青山潤三の世界・あや子版

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白花のコンロンカ(「翁源紀行」part)

2013-06-15 17:08:39 | 

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今回の“翁源”(モニカの故郷)への旅の目的は、①に年金受領(その後病院での本格診察)までの時間稼ぎ、②にモニカの帰省に同行しての静養、に尽きるのですが、本来ならば、この季節、この地域では、野生アジサイの探索・撮影という大テーマが存在します。

と言うわけで、今回は静養に徹すべきところ、結局は、痛い足を引きずって野生アジサイの調査(はちょっとオーバーな表現だけれど)に出歩くことと相成りました。結局、目的の野生アジサイには出会えなかったのですが、その際に遭遇した、今までに見たことのない白花のコンロンカ(アカネ科)をはじめ、3(4)種のコンロンカについて記しておきます。

その前に、これまでに何度も述べて来たことの繰り返しになりますが、「野生アジサイ」の定義を、ごく簡単に説明しておきましょう。

狭義には、園芸アジサイの母種、およびそれにごく近縁(容易に交配が可能)の野生種。
広義には、アジサイ科Hydrangeaceae(旧ユキノシタ科)アジサイ属Hydrangeaの各種。

実に分かり易いですね。でも実態は複雑です。まず後者について。“アジサイ属”とは、少なくとも現時点では、生物学的な実態を充分に反映した概念ではありません。外観が“いかにもアジサイ的”な種が「アジサイ属」のメンバーであり、一方、外観が著しく異なる幾つかの種は、「アジサイ属」の各種と基本的な形態形質になんら有意差はなくとも、別属として扱われています。アジサイ属の中での各種群(節として扱われることが多い)間の遺伝的な距離よりも、別属とされている幾つかの種と、アジサイ属中の各種群との間の距離のほうが、本当は(生物学的な類縁関係は)ずっと近い場合が少なくないのです。

それらのことを、これまでに指摘し続けてきたのですが、顧みられることがありませんでした。それらの事実は、分子生物額的な手法の解析(DNA解析)が行われるようになって、やっと証明されたのです。改めてアジサイ科(アジサイ連Hydrangeeae)全体を見渡し、「属」の再編を行わねばならないのですが、最終的な判断を下すには、まだ多くの未解明の問題点が残されています。とりあえず現時点では、広義のアジサイ属のメンバー(すなわち広義の“野生アジサイ”として、アジサイ科アジサイ亜科(またはアジサイ連)に含まれる、ほぼ全ての種を想定しておきます。

さて、前者、狭義の“野生アジサイ”。今回はアジサイについて述べる予定ではないので、ごく簡単に結論だけ纏めておきます。アジサイ属のコアジサイ節Series Petalanthaに相当し、大きく3つのグループに分けることが出来ます。3グループは、基本的な形態は共通しますが、細部に於いては明確かつ安定的な相違点が見られます。しかし、グループ間に於いても相互の交配が可能であることから、血縁的にはごく近い間柄にあることが推察し得ます。

●①「園芸アジサイ」の(種の単位での)直接の母種、広義のヤマアジサイHydrangea macrophylla(野生ガクアジサイやエゾアジサイを含む)。主に日本列島に分布、中国大陸からは、ごく少数の(かつ実態未検証の)ヤマアジサイと同一グループに所属すると考えられる種が知られている。

●②本州中部以西~九州、西南諸島、台湾、ルソン島、中国大陸(長江以南)に分布する、ガクウツギHydrangea scandens ~トカラアジサイHydrangea kawagoeana ~カラコンテリギのグループ。

●③中国大陸(北部を除く)から東南アジアにかけての広い範囲に分布する、ジョウザンのグループ(通常、アジサイ属とは別属のジョウザン属Dichroa とされる)。

このほかに、ごくマイナーな存在として、日本固有種のコアジサイHydrangea hirta、沖縄本島北部の山間部に稀産するリュウキュウコンテリギHydrangea liukiuensis、ハワイ諸島固有のハワイアジサイBroussaisia arguta、これらは、中国南部産の数種と共に、“無装飾花”の種です。

今回チェックしようとしたのは、
■②の、主に広西北部(南嶺)から雲南南部山地に分布するカラコンテリギ(雲南産は通常別種ユンナンアジサイHydrangea davidiiとされる)の大陸部での分布東南限地の確認。  
■①(これまで、ごく僅かな種が、福建、広西、湖南、江西、および雲南北部などから記録されている)の、新産地の探索。一昨年、広西北部の貴州・湖南との省境山地で、そのうちのひとつ“ヤナギバハナアジサイHydrangea kwangsiensis”を確認。同種はより広い範囲に分布する可能性があり、また酷似した“ヤナギバアジサイ”が広東北部山地帯から記録されているので、両者の関係の実態を探りたい。

たまたまモニカの故郷の広東北部の村が、江西との省境付近の“南嶺”東端付近に位置し、標高1500m近い幾つかの山塊を擁することから、①②とも分布している可能性があると睨んだのです。といって、足の状態から考えても、予算(交通費・宿泊費など)的な面からも、今回は本格的な探索は難しい。とりあえず、モニカの故郷の村「貴聯」の周辺で、軽く探索してみることにしました。

結局①②とも見つけることは出来ませんでした(③のジョウザンDichroa febrifugaが多数生育)。おおよその推定標高は、400m~800m辺り。①②とも、今後この地域から見つかる可能性は充分にあると思うのですが、僅かながら標高が足らないのでは、という気がします。広西北部のカラコンテリギの生育地は、おおむね標高1500~2000mの山塊の500m以上(1000m前後に多産)の地域。広西西北部のヤナギバハナアジサイの生育地もほぼ同様です(今のところ両種の混成地は確認していない、ともにジョウザンとは混生)。この地域の山々も標高は1500m前後を有しますので、もう一歩奥に踏み込んで探索すれば、発見の可能性はあると思うのですが。

さて、ここからはアカネ科のコンロンカMussaenda parviflora(およびその近縁種)の話。

カラコンテリギの装飾花とコンロンカの萼苞は、ともに純白で、バスの中からや、やや離れた場所からは、区別を付け難いのです。カラコンテリギが豊産する広西北部の山地や、ヤナギバハナアジサイを産する広西西北部の山地では、標高の低いところではコンロンカばかりが見られ、その分布上限付近になって、カラコンテリギやヤナギバハナアジサイが出現します。アジサイ属(ことにヤマアジサイやカラコンテリギのグループ)は、どちらかと言えば温帯系の植物、コンロンカ属は、明らかに熱帯植物です(ただし日本には南西諸島産のコンロンカのほか、もう一種ヒロハコンロンカM.shikokianaを本州の東海地方、四国、 九州に断続的に産し、これがコンロンカ属の分布北限種になると思います)。

屋久島の山麓には、野生アジサイのヤクシマコンテリギHydrangea grossaserrata(上記②のグループ)を豊産し、屋久島を代表する本来ならばもっと注目されても良い野生植物なのですが、他の有名固有種たちに比べて、ずっと粗末に扱われているように思えるのは、とても残念です。

それはともかく、ヤクシマコンテリギに混じってチラホラと見られる、同じような白い清楚な“花”がコンロンカ。僕が始めて屋久島を訪れた50年近く前、熱帯生物の代表ツマベニチョウHebomoia graucippeが、渓流に咲くコンロンカに群がって吸蜜しているのを見て、感動したものです。むろんツマベニチョウに対する知識は少なからずあったのですが、コンロンカについての知識は皆無、図鑑で調べて、屋久島や種子島を分布北限とするアカネ科の熱帯性植物であることを知ったのです。アカネ科Rubiaceaeといえば、本州などではごく地味な花の咲く小さな草本を思い浮かべますが、屋久島の麓の渓流には、野生のクチナシGardenia jasminoidesをはじめ、ギョクシンカTarenna gracilipes、タニワタリノキAdina pilulifera、ミサオノキRandia cochinchinensis、コンロンカなど、花の美しい木本性の種が多数見られ、熱帯地方に繫栄するグループであることを認識しました。

また、ツマベニチョウといえばハイビスカスとの組み合わせが定番ですが、むろん園芸植物、ツマベニチョウにとっては2次的な吸蜜源であるわけです。現在ではハイビスカスを訪れる“人里の蝶”となっているのですが、本来は、(熱帯の各地では)渓流に咲くコンロンカやタニワタリノキなどの野生植物が蜜源であると、納得できた次第です。

そんなわけで、コンロンカは僕のなかで強いインパクトを持っていたのですが、最近はインパクトが薄れつつありました。というのも、中国南部や台湾、フィリッピンやベトナムやラオスなどでは、他にめぼしい花が見当たらない場所や季節でも、このコンロンカだけはいつどこにでも咲いている、熱帯地方での最普通種のひとつという印象があり、それでもって有り難味がやや薄れつつあったのです。

それらの種が屋久島や沖縄のコンロンカと同一種なのかどうか、正確な同定は僕には出来ないのですが、濃い黄色の小さな筒状の花と、純白の大きな萼苞(5裂する萼片のうちの一片が大きく発達し、一見純白の花弁のようにも、あるいは白い葉のようにも見える)の組み合わせは、どの産地のものも似たように見えて、どれも代わり映えがしないのです。

アフリカなどを原産とする種には、萼苞が真っ赤になる「ヒゴロモコンロンカ」をはじめ、様々な色彩の園芸種が存在することは知ってはいましたが、派手な色彩の野生種は、少なくとも中国には分布しないはずです。

今回も、貴聯の周辺(地域A)で、もしやカラコンテリギ?とチェックしたものは全てコンロンカで、屋久島産と同じ半蔓性の花黄の種【Mussaenda sp.Ⅱ】でした。例えば、トカラアジサイが稀産する沖縄伊平屋島でも、最初はコンロンカばかりが目に入り、「もしかしたらこの島のトカラアジサイの記録はコンロンカの誤認?」と諦めかけたのですが、めげずにより山深い地の探索を続けているうちに、トカラアジサイが発見出来ました。諦めてはならない、とは言っても、標高がやや低すぎる(目算400~500mぐらい?)ような気もします。

Mussaenda sp.Ⅱ 広東省詔関市翁源県貴聯 2013.6.4

Mussaenda sp.Ⅱ 広東省詔関市翁源県貴聯 2013.6.12

Mussaenda sp.Ⅱ 広東省詔関市翁源県貴聯 2013.6.12

Mussaenda sp.Ⅱ 広東省詔関市翁源県貴聯 2013.6.13

Mussaenda sp.Ⅱ 広東省詔関市翁源県貴聯 2013.6.13

翌日、貴聯のすぐ(10km前後)北の江西省との省境の峠(地域B)を訪れてみました。標高は少なくとも700~800mぐらいは有りそうです。天然林が結構広がっていて、野生アジサイが生育している可能性は充分。しかし、カラコンテリギもヤナギバハナアジサイ(またはヤナギバアジサイHydrangea stenophyllaなど)も見つけることが出来ませんでした。ちなみに、もうひとつの“野生アジサイ”であるジョウザンは、ABC各地域とも非常に多く見られたのですが。

前日の観察地よりも標高やや高いとはいっても、やはり見られる“白い花”はコンロンカばかりです。それでもって、コンロンカであることが分かった時点で、近寄ることもなく、あまり注目せずにいたのですが、突然気が付きました。花(本物の花)が白い!【Mussaenda sp.Ⅲ】。その後、コンロンカに出会うたびに気をつけてチェックしたところ、この辺りに生えている全てのコンロンカは白花。

Mussaenda sp.Ⅲ 広東(詔関市翁源県)/江西(赣州市大全県)省境付近2013.6.5

Mussaenda sp.Ⅲ 広東省詔関市翁源県/河源市達平県の中間地点境付近2013.6.11

Mussaenda sp.Ⅲ 広東(詔関市翁源県)/江西(赣州市大全県)省境付近2013.6.5

Mussaenda sp.Ⅲ 広東(詔関市翁源県)/江西(赣州市大全県)省境付近2013.6.5

Mussaenda sp.Ⅲ 広東省詔関市翁源県/河源市達平県の中間地点境付近2013.6.11

コンロンカの仲間の魅力は、結局のところ、萼苞と筒状花の色のコントラストにあります。世界の各種を見渡せば様々な組み合わせがあるわけですが、中国や北部インドシナ半島で、僕がこれまで出会った種は、 全て屋久島産と同様に黄花だったはず。「白い萼苞」と「白い筒状花」の組み合わせが存在するとは、これまで考えたことがありませんでした。興味をもってチェックしたところ、この地域のものは、すぐ近くに隣接した貴聯の集団と明らかに異なり、全てが白花の種です。実は数日後、貴聯を再訪した際、(もしかしたら白花種もあるのに見落としているのかも知れない)と改めてチェックしてみました。やはり、黄花のコンロンカばかりでした。

もう一ヶ所、貴聯から広東/江西の峠とは反対側に位置する(やはり10~20kmの距離)、隣町との境の峠の周辺(地域C)にも足を運んでみました。ここも全てが白花。(後述する木本性の種を除き)黄花の個体はひとつも見られませんでした。標高は地域Bよりはやや低く、地域Aよりはやや高いような気がします(600m前後?)。一応、より低所では「黄花」、より高所で「白花」ということも出来そうなのだけれど、標高が、それほど違うとも思えない。中間形質の個体が見当たらないこと、ガク片の形に一定の差があること、などから、「黄花種」と「白花種」は、明らかな別種であると考えています(両者の“混生地”もどこかにあると思うのですが)。

そして、興味深い現象がもうひとつ。白花の産地には、「白い萼苞」+「白い筒状花」の集団だけではなく、白い筒状花だけをつける(すなわちコンロンカがコンロンカである所以の白い萼苞を欠く)株【Mussaenda sp.Ⅳ】も少なからず(というよりも半々ぐらいの割合で)見られる、ということ。

Mussaenda sp.Ⅳ 広東省詔関市翁源県/河源市達平県の中間地点境付近2013.6.11

Mussaenda sp.Ⅳ 広東省詔関市翁源県/河源市達平県の中間地点境付近2013.6.11

Mussaenda sp.Ⅳ 広東(詔関市翁源県)/江西(赣州市大全県)省境付近2013.6.5

Mussaenda sp.Ⅳ 広東(詔関市翁源県)/江西(赣州市大全県)省境付近2013.6.5

Mussaenda sp.Ⅳ 広東(詔関市翁源県)/江西(赣州市大全県)省境付近2013.6.5(痕跡的な萼苞が生じています)

これは“個体変異”とか“たまたま”というレベルではなく、萼苞を欠く花序をつける株は全ての花序の萼苞を欠き、萼苞を有す花序をつける株は全ての花序に萼苞を有す、という、極めて安定した現象を示します。ちなみに貴聯の黄花種の集団中には、萼苞を欠く花序の株は、全く存在しません。したがって、この両者も、それぞれ独立種である可能性が考えられますが、萼苞の有無以外の形質に有意差が見られないこと、花序を良く確かめると、極めて僅かではあるのですが、未発達の白い萼苞の痕跡がときに出現することなどから、一応、同一種の個別の表現形、と暫定的に解釈しておきます。

黄花の種にも、もうひとつ別の種があります。半蔓性でコンパクトな葉をもつ他の各種と異なり、葉が大型で、柔らかいといえ直立木本になる【Mussaenda sp.Ⅰ】です。花の形も他の各種と明らかに異なり、ことに萼片が楕円型で被針状にならないことが大きな違いです。おそらく、他の2(3)種とは、グループが異なるものと思われます。この種は、産地1では黄花の半蔓性種に、産地3では白花の半蔓性種に混じって同じ場所に見られますが、今のところ産地2では確認していません。

Mussaenda sp.Ⅰ 広東省詔関市翁源県/河源市達平県の中間地点境付近2013.6.11

Mussaenda sp.Ⅰ 広東省詔関市翁源県/河源市達平県の中間地点境付近2013.6.11

Mussaenda sp.Ⅰ 広東省詔関市翁源県/河源市達平県の中間地点境付近2013.6.11

Mussaenda sp.Ⅰ 広東省詔関市翁源県/河源市達平県の中間地点境付近2013.6.11

Mussaenda sp.Ⅰ 広東省詔関市翁源県貴聯 2013.6.12

以上の観察結果は、半径50kmほどの非常に狭い範囲に於けるものです。この一帯だけでなく中国の他の地域でも同様の状況にあるのかどうか、資料を持ち合わせていないため全く把握し得ていません。

はじめに記した野生アジサイ(カラコンテリギやヤナギバハナアジサイのグループ)では、装飾花を有するか欠くかで、種の帰属の判断が成されているようです。それが実態を反映しているのか否かは不明です。【Ⅲ】と【Ⅳ】の関係に於いても似たことがいえそうです(個体変異の範疇に入るのか、何らかの安定的な表現形なのか、種が異なるのか、等々)。それらのことと併せて、今後の検討課題としたいと思います。


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