日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





「上」の続き)


 一方、今回の「経済制裁」に対する中国側の反応も速かったですねえ。間髪入れずに外交部報道官が定例会見でこの事態に言及しています。

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 ●「一方的」とけん制=円借款供与決定見送りを非難-中国(時事通信 2006/03/23/19:01)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060323-00000110-jij-int

 【北京23日時事】中国外務省の秦剛副報道局長は23日の定例記者会見で、日本政府が2005年度の対中新規円借款に関して年度内の供与決定の見送りを決めたことについて「中日双方の合意に基づき、円借款問題の円満な終了は双方の利益に合致する」とした上で、「日本側の一方的な決定は日中関係改善の雰囲気につながらない」と非難した。さらに、双方の対等な協議によって一致を得る原則に基づき適切に問題解決を図る方針を示し、日本ペースの動きをけん制した。

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 でも実はこれよりも早く、中国国内では「チャイナ・デイリー」(中国日報)電子版が速報しています。

 ●日本が今年度対中円借款の決定延期へ……安倍官房長官(中国日報 2006/03/23/16:17)
 http://news.xinhuanet.com/world/2006-03/23/content_4336501.htm

 16時17分ですよ。正に間髪入れずといった様相です。そして上の秦剛副報道局長による外交部報道官談話となります。原文はこちら。

 ●日本の一方的な対中ODA凍結は中日関係のためにならない(新華網 2006/03/23/20:00)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-03/23/content_4337546.htm

 
「ODAは一方的な施しではない。互利互恵のプロジェクトだ」という台詞がここで出てくるのですが、こういう啖呵を切るシーンを秦剛に任せるのはまだ無理でしょう。転出した孔泉がいてくれたら……といったところです。無理といえば頭を下げて援助されるべき側が「カネを出さねえとはどういう料簡だ」と凄んでいるのも無理無体ですねえ(笑)。

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 これに続いて胡錦涛の御用新聞である『中国青年報』(2006/03/24)が東京特派員発の記事を掲載していますが、これがなかなか面白いのです。

 http://zqb.cyol.com/content/2006-03/24/content_1341936.htm

 ここには前日に秦剛が言い放った「ODAは一方的な施しではない」調の文言は全く出てきません。援助凍結の原因は日中関係の悪化で、それは先のガス田関連会議における中国側の提案が尖閣諸島方面を含んでいたことによって日本側の態度が硬化したため、とあります。日本の新聞と違って靖国神社が登場しません。まるで中国側の提案がこういう事態を招いた、といわんばかりの記事です(笑)。

 ……これは特派員の怠惰でしょう。日本の新聞を買い集めてそれを基に記事を作らない限り、なかなかこうは書けないものですから(笑)。さらに秦剛談話とは掌を返したかのように、円借款の貢献度がいかに高かったかなどというある意味「哀願」調の部分があったりもします。

 『新京報』は逆に「これは右翼の策動だ」という専門家の意見を記事にしています。これはこれで秦剛談話の内容とは一線を画しており、どうも統一がとれていません。

 http://news.xinhuanet.com/world/2006-03/24/content_4338585_1.htm

 中国国内メディアの足並みが揃っていないのは、まだ党中央の動揺が続いているということなのでしょうか。確かに「援助凍結」による直接的なダメージを除けば、中国側には戦慄すべきポイントが3点あり、それが脊髄反射や関連報道の混乱にもつながっているように思います。

 第一は前述した通り、日本が「経済制裁」という予想外の強硬策に出たことへの驚きです。第二にその措置を発動するに至るまでの時間が短かったこと(=中共による日本政界分断策が全く機能していない)。そして第三としては、先の全人代(全国人民代表大会=立法機関)閉幕後の首相記者会見で温家宝が日中関係の促進策として、

 ●政府間戦略対話を継続し、中日関係の障害を除去。
 ●民間交流を強化し、相互の理解と信頼を増進。
 ●両国の経済貿易関係を安定、発展させ、双方が利益を得られる協力を拡大。

 という3提案を行いましたが、今回の「経済制裁」にはそれを踏みにじるニュアンスがあるということです。要するに温家宝の面子が丸潰れといったところでしょうか。

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 中共のリアクションに対して、日本側は涼しい顔をしていますね。こういうときはやはりファンタジスタの出番でしょう。

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 ●対中円借款(外務大臣会見記録 2006/03/24)
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/gaisho/g_0603.html#7-C

 (問)中国に対するODAですが、年度内の閣議決定を見送る方針を昨日発表しましたが、判断された理由について教えて下さい。
 
(外務大臣)確か、官房長官から諸般の事情と言われたのではないですか。
 
(問)大臣としてはどのようにお考えですか。
 
(外務大臣)同じです。
 
(問)中国からこれに関して反発が出ていますが、それについては。
 
(外務大臣)出ていないと思います。

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 外相就任後の最初の記者会見もそうでしたが、澄ました顔で無視同然の扱いを受けるというのが中共にはいちばんこたえるのではないかと思います(笑)。

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 最後に、やはり「楽しい中国ニュース」(2006/03/24)で既報しているこの記事。

 ●中国が日本の国連分担金修正案に猛反発。
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-03/23/content_4337486.htm

 日本も中国政治が不安定になりがちな全人代直後のこの時期、結構色々と仕掛けているようですね。これもまた「構造改革」の一環とみてやっていいでしょう。

 ……あ、5月10日に来日予定の李登輝氏の扱いについて「一民間人なのだから特に問題としない」という政府の態度もそうですね。中国が最も目にしたくないのは、ポスト小泉政権もこうした「構造改革」路線を継承することでしょう。

 それにしても「経済制裁」とは妙手でしたね。対中外交において、まことに良き前例を開いたものだと思います。



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 前回のコメント欄で話題になっていた対中ODA(政府開発援助)凍結の話でもしますか。実は姉妹サイトの「楽しい中国ニュース」(2006/03/24)でもう扱っているのですが、とりあえずそこでの適当コメントを臆面もなく引き写します。

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 別に「白樺」への反発ではないんだけど、中共による相次ぐ不埒な悪行三昧への鉄槌でしょうな。「ODAがなくてもやっていける」と言ったのは温家宝か李肇星か忘れたけど、そりゃこれまで巨額の援助を受けた後だから平気でそんなことを口にできる訳だわな。……にしても舐めた振る舞いでしょこれは。

 とはいえ中共がカナーリ戦慄しているのはこの件を速報した上に外交部報道官がすぐコメントを発表したことでもわかる。少しは余裕みせたらどーよ。「ODAは一方的な施しではない。互利互恵のプロジェクトだ」なんて言ってたけど、日本にとってはもはや互利互恵じゃないから施しを止めたまでで。

 それにしても今回、日本側はサクサクと事を進めて決定・発表したね。中共の戦慄も援助云々よりそのあたりに起因しているに違いない。

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 ……今回はもう少し踏み込むことにします。問題はこの出来事をどう捉えるかということです。純粋に援助凍結とみるなら、前回コメント欄で「774」さんが指摘して下さったように、ODAだけじゃなくアジア開発銀行をはさんだ迂回融資のような形で日本のカネが中国に入っていることを考えなければなりません。ODAを語る上で忘れてはならない重要なポイントです。

 http://turbulent.seesaa.net/article/9414067.html

 ただ今回のケースについていえば、私はその角度から切り込むと問題を見誤るように思うのです。

 今回のケース、これは
「対中経済制裁」ではないでしょうか。

 援助額の多寡とか他の援助ルートの有無とは関係なく、日本政府が昨今の日中関係に鑑み、自ら決断して対中円借款の凍結に踏み切った。きわめて政治的なアクションです。

 1989年の天安門事件に対する経済制裁は西側諸国の動きに同調した、ある意味受動的な措置でした。でも今回は違います。「対話と圧力」でいうところの「圧力」を明確に行使したもの、と私は捉えています。

 その効果がどれほどのものになるのかはともかく、これは経済制裁なのです。先走って言ってしまうと、日本がそれを即断というに近い速さで決定し、実行へと移したことも大きなポイントであり、大きな変化ではないかと思います。

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 ともあれ時系列で事態を追ってみましょう。私のみた限りでは、このニュースを最初に伝えたのは『毎日新聞』(電子版)でした。3月23日の自民党外交関係合同部会で本決まりになる前に、外務省がその肚を固めたという報道です。

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 ●対中円借款:関係悪化で、閣議決定は当面見送り 05年度(毎日新聞 2006/03/23/03:00)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20060323k0000m010174000c.html

 (前略)
外務省は05年度についても今月末に閣議決定する予定だったが、今月7日に北京で開かれたガス田協議で中国側が尖閣諸島周辺海域の共同開発を提案したことに自民党内から反発が噴出。当面の円借款決定を見送り、ガス田協議などでの中国側の対応を見極めながら検討することにした。

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 ……と、あります。このあと決定が出て各紙が報じることになりますが、『読売新聞』『毎日新聞』の記事を挙げておきます。

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 ●05年度の対中円借款、年度内の新規決定見送りへ(読売新聞 2006/03/23/13:11)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060323it04.htm

 (前略)
対中円借款は例年、年度末に新年度以降に実施する分を閣議決定している。しかし、今年度は、小泉首相の靖国神社参拝問題や東シナ海のガス田開発などを巡り、日中関係がぎくしゃくしているため、自民党内から「供与決定は慎重にするべきだ」という声が強まっていた。外務省によると、対中円借款の決定が年度をまたいだのは、過去、1979年度分がずれ込んだ例があるのみで、異例という。

 外務省筋は23日、「今、自民党内で決定できる雰囲気ではない。新年度に改めて協議するが、ガス田協議などでの中国側の対応などを見ながら決めていくことになるのではないか」と語った。塩崎副大臣は同日の記者会見で、「資金が先方にいくのは1、2年先なので、(決定先送りによる)大きな影響はない。与党内には日中間の様々な問題について様々な意見があり、(決定には)日中双方の努力が必要だ」と述べた。

 政府は対中円借款について、中国が急激な経済成長により、開発資金を自力調達できると判断し、北京五輪が開かれる2008年度をメドに、新規供与を終了する方針を、昨年3月に決定している。

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 ●対中円借款:閣議決定、当面見送り ガス田で関係悪化受け(毎日新聞 2006/03/23/12:52)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/news/20060323k0000e010071000c.html

 塩崎恭久副外相は23日午前の自民党外交部会で、05年度の対中円借款について年度内の閣議決定を見送る方針を表明した。東シナ海のガス田開発をめぐる日中協議の難航などで自民党内の対中感情が悪化していることを受けたもので、塩崎副外相は同日の記者会見で「双方の努力がいる問題」と指摘し、ガス田協議などでの中国側の対応を見極めながら「06年度のしかるべき時期」の供与を検討する考えを示した。
(中略)

 これに関連し、安倍晋三官房長官は23日午前の記者会見で「日中関係の今後の状況を踏まえつつ、早期の供与が可能となるように政府内の調整を進めていく」と述べた。

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 凍結の原因のひとつとされた東シナ海ガス田紛争、具体的には3月6~7日に開かれた日中協議において、中国側が「白樺」(春曉)などに関するデータ提示を拒否した上に日本側の共同開発案も一蹴。その一方で、日本の固有の領土である尖閣諸島方面を含む共同開発案を新たに提案してきたことかと思います。これで日本側の態度が硬化しました。

 ●中国のガス田共同開発案は尖閣・日韓大陸棚周辺(読売新聞 2006/03/08/12:06)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060308it03.htm

 中国側の舐めた振る舞いには明確な意思表示が必要、ということで「対話と圧力」、つまり協議は今後も継続していくものの、一方で対中円借款凍結という前例のない「経済制裁」に踏み切ったのではないかと私は考えています。

 それにしても、決断までに1カ月すら要しなかったこと、しかも公明党など少数意見を除けば異論が出ずにすんなりと凍結案が通ったところに、日本側の変化を感じずにはおれません。構造改革の成果ではないでしょうか。

 私は小泉政権の掲げる「構造改革」には実は対中外交も含まれていて、具体的には麻生外相のいう「上下関係のない対等な二国間関係」の実現、という真っ当な課題に一貫して取り組んできたとみています。言うべきことは言う。やるべきことはやる。譲れない一線は絶対に譲歩しない。……極めて異例とされる今回の「経済制裁」も、その一表現ではないかと思うのです。


「下」に続く)



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