ひまわり博士のウンチク

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アナログ

2009年11月18日 | 日記・エッセイ・コラム
Analog
 
 カードゲームが静かなブームを呼んでいるそうだ。猫も杓子も電子ゲームの時代だが、だからこそ、アナログゲームがおしゃれなのだそうである。
 バーのテーブルに電子ゲームは似合わない、ということだ。
 麻雀もポーカーも将棋も電子ゲームになっているが、実物の面白さには遠く及ばない。ジャラジャラと牌をかき回す、シャカシャカとカードをシャッフルする、ピシッと盤に駒を進める。あの音と感触を体験した人間にとっては、電子ゲームでは物足りないのだ。
 アナログゲームの面白さは、勝負だけではない。触覚や聴覚も(ときには臭覚も)楽しめるところに良さがある。冷たい電子ゲームの音や操作ボタンの感触にそれはない。
     ◇
 同じ理由で携帯小説も好きではない。いや、はっきりと嫌いである。本を読む楽しみとは、ただストーリーを追ったり、内容を知ればそれでよいというものではない。ページを繰り、紙の感触を楽しみ、装丁の美しさに惹かれることでもある。
 以前紹介したことがあるが、ある出版社の社長がわが家を訪れて、堀口大学の訳詩集「月下の一群」を手に取り、愛でるようにページを開き、しばしながめてポンッと閉じた。
 「いい音だなあ」
 造本を作品として味わう、これもアナログ本の楽しみの一つである。
     ◇
 余談だが、日本の伝統芸能である能楽は、ただストーリーだけを表現するなら、数分でかたがつく物語が多い。それを繊細な感情や情景の変化を謡曲や舞いで表現して、数十分からものによっては1時間を超える作品に仕上げる。
 その舞いや演奏は、修行を重ねた人間が演じてはじめて、迫力と臨場感が出るのである。楽しみは多岐に富んでいて、優れた鑑賞眼をもてば、無限の奥行きを感じることができる。
 アナログ的、人間的な芸術の極致だ。
     ◇
 先日、久しぶりに版下をいじった。版下といっても、デジタル化される以前の本を再版するということで、修正個所を直しただけである。ほんとうは修正部分を写植で印字しなければならないのだが、今では写植屋は気軽に出かけられるところにはない。やむをえず、コンピューターで「バラ打ち」をする。
 なじみのない人のために解説すると、「バラ打ち」とは修正個所や短い文章を一枚の印画紙にバラバラに印字し、切り離して版下に使う材料にすることである。
 そうではなく、特定の部分を版下指示に従ってレイアウト通りに打つことを「組み打ち」という。組み打ちといっても格闘技のことではない。
     ◇
 版下作業には、極めてアナログ的な、今ではほとんど使われることのない道具が活躍する。
 均等な太さの線を引くロットリング(写真のものはファーバーカステル製だがロットリングと呼んでいた。アメリカでティッシュのことをすべてクリネックスというのと同じだ)、鋭く尖ったピンセット(刺さると痛い)、白いへらは写植を圧着する時に使う(最近は新聞紙でゴミ入れを作る時に使っている)。
     ◇
 写植をはがし、ペーパーセメントをつけて、版下の修正個所に貼り、上から紙を当てて、へらでシコシコとこすりつける。一カ所直すのに、デジタルなら一瞬だが、版下だと数十秒かかる。
 クォークエクスプレスなら数分でできる修正が、小一時間かかった。
 それでもなんだか楽しい。根っからのアナログ人間であると自覚した。
     ◇
 デジタルは0と1の組み合わせだ。つまり二進法、二者択一で中間はない。あるかないか、イエスかノーか、それだけである。アナログは0と1の間に無限の中間がある。悪く言えば曖昧、良く言えばおおらかなのだ。
 コンピューター・エンジニアに言わせると、0と1の組み合わせでも、無限の中間値は作れるという。ファジーやスムージングがその例だというが、意味が違う。バーチャルはあくまでもバーチャルであって、絶対にリアルではない。
 すなわち、デジタルはロボットの世界でアナログは人間の世界なのだと思う。
     ◇ 
世の中のさまざまなできごとも、二者択一ではできないことがたくさんある。八ツ場ダムしかり、普天間基地移転問題しかりだ。事業を継続するか止めるか、県内移転か県外かというだけの問題ではないのだ。必要なのは、八ツ場ダムを「造る」と「止める」の中間に何があるか、普天間と移転先の中間(そもそも基地の存在に反対だが)にある無限の可能性と課題を直視することが大切なのだ。
 人間の生活も自然環境も、0と1だけでは解決できない。そのことを、日本の新政権には気づいて欲しいと思う。
 政治にこそ、アナログ的な感覚が必要なのではないだろうか。
     ◇
 話はアナログゲームに戻るが、「ゴキブリ・ポーカー」というのが面白いらしい。高円寺のすごろく屋に売っているというので、正月の遊び用に買って来ようと思う。
 しかし、正月早々ゴキブリというのはいかがなものか、と言われそうだが。
 
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