台湾の新情勢に対して「中共の反発は必至だ」が「中共上層部の混乱は必至だ」になるかも知れないということです。「なるかも知れない」とはわれながら弱気ですが(笑)、この新情勢、実は米中間で示し合わせての出来レースの可能性も否定できないからです。
……と前回の冒頭で書きました。その後の動静を見守っていたのですが、つい様子見に徹し過ぎてしまったようです。気がつけば中共政権における「政治の季節」に入ってしまっていました。毎年3月に開かれる重要会議、「全人代」(全国人民代表大会)と「全国政協」(全国政治協商会議)のことです。全国政協は3月3日にすでに開幕しており、5日には全人代も開幕する予定です。
全人代などについては別の機会に譲るとして、とりあえず台湾の新情勢についての続報を。
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●統一委を事実上廃止 陳総統、基本方針変更(共同通信 2006/02/27/22:06)
http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=YNS&PG=STORY&NGID=intl&NWID=2006022701003313
台湾の陳水扁総統は27日、国家安全会議を招集、中台統一を前提とした対中関係の諮問機関、国家統一委員会と、同委が採択した国家統一綱領について「運用を終える」と述べ、事実上の廃止を決定した。(後略)
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ということで、台湾政府は2月27日、「最終的には統一を目指す」という建前を投げ捨てました。「国家統一委員会」と「国家統一綱領」というこの建前、すでに形骸化していて実際には機能していませんでしたが、これを捨てることによって「中共政権との統一」以外の道、つまり「独立」(中共とは別の国家という現状を正式に宣言すること)という選択肢が生まれたことになります。これは同時に、「台湾の未来は、台湾の住民が決める」という強い意思表示ともいえるでしょう。
ところで、この行動は突如行われたものではありません。陳水扁は旧正月の元日にあたる1月29日の年頭談話でこの構想をぶち上げており、この時点で公に予告されていたものです。それから1カ月して動いた訳ですから、中共政権にせよ台湾の後見人たる米国にせよ、心の準備は一応できていたことになります。
特に台湾と米国の間では、この件をめぐるやりとりが「予告」以来、水面下で断続的に行われていたようです。香港紙『明報』によると、2つの「建前」を捨てるという行為をどう表現するかで辞書を片手にした突っ込んだ話し合いが続き、「中止」か「停止」か「凍結」か……などと様々な候補が上げられたなかで、最後に「終止」(運用終了)という言葉が選択されたのは発表直前の2月25日だったとのこと。
●表現めぐる米台の事前協議、4日前に結論(明報 2006/03/01)
http://hk.news.yahoo.com/060228/12/1lmi2.html
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こうした動きがあった訳ですから、こと台湾問題には極めて神経質となる中共政権に対して、米国から事前に非公式ルートで「あの件は実際にやるから、心の準備よろしく」といった通告があっても不思議ではないでしょう。「中共の反発は必至だ」という通りに中共政権は強い反発姿勢をみせたのですが、これもある程度予定された行動だったのかも知れません。たとえ中共側にとって予想外だったとしても、体面がありますから脊髄反射は当然のことです。
体面とは台湾及び国際社会に対して示しをつけるということであり、恐らくより重要なのは、国内に向けて「台湾問題では絶対に譲歩しない。独立は断固として許さない」という強硬姿勢をとってみせるということです。
……ただし当ブログで常々指摘している通り、中共政権といっても一枚岩ではなく、形式上の最高指導者である胡錦涛・総書記の基盤も磐石ではありません。最高指導者ではあるけれども、最高実力者に相応の統制力を具備していない。そこで「中共上層部の混乱は必至だ」ということになる訳です。
全人代・全国政協というのは「安定・団結」をアピールするための政治的イベントでもあります。内実はどうあれ「何もかもみな上手くいっている」という幻想を演出し、2003年にはそのために中国肺炎(SARS)が当時北京で流行していたという事実まで隠蔽されました。
そういうイベントの矢先に起きたのが陳水扁のアクションです。時機を選んで全人代・全国政協開幕直前というタイミングを狙ったものだとすれば、これはなかなかの政略。というより、陳水扁にそのタイミングでやらせた米国が不敵な笑みを浮かべているようで興味深いものがあります。胡錦涛の4月訪米に向けて、予定されている首脳会談でのハードルをちょっと高くしてみた、という印象です。
で、「中共上層部の混乱は必至だ」という話になりますが、混乱といえるのかどうかはともかく、中共において台湾問題に最も敏感な軍部の反応が突出しています。……とは、中国国内メディアの中で、人民解放軍機関紙『解放軍報』による関連記事が他に比べると際立って多いということです。
もう面倒くさいので以下に並べてしまいましょう。2月27日の陳水扁による「建前放棄」の前日に異を唱えた記事を含め、2月27日から3月3日における『解放軍報』に出た関連記事は次の通りです。
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http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-02/26/content_417977.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-02/28/content_420151.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-02/28/content_420174.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-02/28/content_420196.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-02/28/content_420205.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-02/28/content_420206.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-02/28/content_420218.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-02/28/content_420619.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-02/28/content_420625.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-02/28/content_420632.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-02/28/content_420633.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-02/28/content_420634.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-02/28/content_420644.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-02/28/content_420647.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-02/28/content_420654.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/01/content_421071.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/02/content_422145.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/01/content_421164.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/01/content_421166.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/01/content_421179.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/01/content_421346.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/01/content_421347.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/02/content_422125.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/02/content_422126.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/02/content_422144.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/02/content_422285.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/02/content_422583.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/02/content_422584.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/02/content_422650.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/02/content_422652.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/02/content_422669.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/03/content_423446.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/03/content_423447.htm
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-03/03/content_422793.htm
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中共政権自体が強い反発を示しているのですが、その中でも軍部、特に機関紙を掌握している軍主流派がことさらに騒ぎ立てているという観があります。ただ軍主流派は胡錦涛擁護の立場を崩していないようにみえますし、前掲の膨大な記事もその多くが国営通信社・新華社配信記事を転載したものですから、党上層部内で異を唱えているという訳ではありません。
とはいえこれだけ突出した姿勢をみせられると、胡錦涛擁護のスタンスを保ったまま、軍主流派の発言力が今後一層強まるのではないかという気にさせられます。「擁護」といいつつ、ありていは軍主流派が胡錦涛の鼻面を引きずり回している……という形跡は昨年末から出ていましたが、その傾向が今後より明確になるのではないか、ということです。
3日に開幕した全国政協では、そのトップである賈慶林・主席の活動報告に「台湾独立を断固許さず」といった内容が盛り込まれました。これは陳水扁による「建前放棄」に対応して急遽加筆・強調されたものだと思います。5日開幕の全人代、その冒頭で発表される温家宝・首相による「政府活動報告」も本来の主題となるべき「十一五」に加え、台湾問題に強い姿勢を滲ませる内容に改められているでしょう。
その「政府活動報告」に続いて開かれる全人代の分科会あたりに見所があるかも知れません。軍主流派が騒ぐほどですから、同じ軍部の非主流派、例えば劉亜洲中将や朱成虎少将といった電波型対外強硬派も大人しくしてはいられないでしょう。また台湾と直接関係なくても、この問題に名を借りて胡錦涛をイジメようという政治勢力もいることでしょう。そうしたアンチ胡錦涛諸派連合の蠢動を感じることができればいいな、と私は楽しみにしています。
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最後にこれは余談にになるのかどうか。今回の一件に対する日本政府の対応は実に興味深いものでした。外務省の報道官談話という形で発表されているものです。
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●台湾「国家統一委員会の運用停止及び国家統一綱領の適用停止」について(外務報道官談話 2006/02/28)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/18/dga_0228.html
1.台湾との関係についてのわが国の立場は日中共同声明にあるとおりであり、何ら変更はない。
2.台湾を巡る問題については、軍事的・政治的対立を望まず、当事者間の直接の対話により平和的に解決されることを強く希望する。この観点から、いずれかの側によるいかなる一方的な現状変更の試みも支持できない。この点にかんがみ、台湾側が「現状を変更する意思はない」と表明したことに留意している。
3.わが国として、この地域の平和と安定の観点から、両岸間の緊張がさらに高まることのないよう、当事者双方とも現状の変更を試みることなく、対話を早期に再開することこそが必要であると信じる。
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これはかなり「台湾に優しい」内容ではないでしょうか。「独立に向けた動きに反対」というフレーズも「一つの中国を支持する」という文言も出てきません。……いや、
「わが国の立場は日中共同声明にあるとおりであり、何ら変更はない」
というその「日中共同声明」に日本は「一つの中国(中共政権)を支持する」と明記されていますから、改めて言い出す必要はないのかも知れません。ただその一方で、この「日中共同声明」において、台湾が中共政権の領土であることを日本は正式に承認していないのです。その意味で「わが国の立場は日中共同声明にあるとおり」とし、この政治文書を持ち出してきたことにはある種の凄みが潜んでいるようにも思えます。
この台湾を中共政権の領土の一部と正式に承認していない「日中共同声明」を下敷きにしているため、
「台湾を巡る問題については、軍事的・政治的対立を望まず、当事者間の直接の対話により平和的に解決されることを強く希望する」
というフレーズが続きます。「台湾を巡る問題」という輪郭をぼかした表現は、日本政府がこの件を中国の内政問題と認めていないことを暗示しています。台湾が中共政権の一部であることを認めていない、という原則があるため、中国側の掲げる「統一」を支持する言葉は出てきません。当然のことながら、同じ理由によって「独立」も出てこないという訳です。
それから、「台湾側が『現状を変更する意思はない』と表明したことに留意している」という一節、これは中共政権にしてみれば物足りないどころか文句を言いたくなるでしょう。この部分で、日本政府が今回の台湾のアクションを受け入れていることを示しているからです。当然のことながら、この「報道官談話」には陳水扁による「建前放棄」を非難する文言は全くありません。
ファンタジスタ・麻生外相の意向を汲んだものなのかどうかはわかりませんが、傍観者の風を装い、それでいて台湾の措置を「不適切」とせず逆に受け入れているこの「報道官談話」は、実際には日本が決して傍観者でないことを中共政権と台湾政府の両方に示唆したものとして注目していいのではないかと思います。
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ええ、そうです。あとは「李登輝氏5月10日来日」というカードをいつ切ることになるか、ということです。
李登輝氏は私人であり、しかも台湾国民がノービザで訪日できることを考えれば、本来なら政府がプレスリリースを出す必要は全くありません。でもそこはそれ、李登輝氏を「トラブルメーカー」などと悪党視している中共政権に「配慮」するという意味で、安倍官房長官から凛とした公式発表が行われて然るべきかと思うのです(笑)。
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2月17日号 特集:ブッシュ政権と2つの対中政策http://tameike.net/pdfs6/tame307.PDF
シンクタンク同士で、対話を持っているようです。
日中戦争中に旧日本軍が中国・重慶市を空爆した「重慶大爆撃」で肉親を失うなどした
被害者約40人が、日本政府に損害賠償を求める訴えを今月30日、東京地裁に起こす。
請求額は1人1000万円の予定で、第2次提訴も含め原告は計約100人になる見込み。
重慶大爆撃は、旧日本軍が1938-43年、要衝の重慶に首都を移した蒋介石政権を
狙い、航空機で繰り返し焼夷(しょうい)弾などを投下、多数の市民が死傷したとされる。
最近の中国側の研究では、死者計約2万3600人、負傷者計約3万1000人との数字も
ある。
原告団長は、妹を40年7月の爆撃で失った高原さん(77)。遺族のほか、けがをして
障害を負った人も加わり、年齢は70-80代が中心。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060305-00000084-kyodo-soci
アメリカも「ウチの条約より美味くやったな」って言う位だったそうな。
認めてないジャン。台湾独立しちゃえ!(無責任モード」
その後3人でリンクを回ったらしいのだが、視聴者は壁を見させられた
毎日新聞
http://www.mainichi-msn.co.jp/sports/feature/gorin/graph/20060223/index.html
毎日新聞英語版
http://mdn.mainichi-msn.co.jp/photospecials/graph/0602turinday14/index.html
↑こういうの見ると日本人には日の丸を見せたくない人たちがいるのかなと思う
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日本はメディアの戦争で既に負けたの。
「日本は反対明確に」 台湾国家統一委廃止で中国大使館
2006年03月02日19時08分
台湾の陳水扁(チェン・ショイピエン)総統が国家統一委員会や統一綱領の事実上の廃止を決めたことについて、在日中国大使館の熊波(ユウ・ハ)・参事官は2日、「台湾独立への歩みを加速するものだ」と批判し、日本に対して「台湾指導者の危険な行動に反対する姿勢を明確にしてほしい」と要望した。在京の報道機関に対する背景説明の中で述べた。
熊参事官は今回の台湾の行動について、中台交流の拡大にストップをかけ、緊張を高めるものだ、と非難した。
http://www.asahi.com/international/update/0302/013.html
日本の首相の靖国神社参拝に対し、米国のブッシュ政権から日本への
抑制の意向を伝えさせようと非公式に米側に要請していることを明らかにした。
中国側は在米の外交官や政府直属の学者などによりホワイトハウスや
国務省に日本への圧力行使を働きかけているという。
ソース:Yahoo!ニュース(産経新聞) - 3月6日2時59分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060306-00000012-san-int
昨年の後半ぐらいから、対日批判記事が目立っているようですが、米マスコミに対する影響力というのも大きなものがあるのかも知れません。
もともとアメリカ国民の対中感情はそれ程悪くは無く、軍事面などにおいて脅威には違いありませんが、将来のアジアでのパートナーは「中国」だと答える人の割合は非常に高く、「日本」をしのぐ勢いです。
靖国に対してよい印象を持っている外国人はそもそも少ないでしょうし、アメリカ人は単純である可能性があるので、割と簡単に「中国万歳」になってしまうかも知れませんね。
熊波参事官に「どっちが危険だか・・・」とツッコミたいです(笑)。
日本が折角わざわざ(くどい?)内政干渉はしてませんよと
”気を遣ってやってあげてる(更にくどい?)”
というのに、もう…(笑)。
>割と簡単に「中国万歳」になってしまうかも知れませんね。
私もそれを一番危惧してます。
結局一応言論の自由があるとはいえ一部を除いて連中の民度も、特アよりマシ程度かと思うので。
何より原爆投下の正当化プロパガンダも根強く残ってるので彼等自身が「今の日本は」と自称しても…。
おっと、また米国方面に脱線してしまいました。スミマセン。
更に騒ぐと、簡単なコメントを出す。
熱くなってくると、再度放置プレイ。
沸点に達すれば、簡単なコメントを出す。
五年や十年で決着付く話では無いし、焦っているのは中共なのですから、誘いに乗って日本のスタンスを態々揺らす必要など無し。
御家人さんの解説の通り、この報道官は良い対応しましたね。
下っ端に言わせるぐらいだから、そんなたいした件じゃ無いのかと返してみたり。
>五年や十年で
そこは、「10年・20年・30年………」(w
しかし、東シナ海といい新幹線といい、腹立たしいことおびただしい話ばっかりですねえ。
同感です。飴にしては、ちょっと・・・ですね。
もっとも新幹線はアジア経済圏思想という名の”
撒き餌(笑)”時点での産物ですし…。
実は、反日活動→爆破→大惨事への誘導用の罠だったりして…。
(爆破までは行かないでしょうけど、地元反日家のデモを誘発させる疑似餌?)
「ヒトラー」挙げ靖国参拝非難=公式会見で異例発言-中国外相
ttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060307-00000096-jij-int
厭きてると思う。中国と韓国は歴史、靖国しか外交カードがない。常任理事国として恥ずかしくないのかね。
見栄は知ってても恥は知らない御国柄かと(笑)。
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