monologue
夜明けに向けて
 



 
当時のロサンジェルスにはシングルレコードを作るような日本人ミュージシャンはほかにいなかったので普通レコード会社がやることをすべて自分でしなければならなかった。
アメリカのシングルレコードは無地の紙ジャケットに入っているだけで歌手の写真もなければ歌詞カードもついていない。実にあっさりしたものである。

それではあまりにもあっけらかんとしているので日本のシングルレコード風に透明袋にジャケット写真兼歌詞カードを入れることにした。説明しにくいけれど表には妻に近所で撮ってもらった写真をあしらい、わたしは手書きでレタリングのように文字を描いた。その裏に歌詞を印刷してジャケット写真兼歌詞カードの一石二鳥の宣伝ポスターを作った。宣伝文句の部分を裁断してしまえばシングルレコードジャケットに見えるのだ。

 SFのアルバム「プロセス」の写真は印刷業者の技術的問題で幻想的宇宙写真がただの青ベタになってしまった。何度やってもうまく出なかったという。写真を提供してくれた写真家堀山敏夫氏には悪いことをした。それで今度は別の業者を選び何度も足を運んで打ち合わせした。わたしもすこしずつ学習して進歩していた。人任せにしてほったらかしにしていると危ない。今度の業者はそんなレコードの仕事は初めてなので喜んでいた。担当の初老の婦人が自分は毛筆の字が得意なのでレタリング風文字のところを書いてやろうと何度も迫る。わたしは困ってやんわりと断った。あのとき、毛筆で「カリフォルニア・サンシャイン」と書いてもらっていればずいぶん感じが違っていたことだろう。
fumio

 


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