る店先を描いたもの。夜の景色ですが、ともかく店の中が明るい。煌煌と照っている。やはり電灯なのでしょうか。江戸時代の明かりとは大きく異なります。

応為作は表題の1点のみ。現存する作品の数を思えば致し方ないかもしれません。ただそこから浮世絵全般の陰影表現を追う展開。思いの外に興味深いものがありました。

「浮世絵美人解体新書/安村敏信/世界文化社」

展覧会は終了しました。

「葛飾応為 吉原格子先之図ー光と影の美」 太田記念美術館@ukiyoeota
会期:2月1日(土)~2月26日(水)
休館:月曜日。
時間:10:30~17:30(入館は17時まで)
料金:一般700円、大・高生500円、中学生以下無料。
住所:渋谷区神宮前1-10-10
交通:東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅5番出口より徒歩3分。JR線原宿駅表参道口より徒歩5分。
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「Kawaii 日本美術」 山種美術館

山種美術館
「Kawaii 日本美術」 
1/3-3/2 *前期:1/3~2/2 後期:2/4~3/2



主に日本画表現の「かわいい」に着目。室町期の絵巻から若冲、盧雪らの江戸絵画を経て、近代日本画までを辿る。日本美術における「かわいい」の諸相を俯瞰する展覧会でもあります。

年初より始まっていた展示。うっかり行きそびれていました。既に会期も最終盤、後期での観覧です。「Kawaii 日本美術」展を見て来ました。

さて会場、冒頭に迎えてくれるのが若冲の「伏見人形図」。チラシ表紙にも掲載。図版などでもお馴染み。若冲の移り住んだ伏見の土産物として知られる人形をモチーフにした作品でもあります。

もちろんここで若冲は単に人形を置物として描くわけではなく、命を吹き込んでいる。てくてくと連なって歩く姿。かわいいというよりもユーモラスと言っても良いのでしょうか。思わずにんまりさせられます。


上村松園「折鶴」(部分)1940(昭和15)年頃 絹本・彩色 山種美術館

さて「Kawaii」展、三部構成ですが、初めはこども。人物表現におけるかわいいを眺めます。上村松園の「折鶴」はどうでしょうか。折り紙で遊ぶ母子。子どもは夢中になりながら屈んで取り組む。微笑ましい様子です。しかしながらここは松園。例えば母の気品に溢れた佇まい。折鶴を折る指先の何と美しきことか。見惚れます。

それにしても一括りに子どもとはいえ、表現は様々です。川端龍子の「百子図」を見て驚きました。巨大な画面の中央には大きな象が一体。その周囲を子どもたちが取り囲んでは嬉しそうにしている。象と子どもの渾然一体とした姿。何でも昭和24年にインド象が上野動物園にやって来た際、大変な話題となったことに取材した作品だそうです。大変な迫力でした。

子どもの次は生き物へ。奥村土牛です。他の追従を許さない山種の土牛コレクション。さすがに良品が出ています。まずは「栗鼠」。しっぽをくるっと振り上げたリス。木の枝にちょこんとのっています。


奥村土牛「兎」1947(昭和22)年頃 絹本・彩色 山種美術館

またもう一点、土牛で挙げたいのが「うさぎ」です。会場では隣り合わせに2点、うさぎを描いた作品が出ていましたが、私が惹かれるのは1947年の作。黒く丸まったうさぎ。紅色の芥子の花との取り合わせ。耳をぴんとたてて、何かを待つかのように彼方を見据えている。澄んだ瞳。その美しさ。思わず吸い込まれそうになります。


伊藤若冲「樹花鳥獣図屏風」(部分)18世紀(江戸時代) 紙本・彩色 静岡県立美術館 *後期展示:2/4~3/2

若冲の象さん屏風、「樹花鳥獣図屏風」が山種美術館へやって来ました。本作は言うまでもなくプライスコレクションの「鳥獣花木図屏風」などと並び、若冲のいわゆる枡目描き屏風として知られるもの。専門家の間では両屏風を廻って様々な議論もある。伝来を廻っては謎めいた点もある作品です。

私は2作を比べると、率直にこの「樹花鳥獣図屏風」が好きですが、改めて見てもやはりどこか若冲ならではの『鋭さ』が感じられるもの。大きく羽ばたく鳳凰の躍動感。そして長い鼻をニョロリとのばした象。また大見得を切る鶏。後方への広がりがあるのも「樹花鳥獣図屏風」。見通しが良い。確かに部分を切り取れば、全般に動物が丸みを帯びた「鳥獣花木図屏風」の方がかわいいかもしれません。ただやはり「樹花鳥獣図屏風」にも魅力がある。そして新生山種の効果的な照明に展示ケース、目と鼻の先での観覧です。久々にじっくりと堪能しました。

小さきものを慈しむ気持ち。雀をモチーフにした作品に目が止まりました。牧進の「明り障子」はどうでしょうか。障子越し、水仙の生い茂る庭に雀が何匹もちょこちょこ歩いている。これは作者自らが庭で飼っていた雀、その名もピー太を描いたものとか。雀は写実的。一方で水仙が並ぶ様は意匠的でもある。そして図版ではまるで分かりませんが、土の描写が実に巧みです。細い筆を横に重ねているのでしょうか。まるでさざ波のような紋様が描かれています。


谷内六郎「にっぽんのわらべうた挿絵原画 のうち『ほ、ほ、ほたるこい』」1970(昭和45)年頃 厚紙・水彩 谷内達子氏所蔵

ラストは矢谷六郎から熊谷守一へ。また象牙や木で出来た江戸期の工芸品なども展示されています。主に館蔵の日本画、一部館外品を交えての展示。楽しめました。

それにしても会期は残すところあと一週間。さすがに大賑わいです。ロッカーはいっぱい、入口ではチケット購入待ちの列も出来ています。


竹内栖鳳「みゝづく」1933(昭和8)年頃 絹本・彩色 山種美術館

とは言え、館内は若冲の「樹花鳥獣図屏風」や一部の絵巻を除けば、特に列があるわけでもありません。確かに混雑はしていましたが、思っていたよりはスムーズに見られました。

「関山御鳥(日本画家)についての情報を求めています」(はろるど)

3月2日まで開催されています。

「Kawaii 日本美術」 山種美術館@yamatanemuseum
会期:1月3日(金)~3月2日(日) 前期:1/3~2/2 後期:2/4~3/2
休館:月曜日(但し1/13は開館、1/14は休館。)
時間:10:00~17:00(入館は16時半まで)
料金:一般1200(1000)円、大・高生900(800)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。
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「第17回 岡本太郎現代芸術賞展」 川崎市岡本太郎美術館

川崎市岡本太郎美術館
「第17回 岡本太郎現代芸術賞展」
2/8-4/6



川崎市岡本太郎美術館で開催中の「第17回 岡本太郎現代芸術賞展」を見て来ました。

今年で既に17回を数える岡本太郎現代芸術賞展。いわゆる公募方式による現代美術展です。今回の応募は全780点。うち評論家諸氏の選定を経て入選したのは20名(組)の作家。その作品を紹介する展覧会が川崎市の岡本太郎美術館で行われています。

会場内の撮影が可能でした。早速いくつかの作品を挙げてみます。


左手前:高本敦基「The Fall」 *特別賞

まずは入口すぐの塔から。高さ4m近く。高本敦基の「The Fall」です。床面には裾野を描くかのように円が広がる。素材は何と洗濯バサミです。それを半ば執拗にまで組上げて作られた塔。見慣れた洗濯バサミがかくも美しく映る。しかしながら解体してしまえば単なる洗濯バサミ。それ自体は美しくもありません。素材と作品のギャップ。その辺も興味深いものがあります。

目当ての作家の一人です。文谷有佳里。Gallery Jinで度々展示を開催。2013年のVOCA賞にも出品のあった『線』の作家でもあります。


文谷有佳里「なにもない風景を眺める:線の部屋」

さて今回は一体どのように線を展開させたのか。驚きました。少なくとも私が見た中では最大級の作品です。3m×4mのガラスを4面用いたドローイング。何でも採光用でもある備え付けのガラス窓に描いたものだそうです。


文谷有佳里「なにもない風景を眺める:線の部屋」(部分)

この巨大な面を這ってはひしめき、またうごめく線。切れては再び復活。さながら稲妻。時に大きく空間を裂くかのように走る。一方で曲線も多数。何やら有機的なモチーフを象る。リズムを刻んではまた壊す線。群れと群れのぶつかり合い。近づいて見ると線の迫力に圧倒されます。

また今回は四方での展示です。向こう側のガラス面のモチーフとあわせ重なる展開も。映り込みはありますが、しばし線を追いかけました。


キュンチョメ「まっかにながれる」 *岡本太郎賞

見事大賞を受賞したのはキュンチョメ、2人のユニットです。無数に貼られた立ち入り禁止のテープ。しかしながら手前の米俵には「立ち入り禁止のその先へどうぞお入り下さい」の文字が。まずはそれに従って入ってみる。中央にそびえるのは赤い円錐の山。床には何か蒔かれている。何と米です。踏んで良いものなのか。立ち入り禁止の標示が非常に重くのしかかる。率直なところ違和感すら覚えます。


キュンチョメ「まっかにながれる」(部分)

そして奥へ。映像です。突き詰めればいわゆる3.11に取材したもの。かの原発事故により立ち入りが制限された区域の寺院の鐘を大晦日に鳴らすというプロジェクト。その様子を映しているのです。

彼の地で鐘を鳴らす姿。当然ながらもう3年間鳴っていません。現地には野ざらしとなった無数のゴミ袋がつまれている。真っ暗闇の無人の世界。ほぼ無音です。しかし翻ってみれば冒頭は手元のラジオから何とも明る気な紅白歌合戦が聞こえてくる。東京と被災地の惨たらしいまでの落差。また床と円錐状の米によって作られた紅白は日の丸を意味するのでしょうか。

キュンチョメ、私は作品を初めて見たのですが、この内容。もう忘れることはありません。強い印象を与えられました。


サエボーグ「Slaughterhouse-9」 *岡本敏子賞

さて大賞に次ぐ岡本敏子賞を受賞したのはサエボーグです。例えれば遊園地か何かにあるようなセット。雲が浮かびお日様が照り木が生えている。キッチュという言葉で良いのでしょうか。色や見た目だけすればどこか明るい雰囲気がある。しかしふと見やれば内蔵の剥き出しになった豚が吊るされている。生々しい。何とも独特の光景がひろがっています。

タイトルは「Slaughterhouse」。ようは場です。素材はラテックス。何でも自身の変身のための着ぐるみだそうです。そして度々行われるのが着ぐるみによる作家のパフォーマンス。ジェンダーの問題などを取り上げているのだとか。残念ながら立ち会えませんでしたが、その様子は映像でも紹介されていました。


長尾恵那「ぜんぶわたしのもの」

床に一人の人間が気持ち良さそうに広がっています。長尾恵那の「ぜんぶわたしのもの」。素材は樟、木彫です。ぐっと手を横に伸ばし、足を大きく開く。いわゆる大の字。下着一枚、ほぼ裸です。彫刻の質感もさることながら、思わずその側で見る自分も寝そべりたくなってしまうような雰囲気。惹かれるものがあります。


中村亮一「家族の物語」

中村亮一の「家族の物語」はどうでしょうか。三点の油彩。モチーフはタイトルの如く家族の姿。セピア色がかった色調での集合写真。郷愁を覚える。支持体を見て驚きました。ベニヤ板です。しかもそれを刻んでいる。下部はまるで森林のようでした。


小松葉月「果たし状」 *特別賞

サエボーグ同様、出展ブースを自らの世界で埋め尽くしたのが小松葉月の「果たし状」。小学生の頃の教室の思い出を再現したとか。デコラティブな学習机に鎮座するのは作家の何らかの投影と見て良いのでしょうか。後ろには無数の書道が並ぶ。校訓一「従」と記された紙に目が止まります。

またあえて写真は載せませんが、じゃぽにかのブース、「悪ノリSNS 芸術は炎上だ!」も凄まじいインパクトです。無数のお菓子なりカップ麺が置かれた陳列棚。アイスのケースもあるコンビニ風。しかしそこに展開されているのは思わず目を背けてしまうようなモノばかり。また鈴木雄介の「いけにえライン」はどうでしょうか。滑車で運ばれたものとは一体何か。思わず仰け反ってしまいました。


赤松音呂「マグネティカ・アニマータ」(部分)

最後に目立たないながらも印象深かった作品を。赤松音呂の「マグネティカ・アニマータ」です。壁面に並ぶのはガラスのコップ。そこには水が入れられている。中に浮かぶのは銅線でしょうか。シンプルな装置。何だろうと思いしばし立ち止まってみると、耳へ微かな音が飛び込んでくる。他の作家の映像作品にかき消されてしまうほど小さな音です。それらは地磁気を取り込んで生じたものとか。極めて繊細です。大掛かりなインスタレーションの多いこの芸術展の中ではむしろ個性が際立つ。聞き入りました。


「お気に入りの作品を選ぼう」投票コーナー

会場出口には「お気に入り作品を選ぼう」と題し、観客による入選作の投票コーナーもありました。入口で投票用のシールをいただけます。ちなみに参加特典としてカフェTAROでの5%割引という嬉しいサービスも。なお撮影可とこの投票。ともに今回が初めての試みだそうです。


「第17回 岡本太郎現代芸術賞展」会場風景

それにしても岡本太郎現代芸術賞展、作品の多くは刺激的であり、また時に批評的でもある。実のところ初めて展示を見ましたが、これほど面白いとは思いませんでした。

4月6日まで開催されています。おすすめします。

「第17回 岡本太郎現代芸術賞展」 川崎市岡本太郎美術館
会期:2月8日(土)~4月6日(日)
休館:月曜日。2月12日(水)。
時間:9:30~17:00
料金:一般600(480)円、大・高生・65歳以上400(320)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:川崎市多摩区枡形7-1-5
交通:小田急線向ヶ丘遊園駅から徒歩約20分。向ヶ丘遊園駅南口ターミナルより「溝口駅南口行」バス(5番のりば・溝19系統)で「生田緑地入口」で下車。徒歩5分。
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2月22日(土)はアンディ・ウォーホルデー

森美術館で5月6日まで開催中の「アンディ・ウォーホル展」。



アメリカはアンディ・ウォーホル美術館所蔵のコレクション400点(+300点の資料)を展観。ウォーホルの業績を時系列で辿っていく。途中にはアトリエの再現展示も。まさにチラシの通りの「入門編」です。半ば体感的にウォーホルを知ることの出来る展覧会でもあります。


アンディ・ウォーホル「花」1964年 麻にアクリル、シルクスクリーン・インク

そのアンディ・ウォーホル、命日は2月22日です。それに因んでイベント、「アンディ・ウォーホルデー」が行われます。

[アンディ・ウォーホルデー] 2014年2月22日(土) 場所:森美術館

◯「アンディ・ウォーホル展」ポスタープレゼント
 抽選で50名様に、ポスター(非売品)をプレゼント。
 会場:53F「アンディ・ウォーホル展」出口付近

◯あなたもウォーホルに!なりきり撮影スポット
 ウォーホルのトレードマーク、シルバーのウィッグと黒のサングラスをご用意。
 ウォーホルになりきって来館記念写真を撮ることができます。
 会場:53F「アンディ・ウォーホル展」出口付近

◯レクチャー「タイム・カプセルと日本」 *日英同時通訳付
 ウォーホルが身の回りのものを保管した「タイム・カプセル」についての特別レクチャー
 出演:マット・ウォービカン(アンディ・ウォーホル美術館チーフ・アーキヴィスト)
 日時:2014年2月22日(土) 14:00~15:30(開場13:30)
 会場:アカデミーヒルズ(六本木ヒルズ森タワー49階)
 料金:一般1000円、MAMCメンバー無料

プログラムは上の3つです。なおポスターは先着順ではなく抽選制です。当選者が一定数になり次第、終了となります。


アンディ・ウォーホル「キャンベル・スープ1:チキン・ヌードル」1968年 紙にスクリーンプリント

また3月1日からは「アンディ・ウォーホル・カフェ」もオープン。展望台の「マドラウンジ スパイス」がウォーホル仕様に。展覧会とのコラボメニューも登場します。さらには1970年の大阪万博で発表された「レイン・マシン」の改良版の展示も行われるそうです。(会期最終日まで)

「アンディ・ウォーホル・カフェ」
期間:3月1日(土)~5月6日(火・休)
時間:11:00~23:00(月・水~日曜)、11:00~17:00(火曜)
 *4月29日、5月6日の火曜日は23時まで
 *3月1日(土)はイベント開催のため15時まで
場所:東京シティビュー マドラウンジ スパイス(六本木ヒルズ森タワー52階)
料金:展覧会チケット、もしくは東京シティビューへの入場料が必要。

それにしてもウォーホル展、極めて珍しいことに、今回は展望台とのセットはなく、単独での展開。つまり展望台チケットでは入場出来ません。それにも関わらずかなりの盛況だそうです。


ビリー・ネーム「シルバー・ファクトリーで花の絵画を並べているアンディ・ウォーホル」1967年 ゼラチン・シルバー・プリント

残念ながら「レイン・マシン」の展示とはタイミングが合いませんが、2月22日(土)限定の「アンディ・ウォーホルデー」。興味のある方は参加されては如何でしょうか。

*関連エントリ(プレビューに参加してきました。)
「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」 森美術館(はろるど)

「ウォーホルの芸術/宮下規久朗/光文社新書」

「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」 森美術館@mori_art_museum
会期:2月1日(土)~5月6日(火・休)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00 *入館は閉館の30分前まで。
 *毎週火曜日のみ17時まで開館。但し2月11日(火・祝)、4月29日(火・祝)、5月6日(火・休)は22:00まで開館。
 *4月19日(土)は「六本木アートナイト2014」開催に伴い翌朝6:00まで開館。
 *入館は閉館時間の30分前まで
料金:一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下(4歳まで)500円。
 *入館料で展望台「東京シティビュー」にも入場可。
場所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。
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「源馬菜穂ーCONTACT」 LIXILギャラリー

LIXILギャラリー
「源馬菜穂ーCONTACT」 
1/31-2/25



LIXILギャラリーで開催中の源馬菜穂個展、「CONTACT」を見て来ました。

1985年に長野で生まれた作家、源馬菜穂。2009年にはトーキョーワンダーウォール賞を受賞。名古屋、岐阜の他、東京などで個展を重ねてきました。

リクシルのスペースでは初めての展示です。作品は17点のペインティング。水彩に油彩、またサイズも様々。それらが余白で満たされた会場を囲んでいます。



さてまず印象的なのは色。7色にも染まるパステルカラーです。水彩、油彩とも、薄く伸ばされた絵具がモチーフを象る。いわゆる心象風景でしょうか。海辺、高台、そして広い草地。しかしながら場所は特定出来ません。



ストロークも独特です。「一筆書き」との解説もありましたが、時に指でなぞるかのような面を開く。大きく横に流れては収斂し、また下から上へ、緩やかに回転するかのように靡く。そして線も面も断片的。一見、大きく掴み取るような筆致も目を凝らすと切れている。それらがざわざわと集まる。風を受けては揺れる草。全般的に動きが感じられます。

また面白いのは風景の中にほぼ必ず一人の人間が描かれていることです。しかもその多くは画面の中心、何も持たないでたた佇んでいます。そして足元からは長く細い影が伸びている。その影に妙に惹かれる。思わず自分をその場所に重ねあわせてしまう。絵の中に入り込む。そうした気分もさせられます。



かつてはモノクロの作品を手がけていたのだそうです。作風の変化。その辺も気になりました。

2月25日まで開催されています。

「源馬菜穂ーCONTACT」 LIXILギャラリー
会期:1月31日(金)~2月25日(火)
休廊:水曜日、2月23日。
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 LIXIL:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分。
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「さわひらき」 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリー
「さわひらき Under the Box, Beyond the Bounds」
1/18-3/30



東京オペラシティアートギャラリーで開催中のさわひらき個展、「Under the Box, Beyond the Bounds」を見て来ました。

1977年に生まれ、現在はロンドンに在住。神奈川県民ホールや資生堂ギャラリーでの個展(ともに2012年)の他、アーティストファイル(2008年)などにも出品のあったさわひらき。日常に寓話。虚構と現実。その映像作品はいつも惹き付けてやまない魅力があります。


「Did I ?」2011年 ヴィデオ・モノクロ、ステレオ・サウンド

そのさわが初台のオペラシティに登場。展示は日本で初めて公開される映像インスタレーションの他、ドローイング、さらに彫刻まで。約25点です。また会場は作家自身の構成によるもの。三部仕立てです。新作と旧作を3つのテーマに言わば再編して提示する。単に時系列ではありません。オペラシティの空間を自身の世界に引込む形での展示。さすがに見応えがありました。


「Lineament」2012年 2チャンネル・ヴィデオ、カラー、サイレント、特製レコードプレイヤー、レコード、ステレオ・サウンド

それでは簡単に追いかけてみます。まずは「箱の下」と題されたセクション。小さな石膏の彫刻やドローイングの並ぶ廊下を進む。徐々に暗くなり、暗室へ。そこで映されるのが「Lineament」。二面の大型スクリーンです。記憶を喪った友人の存在を切っ掛けに制作されたという作品。どこかシュール。指摘されるようにブニュエル的とも言えるのでしょうか。記憶についての問題が問われる。一昨年の資生堂ギャラリーでの個展でも発表された作品でもあります。

実のところ私もその時に作品を見ましたが、どうもあまり思うところがなかったのも事実。人の記憶、それを共有することの難しさ。そうしたことも感じましたが、今回は二度目ということなのか、もう少し入り込む形で作品に向き合うことが出来ました。回転するレコード。紡がれては広がり、また消えていく糸、はたまた記憶。メトロノームが時を刻む。反復と回転はさわの映像の一つの特徴でもある。その前のオブジェとの関連も良かったかもしれません。各々の世界が緩やかに繋がっていきます。


「Dwelling」2002年 ヴィデオ、モノクロ、ステレオ・サウンド

続いての二部、「ラジエーターの後ろ/配管」は構成からして見事です。というのもここでは新旧作が一つの舞台装置をとるかのように展開されている。中央には棚とテーブル。そしてふと置かれた小箱にも作品。さらには一転して天井近くにも映像が投影されています。映像に囲まれる場所。見上げては見下ろす体験。さわの最初期の話題作、「Dwelling」もここでの展示。飛行機も飛び交っています。何でもこれは作家のスタジオをイメージしての空間なのだそうです。

そして進むと「Lenticular」がお目見え。新作です。まるでプラネタリウムのようなドーム型の投影装置。実際にスコットランドの天文台で撮影されています。


「Lenticular」2013年 ヴィデオ、カラー、ステレオ・サウンド、ミクストメディア

横の壁のスクリーンでは天文学者が語る。ドキュメンタリー風です。そしてドームの映像はそれとリンクするような形で展開していきます。またそこにあるのは必ずしも星空だけではありません。歯車も回っていく。機械と星空に抽象的な紋様。先の「Lineament」で人の内面を見つめたさわが、今度は人や装置を通して宇宙を見据える。ドーム内からしばし見上げて映像美を楽しみました。

三部目、ラストで一際目立つのが「Envelopo」です。鏡を取り込んだインスタレーション。最奥部には縦長のスクリーン。その前にはまるでモノリスのように鏡が並んでいる。鑑賞者はその間に入って映像を見るという仕掛けです。スクリーンにはドレスを纏う女性たち。何を演じているのでしょうか。前へ後ろへと進み、ロウソクに火を灯しては書物を見やる。そして時に壺を割ってしまう。さらにはそれを掃除する姿も。その繰り返し。入れ子状でもあります。またよく見るとスクリーンの文字は反転している。背後の鏡を見ることで初めて分かるわけです。

ミラーを通して映像が空間全体へと広がるような仕掛け。これまでのさわの作品にあったでしょうか。見るものと見られるものとの関係を問う。時間軸も重層的です。新たな展開に驚かされました。

「自分の世界って何だろう? 領域を考え直す さわひらき展」@CINRA.NET

上記リンク先(本展を踏まえたさわのインタビュー記事)における「一歩踏み出した解釈」という言葉。最近のさわの制作なり今回の展示の特徴を表しているのではないしょうか。ともすれば「幻想」や「白昼夢」というキーワードで語られもする映像世界。しかしながらここではより深く人間の意識などを掘り下げている。どこか観念的であり、また時に象徴的ですらあります。


「Aurora」2013年 ヴィデオ、カラー&モノクロ、サイレント

私の中でさわを特に強く印象づけたのが一昨年の神奈川県民ホールギャラリーでの個展です。コンサートホールの一部という個性的な空間を巧みに利用しての展示。もちろん充実していました。ただ近作を交えていたものの、どちらかと言えば旧作の方が多かった。いわゆる集大成的な内容だったかもしれません。

一方で初めにも触れたように、今回の個展は新作「Lenticular」など、ごく最近の制作を大きく取り上げるもの。さわの関心はこれまでになかった領域へと向けられている。例えば小さな飛行機が静かに飛び交う幻想世界。そうした先入観のみで臨むと良い意味で期待を裏切られます。


「Souvenir」2012年 9チャンネル・ヴィデオ、カラー&モノクロ、サイレント

映像はもはや取っ付き易いものではありません。しかしながらさわの今後の展開を鑑みる際に一つのエポックとなり得る。そうした展覧会ではないかと感じました。

最長の作品で約19分。映像だけで20点ほどあります。じっくり見ると2時間はかかるのではないでしょうか。時間に余裕を持っての観覧をおすすめします。

3月30日まで開催されています。まずはおすすめします。

「さわひらき Under the Box, Beyond the Bounds」 東京オペラシティアートギャラリー
会期:1月18日(土)~3月30日(日)
休館:月曜日。2月9日(日)。
時間:11:00~19:00 *金・土は20時まで開館。入場は閉館30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大・高生800(600)円、中・小生600(400)円。
 *( )内は15名以上の団体料金。土・日・祝は小中学生無料。
 *閉館1時間前以降の入場、及び65歳以上は半額。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
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三菱一号館美術館×静嘉堂文庫美術館×東洋文庫ミュージアムで3館相互割引サービスが開始されます

東京・丸の内の一号館美術館に本駒込の東洋文庫ミュージアム。そして世田谷は岡本の高台に位置する静嘉堂文庫美術館。

静嘉堂は三菱第二代の岩崎彌之助と子の小彌太が設立。また東洋文庫は第三代の岩崎久彌が手がけた東洋学の研究図書館です。そして一号館は言うまでもなく三菱地所の企業美術館。いずれも岩崎家、及び三菱に所縁を持つ施設であります。



「描かれた風景ー絵の中を旅する」@静嘉堂文庫美術館(~3/16)

その三館にて相互割引サービスが開始されます。

「お得な3館相互割引サービス開始」@三菱一号館美術館ニュース

割引システムは至ってシンプルです。3館の入館券の半券、及び領収書を有効期間内に他2館に提示すると、当日の入館料が一律200円引きになるというもの。招待券の半券は適用されません。

有効期間は各館によって違いがあります。一号館は展覧会終了日より1年間。一方で静嘉堂文庫と東洋文庫は入館日より1年間です。静嘉堂文庫は入館券の裏面に押印があるものに限ります。



「仏教ーアジアをつなぐダイナミズム」@東洋文庫ミュージアム(~4/13)

また一号館のサポーターカードを東洋文庫ミュージアムの窓口に、東洋文庫友の会会員証(および名誉文庫員証)を一号館の窓口にそれぞれ提示すると、当日入館料が200円引となります。持参した本人のみが対象です。

それにしてもありそうでなかった割引システム。今後、3館はさらに連携して運営を行うことなったとか。ひょっとすると割引以外にも何らかの提携イベントなりが行われるやもしれません。



「ザ・ビューティフルー英国の唯美主義 1860-1900」@三菱一号館美術館(~5/6)

実は本駒込の東洋文庫、2011年にミュージアムが開設されて以来、一度も行ったことがありません。現在は「仏教ーアジアをつなぐダイナミズム」を開催中。これを機会に出かけてみたいと思います。

割引開始は2月14日から。既に開始しています。また過去の半券、領収書でも有効期間内であれば利用可能だそうです。

なお静嘉堂文庫美術館は現在開催中の「描かれた風景」展終了後、改修工事のため約1年間半ほど休館します。ご注意下さい。

余談ですが、私としてかなり楽しみな一号館のヴァロットン展の公式サイトがオープンしています。



「フェリックス・ヴァロットンー冷たい炎の画家」@三菱一号館美術館(6/14~9/23)

グラン・パレ、ゴッホ美術館、そして一号館美術館と廻る世界巡回の展覧会。先行したグラン・パレでは30万超の入場者を集めたそうです。こちらも期待しましょう。
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「あざみ野 フォト・アニュアル 写真の境界/戦争とカメラ」 横浜市民ギャラリーあざみ野

横浜市民ギャラリーあざみ野
「あざみ野 フォト・アニュアル 写真の境界/戦争とカメラ」 
2/1-2/23



横浜市民ギャラリーあざみ野で開催中の「あざみ野 フォト・アニュアル 写真の境界」を見て来ました。

恒例のあざみ野「フォト・アニュアル」シリーズ。今年は「写真の境界」です。写真の表現し得る領域はどこまで拡張していくのか。3名の写真家が展示を行っています。

会場内、撮影が可能でした。順に追ってみます。

まずは多和田有希。1978年生まれの作家です。2010年のVOCA展にも出品がありました。


多和田有希「Continental Drift Theory」2009年

被写体は群像や都市。いわゆる裸祭りでしょうか。ふんどし姿の男たちがひしめき合う姿。そして一転しての都市。韓国にも取材しているのかもしれません。看板にはハングルも。またおそらくは東京も写している。夜景です。群像は正面性が高い構図。都市は高い視点から鳥瞰するようなアングルで捉えています。私は都市により惹かれました。


多和田有希「White Voice」2013年

さて作品。ここに挙げた写真でも気づかれるかもしれませんが、ともかくも全面を白い粒、もしくは線のようなモチーフが覆っています。はだか祭りではさながら男たちの出す湯気。そして都市はネオンサインです。道路に沿って空へ向けて光が放たれる。鮮やかでもあります。

実は私自身、初めは写真の上から何らかの顔料なりで白い面を描き加えているのかと思いました。しかしながら目を凝らすと違う。線は引っ掻き傷のように走っています。ようは写真をサンドペーパーなりで削って生じた白なのです。解説には「彫刻」という言葉もあります。人々や都市の放つオーラやエネルギーを表現する。そうしたことも感じました。


春木麻衣子「a surface 01」2013年

次に進みましょう。1974年生まれの春木麻衣子。2011年には写美の新進作家展にも参加した作家です。


春木麻衣子「whom? Whose? 3-1M」2010年 他

ともかく目に飛び込んでくるのは黒と白の際立つコントラスト。そもそも展示室からして手前は明るくて白く、奥は暗くて黒い。そして黒の部屋。暗い建物内から見る窓越しの景色でしょうか。展示室も作品を覆う闇に包まれている。言わば写真と空間が連動しています。

ラストは1982年生まれの吉田和生です。近年には群馬の青年ビエンナーレ(2012)で大賞を受賞しています。


吉田和生「Air Blue」2014年

まずインパクトがあるのは壁一面を埋め尽くす「Air Blue」。森の中で木を見上げ、空を見据える。ただし単に見たままの風景ではなく、木や空に雲が時に交錯しているようにも映る。コラージュということで良いのでしょうか。実際に空を写して集めた写真をphotoshopで加工しているそうです。


吉田和生「Wav」2013年

それにしても水色に白を基調とした空間。ドットが散らばる平面。もはや抽象的です。また海に見えるような作品もありますが、これは意図してのこと。被写体は全て空です。作家の手を介すことで様々なイメージを引き出します。

「被写体の姿が不鮮明である。しかし不鮮明であるがゆえに、鑑賞者は目の前にあるイメージを超えて想像をめぐらすことが出来る。」(写真の境界展リーフレットより)

自分が何を見ようとしているのか。確かに元来にあるはずのイメージはいずれも変化、もはや曖昧でもあります。トリッキーという言葉は相応しくないかもしれません。ただ様々なアプローチを通すことで見開かれる新たな景色。なかなか魅惑的だと思いました。



さて本展に続く「戦争とカメラ」。こちらも見逃せません。横浜市が誇るカメラ・写真のコレクション。合計1万点にも及ぶ所蔵品をピックアップ。毎回テーマを設定して紹介していますが、今回はずばり「戦争」です。アメリカの南北戦争にはじまり、二つの世界大戦へ。カメラと写真がどのように戦争と関わってきたのか。それを100点の資料とともに追いかけています。


ソルントン・ピッカード社「マーク3ハイス・ガンカメラ」1915年

うち私が特に興味深かったのは「兵器としてのカメラ」についてのセクション。ようは軍隊における記録写真や軍事調査のためのカメラです。「マーク3ハイス・ガンカメラ」はどうでしょうか。まさに銃のような形をしたカメラ。何でも射撃訓練用で実際の射撃機能はないとか。目標に向けて引き金を引くと撮影され、現像後に目標が写っていれば着弾したものとみなすそうです。


ツァイス・イコン社「ESK2000」1939年

そして同じく訓練用としては二次大戦中にドイツ空軍が使ったものも。言われなければまるで砲弾。一見ではカメラか判別出来ません。


ヴァルスツ電機社「ミノックス」1937年 他

またスパイカメラもあります。その名の通りスパイ用。ドイツやフランス軍のもの。いずれも10センチ四方ほどで、手にすっぽりと収まるサイズです。これで文章などを隠し撮りしていたのでしょうか。


EG&G社「ラパトニック」1950年 他

そして最後には驚きのカメラが。何と核実験の撮影装置です。その名は「ラパトニック」。これでアメリカ軍は1952年~55年にかけてネバダ州で行われた核実験を撮影したそうです。


タイム社「ライフ 1943年8月16日号」1943年

また写真が戦争のプロパガンダに使われた経緯などについての展示もあります。あざみ野でのカメラコレクション展、いつもかなり楽しめますが、今回も充実していました。


「戦争とカメラ」会場風景

それにしてもこの内容で入場は無料。立派なリーフレットまでいただけます。恐れ入りました。

2月23日まで開催されています。おすすめします。

「あざみ野 フォト・アニュアル 写真の境界/戦争とカメラ」 横浜市民ギャラリーあざみ野@artazamino
会期:2月1日(土)~2月23日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~18:00
料金:無料
住所:横浜市青葉区あざみ野南1-17-3 アートフォーラムあざみ野内
交通:東急田園都市線あざみ野駅東口徒歩5分、横浜市営地下鉄ブルーラインあざみ野駅1番出口徒歩5分。
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「ザ・ビューティフル」 三菱一号館美術館

三菱一号館美術館
「ザ・ビューティフル 英国の唯美主義 1860-1900」 
1/30-5/6



三菱一号館美術館で開催中の「ザ・ビューティフル 英国の唯美主義 1860-1900」を見て来ました。 

「唯、美しく。」

端的に唯美主義を指した本展のキャッチコピー。唯美主義とはヴィクトリア朝の英国、主に19世紀後半に起きた芸術運動。物語や教訓に則ることのない、ただ美しくあるべき芸術を実現させていく。時に人々の生活の有り様を変えるようなムーブメントも巻き起こした。

国内では初めてとなる本格的な唯美主義の展覧会です。出品は140点。主にヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の所蔵品がやって来ています。

さて本展、流れからして、森アーツセンターで開催中のラファエル前派展を引き続くものでもありますが、会場の様子は大きく異なっています。とするのも唯美主義とは「生活様式全般を提案した運動」(展覧会公式サイトより)でもある。つまりは工芸全般、家具や宝飾品なども重要なわけです。言ってしまえばラファエル前派展のように絵画一色ではありません。


ウィリアム・ド・モーガン「大皿」1888年頃 ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館

また構成に関しても「ザ・ビューティフル」は細かい。デザイナーや画家の業績はもちろん、唯美主義に対する当時の社会の反応、古代ギリシャ美術との関係、またワイルドの存在、そしてジャポニスムなどにも言及がある。引き出しの多い展示です。

ちなみに展覧会はヴィクトリア・アンド・アルバート博物館からオルセー、またサンフランシスコの美術館を廻ったという国際巡回展(2011~2012年)をアレンジしたものとか。一つ一つの作品を追うとかなり時間がかかりました。


ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「愛の杯」1867年 国立西洋美術館

前置きが長くなりました。それでは印象深かった点をいくつか。まずはお馴染みの名品から。西美常設からのロセッティの「愛の杯」です。グラスを手に持ってポーズをとる女性。しかしながら何ら物語が投影されているわけではありません。半裸の女性が寝そべるワッツの「孔雀の羽を手にする習作」も同様です。女性のただ美しき美の表現する。これも唯美主義の新しさということなのでしょうか。


ローレンス・アルマ=タデマ「肘掛け椅子」1884-86年 ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館

ロセッティが染付に興味持っていたとは知りませんでした。ジャポニスムです。と言っても日本と中国の区別は曖昧。これをアングロ・ジャパニーズとも呼んだそうです。また日本美術に魅せられた建築家ゴドウィンによる装飾デザインなども紹介されていました。

ジャポニスムと同じように唯美主義の作家が関心を抱いたのは古代ギリシャです。面白いのはアルマ=タデマの「目に見えている結末」。舞台はローマです。青い海を望む情景。階段を上がって来る男性を女性たちが隠れながら伺う。何やら色々と前後の動きを想像してしまいますが、ここでも特段に物語が描かれているわけではない。ムーアの「黄色いマーガレット」はどうでしょうか。ギリシャ風の出立ち。しかしそもそもマーガレットは古代のアテネにはなかったとか。美しき女性がソファでただ仰向けに横たわる。唯美主義絵画の典型例と言えるかもしれません。


エドワード・ウィリアム・ゴドウィン「飾り戸棚(フォーシーズンズ・キャビネット)」1877年頃 ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館

唯美主義にもパトロンが存在します。1877年にオープンした「グローヴナー・ギャラリー」です。ここで唯美主義の絵画が興行的に成功をおさめました。また重要なのがホイッスラーとゴドウィンの恊働です。うちホイッスラーではエッチングの連作が魅惑的。「テムズ川ほか、16点のエッチング集」です。素早い筆致で描いたロンドンの情景。見入ります。


アンナ・アルマ=タデマ「タウンゼンド・ハウス 応接間、1885年9月10日」1885年 ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ

水彩の国イギリス、展示でも見事な一枚がお目見えしています。アルマ=タデマの「タウンセンド・ハウス 応接間」です。実にゴージャズな自邸の様子が描かれていますが、ともかく目を見張るのが美しき彩色に細かな線描。アーチ型の屋根、ぶら下がるのは鳥かごでしょうか。奥には大きなベットです。よく見ると中国風の花瓶なども置かれている。黒光りする木の床。そこに反射する部屋の明かり。床板の質感まで描いているのでしょうか。高い写実力に驚かされます。


エドワード・バーン=ジョーンズ「ブローチ」1885-95年 個人蔵

美術工芸品が言わば製品と化して世に出回ったのもポイントです。それが通称「美術産業製品」。市井の人々は暮らしの中に唯美主義作家のデザインを取り込むようになります。内装を飾るための家具や調度品。バーン=ジョーンズの手によるブローチも目を引きます。またモリス商会に関する展示もありました。


オーブリー・ビアズリー「クライマックス」1907年(初版1894年) ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館

さて一般的にワイルドの醜聞によって下火になってしまったとされる唯美主義。それを本展ではデカダンスから世紀末芸術へ繋げています。ここでお目見えするのがピアズリーのサロメなどの連作群。もちろんワイルドと唯美主義との関係についても紹介されています。またブックデザインや「詩の肉体派」と呼ばれた論争についても。唯美主義への批判、または受容に隆盛、さらには終息。初めにも触れましたが、この運動の動向を多面的に追っているのも本展の大きな特徴だと言えそうです。


アルバート・ムーア「真夏」1887年 ラッセル=コート美術館

ラストはチラシ表紙を飾るアルバート・ムーアの「真夏」でした。鮮やかなオレンジ色のドレス。二人の女性が団扇を持つ。座る椅子は白銀です。目をつむり、静かに過ごす。緩やかな時間の流れ。「唯、美しく」。改めてこの言葉が胸に響いて来ました。

私が出向いたのはちょうど東京が大雪に見舞われた翌日。それ故でしょうか。会場内は余裕がありました。ただ後半は混雑してきそうです。

なおチラシ裏面にも掲載されているアルバート・ムーアの「夢見る人々」の出品が中止となりました。(美術館ニュース)ご注意下さい。



ミュージアムカフェ マガジン」vol.5(最新号)が「ザ・ビューティフル展」の特集でした。唯美主義の時代背景から本展の内容、さらには思わぬ切り口によるヴィクトリア朝期の耽美主義について。いつもながら良く出来ています。あわせてご覧ください。

5月6日まで開催されています。

「ザ・ビューティフル 英国の唯美主義 1860-1900」 三菱一号館美術館
会期:1月30日(木)~5月6日(火・祝)
休館:月曜日。但し4月28日と5月5日は18時まで開館。
時間:10:00~18:00。毎週金曜日(祝日除く)は20時まで。
料金:大人1600円、高校・大学生1000円、小・中学生500円。
 *ラファエル前派展との相互割引(各半券持参で200円引)あり。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
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「世紀の日本画」展にて特別内覧会が開催されます

現在、東京都美術館で開催中の「日本美術院再興100年 特別展『世紀の日本画』」。



大正3年に再興した日本美術院の系譜を辿る展覧会。その間100年、長きに渡る歴史。大観、春草、古径、青邨、靫彦から現代の画家まで。前後期あわせて120点の日本画を紹介しています。

その「世紀の日本画」展にてSNSユーザー向けに特別内覧会が開催されます。

[東京都美術館 特別展「世紀の日本画」後期・特別観覧会 開催概要] 
・日時:2014年3月1日(土) 17:15~19:30
・会場:東京都美術館 企画展示室(東京都台東区上野公園8-36)
・スケジュール
 17:15~ 受付開始(展覧会会場入口前)
 17:30~ 特別内覧会開始
       *概要説明:河合晴生(東京都美術館学芸員)
 17:45~ 特別内覧会
 19:30  終了
・定員:100名
・参加資格:ブログ、Faceboook、Twitterアカウントをお持ちの方。ブログの内容は問いません。
・参加費:無料
・申込方法:専用申込フォームより→https://admin.prius-pro.jp/m/win/form.php?f=2
・申込締切:先着順。定員に達し次第、締切となります。また詳細は返信メールでお知らせします。


橋本雅邦「龍虎図屏風」 明治28年 静嘉堂文庫美術館 *後期(3/1-4/1)

日時は後期初日の3月1日(土)の17時15分より。閉館後の貸し切りイベントです。参加資格はブログ、Faceboook、Twitterアカウントをお持ちの方で、展示の感想なり魅力をご紹介いただける方です。ブログのジャンルは問いません。

[参加の特典]
1.参加の皆様(報道関係者含む)だけの閉館後の貸切観覧会です。
2.参加の皆様に本展ご招待券1枚をプレゼントいたします。
3.音声ガイドを無料貸し出しいたします。(数に限りがございます。)
4.担当学芸員による概要説明をお聞きいただけます。

定員は100名。先着順です。定員に達し次第、受付は終了となります。また担当学芸員によるレクチャーも行われます。なお特別観覧会は美術館関係者、報道関係者もあわせて参加します。展示室内の撮影は出来ません。


小林古径「出湯」大正7年/大正10年 東京国立博物館 *後期(3/18-4/1)

初めにも触れましたが「世紀の日本画」展は完全二期制。前期(~2/25)と後期(3/1~)で全て作品が入れ替わります。(一部例外有り)言わば二つで一つの展覧会です。(出品リスト

私も先日の金曜の夜間開館で現会期の前期展示を見て来ました。

「世紀の日本画」 東京都美術館(はろるど)

特別内覧会は何かと嬉しい週末、土曜の夕方の設定です。参加したいと思います。


速水御舟「比叡山」大正8年 東京国立博物館 *後期(3/1-4/1)

先着順での申込です。まずはお早めにご応募下さい。

専用申込フォーム→https://admin.prius-pro.jp/m/win/form.php?f=2

「日本美術院再興100年 特別展『世紀の日本画』」 東京都美術館@tobikan_jp
会期:1月25日(土)~4月1日(火)
 前期:1月25日(土)~2月25日(火)、後期:3月1日(土)~4月1日(火)
時間:9:30~17:30(毎週金曜日は20時まで開館)*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。2月26日(水)~28(金)。但し2月24日(月)、3月31日(月)は開館。
料金:一般1400(1200)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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「第8回 shiseido art egg 今井俊介展」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「第8回 shiseido art egg 今井俊介展」
2/7-3/2



資生堂ギャラリーで開催中の「第8回 shiseido art egg」今井俊介個展、「range finder」を見て来ました。

「平面である絵画の中に現れてしまう三次元性を問うている」

とはギャラリーのサイトに記載された一文。改めて上記DM作品「Untitled」を見る。どうでしょうか。まさしく絵画の平面。しかしながらストライプは時に風に靡くかのように揺らぐ。そして別のストライプの下へ潜り込みはまた現れ、さらには消える。どこか動きを伴う表現。はたまた鮮やかな色彩感覚。ビジュアルとしても強い印象を与えます。



1978年生まれの今井俊介。本展に出品したのはいずれも「Untitled」と題したアクリル画。6~7点です。それに加えて同じくストライプ状のモチーフをとる染色の立体を1点展示しています。



先に風に靡くと書きましたが、確かに眺めていると旗のようにも映る。そして絵の表面は限りなくフラット、例えばキャンバスの横から見ても絵具の隆起は殆どありません。塗るというよりもキャンバスに染み込ませたような絵具。面と面が交差する箇所も同様です。その意味でも極めて平面的ではあります。



それにも関わらず揺らぎや捻れに由来する動き。率直なところ私は三次元性云々というより、色そのもの、もしくはストライプというモチーフ自体に個性を感じますが、絵画の目の前に立つと、スケール感も惑わすような「強さ」もある。解説シートに「東京の夜の町のネオン」という言葉がありました。確かにギラギラとした光に呑まれるような感覚。そうした印象も受けるかもしれません。



【第8回 shiseido art egg 展示スケジュール】
加納俊輔展 1月10日(金)~2月2日(日)
今井俊介展 2月7日(金)~3月2日(日)
古橋まどか展 3月7日(金)~ 3月30日(日)

3月2日まで開催されています。

「第8回 shiseido art egg 今井俊介展」 資生堂ギャラリー
会期:2月7日(金)~3月2日(日)
休館:毎週月曜日
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。

*写真は全て「第8回 shiseido art egg 今井俊介展」の会場風景。撮影が可能でした。
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「世紀の日本画」 東京都美術館

東京都美術館
「日本美術院再興100年 特別展『世紀の日本画』」 
1/25-4/1 前期:1/25-2/25、後期:3/1-4/1



東博での「クリーブランド展」と「人間国宝展」にあわせ、「日本美術の祭典」として開催中の「世紀の日本画」展。近代日本画の名品を展観。大観、春草、古径、青邨、靫彦など。その数120点。(前後期で総入れ替え)半ば各画家を代表し得る作品が集まっています。

これは日本画好きにはたまらない展覧会。早速、感想をといきたいところですが、その前に一つだけ踏まえておきたい点を。勘違いしたのは私だけかもしれませんが、実は本展タイトルの「世紀」。例えば漠然と「20世紀」とした意味ではない。ようは日本美術院が大正3年に再興してから現在までの100年、その「1世紀」という意味なのです。

つまりは再興院展の歴史を遡って100年辿るというもの。よって院展限定です。また何も過去の巨匠だけではなく、現在も活動を続けている再興院展の同人の画家の作品も展示されています。それに過去の別部門ということでしょうか。洋画と彫刻も僅かながら出品されていました。


狩野芳崖「不動明王」明治20年 東京藝術大学 *前期展示:1/25-2/25

それでは感想に入ります。冒頭は再興院展成立前後です。狩野芳崖の「不動明王」。堂々たる姿。どうでしょうか、図版では落ち着いた色味に見えますが、実際には驚くほどに発色が良い。眩い金色の背景に明王の着衣の鮮烈なオレンジ色。そして空間には奥行きがある。エキゾチックな雰囲気。力強い作品です。

春草の「四季山水」も優品です。前期は春から夏までの光景。野山には桜が咲く。穏やかな筆致と色遣い。それでいて図像的とも呼べるイメージも。例えば川が岩を流れる場面岩の部分の色がモザイク状に塗られている。そういえば木々の並びにもリズムが感じられます。


奥村土牛「閑日」昭和49年 東京国立近代美術館 *前期展示:1/25-2/25

土牛の「閑日」に惹かれました。画家85歳の時の作品。描かれているのは一匹の猫。目が金色です。躯は得意のたらし込み。その上に細い線で毛を描く。背景は赤い敷物でしょうか。洒落た構図です。


下村観山「白狐」(右隻)大正3年 東京国立博物館 *前期展示:1/25-2/25

観山の「白狐」も目を引きます。何でも天心の英文オペラ「白狐」を引用したという作品。思慕への意味もあるのでしょうか。右隻には口に稲穂を加えた白狐。背景は木立です。ちょうど名作「木の間の秋」を思わせるような空間。密です。木々に絡む葉や蔓。奥に行くに連れて木が薄くぼやけている。空間に広がりがあります。一方での左隻。シンプルな画面ではないでしょうか。大きな余白。そこに薄が2、3本のみ描かれている。右隻と見事なまでに対比的でした。

川端龍子の「佳人好在」は京都国立近代美術館の所蔵品です。私は初めて見たかもしれません。舞台は料亭です。畳の上には膳が置かれ、椀には海老や刺身でしょうか。ゆで卵も盛られています。奥は池のある狭い庭。庇と縁側の合間から覗き込むような構図です。そこには一羽のカワセミ。何か獲物を狙っている。それにしても透明感のある色彩。穏やかな光景です。龍子と言えばまず「鳴門」のような荒々しい大作が思い浮かびますが、まさかこうした作品も残していたとは知りませんでした。

さて展覧会、後半はテーマ別です。歴史や花に鳥、また風景や幻想など。それらの元に再興院展の画家の作品が並びます。またここは初めにも触れたように存命の方の作品も展示されています。時系列での展開ではありませんが、作品を通して院展100年の歴史が浮かんでくるかもしれません。


中村岳陵「婉膩水韻」昭和6年 静岡県立美術館 *前期展示:1/25-2/25

衝撃的な作品と出会いました。中村岳陵の「婉膩水韻(えんじすいいん)」です。大和絵から飛び出して来たような女性が全裸で泳いでいる。右上は脱ぎ捨てた衣でしょう。水面に両手を振って前へ進まんとする女性の姿。透き通るように真っ白な肌です。そして水辺を大きく描いた構図も大胆。当時、モダニズムを追求していたという画家。どのような評価を得たのでしょうか。

吉田善彦の「霧氷」。一面に凍り付いた林。無人です。ほぼグレー一色。目を凝らすと仄かな彩色も。それにしても薄暗くまた寒々しい。静まり返った雪の夜。人の行く手を阻む。厳しい冬の景色です。


小倉遊亀「径」昭和41年 東京藝術大学 *前期展示:1/25-2/25

東博、東近美、芸大美術館など、主に国公立の博物館や美術館から集められた日本画。見慣れた作品も少なくありませんでしたが、大作揃い。一定の見応えはありました。

さて会期は前後期の二会期制。作品は全て入れ替わります。

「特別展 世紀の日本画」出品リスト(PDF)
前期:1月25日(土)~2月25日(火)
後期:3月1日(土)~4月1日(火)

久々に金曜の夜間に観覧しましたが、さすがに会場内は空いていました。ただ土日の昼間は比較的混み合っているそうです。

「近代日本の画家たちー日本画・洋画美の競演/別冊太陽/平凡社」

前期展示は2月25日までです。展覧会は4月1日まで開催されています。

「日本美術院再興100年 特別展『世紀の日本画』」 東京都美術館@tobikan_jp
会期:1月25日(土)~4月1日(火)
 前期:1月25日(土)~2月25日(火)、後期:3月1日(土)~4月1日(火)
時間:9:30~17:30(毎週金曜日は20時まで開館)*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。2月26日(水)~28(金)。但し2月24日(月)、3月31日(月)は開館。
料金:一般1400(1200)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」 森美術館

森美術館
「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」 
2/1-5/6



森美術館で開催中の「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」のプレスプレビューに参加してきました。

20世紀後半のアメリカを代表するクリエイターであるアンディ・ウォーホル(1928-1987)。いわゆるアートのみならず、デザイン、写真、音楽プロデュース、映像その他と各方面に進出。様々な業績を残してきました。

ともかく作品は膨大。例えばアート面から振り返ってはどうか。それこそ昨年のポップ・アート展しかり、いくつかの代表作を見る機会は少なくない。しかしながら時間を追ってどう展開していったのか。ファンならいざ知らず、意外とあまり知られていないかもしれません。


「アンディ・ウォーホル展」会場風景

そこで本展です。時系列でウォーホルの制作を見る。出品は400点。全てアンディ・ウォーホル美術館のコレクションです。また作品に加えてウォーホルの私的所有品、通称「タイムカプセル」もあわせて展示。こちらは300点です。うち来日時に彼が集めた資料も含みます。日本では20年ぶりとなる本格的な回顧展。さすがに一定のスケール感はありました。


右:アンディ・ウォーホル「自画像」 1986年
左:アンディ・ウォーホル「自画像」 1978年


では展示を追いかけましょう。まずは自画像。実は本展、最後も自画像で終えますが、それは展示の通底に「ウォーホルは何者なのか?」という問いが投げかけられているから。いわゆるマルチに活躍したウォーホル。それこそ女装など、自画像からして多様ですが、ともかくも冒頭において初期から晩年までのポートレートがいくつも紹介されています。


撮影者不明「少年期のアンディ・ウォーホル」 1935年 他

最初期のものでは3歳の頃に母や兄とともに収まった写真も。また1954年には世界一周旅行に出かけますが、その際に日本に立寄り、おそらくは東京で「はとバス」に乗ったのではないかということ。皇居前で記念撮影に収まったウォーホルの写真も展示されています。

それにしても自画像ではとかく奇抜にも見えるウォーホル。性格は内向的、また容姿にコンプレックスを持っていたとも伝えられるそうです。一方でのスナップ写真ではあまり演じることもないのでしょうか。例えば1980年にローマ法王に謁見した際の写真。にこやかな笑みを浮かべている。そもそもカトリック教徒でもあります。


右:アンディ・ウォーホル「靴と脚」 1950年代

さて1949年の大学卒業後、NYでイラストレーターとして成功したウォーホル。ファッション誌の「ヴォーグ」や「グラマー」、そしてシューズメーカーの広告イラストレーションなどを手がけていく。またこの時期で興味深いのは「ブロッテド・ライン」と呼ばれる技法です。ペンで先に紙に描き、別の紙に押し当てて転写する。それによって独特の線描を獲得しました。

また新聞や雑誌をコラージュしたり、ゴム印を使って反復させた技法も確立。また一風変わって屏風仕立ての作品なども作っています。反復や転写。後にウォーホルが多用するシルクスクリーンにも通じる面があるかもしれません。


右:アンディ・ウォーホル「キャンベル・スープ缶(トマト・ライス)」 1961年
左:アンディ・ウォーホル「潰れたキャンベル・スープ缶(ビーフ・ヌードル)」 1962年


60年代に入ると美術館への進出を図ります。絵画の制作です。例えばお馴染みのキャンベル缶から「トマト・ライス」。ここでは絵具を直接指でのせたり、また垂らしたりしている。隣の「ビーフ・ヌードル」はどうでしょうか。下書きに鉛筆を用いています。また同時期の「バスタブ」では塗り残しをそのまま利用した。これらは彼が反発したアメリカの抽象主義の描法に影響された面もあるそうです。キャンベル缶の一つをとっても制作上において様々な実験をしていることが分かります。


右:アンディ・ウォーホル「病院」 1963年
左:アンディ・ウォーホル「自殺(シルバーの飛び降りる男)」 1963年


そしてこの時期にウォーホルが取り上げたのが人の死です。それが「死と惨禍」シリーズ。まずは「病院」です。母体から逆さ吊り取り上げられた赤ん坊。血まみれなのでしょうか。モノクロの画面では真っ黒に写っている。不気味で恐ろしい光景。しかしながらそれを覗きたくもなる欲望。「自殺」や「電気椅子」も同様です。人は死に対してどう反応するのか。ウォーホルの意図はともかくも、やはり考えさせられる面は多分にあります。


アンディ・ウォーホル「マリリン・モンロー(マリリン)」 1967年

ちなみにこれらはいずれも報道用の写真を何度も転写して作られたとか。そもそも半ばアイコンと化した「マリリン・モンロー」でさえ、当初はウォーホル自身が女優の死のニュースを見聞きして制作したものでもあります。「死と惨禍」。全体からすれば僅かな出品に過ぎませんが、私の中でのハイライトはこのセクションでした。

さて時代別にウォーホルの制作を半ば体感的にも見ていく展示。その最たるものがアトリエ。ウォーホルがNYに構えたスタジオ「シルバー・ファクトリー」が再現されています。


「シルバー・ファクトリー」展示風景

会場ではご覧のようにスタジオの一部を実寸大で再現。シルバーの名の如く内部は全て銀色のアルミフォイルで装飾されています。ちなみにこの装飾の発案は写真家のビリー・ネーム。彼もスタジオに住み着き、訪問者やウォーホルの制作風景を多数カメラに収めました。


手前:アンディ・ウォーホル「ブリロの箱」 1961年 (シルバー・ファクトリーから)

ウォーホルはここで多くのアシスタントを使いながら作品を生み出す。まさに工場です。また床面に並ぶのは「ブリロの箱」。既製品の段ボール箱とまるでそっくりな箱を木で作る。ラベルの文字や絵はシルクスクリーンです。ウォーホルはこれをコレクターに一山ごとに売ろうとしたとか。日用品と芸術品との価値との関係。当時、様々な議論を巻き起こしました。

またあわせてウォーホルのプロデュースしたバンドのヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコの映像も一部紹介されています。この辺りも見どころの一つとなりそうです。


アンディ・ウォーホル「毛沢東」 1973年

少し長くなりました。先を急ぎます。1968年に起きた銃撃事件により瀕死の状態に陥ったというウォーホル。72年の「毛沢東」シリーズから美術の制作を再開。「ビジネス・アート」の言葉のもと、有名人のポートレートシリーズ、いわゆる注文肖像画の制作を多数受けます。


アンディ・ウォーホル「絶滅危惧種:アフリカゾウ」他 1983年

また活動も多様化。例えば1983年の「絶滅危惧種」。雑誌や新聞から選んだその名も絶滅危惧種の動物たち。アメリカの自然史博物館に展示した他、売却益の一部を保護団体に寄付したとのこと。また一方でアーティストとのコラボも展開。中でも親しい友人だったパスキアとの活動です。「ドル記号」絵画にパスキアが手を加える。二人の関係はウォーホルの死まで続きました。


左:ジャン=ミシェル・バスキア、アンディ・ウォーホル「コラボレーション(子年、ロデント)」 1984~85年

晩年は例えばキャンベル缶など、かつてのモチーフなり制作手法を言わば反復させているのも特徴です。一方で宗教的なモチーフも現れます。「十字架」です。また1983~84年に日本で行われたウォーホル回顧展のための作品も紹介。TDKのテレビ広告に出演したこともあったそうです。まるで俳優のように卒なくこなすウォーホル。心中如何なるものだったのでしょうか。


「タイムカプセル」関連資料

その他ウォーホルの映像作品をまとめたコーナーや初めにも触れた「タイムカプセル」の資料も展示。彼は74年に個展を開くために来日していますが、その頃から日本に関する文物、雑誌や写真を収集していたようです。浮世絵から雑誌の文楽特集、さらには長嶋茂雄が表紙の報知グラフなども目を引きました。


「アンディ・ウォーホル展」映像展示風景

チラシにもある「入門編」という言葉が当てはまります。ともかく各方面に様々な足跡を残したウォーホル。受容史なりを検証するというよりも、ウォーホルの人生そのものを作品とともに追体験する。そうした展覧会と言えるかもしれません。

なおウォーホルが大阪万博のアメリカ館で発表した「レイン・マシン」(*)。その改良版(一度、破棄されたため。)が出品されますが、期間は限定です。3月1日より会期最終日まで森タワー52階のシティービュー内に開設予定の「ウォーホル・カフェ」にて展示されます。ご注意下さい。


「アンディ・ウォーホル展」会場風景

内覧に引き続いて、会期初めの日曜に見て来ましたが、早々も関わらず、かなり賑わっていました。GWまでのロングランの企画、後半は混雑するかもしれません。

「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分/美術出版社」

5月6日まで開催されています。まずはおすすめします。

*3D加工されたひなぎくの花の写真が枡目状に並ぶ壁の前に、人工の雨を降らせるインスタレーション。

「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」 森美術館@mori_art_museum
会期:2月1日(土)~5月6日(火・休)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00 *入館は閉館の30分前まで。
 *毎週火曜日のみ17時まで開館。但し2月11日(火・祝)、4月29日(火・祝)、5月6日(火・休)は22:00まで開館。
 *4月19日(土)は「六本木アートナイト2014」開催に伴い翌朝6:00まで開館。
 *入館は閉館時間の30分前まで
料金:一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下(4歳まで)500円。
 *入館料で展望台「東京シティビュー」にも入場可。
場所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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