面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ランニング・オン・エンプティ」

2010年03月25日 | 映画
定職に就かず、ダラダラと毎日を送るヒデジ(小林且弥)。
一応、仲間二人とバンドを組んでライブ活動をやったりしているが、計画性もなく毎日を過ごしていた。

ヒデジと同棲中の恋人アザミ(みひろ)は、彼に対して不満タラタラ。
その日も些細なことから喧嘩して、ヒデジに背を向けたまま、ベッドから起き上がらずにいた。
そんなアザミに気遣うこともなく、
「今日は誕生日だから夜は一応空けてるし」
などと、お気楽に自分の誕生日のことだけ言い残して、バンドの練習にでかける始末。
頭にきたアザミは、ある計画を思いついた。
それは、自分が借金取りに誘拐されたことにして、ヒデジから金を巻き上げようというもの。
さっそくヒデジの兄・祐一(大西信満)が住む部屋に、いつも“パシリ”に使っているナベ(杉山彦々)を連れて転がり込み、狂言誘拐を実行に移した。

まずは自分で、悪徳金融業者に誘拐されたとヒデジに電話。
ヒデジは驚き、アザミを探してウロウロするものの、疲れて部屋に帰れば、そのまま漫画を読んでウダウダと過ごし、しまいには寝入ってしまう。
ヒデジの動きが悪いことに苛立ったアザミは、ナベに誘拐犯のふりをさせて脅迫電話をかけさせるが、相変わらず危機感も緊迫感も0。

一向に事態が進展しないことにキレたアザミは、八つ当たり半分にナベに活を入れる。
慌てたナベが、一応、迫真の演技で脅しの電話をかけたとき、ようやくヒデジが走り出した…!

自主映画ながら劇場公開され、評判を呼んだ「まだ楽園」で脚光を浴び、刑務官と死刑執行の問題をとらえた「休暇」で脚本手掛けた佐向大監督の、商業映画デビュー作。
ダラダラと毎日を過ごしつつ何をやっても煮え切らない男と、そんな彼氏を困らせてやろうとバカバカしい計画を思いつく女、なぜか女にモテる弟に対抗心を燃やして自分の肉体を鍛えることに執着する引きこもり気味の兄、人の良さにつけ込まれて使いっぱしりにされるも役には立たないダメ男。
そんな、どうしようもない若者達の運命が、一人の女子が巻き起こした「狂言誘拐」を起爆剤として、ゴトリ、と動き出す。
そして様々な思いが錯綜し、狭い閉ざされた世界に穴が開き始める。

先々に思いをはせるでもなく、何かに熱中するわけでもなく、その日その時その一瞬を、ただなんとなくやり過ごす。
グダグダな連中のダラダラした様子に、イラッ!とさせられ、思わず説教したくなるという御仁も多いだろう。
しかし単純に憤慨するのではなく、一度冷静に自分の心を見つめるべきだ。
彼らの行動や思考は、誰の心の奥底にもある、普遍的なものではないだろうか。
だからこそ人は「安きに流れる」のであり、それに抵抗して「カツマー」となるか、それに迎合して「底辺」へと堕ちていくか、後は各人次第なのである。

なんともいえないダラけた日常をコミカルに切り取り、緩~い虚無感が流れる中、次はどうなるのだろう?と、最後までスクリーンに引っ張られ続ける小作品。


ランニング・オン・エンプティ
2009年/日本  監督・脚本・編集:佐向大
出演:小林且弥、みひろ、大西信満、杉山彦々、伊達建士