今日も素晴らしい天気だ。外気温5度、室温15度、湿度40%。キリリと冷え込んだ冷気が心地よい。
いよいよ、その日がやってきた。思えば、チェンバロ製作者久保田彰さんに、八ヶ岳にお越しいただいたのは、5月22日だった。八ヶ岳の美しい景色、澄み切った青空、紅葉の森にチェンバロの音を響かせていただけませんかとご依頼した。それから5か月間にわたって、演奏者・スタッフが一丸となって、今回の「ミューズの調べ」コンサート、の準備を進めてきた。それが、今日コンサート当日を迎えることとなったと思うと、心がときめかざるを得ない。
朝食後、早速、7時過ぎから9時過ぎまでフルート練習をする。私自身も「ちゃみたくハウス音楽教室」の生徒の一員として、コンサート前に日ごろの練習の成果を発表することになっている。演奏曲は、バッハ管弦楽組曲第2番から「ポロネーズ」「メヌエット」「バディネリ」の3曲だ。ややこしいパッセージの運指を最初は遅く、次第に速いテンポでひたすら繰り返した。まぁ、それなりに仕上がったので安心した。
美しく装ったウリハダカエデが私たちの出発を見送ってくれた。
コンサート会場「セレナーデ」に、演奏者・スタッフが10時に全員到着。チェンバロの調律が始まった。
早速「ゲネプロ」だ。プログラムに沿って、本番通りに進行していく。演奏者は最後の入念なチェックをする。12時終了。
昼食休憩後、スタッフは直ぐに、各々の持ち場に就く。受付の準備が整った。
1時になると、Fさんと先生によるシューベルト「鱒」の二重奏で、生徒の発表会が始まった。続いて、Fさんが平澤直子さんのチェンバロ伴奏でラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」を落ち着いて演奏した。
次は、私の番だ。「ポロネーズ」は、今朝運指練習をした甲斐があって、指と肩の力が抜けて意外とスムーズに演奏できた。「メヌエット」は、良くも悪くもこれ以上の演奏はできない。「バディヌリ」を吹き始めると、何故か指に力が入ってきて、どうしてもそれを戻すことができない。とうとう、聴かせどころで、落ちつきを失ってしまって、わけのわからない音を出してしまった。練習では、できていたところなので残念である。改めて人前で演奏することの精神力の無さを痛感する。
続いてKさんFさんのリコーダー二重奏「グリーンス・リーブズ」、二人ともよく練習していて、落ち着いた演奏だった。最後は、私とFさんのフルート二重奏で「Home Sweet Home」を演奏した。これもまあまあの出来だったかな。
私の出番が終わって、肩の荷が下りた。コンサート本番が始まる頃には、ホールは満席になったので、あとから椅子を運び込むと言う一幕もあった。
先ずは武藤哲也さんのリコーダー演奏、A.ダニカン・フィリドール ソナタ二短調。ゆっくりしたテンポの出だしから、最後のFugueまでチェンバロとリコーダーの温かい音が心地よく響いた。
次はL・ヴィンチのフルート・ソナタニ長調 鈴木卓さんから「レオナルド・ダ・ヴィンチ」ではなく、「ダ」がありませんとの解説で、会場の雰囲気は和んだ。
続いて、久保田彰さんから「チェンバロの話し」を10分間にわたってお聞きした。鍵盤楽器だが、チェンバロは、ギターと同じようにひっかいて演奏するが、ピアノは叩いて演奏する楽器であること、フランス革命でチェンバロは王侯・貴族の富の象徴として破壊され尽くされたこと、今日、古楽器ブームに乗ってチェンバロへの関心が高まってきていることなど、落ち着いた分かりやすい説明だった。
その後、矢島吹渉樹さんのチェンバロ独奏だ。バッハ平均律第Ⅱ巻より「プレリュードとフーガ一番ハ長調」、チェンバロの優雅で美しい音色が静かに、時に華麗にホールに響き渡った。
前半最後は、鈴木卓さんのバッハフルートソナタロ短調BWV1030。この曲は、フルートソナタとはいうものの、チェンバロの聴かせどころも多く、二つの楽器が絡み合った実に聴きごたえのある演奏だった。
3時過ぎに前半が終了して30分の休憩に入った。ホール内カウンターでコーヒー・紅茶・野草茶とクッキーのサービスが用意されいる。これは、増田珈琲館・清里ホームサービスさんのご協力によるものである。観客の皆さんは、香り高いコーヒーを啜りながら、しばし緊張感から解放され、寛いだ雰囲気を楽しまれていた。
第2部はフルートの演奏が続く。まずは、フルート2本とチェンバロの3重奏でテレマンのスケルッツオだ。vivaceの速いテンポで二本のフルートがぴったり呼吸の合った、楽しい演奏だ。
続いて、E.HovlandのCantus1という、チェンバロとフルートの現代曲だ。現代曲らしい、時には不気味さのある、不確実な現代を感じさせる曲だ。
次は、宮城道雄「春の海」。チェンバロが、同じ弦を弾く琴の音との近似性があることから、まさにぴったりと言った響きだった。それに導かれて歌いだしたフルートの響きがいい。
やや早めのテンポで中間部が終わると、最後はまた、ぐっとテンポを落とした、雅な響きとなった。演奏が終わるとホールは期せずして、感動のどよめきが聞こえる。
最後は、おなじみ、ジュナンの「ヴェニスの謝肉祭」だ。親しみやすい旋律の変奏がフルートが繰り出す華麗な技巧に彩られて、次々と聴こえてくることの心地よさ、これには唸らざるを得ない。演奏が終了するや「ブラボー」の声が上がったのもうなずける。
鳴りやまぬ拍手を受けて、鈴木さんはバッハ「シチリアーノ」、イベール「間奏曲」を演奏。楽器をもたずに舞台にでてきた武藤さん、「チェンバロはピアノに、リコーダーはフルートに同じように追いやられたが、今日、その良さが見直されてきた」と軽妙な語り口。演奏がないのかと思いきや、胸ポケットからリコーダーを持ち出し、グノーのアベマリアを澄んだ音色で演奏すると、客席から大きな拍手が巻き上がった。
最後は、鈴木麻美・卓さんのタンゴ「ラ・クンバルシータ」の華やか演奏で締めくくられたが、ホール内の拍手はいつまでも鳴りやまなかった。観客の皆さんから、口々に「本当に良かった」「聴きごたえがあった」などの言葉がもれ聞こえてきて、このコンサートにかかわってきた者の一人として実に嬉しかった。
演奏終了後は、スタッフだけではなく、Kさんの友人など多くの人達のご協力を得て後片付け、掃除などを手際良く行うことができた。
会場の後片付けが終わると、レストラン「睦」さんでの打ち上げが待っている。今回のコンサートを主催したキムラヤガーデンズ&TKボタニカルズさんから、演奏者・スタッフの方々に対してお礼の言葉があった後、チェンバロ工房の久保田さんの発声で「乾杯!」となる。お客さん達から、「素晴らしかった!」「楽しいコンサートだった」などの嬉しい言葉をいただいたことから、なんとも美味しいビールとなった。
演奏者・スタッフの皆さん方の「コンサートを成功させよう!」との、心を一つにした熱い思いとハーモニーが、見事に花を咲かせたものと思いたい。最後に、チラシを快く配布したり置いていただいたお店、ペンション、ならびに「ミューズの調べ」コンサートに足をお運びいただいた観客の皆様方に心からお礼の言葉を述べさせていただきます。本当にありがとうございました。
今、八ヶ岳は美しい紅葉で真っ盛りだ。