面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ゆきゆきて、神軍」

2010年08月18日 | 映画
1982年、兵庫県神戸市から物語は始まる。
妻のシズミと二人でバッテリー商を営む奥崎謙三は、第二次世界大戦におけるニューギニア戦線の数少ない生き残りの一人である。
所属していた独立工兵第36連隊で、終戦後23日もたってから“敵前逃亡”の罪で二人の兵士が射殺された事件があったことを知った彼は、処刑に関係した五人の上官を訪ね、真相を究明してゆく…

奥崎謙三は、1969年に「ヤマザキ、天皇を撃て!」と叫んで天皇にパチンコ玉を発射するという事件を起こし、一躍有名になった人物。
本作においても、処刑の責任者である古清水元中隊長と対決すべく家を訪ね、たまたま居合わせた息子に銃を発射、2日後に逮捕されている。
時には暴力も辞さず、激情を抑えることなく当時の上官達を糾弾する奥崎の鬼気迫る姿に、終始圧倒される。
当時の上官達に話を聞いていく過程で、ニューギニア戦線で起きた衝撃の事実が明らかにされたシーンでは、思わず息を呑んだ。
真の戦争の姿に触れることのできる一品だ。

自らを「神軍平等兵」と名乗る奥崎謙三の存在感は、それだけで魅力たっぷりな題材である。
その素晴らしい素材に対する原監督の“料理の腕前”が光る。
どんな小説も及ばない彼の行動の魅力と、彼が放つエネルギーを余すところなく描き、我々の心を鷲掴みにして揺さぶる、ドキュメンタリー映画の最高峰。


「ゆきゆきて、神軍」
1987年/日本  監督:原一男