以前,週間医学界新聞2009年12月7日号の対談(http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02858_01)でも紹介した「On bedside teaching」という有名なエッセイ(LaCombe MA. Ann Intern Med. 1997.126:217-20.)がある。Bedside teachingがすたれている現状を憂い,指導医に対してBedside teachingを行う際の心構えや戒めを記した名文である。自分が身体診察に深くこだわるようになったきっかけの文章でもあり,今でも時々読み返す。
この中に次のような一節がある。
Teach observation. Osler did. Albright did. Morgan and Engel did. You do it.
(観察することを教えなさい。Oslerはそうした。Albrightもそうした。MorganとEngelもそうした。だからあなたもやるのだ。)
この一節はずっと覚えていたのだが,サパイラの第29章にある参考図書のリストとコメントをみていて,この ”Morgan and Engel”というのが,実は有名な教科書の著者であることに気づいた。"The Clincial Approach fot the Patient”という1969年に出版された教科書で,この本についてサパイラはこのようにコメントしている。
Although this book is not much of a physical diagnosis book -- nor does it claim to be -- for explication and emphasis of those clinical and interpersonal skills needed by the junior clerk, this book sill has no peer.
とあり,未だに他に同等のものがないという。
ネットで検索してみて驚いた。何と40年前に出版された教科書だが,古本としては入手可能であることが判明した。(良い時代である) 早速注文してみて,つい先日届いた。ぱらぱらと見てみると,患者と初めて向き合う学生向けに書かれた本の体裁になっているが,たしかに同じような内容の本は見たことがない。
患者と向き合うときに必要な注意,心構えが非常に細かなことまで書かれており,身体診察を順にとっていく際には,患者に対してどのような位置関係で,どんな姿勢で診察すべきかまで書かれている。
最後の付録の部分では,一人の患者を学生がインタビューした内容を,患者とDrの会話すべてを逐一記録してあり,それに対するコメントが横に書かれている。さらにそのインタビューを元に完成されたNoteがぎっしりとかかれており,両方あわせて48ページにもなる。文字通り"complete history & physical"のやり方の例を示したもので圧倒される。
40年前の教科書だが,内容は現在にも十分通用する,むしろ今では失われてしまった多くのスキルについて書かれているかもしれない。じっくりと取り組むのは難しいかもしれないが,読む価値はありそうだ。(こんなのばかりで,困ったもんだ)