面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「クライマーズ・ハイ」

2008年07月24日 | 映画
クライマーズ・ハイ:登山時に興奮状態が極限にまで達し、恐怖感が麻痺してしまう状態。

1985年8月12日。
群馬県の地方紙である北関東新聞社の遊軍記者・悠木(堤真一)は、販売部の同僚で無二の親友・安西(高嶋政宏)と谷川岳の衝立岩へロック・クライミングに行くための準備を進めていた。
終業時刻間際に上司から仕事を片付けてくるよう指示されて社を後にする安西を見送った悠木は、彼と新前橋駅で合流するためにデスクを後にする。
そこへ、社に戻ってきた県警キャップの佐山(堺雅人)が近寄ってきて耳打ちした。
「悠さん、ジャンボが消えたそうです…」
状況は分からないものの、悠木が編集局を出て行こうとしたそのとき、共同通信からのニュース速報が響きわたった。
「東京発大阪行き日航123便が、横田基地の北西数十キロの地点でレーダーから姿を消しました。長野、群馬の県境に墜落した模様。」
「日航123便の乗員、乗客は524人。繰り返します。日航123便の乗員、乗客は524人…」
今も記憶に残る、あの日航機墜落事故の第一報である。

単独の航空機事故としては世界最大規模。
しかも現場は、群馬と長野の県境。
編集局は色めき立った。
墜落地点は群馬か?長野か??

皆が情報収集にやっきになる中、夜遅くに事故現場が確定される。
現場は群馬県!
編集局は、にわかに興奮の坩堝を化す。
そしてこの未曾有の大事故について、紙面作りを一任される全権デスクには、ワンマン社長・白河(山崎努)の鶴の一声により、悠木が指名された。

北関東新聞として、「大久保清」や「連合赤軍」以来の大事件。
現場へ向かおうとはやり、殺気立つ記者達。
第一陣として送り込まれた佐山が、決死の思いで届けた第一報が潰されたことから湧き上がる疑念。
現役記者から“スター”が誕生することに対する、“かつてのエース記者”である幹部の嫉妬なのか…?
凄惨な事故現場を目の当たりにして精神に異常をきたす○○。
政治的配慮で第一面から押し出されそうになる事故のニュース。
地元紙としてのプライドを賭け、報道人としての使命感に燃えた悠木の戦いの日々が展開する。

どんな端役にも、登場人物ひとりひとりに性格付けをし、動きの背景を設定したうえで一斉に演じさせ、時に接近し、時に俯瞰して撮影することで、リアリティと臨場感溢れる編集局内の描き方が見事。
息詰まる緊張感が、ピリピリと痛いほどに伝わってくる。

一方、一人で山に向かったものと思っていた安西が、駅前でクモ幕下出血で倒れて入院したとの知らせが入る。
激務の合い間をぬって見舞いに行った病院で悠木は、安西がある事件に巻き込まれ、本来業務以外でも休みなく働かされていた事実を知る。
更には、悠木と社長との、隠された関係…

そして遂に捉えた大スクープ!
一気に「クライマーズ・ハイ」へと達する編集局。
全権デスク悠木は、とてつもなく大きな決断を迫られる…

奔走する記者達をドキュメンタリータッチで追うだけの物語ではない。
一地方新聞社を舞台として、日航機墜落事故の一件を中心に展開される人間模様を重層的に描き、2時間があっという間。
仕事に対する使命感、男としての矜持など、随所で琴線に触れる骨太な逸品。


クライマーズ・ハイ
2008年/日本  監督:原田眞人
出演:堤真一、堺雅人、尾野真千子、高嶋政宏、山崎努