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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 441 電撃トレード ②

2016年08月24日 | 1985 年 



あの日(1月24日)は朝7時半頃、知人からの電話で起こされたんです。一部スポーツ紙の『田尾西武へ移籍』の問い合わせでした。球団から事前に何も告げられておらず、この手の話は珍しくなかったので「またか」と言うのが正直な気持ちでした。朝食を済ませて合同自主トレに参加する為に午前10時頃に家を出ました。ナゴヤ球場入りして直ぐに鈴木球団代表と会い記事の真偽を問いましたが鈴木代表は「今朝のアレは根も葉もない噂だから心配しないでくれ」と答えました。だから周りの喧騒を気にする事なくトレーニングを続けました。午後1時過ぎになって突然鈴木代表に監督室に呼び出されました。てっきり「トレード話はない」旨を正式に伝えられるものと思っていましたが、鈴木代表の口から「西武とのトレードが決まったから行ってくれたまえ」とほんの数時間前とは正反対の事を言われました。

僕と鈴木代表との間にギクシャクしたものがあるのは事実ですが巷間伝えられている内容は少し違います。世間では数年前に鈴木代表が「頑張らんと給料は上がらんよ」と言い、僕が「あなたには関係ない」と言い返して関係が悪化したとされていますが違います。あれは4年前、スランプで苦しんでいた時の事。頭の中は野球の事で一杯で精神的に追いつめられてピリピリしていました。そんな緊張感がピークに達していたある試合前に鈴木代表が近寄って来て「今のままだと給料をさげるぞ」と言ったのです。僕はカチンときて「試合前の大事な時に何を言うのですか」と言い返したんです。僕もプロですから給料は多いに越した事はないですがシーズン中はお金の事を考えてプレーはしていません。目の前の試合の事を考えるので精一杯なんです。ちょっとしたボタンの掛け違いが現在まで続いてしまったのでした。

ですので鈴木代表の「西武に行ってくれたまえ」の一言にこれまでの様々な事が頭をよぎり一瞬、カッーとなりましたが直ぐに冷静さを取り戻し「分かりました」と承諾しました。今回のトレードに関する報道で残念に思ったのは僕がお金でゴネてトレードに出されたと書かれた事です。プロ野球選手にトレードは付き物です。僕自身も大リーグのようにビジネスと割り切ってお互いの球団にプラスとなるトレードをどんどんやるべき、と思っていました。ですから僕には「出された中日を見返してやる」といった気持ちは全くありません。結果として好成績を残す事が出来れば良いと考えています。幸いな事に僕は今、野球選手として一番脂の乗っている歳なのでどこの球団に行ってもやれる自信はあります。必ずや西武優勝の力となり、首位打者を目標に最低でも打率3割をクリアする覚悟です。

トレードが決まってから色々な人に球団からの通達より新聞報道が先だった事について聞かれましたが、僕自身は全く驚いていません。トレードにせよ自由契約にせよ事前に本人に伝えないのが昔からのウチのやり方でしたから。ただ契約更改を終えたばかりでキャンプイン目前でしたので今季も自分はチームに必要とされていると思っていましたから多少は驚きましたけどね。自分では動揺している姿を見せたくはなかったですけど、あの日はマスコミが張り付いていましたから隠せなかったのが残念でした。それよりも周りの反応の多さに驚いています。当日は200件を超える電話がありました。江川くんからも電話をもらいました。ある方に電話口で泣かれたのには困惑しましたね。また街中で見知らぬファンの方に激励されたり花束を頂いたりすると本当に申し訳なくて、「あぁ、やっぱりトレードを拒否するべきだったかなぁ」と考えてしまう時があります(苦笑)

中日には9年間お世話になって感謝しています。ドラフトで中日に指名された時(昭和50年)、同志社大・渡辺監督に「指名された球団で野球人生を全うしろ」と言われその言葉通りやってきた自負があります。ただこの2年間は選手会長として球団に対して選手が働きやすいよう色々と環境改善を要求して球団と対峙する事が多かったのも事実です。例えばナゴヤ球場の選手専用駐車場の件です。ナゴヤ球場では選手とお客さんが同じ駐車場を使っています。特に巨人戦の時などは試合終了後1時間程度は選手は帰れません。不測の事態も予想されるので選手専用を確保してくれるよう球団にお願いしてきましたが依然として実現していません。こうした経緯もあって僕は球団には煙たい存在になっていました。新聞には感情的対立などと書かれましたが今の僕にはシコリはありません。杉本君と大石君が中日で大活躍する事を心から願って名古屋を去ります。
コメント (1)
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