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日々のあれこれ

現在は仕事に関わること以外の日々の「あれこれ」を綴っております♪
ここ数年は 主に楽器演奏🎹🎻🎸と読書📚

季節の予感第5回 純、ケン、ジュリィ

2025-04-06 15:43:10 | ショート ショート

 小説:著者&BGM作曲:すず 季節の予感作品NO 401【外は雨、】作品NO 402【季節の予感】作品NO 403【ぬけがけ】作品NO 404【お話しよう】

 

翌朝、晴れたらカブトムシを取りに行こうとケンとジュリィは約束を交わしていたが、あいにくの雨だった。前日の大冒険が理由かなぁ。僕はちょっと眠くて、いつもなら一番に起きるんだけど、まるで音楽のように聴こえる雨音を聴きながら、布団の中でうつらうつらしていた。雨が降ると、森のコケの匂いがつーんとしてくる。なんだか深い森の緑を凝縮したようで、僕が好きな香りだった。その時、二階の僕の部屋へのぼって来る、聴き慣れたトントンと軽い足音がしてきた。お母さんだ! お母さんはいつもより勢いよくドアを開けると、ベットに寝転がっていた僕を覗き込んだ。

「今朝は遅いのねぇ。ケンくんと新しいお友達も遊びに来てるわよ。純は起きなくていいの?」

ケンと新しい友達って…ジュリィだ! 僕は、がばっと布団を蹴とばすように勢い良く起き上がると叫んだ。

「何で? 晴れてないのにケンが? ジュリィも? カブトムシは中止だろ⁉」

あら、知らなかったの?と、お母さんは僕が蹴とばした布団をたたみながら言う。

「ケンくんの話だと、もし雨が降ったら、一緒に絵本を読もうって約束していたらしいわよ。てっきり純も…」

僕は慌ててパジャマからTシャツに着替えると、お母さんの話を最後まで聞き終わらない内に、階段をドタバタと駆け下りた。二人はリビングにいるようだ。キャっきゃと笑い声がする。僕は馬より早く二人の声がした方へ駆けていくと、リビングのドアを開けた。

あまりに勢いよく登場した僕を見て、二人とも急に黙った。テーブルには、数冊の本が置いてある。どれを読もうか選ぼうとしていたのか、それとも、すでに数冊一緒に読んだのか…。

「おはよう、ジュンくん」

最初に口を開いたのは、昨日、森で会ったばかりのジュリィだった。僕の名前、ちゃんと覚えてくれていたのが嬉しかった。いや、それよりも…

「おはよう、ジュリィ」

僕はジュリィに笑顔で挨拶する。そして…軍隊のような速さでケンの方へ身体を向けた。

「おい!ケン!ずるいぞ!こんなの、抜け駆けだぞ!」

僕の剣幕に、ケンは多少、おののいたようだった。ぬけがけ…?と、言葉の意味を知っているのか、知らないのか、ボケた顔を向けた。

「そうだよ! ぬけがけ、だよ! 雨の日に会う約束なんか、僕がいる前でしなかったじゃないか!」

あぁ、そのことかぁ、という顔をしたケンは、余裕たっぷり言い返した。

「ちゃんと、ジュンがいるところで話したよ。家へ戻ってからの純は、なんだか、ぼーっとしていて、僕の話、ちゃんと聞いてなかったんじゃない? なぁ、ジュリィ」

急に話を振られたジュリィは、戸惑ったように頷いた。「そ…そうね」と。

交互に僕とケンをじっと見ている。

「それでも、ぬけがけは、ぬけがけだ! 男らしくないぞ、ケン!」

そこへ2階から降りて来た、お母さんが僕らの話を聴いていたのか、割って入って来た。

「ジュン、さっき、 ぬけがけ、って言っていたけど…どこで覚えたの?そんな言葉…」

「そりゃぁ、お母さんの小説だよ!」と、答えながら僕はしまった!と心の中で悔やんだ。そうだった、あの本は、「12歳になるまで、まだ早い本棚」に並んでいたヤツだ! 僕がこっそり読んでることがバレたぁ…。うかつだった。つい、ケンのぬけがけにカチンときちゃって。

お母さんは何も言わず、僕の顔をじーっと見ている。あぁ、この観察が嫌だ。何もかもお見通しなんだから、参ってしまう。

「分かってると思うけど…」

お母さんは、それだけ言うと、言葉を切った。僕はこくんと頷く。はい、ごめんなさい。つい、読むなと言われると、‘’余計に興味の虫がうずきだす‘’ってやつで…この表現も、お母さんの本から覚えたんだけど…

「読んじゃダメって言われると、ついつい読みたくなっちゃって」読んでしまった。つい、隠れて読んじゃった。ちょっと背伸びした気分で、大人の話を知った気になったっていうか。その… つまり、ケンがやったことは、「ぬけがけ」な訳だ。

「三人で、仲良くね」

お母さんはそれだけ言うと、部屋を出ていった。10分も経たない内に、レモンティーとクッキーを持ってきてくれた。

「わーい!ジュリーおばさんのクッキーは最高なんだよ!」

すかさずケンが言う。調子のいい奴だなぁ。森では臆病なのに。こういう時は上手くリードしちゃってさ。僕は舌打ちしつつも、真っ先にクッキーに手を伸ばした。

「いっただきまーす!君も食べなよ!全部、ケンのやつが食べてしまわない内にさ!」

僕がこういうと、ジュリィは僕とケンの顔をかわるがわる見つつ、ちょっと遠慮がちにクッキーに手を伸ばす。まあるく焼き上げたクッキーをしばらく大切そうに眺めたあと、一口食べて、しばらくもぐもぐしていたのち、「おいしい!」と喜んだ。

「だろ? そうなんだよ。お母さんの満月クッキーサイコーなんだ!」

「うんうん、確かにおばさんのクッキーは上手い!」

ケンも言う。取り合えず、ここは休戦ってことで、ちょっぴり大人な僕は機嫌を直すことにした。来月でもう、8歳だしなぁ。あと一週間で僕は8歳になる。

「なぁ、ジュンの誕生日にパーティーするんだけど、君も来るよね?」

ケンが僕の顔を見ながら、すまして言う。ケンの提案に、ジュリィはすぐ首を縦に振る。

「えぇ、勿論、いいの? まだ知り合ったばかりなのに…おかあさまは何て…?」

分別ある子だ。いいぞ! 僕は心の中でジュリはやっぱり僕の運命の子かもしれないなぁと思う。日本では、僕の誕生日は七夕だ。彦星が僕で、ジュリィが織姫だといいなぁ。いや、待てよ。年に一度しか会えないんじゃなぁ。だけど、サマーキャンプが終われば、どっちみち、会えないな。やっぱり年に一度ってことか。まさに七夕だ! 僕らは森の小川で出会った。まるで、天の川だ!

その日は代わるがわる、お互いの好きな絵本を読み比べて一日が過ぎていった。七夕の日は、僕が代表で一冊、本を読むと約束をし、その日はお開きになった。

外はまだ、優しい雨がぽつり、ぽつりとリズムよく降っていた。

 

つづく

 

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やや複雑な思いも表れて・・・ (fumiel-shima)
2025-04-08 10:46:12
すずさん、こんにちは。

心身共に心地よい疲労感に包まれ、起きる時間を過ぎてもどこかで感じる大好きな香り・・・
「森のコケの匂いがつーんとしてくる」や「深い森の緑を凝縮したよう・・」という表現とその雰囲気を醸し出すメロディとの融合がまさに『これぞすずさん・・お見事!』を感じさせますね、さすがです。
(私には到底できません・・・)

そして、階段を駆け下りたジュンが目にした二人・・・
そして、3人の会話と静かに流れる時間も・・・
そして、…曲のテンポ(?)で私がそう思い、考え過ぎなのかもしれませんが常に調子よく先手を取るようケンに対してジュンのかわいく、あどけないようなジェラシーも・・・

ジュンは「イラッ!」の感情も収め、曲の終盤にはその後読書で一日を過ごした3人の穏やかな笑顔が浮かんできました。
と同時にジュンの遠くを見つる七夕についての思いが哀愁を含むメロディのようにも聞こえました。
返信する
Unknown (すず)
2025-04-13 10:19:43
>fumiel-shima さんへ
>やや複雑な思いも表れて・・・... への返信

子供の頃、実際に自宅か、
幼なじみの家へいき、
本を読んで過ごしたことが何度もあります。
図書館ごっこ!
やっておりました。

いつも楽しんでいただき、ありがとうございます💖
返信する

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