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買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 723 沢村栄治 vs 全米オールスター軍

2022年01月19日 | 1977 年 



昭和9年11月20日、静岡・草薙球場で行われた日米野球第10戦は伝説の試合となった。

全日本軍 0 0 0 0 0 0 0 0 0  0
全米軍  0 0 0 0 0 0 1 0 ✖   1


沢村投手が名捕手・久慈選手のリードに安心しきって無我の境地で投球したことは、四死球「1」の記録が表している。全米軍の二番打者から六番打者の5人が後に野球殿堂入りする名選手に対して1つの四球も呈上しなかったことは相手打者に臆して逃げたりしない " 名投手・沢村栄治 " の称号に恥じない見事な投球だった。一方の全日本軍も昭和9年度における優秀選手を網羅していた。二出川、苅田、水原、久慈、沢村の5人が野球殿堂入りする選手であったことで証明できよう。

1回表:二出川・三振、矢島・四球、苅田・三ゴロ、夫馬・投ゴロ
1回裏:マクネアー・左飛球、グリンジャー・三振、ルース・三振
全日本軍の市岡総監督が「沢村のカーブはグググッと三段になって落ちてくる」と表現したがその通りであった。見事な投球だった。京都商時代からの立ち上がりが悪い癖は見られなかった。名捕手の久慈の好リードの賜物であろう。


2回表:山下・三振、水原・三振、久慈・三振
2回裏:ゲーリック・三振、フォックス・三振、エヴィレル・二ゴロ
ホワイトヒル投手は全米軍では主戦級ではないが全日本軍が誇る主軸を三者三振に抑えた。それにしても若き天才投手・沢村の投球はホワイトヒルを凌ぐものであった。大リーグの現役投手でもグリンジャー、ルース、ゲーリック、フォックスら超一流打者を四者連続三振に抑えるのは至難の業であろう。しかも彼ら4人は調子を落としていたわけではなく、前の試合では計5本塁打を放つなど絶好調だった。


3回表:新富・遊ゴロ、沢村・三ゴロ失、二出川・三振、矢島・一二間安打、苅田・遊ゴロ
3回裏:ミラー・右飛、ヘイズ・三振、ホワイトヒル・三振

4回表:夫馬・三振、山下・捕飛、水原・遊ゴロ
4回裏:マクネアー・遊ゴロ、ゲリンジャー・二ゴロ、ルース・中前打、ゲーリック・二ゴロ

5回表:久慈・三ゴロ、新富・二飛球、沢村・三振
5回裏:フォックス・三振、エヴィレル・中飛、ミラー・左飛

6回表:二出川・二ゴロ、矢島・中前打、苅田・遊ゴロ併殺
6回裏:ヘイズ・投ゴロ、ホワイトヒル・四球、マクネアー・左前安打、ゲリンジャー・左飛球、ホワイトヒル・三盗失敗

7回表:夫馬・四球、山下・犠打、水原・右飛、久慈・四球、新富・投ゴロ

水原の後日談では「僕が打った右飛は低く右翼線に向かって飛んで『ヒットだ。1点取れる』と思ったら捕球されてしまった。ライトのミラーがライン際に守備位置を変えていたんだな。もしもだよ、もしも得点していたらアメリカの選手も焦っただろうし、沢村の調子だったら完封していたかもしれない。一生忘れられない一打だった」と。

7回裏:ルース・投ゴロ、ゲーリック・右本塁打、フォックス・中前打、エヴィレル・一二間安打、ミラー・遊ゴロ併殺
ルースをカーブで当たり損ねのゴロで仕留めたので捕手の久慈は試合前の組み立て通り決め球はカーブでと再確認したのではないか。ただ沢村がゲーリックに投じたカーブが高めに浮いたしまったのは誤算だった。沢村に疲れが見え始めて思い切って直球勝負するにはスピードが落ちていると久慈が感じていたのかもしれない。

8回表:沢村・三振振り逃げ、堀尾・犠打、矢島・右飛、苅田・二飛
8回裏:ヘイズ・三振、ホワイトヒル・三振、マクネアー・遊ゴロ失、ゲリンジャー・中飛
沢村が大投手である証明がこの8回裏の投球である。ゲーリックの本塁打後に連打を許したが後続を抑えて追加点を防いだ7回裏に続いて8回裏も気持ちを入れ替えて押せ押せの全米軍から2奪三振した投球は既に大投手の風格そのものだった。

9回表:杉田屋・遊ゴロ、井野川・左前安打、水原・二ゴロ併殺 ・・・試合終了


その夜、蒲郡ホテルで全米軍監督のコニー・マックから全日本軍の通訳をしていた鈴木惣太郎は「沢村にその気があれば契約するよ」と打ち明けられたという。沢村は17歳にして日本一の投手と認められた。草薙球場を埋め尽くした2万人のファンもマック監督同様に沢村が日本一の投手だと思ったに違いない。沢村の快投は超一流選手揃いの全米軍にも大きな影響を与えた。2日後の22日に名古屋の鳴海球場で行われた第11戦に全米軍は沢村ショックが尾を引き大苦戦を強いられ、6対5と辛勝だった。

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