monologue
夜明けに向けて
 



1700年代、ドイツバロック音楽期、ゾフィー教会のオルガニストや宮廷室内楽団奏者を勤めたクリスティアン・ペツォールト(Christian Petzold)はト長調のメヌエット(BWV Anh.II/114)を書いた。その曲をヨハン・セバスチャン・バッハが「アンナ・マクダレーナ・バッハのための音楽帖」に作者名なしに記した。以来この曲は「バッハのメヌエット」として知られることになった。

 そして約百年を経て1870年、オペラの改革者、56才のリヒャルト・ ワーグナーに待望の長男、ジークフリートが誕生する。それは作曲家、フランツ・リストの娘、コジマとのダブル不倫スキャンダルに世間の非難を浴び蹂躙された末につかんだ夫婦の幸せであった。かれはその喜びを「バッハのメヌエット」の初めのモチーフ「シー、ミ、ファ#、ソ#、ラ、シ」に託し『ジークフリート牧歌』を書く。そのモチーフは「ワルキューレの騎行のモチーフ」で有名な歌劇「ニーベルングの指輪」でも使用され「平和のモチーフ」と呼ばれている。

 それからそのまた百年後「ラヴァーズ・コンチェルト」が全米1位になった時、わたしたちは「バッハのメヌエット」が現代風に編曲されてヒットしていると思っていた。ところが実は元を正せば「クリスティアン・ペツォールトのメヌエット」であったのだ。名曲は時空を超えて甦り続ける。ペツォールトとは、ほとんど人口に膾炙しない名前だったが近年やっと認められてホッとしているだろう。
fumio




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