面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「のんちゃんのり弁」

2009年09月28日 | 映画
永井小巻(小西真奈美)は、下町育ちの31歳。
グータラ過ごしているだけで全く働こうともしない“小説家”の夫・範朋(岡田義徳)に愛想を尽かした小巻は、ある日、娘ののんちゃん(佐々木りお)を連れて実家のある京島へと出戻った。
自宅で着付教室を開いている母・フミヨ(倍賞美津子)から小言を言われ、母親の世話にはならずに自分で稼いで暮らしていく!と宣言した小巻は、懸命に“就活”に取り組む。
しかし、長年主婦として暮らしてきた彼女は、キャリアも無く、一般的な社会常識さえ乏しく、次々と面接で落とされて厳しい現実にぶち当たる。
落ち込んだ小巻は、カメラ店を営む同級生の健夫(村上淳)と再会。
かつてバレンタインに手袋を渡した初恋の相手でもある健夫が、まだ独身で彼女もいないと知り、何となく惹かれる。
ある日、健夫の写真の配達を手伝っていて小料理屋「ととや」に連れて行かれた小巻は、店の主人・戸谷(岸部一徳)が出してくれたサバの味噌煮に感動し、得意の弁当作りで新境地を開こうと一大決心!
おいしい弁当屋さんを開くため、料理を学ぼうと戸谷に頼み込み、「ととや」を手伝うことになるが…

ある日戸谷から、
「強い人だ。泣いたことなんてないだろう。」
と言われる小巻は、泣かないことこそが自分の弱さだと答える。
これまで、なーんにも考えずに生きてこれた彼女には、生きていくための強さを持つ必要が無かったのかもしれない。

小巻の亭主は、典型的な“だめんず”。
30歳目前ながらいまだに親のスネをかじって定職にもつかず、小説家を目指すと言いながら作品を書こうともしない。
いきなり家を飛び出した小巻にまとわりつき、自立しようともがく彼女を否定し、ヨリを戻そうと誘いをかける。

小巻の同級生で、親から写真館を継いでいる健夫は、結婚願望を抱きながら「嫁日照り」を嘆きつつ、傾く一方の店を立て直せずにいる。
そして弁当屋を開くという目標を定めて邁進する小巻に、写真館を閉めて弁当屋とし、一緒にやっていかないかを提案する。

この、小巻をとりまく二人の男が、弁当屋を開店する決意を固め、覚悟を決めた小巻を前にして妙な共感を抱くシーンは、同性として心が痛い。
どちらも結局は、親の元を離れられず、自立するだけの力も根性も無く、小巻のパワーに気圧されてなすすべも無い。
男とは、何がしか庇護を受けられる環境下にあれば、それに甘んじてしまう性分を持つものであろう…いや、持つもので「ある」。

戸谷の協力もあり、いよいよ弁当屋を開店する日の朝。
自慢の“特製のり弁”を作りながら、ふいに泣き出してしまう小巻。
支えてくれた周囲の人々に対する感謝?
それとも、これまでの生き方への自省?
あるいは、これから自分の力で生きていくことへの恐怖心?
きっと、「本当に生きていく」強さを身に付けた証としての涙だろう。

小気味よくストーリーが展開し、小西真奈美の爽やかな演技が光る、ハートウォーミングな佳作。


のんちゃんのり弁
2009年/日本  監督・脚本:緒方明
出演:小西真奈美、岡田義徳、村上淳、佐々木りお、山口紗弥加、岸部一徳、倍賞美津子