自分が死んでも皆すぐ忘れると言っていた心子。
生きてる意味なんかないと言っていた心子。
「あたしの存在なんて、そこにあるゴミよりもっとちっちゃい、こーんなちっちゃいもんだよ」
けれど心子は僕の中でこんなにも大きく、そして、永遠に生きている。
心の中の真実こそ、人にとって無上に貴重なものである。
心子の愛嬌のある笑顔,辛辣な怒り,悲しく切ない涙が、昨日のことのように目の前に浮かんでくる。
今となっては心子とのあらゆるでき事が、懐かしくもいとおしい想い出として振り返ることができる。
辛い体験を苦しくなく想い出すことができるようになったとき、人は苦しみを乗り越えたと言われる。
心子とのどんな過酷だった経験も、今は豊かな追憶である。
きっと今ごろ心子は天国で、平安な生活に一息ついていることだろう。
静かに、静かに暮らしたいと言っていた心子。
苦しみばかり多かった現世から少し抜け出して、悲しみも痛みもない世界で、とこしえに魂を休めているだろう。
お父さんとも再会し、今は愛情に満たされているに違いない。
僕の父も心子と同じ年、ホスピスで安らかに息を引き取った。
心子は僕の父と母にも会ってくれているはずだ。
僕の実家では一緒に暮らせなかったけれど、そちらでうんと甘えて、肩でも揉んであげておくれ。
そちらばかりが賑やかになって、こちらは寂しいけれど……。
僕のことを、いつでも見守ってくれていると信じてるよ、しんこ……。
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