日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 広東省汕尾市で12月6日に発生した発電所建設をめぐる官民衝突、公権力側の武装警察(武警=準軍隊)が出動して農民側を銃撃、多数の死傷者を出したとされる「12.6」事件の続報です。

 事件から2週間ですね。当ブログでも何回かに分けて事件を追ってきました。

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 ●官民衝突で武警が実弾射撃、農民に多数の死傷者。(2005/12/08)
 ●「調和社会」が揺れている。(2005/12/09)
 ●「12.6」事件――さて中国国内でも報じられた訳だが(2005/12/12)
 ●ざわついてきたと思いませんか?(2005/12/14)

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 その後の動静について日本の報道から拾ってみますと、次のようになります。

 ●発電所めぐる衝突事件 中国「法によって処理」(西日本新聞 2005/12/16/:01:53)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051216-00000020-nnp-int

 ●独立調査の実施、中国に要求=警官隊発砲事件で国際人権団体(時事通信 2005/12/16/07:01)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051216-00000017-jij-int

 ●中国に抗議書簡=警官隊発砲事件で米有力議員(時事通信 2005/12/17/07:01)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051216-00000203-jij-int

 ●広東省衝突で地元当局者「少数の謀反分子が扇動」(Sankei Web 2005/12/18/20:54)
 http://www.sankei.co.jp/news/051218/kok063.htm

 ●広東省での衝突で死亡した住民3人の名前公表(毎日新聞 2005/12/19/10:07)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051219-00000017-mai-int

 ●中国:格差に不満、騒乱続く 広東省の発電所建設で衝突、死者(毎日新聞 2005/12/20)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/china/news/20051220ddm007030071000c.html

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 いちばん下の『毎日新聞』が特集風のまとめ記事になっていていいです。で、今回はその上の2本、事件についての記者会見が開かれたことがトピックとなります。以下が原文。

 ●紅海湾「12.6」深刻な非合法事件、その経緯と処置状況(『南方日報』 2005/12/18/08:19)
 http://www.nanfangdaily.com.cn/southnews/dd/nfrb/a03/200512180017.asp

 記者会見の概要については日本側の報道を読むのが手っ取り早いです。3死8傷という農民側の被害者数に変化はなく、死者の姓名が始めて明らかになりました。「農民を煽動した」とされる首謀者は逮捕されており、前回の「公式報道」の末尾にあった、

「現在、『12.6』事件の調査・処理が進められているところだ」

 という調査・処理が一段落したということでしょう。ただ不手際な警告射撃で死傷者を出したとして刑事拘留されている「現場指揮員」についてはなお調査中であり、処置が定まれば改めて発表する、としています。

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 うーん、と私は唸ってしまいました。なぜかといえば、この記事は事件の起きた汕尾市政府報道官による記者会見という形がとられているからです。

 前回の「公式報道」の文末では、広東省当局が翌日には現地入りして状況の把握に努め、事件の処理について市当局に指示。市当局も調査チームを組織して対応しており、

「現在、『12.6』事件の調査・処理が進められているところだ」

 ……とされています。この「公式報道」のマスター版が掲載された『南方日報』は広東省党委員会の機関紙で、要するに広東省当局から出た「公式報道」です。ただし広東省当局による「公式」ではあるけれど、中央政府によるオフィシャル版ではない。その証拠にこの「公式報道」は「新華網」(国営通信社の電子版)で全国ニュース扱いされず、「地方チャンネル」の広東省のページに掲載されたのみでした。

 要するに、中央政府はこの「公式報道」を承認していない、ということです。「納得していない」という方が正確かも知れません。前掲した『西日本新聞』の記事にあるように、12月15日に開かれた外務省報道官記者会見でも記者から出された「12.6」事件に関する質問に対し、

「新たに補足する事実はない」
「現在も調査中で、事件は法によって処理される」

 と、秦剛副報道局長は素っ気無い回答をしています。

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 問題は、「現在も調査中」の主語、つまり調査を行っている主体が明らかにされていないことです。中央政府が介入しているのか、広東省当局なのか、それとも汕尾市当局に任せてしまっているのか。……国際的に暴露されてしまった事件ですから、胡錦涛政権がどう対応するかがポイントのひとつでした。

 そして今回の記者会見です。何とまあ、出て来たのが汕尾市政府報道官であり、質疑応答には広東省当局がどうしたこうした、ということも出てきません。つまり事件については汕尾市当局が一手に切り回しているのです。ただそれを広東省当局が追認していることは、今回の記者会見の記事、そのマスター版も『南方日報』から出されたことで明らかです。

 それでは中央政府の対応は、といえば前回と同じで、「新華網」では今回も「地方チャンネル」の広東省のページにのみ記事が掲載されました。国際的にも有名になってしまった事件なのに、相変わらず全国ニュース扱いしていない、というところに中央が広東省当局・汕尾市当局に対し何らかのわだかまりを抱いていることがうかがえます。

 http://www.gd.xinhuanet.com/gdnews/2005-12/18/content_5840582.htm

 大手ポータルの「捜狐」(SOHU)でも地方ニュース扱いです。

 http://news.sohu.com/20051218/n241013916.shtml

 「12.6」事件の類似例として引き合いに出される今年6月11日に発生した定州事件、土地収用を拒む農民たちを雇われ暴徒が襲撃して6死48傷の被害を出したうえ、襲撃シーンの映像が海外に流出したあの事件では、中央はほどなく全国ニュースとして事件を報道し、最近開かれた同事件の初公判もこれまた全国ニュースとして報じているのです。

 http://news.xinhuanet.com/legal/2005-12/15/content_3927261.htm

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 ところが今回は、そうならない。だからうーんと唸ってしまいます。ひとつ言うなら、今回の「記者会見」は前回の「公式報道」に比べて農民側の「悪者度」が多少高くなっているように思います。対応が不適切とされた武警の「現場指揮員」は刑事拘留されたとはいえ、未だに調査中のままです。

 一方の定州事件は襲撃された農民たちには非がなく、定洲市トップをはじめ事件に関与した27名が被告席に立たされています。でもこの違いが扱い方の差になっているのかといえば、そうではないように思うのです。一例として昨年秋に重慶市・万洲区で発生した都市暴動、暴徒及び暴徒を煽った連中が悪者にされ、警察側に非はなしとされた事件です。これは当初「新華網」では地方ニュース扱い(「地方チャンネル」重慶版)にしたものの、すぐに全国ニュースに仕立て直されています。

 この調子なら、定洲事件と違って汕尾市当局のトップがクビを飛ばされることにはなりそうにありません。むしろ「現場指揮員」だけの責任として、重慶の都市暴動のように市当局にはお咎めなし、となりそうな気配です。

 「新華網」がなぜ全国ニュース扱いにしないのか、正直、わかりません。それとも、中央たる胡錦涛政権が本来なら動くべきところなのに、広東省に介入できない、自侭に手を突っ込めないでいることを示しているのでしょうか。

 もしそうだとするなら、「12.6」事件は非常に象徴的な、モデルケースともいえる意味合いを持つことになります。示唆するところは、中共政権の立ち腐れがいよいよ始まった、というところでしょうか。

 各地方政府、すなわち「諸侯」に対する中央の支配力が弱まり、今回のような事件が起きても介入することができない。……のだとすれば、なまじ一党独裁制で有力な野党を持たないために、政権交代が直ちに行われることはなく、また大変革が起きる訳でもないので「諸侯」ごとにくっきりと分裂することも考えにくい。ただ、中国全土の統治者としての中央政府がゆっくりと立ち腐れ、支配力を失っていくのです。

 あるいは、「12.6」事件はその嚆矢なのかも知れません。土地売却益の横領疑惑に加え、武警が農民への銃撃をためらわなかった点についていえば、公権力がいよいよ土匪めいてきた、とみることもできます。そして、その反作用として自己防衛のために武装化する農民。

 ……飛躍しすぎた見方、というのは自分でもわかっていますが、国際的な非難を浴びている事件に対し、中央政府が口を濁し自らはっきりと態度表明を行わないのですから、ついそう勘繰ってしまいたくもなります。

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 ところで、以上の事柄とは無関係ながら、あるいはひとつの文脈で語れるのかも知れない事件が起きています。化学工場の爆発で松花江汚染を招き、副市長が自殺した吉林省・吉林市の市政府オフィシャルサイトがここ数日、ハッカーの攻撃を受けているのです。『蘋果日報』『明報』など一部香港紙(2005/12/20)が報じたもので、これは中国国内でも報道されています。

 ●『明報』(2005/12/20)
 http://hk.news.yahoo.com/051219/12/1jpp8.html

 ●大手ポータル「網易」(2005/12/18)
 http://tech.163.com/05/1218/07/25865SEK000915BF.html

 ●大手ポータル「新浪網」(2005/12/19)
 http://news.sina.com.cn/c/2005-12-19/09388620022.shtml

 ●『新聞晨報』(2005/12/20)
 http://www.xmwb.com.cn/jj/t20051220_763329.htm

 ●「新華網」(2005/12/20)
 http://news.xinhuanet.com/comments/2005-12/20/content_3944465.htm

 わざわざ吉林市が狙われたということで、単純なイタズラとは異なり、ある種の意図を感じさせるように思うのですが……どうでしょう?



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