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Gentiana sp. 小型リンドウの一種⑱ [続] (四川省康定県~道孚県県境) 〔Sect. Chondrophylla小龙胆组〕
四川省甘孜藏族自治州康定県‐道孚県県境(塔公北方)alt.4100m付近 2009.7.24 (以下全て同じ)
おそらく、前回紹介した青花種と同じ、弯叶龙胆 Gentiana curviphylla=プライベート・ネーム「ベニヤクアオヒメリンドウ/紅葯青姫竜胆」)。
この2枚の写真を見る限りに於いては、前回に記した「雄蕊の葯と昆虫たちの関係」は、単なる偶然だったのかも知れない。ミヤマシロチョウ属の一種Aporia martineti、甲虫の一種(このあと花に辿り着いている)の来訪時とも、雄蕊の葯は紅色のまま残されている。ということは、前回(第38回/39回)の僕の「推察」は当たっていなかったことになる。まあ、不思議は不思議のまま残されていた方が良い。
Gentiana sp. 小型リンドウの一種⑲ (四川省康定県~道孚県県境) 〔Sect. Chondrophylla小龙胆组〕
Gentiana sp. 小型リンドウの一種⑳ (四川省康定県~道孚県県境) 〔Sect. Chondrophylla小龙胆组〕
今回の観察地の、康定県塔公(欧米人に人気のチベット集落の一つ)と道孚県八美との境の峠上草原では、前種(ベニヤクアオヒメリンドウ)を含め三種の小型リンドウを撮影した。
両種とも、萼片や茎葉の特徴から考察するに(コケリンドウと同一seriesに含まれる前種とは違って)少なく
ともコケリンドウの仲間(卵萼系Ser.Orbiclatae*)ではないが、前種と同じ場所での撮影ということで、ここで
紹介しておく(*注:第38回の冒頭部分の記述で『青=流苏系Ser. Fimbriatae/白=卵萼系Ser.Orbiclatae』
としたのは単純誤記、その逆が正しい)。
白花(プライベート・ネーム「ウデフトシロリンドウ」)は、藍白竜胆Gentiana leucomelaenaと同定して(後述のGentiana aperta开张龙胆のシノニムと考えることを別とすれば)まず間違いないだろう。
ピンクのほうは、(プライベート・ネーム「モモイロヒメリンドウ」)現時点でのチェック過程においては、外観の似ている匙叶龙胆 Gentiana spathulifoliaとしておくが、こちらは全く自信はない。
両者とも、全体的な形質は、最も一般的な小型リンドウ類の特徴を示していると言ってよい。茎は叢生。一茎に一花。目立つロゼット葉は無し。茎葉は小さく細く、立ち上がらずに茎に密着。萼裂片も反り返らない。
ということで、「中国植物志」では、「Gentiana leucomelaena(ウデフトシロリンドウに相当)」「Gentiana spathulifolia(モモイロヒメリンドウに相当?)」共に、ハルリンドウ(座生竜胆Gentiana thunbergii)やヒナリンドウ(水生竜胆Gentiana aquatica中国名は種小名の直訳で別に「水生」というわけではない)と同じ、「小龙胆组Sect. Chondrophylla」の「小龙胆系Ser. Humiles」に含まれている。
しかしながら、「ウデフトシロリンドウ」に関しては、“雄蕊の花糸の基半部が著しく太くなる”という他のどのリンドウも有していないと思われる極めて顕著な固有の特徴を持っている。にも関わらず、所属するsectionは分けられていないし(他の分類形質評価とのバランスを考えれば別組に置かれても不思議ではない)、seriesの段階でさえ、分けられてはいない(というよりも、その形質に関する記述自体がない)。
大きさや形や色とか、どの部分が何ミリから何ミリで、何個から何個あって、とか、、、細部については“これでもか”というぐらいに事細かな数値を示してはいるが、肝心のベーシックな部分には、ほとんど目を向けないでいる。それが中国の「最先端分類学」なのである(日本も似たようなものだけれど)。
雄蕊の花糸に関する記述も「花丝丝状锥形」と極めて簡単に記されているだけだ。「糸状」でかつ「錐形」ということは、一応「先細りの紡錘形」を示していることになるのだと思うが、他の部位の(重箱の隅をつつくがごとき)詳細な数値記述などを想えば、余りにも簡単過ぎはしないか(英語版には花糸の長さの数値が示されているのみで特異な形についての記述はない)。
分布は、西藏、四川、青海、甘肃、新疆の、標高1940m~5000m、インド、ネパール、モンゴル(英語版では他に中央アジア諸国も示されている)。いずれにしろ、広い分布域を持つ種のようで、全ての地域集団が種の段階で相同か否かにはついては疑問を差し挟む余地があると思われる。
因みに、英語版の付記には、(一部欧米の研究者が)本種を青海省固有種Gentiana aperta开张龙胆のシノニムとする(同じ命名者のMaximovichによって広域分布のleucomelaenaよりも狭域分布のapertaのほうが10年早く記載されている)見解があるが、「中国植物志」では両者を別種と見做す、としている。
確かに(花被片の斑点パターンが明瞭に異なることを除けば)両者はよく似ていて、Gentiana apertaも(「ウデシロヒメリンドウ」同様に)太い花糸を持っている。両者を分けるならば、おそらく地域ごとに多様な変異を示すであろう広域分布種のGentiana leucomelaenaも複数の分類群に分けられるべきではなかろうか?
「中国植物図像庫」の写真で判断する限り、雲南産やチベット産のGentiana leucomelaenaと、基準産地である青海省の個体の形質には、一定の安定的距離があると思われ、Gentiana apertaを分けるとすれば、それらをも分割されて然るべきと思われる。換言すれば、広域分布種としてのGentiana leucomelanaを認めるなら、狭域分布種Gentiana apertaもそこに包括統合するのが“筋”ではないか、と思う。
ただし、Gentiana apertaとGentiana leucomelana原記載産地は共に青海省であることから、そう簡単に処理してしまうわけにもいかない。ここは「中国植物志」に従い、両者を別の種に置き、僕のチェックした限りに於いては青海省産leucomelana原記載個体群と変わらない四川省塔公産も、Gentiana leucomelanaとしておく。
さて、「モモイロヒメリンドウ」のほうだが。
斑紋などからは別のseries(线叶系Ser.Linearifoliae)に所属する「刺芒龙胆Gentiana aristata」(後述予定)に似ているように思える。しかし、ここでは茎葉などの特徴から、Gentiana leucomelanaやハルリンドウなどと同じ「小龙胆系Ser.Humiles」に所属する「匙叶龙胆Gentiana spathulifolia」としておく(あくまで暫定的処置)。
右の花では、太い花糸の雄蕊が花冠内面にへばり付いている様子がわかる。
右は中央集結時の雄蕊の葯、左は待機完了後の雄蕊。
左の「ウデフトシロリンドウ」は雄蕊待機前、右の「モモイロヒメリンドウ」は雄蕊待機後。
塔公(四川省甘孜藏族自治州康定県)と八美(同・道孚県)の境界にて。奥に見えるのは雅拉雪山(約5800m)。以上全て2010.7.24