面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ボーイズ・オン・ザ・ラン」

2010年03月07日 | 映画
弱小玩具メーカー・斎田産業に勤める29歳の田西敏行(峯田和伸)は、冴えない毎日を送っていた。
未だ実家暮らしで、自分の部屋ではエロビデオ三昧。
20代最後の誕生日を迎えたテレクラでは、とんでもないブスでデブな女に引っかかったうえに女からバカにされ、殴られて流血する始末。
そんな彼は、商品企画部の同僚・植村ちはる(黒川芽以)に恋をしているが、たまたま会社の飲み会で席が隣あったとき、携帯のメールアドレスを交換する。
それをキッカケに、ちはるとメールのやりとりをするようになるが、それでもどう進めていけばいいのかわからない。
悩む田西は、営業先で知り合った大手ライバルメーカー・マンモスのイケメン営業マン・青山(松田龍平)に相談を持ちかける。
青山の手助けで、ちはるとの距離を縮めることができた田西だったが、風邪で寝込んだちはるを見舞いに行った夜、ちはるの隣人で友人でもあり、またちはるの面倒をみているしほ(YOU)と“妙な関係”を結んでしまい、あろうことかそれをちはるに目撃され…

主人公の田西は情けない。
29歳の素人童貞、実家住まいでエロビデオ三昧の毎日を送る、全く冴えないサラリーマン。
見た目も冴えず、いつも自信なさげにおどおどしている。
そんな彼は、当然のように仕事も冴えない。
客先では機転も利かずに会話が続かず、トンチンカンな愛想笑いを振りまくが、それが逆に顧客の神経を逆なでしたりする。
やることなすこと、とにかく情けない。
会社でこんな男が後輩にいたら、毎日のようにイライラさせられることだろう。
「何やってんねん、お前!?」「しっかりせぇよ!」「そんなんもでけへんのか!」
しょっちゅう罵倒しているかもしれない。

そんな徹底的に冴えない田西にも、たったひとつだけ長所がある。
それは、自分なりに真っすぐに生きていて、自分なりに一生懸命であること。
“自分なりに”というところがミソで、そこのレベルの低さが、彼をして出世や栄誉とは程遠い人生を送ることを余儀なくしているのだが、とりあえずは一生懸命なのだ。
だからこそ、憧れだったちはるも接近してきたのであり、おそらくは斎田社長(リリー・フランキー)が彼を採用したのも、その点を買ってのことだろう。

しかしその一生懸命のレベルが低いところが、いかんともしがたい。
ちはるにアプローチしようにも、どうすればいいか分からなくなるだけでなく、いつも何かにつけて肝心なところで立ち往生してしまう。
見ていてこんなに歯がゆい男もないのだが、その歯がゆさが腹立たしくもおかしく、悲しく、最後までスクリーンに惹きつけられる。
不愉快なはずの主人公の行動から目が離せなくなったのは、自分にも田西のようなダメダメな部分があるからだ。
彼が悪戦苦闘する姿はある意味で琴線に触れ、何やら心がザワザワと落ち着かない。
ラストシーンの田西の疾走に自分を同化させることで、ようやく安堵。

…あぁ、やれやれ。
そやけど、どうするよ?これから君は。
まあ、斎田社長はメチャクチャいい人なので、今までどおり社長を頼って真っ直ぐ仕事していれば、またイイこともあるだろう。
ようやく、本気になった経験ができたのだし。

原作は、花沢健吾の人気コミック。
田西敏行役の銀杏BOYZ・峯田和伸が見事。
その風貌、言動の全てが見事なまでに情けなく、正に田西そのものを生々しく好演。
これもまた、残業後に観れる映画を探して出会った、拾い物の佳作。


ボーイズ・オン・ザ・ラン
2009年/日本  監督・脚本:三浦大輔
原作:花沢健吾
出演:峯田和伸、黒川芽以、松田龍平、YOU、小林薫

難題

2010年03月07日 | ニュースから
「お水を下さい」哀願の声響く 相次ぐ虐待、行政救えず(朝日新聞) - goo ニュース


虐待を誰も止められず、児童が死亡する事件が多発している。
事件が起こる度、「なぜ止められなかったのか」と声は上がるが、本来は行政や国によって止めるべきものではない。
一家庭に対して公権力が発動されることが、どれだけ“個人”をないがしろにするものであるか、その恐ろしさに思いを巡らせるべきなのだが。

人間性が崩壊した両親が営む家庭が増えてきているうえに、親族をはじめとする周囲に、そのような家庭を是正する力が無くなっているのであれば、公権力が介入せざるをえなくなる。
それは国家による個人の統制強化への道に続くことを、どれだけの人間が意識しているだろう。

杞憂と笑っていられる日が、永久に続くことを祈るばかり…