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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

#253 逆指名 

2013年01月16日 | 1981 年 



物怖じしない現代っ子と言ってしまえばそれまでだが、昨今の逆指名の流行に拍車をかけたのが去年のドラフト結果だろう。原、石毛、竹本ら実力派揃いで「10年に一度の選手」を獲り合うと思われたが原は4球団、石毛と竹本は2球団と競合数は予想を下回った。当初は原に入札するのは8球団と言われていたが「逆指名」宣言が効いたのか撤退する球団が相次ぎ意中の巨人が当たりクジを引いた。石毛もプリンスホテルと西武の繋がりを前に他選手に乗り換えた球団が多かった。こうした先輩たちの戦術を使わない手はないと今年も逆指名は大流行なのだ。ただし今年はこれまでの巨人一辺倒から少々趣きが変わってきた。社会人投手は津田(協和発酵)、右田(電電九州)、田中(電電関東)らが人気なのだが彼らは巨人を意中の球団とはしていない。

「会社は僕が行きたい球団なら"仕方ないだろう"と送り出してくれますが、意中の球団以外なら会社に残って構わないと言われています。行きたいのは広島か阪神です。巨人?僕は天下の原さん相手に投げたい(津田)」つまり広島・阪神以外の球団が交渉権を得ても1位指名枠が無駄になると宣言した。右田も「もしも1位で指名してくれたらプロへ行きたいと思います。最下位のチームはやり甲斐がありますねぇ」と大洋を逆指名。「僕は何となくパ・リーグの方が向いていると思うんです。関東で育った人間だから西武か日ハムならプロでやってみたい」と最近のパ・リーグ人気が反映しているのか田中はパ派だ。彼らに共通しているのは「即一軍」だ。巨人投手陣の顔ぶれを見たら新人が割り込む余地が無いのは明白で、今の若いアマチュア選手はしっかりしている。人気よりもまずは一軍の試合に出る事を優先する選択は間違っていない。

逆指名の流れは高校生にも広がっている。人気・実力 No,1の金村(報徳学園)は週刊誌でその言動が面白おかしく取り上げられて以来マスコミ対応は両親が担っていてスカウトに会うのも両親なのだが、その対応を見れば金村本人の心中は推し量れる。阪急と近鉄とは3時間以上も話をするが、それ以外の球団は1時間もすると席を立つ。プロ入りすれば三塁手転向が噂される金村だが向こう10年は不動の原がいる巨人に隙いる余地は無い。センバツ準優勝キャプテンの月山(印旛)は「プロでやる以上は試合に出られないとお金にならない。出場出来るチャンスのある球団じゃないとね」と捕手の手薄な阪神・阪急・ロッテ・西武を逆指名する一方で、意中以外の球団に指名された場合は大学進学する両天秤作戦を決行中で毎晩猛勉強。こうした両天秤をしている選手は多く「巨人か在京セ以外は熊谷組へ(名電高・工藤)」「パ・リーグだったら本田技研鈴鹿(都城商・加藤)」「セ・リーグ以外なら進学(大府・槙原、榛原・片瀬)」「中日以外なら国鉄名古屋(名電高・中村、山本)」と逆指名が花盛りだ。

「まったく嫌な世の中になったね。困った流行だよ」と渋い表情なのがロッテ・三宅スカウト部長だ。ロッテはあまりアマチュア選手に好かれていなくて入団拒否も少なくない。しかも今年は山内前監督の後任が未だに決まらず補強方針も定まっていない。パ・リーグ贔屓の田中(電電関東)でさえロッテは意中球団に入っていない。実は田中はある人物を通じてロッテ・福田コーチとは顔見知りの間柄だという。その福田コーチも山内監督に殉じて退団する見込みだと言うから泣きっ面に蜂だ。「逆指名は今に始まった事ではないんだ。昔から事前交渉の段階で"お宅は遠慮して下さい"と言われる事はあった。これまでは内々で駆け引きをしていたのが最近の子はハッキリ自己主張をする、マスコミを使って我々に牽制球を投げているんだ。時代だよ」と三宅スカウトは半ば諦め顔だ。

一方で大人しいのが大学生だ。東都のサブマリン・宮本(亜大)は「僕なんか指名してくれる球団は有るんですかね?指名してもらえるだけでありがたくて好みなんて言っていられません」と殊勝だ。首都の速球王・井辺(東海大)も「どこでもいい。プロは入ってからが勝負、チームはこだわりません」とこちらも12球団OKだ。野手では「指名されたら考える。希望球団は無い(明大・松井)」「第一希望は中日だけど在京セ・リーグならOK(中大・尾上)」 六大学の盗塁記録を更新した慶大・小林も「条件さえ揃ったらプロでやってみたい」といずれも門戸は広い。明大・島岡監督の「就職口は幾らでもある。大した評価をしていない球団にわざわざ行く必要はない」に代表されるように大学生は球団よりも「評価」を重視しているのが共通でプロ野球を就職口の一つと見ている。

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