日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 今回は別のネタを準備しておいたのですが、大事件突発に急きょ差し替えです。以前紹介した広東省・汕尾市の農民争議で新展開。村民と衝突した警官が実弾射撃を行い村民に死者が出ています。

 ここまでの事件の経緯はバックナンバーから臆面もなく引き写させて頂きます。……それでは引用開始。

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 今やすっかりお馴染みとなった土地収用をめぐる官民衝突です。舞台はやはり広東省、汕尾市紅海湾の東洲郷という農村です。発端は先の「農民による民主化運動」番禺太石村事件と似ており、村の党幹部が村民に諮ることなく、勝手に村の土地を売却。売却益の行方は推して知るべしです。その売った土地に発電所の建設工事が始まって村民が騒いでいたのです。

 『蘋果日報』(2005/10/08)によると、強制収用の対象となった、つまり党幹部によって勝手に売却されたのは東洲郷内の山地と耕地、それに白沙湖という湖まで含まれています。具体的には山3つを潰し、湖を埋め立て、耕地百数十ヘクタールを更地にして発電所を建設するというもの。驚くべきことに、田畑を失った村民たちへの補償などは一切なし。耕地を奪われた村民がこれに唯々諾々と従う訳はありません。

 発電所建設工事はすでに開始されており、村民は5カ月前から延べ数千人を動員して24時間態勢で工事の進捗を妨害していたのですが、先週の水曜日(10月5日)、ついに堪忍袋の緒が切れて大規模な抗議行動を発動、建設作業員が現場に入ることを阻止し、建設工事をストップさせました。

 土地を奪われた村民たちが政府に掲げた要求は決して法外なものではなく、むしろ慎ましいほどでした。1人当たり毎月400~500元の補償金支給、60歳以上の老人には養老手当を出し、貧困家庭の子供には学費免除で就学させてくれ、というものです。ところが当局がこれを無視し続けたため、怒れる村民たちがついに立ち上がった、という状況です。

 反体制系ニュースサイト「大紀元」(gb=簡体字版)によると、東洲郷は電話や携帯は盗聴され、外出する村民には尾行がつき、村民代表には脅迫が行われたといいます。近くセーリングなどの国際大会が広東省で開催されるため、当局はそれまでに排除を完了させる肚だとみられており、村民たちは暴徒の襲撃により6死48傷という惨事となった河北省・定州事件の再現を恐れています。

 ●「大紀元」(2005/10/09)
 http://www.epochtimes.com/gb/5/10/9/n1079668.htm

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 ……以上、引用終了。この前後のエピソードですが、村民が地元政府に窮状を訴えたところ珍しくも調査チームを派遣してくれました。ところがこの連中、飲み食いするばかりで視察ひとつロクにせず、怒った村民が村から追い出した、という事件も起きています。

 また下記の反体制ラジオ局「RFA」(自由亜洲電台)の報道によると、上述した衝突の後、当局側が補償金として村民側に毎年総額60万元(一人当たりではなく)を支払うとの和解案を示したものの、村民側はこれを一蹴。収用した土地を「村民に前相談もなく、しかもたったの200万元で叩き売った」という声がありますから、強制収用された土地に対する補償として見合った金額ではない、ということでしょう。

 で、「村民たちは暴徒の襲撃により6死48傷という惨事となった河北省・定州事件の再現を恐れています」とのことですが、これが本当にそうなってしまいました。しかも相手は雇われ暴徒ではなく堂々たる武警(武装警察=準軍隊)。官民衝突で警官隊が発砲し、少なくとも死者2名が出たという驚くべきニュースです。

 ●「明報即時新聞」(2005/12/07)
 http://hk.news.yahoo.com/051207/12/1jcr8.html

 ●「RFA」(2005/12/07)
 http://www.rfa.org/cantonese/xinwen/2005/12/07/china_rights_clash/

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 まずは簡潔にまとめてある「明報即時新聞」のニュース、AFP電です。事件が起きたのは一昨日(12月6日)の夜。発電所建設に伴う土地収用を非難し、それに見合った補償を求める村民約1000名がデモを行っているところに武警が出動、デモ隊を追い散らそうとしたことに端を発しました。

 デモ隊が水道管などで道路を封鎖し、手製の火炎瓶?などで抵抗したため、進退に窮した武警がついに発砲。村民2名が即死し、さらに2名が病院に運ばれてから死亡したとのこと。他に銃撃によって村民に多数の負傷者が出た模様です。

 RFAの報道では村民の話として、6日に村民約1000名と武装警察700-800名が衝突し、警官隊が発砲して村民6名が死亡。警官隊は村民が遺体を引き取ることを許さず、現場に放置されたままとなっているそうです。また別の村民によれば、武警は衝突に際して手榴弾を使用。それによって村民2名が即死したほか、4名が負傷して病院に運び込まれ、さらに18人が行方不明になっているとのこと。

 他の村民のコメントなどを総合すると、警官隊はまず催涙弾を放った後、実弾射撃を行った模様です。死者は少なくとも2名、ということになります。もちろん汕尾市政府と警察当局は取材に対し「そんな事実はない」の一点張りです。

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 今朝の香港紙(2005/12/08)では『蘋果日報』『太陽報』『星島日報』『明報』などに続報が出ていますが、内容はまちまちで、個別の村民から目撃談を取材して回っている段階で、事件の全容がつかめていない、まだ俯瞰できる状態ではない、という印象があります。

 まず『蘋果日報』によると、武警の銃撃で村民約20名が被弾、3死8傷は確実ながら、重傷者の一部など10名以上が警官隊に連行されたそうです。衝突については、催涙弾でデモ隊を追い散らそうとした警官隊に対し、村民が手製爆弾などで抵抗。このため武警が突撃銃(AK-47でしょうか)で実弾射撃を行った、ということです。

 これが『太陽報』になると話がやや大きくなっています。建設現場に入ろうとした関係者を阻止すべく村民約6000名以上が現場に駆け付けたところ、知らせを受けた武警及び防暴警察(機動隊)約2000名以上が出動。村民との間に激しい衝突が発生し、警官隊の一部が突撃銃で村民を掃射、また催涙弾を発射して村民を現場から追い払ったとのことです。

 目撃談によれば、銃撃で村民多数が薙ぎ倒され、十数名が死亡、40-50名が負傷し、現場はパニック状態に。重傷者は汕頭病院へと搬送され、一方で連行された村民も少なくない模様です。死者の多くは前面に立って警官隊と対峙していた20-30代の男性で、現時点では2人の遺体が村民に引き渡されたとのこと。この騒ぎに関係なく、たまたま通りかかったところを流れ弾に当たって死亡した者もいるようです。

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 『星島日報』の内容も大差ないのですが、村民が現場を立ち去らないことを受けて汕尾市党委員会書記(市のトップ)や汕尾市長が現地に赴いて陣頭指揮をとり、流血の弾圧となったとしています。

 『明報』の報道では死者8名・行方不明十数名となっており、実弾射撃が行われたとはせず、死者は至近距離から催涙弾の直撃を受けたもの、となっています。ただこの記事によると発電所側が地元政府に用地買収のため払った金額は少なくとも2億元。「200万元で叩き売った」という村民の認識と余りにかけ離れていますが、この差額が地元当局の横領によるものであることは言うまでもないでしょう。

 ところで、珍しいことに親中紙の『文匯報』もこの事件を報じています。AFP電を下敷きにしたもので「少なくとも死者2名」、実弾射撃云々は出てきませんが、同紙記者が汕尾市宣伝部の関係者に独自取材しています。この関係者いわく、

「事件にはまだ『定性』が出ていない。市で関連資料をまとめてから明日にも省当局へ報告する。事件について発表があるかどうかは広東省党委員会対外宣伝部門が決めることだ」

 ということで、事件自体が存在したことを親中紙が認めているうえ、「まだ『定性』が出ていない」という一言を捉えたのはいい仕事でした。「定性」とは政治的な価値判断、つまり中共にとって善か悪かというもので、合法・非合法よりも中共政権下ではこの「定性」が優先されます。「定性」が問われるほど政治的に重要な事件だった、といえるでしょう。

 むろん善悪をいえば中共にとっては「悪」ということになるのでしょうが、問題はその程度をどのくらいにするかです。催涙弾を使った程度なら「暴動」で片付くかも知れませんし、実弾射撃を事実として党内部で認めるなら(公表するかどうかは別)、そのひとつ上の「暴乱」(例えば1989年の天安門事件)になるかも知れません。

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 ●『太陽報』(2005/12/08)
 http://the-sun.orisun.com/channels/news/20051208/20051208021023_0000.html

 ●『星島日報』(2005/12/08)
 http://www.singtao.com/yesterday/chi/1208eo02.html

 ●『明報』(2005/12/08)
 http://hk.news.yahoo.com/051207/12/1jcyv.html

 ●『香港文匯報』(2005/12/08)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0512080017&cat=002CH

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 農民が手製爆弾を用意していたことは対立の根深さを物語るものですが、一方で武警が催涙弾と警告射撃で終わらずに突撃銃で農民らを掃射した、というのは一切が謎に包まれている昨秋の四川・漢源農民暴動を除けば、人民解放軍が武力弾圧を行った天安門事件以来、初めてのケースではないでしょうか。

 続報、詳報また事態の新展開があるのかどうか。現場は封鎖されて外部からの立ち入りを禁じているようですが、そこは地盤の広東省。ここはひとつ香港メディアの頑張りに期待したいところです。

 実弾で農民を薙射、という戦慄の事実に「ああとうとうやってしまった」という感想が驚きとともに私の中にあります。驚愕し戦慄するままに速報した次第です。



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