「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

エピローグ(4)

2005年11月24日 20時54分14秒 | 「境界に生きた心子」

 自分が死んでも皆すぐ忘れると言っていた心子。
 生きてる意味なんかないと言っていた心子。
「あたしの存在なんて、そこにあるゴミよりもっとちっちゃい、こーんなちっちゃいもんだよ」

 けれど心子は僕の中でこんなにも大きく、そして、永遠に生きている。
 心の中の真実こそ、人にとって無上に貴重なものである。
 心子の愛嬌のある笑顔,辛辣な怒り,悲しく切ない涙が、昨日のことのように目の前に浮かんでくる。
 今となっては心子とのあらゆるでき事が、懐かしくもいとおしい想い出として振り返ることができる。
 辛い体験を苦しくなく想い出すことができるようになったとき、人は苦しみを乗り越えたと言われる。
 心子とのどんな過酷だった経験も、今は豊かな追憶である。

 きっと今ごろ心子は天国で、平安な生活に一息ついていることだろう。
 静かに、静かに暮らしたいと言っていた心子。
 苦しみばかり多かった現世から少し抜け出して、悲しみも痛みもない世界で、とこしえに魂を休めているだろう。
 お父さんとも再会し、今は愛情に満たされているに違いない。

 僕の父も心子と同じ年、ホスピスで安らかに息を引き取った。
 心子は僕の父と母にも会ってくれているはずだ。
 僕の実家では一緒に暮らせなかったけれど、そちらでうんと甘えて、肩でも揉んであげておくれ。
 そちらばかりが賑やかになって、こちらは寂しいけれど……。
 僕のことを、いつでも見守ってくれていると信じてるよ、しんこ……。

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