monologue
夜明けに向けて
 




父は今度は籠に入ったカナリヤを買ってきて洋室で飼った。これは本当に良い声で鳴く小鳥だった。自分でも自分の声の良さを自覚していて人に聴かせて喜んでいる気配があった。寿命は短くて死ぬと父はすぐに別のカナリヤを買ってきた。それぞれに自分の節を工夫して鳴き何代目かの赤が濃いカナリヤが最も声が良く母はカセットテープに録音してその死後も聴いた。けれどカナリヤは臆病で人に狎れにくく手乗りにはならなかった。一日中籠の中で鳴いているだけではつまらないだろうと思って昼間は洋間に放し飼いにした。セキセイインコと違って暗くなってきても自分で籠に入らない のでわたしが捕まえて籠に入れた。そのたびにカナリヤはそれを楽しみにしているのかしばらく逃げ回る。逃げられないところに追いつめると飛べないように灯りを消して捕まえて籠に入れた。そして翌朝また籠の戸を開け洋間の中で自由にさせた。かれらはけっして歌を忘れることはなく楽しませてくれた。わたしもまた「歌を忘れたガナリ屋」になることのないように生きたい。
fumio


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