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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 665 ニュースター ②

2020年12月09日 | 1977 年 



梶間健一(ヤクルト):安田も真っ青の " 人喰い投法 "
サッシー人気で沸くヤクルトだがその酒井投手を実力で喰ってしまいそうな投手が首脳陣を喜ばせている。それが梶間投手。とにかく人を喰った投球が頼もしい。14日の紅白戦で先頭の永尾選手から九番目のマニエル選手までヤクルトの強力打線を僅か33球で仕留めた。それも殆どの打者がボテボテの打球で、良い当たりと言えるのはマニエルの中飛くらいだった。174㌢・71㌔の細身の左腕からオーバースローあり、サイドスローあり、果てはアンダースローありの安田投手顔負けの変幻自在の投球だった。ストレートはナチュラルに変化するしカーブ、シュートも投げ方によって球速が違う。クリーンアップも赤子の手をひねるが如き快投に完敗だった。

三番・若松選手はフルカウントから低目に落ちるシュートを打ちあげて右飛。四番・大杉選手は初球のシュートを引っかけて投ゴロ。五番・槌田選手はカウント1-2からのカーブで三ゴロに倒れた。また三塁のレギュラー争い中の伊勢選手はフルカウントからカーブを空振り三振。プロのベテラン選手が梶間の球をまともに芯で捉えられないのだ。ピッチング同様にコメントもまた人を喰っている。殺到する報道陣を前に梶間は「まぁ普通の出来でした。腰と足がパンパンに張っていてコンディションは最悪でしたけど何とか抑えられました」と涼しい顔で言ってのけた。

梶間は茨城県の鉾田一高から日本鋼管に入社し6年間サラリーマン生活を送った。月給は13万円ほどで慎ましく暮らしてきたが、ドラフト2位指名され契約金2500万円・年俸240万円でプロ入りを果たした。人気の酒井に目が行きがちだが梶間の実績も凄い。都市対抗野球の決勝戦で優勝投手となったり、中南米のコロンビアで開催された第1回アマチュア野球世界選手権大会に出場し世界最強と謳われていたキューバを相手に快投を見せるなど、いわば社会人野球を代表する投手なのだ。

茨城県人は土性骨が座っていると評される。この " 水戸っぽ " の活躍を同郷の豊田泰光は「俺は自主トレの頃から梶間はやれると言ってきた。ヤツの顔つき、目つきを見れば分かる。茨城の人間は根性が座っているんだよ」と自分のことのように喜ぶ。この発言は同郷人の贔屓だけではなさそうだ。普段から慎重で、特に自チームに関しては滅多に褒めない広岡監督も思わず「これは本物だ。自分の球に自信を持っている。投球のツボを心得た投手だ」と称賛した。いわば一軍当確を認めたと同じで、現時点では酒井を大きくリードしている。

それを裏付けるようにヤクルトナインの梶間評も高い。「ピッチングのコツを知っている。特にシュートの使い方が抜群。左打者相手にシュートを投げる左腕投手は少ないが梶間は同じシュートでも落としたり、食い込ませたりと自在に操る。球のキレは安田以上(若松)」「永淵が入って来た時に似てるけどそれ以上だな。シュートは武器になる。守備も牽制も上手い。いい投手が入団したね(大杉)」「完成された投手と言っていい。あとは他球団の対戦相手打者の癖を教えるだけ(大矢)」と絶賛するが当の本人は「僕の武器?さぁ何ですかね。心臓かな(梶間)」と相変わらず人を喰ったコメント。一気に新人王レースの先頭に躍り出た。


石原修治(近鉄):甘いマスクで豪打連発の掛布二世
新人の育成が上手い近鉄に掛布選手(阪神)以上と評判のルーキーが現れた。その名は石原修治。西本監督が昼休みに報道陣向けの特打ちに指名したのが石原だ。とにかく鋭いライナーが左翼線いっぱいに目盛りで測ったように伸びて行く。阪神でヘッドコーチだった岡本伊三美氏が思わず感嘆の声をあげた。「凄い。低目にストンと落ちる球をあれだけ見事に芯で捉えるバッティングはレギュラークラスでも真似できない。掛布というより大洋の松原みたいだ」と西本監督に話しかけた。すると西本監督は「せやろ。松原そっくりやろ。楽しみな奴がまた増えたわ」とニンマリ。

182㌢・78㌔の均整の取れた体格。出身は掛布と同じ千葉県で我孫子高卒のドラフト2位指名ルーキー。掛布は父親・泰治さんの猛練習に鍛えられたが、石原は母親・久子さんが内職して稼いだお金でグローブやバットを買ってもらい練習に励んだ。「夢は大きい方が良いからでっかくホームラン王です。同じ千葉県生まれの掛布さんが目標です(石原)」。掛布が4年前に入団した当時の阪神は三塁手が固定されておらず人材不足に困っていた事もあって掛布に出場の機会が与えられた幸運もあった。それと同じく今の近鉄も内野手不足に悩んでいる。ヤクルトから益川をトレードで獲得したが攻守ともに今一つで石原にもチャンスはある。

なにしろ高校時代に飛距離160㍍の本塁打を放ったというから桁外れのパワーの持ち主だ。160㍍は怪童・中西太が西鉄時代に放った161㍍に匹敵する飛距離だ。しかも石原には甘いマスクの売りもある。「ウチにはコーちゃん(太田)やコーヘイ(島本)といった若い女性に人気のハンサムがいるが、石原も彼らに負けない二枚目。2~3年後には球界を代表する人気選手になるかもよ」と西本監督が言うほど都会的で整った顔をしているので、打ちさえすれば目標としている掛布を凌駕するくらいの人気者になるのは目に見えている。

我孫子高時代は地方予選で掛布の母校でもある習志野高に敗れて甲子園出場は成らなかった。なので中央球界では無名だが、主将で四番を務めた実力派。1日でも早く一軍で活躍する姿を見たいが課題は実戦で結果を残せるのかだ。打撃に関しては「味方同士の紅白戦では一応の結果は出せたが、他球団とのオープン戦ではどうか。対戦する相手投手も生き残りに必死で攻め方も厳しくなるだろうから真価を問われることになる」と西本監督。また守備が一軍に残れるかどうかのポイントでもある。足は速い方だがフィールディングやサインプレーのフォーメーションを直ぐに覚えるのは高卒新人には厳しい。開幕一軍には高いハードルが待ち構えている。


立花義家(クラウン):張本育ての親が太鼓判の大物
張本二世と折り紙を付けられたのはクラウンのドラフト1位指名ルーキーの立花選手。180㌢・76㌔の左打ち。柳川商からプロ入りしたばかりの若者に「私の知る限り張本に匹敵する逸材」と惚れ込んだのがキャンプで臨時コーチを務める松木謙治郎氏だ。なにしろ松木は自他共に認める張本の育ての親で決してハッタリを言う人物ではないから本心であるのは間違いない。松木はキャンプイン早々にフリーバッティングをする立花を一目見るなり「こいつは大物になる。是非とも1年くらいかけてじっくり育てて欲しい」と言い放った。ところで立花に惚れ込んだのは松木だけではない。あの青木一三氏だ。

青木はクラウンでスカウト担当でありながら球団重役をも務める球界の重鎮。選手の潜在能力を見る眼力に長けていて幾つもの球団からその能力を乞われて吉田義男や村田兆治、有藤道世などを見出した。「だから言ったでしょ。今年のルーキーで立花以上の打者は見当たらないと。これでも選手を見る目だけは確かなつもりだよ。マスコミは契約金(2300万円)が高すぎると批判したけど今に見ていろと思っていたんだ。あ~いい気分だ(青木)」と留飲を下げた。とは言うものの立花の評価は松木の発言があるまで低かったのは事実。キャンプ初日のフリーバッティングで派手な空振りを披露するなど、前評判ほどではないという意見が多数だった。

松木発言で評価が一変したが、世の中にはヘソ曲がりは必ずいるもので「あれは松木さんのお世辞がかなり入っている。そんなに大物なら1年じっくりなんて言わず直ぐに一軍で使えばいいじゃないですか。背番号も『1』が空いているのに『34』でしょ、球団が本気で大物だと考えているなら躊躇なく『1』を背負わせた筈です」と地元紙の中堅記者は言う。そう言われてみれば高校時代に流し打ちで本塁打を放ったという長打力も未だに披露しておらず、前出の地元紙記者の「今の力量ではプロの球を打てないのでは」という指摘もあながち的外れな意見だとは言えない。

そうした意見に対して松木は「そりゃそうだよ、まだ子供だからね」とあっさり認めた。なにやら雲行きが怪しくなってきたが、では " 張本に匹敵する " はどこから出たのか尋ねると「いやね、張本君が昭和34年に浪商からプロ入りしてきた時は馬力はあったが直ぐに一軍で通用するような打撃技術はなかった。それでも大川オーナーに『何としても開幕に間に合わせろ』と命令されてマンツーマンで特訓した。その時の張本君と比べたら立花君の方が技術的には優っているということ。あとは体力さえつければ良いのだから簡単でしょ。だから張本君といい勝負だなと思ったのさ」と。

つまりは打撃センスは天性のモノで練習しても誰もが会得するとは限らないが立花は既に身につけている。あとはシーズンを乗り切る体力さえつけば充分に張本二世になれるというわけだ。ところで肝心の立花の思いはというと「中日の谷沢さんや阪急の加藤さんのような打者が目標(立花)」だそうで " 張本さん " は眼中にないらしい。また青木はシーズン中も機会を見つけて松木に立花を指導してもらう予定だという。球団としてもアドバルーンを揚げた以上、何としても立花を張本二世に育てなくては。頼みますよ、松木さん。


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