「ゴールデンウィーク特別企画展 富士山展」 ニュートロン東京

ニュートロン東京港区南青山2-17-14
「ゴールデンウィーク特別企画展 富士山展」
4/28-5/16



「気鋭現代美術作家が富士山に様々な技法とアイデアで挑みます。」(画廊HPより引用。一部改変。)ニュートロン東京のゴールデンウィーク特別企画、富士山展へ行ってきました。

出品作家は以下の通りです。

三瀬夏之介/山本太郎/寺島みどり/冬耳/中比良真子/森太三/林勇気/前川多仁/松岡亮

メディアアートからインスタレーション、また絵画まで、多様な表現で『日本一の名峰』に迫る展覧会ですが、富士山を半ば身近に接している東海、関東在住の作家ではなく、その他、ようは富士から一歩引いた関西出身の作家が多いのも特徴かもしれません。作品も正面から富士に挑むのではなく、やや斜めにも構えた、言わば単純な富士礼賛に留まらないものが目立っていました。


山本太郎「形態不時屏風(一部)」(2010年)

得意とする琳派の主題を取り入れながらも、製紙工場からもうもうとあがる煙を書き入れるなど、現代の富士山を取り巻く環境について問いただしています。前に置かれたパンツは「逆さ富士」の見立てでした。


三瀬夏之介「ヘテロフォニー」(2010年)

この山はむしろ富士の下に広がる樹海のカオスに近いのかもしれません。その岩山を目で追っていくと、いつの間にか言わば鑑賞行為は遭難してしまうのではないでしょうか。人跡未踏の大山脈はあまりにも敢然と立ちふさがっていました。


前川多仁「富士山防衛戦」(2009年)

まずは鮮やかな赤が目に飛び込んできました。織物に組み込まれた兵器のイメージは、富士山の演習場を連想させるものがあります。



ところで今回、私として一番惹かれたのが、林勇気の映像作品、「富士山に登る為の試み」でした。そこで半ば小人と化した林本人は、壁面へ写し出されたMacの富士山の画像へ向けて、何と驚くべきことにディスクトップ上で「登山」しています。そのアニメーションのコミカルな様子には目が釘付けとなってしまいました。



またもう一つ、林のiphoneを用いた映像作品にも要注目です。ここで林は今度、iphoneの中の画面へ入り込み、現実の画廊の場と富士の合間をワープするかのようにして行き来しています。ちなみにこの作品は計4点ありました。2点はすぐに見つけることが出来ますが、後の2点はあえて分かりにくい位置に展示されています。是非、会場で探し出してみてください。

なお作家の林はこのGW中、新宿で開催中の映像アートのイベント、「イメージフォーラムフェスティバル2010」にも出品があるようです。詳細は同イベントWEBサイトをご参照下さい。



「イメージフォーラムフェスティバル2010」@新宿パークタワーホール(7/28~5/5) Image_forum@twitter

5月16日まで開催されています。*GW中は3日(月)以外連日オープン
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「八木良太 - 事象そのものへ」 SNAC(無人島プロダクション)

SNAC無人島プロダクション江東区三好2-12-6
「八木良太 - 事象そのものへ」
4/16-5/29

東京の西から東、無人島の漂流先は、東京都現代美術館にもほど近い深川の商店街の一角でした。同ギャラリーのオープニングを飾る「八木良太 - 事象そのものへ」へ行ってきました。



なかなか移転先が明かされなかった無人島プロダクションですが、高円寺から一転、新スペースを構えたのは、上記の通りMOT近くの江東区内、清澄白河駅のそばでした。まさに好立地です。駅から5分とかかりません。



高円寺時代の「隠れ家」も趣がありましたが、旧・居酒屋をリノベーションした新たな無人島の構えもまた印象深いものがあります。ちなみにスペースは倍以上に広がりました。これならおそらくはかつての無人島では叶わなかった展示企画も可能になるのではないでしょうか。居酒屋の名残を残す木製の扉など、どこか下町らしい風情を醸し出していました。



オープニングを飾るのは先日、横浜・あざみ野の個展も記憶に新しい八木良太です。出品作は全て新作ながらも、基本的に内容はあざみ野展と重複していますが、エアコンやテレビのリモコンを用いた作品など、お馴染みのインタラクティブな仕掛けは今回も満載でした。



駅を挟んでMOTと清澄の画廊ビルのほぼ中間地点です。(深川の江戸資料館の向かい側。)無人島は以前から日曜日もオープンしています。(月・祝は休み。)美術館へ行く途中に顔を出される方も多いのではないでしょうか。



画廊のWEBサイトもリニューアルしました。なお新スペースのSNACは吾妻橋ダンスクロッシングとの共同プロデュースです。展覧会以外の各種イベントも逐次予定されているそうです。これは目が離せません。

5月29日まで開催されています。
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「森村泰昌 なにものかへのレクイエム」 東京都写真美術館

東京都写真美術館目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内)
「森村泰昌 なにものかへのレクイエム 戦場の頂上の芸術」
3/11-5/9



東京都写真美術館で開催中の「森村泰昌 なにものかへのレクイエム 戦場の頂上の芸術」へ行ってきました。

美術館での森村の個展というと、二、三年前の浜美での「美の教室展」を思い出しますが、その毛色は異なるとは言え、率直なところ今回の方がより心に響くものがありました。展示は映像、写真と、仕掛けはいつもながらに至ってシンプルですが、言わばその成り済ましは、当然ながら単なるセルフポートレートの域を超え、モデルの価値を著しく相対化させています。歴史上の人物から現在と過去、そして現実と虚構の間を彷徨っているような感覚は、森村の変身を通して伝わってきました。

展示は森村がかねてより手がけてきた「20世紀の男たち」に扮するシリーズ、計4章で構成されていましたが、そのうちでも印象に深いのは、既に画廊などで発表済みの第一、第二章ではなく、今回新作として発表された第三、第四章でした。ここでも森村はダリやイブ・クライン、それにポロックらのアーティストから、第二次大戦時における歴史の重要な一ページを当事者として生きた人物に成り済ましながら、かつて世界で蓄積されてきた様々な記憶を呼び覚ましています。森村によるマッカーサーと昭和天皇を、森村の実家を背景に捉えた一枚の写真には、彼自身の強い過去への追憶が感じられました。これは異色の作品です。



しかしながら最も見るべきは、約20分超にも及ぶ新作の映像作品、「海の幸・戦場の頂上の旗」に他なりません。硫黄島のかの有名なモニュメントに登場する兵士たちは、先の作品にも登場した森村の実家の記憶と溶け合いながら、かの海岸を望む小高い丘に全く未知の白旗を打ち立てました。もちろんその旗に記される色と形は、それぞれ見る者に委ねられています。ここに「なにものかへのレクイエム」は集大成として記念碑的に打ち立てられるとともに、その幕を静かに降ろしました。

私自身、森村に対してどこか一筋縄ではいかない、要するにやや苦手であるのも事実ですが、今回の回顧展はかつて見た森村の展示でとりわけ深くまた重い余韻を味わいました。パロディー云々では到底受け止められない何かが確実に存在しています。

会場内は意外なほど閑散としていました。この内容をもってすればもっと多くの方が入ってしかるべきだと思います。

5月9日まで開催されています。
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「ましもゆき - 鳴鐘鑼」 Yuka Sasahara Gallery

Yuka Sasahara Gallery千代田区神田岩本町4
「ましもゆき - 鳴鐘鑼」
4/24-5/29



秋葉原への移転後、同ギャラリーとしては初の個展形式となる展覧会です。Yuka Sasahara Galleryで開催中の「ましもゆき - 鳴鐘鑼」へ行ってきました。

作家、ましもゆきのプロフィールについては画廊HPをご参照下さい。

ましもゆき Yuki Mashimo@Yuka Sasahara Gallery

また一昨年のオペラシティアートギャラリーの「projectN」の他、本年のVOCAにも出品がありました。(以下、参考リンク)

projectN ましもゆき@東京オペラシティアートギャラリー
「VOCA展2010」@拙ブログ(作品の写真があります。)

黒一色のペンの細密なタッチにも興味深いものがありますが、それよりも魅力的なのは、鳥や植物などをシュールに、しかも何処かグロテスクに表すモチーフそのものでした。VOCA出品作の「永劫の雨」は、例えば中核をなす鳥の形がやや具象的であったのに対し、今回発表されている新作の殆どは、もっと謎めいた曖昧なイメージへと変化しています。鳥の羽のように連なる面は滴り落ちて爛れ、時には溢れる水がわき出すかの如くゆらゆらと揺らいでいました。近づいて見ると、より生々しく艶やかに感じられる点もまた持ち味の一つかもしれません。

一方で数年前は少女を登場させたカラーの作品も手がけていたそうです。その残滓は、今回の小品でも見て取ることが出来ました。

本年1月、神楽坂より同地へ移転してきたYuka Sasahara Galleryですが、今後は同スペースをZENSHIと共有する形で活動していくそうです。(次の展示はZENSHI主催。)最近、秋葉原から馬喰町や両国、また清澄方面への画廊の新出が続いていますが、こちらもまた注目していきたいと思いました。

5月29日まで開催されています。
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「会田誠+天明屋尚+山口晃 - ミヅマ三人衆ジャパンを斬る」 高橋コレクション日比谷

高橋コレクション日比谷千代田区有楽町1-1-2 日比谷三井ビルディング1階)
「会田誠+天明屋尚+山口晃 - 誠がいく、尚がいく、晃がいく - ミヅマ三人衆ジャパンを斬る」
4/24-8/8



高橋コレクション日比谷で開催中の「会田誠+天明屋尚+山口晃 - 誠がいく、尚がいく、晃がいく - ミヅマ三人衆ジャパンを斬る」へ行ってきました。

今更ではありますが、各作家のプロフィールについてはミヅマアートギャラリーのWEBサイトをご参照下さい。経歴、過去作品などが分かりやすくまとまっています。

会田誠/天明屋尚/山口晃@ミズマアートギャラリー



色々と物議を醸したという前回のカオスラウンジより一転、あたかも平静を取り戻したかのように展示されているのは、押しも押されぬ「現代日本の傑出したアーティスト」(画廊HPより引用。一部改変。)である会田、天明屋、山口の近作群、計18点でした。会田と山口については、上野の森美術館での二人展の記憶もまだ新しいところですが、天明屋の加わった、それこそ本家ミヅマでも叶わない豪華な空間は、さすがに見応え十分ではないでしょうか。もはや宗教画のような荘厳な趣きさえたたえる会田の「ジューサーミキサー」(2001)を背景に、山口のメカ武者が事細かに描かれた「九相圓」(2003)の並ぶ様は、まさに見事の一言につきました。



しかしながら今回、私が一番惹かれたのは、天明屋尚の近作、特に「九尾の狐」(2004)でした。どちらかと言うと彼の新作はグラフィカルな要素が強まっているようにも思えますが、こちらはアクリルながらも日本画風の独特な温かい質感がとても魅力的に感じられます。大きく目を見開いた狐の表情は鬼気迫るものがありました。

なお会期中、各作家のトークイベントが予定されています。盛況となりそうです。(詳細は後日、画廊WEBサイトで告知予定。)

5月29日(土)会田誠
6月12日(土)山口晃
7月10日(土)天明屋尚

ロングランの展覧会です。8月8日まで開催されています。

注)写真の撮影と掲載は許可を得ています。
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「複合回路 - 接触領域 - 第一回 田口行弘」 ギャラリーαM

ギャラリーαM千代田区東神田1-2-11 アガタ竹澤ビルB1F)
「複合回路 - 接触領域 - 第一回 田口行弘」
4/17-5/26



今年もαMのシリーズ展は見逃せません。ギャラリーαMで始まった新企画、「複合回路」から「接触領域 - 第一回 田口行弘」へ行ってきました。

田口行弘のプロフィールについては、作家本人のWEBサイトをご参照下さい。

作家略歴@Yukihiro Taguchi.com

2005年よりベルリンに拠点を置いて活動されているそうです。



一見するところ、非常に謎めいた何らかのセットのようなものが展開されているように見えますが、実は作品はその全体、つまりは映像や日用品、さらには影や鑑賞者そのものが、半ば空間の全てを満たして関連し合うように仕掛けられています。虚像と実像、そしてまさに作品と見る側の接触の境界は全てが曖昧でありながら、実は田口の意図するところの元に巧妙に設定されていました。その日用品の積まれた向こう側の壁に自分の姿を写り込ませ、また映像に手をかざす時、あたかも時計の歯車が回転し始めるように作品が言わば動き出します。その瞬間を是非味わって見て下さい。



なお5月1日にはワークショップも予定されています。

「みんなで影絵を作ろう!」5月1日(土)11時~18時



ところで本年度のシリーズ展、「複合回路」は、三名のキュレーターが六名のアーティストを紹介する連続個展になるそうです。キュレーターには東近美の「ゴーギャン展」などを企画された鈴木勝雄氏の名前も挙っています。これは非常に期待出来そうです。

~「複合回路」スケジュール~(展示概要/キュレータープロフィール

「接触領域」Contact Zone  高橋瑞木(キュレーター)
 Vol.1 2010年4月17日~5月26日 田口行弘
 Vol.5 2010年11月13日~12月18日 青山悟

「アクティヴィズムの詩学」The Poetics of Activism  鈴木勝雄(キュレーター)
 Vol.3 2010年7月24日~9月11日 丹羽良徳
 Vol.4 2010年9月25日~10月30日 羽山まり子

「認識の境界」Cognitive Interstice  田中正之(キュレーター)
 Vol.2 2010年6月5日~7月10日 早川祐太
 Vol.6 2011年1月15日~2月19日 石井友人

「接触領域 第一回 田口行弘」は5月26日まで開催されています。
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東京・春・音楽祭 「パルジファル」ネット配信

3月中旬より4月にかけて上野で開催された東京・春・音楽祭ですが、その公演の録音が同音楽祭サイト上にて無料で配信されています。



東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.1 《パルジファル》(試聴はリンク先へ。)

指揮:ウルフ・シルマー
パルジファル:ブルクハルト・フリッツ
クンドリ:ミヒャエラ・シュスター
アムフォルタス:フランツ・グルントヘーバー
グルネマンツ:ペーター・ローズ
クリングゾル:シム・インスン
ティトゥレル:小鉄和広
聖杯騎士:渡邉澄晃、山下浩司
侍童:岩田真奈、小林由佳、片寄純也、加藤太朗
魔法の乙女たち:藤田美奈子、坂井田真実子、田村由貴絵、中島寿美枝、渡邊 史、吉田 静
アルトの声:富岡明子
管弦楽:NHK交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
児童合唱:東京少年少女合唱隊
合唱指揮:ロベルト・ガッビアーニ
音楽コーチ:イェンドリック・シュプリンガー (キャストは同音楽祭WEBサイトより転載)

如何せん長丁場の作品でもあるので、まだ最後まで聴き通せていませんが、ともかく印象的だったのは、指揮のシルマーによる生気漲る音楽作りでした。やもすると遅々として進まない、ドロドロとした音楽になりがち(もちろんそれが魅力でもありますが。)のパルジファルを、シルマーは非常に透明感のある響きを保ちながら、中だるみすることなく、快活に演奏することに成功しています。縦の線を揃えつつも、深い呼吸感に支えられたワーグナーは、聴いていて言わばもたれてしまうことがありません。集中力がありました。

なお同音楽祭ではこの「パルジファル」以外にも、いくつかの公演の様子を動画にて配信しています。いずれも無料なので試してみては如何でしょうか。さすがにハイライトの「カルミナ」はないようですが、そちらにも期待してしまいます。

東京・春・音楽祭 動画

なお音楽祭のツィッターによると配信期限は6月10日までのようです。

tokyo_harusai(twitter)

お聞き逃しなきようおすすめします。
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「長谷川りん二郎展」 平塚市美術館

平塚市美術館神奈川県平塚市西八幡1-3-3
「平明・静謐・孤高 - 長谷川りん二郎展」
4/17-6/13



平塚市美術館で開催中の「平明・静謐・孤高 - 長谷川りん二郎展」へ行ってきました。

ちらし表紙の「猫」(1966年)を見て、その不思議な画風に惹かれる方も多いのではないでしょうか。長谷川りん二郎(はせがわりんじろう。1904-1988)は生涯、ほぼ画壇に属さずに絵を描き続けたばかりか、地味井平造の名前で探偵小説を執筆するなど、一風変わった経歴でその名を知られていましたが、これまで制作の全貌を紹介する本格的な機会は一度ありませんでした。本展はそうした長谷川を初めて公立美術館で回顧する大規模な展覧会です。初期より晩年の主に油彩画、約125点ほどが、主に年代(一部テーマ別)に沿ってずらりと紹介されていました。

それでは早速、会場写真を交えて、展示の様子を追っていきます。

1.初期の画業

長谷川が油彩を手がけたのは、14、15歳の頃です。当初は未来派やキュビズムに影響された画風が目立ちます。


「窓とかまきり」(1930年)

1924年に上京後、画学校に通うも直ぐさま退学します。以降はほぼ独学にて絵を描き続けました。上の「窓とかまきり」はその奇妙な構図、また背景の細かに描かれた森林の描写など、早くも長谷川の特徴を伺える作品と言えるかもしれません。

2.フランス留学

1931年、長谷川はシベリア鉄道でパリへと向かいます。おおよそ一年間、パリのアトリエでフランスの風景などを描きました。


「道(巴里郊外)」(1931年)宮城県美術館蔵

奥行き感のある構図、そして堅牢な建物、またその静けさに満ちた空気は、時にルソー、また一方で松本竣介の世界を連想させるものがあるのではないでしょうか。

3.挿絵/装丁

展示では長谷川が手がけていた挿絵の仕事と、地味井正造の名で執筆していた探偵小説も僅かながら紹介されています。りん二郎は父にジャーナリストの清を、また兄に小説家の海太郎を、また弟にロシア文学者で詩人の濬、作家の四郎を持つという、半ば文筆を生業とした家に生まれました。



また一時、彼は兄の海太郎と同居し、文筆活動を続けたこともあったそうです。その時の家の大家は小説家の松本泰でした。

4.フランス帰国後

フランス留学後、彼の生涯で最も世の中との関わりを持った時期が到来します。1932年から4年連続で二科展に出品し、また個展も開催するなどして画家としての活動を強めていきました。


「芭蕉の庭」(1947年)おかざき世界こども美術博物館蔵

京都や奈良への取材旅行へも積極的に出かけたそうです。とは言え、名所をそのまま描くのではなく、例えば「冬 強と銀閣寺付近」(1937年)のように近辺の野山を描くなど、長谷川ならではの自然への素朴な眼差しが随所で感じられました。

5.時計のある門


「時計のある門(東京麻布天文台)」(1935年)

長谷川自身も大変に気に入っていたという「時計のある門(東京麻布天文台)」が登場します。彼は「この塀を描くために巴里から帰って来た。」(1985年 時計のある門より)という言葉も残していますが、その緻密に表されたレンガ塀の質感には驚かされました。

6.花とバラ

長谷川の特徴的なモチーフとしてバラなどの花木画を挙げることが出来ます。正面からの視点で花を捉えた作品は、例えばボーシャンの画を思わせるものがないでしょうか。また時に彼は10年以上の時を超え、同じモチーフを描いたこともあったのだそうです。



長谷川の画家としての才能を見出したのは、画商、コレクターとしても知られる洲之内徹でした。彼のバラを描いた作品を見た洲之内は、もはや作者はこの世にいない者だと勘違いしていたそうです。確かに花の凍り付いたかのような気配は、そう思わせるのも無理はありません。まさに孤高でした。

7.静物

展示のハイライトとしても過言ではありません。特に後期の代表的モチーフ、卓上静物こそ、長谷川の特異な画風を知るのに最も相応しい作品です。ただ整然と机の上に並ぶ紙袋や空き瓶などが、非常に端正な筆で描かれていきました。


「玩具と絵本」(1979年)

現実の、しかも身近なモチーフであるにも関わらず、どこかシュールな光景を見ているような気分にさせられるのは一体何に由来するのでしょうか。純化した瓶などの先には、何か近づき難い、まだ見えぬ非現実の世界が開かれているのかもしれません。



長谷川の「現実を越えて、現実の奥に隠れて、それでいて表面にありありと現れるもの。」(絵画について)という言葉が印象に残りました。

8.猫のモチーフ

ここではちらしの表紙にもなった「猫」が登場します。


「猫」(1966年)宮城県美術館蔵

なおこの猫はタローと呼ばれていたそうですが、その髭の部分にちょっとした秘密が隠されています。この図版では何とも分かりませんが、会場で確かめてみて下さい。猫の顔にあるはずのある部分が、これまたとある事情から抜け落ちているのです。



またここではタローの履歴書と題された一文も必見です。茶目っ気のある性格の一面も伺えました。

9.風景

主に1950~60年代にかけて描いた風景画を紹介します。長谷川は実際に東京近郊へ出かけ、そこでスケッチを行い、絵画を制作しました。



しかしながら晩年、歩行が困難となった長谷川は、アトリエの窓から見える風景を描くようになります。また彼はアトリエを非常に清潔にするよう心がけていたそうです。(「アトリエはいつも掃除してゴミ一つ落ちていないようにすること。」/詩と感想ノートより)そうした半ば潔癖な性格と、どこか律儀な画風もリンクしている面があるかもしれません。

「長谷川りん二郎画文集 静かな奇譚/土方明司/求龍堂」

実は私がこの画家を知った切っ掛けは、先だって書店で発売がはじまった本展の図録、「長谷川りん二郎画文集 静かな奇譚」(求龍堂)を見たことでした。そこで殆ど偶然に中を開き、その画風に惹かれ、直ぐさま平塚へ行くことを決めましたが、もしご存知ないようでしたら是非手にとってご覧下さい。ちなみにその図録自体の出来が極めて秀逸です。一般的な展示図録など問題になりません。一線を遥かに超えています。



GW中に展示に関連した講演会が予定されています。

講演会「長谷川りん二郎の魅力」
日時:4月29日(木・祝) 14:00~15:30
講師:原田光氏(岩手県立美術館館長)
場所:ミュージアムホール
参加:無料・申込み不要

一期一会の記念すべき回顧展です。私としては平塚市美というと一昨年の御舟展も強く心に残りましたが、その時と同じくらい深い余韻を味わいました。鮮烈なイメージこそありませんが、いつの間にか画の中へ強く引込まれている自分に気がつきました。



ちなみに同館へは東海道線の平塚駅からのバスが便利です。駅北口4番乗り場より「美術館入口」バス停まで10分とかかりません。また若干距離がありますが、歩いても約20分ほどで到着します。(アクセス/地図

6月13日まで開催されています。自信を持っておすすめします。なお平塚展終了後、以下の日程で各美術館へと巡回の予定です。(関東開催は平塚のみ。)

7月1日(木)~8月15日(日)下関市立美術館
8月28日(土)~10月17日(日)北海道立函館美術館
10月23日(土)~12月23日(祝・木)宮城県美術館

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
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「ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち」 森アーツセンターギャラリー

森アーツセンターギャラリー港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階)
「ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち」
4/17-6/20



森アーツセンターギャラリーで開催中の「ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち」のプレスプレビューに参加してきました。

定評のあるボストン美術館のコレクションにて、16世紀以降のヨーロッパ絵画を一挙に辿ることの出来る展覧会です。ボストンというと19世紀フランス絵画の印象が強いかもしれませんが、実際にはそれ以前、例えば17世紀の宗教画なども多く紹介されていました。(その反面、20世紀絵画は殆ど登場しません。)


(展示風景/第2章「宗教画の運命」)

いわゆる年代別でなく、テーマ別になっているのも展示の特徴の一つです。構成は以下の通りでした。

第一章 多彩なる肖像画
第二章 宗教画の運命
第三章 オランダの室内
第四章 描かれた日常生活
第五章 風景画の系譜
第六章 モネの冒険
第七章 印象派の風景画
第八章 静物と近代絵画

詳細は公式WEBサイトをご参照いただくとして、ここでは私の思う展示のポイントを5つほど挙げてみます。ご参考いただければ幸いです。

1.肖像の魅力~レンブラントとヴァン・ダイク~

冒頭にいきなり展覧会の一つのハイライトが待ち構えているとしても過言ではありません。


右二点、レンブラント「ヨハネス・エリソン師」(1634年)/「妻マリア・ボッケノール」(1634年)

レンブラントとしては3つしか存在しない2点1対の全身肖像画の一つ、「ヨハネス・エリソン師」(1634年)と「妻マリア・ボッケノール」(1634年)が登場します。イギリス教会の聖職者をつとめたエリソン師の見据える眼差しは静謐ながらも力強く、また一転してその妻であるボッケノールを描いた作品には、どこか温かく優し気な雰囲気が感じられました。


右、ヴァン・ダイク「チャールズ1世の娘、メアリー王女」(1637年頃)

またヴァン・ダイクの2点も佳作です。特にメアリー王女の纏う淡い水色のドレスの質感は見事でした。

2.宗教画~エル・グレコとフランチェスコ・デル・カイロ~

ヴェネツィア派とスペイン派の宗教画群も大きなウエートを占めています。


右、エル・グレコ「祈る聖ドミニクス」(1605年頃)

お馴染みのグレコの1点、「祈る聖ドミニクス」(1605年頃)のドラマテックな表現はやはり必見です。ちなみに本作は1896年、かのドガが購入したものだそうです。


左、フランチェスコ・デル・カイロ「洗礼者聖ヨハネの首を持つヘロデヤ」(1625-30年頃)

また劇的と言えばもう一つ、フランチェスコ・デル・カイロの「洗礼者聖ヨハネの首を持つヘロデヤ」(1625-30年頃)も是非挙げておかなくてはなりません。彼はカラヴァッジョの影響を受けた画家でもあるそうですが、ヨハネの舌を針でつき、恍惚した表情で天を仰ぐヘロデヤの艶かしさには釘付けとなりました。


スルバラン「聖ペトルス・トマス」(1632年頃)/「コンスタンティノープルの聖キュリロス」(1632年頃)

白い衣を身につけた聖人を描くスルバランの2点、「聖ペトルス・トマス」(1632年頃)と「コンスタンティノープルの聖キュリロス」(1632年頃)も異彩を放っています。まるで彫像を写したような表現が独特でした。

3.マネとドガ


右、マネ「音楽の授業」(1870年)

現在、三菱一号館美術館で展示開催中のマネと、今秋に横浜美術館で回顧展が予定されているドガも、計6点(各2、4点)ほど紹介されています。親しい友人をモデルとしたマネの「音楽の授業」(1870年)は、レッスンの和やかな光景というよりも、その両者が前面に出てくるような強い存在感が印象に残りました。


左、マネ「ヴィクトリーヌ・ムーラン」(1862年頃)

またモデルの強さという点においては、同じくマネの「ヴィクトリーヌ・ムーラン」(1862年頃)も忘れられません。暗がりの背景から浮き上がるマネのお気に入りのモデルのムーランは、やや冷たい表情をしていることもあるのか、どこか取っ付きにくく、また何とも言えない迫力が感じられました。その視線からなかなか逃れられません。

4.モネの部屋


(展示風景/第4章「モネの冒険」)

おそらくこの展覧会で一番人気が出るのが、モネの作品ばかりが並んだ第4章の「モネの冒険」です。ここでは半円形の展示室にモネの作品が10点ほど勢揃いしていました。


左、モネ「ジヴェルニー近郊のセーヌ川の朝」(1897年)、右「睡蓮の池」(1900年)

エメラルドグリーンに包まれた海を描く「ヴァランジュヴィルの崖の漁師小屋」(1882年)の一方、赤と緑を大胆に散らした「睡蓮の池」(1900年)における一種の異様さもまたモネの魅力の一つかもしれません。赤が乱れるように舞っていました。

5.シスレーとピサロ、そしてゴッホ

中央にゴッホを据え、左にシスレー、また右にピサロを並べた第7章の「印象派の風景画」のセクションもまた人気を集めるのではないでしょうか。


左、シスレー「サン=マメスの曇りの日」(1880年頃)

私自身、印象派の中で一番好きなシスレーが3点並んでいるだけでも感涙ものです。シスレーほど空を美しく描いた画家を知りませんが、中でも「サン=マメスの曇りの日」(1880年頃)のグレーを帯びた青色の空には強く魅せられました。


右、ピサロ「エラニー=シュル=エプト、雪に映える朝日」(1895年)

一方のピサロ(4点)では、寒村の雪道を描いた「エラニー=シュル=エプト、雪に映える朝日」(1895年)が秀逸です。モネも雪景色を実に巧みに描きますが、このピサロも負けることなく、朝日に溶ける雪を軽妙なタッチで表しています。


右、ゴッホの「オーヴェルの家々」(1890年)

そして全作品中でとりわけ鮮烈な印象を与えるのがゴッホの「オーヴェルの家々」(1890年)に他なりません。強く押しこめられるように塗られたタッチはもとより、光が輝くばかりの色彩感には圧倒されるものがありました。ゴッホがむしろ華やいでいます。


(展示風景/第5章「風景画の系譜」)

その他にもベラスケスやムリーリョ、またカナレットにコローと見どころを挙げればきりがありません。いわゆる誰もが知る名作一点へ集中するのではなく、アベレージの高い作品全体で楽しむ展示ではないでしょうか。また出品は全部で80点ほどですが、惹かれたものが思いの外に多く、見るのにかなり時間がかかりました。既知の画家でも良作に出会うと改めて惚れ直してしまいます。時間に余裕を持っての鑑賞がおすすめです。



図録は内容は同一ですが、表紙にゴッホ、ミレー、モネと3パターンありました。何でもゴッホが一番人気だそうです。ちなみに公式WEBサイトにリストがありません。出来れば対応していただきたいものです。



夜の遅い六本木ヒルズが会場です。連日無休、夜の8時まで開館しています。

6月20日までの開催です。なお東京展終了後、京都市美術館(7/6~8/29)へと巡回します。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
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「近代日本美術の百花」 千葉市美術館

千葉市美術館千葉市中央区中央3-10-8
「リニューアルオープン記念所蔵名品展 近代日本美術の百花」
4/6-5/9



「花」をテーマに、大正・昭和前期の日本画・版画を総覧します。千葉市美術館で開催中の「近代日本美術の百花」へ行ってきました。

昨年度、空調改修工事のために休館していた同美術館の、リニューアル後初となる企画展です。元々コレクションとして定評のある近代の日本画・版画、全250点(出品リスト)が、まさに百花繚乱の如く一堂に会していました。

展示では広義の「花」の意味、そして魅力を8つの章から探っていきます。以下、構成を順に辿りながら、その見どころを簡潔に挙げてみました。

第一章「祝福された四季」



四季花鳥図から季節毎の花々を描いた作品など。ツクシを僅か二本だけ描きながらも、そこに春の情感を漂わせる竹内栖鳳の「春暖」には感服。また「旅みやげ」シリーズなど、川瀬巴水が15点弱ほど出ていたのも嬉しかった。

第二章「わたしの庭」

画家たちのプライベートガーデンに咲く花を描いた作品などを探る。川上澄生の木版4点他。オレンジ色の百日草を描いた山村耕花の「壺と百日草」が印象に深い。

第三章「粧う花々」



美人画を「アートの花」として捉え、浮世絵や新版画の優品を展観する。ちらし表紙にも掲載された樋口五葉の「化粧の女」の他、伊東深水の「新美人二十姿」も一揃い紹介されていた。また雪岱の「蛍」、さらには清方の肉筆画なども見どころの一つ。展示のハイライトはこの章かもしれない。

第四章「舞台の華」



今度は一転して舞台の華、歌舞伎役者などの男性像を展示する。山村耕花の「梨園の華」シリーズ約10点は壮観。

第五章「返り咲く錦絵」



江戸の華である「錦絵」を近代になって復興させた外国人女性画家を紹介する。特にヘレン・ハイド、バーサ・ラム、エリザベス・キースの三名に見応えがあった。

第六章「花の都」

新興のモダン都市をテーマを描く。川上澄生、藤森静雄、恩地孝四郎らによる「新東京百景」シリーズ約15点が、当時の東京の賑わいを伝えていた。他に伊東深水の「夜の池之端」なども展示。

第七章「花模様」



装飾としての花々のモチーフを探る。神坂雪佳の「百々世草」の他、竹久夢二の「婦人絵暦十二ヶ月」など。そしてここで注目すべきは樋口五葉装丁の漱石や鏡花の著作群。また横尾芳月の「和蘭陀土産」の迫力も見事。

第八章「季節はめぐる」



画家たちの心象風景としての花を見ていく。松林桂月の「春宵花影」、また川上澄生の「枯れたひまわり」は何とも物悲しかった。

小品の版画群が所狭しと並んでいます。一点一点追っていくとかなりの時間がかかりました。かなりのボリュームです。

なお本展終了後にはいよいよ静岡から「伊藤若冲アナザーワールド」がやってきます。



既に公式WEBサイトには出品リストも掲載されています。また関連の講演会も要注目です。もちろん二つとも聞きに行く予定です。

記念講演会「伊藤若冲の魅力」
6月5日(土)/14:00より/11階講堂にて/先着150名/聴講無料
【講師】辻 惟雄(MIHO MUSEUM 館長)

講演会「伊藤若冲の多彩な絵画ワールド」
6月20日(日)/14:00より/11階講堂にて/先着150名/聴講無料
【講師】小林 忠(千葉市美術館 館長)

なお若冲展は展示替えがあります。その入館料1000円を考慮すると、これを機会に「友の会」に入っておくのも良いのではないでしょうか。

千葉市美術館「友の会」のご案内

入会金、年間会費をあわせて3000円かかりますが、年間入場フリー(回数制限なし)、また図録10%割引などの特典はお得です。また同館では秋に田中一村の回顧展、そして冬にはニューオーリンズのギッターコレクションによる江戸絵画展なども予定されています。

千葉市美術館 2010年度 展覧会スケジュール

「近代日本美術の百花」は5月9日まで開催されています。
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「根来」 ロンドンギャラリー(白金)

ロンドンギャラリー港区白金3-1-15 白金アートコンプレックス4階)
「根来」
会期未定(GWまでを予定)

白金アートコンプレックスのロンドンギャラリーで開催中の「根来」へ行ってきました。



かの大倉集古館での展示の記憶が鮮やかに蘇ります。古美術専門の同ギャラリーのビューイングルームに並ぶのは、その大倉の展示にも出た根来の品々でした。



掛け軸も掲げられた畳の上に根来がずらりと揃います。根来というと深みのある朱色にも惹かれるところですが、ここではその多様な形にも見入るものがありました。



杉本博司プロデュースの空間との相性も申し分がありません。当然ながらケースなしの露出展示でした。



今回は画廊の田島氏の好意に甘え、根来の器などを触らせていただきました。すっぽりと手のひらに収まる馴染みやすい杓、または意外なほどに軽い器など、実際に手にしないと分からないことも多いのではないでしょうか。



平安時代の古写経と花入れの飾られた床の間にも根来は良く映えます。



また梅原龍三郎所蔵であった硯箱など、渡り伝えられてきた根来の歴史を物語る品々もいくつか展示されています。こちらも田島氏の立ち会いのもとで中を開けてみましたが、その斬新な黒と朱の配色の妙味に感心させられました。



大倉の根来展の図録も紹介されていました。20000円と非常に高価ですが、会期中には間に合わなかったこともあり、こちらで一度、実物を確かめてみるのも良いかもしれません。



山本現代や児玉画廊など、白金のアートコンプレックスへお出かけの際は、是非4階も覗いてみて下さい。



なお会期は現段階で未定ですが、GW前までの展示を考えておられるそうです。
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「宮永亮 - 地の灯について」 児玉画廊

児玉画廊 東京港区白金3-1-15 白金アートコンプレックス1階)
「宮永亮 - 地の灯について」
4/3-5/8



車窓に映るネオンサインはいつしか走馬灯の如く駆け抜けていきます。児玉画廊で開催中の「宮永亮 - 地の灯について」へ行ってきました。

作家プロフィールについてはTWSのサイトが参考になります。

Creator Information 宮永亮

なお最近では、同じくTWSの「NEW DIRECTION 1 exp.」展への出品もありました。

スクリーンは展示室の壁面の全てとしても差し支えありません。暗室の床には何台ものプロジェクターが置かれ、そこから夜の街角を車載カメラで捉えた映像が展示室をぐるりと一周、取り囲むようにして映し出されていました。向かって正面と側面、さらには後方と、あちこちで流れ出す街の景色を見ていくと、いつしかその映像の渦に呑み込まれているような気持ちにさせられます。またカメラが捉えた街の音は、それこそ洪水のように四方へと飛び散っていました。見ている側の立ち位置を強く揺さぶってくる作品と言えるかもしれません。

一見、臨場感の強い映像のようにも思えましたが、街の景色はいつしか異なったスピードにて展開し、さらには重なり合って、遂には全く実在しない光景へと変化していきます。闇は光にかき回されます。ラストに迎える白い光の輝きは、まるでスクリーンからこぼれ落ちる宝石のようでした。

プロジェクターの投影方法、またその機械自体にもちょっとした仕掛けがあります。作品全体の凝った作りには感心させられました。

5月8日までの開催です。おすすめします。
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「MADウォール」 松戸駅西口6号バイパス(岩瀬立体)側壁

松戸駅西口6号バイパス(岩瀬立体)側壁(千葉県松戸市根本
「MADウォール」
3/31~

無機質な陸橋をエネルギッシュな壁画で演出します。千葉県松戸市、松戸駅西口近くの「MADウォール」を見てきました。



「MADウォール」については以下の記事をご参照下さい。

高架道路壁に巨大アート 『街を明るく』地元町会とNPOが企画(東京新聞)



現地へは常磐線の松戸駅の西口が便利です。駅からスーパーやパチンコ店などの林立する雑多な商店街を進み、公園の脇をすり抜けると、突如、高層マンションをバックにした高架道路の側壁が横たわるように出現します。そこにこの壁画、「MADウォール」が描かれました。駅からはせいぜい5分程度ではないでしょうか。



そもそもこの壁画は地元町会が地域活性化のため、NPO法人を介し、オランダ人のストリートアートの大家ZEDZと、芥川MHAK真博、そして大山エンリコイサムの三名のアーティストに制作を依頼したことから始まりました。記事によれば何と彼らは無報酬で壁画を描いたそうです。

MAD WALL Project in 松戸 レポート(CBCNET)(アーティストプロフィール有り)



それにしても近寄ってみると確かに相当の迫力です。何やら巨大生物のようなモチーフが、横へ縦へと広がる幾何学的な紋様と組み合わさります。側壁の空間を縦横無尽に駆け巡っていました。



色の展開もまた鮮やかです。陸橋下ということで周囲はどうしても暗くなりがちですが、それを打ち破るような活気があるかもしれません。



松戸駅周辺は商業地としての地盤沈下が激しく、地元のひいき目に見ても華やかとは言い難いものがありますが、この「MADウォール」を契機に、地域が少しでも元気になればと思いました。



また企画に携わったNPO法人KOMPOSITIONは、「脱東京」と銘打ち、東京以外でのアーティストの制作をサポートする活動を行っています。その一環として今回、松戸の地が選ばれたというわけでした。



なお松戸へ上野から常磐線の快速で20分、大手町からも千代田線で30分強ほどで到着します。都心から少し足を伸ばしてストリートアートに浸ってみては如何でしょうか。



ちなみに「MADウォール」の前は当然ながら一般の道路です。(現地地図)抜け道になっていて交通量も少なくありません。鑑賞の際は車にお気をつけ下さい。
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「マネとモダン・パリ」 三菱一号館美術館

三菱一号館美術館千代田区丸の内2-6-2
「三菱一号館美術館 開館記念展1 - マネとモダン・パリ - 」
4/6-7/25



19世紀後半のパリの変化を辿りながら、マネ芸術の全貌を詳らかにします。三菱一号館美術館で開催中の「マネとモダンパリ」へ行ってきました。

まずは展覧会の構成です。

1.スペイン趣味のレアリスム
2.親密さの中のマネ:家族と友人たち
3.マネとパリ生活

タイトルにもあるように決してマネの単独回顧展ではありませんが、そう捉えても問題ないほど、言わば『マネに浸れる』展覧会です。国内の美術館はもとより、オルセー所蔵の大作など、油彩、素描、版画を含め、約80点あまりものマネ作品が、復元されたばかりの館内にズラリと勢揃いしていました。かつて国内では二度しかいわゆるマネ展はなかったそうですが、それらと比べても全く遜色ないばかりか、むしろそれを上回る内容であったかもしれません。思わずマネ絵画の熱気に身震いしてしまうほどでした。

とは言え、展示はあくまでもマネの画業とパリの街の変遷がリンクするように構成されています。(マネ以外の作品は80点。)章立ては上記の通りシンプルな三つでしたが、会場内はもっと細かなセクションに分かれていました。(作品目録と実際の展示順が異ります。)以下、実際の順路に沿いながら、展示の主な見どころを簡単に挙げてみました。

[パリの風景を描いた画家たち]

最初のセクションではこの時代にパリを描いた画家たちの作品が何点か紹介されています。

まず挙げたいのが、セーヌを描いた二枚、ヨハン=バルトルト=・ヨンキントの「パリ、セーヌ川とノートル=ダム大聖堂」(1864年/オルセー美術館)とゴーガンの「イエナ橋とセーヌ川、雪景色」の二枚です。

ゴーガン「イエナ橋とセーヌ川、雪景色」(1875年/オルセー美術館)

明るい光が川岸を照らす前者に対し、ゴーガンは分厚い雲に覆われた暗がりのこの地を、思いの外に細やかなタッチで表しました。ちなみにゴーガンは1875年、家族とともにセーヌに遠くないパリ西部に生活していたそうです。

シニャック「ジュヌヴィリエ街道」(1883年/オルセー美術館)

その他では、同じくパリ西郊に拠点を置いていたシニャックの「ジュヌヴィリエ街道」も印象に残りました。こちらは点描主義に入る2年前の作品とのことで、光眩しい色調に目を奪われた方も多いのではないでしょうか。

なおここではマネの描いた淡彩のパリ市内の風景スケッチなどがいくつか展示されていました。

[スペイン趣味の影響]

マネの本格的な油彩が登場するのは順路に沿って3番目の部屋からです。元々、スペイン絵画に興味を抱いていたマネは、1865年、はじめてマドリードにも滞在しました。

マネ「闘牛」(1865-1866年/オルセー美術館)

「闘牛」や「スペインの舞踏家」(1879年/村内美術館)などは、時代を超えてマネのスペイン趣味を表した作品だと言えるのではないでしょうか。

[ゾラとマネ、そして「革命的画家」へ]

サロンに落選し続け、半ば絵画に革命を起こそうとしていたマネを擁護していたのが、文豪のゾラでした。美術館で最も広い空間、大きく分けて4番目の展示室では、かの問題作「オランピア」の習作群とともに、ゾラを描いた肖像画などが紹介されています。

「エミール・ゾラ」(1868年/オルセー美術館)

ゾラが典型的な日本趣味の浮世絵や屏風で飾られた室内に座っています。何気ない肖像画のようでありながらも、マネの得意とする黒にゾクゾクするような美しさを感じました。

「死せる闘牛士」(1863-1864年/ナショナル・ギャラリー)

またもう一点、黒といって外せないのが、仰向けに横たわる闘牛士を描いた「死せる闘牛士」(1863-1864年)です。彼を包む黒い衣装はどっしりと重く、また胸に添えられた右手の力の抜けた様子は、彼の魂がもはやこの世にないことを表していました。さらに左手の指にはめられた指輪は、彼の生前の記憶を伝えているのかもしれません。その輝きが逆に物悲しい雰囲気をひしひしと漂わせていました。

マネ「街の歌い手」(1862年頃/ボストン美術館)

酒場の女歌手を描いた「街の歌い手」は出品作最大の目玉と言っても良いのではないでしょうか。スカートとケープに用いられたグレーのマットな色遣いと、全体を構成する大胆で簡略なタッチには、モデルの魅力云々を超えた絵の活力を感じました。

[パリを離れたマネ。妻シュザンヌと。]

ここで挙げておきたいのは妻シュザンヌをモチーフにとった二つの作品です。

マネ「アルカションの室内」(1871年/クラーク美術研究所)

海岸を望んだ大西洋岸の避暑地で描かれたのは、同じく妻シュザンヌと、今度は息子レオンを室内で表した「アルカションの室内」でした。親密さを通り越した、一種の完全なる日常を捉えた作品も、マネの素早いタッチにかかるとどことなくドラマチックに見えるかもしれません。

マネ「浜辺にて」(1873年/オルセー美術館)

また一方、今度は英仏海峡沿いの漁村を家族で訪れたマネは、シュザンヌらを浜辺に配した「浜辺にて」を描いています。上部のややくすんだエメラルドブルー、そして浜辺のやや白んだベージュ、そしてシュザンヌを包むグレーの衣装など、マネの色の魅力を存分に楽しめる一作ではないでしょうか。なおシュザンヌの横で座る男性は、マネの弟のウジェーヌでした。両者の視線を絶妙にずらしながらも、互いに並ばせて中央から海が開けていく構図も安定感があります。

[ベルト・モリゾ]

その弟のウジェーヌと結婚したモリゾこそ、マネの描いた最も有名な女性モデルでもあったのは言うまでもありません。

マネ「すみれのブーケをつけたベルト・モリゾ」(1872年/オルセー美術館)

会場では数点のモリゾを描いた作品が展示されていましたが、やはり中でも一際美しいのは「すみれのブーケをつけたベルト・モリゾ」でした。ちょうど三年前、都美館で開催されたオルセー展の印象を思い出された方も多いのではないでしょうか。モデルを颯爽と象っていく黒いストロークの乱舞はもはや神業級です。微笑みながらも挑発的な眼差しと、あまりにも可憐に添えられたすみれのブーケは、マネとモリゾのただならぬ関係を思わせるものもありました。

[オペラ座とマネ、そして都市生活]

パリの象徴として登場するのがオペラ座です。1873年に出火、焼失、また75年に新装と、この時代に一つの転換期を迎えていたオペラ座でしたが、マネも度々訪れていました。

エヴァ・ゴンザレス「イタリア人の桟敷席」(1874年/オルセー美術館)

展示ではブリヂストン美術館所蔵の完成作の習作として一点、「オペラ座の仮面舞踏会」(1873年/個人蔵)が出品されていました。またマネの弟子、エヴァ・ゴンザレスの「イタリア人の桟敷席」の他、同時代の画家によるパリの社交界を描いた作品も何点か登場しています。

マネ「ビールジョッキを持つ女」(1878-1879年/オルセー美術館)

さらにもう一つ、パリの都市生活を表す作品として是非とも挙げておきたいのが、マネの「ビールジョッキを持つ女」です。カフェの何気ない賑わいのワンシーンを、マネは簡略化した構図で表しました。ビールジョッキを手に、ふとこちらを見やる給仕係の女性と、ない食わぬ顔でパイプを楽しむ男性との距離感がたまりません。透明感のあるビールの黄金色の色遣いも鮮やかでした。

[絵画における主人公は静物画である]

マネは静物画を上記のように位置づけ、多数の名作を生み出しました。中でも1860年代は、花の主題、特にシャクヤクをテーマとした作品を手がけています。

マネ「花瓶に挿したシャクヤク」(1864年/個人蔵)

ワイン色を背景に、紅白のシャクヤクを上下に添えた「花瓶に挿したシャクヤク」も忘れられない一点です。かつてオークラのアートコレクションで村内美術館蔵の「芍薬の花束」を見て以来、私の中でマネはこの花を最も美しく描く画家だと思っていますが、この作品もまたその魅力を味わうのに十分でした。

マネ「4個のリンゴ」(1882年/クーンズ・コレクション)

晩年、療養のためにリュイユに過ごしたマネは、見舞いの人々が持ち寄る果物を描いた作品を制作します。素朴な味わいを醸し出す「4個のリンゴ」もそうした一枚かもしれません。

[モデルと肖像画]

展示にラストに待ち構えるのは、マネが晩年に描いた肖像画の大作群です。ここでは西美、ブリヂストン、またメナードや大原美術館など、国内所蔵の作品がメインでした。

マネ「自画像」(1878-1879年/ブリヂストン美術館)

マネが生涯2点しか描かなかったという自画像のうちの一点、「自画像」が鮮烈な印象を与えます。どこかしかめっ面をしながら、傷んでいた左足をかばうために、右足を踏ん張って立つ姿は、最晩年、結果的に死に至ることとなった足の切断のエピソードを予感させるものがありました。

マネ「ブラン氏の肖像」(1879年/国立西洋美術館)

ところで私自身、マネの人物画は、晩年よりもそれ以前(60年代から70年代前半)に描かれた作品の方が好みですが、その一方で印象派風の作品も決しておざなりにすることは出来ません。西美常設でも良く目にする「ブラン氏の肖像」における燦々と降り注ぐ光の描写も、晩年に到達したマネの画風の様相を思わせるものがありました。

「もっと知りたいマネ―生涯と作品/高橋明也/東京美術」

かのラ・トゥール展を監修した同館館長の高橋明也氏をもってすれば当然かもしれません。言い方は適切でないかもしれませんが、それこそ西美クラスの箱で見ているかのような内容で驚かされました。人出の状況にもよりますが、例えば音声ガイドを借りながら鑑賞するとすると2時間近くはかかるのではないでしょうか。

決して広い箱ではない上に、オープニングを飾る企画ということもあるのか、開館直後から相当に混雑しています。つい先日、開館7日間で入場者が2万人を超えたというアナウンスもありました。

幸いなことに同館は平日の火・木・金は各日夜20時まで開館しています。混雑時に優先入場可能なチケットも発売されていますが、経験からすると夜間が狙い目です。

5月19日の水曜日の夜に高橋明也氏の講演会が丸の内の三菱ビルにて開催されます。

「高橋明也(三菱一号館美術館館長/本展コミッショナー)講演会」
場所:M+(エムプラス)(千代田区丸の内2-5-2三菱ビル10F)
時間:19:00~20:30(終了予定) 受付18:40~
費用:1000円(マネとモダン・パリ展チケット抽選会つき)
定員】 120名(先着順受付)
受付方法:特設サイト及びFAXにて。

7月25日まで開催されています。なるべく早めの観覧をおすすめします。
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「竹尾 Paper Show 2010/感じるペーパーショウ」 丸ビルホール

丸ビルホール(千代田区丸の内2-4-1 丸ビル7階)
「竹尾 Paper Show 2010/感じるペーパーショウ」
4/15-18



「紙の持つ真の力」(公式HPより引用)を紹介します。丸ビルホール(7F)で開催中の「竹尾 Paper Show 2010/感じるペーパーショウ」へ行ってきました。

紙専門商社「竹尾」が紙の魅力を再発見してもらおうと企画した、まさに紙のインスタレーションと言うべき展覧会です。会場内には、様々な素材と紙をバナー状に吊るした「紙のカーテン」から、新聞紙と映像を融合した「紙の敷石」、さらには紙が生成し、また水へと還る姿をイメージした「紙と水」など、思わぬほど美しくまた逞しい紙の姿を体感出来るような作品が用意されていました。

会場内風景は本展のブログが参考になります。

porto Takeo Paper Show 2010竹尾

ハイライトは、ティッシュペーパーに加工される前の紙ロールを用いて展開された「紙の柱」、「紙の滝」、そして「紙の布団」の3つのインスタレーションではないでしょうか。天井付近には1つ500キロにも及ぶという紙ロールが高らかにそびえ、前方には縦に積み重ねたロールがそれこそ神殿の柱の如く林立して行く手を阻んでいました。また「紙の布団」は紙の温もり、そして柔らかさを楽しめる作品です。さすがに寝ることは叶いませんが、その表面になぞって感触を確かめることも出来ます。紙が見せる意外にも優しい表情には感心させられました。

展示の見事な演出に関しては、本展のアートディレクター、山口信博、緒方慎一郎、山中俊治の三氏の力が大きいのかもしれません。紙のトンネルとカーテンをくぐり、水が紙へと垂れている様を見せる動線には、まるで鳥居を潜ってを手水を受ける神社のイメージすら連想させるものがありました。

丸ビル7階という便利な立地のせいか、会場は思いの外に混雑しています。なお入場は無料でした。(但し入場時に住所や氏名を受付のシートに記載する必要があります。)

個々の作品に解説はありませんが、係の方に質問すると丁寧に答えて下さいます。竹尾スタッフの紙に対する愛情もひしひしと感じられる展示と言えるかもしれません。

18日の日曜日まで開催されています。タイトなスケジュールですがおすすめします。(17日は10:00~21:00、18日は10:00~15:00。入場は終了時間の30分前まで。)

*本展終了後に大阪へ巡回。(大阪展 5/27-29 松下IMPホール)
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