当時の注目度で言えば最も低く、扱う記事も野球の技術に関する事ではなく荒木や畠山の添え物程度だった斎藤が勝ち頭となるのですから勝負事は分からないです
荒木大輔(ヤクルト)…1月15日、57人の選手の中に混じってランニングする荒木の姿を見つけるのは一苦労だ。高校生としては大きい方だった180cm、76kgの体格も先輩プロ選手の中に混じると目立たない。「学生服を着ていた時は大きく感じたけどなぁ、ユニフォームの上から見ても筋肉を感じさせるくらいにならなくちゃね。今日は荒木を探すのに必死だったよ」と視察に訪れていた武上監督。早実時代は大会前くらいしかする事がなかったマッサージを普段の練習後に行う事に感心しきりで「あらためてプロに入ったんだなぁと実感しました」と初日の感想を述べる表情はまだあどけない。
さっそくプロとのスピードの差に戸惑う場面があった。マシンを使ってバント練習をしていた時、球が速くて上手く打球の勢いを殺す事が出来ない。さらにカーブを投げられると3球連続でバットに当てられず苦笑い。「高校ではソコソコの位置に転がせばOKでしたがプロでは決められた位置じゃないとダメですから大変です。やっぱりスピードは違いますね」と当惑は隠せない。
だが、ひとたびマウンドに立つと評価は一変。1月20日に初ピッチング、とは言ってもキャッチボールに毛が生えた程度で30球ほどだったが「超Aクラス。高校生としたらやはり一級品。怪我さえしなければオープン戦で投げさせてみたい」と武上監督以下首脳陣の評価は高まった。また1月21日には国立長野病院・吉松俊一副医院長の指導の下で体力テストが実施され、各数値は跳び抜けたものではかかったがバランスの良さが評価された。「去年の夏の予選前は背筋が180kgを超えていたのに今日は150kgちょっと…。身体は正直ですね、少しサボるとすぐ落ちる。これからは毎日鍛えます」と意欲的な姿勢を見せた。
高卒新人としては異例の後援会が発足した。それも名誉顧問に地元調布市長を据えて調布在住の名士がズラリと名を連ねる「調布ロータリークラブ」が中心となる会というから恐れ入る。毎日恒例となった練習後の共同記者会見は球団の広報担当者が目を光らせ腫れ物に触るような質問ばかりで、まるで宮様のようだと口さがない記者連中が名付けたアダ名は「調布宮深大寺親王」…何はともあれ先ずは順調なプロ生活のスタートを切った「荒木宮様」の今後に注目だ。 【 39勝49敗2S 防御率 4.80 】
畠山 準(南海)…自主トレ初日の1月15日、首脳陣や多くの報道陣の前にはランニングをする畠山の姿があった。「いい走り方をしている。センスを感じるね」と上々の評価はメニューが柔軟体操になるや腹筋や背筋の脆弱さが露呈され一変した。「キツかった。もうダメです。明日?ついて行く自信は有りません…」と息も絶え絶えにグランドに倒れこんだ。全ては自覚の無さが原因だった。昨年の入団発表の際に自主トレまでの間にやる練習メニューをトレーナーから渡されていたが、一目見てメニューの多さにやる気を失い「こんなの出来るわけないと思って1日3kmを走るだけでした。自分の甘さを反省しています」
「畠山く~ん、頑張ってェ」自主トレを行なっている中モズ球場に若い女の子たちの声が響き渡る。その数ざっと300人。「さすが人気が有るね。この先もっと人数が増えるようだと警備の方も考えないと、ウチでは久しく無かった珍しい事ですよ」と球団関係者もニンマリ。畠山本人は「別に気にはなりませんが時には嫌になる事も。練習中に大声で名前を呼ばれたりするのはちょっと…」少し戸惑い気味。慣れない衆人環視のせいなのか極度の緊張感と厳しいプロの練習に遂に身体が音を上げ発熱してリタイア第1号の憂き目に。
「頭がボーとして身体がだるいんです。ここ何年も風邪なんか引いた事なかったのに…やっぱり疲れているんですかね、最近は寝ていても途中で目が覚めてしまって。こんなの初めてです」 折悪しくちょうど大阪へ来ていた両親から御小言を頂戴する事に。父・匠さんは「プロなら資本である身体を管理する事は最低限の事。まだまだ子供」と一喝。母・ツミ子さんに至っては「一緒に家に帰ろうか?お母さんが看病してあげるわよ」と畠山が赤面するような事をワザと大勢の前で言って自覚を促した。これには畠山も「もう分かったから帰ってくれよ」とタジタジ。
合宿の食事も喉を通らないほど環境の変化に戸惑ったのも事実。卒業試験の為に1月21日に徳島へ戻った。その際にトレーナーから練習メニューを渡されると「今度はちゃんとやります」とキッパリ。同じ高卒ルーキーのヤクルト・荒木や阪急・榎田が既に投球練習を始めて上々の評価を受けても「アッそうですか。でも今の自分には関係ありません。他人の事を気にするほど今は余裕ないんです。でもね僕だって『阿波の怪童』と呼ばれたプライドが有りますからキャンプインまでには皆に追いつきますよ、いや追い抜いてやりますよ」と本音をチラリ。
【 6勝18敗 防御率 4.74 / 483安打 57本塁打 打率 .255 】
斎藤雅樹(巨人)…1月17日から始まった巨人の自主トレに注目のドラフト1位・斎藤の姿もある。当初は学校の授業がない日だけ参加する予定だったが「みんな目の色を変えてやっている。僕だけ休む訳にはいかない」と学校の許可を得て毎日参加している。ドラフト1位と言っても、いざ練習が始まると注目が集まるのは岡本(松下電器)と橋本(富士重工)の即戦力ルーキーの2人。身体つきからさすがに高校生とは違い出来上がっている。しかも2人はグアムキャンプ参加が決まり既にユニフォーム姿を披露しトレパン姿の斎藤との差は歴然。「羨ましいですけど仕方ないです。でもグアムに行けるなんて最初から思ってなかったですから」と落胆する様子は微塵もない。
新人組が中心の「三軍」で一番の人気者なのが斎藤だ。いつもニコニコ顔で「あの野郎は怒られても萎縮する事なくニコニコ笑っているから、こっちもそれ以上怒る気が無くなっちゃうよ」と杉山コーチも苦笑い。ブラジル体操をすれば間違える、持久走をやらせれば周回遅れで「アイツはボンボンだから闘争心が欠けてるんだよ。負けたくない、一人でも多く抜いてやろうという気が無いんだ。でも案外大物かもな」と国松二軍監督。
とある日の練習後、ベンチ内でOBの千葉茂氏と談笑していた須藤コーチが通りかかった斎藤を呼び止め「オイ斎藤、この人を知っているか?」と問いかけても斎藤は「???」 千葉氏と言えば川上哲治元監督と同期の重鎮なのだが斎藤はキョトン。「ウチの大OBで昭和20年代の名二塁手だ、よく憶えとけ!」と一喝されても「そんな事を聞かれても分かりませんよ。僕は生まれてないですもん」と涼しい顔。ドラフト後に「背番号は30番か18番がいい」と豪快に言い放った愉快なキャラクターの持ち主でもある。憧れの巨人のユニフォームに袖を通して失敗を繰り返しながらも徐々にプロの水に馴染んでいっている。 【 180勝 96敗 11S 防御率 2.77 】
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