goo blog サービス終了のお知らせ 

日々のあれこれ

現在は仕事に関わること以外の日々の「あれこれ」を綴っております♪
ここ数年は 主に楽器演奏🎹🎻🎸と読書📚

季節の予感 第4回 ヒロとジュリィ

2025-03-29 23:09:23 | ショート ショート

 病院の廊下には窓から光が差し込んでいた。だからかな、何か光るものが落ちていることに僕はすぐ気付いた。何だろう…ペンダントみたいだ。太陽の形をしてる!僕は拾い上げて、窓から太陽へかざしてみた。綺麗だなぁ。ステンドグラスみたいだ、あの時、教会で見た天使とペンダントが同じ光を持ってるみたい!僕がひっくり返すとペンダントはまるで命の光を放っているみたいに感じた、その時、か細い声がした。

「それ!私の… わたしの…ママがくれた…大切な…」

僕と同じくらいの女の子が震えながら手を差し出した。何度も瞬きしている。

「君のペンダント?」僕はそういうと、その子の顔とペンダントを見比べた。女の子の顔はいっそう曇る。僕は慌てて、はい、っと差し出した。

「あ…あ…ありが…とう…」

女の子はあがり症なのか、どもりながら、やっとそれだけ言うと回れ右をして、走って行っちゃった。あの子、誰だ?

 その日以来、病院へ来ると、僕はあの子にまた逢えないかなぁと思うようになっていた。そして…逢えたんだ!

 

 僕はヒロ。生まれつき身体が弱い。もっと小さな頃は、殆ど病院で過ごしていたけれど、7歳になった今は、時々こうしてママと一緒に病院へ来るんだ。4月からは学校が始まっていたけど、僕はほとんど行けない。やっと行けても教室の中へ入ると心臓がバクバクして苦しくなるし、早退することが多かったんだ。体操は見学だし、「いつも見学ずるーい!」と、女子にまでからかわれるし。学校へ行っても僕はひとりぼっちだった。「今日は前回より1秒早く走れたね!」とか、「跳び箱、何段飛べたよ!」とかって友達と話せない。だって、病院の先生に止められているのだから。そんな僕をまともに相手にしてくれる子はいなかった。ママは、自宅へ一人、僕を残して仕事へ行くより、学校にいてくれた方が安心だって言う。でもママには行きたくない、と言えない。だけど、発熱しては、こうして病院へ通っていた。ここへ来ると少しほっとする。だからと言って、病院が好きなわけでもない。消毒液の匂い、病院独特の匂いや廊下を歩くスリッパの音が苦手だった。急いで歩く音を聴くと、もしかして誰かが…って思ってしまうから。

 だけど、桜色や海の色、山の色で飾られた部屋で毎週開催される、キッズクラブは病院では別世界で特別な時間だ。小児科に入院中の子供達を中心に集まって来る。普段は子供たちが自由に出入りしている。それぞれが好きな本を捲る音や、絵本の中の登場人物のモノマネをして笑い出す子もいたりして。ここは病院で一番、笑い声がする部屋だった。廊下には僕たちが作った季節の花の工作や絵が貼ってある。部屋の中へ入れば更に工作コーナーがあって、色とりどりの折り紙や粘土の人形たちが並ぶ。窓から差し込む日差しがそれを鮮やかに照らしている。老人会のおじいちゃん、おばあちゃんたちと一緒に育てたお花も飾られていた。キッズクラブの部屋は、そういう訳でちょっとだけ病院にいるってことを忘れさせてくれる。時々慌ただしくなるサイレンが近くなったり、遠くなったりするけれど…。

 ここ、キッズクラブでの僕のお目当ては、絵本の読み聞かせと紙芝居だった。この病院の委員長の娘である、マユ先生が読み聞かせをしてくれる。マユ先生は医者ではないっていうんだけど、看護婦さんでもないらしい。僕にはよく分からないけど、患者さんや病院スタッフ皆に声をかけて回っていたから、病院のお母さんのような仕事なのかなぁと思う。マユ先生には僕とおない歳くらいの女の子が一人いて、その子も時々、キッズクラブに来ていた。読み聞かせの時は、いつも一番後ろで黙って聴いている。あの子のママが読むのだから、もっと前へ行けばいいのに、と僕は勝手に思って見ていた。いつもカワイイお洋服を着て、大人しく座っている。いかにも病院長の孫って感じ! お嬢様っていうのかな。僕とは違う世界の子供って雰囲気だった。それにあの子はどこか、遠い世界からやってきた妖精のような、ふわっとした感じ? いつもクラスでうるさい女子たちとは違ってる。あの子を遠くから見ているだけで、僕の心臓が病気になった。ドクンドクンとなるのはいいことじゃないらしいから、どうしよう。あの子のママのマユ先生は優しいし、お金持ちだし、きっと何でも買って貰えるし、いいことだらけ。僕は…僕のママは僕が生まれてすぐに離婚した。「こんな弱いガキ!」と捨てられたのだ、とママは言う。僕の治療費でお金がかかるから、って理由で見たこともないパパに捨てられたって聞かされた時は、ズーンと心臓の奥が痛くなった。もしかしたら、これが僕の病気かもしれない。

 「皆さん、今日のお話は、天使の賛歌ですよ。よく聴こえるように、後ろの方に居る子供達、こっちへいらっしゃい!」

「わーい!」

「やったぁ!」

「今日はどんな話かなぁ」

部屋のあちこちから皆が一斉に喋り出す。

マユ先生は、僕と自分の娘をかわるがわるに見た。僕は気付かれないよう、ちらっと女の子の方を見た。あの子も恥ずかしそうに僕をちらっと見る。その時、女の子の髪がふわっとなった。

「前へ…行く?」

僕は声にはならないくらい、小声でつぶやいた。

「行こうか…」

と、女の子の口元が動いた。いや、そう言った気がしたので、僕は立ちあがり、前の方へ移動した。女の子も立ち上がる気配を感じた。いつの間にか僕らは一緒に並んで聴いていた。

「みんなは、天使がいると思う?」

マユ先生が問いかける。天使? 死んだら天国へ連れて行ってくれるのが天使なのかなぁ。そのくらいしか僕には分からない。僕は何度か死にかけているらしいから、もしかしたら、もっと僕が小さな頃、病室まで天使が僕の様子を見に来たかもしれない。周囲の子供たちは、いつの間にか それぞれに、天使はいる、いない、って盛り上がっていた。

「はい、分かりました。私はね、きっと、いると思う。今日は天使のお話をみんなに聴いてもらうわね。いると思う人、ちょっと手を上げてみて」

マユ先生の問いかけに、お互いの顔を見合わせている。ほんとはいる、って思っても、こういう時、手を上げられるのって、たぶん、5歳くらいまでかなって思う。学校へ行き始めると、何もかもがつまらなくなってしまった。絵も自由に描かせては貰えなかったし、好きな本が読めるわけじゃない。皆で同じ教科書を一斉に読むか、一人だけあてられて、立って読む。僕はこれが苦手だった。好きだった本を読むことも、学校へ行くと嫌いになり… ついでのように学校も嫌いになって… 「本ばっか読んでるから、青白い顔なんだよ!おんなだぁ!ヒロは女だぞ~」って学校へ行けば毎回、からかわれるのはママには秘密にしてる。心配かけるし、僕が病気のことでイジメられるって知られたくない。だけど、ここでは誰も僕をイジメないし、再び本が好きになれる。みな、それぞれに身体に爆弾を… 病気のことを僕らは度々爆弾って呼んだんだけど… 爆弾を抱えて生きているから、そのことでイジメたりしないんだ。もしかしたら、明日、死ぬのかなぁ、って思うと涙が出てくることにも慣れてきた。みんな辛いんだ。だけど頑張ってるんだ。外の世界へ行けば、僕らの頑張りは泡のように消える。だけどもし、消えないものがあるとしたら?

 「私は天使はいると思う。みんなは、どう?」

お話を読んでくれていたマユ先生が、途中で話しかける。一人が口を開いた。

「いると思います。いた方がいいです!」

もうすぐ退院するんだ、って言っていた子だ。物語は船の中の火事で、ジョンがジュリーを探している場面だった。

「助けたいって思う。天使がいたら… そんな希望を抱けたら… みんなはどう思うかな?」

再び、マユ先生が質問する。僕は黙っていた。他の子たちも黙っている。もしかしたら、このあと天使が出てくるのかなぁ。天国へ一緒に連れて行くために… そんな想像をしている時、誰かが小さな声で言った。

「天使はいると思う」

僕は声がした方へ顔を向けた。隣に座っていたマユ先生の娘だった。名前は何て言うのだろう。

「うん、ジュリはいると思うのね。ママもよ!」

「僕も!」思わず声が出た。僕らはお互いを見た。どちらともなく、笑った。女の子の名前はジュリィっていうんだ。物語のジュリーと同じ⁉ 日本人なのに外人の名前? 僕は不思議に思った。病院長の孫なら、洋風な名前もあり、なのかもしれない。僕もヒロじゃなくて、ヒーローが良かったなぁ。あ、これはジョークってことで。

マユ先生は【天使の賛歌】を読み終えると、しばらく何も言わなかった。いつもなら、お話が終わると、みんな拍手するのに。今日はそれもなかった。ただ、シーンと静かなだけだ。中には泣いている子もいた。自分と重ねたのかもしれない。いつ、消えるか分からない命と… だけど! 

「天使はやっぱり、いたね」

隣から小さな、だけど、先程より力強い声がした。

ジュリィという名の女の子だった。あの太陽のペンダントの… 物語のジュリーが持っていたペンダントも、太陽の形だったっけ。

「うん、いたよね。ジョンとジュリーの二人は友達だもんね、だから、助けたんだよね。」

ジュリーを助けたジョン。ジョンの願いを叶えた天使。

「友情だよね」

僕はそういうとあの子を見て笑った。あの子もやっと!僕の顔をしっかり見てくれた!瞬きの回数も最初に会った時より減ってるし、どもりも消えたみたいだ。ジュリィが微笑む瞬間、僕の胸の奥で何かがほどけるような気がした。ジュリィは、僕の生まれて最初のお友達、かもしれなかった。僕は心臓に手を当ててみた。さっきまではドクンドクンだったのが、今は時計の秒針みたいだ。僕は天使のお陰で健康になれたみたいで嬉しかった。天使は僕にとっては、ジュリィかもしれなかった。初めて見る明るい笑顔は天使の微笑みみたいだなって思う。大切にしなきゃ!ずっと寂しかった僕にとって、もしかしたら友達になれるかもしれない相手だったから。僕たちがこれからどんな友達になれるのかはわからない。でも、この瞬間だけは忘れたくないと思った。

つづく…

Comments (3)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 季節の予感 第三回 Julieの... | TOP | 小説【季節の予感】第一回BGM... »

3 Comments(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
私の空想、想像が拡がって・・・ (fumiel-shima)
2025-03-30 17:42:47
すずさん、こんにちは。

前回の記事の返信コメントですずさんの構成の意図も少しわかりましたが『季節の予感 第4回 ヒロとジュリィ』で語られるジュンとジュリー、そして
時間差を置いて登場するヒロとジュリィのことなどをわかったつもりでも整理して考えるため簡単な「相関図」を描いて読み直しました。

この第4回の持つ意味は・・そして過去3回までの場面や「天使の賛歌」にどのような形で結び付き、壮大なドラマになるのか・・などを考えるとまさに「時空の拡がり」とすずさんが描く「普遍的な愛や友情」などをも考え、予想もしたくなりましたがそれは門外漢の私のやるべきことではないと気付きました。

そしてこれも思い違いや余計なお節介かもしれませんがこの第4回には形は違ってもすずさんの心の中に、今もいろんな形で残る過去の思いや体験などに近いものもあるのかな?・・それが形や言葉を変えて・・・
或いは登場人物の言葉や心理状態として描写されたのではないか・・・
などと考えたりもしましたがこれはあくまでも私の勝手な想像なので気にしないでください。

これからも何度かあるであろう回想や登場人物たちそれぞれの気持ちや行動がどういう風に描かれるのか楽しみにしています。
それだけになおさら余計な思いが先走って・・・
返信する
Unknown (すず)
2025-03-30 17:53:17
>fumiel-shima さんへ
>私の空想、想像が拡がって・・・... への返信

早速のコメントありがとうございます。
2日前のニュースで、年間の小中学生の自殺者数が、なんと、500人を超えているというではないですか!
自分が学生の頃は、小中学生が自殺すれば、必ずワイドショーなどで取り上げられ、大ニュースになったものでした。今は毎日、子供が自殺しているということですよね、この数字は…
とんでもないことです。学校へイジメで行けない子供達も多い。
今はSNSがあるので、何処までも追っかけてきますよね。
昨日、自宅近くで怒鳴り声が聴こえ、サラ金なのか、理由は分かりませんが、ヤクザ?みたいな声で、テレビでしか見たことがない声がずっと聴こえており、震えあがりました!
近所にこんなのがやって来るとは… 平和は何処へいったのでしょう。死因は殺害なんて、普通になってはいけない筈なのに、怖すぎる世の中になってきました。

ここで出て来たジュリィは、第2回で、ジュンとケンと森の中で出逢った、あの少女です。 あの子の過去は、周辺は、こんな感じだったのです。

と、いうことで、出来れば予想はせず、読み進めて下さいね。
推理小説ではないので🤣🙏
返信する
気付いたとおりでした。 (fumiel-shima)
2025-03-30 18:25:47
すずさん、早速の返信、ありがとうございました。

私もコメント内にも書きましたが予想はしない方がいいと気づきましたのでその情景を浮かべ、理解しながらすなおに読み進めていくようにします。
そのうえでまたコメントを・・
返信する

post a comment

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Recent Entries | ショート ショート