「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館千代田区北の丸公園3-1
「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」
4/29-8/8



東京国立近代美術館で開催中の「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」へ行ってきました。

会期末を迎えているので既にご覧になった方も多いと思いますが、今回の展示はいわゆる建築展ではなく、建築家によって作られたインスタレーションを紹介する展覧会です。よって単純に素人の目線から言えば、例えば模型や図面が多数登場する建築展よりも体感的に楽しめました。また有り難いことに国立美術館では異例の写真撮影が可能(ブログ掲載も可。)です。と言うわけで、写真を交えて順に展示の印象を振り返ってみました。

【中村竜治】


中村竜治「とうもろこし畑」2010年
「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」東京国立近代美術館


入場してすぐ現れるのが中村竜治の何やら幾何学的な構造物でした。タイトルの「とうもろこし」とは謎めいていますが、ともかくその素材を聞いて驚かされます。まさか紙のフレームとは思いもよりません。


中村竜治「とうもろこし畑」2010年
「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」東京国立近代美術館


覗き込むと言わばトンネルの向こう側が見えてきます。そう言えばとうもろこし畑の中をかき分けて見るとこのような光景が開けるのかもしれません。

【中山秀之】

展示室のスケール感を一変させるのが中山秀之のインスタレーションです。北海道の草原のピクニックをイメージした空間のスケールは3分の一でした。ここは床に座り、それこそ小人の視点で楽しみたいところではないでしょうか。


中山英之「草原の大きな扉」2010年
「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」東京国立近代美術館


【鈴木了二】

今度は真っ白いステージのような構造物が登場します。一見すると展示中で最も言わば『建物』に近いものかもしれません。


鈴木了二「物質試行 51:DUBHOUSE」2010年
「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」東京国立近代美術館


ところがこの構造物、中に入ることが出来ません。またよく見ると、建物全体と椅子やテーブルのスケールもあってないことに気がつきます。覗き込むだけで不思議な感覚に襲われるような、実にシュールな空間が展開されていました。


鈴木了二「物質試行 51:DUBHOUSE」2010年
「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」東京国立近代美術館


【内藤廣】

大工が垂直を出すのに用いるというレーザーをイメージしています。私の拙い写真では分かりにくいのですが、レーザーが体にまとわりつくことで、いつしか空間そのものを実体として認識させることに成功していました。


内藤廣「赤縞」2010年
「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」東京国立近代美術館


【菊池宏】

東近美中最大の難所、縦に長い通路状のスペースを巧みに利用しています。回転する装置が映像と連動して、驚くべきインスタレーションを展開していました。


菊地宏「ある部屋の一日」2010年
「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」東京国立近代美術館


シンプルな仕掛けながら、その光と影の織りなす美しい映像は、全7作家の中でもダントツで印象に残りました。ここは一推しです。


菊地宏「ある部屋の一日」2010年
「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」東京国立近代美術館


【伊東豊雄】

トリをつとめるのは大御所、伊東豊雄でした。瀬戸内海の大三島で進行中のプロジェクト、「今治市伊東豊雄ミュージアム(仮)」で使われる多面体の2分の1スケールが登場します。


伊東豊雄「うちのうちのうち」2010年
「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」東京国立近代美術館


多面体の内部には、伊東が提案する様々な空間構成システムなるものが紹介されていました。ここは建築に詳しい方がより楽しめるかもしれません。


伊東豊雄「うちのうちのうち」2010年
「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」東京国立近代美術館


【アトリエ・ワン】

一つ重要な作品を忘れていました。美術館の屋外には動物の形をした待ち合わせスポットが登場しています。素材は何と竹でした。


アトリエ・ワン (塚本由晴/貝島桃代)「まちあわせ」2010年
「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」東京国立近代美術館


にゅっと首をのばすキリンの頭は二階部分にまで到達しています。遊び心も満点でした。


アトリエ・ワン (塚本由晴/貝島桃代)「まちあわせ」2010年
「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」東京国立近代美術館


天井高や展示室の形状など、何かと制約のある東近美の空間がよくぞここまでと思うほどに変質しています。全体のスペースはさほど広くないので想像していたよりは早く見終えてしまいましたが、それこそ「建築はどこにあるの?」として作品を巡っていると一種の旅気分を味わえるかもしれません。

8月8日まで開催されています。
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「畠山直哉 - 線をなぞる/山手通り」 タカイシイギャラリー

タカイシイギャラリー江東区清澄1-3-2 5階)
「畠山直哉 - 線をなぞる/山手通り」
7/17-8/14

タカイシイギャラリーで開催中の畠山直哉の新作写真展へ行ってきました。

本展出品作の概要は以下の通りです。(画廊サイトより引用。)

今回発表される作品シリーズは、畠山が2008年から2010年にかけて、東京を縦断する山手通りを大橋交差点から熊野町交差点まで、南北10kmに渡って撮影を続けた作品によって構成されます。


「線をなぞる / 山手通り #3418」2008年

今回のシリーズを見て感じたのは、何物にもない都市の不在の感覚です。首都高のトンネル工事によって常に変化し続けた山手通りは、時に大きく歪み、またある時には面と線のみに還元されて、あたかもコラージュ作品の一部であるかのように解体されていました。見慣れた道路の白線やフェンス、そして電柱などが、単なる色や形の記号のように浮きあがってくるのはとても新鮮です。実景でありながら、どこにもない虚構の場所を見ているような錯覚を覚えました。

無秩序に並ぶビルや壁、また資材置き場などを見つめる眼差しにも独特の美学が貫かれています。こうも美しい景色が都市のあちこちに隠されていたとは知りませんでした。

なお本個展は二本立てです。これら一連の山手通りのシリーズの他、G-tokyoでも出品された「Slow Glass/Tokyo」も展示されています。雨が吹き付け、水玉で埋め尽くされたガラス越しの東京はあまりにも脆く、このまま溶けて消えていくかのような表情を見せていました。

8月14日までの開催です。おすすめします。
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「ナポリ・宮廷と美 - カポディモンテ美術館展」 国立西洋美術館

国立西洋美術館台東区上野公園7-7
「ナポリ・宮廷と美 - カポディモンテ美術館展」
6/26-9/26



国立西洋美術館で開催中の「ナポリ・宮廷と美 - カポディモンテ美術館展」へ行ってきました。

聞き慣れないカポディモンテなる美術館のコレクション展ということで、一般的な知名度こそ低いのかもしれませんが、ルネサンス、バロック美術、とりわけキリスト教絵画などが好きな方にとっては要注目の展覧会と言えるかもしれません。私自身はともかく例の首切りのユデュトを一番の目当てにして出かけましたが、全体としても想像以上に楽しめました。

展覧会の構成は以下の通りです。

1.イタリアのルネサンス・バロック美術
2.素描
3.ナポリのバロック絵画

前半にいきなりメインの「貴婦人の肖像」やグレコ、またグイド・レーニらの16~17世紀の絵画を展示した上で、約15点弱の素描を挟み、今度はユディトを含むナポリのバロック絵画を展観する流れとなっていました。

それでは私が特に印象に残った5つの作品を挙げてみます。



パルミジャニーノ「貴婦人の肖像(アンテア)」
ちらし表紙を飾る本展のハイライト。きらびやかな衣装を身につけた女性が気丈な様子にて前を見据えている。直立しているのかと思いきや、右肩が前に迫り出すようにして描かれているとのこと。左手小指の指輪やテンの毛皮などの細部まで実に丁寧に描かれていた。モデルは果たして娼婦か貴族の新婦なのかということだったが、その端正な顔に潜む挑発的な眼差しがとても意味深。そのしたたかな表情をあわせると彼女の人となりが見えてきそうだ。



アンニーバレ・カラッチ「リナルドとアルミーダ」
二人の世界に入り浸るリナルドとアルミーダが流麗なタッチで描かれている。やや赤茶けたリナルドの姿は健康そのもので、全く愛を疑うことなくアルミーダの瞳を見つめていた。もちろんアルミーダの魅惑的な表情も美しい。リナルドを助けにきたという二人の兵士も、この妖艶な空間に息をひそめて見る他ないようだ。

ジョルジョ・ヴァザーリ「キリストの復活」
お馴染みの主題。どこか軽やかに駆けるような様子でキリストが復活する。興味深いのはその下で叫びをあげる一人の男。展示で紹介されていた彫刻、アッツォリーノの「さいなまれる魂」に酷似していた。ちなみにヴァザーリというと西美常設の「ゲッセマネの祈り」を思い出すが、どちらかと言えばそちらの方が良く描けた作品かもしれない。



エル・グレコ「燃え木でロウソクを灯す少年」
一見ではグレコとはわからなかった一枚。少年が口をすぼめて炭を吹く姿が捉えられている。炎によって照らされた顔や衣服と、背景の暗闇との対比が見事。この構図に良く似たラトゥールの作品を思い出した。



グイド・レーニ「アタランテとヒッポメネス」
ともかく印象深いのは二人が三角形を作るようにして行き交う躍動感。暗がりの広大な背景からクローズアップされているのは、黄金のリンゴを投げるヒッポメネスと拾うアタランテの二人。青白い体に目を凝らすと細かな筋肉が浮き上がってきた。両者の激しい運動があたかも時間が止まったかのように静止している。二人を覆う布の靡く様もこの絵の主役だ。画面に動きを与えていた。



アルテミジア・ジェンティレスキ「ユディトとホロフェルネス」
この展覧会で一番見たかった作品。ユディトが力強くも、あたかも何かを調理するかのようにナイフを持ってホロフェルネスの首をざっくりと切り落としている。白いシーツについた血は早くもこびり付き、虚ろな表情を見せる彼の最期を伝えていた。しかしこのユディトの復讐心に燃えたような表情は忘れられない。ドラマチックで真に迫るその描写を見ていると、いつしか見ている自分も首を落とされるのではないかという恐怖感さえ覚えた。

なお出品総数は80点と西美の企画展にしてはあまり多くありません。観賞後、常設へと廻る余力がありました。ちなみに今のところ混雑とは無縁のようです。比較的落ち着いた環境でじっくりと見入ることが出来ました。

図版の鮮明さを含め、図録の出来がもう一歩なのが残念でした。また素描にもう少し多くの作品があれば展示に厚みが出たような気もします。

9月26日まで開催されています。
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「トリック・アートの世界展 - だまされる楽しさ - 」 損保ジャパン東郷青児美術館

損保ジャパン東郷青児美術館新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階)
「トリック・アートの世界展 - だまされる楽しさ - 」
7/10-8/29



損保ジャパン東郷青児美術館で開催中の「トリック・アートの世界展」へ行ってきました。


桑山タダスキー「円D138」1966年

トリックアートと聞いて思い出すのが文化村のだまし絵展ですが、今回の展示はそれとは似て非なるものと言えるのではないでしょうか。ここに登場するのはアルチンボルドから国芳らといった東西のスター軍団ではなく、主に1960年以降の日本の現代美術でした。よって比較はナンセンスかもしれませんが、だまし絵展の華やかなイメージで行くと肩透かしをくらってしまうかもしれません。かなり地味でした。


福田美蘭「セフィロスから見たクロリスとフローラと三美神」1992年

私自身、興味を覚えたのはオプ・アート、つまり視覚的なトリックの効果を狙う抽象絵画を描いたヴィクトル・ヴァザルリの「バンクーバー」シリーズと、古典絵画の中の登場人物から見た景色を描いた福田美蘭の「幼児キリストから見た聖アンナと聖母」などでした。特に後者は絵の中に入り込むという疑似体験を得ることが出来ます。どの角度からか、また立ち位置はどこかと色々考えながら見入りました。


森村泰昌「肖像(ヴァン・ゴッホ)」1985年

お馴染み森村や名和の作品もトリックというキーワードでくくられると、意外と新鮮に見えてきます。それに出品作の大半を占める高松市美術館の所蔵品を一堂に見られたのは収穫でもありました。


河口龍夫「無限空間におけるオブジェとイメージの相関関係又は8色の球体」1968年

楽しさまでを体感し得る展示かどうかは不明ですが、何かと難解とされる現代美術を一つのキーワードで大胆に読み解く企画自体は悪くないのかもしれません。 なお見方のポイントを記した解説シートも用意されています。重宝しました。

8月29日まで開催されています。
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講演会:「知られざる山種コレクション」 山種美術館

山種美術館(渋谷区広尾3-12-36
講演会「知られざる山種コレクション」
日時:7月24日 17:15~
講師:山下裕二氏(明治学院大学教授、山種美術館顧問)

山種美術館で開催中の「江戸絵画への視線」展に関連した山下先生の講演会、「知られざる山種コレクション」を聞いてきました。



大筋で内容は展示作品を一点一点スライドで解説していくものでしたが、早速以下に写真を交え、その様子を簡単にまとめてみます。(なお座席の関係で写真が山下先生のブロマイド状態になってしまいました。山下先生、申し訳ありません。)

~山種美術館と知られざる江戸絵画コレクション~

・茅場町から仮住まいの三番町、そしてこの広尾へと移転してきた山種美術館。
・近現代の日本美術コレクションに定評がある。
・開館一号展はすぐに速水御舟展と決まった。美術館の目玉はやはり速水御舟。
・しかしながら近現代日本美術以外にも知られざるコレクションがある。
・それが今回展観の江戸絵画コレクション=非常に高いクオリティ
・今回、茅場町時代以来、約20年ぶりとなる江戸絵画の展覧会である。(平成元年の「江戸の絵画展」以来。)
・出品にあたっては作品を改めて調査した。(また前回の浮世絵に関しても改めて内容を精査している。特に写楽の作品は重要。)

~琳派の諸作品について~

【宗達は野蛮なデザイナー】


「四季草花下絵和歌短冊帖」俵屋宗達絵 本阿弥光悦書(17世紀)

 ・短冊帖の上に金銀泥をあしらった作品。
 ・銀は黒く焼けてしまう傾向があるが、この作品に関してはむしろ良い感じの焼け方をしている。
 ・保存状態は超一級。
 ・光の当たり方によって輝きが変化していく様に注目して欲しい。
 ・短冊と言う細長いフォーマットを逆手にトリミングの妙味で魅せる作品。
 ・小さな画面にも関わらず大きな世界を作っている
 ・空間にモチーフを収めるのではなく、あたかもそれを鉈でぶった切るかのように世界をつくる。
 
【宗達=鉈、光琳=包丁、抱一=かみそり、其一=メス】


「新古今集鹿下絵和歌巻断簡」俵屋宗達絵 本阿弥光悦書(17世紀)

 ・元々は20m近くある作品。その巻頭部分を山種美術館が所有している。
 ・後半はシアトル美術館が所蔵。以前、サントリーの展覧会で展示された。
 ・表具も重要。細かな刺繍の入った着物を転用したのではないか。
 ・上下空間をぶったぎる宗達の腕力を余すことなく楽しめる名品。
 ・宗達=鉈、光琳=包丁、抱一=かみそり、其一=メス、とは言えないだろうか。

【槙楓図で追う琳派の系譜】


「槙楓図」伝俵屋宗達(17世紀)

 ・保存に関してはあまりよくない。補彩もある。
 ・宗達オリジナルかどうか意見が分かれる。ただし同時代の宗達に近い者の作品であることは間違いない。
 ・直立する幹をうねる幹の対比などに独特の魅力がある。オリジナルであるかどうかは問題ではない。
 ・琳派の系譜にとって重要な作品。光琳に同じ作品がある。おそらく光琳はこの作品を見て描いた。(=槙楓図屏風)

【照明の効果~巧みな奥行き感】


「秋草鶉図」酒井抱一(19世紀)

 ・美術館創設者、山崎種二が所有する以前は、横浜の原三渓が所有していた。抱一の名品。
 ・原が当時、インドの詩人タゴールにこの屏風を見せ、「金地に黒い柿の種の形をしたものを武蔵野の月だ。」と説明しても理解されなかったという。  
 ・図版ではフラットな空間構成にも見えるが、実物には奥行きがある。
 ・土佐派風の秋草と銀の変色した黒い月のコントラスト。
 ・今回の展示では照明も工夫している。LEDで下からの光を強調することで美しい色味を出すことに成功した。
 ・そもそも江戸時代には上からの照明はなく、ロウソクなどの下からの明かりが殆どだった。

【山崎種二の原点は抱一】

「菊小禽図」/「飛雪白鷺図」酒井抱一(1823-28年頃)

 ・いわゆる抱一の十二ヶ月花鳥図と呼ばれるシリーズのうちの2点。全点揃いものでは三の丸尚蔵館の他、プライスコレクションなどが有名。
 ・菊は9月、飛雪は11月を表している。


「十月(柿・目白)」酒井抱一(三の丸尚蔵館蔵。本展非出品。)

 ・山崎種二のコレクション原体験は抱一。主人に赤い柿の描かれた抱一の絵を見せてもらったことに感銘し、絵画のコレクションをはじめた。
 ・その柿の絵を思わせるのがこの「十月」。おそらくこの作品に近いものを見たのではないか。

【抱一と若冲】


「白梅図」酒井抱一(19世紀)

 ・梅の枝が複雑に絡み合う作品。
 ・若冲の梅の絵を抱一は見ていたのではないか。バーク・コレクションの「月下白梅図」との類似性。

【光甫から酒井鶯浦】

「白藤・紅白蓮・夕もみぢ図」酒井鶯浦(19世紀)

 ・20年前は本阿弥光甫の作品とされていた作品。今回の調査で抱一一門の鶯浦の作品だと判明した。
 ・落款が押したものではなく書いてある。つまりは光甫の描いた作を誰かが写したということだ。

~岩佐又兵衛の「官女観菊図」について~



・辻惟雄氏の「奇想の系譜」における原点となる作品。人気こそ若冲に落ちるが、むしろ真価はこれから認知されるだろう。
・特定の場面を描いたわけではない。(伊勢か源氏の特定のシーンではない。)
・ともかくもの凄いのは髪の毛に対する異常な執着。非常に細かに描かれている。
・母を信長に殺された又兵衛は、マザコン的な女性像への追求をやめることがなかった。
・この作品にもまだ見ぬ母の幻影が示されている。
・頬と唇の部分に仄かな朱が入っていることにも注目してほしい。また画面のあちこちに金泥も入っている。
・本作は「金谷屏風」を切り取ったもの。左から二番目のシーンがこの作品。他は散逸しているものもある。



~文人画、またその他の作品について~

「指頭山水図」池大雅(1745年)

 ・指に墨を付けて描く技法を用いた作品。パフォーマンス的に描いたのではないか。
 ・池大雅は天才少年。三歳の時の書などが残っている。

「久能山真景図」椿椿山(1837年)

 ・渡辺華山の弟子の椿椿山の描いた久能山の実景。真景図は比較的ランクが低いとされてきた文人画の中でも高く評価されていた。
 ・中央に小さな人物が描き込まれていることにも注意して欲しい。


「唐子遊び図」伝長沢芦雪(18世紀)

 ・言わば問題作。一度「伝」がとられたこともあったが、今回見ることで改めて「伝」を付けた。
 ・芦雪の師、応挙の作を踏襲して描いたとされる作品。芦雪にしてはアクが強くないが絵自体は良い。
 ・展示することで研究者の議論を呼べばと思っている。

~まとめ・「江戸絵画への視線」とは~


「名樹散椿」速水御舟(1929年)

 ・御舟が琳派を意識して描いた作品。今回の展示ではそれをあえて最後に持ってきていた。
 ・近代絵画から琳派を意識して見て欲しい。
 ・つまり「視線」とは、現代に生きる我々と、御舟らといった近代の画家がどのように江戸絵画を見たのかという、二重の意味で名付けられたものだ。

時間の関係から前半の琳派を過ぎるとやや駆け足での解説となりましたが、いつもの山下先生らしい熱の入ったトークで楽しむことが出来ました。



ところで冒頭、山下先生も触れておられていましたが、江戸絵画の次は開館一周年を記念した「日本画と洋画のはざまで」という展覧会が予定されています。東近美所蔵の安井曾太郎の「芙蓉」などと、山種美術館の日本画の名品を相互に比較し、その間を追っていくという意欲的な内容になるそうです。こちらもまた楽しみです。

なお「江戸絵画への視線」展の私の感想については昨日のエントリにまとめてあります。

「江戸絵画への視線」 山種美術館(拙ブログ)

「江戸絵画への視線」展は9月5日まで開催されています。
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「江戸絵画への視線」 山種美術館

山種美術館渋谷区広尾3-12-36
「江戸絵画への視線 - 岩佐又兵衛『官女観菊図』重要文化財指定記念 - 」
7/17-9/5



山種美術館で開催中の「江戸絵画への視線 - 岩佐又兵衛『官女観菊図』重要文化財指定記念 - 」へ行ってきました。

同美術館の江戸絵画というと三番町の頃から足しげく通っていた私にとっては意外と馴染み深いものがありますが、それでも今回ほどまとまった数で見たのは初めてでした。実際、山種美術館でいわゆる「江戸絵画展」を開催したのは、茅場町時代以来、約20年ぶりのことだそうです。チラシ表紙の又兵衛から琳派、狩野派に文人画、そして是真まで、約50点弱の作品がずらりと勢揃いしていました。 (出品リスト


左から順に酒井抱一「飛雪白鷺図」、「菊小禽図」、「秋草図」、「月梅図」(全て山種美術館蔵)

冒頭、宗達と光悦の技がスリリングにぶつかり合う「新古今集鹿下絵和歌巻断簡」を経由して開けてくるのは、ファンにはたまらない抱一画の共演です。そもそも計6点と並んでいるだけでも嬉しくなってしまいますが、中でも見慣れたはずの「秋草鶉図」の趣が一変しているのには驚かされました。これまではどちらかというとやまと絵風の秋草とリアルな鶉の描写との造形的な対比に興味を覚えていましたが、今回の巧み照明にかかるとまさに野山の自然の一コマを写したような情緒豊かな作品に見えてなりません。可憐な金地はいつしか月明かりと重なって美しくも控えめに輝いていました。


岩佐又兵衛「官女観菊図」(山種美術館蔵)

又兵衛の「官女観菊図」をそれこそ目と鼻の先で楽しめるのも山種美術館ならではのことではないでしょうか。ここでは又兵衛の得意とする執拗でかつ繊細な線描を、例えば単眼鏡など用意しなくとも存分に見ることが出来ます。絡み合って束なる髪はあまりにも妖艶でした。

文人画にも要注目です。指で描いたという柔らかい線、そして仄かな彩色による池大雅の「指頭山水図」の牧歌的な風景は、まさに印象派絵画を彷彿させはしないでしょうか。さらに大雅ではもう一枚、絹本ではなく絖本、つまりはサテン地に描かれた「東山図」も興味深い作品です。きらきらと光を反射する生地の感触を目で楽しむことが出来ました。


作者不詳「竹垣紅白梅椿図」(山種美術館蔵)

話題となった三井の回顧展の記憶も蘇る是真の漆画なども見所の一つではありますが、今回私が断然にオススメしたいのが作者不詳の「竹垣紅白梅椿図」です。六曲一双の金地の大空間に横へ連なる竹垣が描かれていますが、その空間を裂くような力強い様子には思わず仰け反ってしまいました。竹をクローズアップして描くかのような宗達風のトリミング、そして竹や紅白梅が火花を散らしてぶつかり合うかのような動きなど、その大胆極まりない表現には強く感心させられました。


速水御舟「名樹散椿」(山種美術館蔵)

いわゆる常設展示室となった第二室もお見逃しなきようご注意下さい。琳派にも影響されたといわれる速水御舟の「名樹散椿」が、展覧会の締めを見事に飾っていました。


左から順に鈴木其一「四季花鳥図」、酒井抱一「秋草鶉図」、伝俵屋宗達「槙楓図」(全て山種美術館蔵)

言うまでもなく、前回の浮世絵展と『江戸絵画』という括りでセットになった展覧会です。(図録も浮世絵展とあわせて一つになっています。)浮世絵を堪能しながら、その源流とも言える又兵衛をスルーしてしまうのはあまりにも勿体ないのではないでしょうか。

なお、この日に開催された同館顧問の山下先生の講演会も拝聴してきました。そちらの内容も近日中にまとめるつもりです。

展示替えはありません。9月5日まで開催されています。

注)写真の撮影と掲載については主催者の許可を得ています。
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「サイコアナリシス - 現代オーストリアの眼差し」 TWS渋谷

トーキョーワンダーサイト渋谷渋谷区神南1-19-8
「サイコアナリシス - 現代オーストリアの眼差し」
5/29-8/1



「狂気を見つめるオーストリアの現代美術家7組」(チラシより引用)を紹介します。トーキョーワンダーサイト渋谷で開催中の「サイコアナリシス - 現代オーストリアの眼差し」へ行ってきました。

出品作家は以下の通りです。私は全く存じ上げない方々でしたが、日本初発表の作家も多いとのことでした。

ビッター/ヴェーバー、マリア・ハーネンカンプ、アグライア・コンラッド、ドリット・マーグライター、ウルスラ・マァイヤー、マルクス・シンヴァルド、アンドレア・ヴィッツマン


マーグライター「pavilion」2009 / 35mm film on DVD, 8'00"

何やら意味深な映像や写真メインということで評価は分かれそうですが、私としては例えば現地の建築をモチーフにした用いたいくつかの作品を興味深く見ることが出来ました。マーグライターの「pavilion,2009」は、モノクロ一色に包まれた幾何学的な建築物が延々と無声で映し出される作品でしたが、クローズアップされる断面や光の陰影などを見ていると、何やらその建物自体のモノローグを聞いているような不思議な気持ちにされられます。また都市の鳥瞰写真を素材にしたビッター/ヴェーバーも、言わば錯視的効果を利用した作品です。実景にある素材が混じり合うことで、あたかもその先にある都市の実在感が解体されていくような感覚を受けます。まさにトリッキーでした。


ビッター/ヴェーバー「image.source」 2000 / 4 A0 prints on paper

精神分析学(サイコアナリシス)云々というタイトルの通り、お世辞にも取っ付き易い内容とは言えませんが、しばらく映像などを追っていくと、いつしか暑さを忘れて背筋に冷たいものを感じるような、半ばちょっとした不安感にも襲われる展覧会でした。

8月1日までの開催です。(入場無料。)なお東京展終了後は、熊本市現代美術館(9/18~11/28)へと巡回します。
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「MASKS - 仮の面」 千葉市美術館

千葉市美術館千葉市中央区中央3-10-8
「MASKS - 仮の面」
7/6-8/15



千葉市美術館で開催中の「MASKS-仮の面」へ行ってきました。


(展示風景)

若冲展の記憶も新しい同美術館ですが、今回の「MASKS」では趣も一変、例えばエナジースポットとでも言えるような何やら神秘的な空間が待ち構えています。古今東西のいわゆる仮面が約150点、これほど美術館に集まったことなど過去に例がなかったかもしれません。来場者に見られているというより、奇々怪々な表情をとって我々を見つめる姿には思わず息をのんでしまいました。


(展示風景)

仮面展とあると例えば日本の能面などを連想しがちですが、今回の主役はむしろオセアニアやアフリカの土着的な仮面です。仮面の持つ様々な表情を、いくつかのテーマの元に読み解いていきます。構成は以下の通りでした。(出品リスト

序 いにしえ - 祈りの顔
第一章 にらみ - 守護する面
第二章 わらい・いかり - 面の表情と精神
第三章 おかしみ - ユニークな造形の展開
第四章 けもの・とり-聖獣たちの面
第五章 まつり・いのり・とむらい - 舞と儀式の面
第六章 ゆがみ - 異形の面
第七章 ととのい


「宮城・登米地方の竃面」19世紀 日本(宮城県登米市)/静岡市立芹沢銈介美術館蔵

まさしくぎょっとする仮面もいくつも登場しますが、まず国内で注目したいのは奄美地方で用いられた奉納面、「奄美地方の面」(18-19世紀/日本・鹿児島県)です。造形的には稚拙と言えるかもしれませんが、まるで爬虫類の顔でも象った姿には独特な魅力が感じられます。また同じく日本の北国で使われた「東北地方の竃面」(18-19世紀/日本)も必見の仮面です。鬼のような形相をとって睨みつける力強い様子はそれこそ達磨のようでした。


「王の仮面」 20世紀初期 カメルーン・グラスランド地域 バムン/アフリカンアートミュージアム蔵

一方、今回のハイライトでもあるのが、主に赤道付近の農耕社会で使われたというアフリカの仮面に他なりません。その豊富なバリエーションには感心させられるところですが、中でも「王の仮面」(20世紀初期/カメルーン・グラスランド地域)には驚かされました。巨大な透かし彫りの冠をつけ、ニヤリと歯を出して笑うの形相には思わず足が止まってしまいます。この他、仮面結社と呼ばれる人々が葬送の際に付けていたという「仮面キフェベ」(20世紀初期/コンゴ民主共和国)など、まさに異形と言うべき仮面が続々と登場していました。


「仮面キフェベ」 20世紀初期 コンゴ民主共和国 ソンゲ/静岡市立芹沢銈介美術館蔵

かなりサイズの大きな作品もいくつか紹介されていますが、もはや仮面の域を超えているのではないかと思えるほど巨大なのが、「頭上面バンソニイ」(20世紀初期/ギニア)です。この仮面はギニアのバガ族の伝説に基づき、大蛇を象ったものだそうですが、その長さは何と2mを超えています。仮面には先にも触れた葬送の他、精霊、また部族の持つ伝説と関連するものなど、信仰や儀礼の在り方との結びつきが目立っていました。まさに仮面には精神、魂の化身が宿っているのかもしれません。

仮面の殆どはほぼ木で出来ていますが、唯一その他の素材、ブロンズによる「オニ(王)の面オバルフォン」(12-15世紀/ナイジェリア)も見逃せません。ギリシャ・ローマの影響を受けているからなのか、の端正はフォルムは他の仮面とはやや異質でした。

そう言えば冒頭、序「いにしえ」では、千葉市内で出土した縄文後期の小さな土偶たちが勢揃いしていました。土偶のプリミティブな造形は、時代を超えて仮面の精神性へと繋がっているようです。


(展示風景)

ところで仮面に集中するだけでも時間を忘れてしまうものですが、今回もう一つ触れておきたいのは作品の優れた展示方法です。一部の仮面についてはガラスケースを取っ払ったばかりか、360度の角度からぐるりと見渡せる露出展示になっています。そしてさらに仮面の魅力を引き立てるのは美しいライティングです。何でも同館ではこの展覧会で初めて外部の専門家に照明を依頼したそうですが、その成果はまさに一目瞭然ではないでしょうか。暗がりから浮かびあがる仮面の妖しげな姿にはゾクゾクしてしまいました。

実は何気なく足を運んだ展覧会でしたが、失礼ながらもまさかここまで楽しめるとは思いませんでした。仮面の美しさ、そしてその魔力を知ることが出来る一期一会の企画といっても過言ではありません。自信をもっておすすめできます。



なお「MASKS」とあわせ、「勅使河原蒼風と戦後美術」も同時に開催されています。こちらも私が初めて見た時に衝撃を受けた勅使河原蒼風の「半身半獣」が出品されるなど、なかなか見応えがありました。

8月15日までの開催です。また千葉展終了後は足利市立美術館(9/4~10/17)へと巡回します。

注)展示風景写真については美術館より頂戴しました。
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川村記念美術館でバーネット・ニューマン展を開催

先日、ツイッターでも少しつぶやきましたが、この秋に川村記念美術館で開催されるバーネット・ニューマン展の情報が同美術館サイトに出ています。こちらにも簡単にまとめてみました。



開館20周年記念展 「アメリカ抽象絵画の巨匠 バーネット・ニューマン」
場所:川村記念美術館
会期:2010年9月4日(土)―12月12日(日)
時間:午前9時30分-午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館:月曜日(ただし9/20と10/11は開館)、9/21(火)、10 /12(火)

詳細は上記リンク先を参照していただきたいのですが、所蔵の「アンナの光」を含む全30点による国内初の本格的な作家の個展となるそうです。

出品リスト

なお9月17日まで入場の限定として、クーポンによる最大500円引きの早期割引制度も予告されています。これは重宝するのではないでしょうか。

「早期来館割引」クーポンをダウンロード(入館料一律1000円)
*9/4~9/17の入場に限る。


バーネット・ニューマン「アンナの光」1968 年 アクリル、カンヴァス(川村記念美術館蔵)

追記:展覧会の概要が美術館よりリリースされました。(以下リリースより一部転載。)

開館20周年記念展 アメリカ抽象絵画の巨匠 バーネット・ニューマン(プレスリリース)

【概要】
本展は川村記念美術館の開館 20 周年を記念し、当館が所蔵するニューマン晩年の大作《アンナの光》を中心 に、絵画・彫刻・版画など約30点を紹介する国内における初のニューマン展です。果てしない自問自答を繰り返しながら、絵画の意味を伝えようとした芸術家の、その真摯な探求の軌跡をたどります。

【見どころ】
1. 希少性の高いニューマン作品を国内でまとめて見られる20世紀美術ファン必見の展覧会
2. フィラデルフィア美術館とテート・モダンで開催された 回顧展の出品作品も展示
3. 母の名を冠した傑作《アンナの光》
4. 生前のニューマンを取材したテレビ番組を2本上映(協力:WNET.ORG)

【講演会】
1. イヴ=アラン・ボワ [ハーヴァード大学教授] 「ニューマンにおけるユダヤ性」 9/4(土) 14:00-16:00
2. キャロル・マンクーシ=ウンガロ [ホイットニー美術館修復保存研究所所長/ ハーヴァード大学現代美術技術研究所所長] 「バーネット・ニューマンの技法を通した敬虔なる探求」 10/16(土) 14:00-16:00
3. 近藤学 [20 世紀美術史] 「《18 の詩篇》を中心に」 10/30(土) 14:00-16:00

【カタログ】
イヴ=アラン・ボワ氏、近藤学氏による論考のほか、ニューマンの文献目録と詳細な年譜を収録。 日本初開催のニューマン展記録。(予価2400円)

リニューアル後の川村記念美術館では、どこかロスコと対比される形でニューマンの「アンナの光」が展示されていますが、今回はよい意味でそれを超え、彼の画業を丹念に振り返る内容になるのではないでしょうか。川村美のアメリカ現代美術展というと、私の中ではライマンの回顧展が非常に印象に残っていますが、このニューマンにも大きく期待したいと思います。

*関連エントリ
「アメリカ抽象絵画の巨匠 バーネット・ニューマン」(Vol.1・速報写真) 川村記念美術館

注)写真の撮影と掲載については主催者の許可を得ています。
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「夏秋草図屏風 酒井抱一筆 公開」 東京国立博物館

東京国立博物館・平常展示8室「書画の展開」(台東区上野公園13-9
「夏秋草図屏風 酒井抱一筆 公開」
6/29-8/8

東京国立博物館・平常展第8室で公開中の酒井抱一「夏秋草図屏風」を見てきました。



大琳派展以来ということで、東博では約2年弱ぶりの展示ではないかと思いますが、このような平常展示室での公開はしばらく記憶がありません。比較的、人出も落ち着いた室内で見る「夏秋草図」の味わいもまた良いのではないでしょうか。ちょうど作品の前にソファも用意されていました。既にじっくり堪能された方も多いかもしれません。



専門的な解説については東博WEBサイトなどを参照していただくとして、今回私がふと感じたのは、夏草と秋草のともに見せる、風にそよぎまた水にうたれたその儚気な生命感でした。流麗でかつ澱みのない線にて草花を描くことにかけては琳派随一でもある抱一の筆ではありますが、ここでは薄や昼顔、そして百合などが、あたかもそれ自体が動くかのような生気を持って妖艶にかつ、言ってしまえばどこか官能的に絡み合うかのようにして描かれています。



そもそもこの作品は言うまでもなく光琳の大作「風神雷神図屏風」の裏面に描かれたこともあり、そもそもモチーフとしての藤袴や百合などに光琳への追慕の念がこめられているのはよく指摘されますが、その強い想いはこの屏風におけるそれぞれの草花の相互の関係にも反映されているように思われてなりません。



画中で薄のように自在に光琳への想いを馳せる抱一は、涙の雨から光琳を象徴する百合を優しく抱き、また野分からも思い草である女郎花をそっと守っていました。

「夏秋草図屏風」は抱一の名をまだ知らなかった2004年、東京国立近代美術館でのRIMPA展で一目惚れして以来、私にとってかけがえのない作品の一つになりました。今回も鈍い銀の光に包まれながら、草花の織りなす刹那的な夢物語にしばし思いを馳せることが出来ました。



かなり前、一度、光琳の風神雷神図と対になった形で展示されたこともあったそうですが、改めてそうした構成の上、無理な注文ではありますがケースなしの露出展示で見る機会があればと思いました。

「もっと知りたい酒井抱一/玉蟲敏子/東京美術」

8月8日まで公開されています。
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「誕生!中国文明」 東京国立博物館

東京国立博物館台東区上野公園13-9
「誕生!中国文明」
7/6-9/5



東京国立博物館で開催中の「誕生!中国文明」へ行ってきました。

漠然と「中国文明」とあっても展示の具体的なイメージがなかなかわきませんが、今回紹介されているのは、最近発掘調査が進む、黄河中流域の河南省出土の文物、例えば青銅器や金銀器、また彫刻など、約150点でした。そしてタイトルのもう一つ「誕生」とは、遡ること紀元前2000年、中国最古の王朝「夏」が河南省に興ったことにも由来して付けられています。もちろん会場ではそうした紀元前のものだけでなく、例えば後に同じく河南省で栄えた北魏や北宋期、つまりは12世紀に至るまでの仏像や陶磁器なども多く登場していますが、メインはやはりそうした時期の考古品になるのかもしれません。


美の誕生/鎮墓獣(ちんぼじゅう)
河南博物院蔵


展示は単純な時系列ではなく、「王朝の誕生」、「技の誕生」、そして「美の誕生」といった、比較的取っ付き易いテーマ別の三部構成となっています。時代はもちろん、ジャンルも多様ということで見所をあげればキリがありませんが、展示品より私の気になったものを簡単にあげてみました。


王朝の誕生/動物紋飾板(どうぶつもんかざりいた)
洛陽博物館蔵


「動物紋飾板」(夏時代・前17~前16世紀/洛陽博物館蔵)
ちらし表紙にも登場する動物の形をした小さな飾り板です。真上から見た姿とのことでしたが、一見では動物とは分からないかもしれません。はめ込まれたトルコ石がきらきらと美しい光を放っていました。


王朝の誕生/金縷玉衣(きんるぎょくい)
河南博物院蔵


「金縷玉衣」(前漢時代・前1世紀/河南博物院蔵)
何と2008枚にも及ぶ玉片で出来たという衣です。当時の高貴な身分の女性を埋葬する際に用いられていました。ちなみにかつては玉片の一つ一つを金の糸で結びつけていたそうです。玉による耳栓や鼻栓までもあわせて展示されていたのには驚かされました。

「案」(戦国時代・前4~前3世紀/河南省文物考古研究所蔵)
案とは机を意味します。少し反り返った上部には赤と黒の円の模様が力強く描かれていました。ちなみにこの作品を入れたガラスケースが、東博の展示でたまに登場する古いタイプのものです。その格式のあるケースがまた作品を引き立てていて見事でした。

「銀製十花形杯」(唐時代・8~9世紀/洛陽博物館蔵)
西域から伝来したという酒器です。表面には非常に精緻な丸紋があしらわれています。ともかく肉眼では分かりにくいほど細かいので、ここは単眼鏡があっても良いかもしれません。

「金製アクセサリー」(北宋時代・11~12世紀/洛陽博物館蔵)
これまた実に細やかな技巧を施した金のアクセサリーです。宋の貴族がつけていました。こちらにトルコ石がいくつもあしらわれています。


美の誕生/神獣多枝灯(しんじゅうたしとう)部分
河南省文物考古研究所蔵


「神獣多枝灯」(後漢時代・1世紀/河南省文物考古研究所蔵)
三層構造による縦1mはゆうに超えた大型の燭台です。龍の上に羽人と呼ばれる仙人が股がっています。当時のものがそのまま残っているのか、作品の随所に赤い彩色がうっすらとかかっていました。


美の誕生/神獣(しんじゅう)
河南省文物考古研究所蔵


「神獣」(春秋時代・前6~前5世紀/河南省文物考古研究所蔵)
完全な青銅製かと思いきや、随所にトルコ石がはめ込まれている象嵌の神獣像です。体の表面には鳳凰などの紋様が無数に描かれています。頭の上を飾る小さな龍の像には躍動感がありました。


美の誕生/宝冠如来坐像(ほうかんにょらいざぞう)
龍門石窟研究院蔵


「宝冠如来坐像」(唐時代・8世紀/龍門石窟研究院蔵)
展示室内でも一際目立つ、非常に大きな如来坐像です。龍門石窟から出土したとのことで、素材は石灰石でした。険しくつり上がった目に異様な迫力を感じたのは私だけでしょうか。宝冠の紋様は比較的細やかでした。

「卜骨」(商時代・前13~前11世紀)
古代の占いに用いられた獣の骨です。何気ない作品のようにも見えますが、そこに刻まれた文字に注目して見て下さい。甲骨文字と呼ばれる漢字の祖先が記されていました。

「関中侯印」(後漢時代・3世紀/河南博物院蔵)
河南省と言えば三国志の英雄、曹操の墳墓が発見されたことでも話題になりましたが、こちらには215年に曹操が定めた官位を記した金印が展示されています。こては三国志ファンには嬉しい作品です。


王朝の誕生/九鼎(きゅうてい)八き(はっき)
河南省文物考古研究所蔵


最近の東博をしてみれば当然かもしれませんが、作品の見せ方などにも十分な配慮がなされている点も見逃せません。仏像や楼閣の露出展示はもちろんのことですが、とりわけ鄭国祭祀遺跡から出土した春秋時代の青銅器群の一括展示には感心しました。暗幕に遮られた薄暗い空間の中、10メートル近くはあろうかという大きなケースに並ぶ青銅器の美しさは、一つのインスタレーションの域に達していたかもしれません。


王朝の誕生/じこう
河南省文物考古研究所蔵


総勢150点の作品数は東博の特別展としてはさほど多いわけではありませんが、体感的にはもっと多くの作品のあるような気がしました。私自身も会場に約2時間ほどいましたが、あらかじめ時間に余裕をもって臨んだ方が良いかもしれません。

人出は東博特別展にしては余裕がありましたが、一部の小さな工芸品の前では列も出来ていました。なお途中の展示替えはありません。(出品リスト

9月5日まで開催されています。なお東京展終了後、九州(10/5~11/28)、奈良(2011/4/5~5/29)の各国立博物館へと巡回します。

注)展示風景写真(広報用画像)については主催者の許可を得て掲載しています。
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「唐招提寺 金堂の技と鑑真和上に捧ぐ御影堂の美」 東京国立博物館ミュージアムシアター

東京国立博物館・資料館台東区上野公園13-9
「TNM&TOPPANミュージアムシアター 唐招提寺 金堂の技と鑑真和上に捧ぐ御影堂の美」
7/2-9/29(会期中の金・土・日・祝日)



東京国立博物館の資料館で上映中の「TNM&TOPPANミュージアムシアター 唐招提寺 金堂の技と鑑真和上に捧ぐ御影堂の美」を見てきました。


(唐招提寺金堂VR映像。)

唐招提寺というと昨秋、10年間にも及ぶ金堂の解体修理を終えたことでも話題となりましたが、今回のシアターではその金堂内部と、和上像が安置され、東山魁夷の障壁画の名高い御影堂が精密なVR映像で紹介されています。私自身も何度となく足を運んだ、奈良では有名な言わば観光スポットですが、こうしたVRによるとまた新鮮に映るのではないでしょうか。建物上部、そして内部も右から左と、三次元の空間を駆使した映像にはついつい釘付けとなってしまいました。


(金堂内部。創建当時の色彩をVRで再現。)

ハイライトは、最近の研究で分かった、創建当時の金堂の内部の様子を再現した映像かもしれません。白や青、そして赤の眩しいほどに鮮やかな彩色による絵が、金堂天井部分にくっきりと浮かび上がります。現在伺い知れる趣きとは一辺して、実にきらびやかな空間を作り上げていました。


(御影堂障壁画「濤声」VR映像。)

続いて魁夷の障壁画のある御影堂です。絵自体はかつて東近美の作家回顧展で一度見た記憶がありますが、今回の映像では建物内部における絵の配置関係などが分かりやすく説明されています。和上像が墨一色で描かれた故郷中国の風景「揚州薫風」のある松の間に置かれ、その襖の向こうには日本の海とつながる「濤声」、さらに上段の間には日本の山を描いた「山雲」へと繋がっていくという、まさに和上の旅程を辿るような構成になっているとは知りませんでした。

なおミュージアムシアターは通常通り、会期中の金・土・日・祝日のみ、完全当日予約制にて上映されています。(平常展入館料以外に追加料金はかかりません。)受付は本館のエントランスです。なお私はつい昨日、7月18日の日曜のお昼過ぎに出かけましたが、午後1時半頃の受付で午後4時の回を見ることが出来ました。(3時の回は既に満席でした。)

「TNM&TOPPANミュージアムシアター 唐招提寺 金堂の技と鑑真和上に捧ぐ御影堂の美」
期間  :7月2日~9月29日 
上演日 :金・土・日・祝日・振替休日
受付締切:9:50/10:50/11:50/13:50/14:50/15:50
受付場所:本館1Fエントランス・ミュージアムシアター受付
上演開始:10:00/11:00/12:00/14:00/15:00/16:00(所要時間は約30分)
定員  :各回30名

ところで余談ですが最前列に座ったところ、若干乗り物酔いをしたような感覚を受けました。苦手な方はひょっとすると後列の方がよいかもしれません。

9月29日まで上映されています。
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「ベルギー王立図書館所蔵 ブリューゲル版画の世界」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamuraザ・ミュージアム渋谷区道玄坂2-24-1
「ベルギー王立図書館所蔵 ブリューゲル版画の世界」
7/17-8/29



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「ベルギー王立図書館所蔵 ブリューゲル版画の世界」のプレスプレビューに参加してきました。

版画好きには待望の展示ということで期待はしていましたが、実際にもなかなか見応えのある内容に仕上がっています。会場にはブリューゲル76点、また同時代の画家約74点、計150点もの版画作品がずらりと揃っていました。全て版画という展覧会は文化村でも珍しいのではないでしょうか。良い意味で実にマニアックな企画でした。


(展示風景)

さてプレビュー時に、この展覧会を監修された森洋子氏(現明治大学名誉教授)のレクチャーを拝聴することが出来ました。以下、その内容を私なりにアレンジした上で、展示の見どころをあげてみます。ご鑑賞の参考にしていただければ幸いです。

1. 国内初、ブリューゲルと同時代の画家を並べた展覧会

国内でのブリューゲルの版画展というと、1972年の神奈川県立美術館、また89年のブリヂストン美術館など、過去に数回は開催されたそうですが、ブリューゲルと同時代の画家を同じ規模で紹介する展示は今回が初めてだそうです。よってブリューゲル版画を単に楽しむのではなく、その時代性、または源流などを探る内容ともなっていました。


(バベルの塔を描いた二枚の作品です。左がブリューゲルでした。)

同一主題でブリューゲルとそれ以外の画家の作品を比較出来るのも嬉しいところです。森氏によれば同じような構図をとる作品でもブリューゲルはアニメーション的な動きがあり、また他の画家はそうした要素が少ないとのことでした。

2. 風景版画とブリューゲル~アントワープとアルプス~


ピーテル・ブリューゲル「外洋へ出帆する4本マストの武装帆船」
1561年以降 エングレーヴィング
ベルギー王立図書館所蔵 KBR


港湾都市でもあるアントワープの地で画業を営んだブリューゲルは、そうした地理的な要因にもよるのか、船をテーマとして作品を何枚も手がけています。また一方、かなり早い段階でイタリアの地へ旅行した彼は、途中に通過したアルプスの山々のあまりにも急な様子に驚き、その風景を版画に表して描きました。


ピーテル・ブリューゲル「ネーデルラントの4輪馬車」
1555-56年 エングレーヴィング、エッチング
ベルギー王立図書館所蔵 KBR


ブリューゲルというとどこかコミカルな怪物が登場する作品の印象が強いかもしれませんが、今回はこうしたいわゆる風景画も多数展示されています。ちなみに彼の風景版画における鳥瞰的な視点は、森氏によるとまさに鳥で空を飛んで見た時の景色に近いのだそうです。時に旅情を誘う作風にはそうした要因があるからかもしれません。

3. 7つの罪源と7つの徳目~展覧会のハイライト~

やはり聖書にも由来するお馴染みの奇怪極まりない作品が注目されるのは間違いありません。


ピーテル・ブリューゲル「聖アントニウスの誘惑」
1556年 エングレーヴィング
ベルギー王立図書館所蔵 KBR


ブリューゲルの活躍する40年前に亡くなったヒエロニムス・ボスに接近したともされる「聖アントニウスの誘惑」や「冥府へ下るキリスト」などの定番作品も見どころの一つではないでしょうか。そう出品頻度の低いものではありませんが、この辺はやはり何度見ても楽しめます。


ピーテル・ブリューゲル「冥府へ下るキリスト」
1561年頃 エングレーヴィング
ベルギー王立図書館所蔵 KBR


そしてこちらも比較的見る機会の多い、「7つの罪源」と「7つの徳目」の各シリーズです。展示のハイライトになるのではないでしょうか。


ピーテル・ブリューゲル「大食」(七つの罪源シリーズ)
1558年 エングレーヴィング
ベルギー王立図書館所蔵 KBR


多数描かれた靴が他人の所有物を羨ましがっている様子を表す「嫉妬」(罪源)、また着飾った人間が虚栄を示すという「傲慢」(罪源)の他、一方では意外にも学芸を敢えて知識過剰として戒める「節制」(徳目)などに興味を引かれました。


ピーテル・ブリューゲル「節制」(七つの徳目シリーズ)
1560年頃 エングレーヴィング
ベルギー王立図書館所蔵 KBR


ちなみに「節制」に、こうした学芸への批判精神をこめたのはブリューゲル以外にあまり例がないそうです。何事も中庸であるべきという意味なのかもしれません。

4. ことわざと教訓から得られるもの


(「12のネーデルランドの諺」の展示風景。映像スクリーンでの解説も用意されています。)

当時、極めて人気のあったフランス・ホーヘンベルフの「青いマント」には何と43ものことわざが記されていますが、それに関連されて製作されたのが今回、ブリューゲル周辺の画家として紹介された一連の作品、「12のネーデルランドの諺」でした。


ピーテル・ブリューゲル「大きな魚は小さな魚を食う」
1557年 エングレーヴィング
ベルギー王立図書館所蔵 KBR


ブリューゲル、また周辺の画家は、宗教的な主題云々を通り越して、こうした風俗的なことわざや教訓をいくつも版画に表していきます。かの有名な「大きな魚は小さな魚を食う」もそのようなことわざに由来する作品です。ここは解説パネルや映像などがその意味を解き明かすのに役立っていました。

5. 現存する唯一のエッチング

ブリューゲル版画の大半は下絵が本人、そして彫りが職人による分業制をとっていますが、作品番号6の「野うさぎ狩りのある風景」の一点だけは、ブリューゲル自身が版画までを手がけたものです。展示冒頭、番号6の作品には是非注目して下さい。

6. 庶民への温かい眼差し~細やかな生活観察~

ブリューゲルが農村の日常風景を細密なタッチで描いたことは良く知られていますが、そこに彼自身の大きな農民生活への共感があったことを見逃してはなりません。アントワープ近郊、ホボケンの縁日の光景を表した「ホボケンの縁日」では、酒を飲んで楽しむ農民たちの様子を生き生きと描いていました。


ピーテル・ブリューゲル「ホボケンの縁日」
1559年頃 エングレーヴィング、エッチング
ベルギー王立図書館所蔵 KBR


都市住民であったブリューゲルはこうした庶民の遊びを冷ややかに見ていたのではないかという指摘もなされるそうですが、今回の展示ではそうした見方に対してかなり否定的です。

例えばこのホボケンにおいても例えばミサの様子を描くことで彼らが敬虔な教徒であることを示し、また他の画家で良く描かれるという暴れて喧嘩したりする光景をブリューゲルは殆ど描き入れませんでした。

ちなみにブリューゲル自身も変装してこうした集いに参加していたそうです。森氏によればブリューゲルには農民の生活を芸術の対象として捉えようと考えがあったのではないかとのことでした。


(展示風景)

全て版画のみと、見ようによってはやや地味な展示でもありますが、さすがに文化村ということでエンターテイメントとしても楽しめる工夫がなされています。作品を拡大したアニメーション映像の他、出品リストと一体となったクイズ形式のワークシート、またスタンプと、仕掛けも盛りだくさんでした。


(図録表紙)

今回、私が自信を持っておすすめしたいのが2500円の図録です。会場では個々の作品にそう細かなキャプションが付いているわけではありませんが、ここでは鮮明な図版とともに、それこそ余白を埋め尽くさんと言わんばかりの膨大な解説が事細かに記されています。またブリューゲル版画には作品中、ラテン語による銘文がいくつも記載されていますが、この図録ではブリューゲル以外の画家の銘文についても殆ど初めて日本語に翻訳したそうです。森氏の労作の論文2本を含め、永久保存版となり得る一冊となること間違いありません。


(展示風景)

ところで鑑賞に際して一つお伝えしておきたいことがあります。それは作品の額装についてです。背景が白いものがブリューゲル、色がついているものはそれ以外の画家を表しています。



つまりこの上の展示では左がブリューゲル、そして右がそれ以外の画家の作品となります。見分けるのに役立つのではないでしょうか。

一般的に版画展がそう混雑することはありませんが、今回は人気のブリューゲルということもあり、ひょっとすると夏休みにかけて人出が増すかもしれません。経験上、同館で最もスムーズに作品が見られるのは、毎週金曜と土曜の夜間開館(21時まで)です。単眼鏡を片手に、小さな版画をがぶりつきで楽しむには、やはり夜に出かけるのが一番ではないでしょうか。私も再度見に行く時は夕方以降を狙うつもりでいます。

8月29日までの開催です。もちろんお見逃しなきようおすすめします。

注)写真の撮影と掲載については主催者の許可を得ています。
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「入江泰吉写真展」 日本橋三越本店

日本橋三越本店本館1階中央ホール(中央区日本橋室町1-4-1
「平城遷都1300年記念 入江泰吉写真展~奈良・大和路巡礼の旅」
7/7-20



日本橋三越本店本館1階中央ホールで開催中の「平城遷都1300年記念 入江泰吉写真展~奈良・大和路巡礼の旅」へ行ってきました。

昨日のエントリ、三井記念美術館の「奈良の古寺展」とも連動する、平城遷都1300年を祝したミニ写真展です。大和路の風景を撮り続けた写真家、入江泰吉(1905~1992)による奈良に因んだ写真が、お馴染みの佐藤朝山による「天女像」の真下のスペースにて何点か展示されていました。三井記念美術館の一階アトリウムで開催中の小林晴暘の展示を仏像写真展とすると、こちらはどちらかと言えば奈良の風景が多く登場する写真展と言えるかもしれません。靄に沈み、また赤々とした夕陽の照らす寺院の遠景などが、どこか情緒的な味わいで捉えられていました。

あくまでもデパート内の無料写真展ということでスペースは僅かですが、古寺展の記事でも触れたように、三井までせっかく行くのであれば一緒に見ておいても損はしないのではないでしょうか。主催者側もその辺をよく理解しているのか、三井記念美、そしてこの三越本館、さらには道路を挟んで向かい側にある奈良まほろば館の三箇所を巡ると、入江の写真のミニクリアファイルが進呈されるというスタンプラリーも開催されていました。

それにしても彼の写真を通した仏様には強い意志と、人の本性を見透かす心の存在が感じられてなりません。

20日まで開催されています。(スタンプラリーも20日で終了します。)

*関連エントリ
「奈良の古寺と仏像 會津八一のうたにのせて」 三井記念美術館
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「奈良の古寺と仏像 會津八一のうたにのせて」 三井記念美術館

三井記念美術館中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階)
「奈良の古寺と仏像 會津八一のうたにのせて」
7/7-9/20



平城遷都1300年を祝し、奈良の古寺の仏像群を展観します。三井記念美術館で開催中の「奈良の古寺と仏像 會津八一のうたにのせて」へ行ってきました。

巡回先の新潟では盛況が伝えられたものの、いわば外野方面で物議を醸した展覧会でしたが、ここ三井では何事もなかったように奈良の仏さまがお出ましになられています。本展に出品の寺院は以下の通りでした。

秋篠寺、岡寺、元興寺、興福寺、西大寺、正暦寺、新薬師寺、大安寺、當麻寺、當麻寺奥院、橘寺、唐招提寺、東大寺、能満院、長谷寺、般若寺、法隆寺、法起寺、室生寺、薬師寺(計20寺院)

奈良を何度か旅しても、そう簡単にこれだけのお寺を廻ることなど出来ません。古くは飛鳥時代より鎌倉期まで、国宝2点を含む総勢46体の仏像がずらりと揃う様子はさすがに壮観でした。 (会場風景は展覧会ブログに掲載されています。)

「菩薩立像」(飛鳥時代・法隆寺)

冒頭、普段茶碗などを紹介する三井ご自慢の立体展示室に鎮座するのは、主に飛鳥から奈良時代にかけての小さな金剛仏です。実のところ私は仏像のなかで、どこかエキゾチックな顔立ちをした飛鳥仏が一番好きですが、特に馬子のためにつくられたという「釈迦如来及び脇侍像(戊子年銘)」(飛鳥時代・法隆寺)をまさに手に取れるような位置で眺められること自体でも興奮してしまいました。それにしてもこの仏像、キャプションにも記載があったように法隆寺金堂の釈迦三尊像に良く似ています。まるで親子でした。

「五劫思惟阿弥陀如来坐像」(鎌倉時代・東大寺)

さて中央の第4展示室へ進むと今度はお寺別に様々な仏像が紹介されています。どこか挑発的な仕草で宝剣を構える「四天王立像(持国天)」(鎌倉時代・東大寺)などにも見入るところですが、ともかく異彩を放っていたのは同じく東大寺の「五劫思惟阿弥陀如来坐像」(鎌倉時代)でした。この仏像は阿弥陀仏の前身の菩薩が修行している姿を象ったものですが、それにしても頭部を覆う巨大な地髪の表現には思わず仰け反ってしまいます。なおこの長い髪は修行の長さを表しているのだそうです。目に焼き付きました。

「釈迦如来坐像」(平安時代・室生寺)

仏教工芸品などの並ぶ小展示室を経由すると、ちらし表紙にも掲載された「夢違観音」も登場する本展のハイライトが待ち構えています。ここで一番注目が集まっていたのは「釈迦如来坐像」(平安時代・室生寺)でした。なおこの仏像、仏教美術にお詳しい一村雨さんによれば、現地へ出向いてもこうした明るい場所ではっきりと拝むことが出来ないものだそうです。隆々たる着衣の紋様の他、どっしりとした体躯には威厳を感じましたが、こちらは展示期間が7月25日までと限られています。お見逃しなきようご注意下さい。

「観音菩薩立像(夢違観音)」(奈良時代・法隆寺)

三井で仏像展というとやや手狭になるのではないかとも思いましたが、実際には小像メインのためにちょうど良い広さに感じられました。全てガラスケースの中に納められていますが、先程も触れたように非常に近い距離で仏像を楽しむことができます。

最近何かと人気の仏像の展覧会です。私が出掛けた先日の日曜こそまだ余裕がありましたが、ひょっとすると後半に進むにつれて混雑してくるかもしれません。美術館一階のエレベーターには係員が配置されるなど、混雑時の誘導対策と思われる準備もなされていました。 (7月18日にはNHKの日曜美術館でも関連の番組が放送されます。)



なおその一階、アトリウムではミニ写真展、「仏像写真家 小川晴暘没後50周年写真展 祈りのかたち」が今月25日まで開催中です。また日本橋三越1階ホールでも、同じく奈良の仏像を写した入江泰吉の写真展が20日まで開催されています。隣の建物でもあるので少し足を伸ばしても良いかもしれません。(仏像写真展にも登場する中宮寺の「菩薩半跏像」は東京会場には出品されません。 )

ところで展覧会タイトルにもある會津八一についてですが、茶室の如庵に関連の品が若干並ぶ他、各仏像のケースの横などの目立たない場所に彼の詩作が紹介されていました。「會津八一にのせて」とありますが、「~を添えて」としても差し支えないかもしれません。こちらは実に控えめでした。 (逆に會津目当てなら物足りないかもしれません。)

展示替えが一部あります。詳しくは出品リストをご参照下さい。

いくつかの仏像を見て、夏の暑い日にJR駅から法隆寺を経由して法起寺まで延々と斑鳩界隈を歩いたことや、明日香をレンタサイクルで走り回り、岡寺前の急坂に驚いたことを思い出しました。まだ行ったことのないお寺も多いので、いつかは今回挙げられた全ての場所を訪ねたいと思います。

本展の記者懇談会に参加された「アトリエ・リュス」のキリルさんが、ブログに展示の見どころをまとめられています。こちらも必見です。

「奈良の古寺と仏像」展のみどころ@アトリエ・リュス

9月20日まで開催されています。また東京展終了後、一部内容を変えて奈良県立美術館へと巡回(11/20~12/19)します。
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