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岩村三千夫「三民主義と現代中国」

2009年11月13日 | 本と雑誌
Miwamura
 
三民主義と現代中国
岩村三千夫 著
岩波新書
 
 
 数週間前、出先で見かけた古本屋で手に取り、そのまま帰りの車内で読みはじめた。
 時代遅れな本だし、そんなに真剣に読むこともないと思い、バッグに突っ込んだまま、外出時の電車の中で読むだけだったが、読み終わってふと気づいたら、けっこう面白い本だった。
 
 この本は、1949年4月の発行である。中華人民共和国は、この年の10月に誕生した。
 したがって、タイトルの現代中国とは、今から60年前の“現代”である。であるから、執筆当時はまだ、毛沢東の共産党軍と蒋介石の国民党軍がせめぎあっていた。
 
 三民主義とは孫文による革命理論で、毛沢東の革命理論に通ずる。(「三民主義」上下巻 岩波文庫)
 孫文は、革命運動にその生涯を捧げ、しばしば日本に亡命した。
 1911年の辛亥革命で臨時大総統に選ばれたが、その立場をすぐに袁世凱に譲る。しかし袁世凱の軍政に反対してそれを打倒した。
 孫文は、清による「500万足らずの人口の満州族で4億の人口をおさえてゆくという異民族支配」から人民を解放するために国民党軍を組織し、国共合作をすすめたが、1925年、志半ばにして北京で没した。
 孫文の革命運動は、清からの解放と同時に、日本を含む列強の帝国主義から中国を防衛する行動でもあった。
 
 三民主義は三つの柱によって成り立っている。民族主義、民生主義(民主主義)、民権主義(社会主義)である。しかしそれは、三つの主義の寄せ集めではなく、一つの独立した思想体系である。
 このことは、胡漢民が実に上手く表現している。
 
 三民主義が、なぜ世界革命にもっとも適合しているかは、三民主義の連関関係の本質をみるときいっそう明瞭になる。(1)民族主義は民権主義的および民生主義的民族主義でなければならず、それによってはじめて帝国主義に変化しない。(2)民権主義は、民族主義的、民生主義的民権主義でなければならず、それによってはじめて虚偽のブルジョア民主政治に変化しない。(3)民生主義は、民族主義的、民権主義的民生主義でなければならず、それによってはじめて資本主義に変化しない。
 
 こうした明快な理論が現れた背景には、孫文の死後、三民主義が再解釈され、孫文が目指した、最終的な共産主義への移行を阻止する勢力が現れたことによる。
 
 毛沢東が中国革命を進める上で、孫文の三民主義をかなり深く研究したことは知られている。この本の著者岩村三千夫は、毛沢東の研究で名高い中国問題研究家である。したがって、毛沢東が孫文を検証するにあたって、毛沢東と孫文との共通点と相違点についても、上手くまとめられていた。
 
 共通点は、二つの主義(三民主義と共産主義)が中国民主革命の段階における基本政綱であることである。
 「孫中山が1924年にかさねて解釈した三民主義中の民族主義、民権主義、民生主義の三つの政治原則は、中国民主革命の段階における共産主義の政綱と基本的に同じである。」
 ここで毛沢東が、民主革命の段階における共産主義の政綱といっているのは、彼がその著書で全面的に究明している新民主主義の政綱のことである。
 孫文は、かれの独自の立場から、中国革命を三民主義革命として理解したが、毛沢東はマルクス主義の立場から、中国革命の現段階を新民主主義革命として性格づけている。

 
 孫文も毛沢東も自らの革命運動をヨーロッパの社会主義運動とはっきり区別しながら、孫文がマルクス主義を批判し、ブルジョアジーも含めた民主主義革命を目指したのに対し、毛沢東はマルクス主義の立場から、階級闘争を基本とした、弁証法的唯物論、史的唯物論の世界観を構築した。より具体性、より徹底をもとめたのである。
 
 わかりやすくいえば、最終的には共産主義国家の成立を目指していたはずの孫文の三民主義は、毛沢東の革命思想を生んだきっかけにはなったものの、中国国内の保守勢力によって都合よく再解釈されるという「スキ」があった。その結果が孫文死後の、封建思想を残したままの国民党政府誕生となったのである。
 毛沢東のいわば二元論(資本家対プロレタリアート)とも言える単純な世界観は、無学な農民を組織することに成功し、中華人民共和国の成立を成功させた。
 
 この本には当然、今の“現代中国”についての記述はない。この本を継ぐものとしては、同じ著者(野原四郎との共著)による「中国現代史」(岩波新書 1954年発行)があり、さらに天児慧による「中華人民共和国史」(岩波新書 1999年)がある。読み比べてみると面白いだろう。
 
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