H's monologue

動き始めた未来の地図は君の中にある

使命の道に怖れなく どれほどの闇が覆い尽くそうと
信じた道を歩こう

傍胸骨拍動がわかったとき

2019-02-01 | 身体診察

循環器PE講習会のおさらいをしていて,数年前の記録を「発掘」したのでせっかくだからこっちもアップ。
初診外来で,一見症状が軽そうにみえて実は著明な心機能低下があった患者さんを見逃さずにすんだときのことです。
傍胸骨拍動が自分でちゃんと認識できた!と自信をもてたときでもあります。

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火曜日の午後の初診外来。ちょっと一段落した午後2時頃に60代の女性が,リハビリの後に受診してきました。
カルテをざっと見ると,循環器の○○先生の外来にもともと通院中。
他の先生のカルテは読みにくいんだなあ・・・まあ慢性心不全,高度TR/MR,低拍出症候群と書いてある。心機能がかなり悪い人みたいだなあ。


患者さんを診察室に呼び入れると,一見すごく元気でそうで快活な感じの小柄な女性。普通に歩いて診察室に入ってこられた。

(何だ,元気そうじゃん・・・・)
「どうされましたか?」
「今日,リハビリにきたんですけど,終わって椅子に座っていても何となくこのあたり(心窩部あたりを指して)が苦しい感じがするんです。」
「痛みじゃないんですか」
「違います。何となく気分が悪いというか・・・」

う〜ん,何かな・・・狭心症みたいな虚血性の症状じゃないと思うなあ。
慢性心不全という割には,全然見た感じ元気そうだし。

「咳とかでません?」
「別にないです」

まあ,とりあえず診察始めるか。血圧は100/60,低めである。脈拍は97/分,SpO2 97%

見た感じは,全然つらそうには見えない。
右の頸部を見る。あ,しっかり頸静脈拍動がある。
鎖骨より明らかに数センチ上まで拍動が見える。
座位のまま聴診すると脈がやっぱり少し速い。心音は何だか騒がしいような感じ。
拍動がしっかり胸壁に感じられる感じがする。

ここで一挙に,やっぱりこの患者さんは「慢性心不全でかなり心機能が悪い人」というベースラインを思い直す。ちゃんと聴診しようと思う。

「すみません,診察台に横になっていただけますか?」
横になってもらう。臥位では,それほど外頚静脈の怒張がはっきり目立つ訳ではないが,見えることは見えている。
内頚静脈の拍動は,はっきり認識できない。

心尖拍動を触れると,かなり外側に偏位している。心拍が胸壁ですごく触れると思う。

心尖部から聴診を始めると・・やっぱり。しっかり3音が聴こえた。
呼吸音は,肺底部まで詳しく聴いても,crackleは聴こえない。
下肢の浮腫はない。
カルテをもう一度確認すると数ヶ月に入院歴がある。体重に関して,その退院時からは2kg増加しているが,最近急に増えた訳ではないとのこと。

でもやっぱりこれは心不全の症状だよ。

「夜は朝までぐっすり眠れますか?夜中に苦しくて目が覚めたりしませんか?」
「大体,いつも目が覚めます。」
「12時頃に寝るのですが,2時とか3時頃になると目が覚めて,ソファに移動してしばらくしてから寝るようになることが多いです。」
「それは苦しくて目が覚めるということですか?」
「苦しいというか・・・何か目が覚めて,場所を変えて寝るとまた寝られるんです。」
「咳がでる訳ではありません。新しい空気を吸いたい・・みたいな感じ。」
(何だ,やっぱりPNDじゃないか。心不全の悪化!)

利尿剤は必要だな。次の○○先生の外来まで,利尿剤を増量して帰すか?どうしよう。
まずは,CXRを取りにいってもらって,電話で循環器のM先生に相談。今,面談中なので10分位したら診にきてくれるとのこと。

CXRは,以前のものと比較すると,心胸比は少し大きくなっている気がする。肺うっ血ははっきりしない。胸水もたまっていない。


その後,別の患者さんを診察しているとM先生から電話。

「先生,あの患者さんめっちゃ心機能が悪いDCMですよ!入院にしました。」

あ〜よかった。やっぱりプロに見てもらわないと,その辺の見立てが甘かったなぁ。あやうく帰すとことだった。すぐに入院とは思わなかった。

入院後,もう一度研修医の先生と一緒に診に行く。

心拍が胸壁で強く感じられたのは,注意して触れてみると,これは「傍胸骨拍動 parasternal heave」だと認識。
これがそうか・・・
少し前に経験した肺高血圧症の患者さんに次いで二人目である。ようやく何となく分かった気がする。
3音もしっかり聴こえる。やはり相当心機能が低下している人なんだ。
心尖拍動は,sustainedとなるのかなあと思う。
以前から何度か触ったことがある典型的なsustainedではないが,これもそうなんだろう。

入院後に行われた心エコーをみてびっくり。全周性高度低収縮。Diffuse hypoで中隔なんてほとんど動いていない。EF20%,左室内腔径は64mm!。エコーでは左右に胸水が確認されていた。

めちゃくちゃ心機能悪い!!。患者さんが診察室に入ってきたときの印象と全然違う。
こんなに心機能が悪い人には見えなかった。よかった。専門の先生に相談して。


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以前からこんな感じで,特に印象に残った患者さんについて,そのときの自分の思考過程を可能な限り時間の経過も含めて記録に残しています。最近は少しさぼってますが20年来の習慣です。いわばひとりClinical problem solvingとして,自分にフィードバックできるようにしているわけです。でも記録に残したことをしばしば忘れちゃうので,何かのきっかけで検索にひっかかって読み直すと「お宝発見!」みたいな感じになります。

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