monologue
夜明けに向けて
 



 イギリスの誇るプログレッシヴロック・バンド、ピンク・フロイドに「The Wall」というアルバム、コンサート、映画のプロジェクトがあった。
 ピンク・フロイドはギミック(仕掛けの多い)なバンドで80年頃の 「The Wall」コンサートでは完全にぶっ飛ばされた。もう鬼籍に入った曼陀羅画家、吉田等がくれたチケットで行った、バスケットのLAレイカーズのホーム競技場、フォーラム会場での コンサートである。まわりでまわされる草の鼻を突く匂いにタバコも吸わないわたしは閉口していた。呼吸していればその成分THCは空中に漂っているわけで、ボーとしてきた。薄暗い会場でかすかな音楽がずっと鳴っている。開演時間が過ぎても始まらない。どうしたのかと思っているとあたりがざわめいてくる。かすかな音楽は鳴り続ける。なんの音楽かと思っていらいらしながらもみんな耳を澄ます。音量がもっと下がって聞き取れない。立ち上がって文句を言おうとするものが出てくる。主催者の姿も見あたらない。いったいどうしたというのか…。そのとき、とつぜん、ドカーン!と最大限のボリュームで第一曲目が始まった。完全にやられた。総毛立った。最後の壁の崩壊まで圧巻のショーだった。映画「The Wall」が封切られてUCLAの映画館に来たのでまだ二歳のわが子を連れて行った。どういうわけかそれから子どもが「The Wallを見たい」とせがむようになった。場末の映画館まで「The Wall」を追いかけて何度も観る羽目になってしまった。牛に牽かれて善光寺参り、というが、子どもに牽かれてザ・ウォール参りということになった。 そして、月日は移り、息子は日本で中学生になった。柔道部の音楽好きの言うことを聞かない生意気な後輩を二階に連れてくる。もちろん。The Wall」をかけてやる。初めの静かな音楽の部分は音を絞ってある。スピーカーの目の前に陣取った後輩は「先輩、音が小さいすよ」「そうかぁ。それでちょうどいいはずだぞ。じゃあ、あげてやるか。こんなものか」「はあ、先輩ありがとうございます」ボリュームを最大限に上げて息子は避難する。ドスンッ。二階でなにかが倒れたような響きを耳にしてわたしは新たな被害者が出たことを確認した。

 現在、イスラエルはヨルダン川西岸地区にパレスチナ側の土地にまでくい込む、高さ25フィート(7.5メートル)幅10フィート(3メートル)南北347キロにおよぶ「分離壁(アパルトヘイト・ウォール)」の建設を進めている。ベルリンの壁の崩壊後ふたたび人類は自分たちの心の壁を形にしようとしている。いったいなんのために…。
fumio
 


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