ひまわり博士のウンチク

読書・映画・沖縄・脱原発・その他世の中のこと

靖国YASUKUNI

2008年05月07日 | 映画
 話題の映画『靖国YASUKUNI』を見てきました。
 平日だからとややタカをくくって、3時50分の回を見るのに2時に行けばまあ大丈夫だろうと思っていたら、なんと満員札止め。
 「6時半と7時の回になりますが、6時半の回はあと残り3名様です。一番最後のご案内になりますから良いお席にはならないと思いますが」
 「はい、それでいいです」
 すると、すでに先に来ていて受付で決断できずに迷っていたカップルが、受付嬢に言われてしまいました。
 「ただいまお隣の方が2枚お求めになりましたので、6時半の回は売り切れになってしまいました」
 「じゃ、またにします」
 このカップルの決断にはからずも貢献することになりました。
 銃を向けたらごちゃごちゃ言わずにドンと撃つ。スナイパーの鉄則です。

Yasukuni

 8月15日に、靖国神社に参拝する人々は、実にユニークです。
 まあ、そういう場面を拾っているのでしょうが。

 分かりやすく言えば、「浮いてます」。

 軍服姿で隊列をなし、奇妙なかけ声に合わせて行進してくる姿に、同伴のかみさんは吹き出しそうになるのをこらえてました。
 「どんな人が観に来てるか分からないから、笑ったら怒られると思って」
 正露丸みたいなラッパを吹き鳴らしながら、白い軍服で行進してきたら、戦争を知らない人は仮装行列かと思います。

 「小泉総理を支持します」というプラカードを掲げた頓珍漢な外人が星条旗を立てたりして、警官に退場させられたり、中国人らしき青年が、「中国に帰れ」と参拝客ともめて血だらけになり、結局パトカーで連れ出されたり……。
 実にさまざまなシーンが展開されます。
 カメラはただひたすら、それらの出来事を追い続け、コメントは一切ありません。

 8月15日の靖国神社は、軍歌、軍服、旭日旗。戦争を連想させるものが次々とあらわれる、異様な空間です。
 そこは、アジア太平洋戦争の美化と戦争への憧れに満ち、時代を60年以上引き戻そうとするエネルギーが爆発していました。


 靖国神社のご神体は一振りの刀だそうです。
 刀とは江戸時代以前は武士の象徴で、明治以降も軍人のトレードマークのようなものでした。
 アジア太平洋戦争中、銃や爆弾があっても、あらゆる武器が帰結するところは刀であったとか。

 映画は全編を通して、刀が象徴的に扱われています。
 靖国神社におさめられる靖国刀を鍛える刈谷直治さん(90歳)を各場面に配置し、仕事をする姿やインタビューを紹介して行きます。
 「戦争はいやだね。二度度行きたくない、あんなとこ」
 そう言いながら、靖国神社に対する考え方は小泉純一郎と同じだと、中国人監督の質問に答えています。
 ただ、片言の日本語がこの老刀鍛冶に聞き取れないのか、どうも質問の意図が伝わっていないような気がしました。

 終盤で、「百人斬り」の新聞記事をはじめ、南京事件に代表される日本軍の残虐事件の写真が連続写真で紹介されます。右翼が文句をつけるとしたらこのあたりでしょうが、しかし、映されるだけでコメントもキャプションもありません。

 編集に明らかな意図は見て取れますが、靖国を批判するようなコメントはなく、それぞれの映像に対する解説もないので、これでは文句のつけようがありません。(普通の感覚であれば)
 ただ、台湾の高砂族の女性が、分祀を願い出るために靖国神社を訪れ、宮司に会見を求めますが拒否され、その対応に怒り「あなたの肉親の魂が台湾に残されたとしたら、あなたは日本に戻してあげたいとは思わないのですか」ということを通訳を挟んで訴える姿をしっかり捉えているあたりに、監督のこの映画に対する思いが感じられます。
 同様の意味で、日本人の真言宗の住職は、自分たちが仏教徒であるにもかかわらず、戦死した父親が神道の神社に祀られたことに対する無念さを表すために、仏間に僧侶の姿でない、軍服の写真を飾って無言の抗議をしています。

 この映画には、詳細な解説がありません。したがって、実在する出来事をザッと並べたような映画です。
 「あなたはこれを、どのように観て何を感じるか」、そう問いかけられている感じがします。

 少なくとも、右翼が騒ぐような「反日」映画ではありません。
 まあ、「靖国」について語るだけで「反日」だという輩はいますが。

 ぼくが感じたのは、靖国神社という空間に閉じ込められた、特異で時代錯誤の狭隘な空間です。
 戦争に反対し平和を求めるという、人間として当然の感覚が外に追いやられ、倒錯した軍国主義だけがそこにありました。
 敗戦後60年以上が経過し、人々の価値観や平和認識も変わり、したがって今の世の中にあってはならず、たまに街で見かければ極端な違和感を感じる存在が、大手を振って境内を歩き回っていました。

 ですがこの映画、実に面白い映画です。なんとかもっと多くの劇場で上映されないものかと思います。

◆~~~~◆~~~~◆~~~~◆~~~~◆~~~~◆
◆あなたの原稿を本にします◆
出版のご相談はメールでお気軽に galapyio@sepia.ocn.ne.jp まで