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買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 717 老いの一徹 ③

2021年12月08日 | 1977 年 



" 野球は苦労 " と悟った名手の復活秘話
二塁手としてパ・リーグを代表するプレーヤーだった基満男選手。昨季は不本意な1年で、オフにはトレード騒ぎに巻き込まれて散々な目に遭った。過去10シーズン、基の野球人生は山あり谷ありだった。だが元々が天分に恵まれていた基は自分の才能の範囲内で比較的楽にそれらを乗り越えてきた。しかし昨季はそうはいかなかったようで長い野球人生で初めてぶつかった心身の壁に跳ね返されて「野球いうもんは苦労しながらやるもんや」と悟りの境地に辿り着いた。彗星の如く現れた吉岡選手の活躍で入団以来10年間守り続けてきた二塁手のレギュラーを明け渡した基は、72試合出場・ 226打数・53安打・打率 .235 ・5本塁打に終わった。

後期シーズンは調子が上向き、復調なるかと思われたが吉岡を追いやるまでは至らなかった。吉岡は最後まで打ち続けて、打率.309 で首位打者のタイトルを獲得した。「そりゃあ打てない自分のせいですよ。でも監督も冷たいよね。使いもしないで打てないと決めつけて控えにするんですから。信頼されていないならセ・リーグに出してもらうしかないでしょう」と悔しさと自分の不甲斐なさにそんな心境を吐露したのは昨年の8月末だった。自ら二軍落ちを希望し再起を図っている最中の首脳陣批判に対して球団は「そんなに言うならセ・リーグに行ってもらおうじゃないか」と売られた喧嘩を買うことになった。

だが中日との間で内定していた藤波選手との交換トレードはライオンズ入りを拒否した藤波のゴネ得で御破算になり、基はライオンズに残留となった。その時の心境を基はこう話している。「何だか馬鹿にされたというか、晒し者になった気分で悔しさがありましたね。彼(藤波)は残留で満足かもしれんが俺はどうなるんだって話だよ。球団のフロント陣とヒザ詰めで長々と話し合ったアレは何だったのか。最終的には監督に直談判して『調子の良い選手を使う』という確約を得られて和解できた。色々あったけど例えどんなことがあろうと、やらんといかんということに落ち着いたわけですわ」と。


オレはやはりライオンズの男だ
この男には人並み以上のプライドがある。174 cm 足らずの、プロとしては小柄な身体で10年間も二塁のポジションを死守し、リーグでも山崎(ロッテ)と一・二を争う名手だと自他ともに認める選手だ。吉岡にポジションを追われた後でも「二塁手としては俺の方が上だという自信はある。でも吉岡は二塁しか出来ないし、俺は他を守れるからということで二塁を明け渡す結果になったと思う(基)」と言っていた。基の言葉にはこれまで名手として通してきた者のみが持つ自信の重みが感じられた。ところが身から出た錆とはいえ、シーズン終了と同時にトレードの渦中に身を置かれる羽目になった。

テスト生で入団して家庭を持ち、子を成し、親しいファンに囲まれてきた福岡を去ることは自ら求めた事とはいえ基にとって不本意だったことに違いはなかった。それがトレード話が進行中に基自身にはっきり分かった。「俺はやっぱりライオンズの選手でないといかんな、と何度も言っていました。中日に決まったと知らされた時は『俺がいなくてもライオンズは大丈夫だろうか』と本気で心配していました」と佳代子夫人。つまりはライオンズを出たいというのは本心ではなく、可愛さ余って憎さ百倍というライオンズへの愛情の裏返しだったのだ。そしてトレード話が御破算になって改めて福岡を去るのは本意ではないと気づかされた。

ライオンズ残留が決まった基は心機一転トレーニングを再開した。福岡市内のトレーニングジムに通い、自宅周辺を走った。「本人は照れ屋だから皆さんの前では難しいことばかり話していますけど、根は一途な真面目人間だし私なんかが心配しようものなら『野球のことは俺一人が考えればいいんだ』と𠮟られます」と佳代子夫人。自主トレ、キャンプ、オープン戦と今年の基は目の色が違っていた。二塁に固執することが無くなり、遊撃や三塁の練習にも加わった。「ショートはセカンドやサードよりスローイングの距離が長いから大変だろうと思っていたけど、実際にやってみると泡を喰うほどじゃない。思い込みは禁物だね(基)」と笑顔で話す余裕も出てきた。

しかし基が今季記録した失策は殆どが送球ミス。やはり距離感が克服されていない証拠だろうが基は「上手くやっている方ですよ。素人に毛が生えた程度の俺にしては上出来です」と苦笑いする。また打撃フォームも今季から変えた。これまでの " 杭打ちスタイル " のダウンスイングからレベルスイングにしたことで流し打ちがスムーズに出来るようになった。好きだった麻雀も封印して夜は気づいたことをノートに記録する作業に没頭している。そんな基に鬼頭監督は「基の潜在能力はこんなもんじゃない。私は満足していませんよ」と貪欲だが、確かに今季の基にはそれを求められるだけの余力はありそうだ。

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