ペルーに赴任した当時、もちろんスペイン語などはさっぱりわからなかった。
事務所を借りるのに、いきおい現地の知り合い、日系人の方に大変お世話になった。もう亡くなってしまったが、その後もいろいろ助けていただいた。
結局、その方の親戚がアパートを購入したばかりで、立地もよく、そこを借り受けた。
契約は1年で、12ヶ月。
1年も経過すれば、いろいろ現地の事情も理解できるようになって、他の事務所に移転することになった。
12ヶ月目の、丁度15日に引越しを完了し、鍵を返却しに大家さんの自宅に出向くと、
丁度大家さんは不在だった。
もちろん、引越しするには、大家さんの立会いの下、傷つけた箇所などを点検し、保証金で解決し、双方納得の上での引越しだ。
その後、3日に空けずに何度も大家さんを訪れたが、いつもいなかった。
そして、1年を2ヶ月過ぎた頃、
仕方ないので、お世話になった方にお願いして、鍵を受け取ってもらえないことを、話して渡してもらえるよう、頼んだが、
断られた。
やっと、会えたのは、既に3ヶ月目にはいっていた。
「鍵を持っている人に権利があるので、過ぎた月の家賃をはらってくれ」
と、いきなり要求された。
これには、さすがに驚いて、言葉が続かなかった。が、
これからペルーで生きるための術を教えてくれたと思って、言われるとおり家賃を全額支払った。
このときの経験は、その後、「知り合い・友人・仲間・親戚」などの言葉は、こっち側には安心材料にはならないことを知って、
日本人には困難な「契約」という概念にうるさくなった。
特に、大体において、日本人の物事の取り決めの最後にある、
「本取り決め事項に当てはまらない問題が起きたときには、双方の紳士的な話し合いで解決する」
という一文を捨てた。
「双方の紳士的な話し合い」などは、元来存在しない生活環境なのだ。
つまり、紳士的な話合いや誠意を持った話合いをお互いがするという保証はどこにもないのだ。
「・・諸国民の公正と信義に信頼して・・・」と、どこかで一度は読んだことのある内容は、実は空虚なもので、夢の中の言葉だと思って間違いはないだろう。